Coolier - 新生・東方創想話

命蓮寺、村紗食べる

2012/10/07 23:03:57
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※この作品は、作品集171「命蓮寺、村紗溺れる」と同じ時系列です。ちょっとだけ設定が入りますが、空気で察せると思ので、特に読まなくても大丈夫です。









これは一体なんなのかしら?……ラーメン?
ラーメンと言ったらあれよね。食べ物。なんか聞いたことあるわ。里に一件だけラーメン屋があるとか無いとか。まあ私は幽霊だから里に入ろうとは思わないけど。
というか、なぜこれが台所に?ああ、そうか。食べ物だから台所にあるのか。

「あれ?誰か起きてるんですかー?」
「あ、響子」

山彦が現れたので、私はこれについて聞いてみることにした。

「響子、これ何か知ってる?」
「何ですかこれ?」
「ラーメンらしいわ」
「ラーメン?コレがですか?」
「知ってるの?」
「はい。以前聖と一緒に里に行った時、帰りにラーメン屋さんに寄りましたから。でも、これって外に描いてある絵以外、ラーメンの要素ゼロですよね」

響子はラーメンを食べたことがあるらしい。私は詳しくラーメンについて聞き出す。味はどうとか、どんな感じの食感だとかいろいろ聞いた。響子は顔を上の方に向けて、うーんと考えると、丁寧に私の質問に答えてくれた。まとめると、おいしい、だそうだ。

「これ、袋破ってみませんか?」
「この透明なの破れるのかな?法力とかで守られてましたー、そしてそれを破った私は成仏しましたー、ってオチじゃないよね?」
「や、そこまでは無いかと…とりあえずバリバリと」
「おりゃ!」

私は透明なのを剥いでみた。すると妙な手触りになる。柔らかいのに固いような、そしてサラサラしているようなベタベタしているような何とも言えない感触だ。

「うへ。気持ち悪い」

けれどもめげずにそれを触り続ける。キュッと一瞬音が発生した。

「ぴゃあぁっ!?」

響子が耳を塞ぐ。
…………。
キュッキュッキュッキュッキュッ

「ひええぇぇ!その音やめてください!なぜか鳥肌が立ちます!」

犬なのに鳥肌とはこれ如何に。震える響子をしこたま笑ってやったあと、それをシンクのところに置いて、再び推理の時間に戻る。


「周りにいろいろ文字が書いてあるわね」
「最初から読んでくださいよ」

画期的な装飾ね、なんて思ってシカトしていたわ。響子はまだプルプルしながら耳を抑えている。

「えっと、お湯を入れて3分」
「…すると?」
「出来上がり」
「えっ!?」

どうやら挿絵を見る限りだと、熱湯を注いで3分だけ待つと、ラーメンが出来上がっているらしい。にわかに信じがたい。

「水で膨れる外国のオモチャ?」
「それ私も思いましたけど、違うと思います」
「私、それのイルカ持ってたわ」
「もしかして、お風呂詰まった事件の真犯人って…」

ジトっと響子はこちらを見つめる。いや、違うのよ。あの事件は私のそのオモチャを小傘が勝手に持ち出してお風呂に入れたって設定になってるんだから。遊びに来た小傘が身に覚えのない説教食らってたのを、ぬえと一緒に物陰から笑いながら見ていたことなんて無いのよ。

「あ、お風呂で思い出しましたけど、私今からお風呂行くんでした」
「道理で犬臭いと思ってたわ」
「ひ、ひどいですっ!」

目にちょっとだけ涙を浮かべてワンコは自分の体をスンスンと嗅ぎ出す。それはまるでワンコのように。
響子って、山彦の妖怪とか言ってるけど、見た目どう見ても犬の人型妖怪よね。やっぱり命蓮寺入りできたのもその姿のお陰かしら?え、なぜかって?そりゃあ、聖がゲボンゲホン。

「え、本当に犬臭いですか?ちゃんと毎日お風呂に入ってるのに」
「うんにゃ、嘘よ。響子は綺麗好きだらね」
「はぁ~よかった」

ホッと胸を撫で下ろし、尻尾をピコピコと振る。あ、ちょっと可愛いわ。

「で、どうします?お湯を入れてみます?」
「そうね。沸かそうか。あと、時間計る物ある?」
「部屋から目覚まし時計持ってきます」

私はお湯を沸かす係り、響子は部屋から目覚まし時計を持ってきて時間を計る係りと決めた。
なんか流れで食べる感じになったけど、いいのかしら?これ誰の?でもこの時間ってもう絶食しないといけないから、まさか聖、一輪、星じゃないでしょう。私?私はお経とか聞いたら成仏しちゃうから、仏教徒になれないのよ。説法中は部屋に閉じこもってるの。
まあ響子は道連れね。まだ響子は説法を受けるほど修行積んでないし。この時間の絶食も知らないでしょ。
とりあえず、ぬえかナズーリンなら怒ってきても平気だから、これ食べましょう。知的好奇心が溢れ出してきやがるもんだからさ。

「持ってきましたよ」
「んー、こっちはもうちょっと」

ポコポコと小さく気泡が立ち始める。さらに火を強くして沸騰を加速させる。すぐに気泡は形を大きくして、それが合図であることを告げる。

「あ、それ開けて」
「はーい」

響子は勢いよく紙(?)の蓋をバリッと全部剥いだ。中から乾燥麺が出てくる。

「ははーん。こうなってるのね。お湯を注ぐだけの理由がわかったわ。私はてっきり魔法か何かかと思ってた」
「麺から既に出汁の匂いがしますね。どんな技術でしょうか」

私は煮えたぎったお湯入りの薬缶を響子の方に向けて、ほーれと振ってみる。響子はビクリと震えて、涙目で私に文句を言ってきたが、ケタケタと笑って誤魔化した。

「そんじゃ入れるよー」
「あれ?これ、お湯注いだあと蓋閉めないとダメって書いてありますよ」
「うそ?どうする?」
「お皿か何か乗せとけばいいと思います」
「頭いいわね」

響子に適当な大きさの皿を取らせて、お湯を注ぐ。間髪なく皿で蓋をする。完璧だ。

「ではこの針が3回まわれば完成ですね」
「おお」

2人してジッと目覚まし時計を見つめる。

「お湯を注ぐだけでラーメンが出来るなんて凄いですよね」
「カッパの技術かなあ」
「この目覚ましもカッパ製ですよ」
「だと思った」

沈黙。まだあと1分と半分もある。今の会話で5分くらい進んでもよかったんじゃない?それはないか。
何だろう。3分なんてあっという間と思っていたけれど、なぜか長く感じる。

「そういえば」

響子の方が痺れを切らして話しかけてきた。

「一輪さんとどこまでいったんですか?」
「ぼふぉっ!?」

私は吹き出した。

「ど、どこって妖怪の山だけれど」
「それは知ってますよ。私が聞きたいのは、その…どれくらい愛し合ってるかってことです」
「あーあー、聞こえなーい」

耳を抑えたり離したりして聞こえないアピールをする。こうすると、ぐわんぐわん聞こえるのよね。

「言わないと、こんな時間に食べてること言いますよー」
「あ、戒律知ってたの?でも残念、私は仏教徒じゃないのよ!」
「残念、私が聖に言うと一発ですけどね!」
「な、どういうことさ!?」

響子は意味の深そうな笑みを作るとニヤニヤと私の顔を覗く。くそっ!ダメっぽい。

「分かったわよ。観念するわ。話せることなら話すから」
「へへー。じゃあ、デートはどれくらい行ってますか?」
「デートねえ。最近は一輪、里で法事が立て込んでたから行けてないのよね。その前までは週1くらいね」
「ふむふむ。初キスはどちらから?」
「い、一輪から」
「ほほぅ」

そろそろ質問が厳しくなってきそうだ。私は背中と首に冷や汗をかきながら響子から目を逸らす。

「では、初めての情事は付き合い出してからどれくらいで…」
「ス、ストップ!」
「えぇ。どうしてですか?」
「それ聞いてどうすんのよ!」
「いや参考に」
「参考!?あ、あんたもしかして…」

カチッと音がして、時計が3回転したことを告げた。

「ふふーん。お互い、詮索はここまでにしましょう」

響子はラーメンに手を延ばして、皿を上げた。たちまち湯気が立ち上る。それとともに何とも良い香りが鼻腔をついた。

「おお!本当にラーメンになってますよ!」

私の顔はこの湯気に負けないくらい上気しているように思えた。今日は響子に一枚取られたかもしれない。

「お先にどうぞ」
「ん、いただきます」

やるせない気分でラーメンをすする。

「これは…!」

麺の程よい柔らかさ、醤油だしの程よい濃さ、そしてそれらを引き立てる周りの具材。私は驚愕した。初めてラーメンを食べたにも関わらず、こんなにもラーメンという物に幸せを感じることが出来るなんて。3分でこんなにおいしい物が作れるのであれば、世の中のシェフや料理長と呼ばれる者共は地の底へ落ちるしかねないのではないか。それほどだ。

「おいしいすぎるわ。ほら、響子も食べてみて!」
「はい。いただきます!」

ラーメンを受け取ると響子も麺を勢いよくすする。そして私同様に驚愕の顔を作った。

「す、素晴らしいですね…」

それからしばらく2人でラーメンを食した。ラーメンは汁さえ残さずになくなってしまった。
私は分かった。ラーメンとは人を幸せにする物だ。麺とスープのハーモニー。例えるなら、夫婦。いち早く口に飛び込む麺が、身をもって家族のために働く夫。そしてそれを支えるのがスープ。どちらが欠けてもダメ。2人で1つ。ふふ、一輪と私もそんな風になれればいいなって思ったのは秘密ね。墓場まで持って行きましょう。……あ、私もう死んでたわ。

「さて、もう寝るわね」
「私はお風呂に入ってから寝ます」
「分かったわ。あ、あとこのことは…」
「もちろん秘密ですよね?」
「ありがと」
「こちらこそ、おいしいラーメンごちそうさまでした」

では、と言って響子は踵を返した。
私はふと思い出して響子を呼び戻す。

「響子」
「何ですか?」
「今度、里のラーメン屋の場所教えてよ」
「ええ、いいですよ。ふふ、1人で行くんですか?」

響子がニコッと笑う。

「まさか。一輪と、ね」

私も合わせて同じ様に笑った。

















「さてさて、写経も終わったことだし、法事で貰ったカップラーメンという物を食べようかしら」













[了]
「もう村紗なんて大っ嫌い!」
「私が悪かったからさ、機嫌直してよいっちりん」
「嫌よ」
「でも着いてきてくれるのね」
「それは…貴女が私の手を引いてるから」
「ふふ」
「で、どこに私を誘拐する気?」
「そうね…醤油くさいこことか」
「あ、ここって…」
「ここに一輪を誘拐してやるわ」
「……うん」




親父、俺の夜食のカップラーメン返してくれ…
放課後ショウタヰム
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コメント



0.350簡易評価
4.90名前が無い程度の能力削除
むらいちもかわいいが、響子もかわいい
5.90奇声を発する程度の能力削除
とても可愛くて良かったです
10.100名前が無い程度の能力削除
聖…w