午後の徒然――
私は人間の里に出てきて、普段通り退屈を凌げそうな人間を探した。
癖であった。自宅で芳香とお話――といっても、ほとんど一方的に語るだけだが――に飽きると決まって、老人のようにふらっと逍遥してしまう。
大勢の客で賑わう通りを歩きながら、五感を研ぎ澄ませて面白いことを起こしそうな人間を探していく。商店で何やらもめごとが起こっているその横を通り過ぎる。道の傍らで繰り広げられる大道芸人の演技を、輪状の人だかりの隙間からちらりと覗き込み、目を逸らす。
こうしていると、私はつい考えてしまう。自分は孤独なのではないか。人混みの中で、私は孤独。目と鼻の先を、蜻蛉が飛び抜けていった。飛んでいく方向には、八分がた紅葉した山があった。もうすっかり秋である。
何も変わらない。変えるつもりもない。今年も終わりの兆候を見せ始めた。普段通り。私も自然に倣って過ごす。
人で溢れ返っている場所から少し離れた。通りを右に折れると、そこには紅い巫女がいた。一見大人びた印象だが、よく見ると目はくりっとしているし、鼻梁にも子供っぽさが残っている。彼女はこちらをまっすぐに見ていた。可愛らしい唇の端が上がった。
「あんた暇そうね。ちょっと手伝ってくれないかしら?」
嗚呼、類は友を呼ぶ。
博麗神社の落ち葉はひと所に集められていた。
「まあくつろいで行きなさいな」
そう言って、巫女は私を神社に招いた。何も異存はなかった。むしろ、博麗の巫女などまさに騒乱の種である、と胸が高鳴った。
縁側に私を座らせると、台所に消えていった。もてなしは嫌だが、もてなされるのは嫌いではなかった。
石畳をぼんやりと眺めた。これまで手掛けてきた、種々のあくどい所業が思い浮かんだ。記憶の断片のどこを切り取って想像しても、心が躍った。
巫女が盆に湯呑みをふたつ乗せて戻ってきた。
「――で、用件を聞こうかしら?」
「そうね」
巫女は私の隣りに座ると、
「レミリアって分かる? 紅魔館の主で吸血鬼の」
紅魔館の存在は、人里の噂を聞いて知っていた。立派な洋館だと聞くが、良からぬ噂も立っているようだった。誰誰が連れて行かれた、きっと喰われたのだろう、等々。吸血鬼が住んでいることは想像がついた。
「そいつがなんか最近調子に乗ってる気がするから、シメる」
巫女は茶をすすり、境内の石畳をぼんやりと眺め始めた。
「それは建前で、本当は暇つぶしにちょっともてあそぶだけなんだけどね」
「頭をかち割ったり、四肢を引き裂いて胴体だけにしたりするのね?」
巫女は蔑むような視線をこちらに寄越した。
「する訳ないじゃないの。あんた本気で言ってそうだから怖いわ」
「それで退屈しのぎになるの? すごくつまらなさそうだけど」
「とても楽しいと思うわ。――実はあんたに手伝いを頼んだのには、理由がある」
「へえ。どんな?」
「あんた、あのゾンビみたいな奴飼ってるじゃない?」
「キョンシーね。飼ってる、という表現も正しくない。私、あの子と友達なのよ」
「あれだけこき使っておいて、よく言えるわ。――そこはどうでもいいの。キョンシーに噛みつかれたら、そいつもキョンシーになるのよね?」
巫女の意図が、私にはわかった。
「――そのレミリアをキョンシーにする?」
「そしてあんたのお札で、思うままに操る」
巫女は心底楽しそうに言った。
「あんなことやこんなことをしてやるわ。……ふふふ。ああ、もちろんあんたも好きにしていいわよ」
「でも、一定時間経ったら元に戻るから気をつけてね」
「分かってるわよ。その分内容の濃い悪戯にするんだから」
巫女の気味の悪い笑顔から目を逸らし、私は茶を飲んだ。自分も楽しめるかどうかは、吸血鬼のなりを見定めないとわからない。
時折強い風が吹いて、石畳にひらひらと紅い落ち葉が舞い降りていく。隣から、茶をすする音が聞こえる。空を見上げると抜けるように青い。
しばらく黙っていた。
「何ぼーっとしてんのさ」
「今までしてきたことを思い出してるの」
「うわぁ、危なそう」
「想像してるほどじゃないと思うわ。ひどいので、私の服が真っ赤になったってくらい」
「充分危ないわよ。もう話さなくていいから。――そんな聞いて欲しそうな顔をされても困るんですけど」
私は首をかしげ、
「――巫女さん、あなたは暇な時、どうしてる?」
唐突な質問に巫女は身じろいだが、少しして言った。
「ここでお茶をすすりながら、物思いにふける。過去に異変を解決した時のこと考えたり、それに飽きると、なんか異変でも起きないかなって。それでも暇なら、適当に口実作って誰かをからかってみたりもするわ。今回みたいに」
彼女はまだ若い。幼いとさえ言える。それでいて、私にそっくりの性格をしていた。
「じゃあ、聞かせてくれる?」
「何をよ」
「計画ぐらい、立ててるんでしょうね? 紅魔館に潜入してレミリアの首筋に芳香の歯を食いこませる計画」
まあいいか、となぜか思えた。あるいは巫女の説得の妙か。少なくとも楽しそうだと思えたのは事実である。
「勿論」
巫女は無い胸を張って、
「あんたを誘ったのには、能力の利便性の高さを買ったという理由もあるの」
巫女の視線の先にあるかんざしを、私は床に突き立て、できた穴をこじ開けるように左右に動かした。まるで水飴でも扱うかのように、穴はするすると広がった。かんざしを抜くと、元通りになった。それまで穴が空いていたことが冗談のように。
「壁抜けの鑿――ね」
「うん。それのお陰で、ずいぶん助かるのよ」
「でしょうね」
壁などないに等しかった。障壁を突破しての潜入も、穴抜けの鑿のお陰で荒ごとを起こさずにやってのけられる。
「策は単純。あんたが壁を抜けてレミリアのいる所まで突っ込み、連れていった芳香に、ガブリとやらせる。それだけよ」
「相手との接触は? 館の住人とか、見張りもいるんじゃないの」
ああそうだったわ、と巫女は手を叩き、
「まず、沢山メイド妖精がいるけど、無視しても大丈夫よ。危険な奴は、館内にレミリアも含めて六人。うち一人は図書館の引き篭もり、後一人も放っといたら地下から出てこないから、要注意なのは実質四人。レミリアと召使いの小悪魔、そして、そう、メイド長の咲夜には最も警戒して。時を止めてくるから」
「出会ったら先手必勝で行くべきかしら」
「そうした方がいいわ。えっと、それからあの門番ね」
「門番てことは、門があるのね。本格的な洋館みたいね」
「門なんてあんたには飾りでしかないでしょう? もっとも、門番は役立たずで、常にフリーパス状態だけどね」
巫女はそう言うと、しばし腕を組んで考えた。
「――館の中の奴らも、多分平和ボケしてるわ。真面目に館内の巡回なんてしてる訳ないから、まあ気楽にやってよ」
「分かったわ。で、レミリアをキョンシ―にした後は?」
「そいつを連れて外に出てきて頂戴。誰かと接触したら、あんたの好きに対処して」
「……なるほど」
やられた、と思った。巫女は想像よりもはるかにがめつい人間だった。
「危ない所は全部私に任せて、あなたはいいとこ取り、ね」
私の言葉が聞こえなかったかのように、巫女は沈黙していた。ただそれまでのうすら笑いを引き続き浮かべているだけだった。一枚上手だ。
「あなた、いい悪い奴になるわよ」
「どっちよ」
巫女は今日計画を実行する気だったらしいが、適当な理由をつけて予定を明日に延ばした。時間はまだ未定らしい。
人里の噂で聞いた道を辿り、これから紅魔館へ行く。どちらについた方が楽しめるか、判断するためだ。
レミリアという吸血鬼が、どれだけの者か。もし聡明な思考と犀利な眼差しどを持ち合わせているなら、レミリアの方について逆に巫女を責めた方が楽しめるし、責めが成功する確率も高いだろう。どちらに加担するかは吸血鬼の器量にかかっている。
巫女を裏切ることには躊躇いも後ろめたさもない。私は冷淡そのもの。私はこれまで、ただその方が楽しめるからという理由だけで、背信行為だろうが何だろうがさらりと為してきた。
何分か歩いた。不意に体中がじっとりと汗ばんでいることに気付いた。ふと見上げると、舞い散る紅葉を、まばゆい日光が照らしていた。秋も深まりつつあるこの時分に、真夏のような日差しは季節外れだ。
「――不思議ね」
昼間に街中を歩いていた時には、全く気付かなかった。
紅魔館が見えてきた。たたずまいは噂通り立派で、背の高い時計台が屹然とこちらを見下ろす様は豪奢そのものだ。
門の前に立たずに、まず塀の周りを一周してみた。塀越しに気配を伺ってみたところ、庭を徘徊する者はいないようだった。中の様子が見えないので一概に言うことはできないが、気配の無さからすると、吸血鬼の館だけあって、館内の活動は夜に活発になり、日が照っているうちは大人しいのだろう。
一通り館内の様子を伺った後、正門に行くことにする。いよいよ、レミリアの品定めに入る。
門番と思しき女性が一人、柱に体を預けて寝ていた。なるほど、門番は役立たずか。
計画通りことを運ぶため、彼女が起きるまで待つと決めた。寝顔を見つめながら時を過ごした。すらっとした体の上に、小さく綺麗な形の顔が乗っている。大人びた顔つきだが、すやすやと寝息を立てて、帽子が地に落ちたことに気付かずにいる現在の表情には子供のような愛嬌がある。見ていて飽きなかった。
半刻ほど経った。私は彼女の顔と、夜空を交互に見て時間をつぶした。
目を開く瞬間を、私は見ていた。彼女は気だるそうに目をこすり、しばらく口をぽーっと半開きにし、帽子を拾い上げ、こちらに気付いた。
「ふぁ……あ。えと、どちら様で?」
「私はこれからこの館に侵入する。ちょっと荒ごとになるかも知れないけどごめんなさいね」
門番はしばらく考えていたが、
「つまり、あんたはこの館に危害を加えようとしている?」
「そうなるわね」
「じゃあ、私の務めは?」
「私をひっ捕えることね」
紅い長髪が揺れた。門番が私から一定の距離をとり、構えを取るまでの動きは早かった。かなりのやり手らしい。
気迫をこめた視線のやりとり。いい目をしている。体術をもって争うのはいつ以来だろう。懐かしい感覚が、私の全身を駆け巡った。
左から来る。腰から上をとっさに右へ捻った。門番の拳が、後一寸伸びれば私の顔を捉えるところで止まった。反動をつけて右頬を打とうとした時、すでに距離を取られていた。今度は私が、右へ左へフェイントを掛けながら接近する。八分程の力で拳を振るった。しかし、空振りに終わる。
「なかなかやるようね」
「青い人、あんたも。肉弾戦は苦手そうな服装だけど」
遠い昔、少し武道をかじったことがある。私は筋が良かったらしく、上達は早かった。しかし、ある時すっぱりと止めてしまった。あれは仙道を志し、錬丹を始めた頃だったろうか。詳しくは思い出せない。武道で汗を流していたあの頃と同じ感覚だけが、ただ体の深奥から溢れてきている。
血は沸き立っていた。目の前の好敵手と雌雄を決することを、本能は欲していた。
今にも門番に飛びかかってしまいそうな体を、理性で抑えつけた。彼女と争うこと自体は、本来の目的ではない。
「あなた、なかなか綺麗な顔立ちをしてるわね」
「い、いきなり何を言い出すのよ!?」
虚をつかれたらしいその反応はいじらしかった。
「きっと館の中でも可愛がられてるんじゃないかしら?」
すぐに否定の言葉を発するか、あるいは照れ顔を見せるかと思ったが、彼女の反応は薄かった。表情にかすかな陰りが差したのが分かった。
「いや、私は……この館から、見放されてる」
門番はつらつらと語り出しそうだった。今のうちに殴りかかろうかと思ったが、思っただけだった。
「私はしょっちゅう居眠りして、あんまり働いてないと思われてる。でも、私なりに精一杯やってるつもりだし、イメージだけでそんなに寝ていないと思うわ」
どうしてそう断言できるのか、不思議でならない。
「でも、館のみんなにはサボり魔だと思われてる。特に、お嬢様には。今まで一度も私の武道を見てくださったことがないのよ」
お嬢様とはレミリアのことだろう。
「私は認めてもらいたいの。何か大きな手柄を立てて、お嬢様に喜んで戴きたい。それで、私もその、ほめられたい。可愛がられたい」
最後の方はほんのかすかに聞こえただけだった。
「そう」
「あんたみたいな腕の立つ奴を捕まえたら、絶対喜んでもらえるわ」
門番の目に、炯々とした光が戻った。
「そうかも」
私はつぶやくように言うと、門番めがけて一直線に駆けた。全速力で。
門番は、捨石のような拳を繰り出した。どうせ避けられると思っているらしく、次への体勢を整えようと足をさばき始めている。
けれども、私はその拳に突っ込んだ。
顔が右に思い切り持っていかれる。門番が、驚いたような表情を浮かべた。あれ、当たっちゃった、と。
これは前々から計画していたことだ。彼女の為を思ったのでは、多分ない。
両腕を背中で縛り合わせられた。これから主の間へと通されるようだ。
私を引き連れて歩く門番は、終始笑顔だった。他人の笑顔を見るのは苦手だが、彼女のそれだと満更でもない。彼女の笑顔を見ている間は頬の痛みを忘れていられた。
赤いじゅうたんの先を見つめ、門番は鼻歌交じりに歩く。
主の間には、見た目十歳くらいの幼い吸血鬼と、私より背が高い、メイド服を着た人物がいた。
「あら、門番。来たのね。そいつがその、侵入者なの?」
吸血鬼は、私の目を凝視してくる。幼い風貌ながら、射すくめるような視線を放ってくるその姿を見るまで、私は彼女がレミリア――この館の主を務める者であるとは思わなかった。
「はい、そうです! 私が懲らしめてやりました!」
「ふうん、そう――。良くやったわ、門番」
「もう下がっていいわよ、門番さん」
メイドがレミリアに続いた。
「はい! 咲夜さん!」
咲夜と呼ばれた彼女は腕を組んでいた。その表情は、全くと言っていいほど無であった。
やり取りを聞いている間、名前で呼んでやらないのかとずっと考えていた。――そういえば、門番の名前を聞いていなかった。
「――いや、ちょっと待ちなさい」
レミリアが止めた。
「そいつ、かなりの使い手と見たわ。あなたがそいつのそばから離れた瞬間、逃げ出すかも知れない」
「はあ、そうですか……」
呆然とした声色で門番は言うが、その顔には喜びが浮かんでいる。それだけの者を捕えることができた、と誇りに思っているに違いなかった。
レミリアの視線がこちらに戻った。
「で、あなた。名は?」
「霍青娥」
「何故そんなに余裕な表情でいられるのかしら?」
二言目には、なぜ紅魔館に侵入しようとしたか、と聞くのが普通であろう。私もそれを予想していた。
予想外の質問に戸惑ったが、
「感情が表に現れにくいものでしてね」
「あらそう」
とっさにやり過ごした。もし彼女が揺さぶりをかけようとこんな質問をしたのなら、かなり頭が切れると思わざるを得ない。
――捕虜への対処。
それが、主の能力を最も良く示すものだと思った。門番にわざと捕えられたのも、捕虜としてレミリアと相見える為だ。
それからは形式通りの質問が続いた。紅魔館に来たのは金目のもの目当てだとしておいたが、高圧的なレミリアの態度にやられ、まずい返答をしたかも知れない。
一通り聞き終えたらしく、沈黙が訪れた。
「何かにおうわね」
そう呟いたレミリアは、咲夜と何やら目顔で伝えあって、
「ま、何でもいいわ。どうせあなた、私達の食料になるんだから」
レミリアがそう言うと、咲夜は私を背後から取り押さえにかかった。私をどこかへ連れていくらしい。調理でもするつもりだろうか。
「立派なもの、差してるじゃない?」
咲夜が私の頭に手を伸ばそうとした。
「ちょっと待って。私は人間ではない。仙人なのよ。私の血は、きっと口に合わないと思うわ」
咲夜はレミリアの方を伺う。
「心配してくれて有難いですわ。でも、仙人の血はコクが深くて美味しいのよ」
レミリアはしおらしく、しかし突き放すように言った。
そろそろ限界だと思った。
「放して頂戴。いいわ、これから本当のことを言う」
できれば話したくなかったが、命あっての物種である。レミリアは構わず、行け、と咲夜に手で合図をした。
「博麗霊夢が、この館に何かいたずらをしようとしている、という噂を聞いたの。私はそれをあなたに伝えに来たのよ」
レミリアの動きが止まった。
「ほう、話してみなさい」
私は、巫女が暇つぶしの為に紅魔館を襲おうとしていること、それは明日で、時間は未定であること、自分は計画の手伝いを頼まれたことを述べ立てた。
「でも、私は霊夢が嫌いなのよ。あの人を食ったような態度といい、有無を言わせない、絶対相手は自分に従うと確信してるような口ぶりといい……。一回懲らしめてやりたいのよ。だから、私はあんたの側につきたいの。霊夢を裏切って」
「――そうしてもらえるなら、有難いわね」
レミリアの好意的な反応に意外さを感じながら、私は続ける。
「ところで、私の友達に、キョンシーがいるのよね。キョンシー、って分かるかしら?」
「話を聞いたことがあるわ。ゾンビみたいなやつでしょう? そいつに噛まれたら自分までゾンビみたいにになる、とも聞いたわ」
ゾンビという喩えが鼻につき、苛立ったが、いちいち食いついても仕方がない。
「知ってるなら話が早いわ。霊夢は私の友達を利用して、あなたをキョンシーにするつもりなの」
「それは斬新な嫌がらせね」
「霊夢が私に話した作戦は、至ってシンプルよ。私を館内に突っ込ませてあんたを捕え、キョンシーに噛みつかせる」
「あなたは上手い具合に利用される、というわけね?」
「そう」
幼い吸血鬼は、にやりと笑った。
「単純な戦法は、ちょっと捻っただけですぐに崩れてしまうわ。私は明日、ひとまず霊夢と合流する。そして紅魔館に入り、あなたと接触した後、あなたにはキョンシーになったふりをして、霊夢に会ってもらうわ。そこで霊夢を、逆にキョンシーにしてやる」
「あなた、人が悪いわね」
「どうかしら?」
ただ、霊夢を懲らしめたいだけなら、わざわざ紅魔館に出向いてもらう必要もない。霊夢に会ったその場でいたぶればいいだけだ。
「裏切りの演出ね」
レミリアは満足そうに言った。
「手を借りるつもりなら、私にも愉しむ権利はあるわよね?」
「ええ」
「じゃあ今の内にどんな悪戯をするか考えておこうっと」
その時ふと、彼女に纏わりついていたオーラが消え、見た目相応の無邪気さがむき出しになった。すぐに戻ったので気のせいかも知れない。
「で、青娥さんはどうして捕虜としてここに来たのかしら?」
「あなたが協力するに足る人物かどうか、見極めるためよ」
「なるほどね。初めからおかしいと思っていたの。――門番!」
レミリアが急に大きな声を出して、私は驚いた。だが、門番の方はもっと驚いたらしい。
「はっ、はい!」
「この人は、あなたにわざと負けた。あなたはこの人に、上手い具合に利用されたのよ。たまらないわ」
そう言うとレミリアは、これ以上ないくらい楽しげな高笑いを始めた。おさまった頃、顎が痛い顎が痛い、と言いながら、またも咲夜に合図を送った。
「では、青娥さん。我々はあなたを客人として迎えます。どうぞ、今夜はお泊りください」
咲夜が私に声をかけた。
「遠慮します、と言ったら」
と言うか、一旦家に帰って芳香を連れてこなければ。
「あなたが巫女と内通している疑いもあります。ことが起こるまでは、あなたを外にお出しすることはできません」
「あなたのキョンシーは明日連れてきてもらうことにするわ。ただし、咲夜も同行させるわよ」
「なるほど。しっかりしてるわね」
両腕の縄が解かれた。案内を買って出た咲夜の後に続き、私は主の間を離れた。去り際に、門番の方に目をやった。彼女はただ微妙な笑みを浮かべているばかりだった。
館の端のある一室に通された。内装はとても立派で、正直自分の屋敷より居心地が良さそうだった。
「では、明日まで鍵を閉めさせてもらいます。ゆめゆめ脱走などお考えなさらないように」
咲夜はドアのロックを閉め、去って行った。
安楽椅子に腰を下ろし、一息ついた。雲の上のようなふかふかさ。床に目をやり、精緻な寄木細工に、素直に感嘆の声を上げた。このまま眠ってしまうのもいい、とさえ思えた。
目を閉じると、脳は勝手に働き出した。
さて、どちらについたものか。
レミリアのあの、猛禽すら思わせるような眼光は本物だろう。さらに、妙な質問で戸惑わせる利発さもある。主の肩書きに、全くもってふさわしいものを持ち合わせているようだった。ただ、彼女についた時、逆に利用されはしないかという不安もある。切り抜ける自信はあるが、面倒はできれば遠慮したい。
そういう意味からも、巫女についた方が面白いかとも思う。ただ、彼女は気まぐれそうだ。ことを計画通り行えない性格をしている。
ただし、私は霊夢に自分と似通ったものを見出していることは確かだった。彼女も私も、騒乱を起こして楽しむのは現在ではなく、それを後になって、過去のものとして楽しんでいるのだった。
道教の道に入った頃、過去を捨てると決意したのを思い出す。過去は思い通りいかなかった歯痒さに満ちている。過去とはつらいものだ。それを遮断することで、現前する事象に打ち込める。そう考えていた。
後ろを振り返る余裕がなかった当時の私には、そうした無骨な信条は必要だったかも知れない。たが、現在こうして過去の出来事を掘り返して悦に入るのが当然となった自分が存在するのだ。
万事は変わりゆく。たとえ普段通りを装っていても、自らの内で無意識に若い偏狭な思想は淘汰され、本来己の精神が行き着くところへ行き着いたのだろう。
その運命に、従順に行こう。結局はこういうことだ。
――私は巫女と共に、勝利の味を噛みしめたい。二人で、そう言えばあんなことがあったわね、と笑い合いたい。
こういったことを、年老いたな、と己に突っ込みを入れながら考えた。
目を開いた。考えごとをしているうち、夢とも現ともつかずに眠ってしまっていた。どれだけ時間が経ったかは分からなかった。私は安楽椅子から腰を上げると、頭に手を伸ばした。
捕虜として紅魔館に来て、背筋が凍った瞬間が一度だけあった。咲夜にかんざしを抜き取られそうになった時だ。
私はかんざしで壁を貫いた。
このまま紅魔館を後にしても良かったが、折角の機会、間取りや紅魔館に住む者たちの動きを観察しておこうと思った。壁などないに等しいのだから、後は気付かれずにやるだけだ。
小悪魔は雑務をこなしている。戦闘能力はさして高くなさそうなので、放っておけば大丈夫だろう。
ついで、地下にも行ってみた。咳きこみがちのひ弱そうな少女が黙々と書見をしている。これも無視しよう。地下にもう一人いるはずだが、その姿はついに見つけられなかった。諦めて地上に戻る。
メイド長の部屋には誰もいなかった。仕事をしているのだと思ったが、その姿をレミリアの寝室で見かけた時には笑ってしまった。まるで恋人同士のように、ベッドにレミリアと二人並んで腰かけていたからである。
「ねえ咲夜、わたし上手くカリスマ出せてたかしら?」
「勿論! あまりの演技力に、私惚れそうでした。いやすでにベタ惚れしてますが」
「うふふ。咲夜が考えてくれたからこそでしょう?」
従者は強し、か。
「そうやって私を立ててくださるところ! ああもう、堪りません!」
「やっ、咲夜、そんなに強く抱きしめないで、いやでも、もっと強く――」
私は帰途についた。
帰り際、門番の姿が見えた。門の前で寝ていると思っていたが、目は開いている。しばらく迷っていた。月明かりにきらめいたその液体を見て、私は姿を見せようと決心した。
門番はこちらをちらりと見た。目に驚きの色が浮かぶが、今は泣くことに忙しいらしく、またうつむいて声を出さない。こちらも黙っていた。時間が経った。辺りはすでに闇である。
落ち着いたらしい門番は、私に問いかけた。
「抜け出してきたの?」
「ええ」
「やはりあんたは、霊夢と手を結んでると?」
「そうなるわね」
門番は私をもう一度捕えようとはしなかった。全てに対する諦念のようなものを体からもやもやと放ち、佇立している。
「――あなたには、悪いことをしたと思ってるわ」
「いいのよ。あんたを殴った時、ちょっと様子が変だとは思ってたし。利用される私が力不足だっただけ」
あまり話をしすぎると、彼女の心の傷を深めてしまいそうだった。早目に立ち去りたかった。しかし、聞いておきたいことがある。
またも沈黙がおりた。
「――明日は、負けないから」
「無理ね。諦めなさい」
口からは冷たい言葉が出た。だが、門番の言葉は私の体の芯を揺さぶっていた。あの懐かしい感覚が、またやってくる。
「そうね。分かってる。でもいつかは必ず勝ってみせるわ」
門番は私の言葉に涙を滲ませながら、しかしそう強く言い放った。さっきまでぼろぼろ泣いていたことが嘘のよう。見上げた負けん気だ。
「あなた、名前は?」
「美鈴。紅美鈴よ」
「美鈴。楽しみにしてるわ」
「ええ。青娥さんに勝てるよう精進する」
名前を呼ばれて、心臓が跳ねた。そういえば、レミリアに名を名乗った時、美鈴もその場にいたのだった。
私は尋ねた。
「ところで、私って何歳ぐらいに見えるかしら?」
「――二十歳くらいかなあ? いや、確かあんた仙人だったわね。見た目じゃ分からないわ。何故そんなことを聞くのよ」
「なんでもないんだけど」
大昔の記憶が、どうっと溢れだしてきた。楽しかったこと、やり遂げたこと、つらかったこと、そして、激情で胸がはち切れそうになったこと。美鈴から顔を背け、空を見上げた。
「月が綺麗ね」
我が屋敷に戻ると、芳香がもう日付が変わったと教えてくれた。どうりで帰り際に里の人間と出会わなかったわけだ。疲れていたのだろうか、紅魔館で相当の間眠っていたようだ。
芳香に敷かせた布団に寝転がるが、目が冴えて眠れそうになかった。
「芳香」
そこで、芳香を寝室に呼び、あったことを話そうと思った。今に限ったことではなかった。大抵「そうですかー」とか「へー」といった返答しか返ってこないが、もとより芳香に助言を求めてなどいない。話していて整理がつくし、話の面白みを彼女と一緒に共有するのが好きだった。
話す言葉は、すらすらと出てくる。私は口を開きながら、しばし物思いにふける。
己は何故、道教を志したのだったか?
力の為だ。不甲斐なさや及ばなさに抗する力を得る為もあったが、まず何より寿命という運命への反逆の力を得る為であった。
私は本当にそれで良かったのだろうか? 現在こうして、人間に想像もつかぬような遠い過去に耽り楽しめている点では、良かったと言える。
しかし、それは『逃げ』ではないか?
忘れたくても忘れられない過去は、誰にでもある。後悔した過去を思い出すのは、つらい。私は過去を楽しんだつもりでいるが、それは暗い過去を避けているだけかも知れない。
そこで話はお仕舞いになった。今日もよく聞いてくれた。
「芳香、いつもありがとうね」
「はいー」
にこりと笑う芳香の帽子を取り、やわらかな髪をなでた。
もしかすると、芳香は過去の苦しみに喘いでいるのかも知れない。
――だが、悲しみの表情を見せることは、今まで一度もなかった。少なくとも私の前では。
その姿が、本当に今を楽しんでいるように思える。
「ありがとう」
若くなろう、と思った。武道に邁進していたあの頃のように、現在を楽しもうと強く決意した。
「青娥。こっちよ」
巫女は陣頭指揮のつもりだろうが、生憎3人では小隊とも呼べまい。勿論何も言わずについて行った。
日差しは昨日とは打って変わって、秋らしい遠慮がちなものとなった。肌寒いほどだ。一日真夏のような日があったとしても、総括すれば秋というところに落ち着くのだろう。
だから、たまには真夏に逆戻りしてもいいのだ。
昼間の紅魔館は、夜のそれと比べると覇気がない。
「寝込みを襲うのね」
人聞きが悪いわ、と巫女は肩をすくめた。
「じゃあ、最後に一度だけ確認しておくわよ。あんたとそこのは突撃。レミリアを連れて帰ってきて頂戴。――あ、日光に当たるとダメだから、レミリアに日傘を渡してあげてね。それから私の家に運び込んで悪戯よ。いいかしら」
巫女の言葉はほとんど無視した。私は私の好きにする。日傘の部分だけ覚えておいた。
「分かったわ。行ってくる」
「あんまり気をつけることもないけど気をつけて」
私は芳香を引き連れ、正門の反対側の塀から侵入した。
巫女は無計画にも程があった。この広大な館を、間取りの説明なしで目的地に着くことは不可能に近い。そこが若さとも言えるが。
ともあれ私は昨日充分な下見をしてきたので、迷わず行くことができた。
館内に侵入し、長い廊下を歩いていると、気配に気づいた。私たちの行く手を阻むように仁王立ちしている気配。姿はまだ見えない。素知らぬふりをして歩いた。
気配が、殺気を伴った。メイド長が立っていた。
「あんたもおねむじゃなくて」
「御心配には及びません」
メイド長の微笑は、並々ならぬ鬼気を放っている。
「そちらの方はどなたかしら?」
「私の友人よ」
私は機を伺っていた。こうして話をすること自体、咲夜の失策だった。時を止めたら一発でお仕舞いなのに。
「申し訳ありませんが、お招きしておりませんのでお帰り戴けますか――っ!」
驚いただろう。芳香が、こちらと咲夜の間、十間ほどの距離を一瞬にして詰めたのだから。
私がうなずくと、芳香は昨夜の首筋に噛みついた。咲夜は気を失って倒れた。すぐに起き上がってくるだろう。ただし、キョンシーとして。
携帯していたお札と矢立てを取り出し、指示を書く。咲夜には、レミリアの日傘を探して貰うことにした。
息を吹き返した咲夜の額にお札を貼ると、ふらふらとあちらへ歩いて行った。私達はこちらへ急ぐ。レミリアの部屋へ。
道中、小悪魔と遭遇した。向こうは掃除をしていた。気付かれないうちに、そっと芳香に噛ませた。キョンシーにしておけば、取り敢えずは無力化することができる。さらに、正気を取り戻す時にキョンシー状態での記憶は抹消されることになるから、事後も安心だ。
出会ったのは、彼女だけだった。やはり昼の紅魔館である。
レミリアの部屋の扉を叩く。寝ているかも知れなかったが、もぞもぞと音がするところ、起きているようだった。物音がこちらに近づいてきた。鍵が開けられる音がした。きしむ音と共にゆっくりと扉が開かれ、
「どちら様――きゃっ!」
期待していたであろう咲夜でも小悪魔でも図書館の少女でも門番でも、その他紅魔館の住人でもなく、彼女が見たのは未知の少女の、あろうことか牙をむいて肉薄してくる姿だった。
咲夜が日傘を持って戻ってくるのを待って、私は芳香とレミリアを引き連れ、来た道を元通り辿って行った。
レミリアには、まだお札を貼らなかった。キョンシーと化した者は、理性の膜が剥がれ落ち、行動や言動には本能が表出する。レミリアは先刻からしきりと咲夜の名を口にしたり、「うー☆」と猫なで声で意味不明な叫びを発したりしている。昨日の夜の彼女の応対が演技であるとは信じ難いが、この様子だとやはりそうなのだろう。彼女、大した仮面を持っている。
レミリアに日傘を持たせ、芳香、レミリア、私の三人で外へと出る。咲夜と小悪魔は、縄を持ってこさせて縛っておいた。
塀を穿つ前、少しだけ迷った。すぐにその迷いを振り払った。これは決めたことだ。何としても為さねばならない。
「作戦成功ね。青娥、よくやったわ」
穴を開けた途端に、巫女が声を掛けてきた。その、これからの楽しみに胸を膨らませる様子に、また迷う羽目になった。彼女も己の為に楽しもうとしている。
思考を、止めようと努力した。私は邪仙だ。私のやりたいようにやる。それだけだ。
芳香に、計画通りにするよう指示を出した。彼女は私の目を覗き込んでいた。よろしいのですか、と。うなずきを返す。
「さて、うちに戻ってお楽しみよ」
「先に帰っててね」
私がそう言うと、芳香は巫女に飛びかかった。見事な不意打ちだった。
倒れた巫女を神社に送り届けるように、芳香に言いつけた。
もう一度紅魔館に入り、レミリアを所定の位置に配した。お札にはこう書いた。「ただ見ていなさい」
外に出て、私は決闘の地――正門の前へと移動した。
――これは私が、紅美鈴の為に案じた一計である。
「来たわね」
美鈴は私に声を掛ける。
「あら、起きていたの?」
「緊張して眠れやしないわ。昨晩も眠れなくてね」
「肩肘張らない方がいいわよ。動きが鈍るから」
「忠告ありがとう。じゃあ早く始めましょう」
私はできるだけ自然な素振りで紅魔館の方を向く。
「……お嬢様も、ご観戦なさるみたいよ」
紅魔館の屋上、時計塔の横に、吸血鬼が立っている。彼女はこちらを見下ろしていた。
「ほんとだ。――なんか額に張り付いてるけど」
「きっと日よけの類よ」
「そうね」
美鈴は嬉しそうに微笑み、ふっ、と一息ついた。
「汚名返上の好機。全力で行かせてもらうわ」
「お手柔らかに」
距離をとり、構えを見せ合う。美鈴の目は今にも宝石が溢れだしそうなくらい輝いている。一瞬、時を忘れかけた。私の意識を戦いに呼び戻したのは、美鈴の渾身の蹴りだった。すんでのところで避けるが、昨日より伸びがいいのは明らかだった。
「ふうん。ちょっと気合入れないとね」
時を忘れて、戦いに没頭した。二人で舞を踊るかのように、拳や蹴りを繰り出しあい、お互いに命中させることは敵わずに終わる。汗しぶきが飛ぶが、どちらのものか分からない。もとより彼女を殴り倒すつもりはなかった。技量と技量がぶつかり合い、混淆され撹拌されて生み出される時間、それそのものが、私が望んだものだった。
体中が興奮に震え、心は真夏のように熱い。
拳と拳の語らいとは、よく言ったものだ。無言にして雄弁、大胆かつ繊細な意思疎通。そして、それを楽しんでいるのは現在なのだ。相手と正対する空気感、一瞬を争う張りつめた緊張感は、予想することができないし、後で鮮明に思い出すこともできない。
大きく距離をとった時、ふとレミリアの方を見た。貼ってあったお札は、すでにはがされていた。レミリアにつけた傷の深さから、半刻程は戻らないと思っていたが、そこは吸血鬼の血が関係しているのか。あるいは、美鈴との戦いに熱中していて、あっという間に半刻が過ぎてしまったのか。
どちらでもいい。正気を取り戻したレミリアは、相変わらず私たちの戦いを見ているのだから。
「何をよそ見してるのさ」
「ごめんなさい」
試合はなお続いた。
「参ったわ」
私がそう告げた時、もう太陽に赤みが差していた。
美鈴は肩で息をしている。私の呼吸も早い。
「なにを、言ってるのさ。あんた、まだやれるだろ?」
「あなたがもう限界よ」
何か言い返そうとして、美鈴はふら、と倒れかかった。急いで彼女を支えた。
「はは、あんたの勝ちだな。やっぱり敵わない」
そこに、拍手が響いた。知らぬ間にレミリアはこちらへ飛んできており、門のすぐ前に立っていた。日傘に体が半分も隠れている。
「いいものを見させてもらったわ」
「お、お嬢様」
美鈴は体勢を立て直した。
「不甲斐ない姿を見せてしまい、申し訳ありません」
「いいえ、美鈴。あなたはよく頑張ったわ。今まであなたの腕をしっかり確かめたことはなかったけど、ここまですごいと思っていなかった」
レミリアは満面の笑みを浮かべ、
「私はあなたのような門番を持てて幸せよ」
「お嬢様……!」
これで、私は美鈴に報いることができたはずだ。戦闘の合間に見せた、美鈴の満ち足りた表情を思い出した。何より、美鈴にレミリアの信用を取り戻させることができたのだ。彼女はそれが、なにより嬉しいだろう。
レミリアは空いている手で美鈴の手を取り、しばらく言葉を発しなかった。そうしている時間そのものに意味があるかのように。
やがて、こちらを向いた。
「青娥さん、だったかしら?」
「ええ」
「申し訳ないけど、お引き取り願えるかしら? 気が済まないなら私が相手してあげてもいいけど」
「結構よ。参った、と言ったでしょう? 私はもう疲れた。あなたに勝てるだけの力は残ってない」
レミリアは余裕の笑みを見せ、耳を貸せ、と手で合図してきた。彼女は背伸びして、私の耳元でささやく。
「ありがとう。うちの美鈴に花を持たせてやってくれて」
私の策は、彼女には一度も話していない。――やはり、彼女の炯眼は本物かも知れない。
「何のことかしら?」
「――何でもないわ」
と、レミリアは一転して大きな声で、
「それより、勝負している時、あなたも美鈴も、本当に楽しそうだったわ。また手合わせしてあげて頂戴ね」
レミリアはこちらに片目をつぶってみせた。美鈴は照れたような、こそばゆい表情を浮かべた。反応に困る。
「うーん、また機会があったらね」
「今日はあんたと戦えて本当に良かったよ。私、もう一度あんたに会いたい。きっと来てね」
胸が熱くなった。二人に背を向ける。こんな顔、見せられない。
安堵に緩んだ頬と、期待に細めた瞼、嬉しさをなみなみとたたえた唇を。
「青娥さん、もう行っちゃうのか?」
私はふと思い出す。
「美鈴、咲夜と小悪魔の縄は解いてあげてね」
「へ?」
私は夕日にぬれた道を歩き始めた。その日差しは、広大な青空をも紅く染めている。
私の双眸も、紅く染められているに違いなかった。
屋敷に戻ると、芳香がいつも通り出迎えてくれた。
「霊夢は殴りこんでこなかったかしら?」
「大丈夫ー」
「そう。良かったわ」
私は居間の椅子に腰かけた。疲労した体に、椅子は睡眠へと誘う呪いを掛けてくるようだった。
歩いてくる道すがら、これからのことを考えていた。これから、普段通りの日々が続くだろう。芳香に過去の話を語り、二人して笑い合い、飽きると将来の笑いの種を探しに街をぶらつくだろう。
それが、私の宿命なのだと思う。
――せいがは、めいりんのことが好きなのか?――
今朝、芳香にそう訊かれた。
それは、これから決めることのように思えた。
現在を楽しもうと決めたばかりだ。永遠の思い出浸りの合間に、たまにはいい。
私はまだ若い。なぜなら、美鈴にそう言われたのだから。自分に言い聞かせる。
道教を志す前の、あの頃のように。
「今度お茶にでも誘おうかしら」
その部分を除いて全体に落ち着いた小説、キャラの構成も違和感無く受け入れられる作り込みがあり、読みやすいけど難解な漢字がたまに出てくる為読みが分からないとテンポが悪くなるのでこの点数。
正直面白かったです。また次の作品に期待
青娥の邪仙っぷりというか自由なところが良いですね
話も同じで更には完全なハリボテ。
キョンシー霊夢のその後の様子が気になります。あまり変わらなさそう。
タイトルとタグで青娥と霊夢の話だと思ってたから、終盤辺りでぽかーんとなってしまった。
もし、本当にミスリードだとしても美鈴より霊夢とレミリアの方が目立ってしまってるから、
こちらでもやはり終盤で置いてけぼりを感じる。
青娥vs美鈴第1戦目で、美鈴がぼこぼこに負けてたらもっとテーマが浮き彫りになっていいと思う。
後、青娥に何かしらの逆境が欲しかった。
例えばラストの紅魔館に侵入するところで、芳香が失敗→霊夢とレミリアに捕えられる→
事情を説明→霊夢は暇つぶしを欲してただけなので納得→みんな見てる前で青娥vs美鈴
とかなったらすっきりした締めになったと思う。
いろいろ酷評を書いてしまったけど、それだけ自分が読み耽ってしまったのも事実。
次の作品も楽しみにしてます。
似通った云々言っていた件が意味のないものになりただタグで釣られただけになりました
正直に言うと途中まで楽しみでしたが好きなキャラがないがしろにされてがっかり
ちなみにレミリアがこんな作戦に引っかかるとは微塵も思っていません
自分は悪くないと思う。
いろいろ引っかかる点はあるけど、一つのテーマを書ききった感が、気持ちいいです。
>青娥に過去の話を語り
ラストのこの部分、ひょっとして芳香の間違いかな?
タイトルからするとこれが本題でしょうが埋もれてますね
ひねりのなさは退屈を誘ってしまいます
将来性に期待
誰もかれも自分勝手で好き勝手にしてるわ
いたずらを提案してるときの霊夢には笑っていてほしかった