1
始めに言っておきますがこれは私の日常の中で起きた非日常の一つであって、別段大きな事件というわけでも無い、とんとん拍子に解決してしまう事件であり、これを読んでいる皆さんにとっては毛ほども興味のわかない話であることもありうることを、先に言っておかないといけないでしょう。語り口も私という無知で矮小な存在であり、その先入観と知識の無さからくる表現の稚拙さには目をお瞑りいただきたいと思います。
あ、さっきの表現からもうすでに馬鹿っぽいって?これでも頑張ってるんですよ?そもそも頑張ってるだとかちゃんとやってるってのはあくまで本人の主張であって、他人から与えられる、称号的なものでは無いのです。言うならば自己満足の象徴、結晶でしかないのです。自分はこれだけ頑張ったのだぞ―と主張しても主観であって客観にはどうしてもなりえないのです。主張の正しさを保証できるのも自分だけなのです。かと言って、客観として他人さんにお前はよく頑張った―なんて言われたとしてもそれを保証するのはその言葉を発した人の主観でしかないのも確かです。自分以外の主観を集めると自分の客観となるなんて言うのは、一見矛盾しているようにも見えます。でもきっとそれは即ち、当事者には自分の起こしたことを評価する権利は与えられていない、ということなのでしょう。というわけで前置きが長くなりました私がいくら頑張っていると主張しても誰かさん達が私を客観的に私に頑張っているなんて評価を下すとは限らない、ということです。超遠回りしましたがストレートに最短距離を突っ走ると、過度の期待はしないでくださいね☆といった感じです。あ、そろそろ本編です。
2
私、こと小悪魔の朝は早い方です。さりげなくこの文章の視点を紹介してたりします。
館の中では咲夜さんに次ぐ早さで起きている自信があります。まあ基本夜型のお嬢様方と朝から居眠りの美鈴さんがいつ起床してらっしゃるのかはもちろん考慮の外ですが。
日光の入らない、地下の部屋での起床というものは多少味気なさもありますが、朝は朝なので今日もいつも通りの起床―あとはいつも通り顔を洗い、服を寝巻から着替えて仕事の準備をします。準備が終わったらそのまま出勤、とはいかず食堂で朝食をとるために上階に行きます。
「太陽さん今日もお勤めご苦労様です」
毎日地上に恵みの光を注いでくださる(お嬢様曰く嫌がらせ)太陽さんに敬礼しつつ今日も食堂へ向かいます。
「咲夜さんおはようございます」
「おはよう小悪魔」
食堂に入ると席からでも中をうかがえるオープンな厨房で朝ご飯を作りながら昼と夕の準備をする咲夜さんがいつも通りせわしく動いていました。せわしいというのは事実、キッチンを見ていると毎秒咲夜さんが違うところにいるのです。せわしいというより、子供の書いたパラパラ漫画を見ているみたいです。そんなことも日常茶飯事なので席に着くと、やはり座った瞬間に咲夜さんは私の後ろに来ていて、朝食の乗ったお皿を私の前に置くのでした。
「…咲夜さん、」
「何かしら?」
「しれっとしてますけど前にも、というか毎日言ってますが音も無しに背後に立つのやめて頂けません?」
「そういう時は小悪魔、『俺の背後に立つな』って振り返って私を殴ればばいいのよ。そうすれば咲夜ちゃんもびっくりして二度とそんなことしないわ」
うわ、この人自分で『咲夜ちゃん』って言った…訂正、痛っ
「そもそも私にそんな暗殺者みたいな感覚はありません」
「それは残念ね。これからも私はあなたの背後に立ち続けることでしょう」
「さりげなく怖いこと言わないでくださいよ」
「ふふふ、これからも背後に私がいるかもしれない恐怖に震えながら過ごすがいいわ」
完全に言ってることが悪役ですこの人。…あ、よく考えたら吸血鬼のメイドなんだから悪役でも普通か
「なんか今結構心外なことを言われた気がするわ」
「気のせいですよ」
素知らぬ顔で答えます
「気のせいでも流石に吸血鬼のメイドだから悪役ってのは安直過ぎだと思うわ」
「私の心情表現まで読み取らないでください!読者ですか咲夜さんは」
「あら小悪魔、ドクシャって何かしら、ぜひご教授願いたいわ」
こいつ…知らないふりしやがってます。まあメタ発言もこのくらいにしておきましょう。
「その話はまた今度時間があるときにゆっくりお話ししましょう。早くしないと―」
「私に時間が無いですって?あなたは私にどういう意―」
「はいはいわかりました。咲夜さんには時間があっても私には時間がありませんし、折角用意していただいた朝食が冷めてしまいます」
そう、私はこの後毎朝低血圧気味である私のご主人様にコーヒーをお出しするという義務があるのです
「それもそうね。今日の所はあきらめてあげるわ」
「それは助かります」
できれば今日を境に無駄な種無し手品は永遠にやめて頂きたいものですが
「それでは改めて、いただきます」
「どうぞお召し上がりください」
咲夜さんはそう言った瞬間、キッチンに戻っていました
食堂に入っていただきますを言うまでに900字ほど浪費した気がしますがそんなことは気にしません。
―少女食事中―
いきなり食事中に入って申し訳ありません。というより私の場合、少女食事中よりも悪魔食事中の方がいいのでしょうか?悪魔食事中だとなんだか闇の儀式みたいですよね。
しかし、私の食事がそこまで悪魔的かというとそうではなくただの洋風ブレックファストです。今日のメニューはクロワッサン二つにサラダ、オムレツ。唯一悪魔的なのはこの紅い飲み物くらいでしょうか。紅い飲み物と言ってもトマトジュースなのですが。
「ご馳走様でした~」
そういうとやはり言い終わる前には朝ご飯の乗っていたお皿も、トマトジュースの入っていたコップも目の前からなくなっているのでした。
「お粗末様でしたー」
今度は厨房から声が聞こえてきます。流石に一日に二度も人の背後をとるのが憚られたのでしょうか?ただ単に忙しくなり始める時間帯、ということもあるのでしょうが。数分後にやってくる大量の妖精メイドのために食堂の机の上には私と同じメニュー(飲み物だけは冷水、トマトジュースは私だけ←ここ重要)が展示品のようにきれいに並べてあります。私が席を立つと同時に次にその席に座る妖精のための朝ご飯が置かれているほどの徹底ぶり。咲夜さんにはいつも頭が下がります。嫌がらせじみたあれさえなければここで私は延々と咲夜さんに対する感謝の気持ちを述べていたでしょうが、今日は朝食だけでかなり尺をとったこともありそれはまた後日になりそうです。
朝食を終えると私はパチュリー様に出すコーヒーを淹れるために、地下のキッチンへと、足を運ぶのでした
そう、ここまではほんのいつも通り、太陽がお嬢様に嫌がらせをするのと同じ(?)ように進んでいったのです、というのは御幣を招くかもしれません。そう、問題はこの先、というよりコーヒーをパチュリー様に持っていった時にすでに起きていたのですから。有り体にいうと、ここまではほんのエピローグなのです。
3
「小悪魔、今日はコーヒー要らないわ」
私がパチュリー様の私室兼寝室に入った時のパチュリー様の第一声がこれです。
「どうしたんですか?パチュリー様?」
毎朝低血圧で寝起きが悪いパチュリー様が進んでコーヒーを辞退するなんて何か重大な事件が起きたに違いありません。といいつつもベッドのパチュリー様の顔を見て理由はともかく原因だけはわかりました。
顔が、蒼かったのです。それも壮絶に。その蒼さを例えるなら空の色のよう、とでも形容しましょう。
「なんでもないわ。気にしなくてもいいのよ小悪魔」
「どこの世界にそんな蒼い顔で心配するなって言う人がいるんですか?!」
「少なくとも今この世界のあなたの目の前に一人は存在するわ」
どやぁ、と効果音がでそうな顔をされました。真っ蒼な顔で
「そんな威張って言うことじゃありませんって。去勢を張れるだけの元気があることはわかりましたから」
「それならあなたはいつもの図書整理の方に…ごふっ」
「パ、パチュリー様ぁぁぁー」
「私のことはいいから、あなたは…早く図書館へ」
「パチュリー様の犠牲は忘れませんっ!」
「あとは…任せた…がくっ」
……
「茶番はやめにしません?」
「ええ、そうね」
というかこのまま続けるとパチュリー様が振ってきたのに当事者であるパチュリー様が台詞通りに死亡してしまいそうでした
「で、何をお食べになられたんですか?」
「なんで食べたこと前提なのよ」
「その顔の蒼さは食中毒由来と見ましたので。どうせパチュリー様のことですから自作のお菓子が失敗作なのに意地を張って食べたりでもしたんでしょう」
「鋭いわね、小悪魔。でも今日の私はいつもとは違うのよ」
どやぁ、また効果音の出そうな顔。しかし、ということはいつもはそんな事情で時々蒼ざめた顔をしてたんですね…それは今度聞くとして
「じゃあ今日は一体何が原因で朝の私の愛情たっぷりのコーヒーを辞退するほど体調を崩したんですか?」
今でも私のもつトレイには飲まれるのを今か今かと待っているコーヒーが湯気を立てているのです。
「今日の私の不調の原因それは…」
「それは?」
ご主人の会話中の無駄なタメに付き合うのも従者の務めです
「コレラよ!!」
…は?ナニイッテラッシャルノカナワタシノゴシュジンサマ
「聞こえなかったの?私はコレラよ」
「コ、コレラって、私この部屋の空気結構吸いましたよね?」
「そうね」
そうねって…
「感染ったらどうするんですか――!!これじゃあ図書館の住人全滅じゃないですか――!!」
二人しかいませんが
「その心配はないわ、小悪魔」
ここでも冷静なパチュリー様。顔も頭もクールです
「今現在進行形で顔が真っ蒼な人に言われたくありません!!」
「落ち着きなさい、コレラは空気感染する病気じゃないわ」
「あ、そうでした」
ホッと一息。私としたことが
「しかも私は正確に言うとコレラじゃなくてコレラ擬きよ」
「?、どういうことですか?」
「つまり、というか今回の件はほら、あれ、魔理沙がよく本を持っていくことへの対策としてね、警備用の式神?みたいなものでも作ろうとしたのよ」
「ちょっと買い物言ってくるみたいなノリでそういうことしないでくださいよ」
「まあいいじゃない、それで春でも雪が降っていたらしい異変の後から亡霊が多くなったそうだしそれを捕まえてに肉付けして使役してみようかと」
「そこでわざわざ私みたいなのを呼び出さなかったことだけは褒めておきましょう」
「それで咲夜に亡霊を一匹捕まえてきてもらって」
「それをベースにして式神(?)を作ったと」
「そういうことね。肉付けの参考にしたのは虎狼狸っていう妖怪ね」
「それで、失敗したと」
「失敗じゃないわ、途中まではうまくいってたのよ!」
「でも最終的にパチュリー様はお腹痛くて死にそうな人みたいになってますよね?」
間
「すいません、失敗しました」
「それで、どうしてそんなことになったんです?」
「最後の調整段階である程度自立して動けるように自動で動く時用の行動パターンを書き込むときに図書館に侵入した人に軽いコレラみたいな霊障をかける、にしたつもりが図書館にいる人に霊障をかけるにしちゃったみたいで」
てへぺろ
蒼い顔でそうやられるとホラーですよ
「とりあえず、存在できる範囲は私からの魔力供給が行き届く図書館内だから、見つけ次第どうにかして頂戴」
「さらっといいますけどいつのまにか私がやる(殺る)ことになってません?」
「ギクッ」
「今時ギクッなんてほんとに言う人なんていませんよ。しかもそういう荒事はスペルの一枚も持ってない私じゃなくて咲夜さんの方が適任じゃないですか?」
「だからさっき言ったでしょう、中に入った人に霊障をかけるって。咲夜がお腹壊して吐きながら図書館をさまよう姿をあなたは見たいっていうの?!」
「そういわれればそうですね。じゃあなんで私は大丈夫なんですか?さっきも私ここ通りましたよ?」
「…それは、あなたがいくら弱いと言っても悪魔だからよ」
4
絶対にフリっぽいところで切りましたねパチュリー様
何はともあれ現在私は虎狼狸型の式神さん、長いですね、虎狼狸さんにしましょう。えへん、虎狼狸さんを探して図書館を探索中なのです。口径3mmの大型タンク付き空気圧縮水鉄砲を携えて
一応まだ空気読んで虎狼狸さんは出てこられないみたいなのでさっきの続きを回想verで済ませておきます
―元々あれは亡霊だからそれより高位の存在には自分から喧嘩を売るようなまねはしないわ。だからまがいなりにも一応、かなり、とても、ものすごく弱いとはいえ悪魔のあなたには向こうから仕掛けては来ないはずだし防御用の呪文もかけてあげるわ。あれ、なんで泣きそうなの小悪魔?まあいいわ。いつも私が実験に使ってる部屋に水鉄砲があるからそれを持っていきなさい。水をかけたら式が剥げて元の亡霊に戻るはずよ。三回くらい致命傷与えれば大人しくなるはずだから―
防護呪文を二、三言とつぶやき終わると同時にパチュリー様はベッドに倒れました。今まで吐かず、更にトイレに駆け込むことも無いのは普段食事をとってないから出るものが無いからだそうで。こういう時魔法使いって便利ですね。
回想終了
パチュリー様曰く、虎狼狸さんは名前通り狸みたいな姿をしているそうなのでみればわかるとのこと。動きもさほど早くないそうなのでその水鉄砲なら当てるのは簡単、だそうです。試しに実験室で撃ってみましたが銃身の下にある棒を出し入れすることでかなり威力がでるみたいです。
シュコシュコシュコ
これで準備万端。
さあ、でてきなさい虎狼狸さん―
―――
そこではーいと出てきていただけたら良かったのですが世の中はそこまで甘くは無かったようです。探しましたとも。ざっと2時間。図書館から出れないから見つかる―って思ってましたがこの図書館も馬鹿にならないほどに広いのです。弾幕勝負ができてしまうほどには
「しかし見つかりませんね~」
いいかげん出てきてくれないとお昼になってしまいます。パチュリー様と違って私はお昼ごふぁ
いました、いました。あれが虎狼狸さんです。
すっとスマートな体にとがった耳、大きく膨らんだ尻尾という私の知っているどの動物にも当てはまらない(強いて言うなら狸似)の生物(?)が本棚の間にいました
幸いまだこちらには気づいていないようなので先手必勝です。
ぴゅー
「ぬわっ」
しゃべった?!まあそんなことよりも
「あちゃちゃ、さすがに空気抜けてましたか」
「何すんだ嬢ちゃん、折角こっちからは襲わないでやってたのに残機が減るところじゃなかったじゃねぇか」
とりあえずそれなりの知能は持ち合わせてるみたいですね。説得を試みます。ついでに空気圧もチャージ。シュコシュコ。
「私はあなたを作った(?)者の使いです。早速ですがあなたを作る時に少しミスがあったみたいなので私の主の所に来ていただけませんか?」
これでついて来れば実験室で水浸しにして息の根を止めて私はお役御免です
「嫌だね」
「何でですか、ちょっとくらいいいじゃありませんか」
「だってお嬢ちゃん俺に向かって水かけようとしたじゃねえか」
「ギクッ」
「おい今ギクッっていっただろ」
「い、いえいえ、それでは交渉は決裂ですか?」
「ああ、そうだな」
「残念です」
「俺はもっと自由を謳k
ブシュー
私は躊躇なく水鉄砲の引き金を引きました。
ぎゃあー」
想像通りの断末魔をどうもありがとうございます。この図書館がいくら広いとはいえ自由を謳歌しようなんて滑稽です。これでお仕事もようやくおわり………ませんでした
「あんたをよこした俺の創造主様は俺についてあまりあんたに教えてくれなかったみたいだな」
虎狼狸さんの体は煙を上げながら大きくなりました。口は大きく裂け、鋭い牙が覗いています。
「俺は侵入者を撃退するためのモノ、創造主様は俺が簡単に倒されないように式が一つ剥げるごとに俺の体が強くなるようにしてくれてたんだよ」
聞いてませんよパチュリー様。
「というわけで嬢ちゃん今度はこっちの番…だ?」
誰が話を最後まで聞くもんですか。虎狼狸さんがそれを言い終わる頃には私は華麗にスタートダッシュを決めていました。もちろん、虎狼狸さんのいる方向とは逆に
5
ぱたぱたぱた
とりあえず逃げます。図書館の外に行けば追ってこれないはずです。どうしてあの獣倒されると魔王みたいに変身するんですか?進化するのはレベルアップの時と相場が決まっているでしょうに。しかもこの靴走りづらいです。
「おい待てこら」
だっだっだっ
虎狼狸さんは四足歩行ゆえの速さで追いかけてきました。足の数が決定的な戦力の差です。図書館の静寂に不似合いな音を立てて迫るそれは私の背中へと迫ってきます
「でも、これなら狙いやすいっ」
水鉄砲をお見舞いしようと振り返るとそこには目標の姿も、足音も無く
「上だっ」
獲物に飛びかかる猫のような格好私にとびかからんとする虎狼狸さんが私の上から緩やかな放物線を描きながら飛びこんできています。
「きゃあっ」
とっさの回避をする間もなかったので私はとっさにしゃがんで頭を押さえました。あれです、お嬢様のマネ、じゃなくてカリスマガードです
「うおっ」
びたーん
虎狼狸さんは私の頭上を通り過ぎてヘッドスライディングを決めてくれました。この音だと腹打ちもしたでしょうご愁傷様。泣き面に蜂になって可哀そうですが今はそんなことを気にかけている暇もありません。
ブシュー
「ふぎゃあ」
情けない声を上げて虎狼狸さんが前と同じように吹き飛びました。
その見た目になってもやっぱり水には弱いんですね。人は見かけによらないということを改めて実感します。ってそんなこと考えてる暇もありません。
シュコシュコシュコ
すかさず追撃を試みますが間に合うか微妙です。既に虎狼狸さんは煙を上げながらも立ち上がるそぶりを見せています
シュコシュコっ、空気圧のチャージ完了。いちいちしまらない武器を渡したパチュリー様を恨みたいです。ほらこんなに緊迫した場面なのに危機感が一つも伝わりませんよこの武器!
「これで終わりです!」
改めて水鉄砲を構えて引き金に指をかけます。この後こんな荒事が終わっていつもの本を整理するだけの仕事に戻れると思うと、心なしかこの水鉄砲も軽いです。って軽い?
「えっ?」
ぷしゅう
ナンデ水ガデナイノデスカ?
それはね、タンクの水が切れてたからさ
水鉄砲の先からは圧縮された空気が水しぶきを伴って排出され、私の空気圧チャージの努力も虚しく、貯水タンクはすでにすっからかん。
「ええええええーーーー」
そんなあ、神様、これは酷いです。あ、神様は悪魔の敵でした。失敬失敬。
「ぷっ」
虎狼狸さんに鼻で笑われました。しかしこれはピンチです。冷静っぽいですがこれは冷静なのではなくて諦めからくる特殊な状態で、一種の悟りの様なものにさえ思えてきます。
虎狼狸さんは悠々と私を飛び越えて図書館の出入り口と私の間に立ちます。
「これで逃げれもしないなぁ、嬢ちゃん」
口からてらてらと光る牙が見え隠れします。あれでパチュリー様の防護術をはがして私をあの真っ蒼フェイスにする霊障をかけてくるのでしょうか。それとも物理的に私をばらばらに…
すいませんパチュリー様、私小悪魔はどう転んでも色々NGな状態にならざるを得ないみたいです。水切れのショックとこれからの未来の残酷さが私をその場にへたり込ませます。
「さて、そろそろ終わりの時間だぜ」
そう言えば飛んで距離とればよかったとか、今更なアイデアも湧いてきましたが虎狼狸さんは私に後悔させる尺もくれないみたいです。断頭台のきしむ音の様な足音は容赦なく私に近づいてきます。
バタン
「パチェ―、居るんでしょー」
唐突に図書館のドアが開きました。近づいてきていたのはどうやら狼型式神だけではなかったようです。そこには神々しい後光のような光を背中に受けた悪魔が立っていました。右手に何か持っていらっしゃいます。
「お嬢様っ!」
虎狼狸さんが状況を呑み込めないうちに呼びかけます。
「どうしたのー小悪魔―!あとこのその犬なーにー?!」
「そいつのせいで今パチュリー様は寝込んでるんですっ!」
それを聞いた途端、お嬢様の顔が少し険しくなりました。
「おい、そこの犬っころ!そこの低級悪魔から離れろ!」
なんか私の言われようが酷いです。
「うるせえガキ、俺はこれからこの嬢ちゃんに始末つけんだよ」
場の空気が凍りました。虎狼狸さん、今のセリフは地雷ですよ…
「おい、今私をガキと言ったか?」
「ああん?うるせぇな、ガキは黙ってろ」
「ほう、やはり私をガキと言ったか」
お嬢様のまとうオーラ(?)的なものが一気に濃くなり、私まで息苦しくなりました。
そしてすさまじい速度で距離を詰め、虎狼狸さんの横っ腹に鋭いけりを一発。
「ぐぉっっっ」
虎狼狸さんはまっすぐ本棚に突っ込みます。しかし流石弾幕勝負にも耐えれる図書館、本棚に損傷はありません。がしかし、本は洪水のように虎狼狸さんの上に落下しました。
「これで一件落着?」
お嬢様が首をかしげながら聞いてきます。仕草と腕力のギャップが凄まじいです。ついでに手に持っていたのは「名作クイズ100選(回答別冊)」という本だと確認できました。場違い感が凄いです。
「ねえ、もう終わったんでしょう?」
「…そうだといいんですが」
するとまた唐突に、バーンと本が飛び散りました。この後片付けは誰がやるんでしょうか?
本の飛び散った爆心地には青白い虎がいました。虎狼狸って名前から予想はできましたが。そのまますぎですよパチュリー様。
「お゛お゛い゛、随分とコケにしてくれたじゃねえか!」
どっかの魔王もおじいさんから筋肉ダルマに、最後には顔と手だけに倒されるごとに変身しますが虎狼狸さんも魔王なのでしょうか?最初の情けない狸似の姿から想像もできない巨大な虎がそこにはいました。
しかしお嬢様にとってその変化は些細な事だったようです
「ちっ、まだ生きてたのか犬っころ」
そう吐き捨てました
「はっ、強がりやがって!今から八つ裂きにしてやる」
虎狼狸さんがこちらに走ってきます。自分の放つ霊障を纏いながらお嬢様を切り裂かんと向かって来ます。しかしさっきのお嬢様のスピードには到底及びません。
お嬢様はクイズ本を持っていない左手を虎狼狸さんに向けました。
「恨むなら今日ここで私に出会うという”運命”を恨むんだな」
―運命―ミゼラブルフェイト
楔の様な先っぽを持った紅い鎖が虎狼狸さんに向けて殺到しました。
「がっ」
紅い鎖はその先端を体の様々な部分に付き刺さり、がんじがらめにして虎狼狸さんを締めつけました。それでも進むのを止めずにお嬢様に突っ込んでゆく姿は痛々しくも見事です。勢いは殺されていましたが鎖の呪縛に抗いながらこちらに進んできます
「…手間を取らせるな」
お嬢様がつぶやきました
「お嬢様、何か?」
「手間を取らせるなっ!私はさっさとパチェにこの難問の答えを教えてもらうんだっ!」
真っ赤な目を見開いて、本を手ばなして右手も虎狼狸さんに向けます。本は足元に落ち、金属製のしおりの挟んであったページが開きました。
ゴバァ
お嬢様が右手も向けると、虎狼狸さんに絡んでいた鎖が巨大化し、虎狼狸さんは真っ赤な繭の様な姿に。
「ぎゃ…う…」
本当にこれが最後の断末魔のようでした。鎖は締めつける対象を失い絡み合って消えました。
「で、パチェはどこにいるのかしら?」
何もなかったかのように本を拾い上げて、お嬢様は思案顔になりながら再び訪ねます。
「まだ寝室にいらっしゃられると思いますよ。ご案内します」
「そう、なら早く立って案内なさい」
言われて気づきましたが、ずっと私はへたり込んだままだったようです。
6
「パチェ、答えは”お風呂”ね!」
「正解よレミィ」
早速お嬢様は先ほど私が入れ知恵をして得た答えをパチュリー様に披露しました。パチュリー様はすでに復活済みで何事も無かったかのようにふるまっています。ちなみに、しおりの挟んであったページには
難易度☆☆
上は洪水、下は大火事、これな~んだ?
答えは別冊3ページに
と書いてありました。お嬢様は「霊夢が本気でキレた時の幻想郷」とお答えになろうとしていたようで。お嬢様は普段お風呂になんて入りませんしわからないのは当然でした。しかし博麗の巫女がキレるとそんなことになるなんて…
「それより小悪魔、水鉄砲は役に立ったのかしら?」
「ええ、大いに役に立ってくれました」
「それは良かったわ」
皮肉で言ったのに真に受けて喜ばれてしまいました。少し恥ずかしいです。
「それでは、本が散らかってしまったので後始末に行ってきます」
「頼んだわ、小悪魔」
私はそっと寝室を後にして、主人に笑顔が戻っただけでも今回はよしとしましょう、と自分を納得させながら本棚へ向かうのでした。
始めに言っておきますがこれは私の日常の中で起きた非日常の一つであって、別段大きな事件というわけでも無い、とんとん拍子に解決してしまう事件であり、これを読んでいる皆さんにとっては毛ほども興味のわかない話であることもありうることを、先に言っておかないといけないでしょう。語り口も私という無知で矮小な存在であり、その先入観と知識の無さからくる表現の稚拙さには目をお瞑りいただきたいと思います。
あ、さっきの表現からもうすでに馬鹿っぽいって?これでも頑張ってるんですよ?そもそも頑張ってるだとかちゃんとやってるってのはあくまで本人の主張であって、他人から与えられる、称号的なものでは無いのです。言うならば自己満足の象徴、結晶でしかないのです。自分はこれだけ頑張ったのだぞ―と主張しても主観であって客観にはどうしてもなりえないのです。主張の正しさを保証できるのも自分だけなのです。かと言って、客観として他人さんにお前はよく頑張った―なんて言われたとしてもそれを保証するのはその言葉を発した人の主観でしかないのも確かです。自分以外の主観を集めると自分の客観となるなんて言うのは、一見矛盾しているようにも見えます。でもきっとそれは即ち、当事者には自分の起こしたことを評価する権利は与えられていない、ということなのでしょう。というわけで前置きが長くなりました私がいくら頑張っていると主張しても誰かさん達が私を客観的に私に頑張っているなんて評価を下すとは限らない、ということです。超遠回りしましたがストレートに最短距離を突っ走ると、過度の期待はしないでくださいね☆といった感じです。あ、そろそろ本編です。
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私、こと小悪魔の朝は早い方です。さりげなくこの文章の視点を紹介してたりします。
館の中では咲夜さんに次ぐ早さで起きている自信があります。まあ基本夜型のお嬢様方と朝から居眠りの美鈴さんがいつ起床してらっしゃるのかはもちろん考慮の外ですが。
日光の入らない、地下の部屋での起床というものは多少味気なさもありますが、朝は朝なので今日もいつも通りの起床―あとはいつも通り顔を洗い、服を寝巻から着替えて仕事の準備をします。準備が終わったらそのまま出勤、とはいかず食堂で朝食をとるために上階に行きます。
「太陽さん今日もお勤めご苦労様です」
毎日地上に恵みの光を注いでくださる(お嬢様曰く嫌がらせ)太陽さんに敬礼しつつ今日も食堂へ向かいます。
「咲夜さんおはようございます」
「おはよう小悪魔」
食堂に入ると席からでも中をうかがえるオープンな厨房で朝ご飯を作りながら昼と夕の準備をする咲夜さんがいつも通りせわしく動いていました。せわしいというのは事実、キッチンを見ていると毎秒咲夜さんが違うところにいるのです。せわしいというより、子供の書いたパラパラ漫画を見ているみたいです。そんなことも日常茶飯事なので席に着くと、やはり座った瞬間に咲夜さんは私の後ろに来ていて、朝食の乗ったお皿を私の前に置くのでした。
「…咲夜さん、」
「何かしら?」
「しれっとしてますけど前にも、というか毎日言ってますが音も無しに背後に立つのやめて頂けません?」
「そういう時は小悪魔、『俺の背後に立つな』って振り返って私を殴ればばいいのよ。そうすれば咲夜ちゃんもびっくりして二度とそんなことしないわ」
うわ、この人自分で『咲夜ちゃん』って言った…訂正、痛っ
「そもそも私にそんな暗殺者みたいな感覚はありません」
「それは残念ね。これからも私はあなたの背後に立ち続けることでしょう」
「さりげなく怖いこと言わないでくださいよ」
「ふふふ、これからも背後に私がいるかもしれない恐怖に震えながら過ごすがいいわ」
完全に言ってることが悪役ですこの人。…あ、よく考えたら吸血鬼のメイドなんだから悪役でも普通か
「なんか今結構心外なことを言われた気がするわ」
「気のせいですよ」
素知らぬ顔で答えます
「気のせいでも流石に吸血鬼のメイドだから悪役ってのは安直過ぎだと思うわ」
「私の心情表現まで読み取らないでください!読者ですか咲夜さんは」
「あら小悪魔、ドクシャって何かしら、ぜひご教授願いたいわ」
こいつ…知らないふりしやがってます。まあメタ発言もこのくらいにしておきましょう。
「その話はまた今度時間があるときにゆっくりお話ししましょう。早くしないと―」
「私に時間が無いですって?あなたは私にどういう意―」
「はいはいわかりました。咲夜さんには時間があっても私には時間がありませんし、折角用意していただいた朝食が冷めてしまいます」
そう、私はこの後毎朝低血圧気味である私のご主人様にコーヒーをお出しするという義務があるのです
「それもそうね。今日の所はあきらめてあげるわ」
「それは助かります」
できれば今日を境に無駄な種無し手品は永遠にやめて頂きたいものですが
「それでは改めて、いただきます」
「どうぞお召し上がりください」
咲夜さんはそう言った瞬間、キッチンに戻っていました
食堂に入っていただきますを言うまでに900字ほど浪費した気がしますがそんなことは気にしません。
―少女食事中―
いきなり食事中に入って申し訳ありません。というより私の場合、少女食事中よりも悪魔食事中の方がいいのでしょうか?悪魔食事中だとなんだか闇の儀式みたいですよね。
しかし、私の食事がそこまで悪魔的かというとそうではなくただの洋風ブレックファストです。今日のメニューはクロワッサン二つにサラダ、オムレツ。唯一悪魔的なのはこの紅い飲み物くらいでしょうか。紅い飲み物と言ってもトマトジュースなのですが。
「ご馳走様でした~」
そういうとやはり言い終わる前には朝ご飯の乗っていたお皿も、トマトジュースの入っていたコップも目の前からなくなっているのでした。
「お粗末様でしたー」
今度は厨房から声が聞こえてきます。流石に一日に二度も人の背後をとるのが憚られたのでしょうか?ただ単に忙しくなり始める時間帯、ということもあるのでしょうが。数分後にやってくる大量の妖精メイドのために食堂の机の上には私と同じメニュー(飲み物だけは冷水、トマトジュースは私だけ←ここ重要)が展示品のようにきれいに並べてあります。私が席を立つと同時に次にその席に座る妖精のための朝ご飯が置かれているほどの徹底ぶり。咲夜さんにはいつも頭が下がります。嫌がらせじみたあれさえなければここで私は延々と咲夜さんに対する感謝の気持ちを述べていたでしょうが、今日は朝食だけでかなり尺をとったこともありそれはまた後日になりそうです。
朝食を終えると私はパチュリー様に出すコーヒーを淹れるために、地下のキッチンへと、足を運ぶのでした
そう、ここまではほんのいつも通り、太陽がお嬢様に嫌がらせをするのと同じ(?)ように進んでいったのです、というのは御幣を招くかもしれません。そう、問題はこの先、というよりコーヒーをパチュリー様に持っていった時にすでに起きていたのですから。有り体にいうと、ここまではほんのエピローグなのです。
3
「小悪魔、今日はコーヒー要らないわ」
私がパチュリー様の私室兼寝室に入った時のパチュリー様の第一声がこれです。
「どうしたんですか?パチュリー様?」
毎朝低血圧で寝起きが悪いパチュリー様が進んでコーヒーを辞退するなんて何か重大な事件が起きたに違いありません。といいつつもベッドのパチュリー様の顔を見て理由はともかく原因だけはわかりました。
顔が、蒼かったのです。それも壮絶に。その蒼さを例えるなら空の色のよう、とでも形容しましょう。
「なんでもないわ。気にしなくてもいいのよ小悪魔」
「どこの世界にそんな蒼い顔で心配するなって言う人がいるんですか?!」
「少なくとも今この世界のあなたの目の前に一人は存在するわ」
どやぁ、と効果音がでそうな顔をされました。真っ蒼な顔で
「そんな威張って言うことじゃありませんって。去勢を張れるだけの元気があることはわかりましたから」
「それならあなたはいつもの図書整理の方に…ごふっ」
「パ、パチュリー様ぁぁぁー」
「私のことはいいから、あなたは…早く図書館へ」
「パチュリー様の犠牲は忘れませんっ!」
「あとは…任せた…がくっ」
……
「茶番はやめにしません?」
「ええ、そうね」
というかこのまま続けるとパチュリー様が振ってきたのに当事者であるパチュリー様が台詞通りに死亡してしまいそうでした
「で、何をお食べになられたんですか?」
「なんで食べたこと前提なのよ」
「その顔の蒼さは食中毒由来と見ましたので。どうせパチュリー様のことですから自作のお菓子が失敗作なのに意地を張って食べたりでもしたんでしょう」
「鋭いわね、小悪魔。でも今日の私はいつもとは違うのよ」
どやぁ、また効果音の出そうな顔。しかし、ということはいつもはそんな事情で時々蒼ざめた顔をしてたんですね…それは今度聞くとして
「じゃあ今日は一体何が原因で朝の私の愛情たっぷりのコーヒーを辞退するほど体調を崩したんですか?」
今でも私のもつトレイには飲まれるのを今か今かと待っているコーヒーが湯気を立てているのです。
「今日の私の不調の原因それは…」
「それは?」
ご主人の会話中の無駄なタメに付き合うのも従者の務めです
「コレラよ!!」
…は?ナニイッテラッシャルノカナワタシノゴシュジンサマ
「聞こえなかったの?私はコレラよ」
「コ、コレラって、私この部屋の空気結構吸いましたよね?」
「そうね」
そうねって…
「感染ったらどうするんですか――!!これじゃあ図書館の住人全滅じゃないですか――!!」
二人しかいませんが
「その心配はないわ、小悪魔」
ここでも冷静なパチュリー様。顔も頭もクールです
「今現在進行形で顔が真っ蒼な人に言われたくありません!!」
「落ち着きなさい、コレラは空気感染する病気じゃないわ」
「あ、そうでした」
ホッと一息。私としたことが
「しかも私は正確に言うとコレラじゃなくてコレラ擬きよ」
「?、どういうことですか?」
「つまり、というか今回の件はほら、あれ、魔理沙がよく本を持っていくことへの対策としてね、警備用の式神?みたいなものでも作ろうとしたのよ」
「ちょっと買い物言ってくるみたいなノリでそういうことしないでくださいよ」
「まあいいじゃない、それで春でも雪が降っていたらしい異変の後から亡霊が多くなったそうだしそれを捕まえてに肉付けして使役してみようかと」
「そこでわざわざ私みたいなのを呼び出さなかったことだけは褒めておきましょう」
「それで咲夜に亡霊を一匹捕まえてきてもらって」
「それをベースにして式神(?)を作ったと」
「そういうことね。肉付けの参考にしたのは虎狼狸っていう妖怪ね」
「それで、失敗したと」
「失敗じゃないわ、途中まではうまくいってたのよ!」
「でも最終的にパチュリー様はお腹痛くて死にそうな人みたいになってますよね?」
間
「すいません、失敗しました」
「それで、どうしてそんなことになったんです?」
「最後の調整段階である程度自立して動けるように自動で動く時用の行動パターンを書き込むときに図書館に侵入した人に軽いコレラみたいな霊障をかける、にしたつもりが図書館にいる人に霊障をかけるにしちゃったみたいで」
てへぺろ
蒼い顔でそうやられるとホラーですよ
「とりあえず、存在できる範囲は私からの魔力供給が行き届く図書館内だから、見つけ次第どうにかして頂戴」
「さらっといいますけどいつのまにか私がやる(殺る)ことになってません?」
「ギクッ」
「今時ギクッなんてほんとに言う人なんていませんよ。しかもそういう荒事はスペルの一枚も持ってない私じゃなくて咲夜さんの方が適任じゃないですか?」
「だからさっき言ったでしょう、中に入った人に霊障をかけるって。咲夜がお腹壊して吐きながら図書館をさまよう姿をあなたは見たいっていうの?!」
「そういわれればそうですね。じゃあなんで私は大丈夫なんですか?さっきも私ここ通りましたよ?」
「…それは、あなたがいくら弱いと言っても悪魔だからよ」
4
絶対にフリっぽいところで切りましたねパチュリー様
何はともあれ現在私は虎狼狸型の式神さん、長いですね、虎狼狸さんにしましょう。えへん、虎狼狸さんを探して図書館を探索中なのです。口径3mmの大型タンク付き空気圧縮水鉄砲を携えて
一応まだ空気読んで虎狼狸さんは出てこられないみたいなのでさっきの続きを回想verで済ませておきます
―元々あれは亡霊だからそれより高位の存在には自分から喧嘩を売るようなまねはしないわ。だからまがいなりにも一応、かなり、とても、ものすごく弱いとはいえ悪魔のあなたには向こうから仕掛けては来ないはずだし防御用の呪文もかけてあげるわ。あれ、なんで泣きそうなの小悪魔?まあいいわ。いつも私が実験に使ってる部屋に水鉄砲があるからそれを持っていきなさい。水をかけたら式が剥げて元の亡霊に戻るはずよ。三回くらい致命傷与えれば大人しくなるはずだから―
防護呪文を二、三言とつぶやき終わると同時にパチュリー様はベッドに倒れました。今まで吐かず、更にトイレに駆け込むことも無いのは普段食事をとってないから出るものが無いからだそうで。こういう時魔法使いって便利ですね。
回想終了
パチュリー様曰く、虎狼狸さんは名前通り狸みたいな姿をしているそうなのでみればわかるとのこと。動きもさほど早くないそうなのでその水鉄砲なら当てるのは簡単、だそうです。試しに実験室で撃ってみましたが銃身の下にある棒を出し入れすることでかなり威力がでるみたいです。
シュコシュコシュコ
これで準備万端。
さあ、でてきなさい虎狼狸さん―
―――
そこではーいと出てきていただけたら良かったのですが世の中はそこまで甘くは無かったようです。探しましたとも。ざっと2時間。図書館から出れないから見つかる―って思ってましたがこの図書館も馬鹿にならないほどに広いのです。弾幕勝負ができてしまうほどには
「しかし見つかりませんね~」
いいかげん出てきてくれないとお昼になってしまいます。パチュリー様と違って私はお昼ごふぁ
いました、いました。あれが虎狼狸さんです。
すっとスマートな体にとがった耳、大きく膨らんだ尻尾という私の知っているどの動物にも当てはまらない(強いて言うなら狸似)の生物(?)が本棚の間にいました
幸いまだこちらには気づいていないようなので先手必勝です。
ぴゅー
「ぬわっ」
しゃべった?!まあそんなことよりも
「あちゃちゃ、さすがに空気抜けてましたか」
「何すんだ嬢ちゃん、折角こっちからは襲わないでやってたのに残機が減るところじゃなかったじゃねぇか」
とりあえずそれなりの知能は持ち合わせてるみたいですね。説得を試みます。ついでに空気圧もチャージ。シュコシュコ。
「私はあなたを作った(?)者の使いです。早速ですがあなたを作る時に少しミスがあったみたいなので私の主の所に来ていただけませんか?」
これでついて来れば実験室で水浸しにして息の根を止めて私はお役御免です
「嫌だね」
「何でですか、ちょっとくらいいいじゃありませんか」
「だってお嬢ちゃん俺に向かって水かけようとしたじゃねえか」
「ギクッ」
「おい今ギクッっていっただろ」
「い、いえいえ、それでは交渉は決裂ですか?」
「ああ、そうだな」
「残念です」
「俺はもっと自由を謳k
ブシュー
私は躊躇なく水鉄砲の引き金を引きました。
ぎゃあー」
想像通りの断末魔をどうもありがとうございます。この図書館がいくら広いとはいえ自由を謳歌しようなんて滑稽です。これでお仕事もようやくおわり………ませんでした
「あんたをよこした俺の創造主様は俺についてあまりあんたに教えてくれなかったみたいだな」
虎狼狸さんの体は煙を上げながら大きくなりました。口は大きく裂け、鋭い牙が覗いています。
「俺は侵入者を撃退するためのモノ、創造主様は俺が簡単に倒されないように式が一つ剥げるごとに俺の体が強くなるようにしてくれてたんだよ」
聞いてませんよパチュリー様。
「というわけで嬢ちゃん今度はこっちの番…だ?」
誰が話を最後まで聞くもんですか。虎狼狸さんがそれを言い終わる頃には私は華麗にスタートダッシュを決めていました。もちろん、虎狼狸さんのいる方向とは逆に
5
ぱたぱたぱた
とりあえず逃げます。図書館の外に行けば追ってこれないはずです。どうしてあの獣倒されると魔王みたいに変身するんですか?進化するのはレベルアップの時と相場が決まっているでしょうに。しかもこの靴走りづらいです。
「おい待てこら」
だっだっだっ
虎狼狸さんは四足歩行ゆえの速さで追いかけてきました。足の数が決定的な戦力の差です。図書館の静寂に不似合いな音を立てて迫るそれは私の背中へと迫ってきます
「でも、これなら狙いやすいっ」
水鉄砲をお見舞いしようと振り返るとそこには目標の姿も、足音も無く
「上だっ」
獲物に飛びかかる猫のような格好私にとびかからんとする虎狼狸さんが私の上から緩やかな放物線を描きながら飛びこんできています。
「きゃあっ」
とっさの回避をする間もなかったので私はとっさにしゃがんで頭を押さえました。あれです、お嬢様のマネ、じゃなくてカリスマガードです
「うおっ」
びたーん
虎狼狸さんは私の頭上を通り過ぎてヘッドスライディングを決めてくれました。この音だと腹打ちもしたでしょうご愁傷様。泣き面に蜂になって可哀そうですが今はそんなことを気にかけている暇もありません。
ブシュー
「ふぎゃあ」
情けない声を上げて虎狼狸さんが前と同じように吹き飛びました。
その見た目になってもやっぱり水には弱いんですね。人は見かけによらないということを改めて実感します。ってそんなこと考えてる暇もありません。
シュコシュコシュコ
すかさず追撃を試みますが間に合うか微妙です。既に虎狼狸さんは煙を上げながらも立ち上がるそぶりを見せています
シュコシュコっ、空気圧のチャージ完了。いちいちしまらない武器を渡したパチュリー様を恨みたいです。ほらこんなに緊迫した場面なのに危機感が一つも伝わりませんよこの武器!
「これで終わりです!」
改めて水鉄砲を構えて引き金に指をかけます。この後こんな荒事が終わっていつもの本を整理するだけの仕事に戻れると思うと、心なしかこの水鉄砲も軽いです。って軽い?
「えっ?」
ぷしゅう
ナンデ水ガデナイノデスカ?
それはね、タンクの水が切れてたからさ
水鉄砲の先からは圧縮された空気が水しぶきを伴って排出され、私の空気圧チャージの努力も虚しく、貯水タンクはすでにすっからかん。
「ええええええーーーー」
そんなあ、神様、これは酷いです。あ、神様は悪魔の敵でした。失敬失敬。
「ぷっ」
虎狼狸さんに鼻で笑われました。しかしこれはピンチです。冷静っぽいですがこれは冷静なのではなくて諦めからくる特殊な状態で、一種の悟りの様なものにさえ思えてきます。
虎狼狸さんは悠々と私を飛び越えて図書館の出入り口と私の間に立ちます。
「これで逃げれもしないなぁ、嬢ちゃん」
口からてらてらと光る牙が見え隠れします。あれでパチュリー様の防護術をはがして私をあの真っ蒼フェイスにする霊障をかけてくるのでしょうか。それとも物理的に私をばらばらに…
すいませんパチュリー様、私小悪魔はどう転んでも色々NGな状態にならざるを得ないみたいです。水切れのショックとこれからの未来の残酷さが私をその場にへたり込ませます。
「さて、そろそろ終わりの時間だぜ」
そう言えば飛んで距離とればよかったとか、今更なアイデアも湧いてきましたが虎狼狸さんは私に後悔させる尺もくれないみたいです。断頭台のきしむ音の様な足音は容赦なく私に近づいてきます。
バタン
「パチェ―、居るんでしょー」
唐突に図書館のドアが開きました。近づいてきていたのはどうやら狼型式神だけではなかったようです。そこには神々しい後光のような光を背中に受けた悪魔が立っていました。右手に何か持っていらっしゃいます。
「お嬢様っ!」
虎狼狸さんが状況を呑み込めないうちに呼びかけます。
「どうしたのー小悪魔―!あとこのその犬なーにー?!」
「そいつのせいで今パチュリー様は寝込んでるんですっ!」
それを聞いた途端、お嬢様の顔が少し険しくなりました。
「おい、そこの犬っころ!そこの低級悪魔から離れろ!」
なんか私の言われようが酷いです。
「うるせえガキ、俺はこれからこの嬢ちゃんに始末つけんだよ」
場の空気が凍りました。虎狼狸さん、今のセリフは地雷ですよ…
「おい、今私をガキと言ったか?」
「ああん?うるせぇな、ガキは黙ってろ」
「ほう、やはり私をガキと言ったか」
お嬢様のまとうオーラ(?)的なものが一気に濃くなり、私まで息苦しくなりました。
そしてすさまじい速度で距離を詰め、虎狼狸さんの横っ腹に鋭いけりを一発。
「ぐぉっっっ」
虎狼狸さんはまっすぐ本棚に突っ込みます。しかし流石弾幕勝負にも耐えれる図書館、本棚に損傷はありません。がしかし、本は洪水のように虎狼狸さんの上に落下しました。
「これで一件落着?」
お嬢様が首をかしげながら聞いてきます。仕草と腕力のギャップが凄まじいです。ついでに手に持っていたのは「名作クイズ100選(回答別冊)」という本だと確認できました。場違い感が凄いです。
「ねえ、もう終わったんでしょう?」
「…そうだといいんですが」
するとまた唐突に、バーンと本が飛び散りました。この後片付けは誰がやるんでしょうか?
本の飛び散った爆心地には青白い虎がいました。虎狼狸って名前から予想はできましたが。そのまますぎですよパチュリー様。
「お゛お゛い゛、随分とコケにしてくれたじゃねえか!」
どっかの魔王もおじいさんから筋肉ダルマに、最後には顔と手だけに倒されるごとに変身しますが虎狼狸さんも魔王なのでしょうか?最初の情けない狸似の姿から想像もできない巨大な虎がそこにはいました。
しかしお嬢様にとってその変化は些細な事だったようです
「ちっ、まだ生きてたのか犬っころ」
そう吐き捨てました
「はっ、強がりやがって!今から八つ裂きにしてやる」
虎狼狸さんがこちらに走ってきます。自分の放つ霊障を纏いながらお嬢様を切り裂かんと向かって来ます。しかしさっきのお嬢様のスピードには到底及びません。
お嬢様はクイズ本を持っていない左手を虎狼狸さんに向けました。
「恨むなら今日ここで私に出会うという”運命”を恨むんだな」
―運命―ミゼラブルフェイト
楔の様な先っぽを持った紅い鎖が虎狼狸さんに向けて殺到しました。
「がっ」
紅い鎖はその先端を体の様々な部分に付き刺さり、がんじがらめにして虎狼狸さんを締めつけました。それでも進むのを止めずにお嬢様に突っ込んでゆく姿は痛々しくも見事です。勢いは殺されていましたが鎖の呪縛に抗いながらこちらに進んできます
「…手間を取らせるな」
お嬢様がつぶやきました
「お嬢様、何か?」
「手間を取らせるなっ!私はさっさとパチェにこの難問の答えを教えてもらうんだっ!」
真っ赤な目を見開いて、本を手ばなして右手も虎狼狸さんに向けます。本は足元に落ち、金属製のしおりの挟んであったページが開きました。
ゴバァ
お嬢様が右手も向けると、虎狼狸さんに絡んでいた鎖が巨大化し、虎狼狸さんは真っ赤な繭の様な姿に。
「ぎゃ…う…」
本当にこれが最後の断末魔のようでした。鎖は締めつける対象を失い絡み合って消えました。
「で、パチェはどこにいるのかしら?」
何もなかったかのように本を拾い上げて、お嬢様は思案顔になりながら再び訪ねます。
「まだ寝室にいらっしゃられると思いますよ。ご案内します」
「そう、なら早く立って案内なさい」
言われて気づきましたが、ずっと私はへたり込んだままだったようです。
6
「パチェ、答えは”お風呂”ね!」
「正解よレミィ」
早速お嬢様は先ほど私が入れ知恵をして得た答えをパチュリー様に披露しました。パチュリー様はすでに復活済みで何事も無かったかのようにふるまっています。ちなみに、しおりの挟んであったページには
難易度☆☆
上は洪水、下は大火事、これな~んだ?
答えは別冊3ページに
と書いてありました。お嬢様は「霊夢が本気でキレた時の幻想郷」とお答えになろうとしていたようで。お嬢様は普段お風呂になんて入りませんしわからないのは当然でした。しかし博麗の巫女がキレるとそんなことになるなんて…
「それより小悪魔、水鉄砲は役に立ったのかしら?」
「ええ、大いに役に立ってくれました」
「それは良かったわ」
皮肉で言ったのに真に受けて喜ばれてしまいました。少し恥ずかしいです。
「それでは、本が散らかってしまったので後始末に行ってきます」
「頼んだわ、小悪魔」
私はそっと寝室を後にして、主人に笑顔が戻っただけでも今回はよしとしましょう、と自分を納得させながら本棚へ向かうのでした。
式が剥がれるごとに強くなるって設定は面白かったです。
ネガティブなイメージがつくと、内容の良し悪し以前に読む人が少なくなりますから。
卑屈にならず、タグや概要は必要な情報とネタだけにしたほうが良いと思います。
文章の方ですが、もうちょっとキチッと丁寧に書いたほうがいいなと感じました。
全部の地の文のに「。」を付けて、三点リーダーなどは二つ連続して「……」とするのが馴染まれてるのでそれに倣った方がいいですし、この書き方なら文章の頭にスペースを入れて一文字下げたたグッと読みやすいかなと。
それとそそわのニーズ的に『「俺はもっと自由を謳k ブシュー 私は躊躇なく水鉄砲の引き金を引きました。 ぎゃあー」』というネット掲示板的な書き方は正直なところ微妙……。
『「俺はもっと自由を謳歌し」 プシュー 私は躊躇なく水鉄砲の引き金を引きました。 「ぎゃあー」』とかにしたほうが良いかなと思います。せめて台詞は「」でしっかりくくらないと混乱してしまいますし。
と、ここまで書きましたが内容の方はそれなりに良く出来ていましたよ。
まだ二作目ということで不安なのかもしれませんが、あまり卑屈にならず(そういう心の姿勢は文章など色んなところで表れますし)まずはもう少し気楽になって、新しい作品を書いていって欲しいです。頑張ってください。
よこがき 「」 前後改行で
ハッピー
とくにキャラがそれぞれきちんと立っていて皆魅力的
でした。あと以外に健康的な小悪魔の生活がなんだか
ほんわりしていて良い味出してます。
ただラストの投げっぱなし具合、
誤字誤表現もやや気になりましたのでこの点数をば。