命連寺の縁側で、二ッ岩マミゾウは涼んでいた。夜風が疲れた体を撫で、芯に溜まっている熱を冷やしていく。その顔は力が入っていないらしく、見るからに腑抜けていた。体も同様らしく、今にも仰向けに倒れそうだ。だがそんな事をすると直ぐに寝てしまいそうで、疲れから来る誘惑を必死に堪えている。まだ風呂にも入っていないし、夕食も食べていない。縁側で風を浴びているのも、眠気を堪えるためだ。
「ああ、いかん。やっぱりこの年になると、重労働はこたえるわい。早く風呂に入りたいもんじゃのう。それで、腹一杯食いたいんじゃがなぁ」
少女のような外見に、とても似合わぬ台詞まで飛び出す始末である。
先ほどまで忙しく駆け回っていた人間や妖怪達は、もう居ない。皆、作業を終えてそれぞれ帰路に就いているはずだ。細かい部分をのぞけば、あとは本番を待つばかりとなっている。
彼女たちが精を出していたのは、縁日の準備だ。人間の里で行っていた夏祭りも一緒にやるということで、マミゾウは幻想郷に来たばかりでよく知らないが、例年よりも盛大な祭りになるという。それに比例して、準備も大がかりなものとなっていた。
当然、寺に住んでいる妖怪達も準備のために奔走することとなり、マミゾウは特に気を吐いたのである。外の世界にいたとき、こういうイベントでは先頭に立って音頭をとっていたというのも関係していた。前段階から盛り上がってこそ、祭りを全力で楽しめるのだ。そういう持論を、彼女は持っている。
しかし頑張りすぎたためか、すっかり惚けているというわけだ。
また大きな波として襲ってきた眠気を誤魔化すために、眼鏡を取り目頭を揉む。
そんな事をしながら待っていると、床板を踏む足音が廊下の向こうから聞こえてきた。もしかすると、風呂の順番が回ってきたから、それを伝えるためにこちらへ向かっているかもしれない。それなら、これで少しは疲れをとることが出来るだろう。ほんの少しは期待しながら顔を向けたマミゾウであったが、現れた人物は予想に反していた。
古明地こいしである。どうしたのかと、思わず首を傾げてしまう。彼女が風呂に入るのは、まだ後のはずだ。もしかすると、順番が来たと呼びに来てくれたのだろうか。
「あ、居た居た」
「おお、こいしか。どうしたんじゃ。儂の順番が来たから、呼びに来てくれたんかのう?」
「ううん。マミゾウさんはもう少し後だよ。まだ一輪が入ってる」
「うん? ならどうしたんじゃ」
「ちょっとね、マミゾウさんに聞きたいことがあってさ」
言いながら、こいしはマミゾウの隣へ腰を下ろす。
「マミゾウさんはさ、祭りは誰と一緒に回るの?」
「ぬえの奴が一緒に回ろうと言っておったから、ぬえとじゃな」
「ふぅん……良いなぁ」
と、こいしが羨ましそうに呟く。その横顔を見つめながら、マミゾウは質問の意味を理解できずにいた。
もしかすると、自分と一緒に回りたかったのかもしれない。先約が入っていないか、確かめにきたのだろうか。それならば三人で回ればいいのだ。ぬえも、こいしなら大丈夫だと言ってくれるだろう。彼女らは気が合うのか、普段から仲が良い。
そう思ったマミゾウが、質問の意味を確かめようとするより早く、こいしが口を開いた。
「一輪はムラサと、星はナズーリンと、聖は寺に残って応対するらしいけど、一段落付いたら星たちと合流するらしいんだ」
皆に聞いて回ったのだろうか。どうやら寺に住む面々が、祭り当日に誰と行くかを把握しているようだ。だが挙げていった名前の中に、こいし自身が含まれていなかった。
一緒に祭りへ行きたいのなら、訪ねたときに遠慮せず言えば良いのだ。毎日寺にいるわけではないが、すっかり馴染んでいるこいしを拒む事など、誰もしないだろう。にこやかに頷くはずだというのに、彼女は一緒にとは言わなかったらしい。いや、邪魔をしてはいけないと配慮し、言えなかった可能性もある。もしそうならば、口利きをしても良いだろう。だがどちらにせよ、こいしがどう思っているかは確かめる必要があった。
「こいしはどうするんじゃ。もう決まっておるのか?」
「私は……。うん、私は、お姉ちゃんと一緒が良いって思ったんだ」
「姉、か?」
こいしの言う妹については以前、聞いたことがあった。彼女とは違って、第三の眼を閉じていないサトリ妖怪。だが長らく、地底は旧都にある地霊殿に引きこもり、決してそこから出ようとはしない。たとえどんな用事が、それこそ些細なことから重要なことまで、どんな事があろうともだ。大抵、一緒に住んでいるペット達が、それを担当している。ざっくり言えば、筋金入りの引きこもりだ。こいしから話を聞いた時、マミゾウは素直にそう思った。だが同時に、引きこもっている理由が、心を読むことの出来る能力故にと聞いた時には、同情もしたのである。
こいしは、その姉と祭りを楽しみたいと言っている。肉親である姉のことをよく知っているというのに、無理であると分かっていながら言っているのだ。
「そうか……。やはり、家族と一緒が良いはずじゃな」
事情を知っているためか、マミゾウの歯切れはどうにも悪い。それに気が付いているのか否か、こいしは話を続ける。
「うん。でもさ、無理でしょ。お姉ちゃんのことだから、あそこから出たがらないし」
「……」
「だからさ、祭りの日はぬえとマミゾウさんと、一緒に居させてよ。ね、良いでしょ?」
「……ああ、儂が嫌だと言う理由はないし、ぬえの奴もあんさんなら良いと言うじゃろうて」
「うん、ありがと。じゃあ、私はもう行くね」
「おお、また晩ご飯の時にな」
腰を上げ、廊下の向こうへ消えていくこいしの背中を見送った。入れ替わるようにして、頭から湯気を上げる一輪がやって来た。湿りきった髪を拭き上げながら、すれ違う元サトリ妖怪へちらりと視線を送る。
ようやく、自分の番が来たか。一輪の次がマミゾウの番だ。これでやっと一段落つくことが出来ると、すっかり重くなってしまった腰を上げようとした。
「マミゾウさん、あの娘と何を話してたんですか?」
「うん?」
「なんだか、複雑そうな顔をしてましたよ。すごく説明しにくいんですけど、そうとしか言えない顔でした」
「そうか……。なら、明日の為に英気を養うとするかのう」
「まだ準備が残っているんですか?」
「いや、こいしじゃよ。聞いてしまったんじゃから、まぁ何とかしてやりたいんんでな」
「はぁ……。また何か、頼まれたんですね」
「頼まれたというか、儂が自分から首を突っ込むんじゃよ」
言いながら、マミゾウは立ち上がった。何があったのかさっぱり分からないといった顔で、後に続く一輪。
風呂場へ向かいながら、突然マミゾウは足を止めると、一輪へ振り向いた。突然の行動に面食らっている彼女に、ある質問がしたくなったのだ。
「のう、あんさんは、自分が大事だと思っておる相手に、「こうしたい。けど、叶わない」と告白されたら、どうするかのう?」
「……自分が何とか出来そうなら、何とかしようとします」
「そうじゃろう」
その返事に満足したのか、マミゾウはカラカラと笑いながら、また歩き始めるのだった。
明くる日。マミゾウの姿は、地底界は旧都にあった。以前から行ってみたいとは思っていたが、その気持ちを後押ししたのは、昨日のこいしである。話を聞いた以上、何もしないというのはマミゾウの信条に反していると言えるだろう。そうやってきたからこそ皆に慕われ、人間から二ッ岩大明神等と言われていたのだ。
ということで目的地はあるものの、実の所、半分は物見遊山といった気分だ。と言っても、考えあってのことではあるのだが。
「しかし、これは予想外じゃのう。地上を追われた連中が住む場所とか聞いたから、もっと陰気な場所かと思っておったわい」
嫌われ者の楽園という言葉から、廃墟同然のような町並みを想像していたのだ。それこそ、あちこちで血なまぐさい事件が起こり、弱者が虐げられるような世界。しかし、やや雑然としているものの、とても荒廃しているとは言えない光景が地底には広がっていた。
物珍しそうにキョロキョロと周囲を見渡しているマミゾウへ、訝しげな視線を向ける者は居るものの、決して絡んでは来ないことも予想外という印象を与えている。
「さて、これならそれなりに期待は出来そうじゃな」
ある程度の治安が保たれているのなら、そこには安全に娯楽を楽しむことの出来る店や、ゆったりと過ごすことの出来る店があるはずだ。人の集まる場所に市は立つが、この手のしっかりとした場所を構えなければならない店は、安全が確保されていなければ暖簾を掲げないものだろう。マミゾウの目当てはそれである。
地上で見慣れた店であっても、場所が変われば趣も変わる。たとえ違いが少なくても、場所が変われば新鮮に見えるもの。それを確かめたくて、まるでお上りさんのように忙しなく視線を飛ばしているのだった。
どうやら店を開ける時間になったらしく、そこかしこで妖怪達が店開きの準備を始めていた。目的の店もそろそろ暖簾を出す頃だろう。見逃さないよう目を光らせる。だが物珍しさから、他の店にも興味を引かれてしまう。
「しかし、ほかの店も気になるのう。八百屋なら、どんな物があるか。ここではどんな野菜を食っておるのか、果物はどんなのか、肉は……。ううむ、折角来たんじゃから、色々と見たいのう」
まだ時間はあるのだから、少しの寄り道ぐらいは構わないだろう。これも良い経験になるはず。好奇心から来る誘惑から、心を揺さぶられるマミゾウである。
品物を広げ、客寄せをする店主の声が耳に入る。それに吸い寄せられるかのように、道を行く妖怪達が近寄っていく。マミゾウはその中を、キョロキョロと視線を動かしながら歩いていった。
古明地さとりの楽しみの一つに、食後に飲む紅茶があった。特に、一人で静かに飲む事の出来る昼食後の時間が一番だ。
よく彼女の側に居るお燐やお空は日中の殆どを外で過ごしているし、他のペット達もそれぞれの仕事をしている。邪魔をする者など誰も居ない。邪魔をする者など皆無だ。
紅茶を楽しむ彼女の傍らには、一冊の本が置かれてあった。飲みながら読むと、さらに物語へ没頭することが出来る。至福の時間を、より一層引き立ててくれる存在。好みの本なら、特にだ。
今、さとりが夢中になっている本は、ある家族を描いた内容のものである。仲の良い彼らが、とある出来事からその関係を崩壊させていく過程を描いた物語だ。
疑心暗鬼を発端としていることから、心理描写が濃厚に描かれているこの本を、さとりは気に入っていた。
お互いへの不信感が些細なことから増していき、異常な関係を作り上げる。挙げ句の果てに、胸が締め付けられる感覚さえ覚えてしまうような、清々しいバッドエンド。何度読んでも夢中にさせてくれる、素晴らしい本だ。読み返したのも、これで四回目になる。
ここで別の行動をしていれば、家族関係が崩壊することは無かったのではないか。
もしここで登場するのが別の人物であれば、取り返しのつかない事態にはならなかったのではないか。
ただ物語を受け入れるだけではなく、そんな想像を巡らせながら読むと、また別の角度から楽しむことが出来るのだ。
慣れた手つきでページをめくっていくさとり。紅茶を飲もうと、カップへ手を伸ばす。しかし手応えが全くなかったので、本を置くとポットを掴み上げた。
「おや、こちらにも入っていませんか」
傾けてみても、水滴すら落ちてこない。軽くなっていく感覚に気が付かないほど熱中していたのか。そんな自分に呆れながら、ようやく席を立ったさとり。瞬間、痛みに気が付いてうーむと唸りながら、形の良い尻をさする。痛みは、彼女が本を読んでいた時間を物語っていた。
紅茶を煎れなければと、ドアへ足を運ぶ。ペットの一匹でも近くに居たらやってくれることだが、今は一人きりなのだから自分でやらなければいけない。だがドアノブを回しきるより早く、第三の眼がペットの心の声を拾い上げた。
「そう、私への客なのね。通すべきかそうでないか、確かめたいと」
心の中を読むことで、何故ペットがこちらへ向かっているかは、話を聞かずとも分かる。
地霊殿への来客というのは、とても珍しい。あってもペットに用事があるか、事務的なものぐらいで、さとりへ個人的な用事があって訪ねてきた者など、彼女の記憶の中には無い。心を読む妖怪と親しくしようなど、よっぽどの物好きか、変人ぐらいだろう。だからさとりは、事務的な用事があって来たのだろうと思った。
だが、客が命連寺から来たという部分を読んで、怪訝そうな顔つきになる。こいしが厄介になっている寺だ。
どんな用事があるのだろうかと疑問に思い、首を捻るさとり。しかし相手が誰であれ、そしてどんな用があろうと会わなければならないだろう。
多少はやって来た妖怪と、聞かされるであろう話の内容にも興味はあった。だがそれよりも、無下に追い返して、こいしにもしもの事があったらどうしようという思いの方が強い。
たとえ妹についての話でなくても、少しは彼女についての事を聞くことができるだろう。もう随分と長い間、会っていないような気さえするのだ。出来ればずっとここに居てほしいが、こいしはふらふらと色んな場所を出歩いてばかりで、命連寺に居着いたことが珍しいぐらいである。
そこの住人たちは、よっぽど彼女のことを大事にしてくれているのか。それならば、妹から直接聞きたいと思うのだ。
「こいしの事なら良いのにね。たまには帰ってきて欲しいんだけど……」
そう呟きながら、さとりはドアノブを回してペットを出迎えた。
活発さの欠片もない、陰鬱そうな色を宿した瞳が、マミゾウを見上げていた。曇りきっていないのが、幸いだろう。背の高さはこいしと同じぐらいだろうか。帽子は被っていないし、髪の色や服の色は全然違う。だが、目の前にいるサトリ妖怪の雰囲気は姉妹だからだろうか、こいしに似ているとマミゾウは思った。
一番違う部分。第三の眼が、こちらを見つめている。心の中を読むこの眼が嫌だから、彼女を嫌う者は多いらしいというが、特にそうは感じない。
これまでに覚えきれないほどの人妖と付き合ってきたマミゾウは、相手の見た目や、妖怪の持つ能力で全てを判断しないようにしていた。親分をしてきた者としての持論である。
ようは、頭を下げながら相手を罵るようなことをしなければ良いだけのことだ。
「そう思う人は、珍しいですね。大抵はこの眼を嫌だと、こちらに向けるなと笑顔の奥で言うものですが」
「ふぅむ、そんなもんかのう。会話が楽になりそうで、良いと思うんじゃが。ああ、自己紹介がまだじゃったな。儂は……」
「二ッ岩マミゾウさん。命連寺に居候をしている古狸、と。私は地霊殿の主、古明地さとりです。妹が、お世話になっているようで」
「ほれ、やっぱり楽じゃ」
「……ようこそ、地霊殿へ。こいしのお知り合いなら、歓迎しますよ」
さとりが頭を下げたものだから、同じようにするマミゾウ。どちらともなく顔を上げると、そうですねと言いながらさとりはドアを開けた。
「立ち話というのも居心地が悪いですし、どうぞ。今、ペットに紅茶とお菓子を用意させていますので」
「ん、悪いのう」
地霊殿に入ったマミゾウの横を、ドアを閉めたさとりが通り抜けていく。視界の端に、こちらを見つめる第三の眼が映った。
「ああ、そうだ。残念なことに、ここには紅茶しかありません。緑茶は、あまり飲まないので」
「……ふむ。折角のもてなしを、そんな風に思ってしまって悪かったのう」
「いえ、お気になさらず。普段は飲まない物に不安を覚えるというのは、ごく自然なことですから」
そう言って先を行くさとりを、マミゾウは追いかけていった。
「なるほど、マミゾウさんは旧都の見物に来ただけなんですね。どうでしたか、ここを見た感想というのは」
「酷い話を聞いておったが、そうではないらしくて安心しておるよ。そのついでに、こいしからあんさんの事を聞いておったから、まぁどんなもんかと見にきたわけじゃ」
「なるほど……。それで、あの子は普段何をしているか、教えてもらえないでしょうか」
居間に通されたマミゾウは、さとりと差し向かいになって紅茶を楽しんでいた。事務的な用事もなくただの観光で来たという事で、二人の話題は自然とこいしの話になっていく。そもそも共通の話題が彼女のことぐらいしかないのだ。
妹が地上で何をしているのか。それ知りたいさとりからしてみれば、好都合だと言えた。同時に、心配そうに尋ねる姉の姿を見て、笑顔を見せながら頷いたマミゾウである。ずずずと紅茶を飲み、満足そうに息を吐く。
「気まぐれなもんじゃよ。寺の仕事をやったかと思ったら、何日も帰らずに山にある神社に居ったりな。博麗の所に厄介になっておったこともあるのう」
「ああ……あの子らしい。その、迷惑ではないでしょうか」
「迷惑だと思ったことなど、一度もないよ。寺の連中もそうじゃが、こいしの奴にも色々と楽しませてもらっておる」
そう言って、朗らかに笑うマミゾウ。嘘を言っているのではと疑ってしまうが、第三の眼が彼女の心を読み通して、偽りではないことを証明してくれた。妹の行動を優しく見守り、一緒に楽しんでくれている。どうやら、寺に住んでいる他の妖怪も同様らしい。
なるほど、こいしが帰ってこないわけである。命連寺は居心地が良いのだろうし、沢山の友人たちも出来たようだ。彼女にとって、地上は物珍しいもので溢れているように見えていることだろう。
そう思った瞬間、さとりの心から何かの感情が溢れてきた。何だろうと疑問に思いながらも、こいしが何をしているかもっと聞き出そうと、続けるように促す。
「そうじゃなぁ……。儂とこいしが妖怪の山へ、釣りをしに行った時のことでも話すとするかのう」
身振り手振りを交えながら、マミゾウは話し始めた。
山へ釣りに行き、こいしは坊主でふてくされていたが、最後にはマミゾウの釣り上げた魚を一緒に焼いて、満足そうにしていた事。中の良い相手と食べた魚の味は、どんなものだったのだろう。
夏祭りで一緒に屋台を回り、紅魔館の出していたチョコバナナで、こいしが髭を作っていた事。その顔に、さとりはクスリと微笑んだ。マミゾウに拭ってもらって、恥ずかしそうに頬を赤らめている。
ぬえと喧嘩をして寺を飛び出し、夜になっても帰ってこなかったから、皆が総出で探した事。その時は、寺子屋の中でベソをかいていたらしい。
様々な思い出が、マミゾウの口から語られていく。それをさとりは耳で楽しみながら、同時に第三の眼でしっかりとマミゾウの姿を捕らえていた。
この眼は、心を読む事だけが能ではない。昔話を語るときには、必ず心の中でその事を思い出す必要がある。それを再現し、時には追体験することが出来るのが、さとりの能力だ。トラウマを利用する時と同じ原理だが、楽しい思い出の方が読んでいて良いに決まっている。時には、それ以外が面白いと思う時もあるのだが。
まだ彼女の話は続いている。付き合い始めて一年と少しだというのに、こいしと友人たちの間には、沢山の思い出があるらしい。姉妹であるはずの自分以上に、楽しい思い出があるのだ。
それ自覚した瞬間、さとりの中で先程感じた感情が止め処なく溢れてきた。誤魔化そうと慌てて、カップを手に取る。
これを見たマミゾウは話を区切り、同じようにカップを傾けた。
「さて、他にも話はあるんじゃが……あんまり長いと、聞いておるだけのあんさんが辛いじゃろ?」
「いえ、そんな事は」
「それは本当かのう? 儂には、そういう様子には見えんのじゃが。あんさん、今の話を聞いても、何も思わなかったと?」
「それは……」
言葉を詰まらせたさとりに、マミゾウは満足そうに頷いた。彼女の心が、当然だろうなと呟いている。
「その眼で、まるで自分のことのように体験したはずじゃからな。とは言え、それはあくまで疑似的なものにすぎん。あんさんは羨ましいと思ったはずじゃぞ。妹ばかりが、こんな楽しそうな体験ばかりしてと」
「……っ」
見透かされていたのかと、思わず動揺してしまう。そのために、丁寧に思い出しながら話していたのか。戸惑いの色を混じらせた瞳で、マミゾウを見つめてしまった。言葉にこそしないが、肯定したも同然の行為だ。
先程感じた感情は、こいしに対しての羨ましさだ。自分も同じような体験をしたいと、少なからず思ったのである。
地上でも地下でも、能力のせいで嫌われ続けた身だ。あのような楽しい思い出など、あるはずがない。親しい友人も同様で、周りに居てくれるのはペットばかりだ。そして、ついに妹が離れていこうとしている。そこからわき出してくる、羨ましさ。どうかすると、妬みと言っても良いかもしれない。
「図星のようじゃな。あんさん、面と向かって話す事に慣れておらんじゃろう。分かりやすく顔に出ておるよ」
「……心でも読んだのかと思いました」
「読めるのなら楽かもしれんのう。さて、儂は自他ともに認めるお人好しでな、別に嫌がらせであんさんに話したわけじゃないんじゃよ」
マミゾウはカラカラと笑った。
「え……?」
「不公平じゃろう。だからな、儂と一緒に、あのような思い出でも作ってみらんか? 儂はな、実の所そのためにここに来た。一緒に居てみたいとも思ったからのう。早い話が、あんさんを気に入ったんじゃよ」
言いながら、マミゾウは腕を差し出す。決して嘘ではない。だからこそ、旧都を巡って地霊殿へ来たのだ。さとりを気に入るようなことがあれば、連れ出すために。
さとりはと言えば、マミゾウの言葉と心に動揺しきっていた。一緒に思い出を作ろうなどと、記憶にある中では言われたことが無い。彼女を嫌っている者がそのような事を言うはずがないし、ペット達は彼女を気遣って外に連れ出そうという気すら起こさなかった。こいしも同様だ。
だが、地上からやって来た妖怪が自分を連れ出そうとしている。会いに来ただけでも物好きだと言えるのに、その上、好意から一緒に居てみたいなどと言っているのだ。
混乱しきりである。どうしたら良いのか分からず、何を考えているのかとマミゾウの心を読み、ハッと息を飲んだ。彼女の心は優しく笑っているのだ。含むものなど何もない。自分はこうやって生きてきたと、胸を張って言わんばかりの真っ直ぐさである。
「さぁ、どうするんじゃ?」
促すかのような声に、さとりは恐る恐る、彼女の手を取ろうと腕を伸ばした。しかしそれよりも早く、マミゾウの手がさとりの手を掴んだ。そこから安心させてくれるような暖かさが伝わってきて、ふりほどこうなどと思うことすらなかった。
「う、あう。あの……よろしくお願いします」
「うむ。さて、行くとするかのう」
頬を赤らめ、しどろもどろになってしまうさとりである。その姿を見てマミゾウは満足そうに頷くと、手を握ったまま立ち上がった。
マミゾウが案内したのは、旧都の賑わっている辺りから離れた喫茶店だった。何処が良いかと見て回った際に見つけた、落ち着いた雰囲気の店だ。
いきなり人が大勢行る場所では駄目だろうという、マミゾウなりの配慮である。ガラス越しに見える店内には、客がまばらに座っているばかりだ。これなら大丈夫だろう。不安そうな眼差しを向けてくるさとりに、にっこりと笑ってやった。
中に入ると、ドアに取り付けられた鈴に反応したのか、店主がカウンターの奥から姿を現した。彼は珍しい客に、少しだけ不思議そうな顔をしたが、それ以上は特に気にならなかったようで「いらっしゃい」とだけ言った。ぶっきらぼうな態度は、如何にも趣味でやっていると言わんばかりだ。思い思いの事をしていた客たちも同様で、マミゾウらの姿を一瞬だけ見る者はいるものの、すぐに興味を無くしたらしく、また自分たちの世界に入り込んでいく。
マミゾウがこの店を選んだ理由の一つである。店主が変わっているのなら、客もまた変わっているものだ。その中にまた一人、変わっている者が来ても気に留めることはないだろう。そう思ったのである。
「さて、何にするかのう。行き慣れておらん店というのは、何を頼んで良いのか分からんが、店の個性が出ている部分がはっきり分かるもんじゃ。それがまた面白いのう」
窓の近くにある席に座り、テーブルに備え付けられてあるメニューを手に取ると、視線を滑らせていくマミゾウ。一度来ただけで、見慣れるという事はない。当然これだという物も決まっていないので、珍しそうにメニューと睨めっこをしている。
見慣れていないと言う部分においては、さとりも同様であった。こちらの場合、先ずこのような店に来た事が無いからだ。地霊殿なら勝手は分かっているし、ペットが居れば何も言わずとも、彼女にとって一番の飲み物が出てくる。選ぶと言うことが無い。
「どれにしたら良いのか、迷っておるようじゃな」
すっかり困り顔になっているさとりに気が付いたのか、マミゾウは助け船を出すことにした。
「……はい。えっと、どれが良いのか……こういう所に来たことが無いから分からなくて」
「ならば、やはりここはコーヒーじゃろうな。折角のかふぇーなんじゃから、定番が一番と思うよ。あとはまぁ……摘む物としてケーキにでもしておくかのう」
呼び鈴を鳴らし、ケーキとコーヒーを注文する。メニューを書き取った店主が立ち去ると、まるで張りつめていた気持ちを和らげるかのように、さとりは深い溜息を吐いた。初めての店というのは確かに緊張するものだが、ここまでの反応を見せる相手は珍しかったので、微笑ましくなってしまう。
それが表情に出ていたのだろうか。さとりはすぐに頬を膨らませると、顔を赤くしながら明後日の方向へと顔を向けてしまった。この様子がまた可愛らしく見えて、今度こそ、自然と笑みがこぼれる。憂鬱そうだったり、悲しそうにしているよりも、今の表情の方がさとりには似合っていると思うのだ。こいしがそのような顔をしているのを、見ているからかもしれない。
「可愛いって、何を思っているんですか」
「本心なのは分かっておるじゃろ。そんなに恥ずかしがらんでも、実際そうなんじゃから、仕方がない」
「……」
心を読んだせいか、ますます真っ赤になるさとりである。彼女に好意を向ける相手など、妹とペット以外には居なかったのだ。言われ慣れているはずがない。これが言葉だけなら、本心ではないと思いこむ事も出来ただろうが、能力によって本心であることが分かってしまっている。
どう否定して良いのかも分からなくなって、さとりは真っ赤なまま溜息を吐いた。
その時、店主がケーキとコーヒーをもってやって来た。香ばしさと甘い匂いが一緒くたになって、鼻腔をくすぐる。目の前に置かれたピンク色のケーキは、普段食べているそれよりもどういうわけか美味しそうに見える。これには、拗ねていたさとりも表情を和らげるほか無かった。
よほど苦手でない限り、甘味を前にして臍を曲げ続ける者など居ない。
「ほれほれ、これは美味いぞ。儂の保証する。これのために何度も地底に来ても良いと思うぐらいじゃ」
言いながら早速ケーキを切り分け、口に運ぶマミゾウ。さとりも続き、口の中に広がるイチゴの味に、二人は揃って目尻を下げた。
「ああ、美味い。こういう場所で食う洋菓子というのも、中々なもんじゃのう」
「ええ……」
「うむ。これでまぁ、思い出一つじゃな」
人の好い笑顔を見せるマミゾウに、さとりも笑顔を返す。誰かと一緒に食べるケーキが、こんなに美味しいとは思わなかった。一人で食べてもこのケーキは美味しいのだろう。だがマミゾウと一緒だと、それが倍増しているかのようだ。
もう一切れを口に運び、静かに微笑む。このまま黙々とケーキを片づけてお終いになってしまいそうだったが、それではつまらないとマミゾウが口を開いた。
「がーるずとーくというものをしてみらんか?」
「ガールズ、トーク……ですか?」
聞き覚えのない言葉に、フォークを動かしていた手を止め、首を傾げるさとり。外の世界で流行っていた単語だ。知らないと言うのも当然である。
「喫茶店で、儂等のような少女が一緒になったらな、隠さずに色んな事を話すことじゃよ」
「隠すことなく、ですか?」
「そうじゃ。例えばな……」
相手が心を読んでくれるというのは、実にやりやすい。どのような内容の会話をしているのか、思い出し始めたマミゾウである。彼女自身がガールズトークをしたことはないが、何度も聞いたことがあるから、何を話すかは分かっていた。
ガールズトークがどういったものかと、直ぐに心を読み始めたさとりであったが、たちまちその顔が茹で蛸のように真っ赤になった。陸に上がった魚のように、口をぱくぱくさせている。他人との交流を絶っていたのだから、こういった話にも疎いのだろう。ついつい調子に乗って、もっと発送を広げていく。
「ほれ、こういうのも」
「わ、あ」
「こういうのもあるのう」
「っ……」
「まぁ、こういうのをがーるずとーくと言うらしいのう」
思考でさとりをからかっていたマミゾウだったが、あんまりやりすぎては可愛そうだと、適当なところで切り上げることにした。
だがよほど刺激が強かったのか、さとりはまだ茹で蛸のままになっている。つい調子の乗ってしまって、不憫な事をしたと思ったマミゾウだったが、今日一番の可愛らしい反応を見れたので、満足もしていた。それを恨めしそうに見つめるさとり。みっともない反応を見せてしまったのは事実なのだから、反論する余裕もない。
「酷いです、マミゾウさん……」
と、哀れに呟くばかりである。悪い悪いと謝りながらコーヒーを口に運んだ途端、苦味が口の中に広がっていく。甘みを味わった後だから、口直しにはちょうど良いだろう。
さとりは凍り付いていた腕を動かし、ケーキを口に含んでいた。こちらもマミゾウ同様、まだ頬は少し赤いものの、少しは落ち着いたようだ。
「まぁ、冗談はこの辺でな。折角の落ち着いた雰囲気の喫茶店なんじゃから、もっと落ち着いた話の方が良いじゃろう。例えば……昔話なんかどうじゃ」
「昔話というと」
「千年以上は生きてきた老いぼれ狸の経験した、色んな事じゃよ。楽しい話、嬉しい話、色々あるが……思い出を読むことの出来るあんさんと話すのなら、ぴったりじゃろうて」
「……お願いします」
マミゾウの記憶力は確かであった。所々曖昧な部分はあるものの、自分の経験を忘れることなど出来ないとばかりに、しっかりと思い出しながら話進めていく。様々な人妖と交流を交わしてきたからこそ、自分があるのだという自信に満ち満ちている。
さとりは始めこそ相づちを打つばかりであったが、マミゾウに促されるような形で、次第に自分の知っている事を話し始めた。こいしやペット達、異変の解決に巫女たちが現れたときの事をだ。マミゾウに比べると少ないものだが、それでも大切な思い出だ。
嫌な顔一つせずに自分の話を聞いてくれる。それをさとりは嬉しいと感じていた。初めての感覚であった。
二人が地霊殿へ戻った頃には、すっかり夕食の時間になってしまっていた。喫茶店で、つい長話をしすぎたのである。同時に、二人はすっかり打ち解けていた。
何とも思っていない相手に、身の上話をするわけがない。彼女たちは友人と言っても良い関係になっていた。
それだけ充実した時間を過ごせたということだが、いざそれぞれの場所へ帰るとなると、名残惜しさがある。晩ご飯でもどうですかとさとりに誘われたマミゾウだったが、寺の妖怪へ何も言わず出てきたのだから、晩ご飯を作って待っているだろうと、やむなく断ることにした。
こういう時に、誤解無く伝わる第三の目は便利だと思う。
これを聞き、残念そうに眼を伏せるさとりを見て、こいしの話を切り出すなら今しかないと思った。
「のう、まだ色んな所に行きたいと思っておるか?」
「……ええ。マミゾウさんとなら、行っても良いかもしれません」
「それならな、今度、命連寺と人間の里で夏祭りがあるんじゃ。それを、一緒に見て回らんか?」
「それは、地上に来いということですか」
「無理にとは言わんぞ。もし来るのなら、こいしと、儂とこいしの友人の四人で回ることになる。楽しい思い出なら、皆で作った方が良いじゃろう」
「こいしと……」
と呟いて、さとりはあっと声を出した。第三の目が、マミゾウを見つめている。どうして旧都を訪れたのか、地霊殿へ向かったのか。その切っ掛けを読んだのだ。
だがマミゾウはそれを気にすることもなく、
「姉妹水入らずというのも、それで良いのかもしれんがな。あんさんが行きたいと思ったのなら、明日の夕方、大穴の地上側で待っておるからのう」
と言って、立ち去っていった。知られてしまって良いと思っていたのだ。サトリを相手に嘘をつくことなど、出来るはずがない。
もし彼女が来なかったとしても、仕方がないことだろう。強制など出来るはずもなかった。行くか行かないかを決めるのは、さとり自身だ。
仮に来なかったとしても、今日が良い一日であったことは、変わりようがないことだった。
マミゾウが立ち去ってから、さとりは一人考え込んでいた。誘いに応じようか悩んでいるのである。
マミゾウが地底を訪れたのは、こいしのためだ。旧都観光や、さとりに会うというのも目的の一つだったかもしれないが、切っ掛けはこいしである。おそらく、さとりに会うという目的は、地底を訪れた時点では二の次か三の次だったのだろう。
しかし、悪い気はしない。先ずこいしのために動いていたというのが、ありがたかった。こいしが頼んだのかは分からないが、妹のために何かをしてやろうと言う友人が居るのが、嬉しいのだ。さらに、自分のことも考えてくれている。優先順位がたとえ下でも、上にいるのは身内だ。嫉妬心よりも先に、ありがたさが来る。
それに目的は何であれ、さとりを外へ連れ出したとき、マミゾウの心はさとりの事でいっぱいだったのだ。
こいしのためではなく、彼女自身がさとりを気に入ったから、連れだそうと思っていたのだ。それが溜まらなく嬉しかったから、誘いに応じて手を取った。
ならば、先程の誘いはどうするべきだろう。マミゾウが居て、こいしも居る夏祭りというのは、楽しそうではないか。仮に何かあっても、マミゾウなら何とかしてくれるだろうとさとりは思った。喫茶店で聞いた昔話の中には、そう思えるだけの武勇伝もあった。
「ああ……別に悩む必要など無いのかもしれませんね」
何をしているのかと、素直ではない自分にさとりは嘆息した。同時に、ここには居ないマミゾウへ苦笑いにも似た表情を向ける。
彼女自身が言っていたが、あまりにもお人好しではないだろうか。こいしはともかく、自分は今までかかわり合いの無かった相手なのだ。それを気遣ってくれるなど、お人好し以外にどう言えばいいのだろうか。
「あれ? さとり様、戻ってたんですか」
「え、ああ、お燐。ええ、ちょっと考え事をね」
地霊殿の扉が開き、顔を出したのはお燐である。彼女はすぐにさとりの姿を確認すると、安堵の表情を見せた。帰ってこないさとりを探しに行こうとしていたらしい。
「そうですか。今、呼びに行こうと思ってたんですよ、ご飯だって」
「それは心配させてしまったのかしら」
「マミゾウさんが一緒だから、そこまでは。会ってみて、あの人はどうでした?」
お燐は頻繁に地上へ足を運んでいるから、マミゾウのことも知っているようだった。ただの知り合いというわけではなく、友人の一人になっているらしい。自分の主人が、地上の友人と出会ってどのような感想を抱いたか、気になっているようだ。好奇心で目が輝いている。
「そうね……。話していて、面白い人だった。あと、ものすごくお人好し」
「ああ、あたいと一緒だ。お空も、すぐに懐いたんですよ。親分をやってたらしいから、人に好かれるんですかね。嫌われてるのに、ずっと親分だなんて出来ないから」
「そうね」
「でしょう。ああ、さとり様もですよ」
言われたさとりはきょとんとしていたが、言葉の意味が分かった途端、恥ずかしそうに目を伏せた。頬が少しだけ赤らんでいる。主人の反応が面白かったのか、お燐はケラケラと笑いながら、早く入りましょうと促した。
祭りの当日。マミゾウの連れてきた相手を見て、こいしは目をまん丸に見開いていた。誰かのこういった顔を見ると心躍るのは、自分が化かした相手の驚く顔を見続けているせいだろうか。その時と同じように、彼女は満足しているのだ。
しかし決して、いたずらが成功したからではない。マミゾウの隣には、うつむきがちにしているさとりが立っていた。
こいしがこれはどういうことかと言わんばかりに、マミゾウと姉を交互にみる。彼女の隣に居るぬえも、最初こそ事情をよく分かっていないような顔をしていたが、直ぐにこの狸がまた勝手に動いたのだと気が付いたらしい。
お節介焼きめと呆れたような、だが満足げな視線を向けてきた。こちらも、こいしから話を聞いていたのだろう。
「お姉ちゃん……どうしてここに?」
驚きのあまり固まっていたこいしが、ようやく声を出した。長年引きこもっていた姉が外に出てきたのだから、無理はない。
「マミゾウさんが、ね……。一緒に夏祭りを回ろうって言ってくれたのよ」
祭りの喧噪にかき消されそうな声だったが、こいしには聞こえたらしい。どうしてとマミゾウを見たこいしだったが、直ぐに小さな声を漏らした。
先日彼女と会った時、何を言ったのか思い出したのだ。
「……ありがとう」
その一言だけを呟いて、こいしは三人の手を取った。困惑に満ちていた表情が、もうすっかり明るくなっている。
「今日は四人で、一緒にね」
「……ええ。一緒に思い出を……」
うれしそうな声を上げた妹に、さとりは満面の笑みをたたえて頷いたのだった。
「ああ、いかん。やっぱりこの年になると、重労働はこたえるわい。早く風呂に入りたいもんじゃのう。それで、腹一杯食いたいんじゃがなぁ」
少女のような外見に、とても似合わぬ台詞まで飛び出す始末である。
先ほどまで忙しく駆け回っていた人間や妖怪達は、もう居ない。皆、作業を終えてそれぞれ帰路に就いているはずだ。細かい部分をのぞけば、あとは本番を待つばかりとなっている。
彼女たちが精を出していたのは、縁日の準備だ。人間の里で行っていた夏祭りも一緒にやるということで、マミゾウは幻想郷に来たばかりでよく知らないが、例年よりも盛大な祭りになるという。それに比例して、準備も大がかりなものとなっていた。
当然、寺に住んでいる妖怪達も準備のために奔走することとなり、マミゾウは特に気を吐いたのである。外の世界にいたとき、こういうイベントでは先頭に立って音頭をとっていたというのも関係していた。前段階から盛り上がってこそ、祭りを全力で楽しめるのだ。そういう持論を、彼女は持っている。
しかし頑張りすぎたためか、すっかり惚けているというわけだ。
また大きな波として襲ってきた眠気を誤魔化すために、眼鏡を取り目頭を揉む。
そんな事をしながら待っていると、床板を踏む足音が廊下の向こうから聞こえてきた。もしかすると、風呂の順番が回ってきたから、それを伝えるためにこちらへ向かっているかもしれない。それなら、これで少しは疲れをとることが出来るだろう。ほんの少しは期待しながら顔を向けたマミゾウであったが、現れた人物は予想に反していた。
古明地こいしである。どうしたのかと、思わず首を傾げてしまう。彼女が風呂に入るのは、まだ後のはずだ。もしかすると、順番が来たと呼びに来てくれたのだろうか。
「あ、居た居た」
「おお、こいしか。どうしたんじゃ。儂の順番が来たから、呼びに来てくれたんかのう?」
「ううん。マミゾウさんはもう少し後だよ。まだ一輪が入ってる」
「うん? ならどうしたんじゃ」
「ちょっとね、マミゾウさんに聞きたいことがあってさ」
言いながら、こいしはマミゾウの隣へ腰を下ろす。
「マミゾウさんはさ、祭りは誰と一緒に回るの?」
「ぬえの奴が一緒に回ろうと言っておったから、ぬえとじゃな」
「ふぅん……良いなぁ」
と、こいしが羨ましそうに呟く。その横顔を見つめながら、マミゾウは質問の意味を理解できずにいた。
もしかすると、自分と一緒に回りたかったのかもしれない。先約が入っていないか、確かめにきたのだろうか。それならば三人で回ればいいのだ。ぬえも、こいしなら大丈夫だと言ってくれるだろう。彼女らは気が合うのか、普段から仲が良い。
そう思ったマミゾウが、質問の意味を確かめようとするより早く、こいしが口を開いた。
「一輪はムラサと、星はナズーリンと、聖は寺に残って応対するらしいけど、一段落付いたら星たちと合流するらしいんだ」
皆に聞いて回ったのだろうか。どうやら寺に住む面々が、祭り当日に誰と行くかを把握しているようだ。だが挙げていった名前の中に、こいし自身が含まれていなかった。
一緒に祭りへ行きたいのなら、訪ねたときに遠慮せず言えば良いのだ。毎日寺にいるわけではないが、すっかり馴染んでいるこいしを拒む事など、誰もしないだろう。にこやかに頷くはずだというのに、彼女は一緒にとは言わなかったらしい。いや、邪魔をしてはいけないと配慮し、言えなかった可能性もある。もしそうならば、口利きをしても良いだろう。だがどちらにせよ、こいしがどう思っているかは確かめる必要があった。
「こいしはどうするんじゃ。もう決まっておるのか?」
「私は……。うん、私は、お姉ちゃんと一緒が良いって思ったんだ」
「姉、か?」
こいしの言う妹については以前、聞いたことがあった。彼女とは違って、第三の眼を閉じていないサトリ妖怪。だが長らく、地底は旧都にある地霊殿に引きこもり、決してそこから出ようとはしない。たとえどんな用事が、それこそ些細なことから重要なことまで、どんな事があろうともだ。大抵、一緒に住んでいるペット達が、それを担当している。ざっくり言えば、筋金入りの引きこもりだ。こいしから話を聞いた時、マミゾウは素直にそう思った。だが同時に、引きこもっている理由が、心を読むことの出来る能力故にと聞いた時には、同情もしたのである。
こいしは、その姉と祭りを楽しみたいと言っている。肉親である姉のことをよく知っているというのに、無理であると分かっていながら言っているのだ。
「そうか……。やはり、家族と一緒が良いはずじゃな」
事情を知っているためか、マミゾウの歯切れはどうにも悪い。それに気が付いているのか否か、こいしは話を続ける。
「うん。でもさ、無理でしょ。お姉ちゃんのことだから、あそこから出たがらないし」
「……」
「だからさ、祭りの日はぬえとマミゾウさんと、一緒に居させてよ。ね、良いでしょ?」
「……ああ、儂が嫌だと言う理由はないし、ぬえの奴もあんさんなら良いと言うじゃろうて」
「うん、ありがと。じゃあ、私はもう行くね」
「おお、また晩ご飯の時にな」
腰を上げ、廊下の向こうへ消えていくこいしの背中を見送った。入れ替わるようにして、頭から湯気を上げる一輪がやって来た。湿りきった髪を拭き上げながら、すれ違う元サトリ妖怪へちらりと視線を送る。
ようやく、自分の番が来たか。一輪の次がマミゾウの番だ。これでやっと一段落つくことが出来ると、すっかり重くなってしまった腰を上げようとした。
「マミゾウさん、あの娘と何を話してたんですか?」
「うん?」
「なんだか、複雑そうな顔をしてましたよ。すごく説明しにくいんですけど、そうとしか言えない顔でした」
「そうか……。なら、明日の為に英気を養うとするかのう」
「まだ準備が残っているんですか?」
「いや、こいしじゃよ。聞いてしまったんじゃから、まぁ何とかしてやりたいんんでな」
「はぁ……。また何か、頼まれたんですね」
「頼まれたというか、儂が自分から首を突っ込むんじゃよ」
言いながら、マミゾウは立ち上がった。何があったのかさっぱり分からないといった顔で、後に続く一輪。
風呂場へ向かいながら、突然マミゾウは足を止めると、一輪へ振り向いた。突然の行動に面食らっている彼女に、ある質問がしたくなったのだ。
「のう、あんさんは、自分が大事だと思っておる相手に、「こうしたい。けど、叶わない」と告白されたら、どうするかのう?」
「……自分が何とか出来そうなら、何とかしようとします」
「そうじゃろう」
その返事に満足したのか、マミゾウはカラカラと笑いながら、また歩き始めるのだった。
明くる日。マミゾウの姿は、地底界は旧都にあった。以前から行ってみたいとは思っていたが、その気持ちを後押ししたのは、昨日のこいしである。話を聞いた以上、何もしないというのはマミゾウの信条に反していると言えるだろう。そうやってきたからこそ皆に慕われ、人間から二ッ岩大明神等と言われていたのだ。
ということで目的地はあるものの、実の所、半分は物見遊山といった気分だ。と言っても、考えあってのことではあるのだが。
「しかし、これは予想外じゃのう。地上を追われた連中が住む場所とか聞いたから、もっと陰気な場所かと思っておったわい」
嫌われ者の楽園という言葉から、廃墟同然のような町並みを想像していたのだ。それこそ、あちこちで血なまぐさい事件が起こり、弱者が虐げられるような世界。しかし、やや雑然としているものの、とても荒廃しているとは言えない光景が地底には広がっていた。
物珍しそうにキョロキョロと周囲を見渡しているマミゾウへ、訝しげな視線を向ける者は居るものの、決して絡んでは来ないことも予想外という印象を与えている。
「さて、これならそれなりに期待は出来そうじゃな」
ある程度の治安が保たれているのなら、そこには安全に娯楽を楽しむことの出来る店や、ゆったりと過ごすことの出来る店があるはずだ。人の集まる場所に市は立つが、この手のしっかりとした場所を構えなければならない店は、安全が確保されていなければ暖簾を掲げないものだろう。マミゾウの目当てはそれである。
地上で見慣れた店であっても、場所が変われば趣も変わる。たとえ違いが少なくても、場所が変われば新鮮に見えるもの。それを確かめたくて、まるでお上りさんのように忙しなく視線を飛ばしているのだった。
どうやら店を開ける時間になったらしく、そこかしこで妖怪達が店開きの準備を始めていた。目的の店もそろそろ暖簾を出す頃だろう。見逃さないよう目を光らせる。だが物珍しさから、他の店にも興味を引かれてしまう。
「しかし、ほかの店も気になるのう。八百屋なら、どんな物があるか。ここではどんな野菜を食っておるのか、果物はどんなのか、肉は……。ううむ、折角来たんじゃから、色々と見たいのう」
まだ時間はあるのだから、少しの寄り道ぐらいは構わないだろう。これも良い経験になるはず。好奇心から来る誘惑から、心を揺さぶられるマミゾウである。
品物を広げ、客寄せをする店主の声が耳に入る。それに吸い寄せられるかのように、道を行く妖怪達が近寄っていく。マミゾウはその中を、キョロキョロと視線を動かしながら歩いていった。
古明地さとりの楽しみの一つに、食後に飲む紅茶があった。特に、一人で静かに飲む事の出来る昼食後の時間が一番だ。
よく彼女の側に居るお燐やお空は日中の殆どを外で過ごしているし、他のペット達もそれぞれの仕事をしている。邪魔をする者など誰も居ない。邪魔をする者など皆無だ。
紅茶を楽しむ彼女の傍らには、一冊の本が置かれてあった。飲みながら読むと、さらに物語へ没頭することが出来る。至福の時間を、より一層引き立ててくれる存在。好みの本なら、特にだ。
今、さとりが夢中になっている本は、ある家族を描いた内容のものである。仲の良い彼らが、とある出来事からその関係を崩壊させていく過程を描いた物語だ。
疑心暗鬼を発端としていることから、心理描写が濃厚に描かれているこの本を、さとりは気に入っていた。
お互いへの不信感が些細なことから増していき、異常な関係を作り上げる。挙げ句の果てに、胸が締め付けられる感覚さえ覚えてしまうような、清々しいバッドエンド。何度読んでも夢中にさせてくれる、素晴らしい本だ。読み返したのも、これで四回目になる。
ここで別の行動をしていれば、家族関係が崩壊することは無かったのではないか。
もしここで登場するのが別の人物であれば、取り返しのつかない事態にはならなかったのではないか。
ただ物語を受け入れるだけではなく、そんな想像を巡らせながら読むと、また別の角度から楽しむことが出来るのだ。
慣れた手つきでページをめくっていくさとり。紅茶を飲もうと、カップへ手を伸ばす。しかし手応えが全くなかったので、本を置くとポットを掴み上げた。
「おや、こちらにも入っていませんか」
傾けてみても、水滴すら落ちてこない。軽くなっていく感覚に気が付かないほど熱中していたのか。そんな自分に呆れながら、ようやく席を立ったさとり。瞬間、痛みに気が付いてうーむと唸りながら、形の良い尻をさする。痛みは、彼女が本を読んでいた時間を物語っていた。
紅茶を煎れなければと、ドアへ足を運ぶ。ペットの一匹でも近くに居たらやってくれることだが、今は一人きりなのだから自分でやらなければいけない。だがドアノブを回しきるより早く、第三の眼がペットの心の声を拾い上げた。
「そう、私への客なのね。通すべきかそうでないか、確かめたいと」
心の中を読むことで、何故ペットがこちらへ向かっているかは、話を聞かずとも分かる。
地霊殿への来客というのは、とても珍しい。あってもペットに用事があるか、事務的なものぐらいで、さとりへ個人的な用事があって訪ねてきた者など、彼女の記憶の中には無い。心を読む妖怪と親しくしようなど、よっぽどの物好きか、変人ぐらいだろう。だからさとりは、事務的な用事があって来たのだろうと思った。
だが、客が命連寺から来たという部分を読んで、怪訝そうな顔つきになる。こいしが厄介になっている寺だ。
どんな用事があるのだろうかと疑問に思い、首を捻るさとり。しかし相手が誰であれ、そしてどんな用があろうと会わなければならないだろう。
多少はやって来た妖怪と、聞かされるであろう話の内容にも興味はあった。だがそれよりも、無下に追い返して、こいしにもしもの事があったらどうしようという思いの方が強い。
たとえ妹についての話でなくても、少しは彼女についての事を聞くことができるだろう。もう随分と長い間、会っていないような気さえするのだ。出来ればずっとここに居てほしいが、こいしはふらふらと色んな場所を出歩いてばかりで、命連寺に居着いたことが珍しいぐらいである。
そこの住人たちは、よっぽど彼女のことを大事にしてくれているのか。それならば、妹から直接聞きたいと思うのだ。
「こいしの事なら良いのにね。たまには帰ってきて欲しいんだけど……」
そう呟きながら、さとりはドアノブを回してペットを出迎えた。
活発さの欠片もない、陰鬱そうな色を宿した瞳が、マミゾウを見上げていた。曇りきっていないのが、幸いだろう。背の高さはこいしと同じぐらいだろうか。帽子は被っていないし、髪の色や服の色は全然違う。だが、目の前にいるサトリ妖怪の雰囲気は姉妹だからだろうか、こいしに似ているとマミゾウは思った。
一番違う部分。第三の眼が、こちらを見つめている。心の中を読むこの眼が嫌だから、彼女を嫌う者は多いらしいというが、特にそうは感じない。
これまでに覚えきれないほどの人妖と付き合ってきたマミゾウは、相手の見た目や、妖怪の持つ能力で全てを判断しないようにしていた。親分をしてきた者としての持論である。
ようは、頭を下げながら相手を罵るようなことをしなければ良いだけのことだ。
「そう思う人は、珍しいですね。大抵はこの眼を嫌だと、こちらに向けるなと笑顔の奥で言うものですが」
「ふぅむ、そんなもんかのう。会話が楽になりそうで、良いと思うんじゃが。ああ、自己紹介がまだじゃったな。儂は……」
「二ッ岩マミゾウさん。命連寺に居候をしている古狸、と。私は地霊殿の主、古明地さとりです。妹が、お世話になっているようで」
「ほれ、やっぱり楽じゃ」
「……ようこそ、地霊殿へ。こいしのお知り合いなら、歓迎しますよ」
さとりが頭を下げたものだから、同じようにするマミゾウ。どちらともなく顔を上げると、そうですねと言いながらさとりはドアを開けた。
「立ち話というのも居心地が悪いですし、どうぞ。今、ペットに紅茶とお菓子を用意させていますので」
「ん、悪いのう」
地霊殿に入ったマミゾウの横を、ドアを閉めたさとりが通り抜けていく。視界の端に、こちらを見つめる第三の眼が映った。
「ああ、そうだ。残念なことに、ここには紅茶しかありません。緑茶は、あまり飲まないので」
「……ふむ。折角のもてなしを、そんな風に思ってしまって悪かったのう」
「いえ、お気になさらず。普段は飲まない物に不安を覚えるというのは、ごく自然なことですから」
そう言って先を行くさとりを、マミゾウは追いかけていった。
「なるほど、マミゾウさんは旧都の見物に来ただけなんですね。どうでしたか、ここを見た感想というのは」
「酷い話を聞いておったが、そうではないらしくて安心しておるよ。そのついでに、こいしからあんさんの事を聞いておったから、まぁどんなもんかと見にきたわけじゃ」
「なるほど……。それで、あの子は普段何をしているか、教えてもらえないでしょうか」
居間に通されたマミゾウは、さとりと差し向かいになって紅茶を楽しんでいた。事務的な用事もなくただの観光で来たという事で、二人の話題は自然とこいしの話になっていく。そもそも共通の話題が彼女のことぐらいしかないのだ。
妹が地上で何をしているのか。それ知りたいさとりからしてみれば、好都合だと言えた。同時に、心配そうに尋ねる姉の姿を見て、笑顔を見せながら頷いたマミゾウである。ずずずと紅茶を飲み、満足そうに息を吐く。
「気まぐれなもんじゃよ。寺の仕事をやったかと思ったら、何日も帰らずに山にある神社に居ったりな。博麗の所に厄介になっておったこともあるのう」
「ああ……あの子らしい。その、迷惑ではないでしょうか」
「迷惑だと思ったことなど、一度もないよ。寺の連中もそうじゃが、こいしの奴にも色々と楽しませてもらっておる」
そう言って、朗らかに笑うマミゾウ。嘘を言っているのではと疑ってしまうが、第三の眼が彼女の心を読み通して、偽りではないことを証明してくれた。妹の行動を優しく見守り、一緒に楽しんでくれている。どうやら、寺に住んでいる他の妖怪も同様らしい。
なるほど、こいしが帰ってこないわけである。命連寺は居心地が良いのだろうし、沢山の友人たちも出来たようだ。彼女にとって、地上は物珍しいもので溢れているように見えていることだろう。
そう思った瞬間、さとりの心から何かの感情が溢れてきた。何だろうと疑問に思いながらも、こいしが何をしているかもっと聞き出そうと、続けるように促す。
「そうじゃなぁ……。儂とこいしが妖怪の山へ、釣りをしに行った時のことでも話すとするかのう」
身振り手振りを交えながら、マミゾウは話し始めた。
山へ釣りに行き、こいしは坊主でふてくされていたが、最後にはマミゾウの釣り上げた魚を一緒に焼いて、満足そうにしていた事。中の良い相手と食べた魚の味は、どんなものだったのだろう。
夏祭りで一緒に屋台を回り、紅魔館の出していたチョコバナナで、こいしが髭を作っていた事。その顔に、さとりはクスリと微笑んだ。マミゾウに拭ってもらって、恥ずかしそうに頬を赤らめている。
ぬえと喧嘩をして寺を飛び出し、夜になっても帰ってこなかったから、皆が総出で探した事。その時は、寺子屋の中でベソをかいていたらしい。
様々な思い出が、マミゾウの口から語られていく。それをさとりは耳で楽しみながら、同時に第三の眼でしっかりとマミゾウの姿を捕らえていた。
この眼は、心を読む事だけが能ではない。昔話を語るときには、必ず心の中でその事を思い出す必要がある。それを再現し、時には追体験することが出来るのが、さとりの能力だ。トラウマを利用する時と同じ原理だが、楽しい思い出の方が読んでいて良いに決まっている。時には、それ以外が面白いと思う時もあるのだが。
まだ彼女の話は続いている。付き合い始めて一年と少しだというのに、こいしと友人たちの間には、沢山の思い出があるらしい。姉妹であるはずの自分以上に、楽しい思い出があるのだ。
それ自覚した瞬間、さとりの中で先程感じた感情が止め処なく溢れてきた。誤魔化そうと慌てて、カップを手に取る。
これを見たマミゾウは話を区切り、同じようにカップを傾けた。
「さて、他にも話はあるんじゃが……あんまり長いと、聞いておるだけのあんさんが辛いじゃろ?」
「いえ、そんな事は」
「それは本当かのう? 儂には、そういう様子には見えんのじゃが。あんさん、今の話を聞いても、何も思わなかったと?」
「それは……」
言葉を詰まらせたさとりに、マミゾウは満足そうに頷いた。彼女の心が、当然だろうなと呟いている。
「その眼で、まるで自分のことのように体験したはずじゃからな。とは言え、それはあくまで疑似的なものにすぎん。あんさんは羨ましいと思ったはずじゃぞ。妹ばかりが、こんな楽しそうな体験ばかりしてと」
「……っ」
見透かされていたのかと、思わず動揺してしまう。そのために、丁寧に思い出しながら話していたのか。戸惑いの色を混じらせた瞳で、マミゾウを見つめてしまった。言葉にこそしないが、肯定したも同然の行為だ。
先程感じた感情は、こいしに対しての羨ましさだ。自分も同じような体験をしたいと、少なからず思ったのである。
地上でも地下でも、能力のせいで嫌われ続けた身だ。あのような楽しい思い出など、あるはずがない。親しい友人も同様で、周りに居てくれるのはペットばかりだ。そして、ついに妹が離れていこうとしている。そこからわき出してくる、羨ましさ。どうかすると、妬みと言っても良いかもしれない。
「図星のようじゃな。あんさん、面と向かって話す事に慣れておらんじゃろう。分かりやすく顔に出ておるよ」
「……心でも読んだのかと思いました」
「読めるのなら楽かもしれんのう。さて、儂は自他ともに認めるお人好しでな、別に嫌がらせであんさんに話したわけじゃないんじゃよ」
マミゾウはカラカラと笑った。
「え……?」
「不公平じゃろう。だからな、儂と一緒に、あのような思い出でも作ってみらんか? 儂はな、実の所そのためにここに来た。一緒に居てみたいとも思ったからのう。早い話が、あんさんを気に入ったんじゃよ」
言いながら、マミゾウは腕を差し出す。決して嘘ではない。だからこそ、旧都を巡って地霊殿へ来たのだ。さとりを気に入るようなことがあれば、連れ出すために。
さとりはと言えば、マミゾウの言葉と心に動揺しきっていた。一緒に思い出を作ろうなどと、記憶にある中では言われたことが無い。彼女を嫌っている者がそのような事を言うはずがないし、ペット達は彼女を気遣って外に連れ出そうという気すら起こさなかった。こいしも同様だ。
だが、地上からやって来た妖怪が自分を連れ出そうとしている。会いに来ただけでも物好きだと言えるのに、その上、好意から一緒に居てみたいなどと言っているのだ。
混乱しきりである。どうしたら良いのか分からず、何を考えているのかとマミゾウの心を読み、ハッと息を飲んだ。彼女の心は優しく笑っているのだ。含むものなど何もない。自分はこうやって生きてきたと、胸を張って言わんばかりの真っ直ぐさである。
「さぁ、どうするんじゃ?」
促すかのような声に、さとりは恐る恐る、彼女の手を取ろうと腕を伸ばした。しかしそれよりも早く、マミゾウの手がさとりの手を掴んだ。そこから安心させてくれるような暖かさが伝わってきて、ふりほどこうなどと思うことすらなかった。
「う、あう。あの……よろしくお願いします」
「うむ。さて、行くとするかのう」
頬を赤らめ、しどろもどろになってしまうさとりである。その姿を見てマミゾウは満足そうに頷くと、手を握ったまま立ち上がった。
マミゾウが案内したのは、旧都の賑わっている辺りから離れた喫茶店だった。何処が良いかと見て回った際に見つけた、落ち着いた雰囲気の店だ。
いきなり人が大勢行る場所では駄目だろうという、マミゾウなりの配慮である。ガラス越しに見える店内には、客がまばらに座っているばかりだ。これなら大丈夫だろう。不安そうな眼差しを向けてくるさとりに、にっこりと笑ってやった。
中に入ると、ドアに取り付けられた鈴に反応したのか、店主がカウンターの奥から姿を現した。彼は珍しい客に、少しだけ不思議そうな顔をしたが、それ以上は特に気にならなかったようで「いらっしゃい」とだけ言った。ぶっきらぼうな態度は、如何にも趣味でやっていると言わんばかりだ。思い思いの事をしていた客たちも同様で、マミゾウらの姿を一瞬だけ見る者はいるものの、すぐに興味を無くしたらしく、また自分たちの世界に入り込んでいく。
マミゾウがこの店を選んだ理由の一つである。店主が変わっているのなら、客もまた変わっているものだ。その中にまた一人、変わっている者が来ても気に留めることはないだろう。そう思ったのである。
「さて、何にするかのう。行き慣れておらん店というのは、何を頼んで良いのか分からんが、店の個性が出ている部分がはっきり分かるもんじゃ。それがまた面白いのう」
窓の近くにある席に座り、テーブルに備え付けられてあるメニューを手に取ると、視線を滑らせていくマミゾウ。一度来ただけで、見慣れるという事はない。当然これだという物も決まっていないので、珍しそうにメニューと睨めっこをしている。
見慣れていないと言う部分においては、さとりも同様であった。こちらの場合、先ずこのような店に来た事が無いからだ。地霊殿なら勝手は分かっているし、ペットが居れば何も言わずとも、彼女にとって一番の飲み物が出てくる。選ぶと言うことが無い。
「どれにしたら良いのか、迷っておるようじゃな」
すっかり困り顔になっているさとりに気が付いたのか、マミゾウは助け船を出すことにした。
「……はい。えっと、どれが良いのか……こういう所に来たことが無いから分からなくて」
「ならば、やはりここはコーヒーじゃろうな。折角のかふぇーなんじゃから、定番が一番と思うよ。あとはまぁ……摘む物としてケーキにでもしておくかのう」
呼び鈴を鳴らし、ケーキとコーヒーを注文する。メニューを書き取った店主が立ち去ると、まるで張りつめていた気持ちを和らげるかのように、さとりは深い溜息を吐いた。初めての店というのは確かに緊張するものだが、ここまでの反応を見せる相手は珍しかったので、微笑ましくなってしまう。
それが表情に出ていたのだろうか。さとりはすぐに頬を膨らませると、顔を赤くしながら明後日の方向へと顔を向けてしまった。この様子がまた可愛らしく見えて、今度こそ、自然と笑みがこぼれる。憂鬱そうだったり、悲しそうにしているよりも、今の表情の方がさとりには似合っていると思うのだ。こいしがそのような顔をしているのを、見ているからかもしれない。
「可愛いって、何を思っているんですか」
「本心なのは分かっておるじゃろ。そんなに恥ずかしがらんでも、実際そうなんじゃから、仕方がない」
「……」
心を読んだせいか、ますます真っ赤になるさとりである。彼女に好意を向ける相手など、妹とペット以外には居なかったのだ。言われ慣れているはずがない。これが言葉だけなら、本心ではないと思いこむ事も出来ただろうが、能力によって本心であることが分かってしまっている。
どう否定して良いのかも分からなくなって、さとりは真っ赤なまま溜息を吐いた。
その時、店主がケーキとコーヒーをもってやって来た。香ばしさと甘い匂いが一緒くたになって、鼻腔をくすぐる。目の前に置かれたピンク色のケーキは、普段食べているそれよりもどういうわけか美味しそうに見える。これには、拗ねていたさとりも表情を和らげるほか無かった。
よほど苦手でない限り、甘味を前にして臍を曲げ続ける者など居ない。
「ほれほれ、これは美味いぞ。儂の保証する。これのために何度も地底に来ても良いと思うぐらいじゃ」
言いながら早速ケーキを切り分け、口に運ぶマミゾウ。さとりも続き、口の中に広がるイチゴの味に、二人は揃って目尻を下げた。
「ああ、美味い。こういう場所で食う洋菓子というのも、中々なもんじゃのう」
「ええ……」
「うむ。これでまぁ、思い出一つじゃな」
人の好い笑顔を見せるマミゾウに、さとりも笑顔を返す。誰かと一緒に食べるケーキが、こんなに美味しいとは思わなかった。一人で食べてもこのケーキは美味しいのだろう。だがマミゾウと一緒だと、それが倍増しているかのようだ。
もう一切れを口に運び、静かに微笑む。このまま黙々とケーキを片づけてお終いになってしまいそうだったが、それではつまらないとマミゾウが口を開いた。
「がーるずとーくというものをしてみらんか?」
「ガールズ、トーク……ですか?」
聞き覚えのない言葉に、フォークを動かしていた手を止め、首を傾げるさとり。外の世界で流行っていた単語だ。知らないと言うのも当然である。
「喫茶店で、儂等のような少女が一緒になったらな、隠さずに色んな事を話すことじゃよ」
「隠すことなく、ですか?」
「そうじゃ。例えばな……」
相手が心を読んでくれるというのは、実にやりやすい。どのような内容の会話をしているのか、思い出し始めたマミゾウである。彼女自身がガールズトークをしたことはないが、何度も聞いたことがあるから、何を話すかは分かっていた。
ガールズトークがどういったものかと、直ぐに心を読み始めたさとりであったが、たちまちその顔が茹で蛸のように真っ赤になった。陸に上がった魚のように、口をぱくぱくさせている。他人との交流を絶っていたのだから、こういった話にも疎いのだろう。ついつい調子に乗って、もっと発送を広げていく。
「ほれ、こういうのも」
「わ、あ」
「こういうのもあるのう」
「っ……」
「まぁ、こういうのをがーるずとーくと言うらしいのう」
思考でさとりをからかっていたマミゾウだったが、あんまりやりすぎては可愛そうだと、適当なところで切り上げることにした。
だがよほど刺激が強かったのか、さとりはまだ茹で蛸のままになっている。つい調子の乗ってしまって、不憫な事をしたと思ったマミゾウだったが、今日一番の可愛らしい反応を見れたので、満足もしていた。それを恨めしそうに見つめるさとり。みっともない反応を見せてしまったのは事実なのだから、反論する余裕もない。
「酷いです、マミゾウさん……」
と、哀れに呟くばかりである。悪い悪いと謝りながらコーヒーを口に運んだ途端、苦味が口の中に広がっていく。甘みを味わった後だから、口直しにはちょうど良いだろう。
さとりは凍り付いていた腕を動かし、ケーキを口に含んでいた。こちらもマミゾウ同様、まだ頬は少し赤いものの、少しは落ち着いたようだ。
「まぁ、冗談はこの辺でな。折角の落ち着いた雰囲気の喫茶店なんじゃから、もっと落ち着いた話の方が良いじゃろう。例えば……昔話なんかどうじゃ」
「昔話というと」
「千年以上は生きてきた老いぼれ狸の経験した、色んな事じゃよ。楽しい話、嬉しい話、色々あるが……思い出を読むことの出来るあんさんと話すのなら、ぴったりじゃろうて」
「……お願いします」
マミゾウの記憶力は確かであった。所々曖昧な部分はあるものの、自分の経験を忘れることなど出来ないとばかりに、しっかりと思い出しながら話進めていく。様々な人妖と交流を交わしてきたからこそ、自分があるのだという自信に満ち満ちている。
さとりは始めこそ相づちを打つばかりであったが、マミゾウに促されるような形で、次第に自分の知っている事を話し始めた。こいしやペット達、異変の解決に巫女たちが現れたときの事をだ。マミゾウに比べると少ないものだが、それでも大切な思い出だ。
嫌な顔一つせずに自分の話を聞いてくれる。それをさとりは嬉しいと感じていた。初めての感覚であった。
二人が地霊殿へ戻った頃には、すっかり夕食の時間になってしまっていた。喫茶店で、つい長話をしすぎたのである。同時に、二人はすっかり打ち解けていた。
何とも思っていない相手に、身の上話をするわけがない。彼女たちは友人と言っても良い関係になっていた。
それだけ充実した時間を過ごせたということだが、いざそれぞれの場所へ帰るとなると、名残惜しさがある。晩ご飯でもどうですかとさとりに誘われたマミゾウだったが、寺の妖怪へ何も言わず出てきたのだから、晩ご飯を作って待っているだろうと、やむなく断ることにした。
こういう時に、誤解無く伝わる第三の目は便利だと思う。
これを聞き、残念そうに眼を伏せるさとりを見て、こいしの話を切り出すなら今しかないと思った。
「のう、まだ色んな所に行きたいと思っておるか?」
「……ええ。マミゾウさんとなら、行っても良いかもしれません」
「それならな、今度、命連寺と人間の里で夏祭りがあるんじゃ。それを、一緒に見て回らんか?」
「それは、地上に来いということですか」
「無理にとは言わんぞ。もし来るのなら、こいしと、儂とこいしの友人の四人で回ることになる。楽しい思い出なら、皆で作った方が良いじゃろう」
「こいしと……」
と呟いて、さとりはあっと声を出した。第三の目が、マミゾウを見つめている。どうして旧都を訪れたのか、地霊殿へ向かったのか。その切っ掛けを読んだのだ。
だがマミゾウはそれを気にすることもなく、
「姉妹水入らずというのも、それで良いのかもしれんがな。あんさんが行きたいと思ったのなら、明日の夕方、大穴の地上側で待っておるからのう」
と言って、立ち去っていった。知られてしまって良いと思っていたのだ。サトリを相手に嘘をつくことなど、出来るはずがない。
もし彼女が来なかったとしても、仕方がないことだろう。強制など出来るはずもなかった。行くか行かないかを決めるのは、さとり自身だ。
仮に来なかったとしても、今日が良い一日であったことは、変わりようがないことだった。
マミゾウが立ち去ってから、さとりは一人考え込んでいた。誘いに応じようか悩んでいるのである。
マミゾウが地底を訪れたのは、こいしのためだ。旧都観光や、さとりに会うというのも目的の一つだったかもしれないが、切っ掛けはこいしである。おそらく、さとりに会うという目的は、地底を訪れた時点では二の次か三の次だったのだろう。
しかし、悪い気はしない。先ずこいしのために動いていたというのが、ありがたかった。こいしが頼んだのかは分からないが、妹のために何かをしてやろうと言う友人が居るのが、嬉しいのだ。さらに、自分のことも考えてくれている。優先順位がたとえ下でも、上にいるのは身内だ。嫉妬心よりも先に、ありがたさが来る。
それに目的は何であれ、さとりを外へ連れ出したとき、マミゾウの心はさとりの事でいっぱいだったのだ。
こいしのためではなく、彼女自身がさとりを気に入ったから、連れだそうと思っていたのだ。それが溜まらなく嬉しかったから、誘いに応じて手を取った。
ならば、先程の誘いはどうするべきだろう。マミゾウが居て、こいしも居る夏祭りというのは、楽しそうではないか。仮に何かあっても、マミゾウなら何とかしてくれるだろうとさとりは思った。喫茶店で聞いた昔話の中には、そう思えるだけの武勇伝もあった。
「ああ……別に悩む必要など無いのかもしれませんね」
何をしているのかと、素直ではない自分にさとりは嘆息した。同時に、ここには居ないマミゾウへ苦笑いにも似た表情を向ける。
彼女自身が言っていたが、あまりにもお人好しではないだろうか。こいしはともかく、自分は今までかかわり合いの無かった相手なのだ。それを気遣ってくれるなど、お人好し以外にどう言えばいいのだろうか。
「あれ? さとり様、戻ってたんですか」
「え、ああ、お燐。ええ、ちょっと考え事をね」
地霊殿の扉が開き、顔を出したのはお燐である。彼女はすぐにさとりの姿を確認すると、安堵の表情を見せた。帰ってこないさとりを探しに行こうとしていたらしい。
「そうですか。今、呼びに行こうと思ってたんですよ、ご飯だって」
「それは心配させてしまったのかしら」
「マミゾウさんが一緒だから、そこまでは。会ってみて、あの人はどうでした?」
お燐は頻繁に地上へ足を運んでいるから、マミゾウのことも知っているようだった。ただの知り合いというわけではなく、友人の一人になっているらしい。自分の主人が、地上の友人と出会ってどのような感想を抱いたか、気になっているようだ。好奇心で目が輝いている。
「そうね……。話していて、面白い人だった。あと、ものすごくお人好し」
「ああ、あたいと一緒だ。お空も、すぐに懐いたんですよ。親分をやってたらしいから、人に好かれるんですかね。嫌われてるのに、ずっと親分だなんて出来ないから」
「そうね」
「でしょう。ああ、さとり様もですよ」
言われたさとりはきょとんとしていたが、言葉の意味が分かった途端、恥ずかしそうに目を伏せた。頬が少しだけ赤らんでいる。主人の反応が面白かったのか、お燐はケラケラと笑いながら、早く入りましょうと促した。
祭りの当日。マミゾウの連れてきた相手を見て、こいしは目をまん丸に見開いていた。誰かのこういった顔を見ると心躍るのは、自分が化かした相手の驚く顔を見続けているせいだろうか。その時と同じように、彼女は満足しているのだ。
しかし決して、いたずらが成功したからではない。マミゾウの隣には、うつむきがちにしているさとりが立っていた。
こいしがこれはどういうことかと言わんばかりに、マミゾウと姉を交互にみる。彼女の隣に居るぬえも、最初こそ事情をよく分かっていないような顔をしていたが、直ぐにこの狸がまた勝手に動いたのだと気が付いたらしい。
お節介焼きめと呆れたような、だが満足げな視線を向けてきた。こちらも、こいしから話を聞いていたのだろう。
「お姉ちゃん……どうしてここに?」
驚きのあまり固まっていたこいしが、ようやく声を出した。長年引きこもっていた姉が外に出てきたのだから、無理はない。
「マミゾウさんが、ね……。一緒に夏祭りを回ろうって言ってくれたのよ」
祭りの喧噪にかき消されそうな声だったが、こいしには聞こえたらしい。どうしてとマミゾウを見たこいしだったが、直ぐに小さな声を漏らした。
先日彼女と会った時、何を言ったのか思い出したのだ。
「……ありがとう」
その一言だけを呟いて、こいしは三人の手を取った。困惑に満ちていた表情が、もうすっかり明るくなっている。
「今日は四人で、一緒にね」
「……ええ。一緒に思い出を……」
うれしそうな声を上げた妹に、さとりは満面の笑みをたたえて頷いたのだった。
→さとり?
誤字報告
見るからに不抜けていた
腑抜け
こいしの言う妹については~
姉ですね
また一つ彼女のイメージが形作られていくのが楽しいです。
マミゾウさんめっちゃお人よしやんな
こいしちゃんもいい子でとてもいい話でした。
タヌキに俺のさとりが取られると思ってしまった
俺の脳がヤバイ
曲がらない信念が有り、懐の深い情が有る。マミゾウは任侠だ。