すぅ、と息を吸うと、香水を直接口から吸い込んだような味がした。
"食べる"でも"飲む"でもない、まったく新しい味覚に少し驚愕する。
ふぅ、と息を吹けば、見た目健康に良さそうには見えない煙が口から吐き出された。
わっかを作れないものかと思い思いの方法を試してみたが、それは叶わなかった。今度勉強してみようか。
まだ日も高い時間、キャンパス内カフェの屋外テーブルに、どこか初々しい様子で煙草を吸う姿があった。
初めての煙草の味にさまざまな思考と感動を巡らせている姿は果たして、はたからはどう見えるだろうか。
「あら、珍しい」
急に声をかけられて、驚きに肩が跳ねた。
正直に言えば、あまり見られたい姿ではなかった。
「蓮子も大人ぶりたいお年頃なのかしら?」
「……別に」
面白い物を見るような目をくれながら、メリーはテーブル向かいの席に座った。私は目をそらす。
別段、今は活動時間ではない。彼女がこのカフェテラスに訪れたのは偶然である。そして私がここに居たことも。
あるいは暇があればここに来るのが癖になっているのかもしれない。お互いに。
ともあれ、嫌な物を見る目をされなかったことには、ほっと胸をなで下ろす気分だ。
私は一つ安心感を覚えてまた一口、指に挟んだ煙草に口を付けた。
「…………」
「…………」
その姿を、別に何を言うこともなく、ただ面白そうにメリーは見てくる。
……これはこれで、あまり気持ちよくない。
しばし訪れた静寂には、結局私が耐えられなくなって口を開く。
「……何よ」
「ん、意外と似合ってるなって思って」
どきっとした。そう言われるとは流石に思っていなかった。
煙草は二十歳になってから。年号が昭和だった頃からそれは今も変わらない。
そして私は今年で20歳。誕生日も過ぎたので、吸っていることに法的に問題があるわけではないのだが、それでもなんとなく、煙草を吸っているという事実に背徳感を覚えてしまう。
だから、メリーにはあまり見てほしくなかったわけである。
「そう?煙たくない?」
「別に?いい匂いだわ」
メリーが煙の匂い好きという訳ではない。
現在の煙草は合成で有害物質を含まないため、副留煙などという言葉とも無縁である。昔は百害あって一理なしとも言われていたが、現在となってはただの嗜好品である。
ただ、それでも煙草が誰にでも好意的にとられているかと言えばそういうわけではないのだ。
煙草から有害物質がなくなっても、相も変わらず年齢制限がかけられているのはつまりそういう事で、誰にでも煙草が吸えるようになったからと言って、小学校児童たちがこぞって煙草を吸うような光景は教育的にも治安的にもよくないだろう。煙草にそういうイメージがついて長いのだ。そうそう直ぐに払拭されるものではない。
「一応弁解しておくけど、私が買ったんじゃないわよ?」
「そうなの?」
「お父さんが仕送りに間違えて入れたってだけよ」
事実である。
せっかくだから吸ってみたら?なんて薦められて、まぁものは試しだと興味本位で吸ってみた次第だ。タダだし。
「なんだ、そうなの。で、お味はどう?」
「悪くはないわ。けど、これにわざわざお金を出す気にはならないわね」
「ふーん。私も吸っていい?」
「いいわよ」
煙草の入った箱を渡す。20本入りなのであと19本だ。
気が向いたときに少しずつ消費するつもりである。幸い中毒症状に陥るような事もないし、一応多少のリラックス効果は見込めるだろうし。
メリーは箱から煙草を一本取り出して口にくわえ、
「ん」
と、こっちにくわえた煙草の先を突き出した。
これでくわえているのがポッキーとかであったら甘酸っぱいのだが。
「なによ」
「ライター持ってないのよ」
「自分でつけなさいよ、ほら」
自分の持ってたライターをメリーに差し出す。
「いーひゃないの」
煙草の先をふりふりと揺らしながら火の催促をしてくる。
何故か目も閉じている。やめろ、その表情はキスの催促だ。
もう、と軽く悪態をついて(なるべくメリーの唇を見ないようにしながら)私はメリーの煙草に火をつけた。
メリーはすぅ、と息を吸って
「げほっ、ごほっ!」
盛大にむせた。
「げふっ、もう!なによ、げほっ、これ!」
「一気に吸いすぎなのよ。まずは喉を慣らしてからじゃないと」
得意げに言ってやった。実は自分も一口目同じ過ちを経験しているのだが。
やがて落ち着いて、メリーもじっくりと煙草をふかしながら言う。
「確かに、これにお金を払うかと言えば微妙ね」
「でしょ?」
そもそも煙草とて安くない。煙草の無害化によってかけられていた多量な税金は大幅に引かれたが、継続して買えばやはり馬鹿にはならないのだ。
実は税金分はもっと引けるのだが、煙草屋が自分のところの利益のためにわざと税金分を残しているという噂もあるが、はてさて。
「ま、どっちにしろ金持ちの道楽ね。活動の旅行費でいっぱいいっぱいの私たちには縁のない娯楽よ」
「そうねぇ。ただでさえでも不良サークルなんて言われてるのに、こうして二人煙草をふかしていると本当にただの不良だものねぇ」
「言わないでよ……」
自覚はある。
「でも、イメチェンっていいと思うのよ」
「イメチェン? 煙草で?」
「うん。一人物憂げな表情で煙草をふかしながら黄昏る蓮子……素敵じゃない?」
「いや、同意を求められてもねぇ……」
生憎と自分で自分を誉めることが出来ない性分である。
メリーに言われた通りの自分を想像してみたが、やっぱり只の不良女子大生にしか見えない。
大体、物憂げとか、黄昏るとか、言わんとすることは分かるけど何がどうすれば自分がそんな表情になるのか分からないし。
対して、今のメリーはどうだろうか。なんかこう、アダルティーな雰囲気を纏っている。大人のお店……と言ったらいかがわしいが、そんな感じがするのだ。
私とは大違い。当然だ、メリーは元々大人びた所あるし、出るとこも出ている。大人の女性という言葉を与えるに不足はない。
私は思ったとおりのことをメリーに言ってやった。
「どうかしら、なんだかババ臭くない?」
「そんなわけないって。そのままちょっと妖艶な感じで微笑んだら男なんかイチコロよ」
「こんな感じ?」
「…………」
何 故 出 来 る。
いや、妖艶に微笑むって、何となくで使ったけど日常会話ではそうそう出てこない表現だしやってって言われてパッとその場でやるのはプロのアイドルでも正直ただの無茶振りだしというか妖艶は雰囲気を表す言葉であって表情の一種とかじゃないしそもそも今年20になるピチピチ女子大生に使う言葉じゃないしそういえばメリー誕生日まだだから19じゃね煙草はマズくねって思ったけどまあ細かいことだから置いておくとして今はこの慣れたようにしてみせた妖艶という言葉を的確に表した笑みについて語らうべきではなかろうかというのもメリーは先ほど大人びていると言ったが別に教授と見間違う程でもなくてケーキに舌鼓を打って笑みを浮かべる彼女はまるで天使の様でこれ貴女の奢りねと言われてもお財布以外はこれっぽちも痛くなくて女子力カンストのカワイイ系女子であったはずだというのにこの煙草片手に笑む彼女は思わず様付けしたくなるほどに大人びていて被虐好き男子が踏んでくださいなんて言う姿は目に見えていてそれを満更でもないと思ってしまう自分も居てというか今更だが胸元から二つの果実を分かつ破廉恥極まりないラインの端が見えていることに気付いて別に見た事が無いわけでもないのにこれがまた妖艶な雰囲気に拍車をかけて見事なエロスを醸し出していてトップグラビアモデルが見ても嫉妬するのは確定的に明らかでそうそれは妖しくも艶やかという言葉の意味をまさに体言していて三国を股に掛けたかの傾国の美女でさえ膝まづいてメリー様なんて言うに違いなくてかく言う私もその姿にコンマ1秒で心奪われていてこの気持ちはまさしく愛でしかし愛を超越すれば憎しみになることを知っていても愛に理由を求めるのはナンセンスで自分がこんなに歪んでいるのもそうさせたのは彼女という存在であってそうとももはや世界などどうでもいい私はメリーとちゅっちゅしたい。
という欲求をぐっとこらえていると。
「蓮子?」
「ひゃう!?」
小動物か。
「何よ、ひょっとして見とれちゃってたの?」
はいそうです私の負けです完敗ですから半眼でふっと微笑むのを辞めてください先ほど私の理性は緊急脱出装置でぶっ飛びました。
「別に何でもないわよ何でも」
余裕を見せんとばかりに吸い終わった煙草を灰皿に突っ込む。
「蓮子、それ灰皿じゃなくてカップよ」
「…………」
さよなら、私のカプチーノ。
敢えて言うならメリーが悪い。
白い砂糖を入れれば甘くなるのならば、黒い炭を入れれば苦くなる、なんて可能性など微粒子レベルでも存在せず、私は周りの視線を警戒しつつ、こっそりカプチーノごと吸い殻入れに捨てた。
大丈夫だ、問題ない。
ともあれ、一つ分かったことがある。
あの神の御技とも呼べる美は、なんとメリーに煙草を持たせて「妖艶に笑ってみて!」って言うだけで何度でも見れるのである。
これはまさしく同じ秘封倶楽部である私にだけ許された特権だ。
こんなに素晴らしいことがあるだろうか。
「ねね、メリー」
「なに?」
「この煙草なんだけどさ」
そうとも、不良が背伸びしてる様にしか見えない私が持っていても仕方あるまい。
「メリーにあげるわ」
「えっ、いらない」
「えっ」
「えっ」
やや間があって。
「いいじゃない、娯楽で楽しむぶんには悪くないでしょ?それに私よりもメリーの方が似合ってるし」
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ。っていうか、なんだか最初は新鮮な体験だから楽しめただけで、味は結構微妙だし」
「ええ? メリー最初はいい匂いなんて言ってたじゃない」
「それは……きっと蓮子が吐いたやつだからかしらね」
いやいやいや。
まったくメリーさんはこういう心にもない事を平気でおっしゃるから困る。
「またまた、そんな事言って――」
そこから先が言えなかった。
口が、何かに塞がれた。
目の前にはメリー。文字通り、目の前。ゼロ距離。
私の口に……私の唇に重なっているのは……えっと、え?
え?
……ちゅっちゅ?
ちゅっちゅしてるの?
私が? メリーと?
えっ、なにこれ、もしかして夢なの?
それとも夢みたいな現?ゆめうつつ?ゆめうちゅちゅ?
あ、ちゅっちゅしてるわ。これ。
私は今、メリーとちゅっちゅしていた。
それを認めた時にはその行為はもう終わっていて、唇をはなすと、糸が引いた。決して短い時間で出来るものじゃない。
「うん、おいし」
少し恥ずかしげな表情でメリーは言うけど、何も言葉を返せない。
さっきとはうって変わって頭が真っ白だ。悟りでも開いたかのようである。
「私は煙草の味より、煙草を吸ってる蓮子の味の方が好きだなー、なんて」
でもとりあえず、メリーが何を言っているのかは分かったので、私は期待の眼差しのもと、煙草をもう一本くわえて火をつけた次第である。
「あ、ごめん蓮子、そろそろ授業だわ。あの教授ちょっとでも遅れると出席票とってくれなくて。じゃあね」
去っていくメリーの背中を眺めながら、私は一人物憂げな表情で煙草をふかしながら黄昏た。
"食べる"でも"飲む"でもない、まったく新しい味覚に少し驚愕する。
ふぅ、と息を吹けば、見た目健康に良さそうには見えない煙が口から吐き出された。
わっかを作れないものかと思い思いの方法を試してみたが、それは叶わなかった。今度勉強してみようか。
まだ日も高い時間、キャンパス内カフェの屋外テーブルに、どこか初々しい様子で煙草を吸う姿があった。
初めての煙草の味にさまざまな思考と感動を巡らせている姿は果たして、はたからはどう見えるだろうか。
「あら、珍しい」
急に声をかけられて、驚きに肩が跳ねた。
正直に言えば、あまり見られたい姿ではなかった。
「蓮子も大人ぶりたいお年頃なのかしら?」
「……別に」
面白い物を見るような目をくれながら、メリーはテーブル向かいの席に座った。私は目をそらす。
別段、今は活動時間ではない。彼女がこのカフェテラスに訪れたのは偶然である。そして私がここに居たことも。
あるいは暇があればここに来るのが癖になっているのかもしれない。お互いに。
ともあれ、嫌な物を見る目をされなかったことには、ほっと胸をなで下ろす気分だ。
私は一つ安心感を覚えてまた一口、指に挟んだ煙草に口を付けた。
「…………」
「…………」
その姿を、別に何を言うこともなく、ただ面白そうにメリーは見てくる。
……これはこれで、あまり気持ちよくない。
しばし訪れた静寂には、結局私が耐えられなくなって口を開く。
「……何よ」
「ん、意外と似合ってるなって思って」
どきっとした。そう言われるとは流石に思っていなかった。
煙草は二十歳になってから。年号が昭和だった頃からそれは今も変わらない。
そして私は今年で20歳。誕生日も過ぎたので、吸っていることに法的に問題があるわけではないのだが、それでもなんとなく、煙草を吸っているという事実に背徳感を覚えてしまう。
だから、メリーにはあまり見てほしくなかったわけである。
「そう?煙たくない?」
「別に?いい匂いだわ」
メリーが煙の匂い好きという訳ではない。
現在の煙草は合成で有害物質を含まないため、副留煙などという言葉とも無縁である。昔は百害あって一理なしとも言われていたが、現在となってはただの嗜好品である。
ただ、それでも煙草が誰にでも好意的にとられているかと言えばそういうわけではないのだ。
煙草から有害物質がなくなっても、相も変わらず年齢制限がかけられているのはつまりそういう事で、誰にでも煙草が吸えるようになったからと言って、小学校児童たちがこぞって煙草を吸うような光景は教育的にも治安的にもよくないだろう。煙草にそういうイメージがついて長いのだ。そうそう直ぐに払拭されるものではない。
「一応弁解しておくけど、私が買ったんじゃないわよ?」
「そうなの?」
「お父さんが仕送りに間違えて入れたってだけよ」
事実である。
せっかくだから吸ってみたら?なんて薦められて、まぁものは試しだと興味本位で吸ってみた次第だ。タダだし。
「なんだ、そうなの。で、お味はどう?」
「悪くはないわ。けど、これにわざわざお金を出す気にはならないわね」
「ふーん。私も吸っていい?」
「いいわよ」
煙草の入った箱を渡す。20本入りなのであと19本だ。
気が向いたときに少しずつ消費するつもりである。幸い中毒症状に陥るような事もないし、一応多少のリラックス効果は見込めるだろうし。
メリーは箱から煙草を一本取り出して口にくわえ、
「ん」
と、こっちにくわえた煙草の先を突き出した。
これでくわえているのがポッキーとかであったら甘酸っぱいのだが。
「なによ」
「ライター持ってないのよ」
「自分でつけなさいよ、ほら」
自分の持ってたライターをメリーに差し出す。
「いーひゃないの」
煙草の先をふりふりと揺らしながら火の催促をしてくる。
何故か目も閉じている。やめろ、その表情はキスの催促だ。
もう、と軽く悪態をついて(なるべくメリーの唇を見ないようにしながら)私はメリーの煙草に火をつけた。
メリーはすぅ、と息を吸って
「げほっ、ごほっ!」
盛大にむせた。
「げふっ、もう!なによ、げほっ、これ!」
「一気に吸いすぎなのよ。まずは喉を慣らしてからじゃないと」
得意げに言ってやった。実は自分も一口目同じ過ちを経験しているのだが。
やがて落ち着いて、メリーもじっくりと煙草をふかしながら言う。
「確かに、これにお金を払うかと言えば微妙ね」
「でしょ?」
そもそも煙草とて安くない。煙草の無害化によってかけられていた多量な税金は大幅に引かれたが、継続して買えばやはり馬鹿にはならないのだ。
実は税金分はもっと引けるのだが、煙草屋が自分のところの利益のためにわざと税金分を残しているという噂もあるが、はてさて。
「ま、どっちにしろ金持ちの道楽ね。活動の旅行費でいっぱいいっぱいの私たちには縁のない娯楽よ」
「そうねぇ。ただでさえでも不良サークルなんて言われてるのに、こうして二人煙草をふかしていると本当にただの不良だものねぇ」
「言わないでよ……」
自覚はある。
「でも、イメチェンっていいと思うのよ」
「イメチェン? 煙草で?」
「うん。一人物憂げな表情で煙草をふかしながら黄昏る蓮子……素敵じゃない?」
「いや、同意を求められてもねぇ……」
生憎と自分で自分を誉めることが出来ない性分である。
メリーに言われた通りの自分を想像してみたが、やっぱり只の不良女子大生にしか見えない。
大体、物憂げとか、黄昏るとか、言わんとすることは分かるけど何がどうすれば自分がそんな表情になるのか分からないし。
対して、今のメリーはどうだろうか。なんかこう、アダルティーな雰囲気を纏っている。大人のお店……と言ったらいかがわしいが、そんな感じがするのだ。
私とは大違い。当然だ、メリーは元々大人びた所あるし、出るとこも出ている。大人の女性という言葉を与えるに不足はない。
私は思ったとおりのことをメリーに言ってやった。
「どうかしら、なんだかババ臭くない?」
「そんなわけないって。そのままちょっと妖艶な感じで微笑んだら男なんかイチコロよ」
「こんな感じ?」
「…………」
何 故 出 来 る。
いや、妖艶に微笑むって、何となくで使ったけど日常会話ではそうそう出てこない表現だしやってって言われてパッとその場でやるのはプロのアイドルでも正直ただの無茶振りだしというか妖艶は雰囲気を表す言葉であって表情の一種とかじゃないしそもそも今年20になるピチピチ女子大生に使う言葉じゃないしそういえばメリー誕生日まだだから19じゃね煙草はマズくねって思ったけどまあ細かいことだから置いておくとして今はこの慣れたようにしてみせた妖艶という言葉を的確に表した笑みについて語らうべきではなかろうかというのもメリーは先ほど大人びていると言ったが別に教授と見間違う程でもなくてケーキに舌鼓を打って笑みを浮かべる彼女はまるで天使の様でこれ貴女の奢りねと言われてもお財布以外はこれっぽちも痛くなくて女子力カンストのカワイイ系女子であったはずだというのにこの煙草片手に笑む彼女は思わず様付けしたくなるほどに大人びていて被虐好き男子が踏んでくださいなんて言う姿は目に見えていてそれを満更でもないと思ってしまう自分も居てというか今更だが胸元から二つの果実を分かつ破廉恥極まりないラインの端が見えていることに気付いて別に見た事が無いわけでもないのにこれがまた妖艶な雰囲気に拍車をかけて見事なエロスを醸し出していてトップグラビアモデルが見ても嫉妬するのは確定的に明らかでそうそれは妖しくも艶やかという言葉の意味をまさに体言していて三国を股に掛けたかの傾国の美女でさえ膝まづいてメリー様なんて言うに違いなくてかく言う私もその姿にコンマ1秒で心奪われていてこの気持ちはまさしく愛でしかし愛を超越すれば憎しみになることを知っていても愛に理由を求めるのはナンセンスで自分がこんなに歪んでいるのもそうさせたのは彼女という存在であってそうとももはや世界などどうでもいい私はメリーとちゅっちゅしたい。
という欲求をぐっとこらえていると。
「蓮子?」
「ひゃう!?」
小動物か。
「何よ、ひょっとして見とれちゃってたの?」
はいそうです私の負けです完敗ですから半眼でふっと微笑むのを辞めてください先ほど私の理性は緊急脱出装置でぶっ飛びました。
「別に何でもないわよ何でも」
余裕を見せんとばかりに吸い終わった煙草を灰皿に突っ込む。
「蓮子、それ灰皿じゃなくてカップよ」
「…………」
さよなら、私のカプチーノ。
敢えて言うならメリーが悪い。
白い砂糖を入れれば甘くなるのならば、黒い炭を入れれば苦くなる、なんて可能性など微粒子レベルでも存在せず、私は周りの視線を警戒しつつ、こっそりカプチーノごと吸い殻入れに捨てた。
大丈夫だ、問題ない。
ともあれ、一つ分かったことがある。
あの神の御技とも呼べる美は、なんとメリーに煙草を持たせて「妖艶に笑ってみて!」って言うだけで何度でも見れるのである。
これはまさしく同じ秘封倶楽部である私にだけ許された特権だ。
こんなに素晴らしいことがあるだろうか。
「ねね、メリー」
「なに?」
「この煙草なんだけどさ」
そうとも、不良が背伸びしてる様にしか見えない私が持っていても仕方あるまい。
「メリーにあげるわ」
「えっ、いらない」
「えっ」
「えっ」
やや間があって。
「いいじゃない、娯楽で楽しむぶんには悪くないでしょ?それに私よりもメリーの方が似合ってるし」
「その言葉、そっくりそのままお返しするわ。っていうか、なんだか最初は新鮮な体験だから楽しめただけで、味は結構微妙だし」
「ええ? メリー最初はいい匂いなんて言ってたじゃない」
「それは……きっと蓮子が吐いたやつだからかしらね」
いやいやいや。
まったくメリーさんはこういう心にもない事を平気でおっしゃるから困る。
「またまた、そんな事言って――」
そこから先が言えなかった。
口が、何かに塞がれた。
目の前にはメリー。文字通り、目の前。ゼロ距離。
私の口に……私の唇に重なっているのは……えっと、え?
え?
……ちゅっちゅ?
ちゅっちゅしてるの?
私が? メリーと?
えっ、なにこれ、もしかして夢なの?
それとも夢みたいな現?ゆめうつつ?ゆめうちゅちゅ?
あ、ちゅっちゅしてるわ。これ。
私は今、メリーとちゅっちゅしていた。
それを認めた時にはその行為はもう終わっていて、唇をはなすと、糸が引いた。決して短い時間で出来るものじゃない。
「うん、おいし」
少し恥ずかしげな表情でメリーは言うけど、何も言葉を返せない。
さっきとはうって変わって頭が真っ白だ。悟りでも開いたかのようである。
「私は煙草の味より、煙草を吸ってる蓮子の味の方が好きだなー、なんて」
でもとりあえず、メリーが何を言っているのかは分かったので、私は期待の眼差しのもと、煙草をもう一本くわえて火をつけた次第である。
「あ、ごめん蓮子、そろそろ授業だわ。あの教授ちょっとでも遅れると出席票とってくれなくて。じゃあね」
去っていくメリーの背中を眺めながら、私は一人物憂げな表情で煙草をふかしながら黄昏た。
まぁやっぱり、攻めるのはメリーですよね
でもメリー視点だと蓮子も魅力的そうなところがよかったです。
ちゅっちゅ
誘ったり責めたり焦らしたりとメリーさんマジ妖艶です
秘封はこの浮いてる感じがマッチしますね
シリアスでもないけどだだ甘でもない秘封は貴重ですぜ。まさにタバコの煙のような甘さ
一人称だとこういう表現もあるんですね
ていうか有害じゃないタバコってもはやタバコじゃねえだろそれ、イメージできない
蓮子もやればできるじゃないか