私の名前は魂魄妖夢。幻想郷一の美少女にして無双の剣客。
幽々子様にお仕えし、幽々子様のために働く。そうして私の一生は終わってゆくはずだった。
――今朝までは。
朝、起きるとマッチョになっていた。
姿見に映った自分は、ナントカ神拳伝承者もかくやという筋肉でもって、羽織った寝巻を破いてしまっている。
しばらく口がパクパク動いた後、
「いやあああああああああ!!!」
やっと喉が言うことを聞いてくれた。
私の悲鳴が聞こえたのか、幽々子様の気配が近づいてくる。
そうだ幽々子様、我が主にして深遠なる知の持ち主ならば、この異常事態を解決してくれるかも知れない。
「妖夢!」
「幽々子様!」
「ぷっ……あははははははは!!!」
ところが返ってきたのは、世にも薄情な笑い声だった。
いや何つーか……この状況で笑うか、普通?
主でなければぶった斬っているところだ。
「幽々子様、これはどういうことですか?」
「いやね、紫が『外の世界ではショタマッチョが流行なのよ~』って言うから『じゃあ妖夢もマッチョだったら面白いわね~』って話してたのよ」
吐く息が、かすかに酒くさい。
つか朝っぱらから酒飲んで人を陥れる話をしていたのか、この主は!
「も・と・に・も・ど・せ!」
「いやいや妖夢、私は亡霊だから首を絞めても意味は無いわよ。無いはず、おかしい苦しくなってきた、助けて妖夢」
「元に戻せと言っとるんじゃー!」
私が堪忍袋を破裂させると、主はあらあらと笑った。
「紫に頼めば元に戻るだろうけど――いいの、妖夢?」
「何がです?」
「今なら間違いなく幻想郷一のバストの持ち主よ」
「胸筋をバストに含むな!」
私は袖車絞で主の意識を刈り取ると、八雲紫を探して旅に出た。
途中、大勢の人に指さして笑われた。
「けーね、あの上半身盛り上がった妖怪は何だ?」
「しっ、妹紅、見ちゃいけません!」
「なにこれ筋肉が歩いてくる! 魔理沙、これ異変かな!?」
「異変だろうけど私は関わりたくないぜ」
「あややややや、これは明日の朝刊一面確定ですね!」
「撮るんじゃねええええええ!!」
「妖夢さん……」
私がクソ天狗に向かって刀を振りまわしていると、咲夜さんがポンと肩に手を置いた。
「妖夢さん、さぞお辛かったんでしょうね」
「咲夜さん……わかってくれますか!?」
「わかりますとも! バストサイズアップのために、最後の手段として筋トレを何度考えたことか!」
……プッツゥーン!
「死ねよやー!」
「きゃあああああああ!!」
それからの事はよく覚えていない。
全力で暴れ回り、その過程で何人(匹?)かの悲鳴が聞こえたことは覚えている。
「――む、ようむさん! 妖夢さん!」
「はっ!?」
慌てて起きあがると、目の前には映姫がいた。
おかしい。私は先ほどまで人里に居たはず……
「意識が戻りましたか、魂魄妖夢。貴女の肉体は今、人里で暴れ回り、異変の一種として紅白巫女にケチョンケチョンにされ尻に巫女棒を突っ込まれて転がっています」
「酷いことをサラリと言いますね」
唇を噛み過ぎて、血がつぅ、とおとがいを滑り落ちるのを感じた。
霊魂だけになっても血は出るものだと初めて知った。
「重たいリアクションをしますね、妖夢」
「そりゃあ朝からあんな目に遭って、理不尽に閻魔様の前に呼ばれれば、唇も噛み切りますよ」
「落ちつきなさい妖夢、貴女は少し短慮にすぎる。貴女の肉体について話があります」
映姫はこほんと咳払いして、手にした棒をビシッと突き付けた。
「貴女がマッチョになったのは、八雲紫が肉体の境界をいじったせいです。だからそれを無効化できれば満足する、そうですね?」
「……ええ、まあ」
「ならば私の『白黒つける程度の能力』で、貴女の肉体を元通りにしてあげましょう」
「本当ですか!?」
「アイエエエエエエエ!?」
私は映姫――いや、映姫様にすがりついた。
地獄に仏とはこのことだと思った。ああ、できるなら今のボケ主を捨てて、この人の部下に転職したい。
「い、痛い痛い痛い! その筋力で抱きつかないでください! 実際死ぬ」
「はっ!」
いけない、私としたことが、救いの神を絞め殺してしまうところだった。
映姫様はゲホゲホとせき込んだ後、私を正面から見て言った。
「それでは魂魄妖夢よ、あるべき姿にて現世に戻りなさい。寿命尽きるまでここに来てはいけませんよ」
「はいっ、ありがとうございます!」
そして私の意識はブラックアウトした。
――目を開けると人里の真ん中だった。
私は上半身の服が破けた状態で、元通りの乙女の姿に戻っていた。
「痴女だあああああああ!!」
「なんだと見せろおおおおおお!!」
「イヤーッ!」
「アバーッ!?」
叫び声を聞いて、駆けつけてきた変態どもを蹴り倒して、私は白玉楼に帰還した。
「ぜぇ、はぁ……幽々子様、ただいまですコンチクショウ!」
今日一日で、どれだけ多くのモノを失っただろう。
人間としての尊厳が――元から半分しか持ってないけれど――ごっそり奪われたことにうんざりしながら、私は幽々子様の部屋のフスマを開いた。
「あー、よーむ! おかえりなちゃーい!」
「よーむおねーたん、こんにちはー!」
「……は?」
私を出迎えたのは幼稚園児姿の幽々子様と八雲紫だった。
察するに、紫に年齢の境界をいじくらせて、幼稚園ごっこをしているようだった。
「よーむも、おままごとしよー!」
「はい、そこすわってー」
「……」
目の前に小さなちゃぶ台が置かれる。
私はそれを呆然と凝視した後、容赦なくひっくり返した。
「ウラーッ!」
「きゃーっ!?」
「やってられん! やってられん、しばらくお暇をいただきます!」
私は幽々子様の財布から2万ばかり抜き取りつつ、白玉楼を後にした。
このくらい慰謝料代わりにもらってもいいだろう。
しかし2万では少々心もとない。
これからどうしよう――そう思って歩いていると、威勢の良い呼び声が聞こえてきた。
『等価交換! 等価交換だよ! 外の世界の危険な遊びだよ! そこの美少女さん、寄ってかない?』
「え……私?」
私は河童に手招きされるまま、ふらふらとネオン輝く看板のもとへと吸い込まれていった。
「というわけで、私がパチンコ中毒になったのは、幽々子様のせいなんです!」
「いや、アンタの話ちっとも心当たりが無いんだけど……私、アンタを退治したりしてないし」
目の前には半眼の巫女がいる。
今日も楽しくパチンコを打ち、帰ってきたらコイツが「幽々子にアンタのパチンコ通いを止めさせてくれって頼まれた」と待っていた。
なのでパチンコにハマった経緯を簡単にしゃべったのだが、理解してもらえなかっただろうか?
「妖夢……なにかご飯を……もう食費をパチンコに充てるのは止めてちょうだい」
「ゆ、幽々子様! ご飯なら一昨日食べたでしょう? ささ、部屋に戻りましょうね~」
「逃がさないわよ」
ガシッと私の手を巫女がつかんだ。
「アンタを更生させれば、手料理作らせ放題って約束してるんだからね。是が非でもパチンコを止めてもらうわ」
「そうまで言うなら――弾幕勝負よ!」
「結構!」
その後、私は紅白巫女にケチョンケチョンにされ、尻に巫女棒を突っ込まれたまま地面に突っ伏すという屈辱的な敗北を喫した。
了
幽々子様にお仕えし、幽々子様のために働く。そうして私の一生は終わってゆくはずだった。
――今朝までは。
朝、起きるとマッチョになっていた。
姿見に映った自分は、ナントカ神拳伝承者もかくやという筋肉でもって、羽織った寝巻を破いてしまっている。
しばらく口がパクパク動いた後、
「いやあああああああああ!!!」
やっと喉が言うことを聞いてくれた。
私の悲鳴が聞こえたのか、幽々子様の気配が近づいてくる。
そうだ幽々子様、我が主にして深遠なる知の持ち主ならば、この異常事態を解決してくれるかも知れない。
「妖夢!」
「幽々子様!」
「ぷっ……あははははははは!!!」
ところが返ってきたのは、世にも薄情な笑い声だった。
いや何つーか……この状況で笑うか、普通?
主でなければぶった斬っているところだ。
「幽々子様、これはどういうことですか?」
「いやね、紫が『外の世界ではショタマッチョが流行なのよ~』って言うから『じゃあ妖夢もマッチョだったら面白いわね~』って話してたのよ」
吐く息が、かすかに酒くさい。
つか朝っぱらから酒飲んで人を陥れる話をしていたのか、この主は!
「も・と・に・も・ど・せ!」
「いやいや妖夢、私は亡霊だから首を絞めても意味は無いわよ。無いはず、おかしい苦しくなってきた、助けて妖夢」
「元に戻せと言っとるんじゃー!」
私が堪忍袋を破裂させると、主はあらあらと笑った。
「紫に頼めば元に戻るだろうけど――いいの、妖夢?」
「何がです?」
「今なら間違いなく幻想郷一のバストの持ち主よ」
「胸筋をバストに含むな!」
私は袖車絞で主の意識を刈り取ると、八雲紫を探して旅に出た。
途中、大勢の人に指さして笑われた。
「けーね、あの上半身盛り上がった妖怪は何だ?」
「しっ、妹紅、見ちゃいけません!」
「なにこれ筋肉が歩いてくる! 魔理沙、これ異変かな!?」
「異変だろうけど私は関わりたくないぜ」
「あややややや、これは明日の朝刊一面確定ですね!」
「撮るんじゃねええええええ!!」
「妖夢さん……」
私がクソ天狗に向かって刀を振りまわしていると、咲夜さんがポンと肩に手を置いた。
「妖夢さん、さぞお辛かったんでしょうね」
「咲夜さん……わかってくれますか!?」
「わかりますとも! バストサイズアップのために、最後の手段として筋トレを何度考えたことか!」
……プッツゥーン!
「死ねよやー!」
「きゃあああああああ!!」
それからの事はよく覚えていない。
全力で暴れ回り、その過程で何人(匹?)かの悲鳴が聞こえたことは覚えている。
「――む、ようむさん! 妖夢さん!」
「はっ!?」
慌てて起きあがると、目の前には映姫がいた。
おかしい。私は先ほどまで人里に居たはず……
「意識が戻りましたか、魂魄妖夢。貴女の肉体は今、人里で暴れ回り、異変の一種として紅白巫女にケチョンケチョンにされ尻に巫女棒を突っ込まれて転がっています」
「酷いことをサラリと言いますね」
唇を噛み過ぎて、血がつぅ、とおとがいを滑り落ちるのを感じた。
霊魂だけになっても血は出るものだと初めて知った。
「重たいリアクションをしますね、妖夢」
「そりゃあ朝からあんな目に遭って、理不尽に閻魔様の前に呼ばれれば、唇も噛み切りますよ」
「落ちつきなさい妖夢、貴女は少し短慮にすぎる。貴女の肉体について話があります」
映姫はこほんと咳払いして、手にした棒をビシッと突き付けた。
「貴女がマッチョになったのは、八雲紫が肉体の境界をいじったせいです。だからそれを無効化できれば満足する、そうですね?」
「……ええ、まあ」
「ならば私の『白黒つける程度の能力』で、貴女の肉体を元通りにしてあげましょう」
「本当ですか!?」
「アイエエエエエエエ!?」
私は映姫――いや、映姫様にすがりついた。
地獄に仏とはこのことだと思った。ああ、できるなら今のボケ主を捨てて、この人の部下に転職したい。
「い、痛い痛い痛い! その筋力で抱きつかないでください! 実際死ぬ」
「はっ!」
いけない、私としたことが、救いの神を絞め殺してしまうところだった。
映姫様はゲホゲホとせき込んだ後、私を正面から見て言った。
「それでは魂魄妖夢よ、あるべき姿にて現世に戻りなさい。寿命尽きるまでここに来てはいけませんよ」
「はいっ、ありがとうございます!」
そして私の意識はブラックアウトした。
――目を開けると人里の真ん中だった。
私は上半身の服が破けた状態で、元通りの乙女の姿に戻っていた。
「痴女だあああああああ!!」
「なんだと見せろおおおおおお!!」
「イヤーッ!」
「アバーッ!?」
叫び声を聞いて、駆けつけてきた変態どもを蹴り倒して、私は白玉楼に帰還した。
「ぜぇ、はぁ……幽々子様、ただいまですコンチクショウ!」
今日一日で、どれだけ多くのモノを失っただろう。
人間としての尊厳が――元から半分しか持ってないけれど――ごっそり奪われたことにうんざりしながら、私は幽々子様の部屋のフスマを開いた。
「あー、よーむ! おかえりなちゃーい!」
「よーむおねーたん、こんにちはー!」
「……は?」
私を出迎えたのは幼稚園児姿の幽々子様と八雲紫だった。
察するに、紫に年齢の境界をいじくらせて、幼稚園ごっこをしているようだった。
「よーむも、おままごとしよー!」
「はい、そこすわってー」
「……」
目の前に小さなちゃぶ台が置かれる。
私はそれを呆然と凝視した後、容赦なくひっくり返した。
「ウラーッ!」
「きゃーっ!?」
「やってられん! やってられん、しばらくお暇をいただきます!」
私は幽々子様の財布から2万ばかり抜き取りつつ、白玉楼を後にした。
このくらい慰謝料代わりにもらってもいいだろう。
しかし2万では少々心もとない。
これからどうしよう――そう思って歩いていると、威勢の良い呼び声が聞こえてきた。
『等価交換! 等価交換だよ! 外の世界の危険な遊びだよ! そこの美少女さん、寄ってかない?』
「え……私?」
私は河童に手招きされるまま、ふらふらとネオン輝く看板のもとへと吸い込まれていった。
「というわけで、私がパチンコ中毒になったのは、幽々子様のせいなんです!」
「いや、アンタの話ちっとも心当たりが無いんだけど……私、アンタを退治したりしてないし」
目の前には半眼の巫女がいる。
今日も楽しくパチンコを打ち、帰ってきたらコイツが「幽々子にアンタのパチンコ通いを止めさせてくれって頼まれた」と待っていた。
なのでパチンコにハマった経緯を簡単にしゃべったのだが、理解してもらえなかっただろうか?
「妖夢……なにかご飯を……もう食費をパチンコに充てるのは止めてちょうだい」
「ゆ、幽々子様! ご飯なら一昨日食べたでしょう? ささ、部屋に戻りましょうね~」
「逃がさないわよ」
ガシッと私の手を巫女がつかんだ。
「アンタを更生させれば、手料理作らせ放題って約束してるんだからね。是が非でもパチンコを止めてもらうわ」
「そうまで言うなら――弾幕勝負よ!」
「結構!」
その後、私は紅白巫女にケチョンケチョンにされ、尻に巫女棒を突っ込まれたまま地面に突っ伏すという屈辱的な敗北を喫した。
了
別に妖夢じゃなくても良いしマッチョ以外の何かになっても成立すると思う
パチンカスも唐突過ぎるし落ちも適当
『取り合えずキャラを貶めればいい』みたいな考えはどうかと思う
絵の練習をお勧めします。