※この作品はとても重たい作品です。
幻想郷の崩壊の他、東方キャラが酷い目に遭ったりします。
そういったものが苦手な方はご注意下さい。
人類は滅亡しました。外の世界の人類は滅亡しました。
開拓をしました。ビルを建てました。世界を手中に収めました。
たくさんの生き物を滅ぼしました。たくさんの自然を壊しました。
空気を汚しました。海を汚しました。土を汚しました。
そうしてとうとう自分たちも汚してしまいました。
汚れてしまったらもう生きていられません。
人類は滅亡しました。外の世界の人類は滅亡しました。
天狗がばら撒いた号外の表紙にはこの文だけが掲載されていた。
裏面には人類滅亡の理由が書かれていたが、文章が滅茶苦茶で読めたものではない。辛うじて、人類が自然を壊しつくして自分たちの住める環境さえも壊してしまったことが読み取れた。天狗も相当焦って号外を発行したようだ。
ゴシップ好きの天狗とはいえ売り上げ目的でこんな不誠実で色んな方面に喧嘩を売っているようなものを書くことはしない筈。しかし天狗の手綱を握る鬼や神が動かない事から、この号外は全て本当のことが書かれているのだろう。
私、藤原妹紅はこれを読んで、腹がよじきれるほど笑ったものだ。涙が枯れるほど泣いたものだ。
人であり人でない私は人間の歴史をずっと見てきた。ある勢力が繁栄しては衰退し、また別の勢力が繁栄しては衰退し、これの繰り返しだった歴史。
このことからいずれは人類そのものも衰退してしまうのではと考えていた。歴史を教科書に衰退を防ぎ、次の繁栄の礎となるのを期待していた。しかし人間は懲りることなく同じ道を歩んだ。
いつしか私は人間に幻滅した。その幻滅が、私を幻想郷へと誘うきっかけの一つとなったのだろう。
人間がいつ滅びるのか楽しみだった。同時に滅びの運命を少しでも遅らせてほしかった。
そして結果は、人間のあまりにも早い絶滅。
人間は学ぶ事も変わる事も出来ない愚かな生物種だったのだと結論付けた。
だがしかし。私も元人間なのだ。その愚かな生物種だったのだ。
私は人間の愚かな結末を笑うだけで、外の世界の人類が滅亡、これがもたらす意味に気づかなかった。
幻想郷という土地は外界と隔離されているため忘れがちになるのだが、実は外界に依存した空間なのだ。
外界で忘れられたものが流れ着く幻想郷。人間が忘れるから幻想がある。幻想があるから幻想郷がある。
では人間がいなくなってしまえば、どうなるのだろうか。
答えは簡単だ。幻想が無くなる。幻想郷が無くなる。
はじめに妖精が消えた。
幻想郷と外界を隔てる壁が無くなった時、外界の汚染された自然環境は瞬く間に幻想郷の手付かずだった自然を汚染し、破壊した。
木々は枯れ、得体の知れない煙が空を覆い雨すらも濁る。
自然は取り返しのつかない被害をうけ、自然の力の象徴だった妖精たちはその姿を保てなくなった。
次に人間が消えた。
外界よりはるかに劣った文明の中で慎ましく生活していた人間は、汚染された自然に対処する術を持たなかった。
食べるもの、飲むもの、終いには吸うものすら無くなってしまった。
妖怪達は人間を救うためありとあらゆる手を尽くした。だが妖怪の賢者の力を持ってしても、人間を守ることはできなかった。
最後の人間が息を引き取ると、それに呼応するように妖怪達も姿を消した。外界にも幻想郷にも人間がいなくなってしまった今、妖怪達は完全に忘れられた存在となってしまい、本当の死を迎えたのだ。
人間に依存していたのは妖怪だけではない。妖獣も、幽霊も、神でさえも。この世界からいなくなってしまった。
そして、残ったのは、私の知る限りでは三人だけだ。
不老不死の力を得、輪廻転生の輪から外れた蓬莱人だけだ。
誰もいなくなった世界で、私は輝夜や永琳と合流し、三人で辛うじて生活していた。
輝夜なんかと一緒に暮らすのはとても癪だった。きっと輝夜も同じだっただろう。実際何度もぶつかりそうになったことがあった。永琳がいなければ私達は喧嘩別れをしただろう。
今はそんなちっぽけな感情に振り回される場合ではない。こんな過酷で寂しい世界、誰かと一緒にいなければたちまち心が死んでしまう。
だが、もう限界だった。
生き物の気配が無い。食べるものがない。
水もない。雨水も湖水も大気中の汚染物質をたっぷり含んでおり渇きを潤さずに体を蝕んだ。
もはや空腹は感じず、汚染された空気は息をすることすら躊躇われる。
私達は死んでは生き返った。何度繰り返したか、思い出すこともできない。
一度死んでしまえば、私達は健康体として蘇ることができた。だがそれはまた再び死の苦しみを味わうだけ。
体は元気でも、心がどんどん疲弊する。
輝夜の腕の中で泣いたこともあった。
輝夜も一緒に涙を流してくれた。
私も輝夜も限界が近かった。
ある日、永琳が私達を湖に連れ出した。呟くように彼女は言った。もう終わらせましょう。
終わらせる、の意味がわからずに輝夜と顔を見合わせる。姫と呼ぶにはあまりにみすぼらしい、ほほのこけた顔が疑問符を浮かべていた。きっと私も同じ顔をしているのだろう。
問いただすと、私達もこの世界から消えてしまおう。とうとう永琳までもがおかしくなってしまったのかと思ったが、彼女の視線は正気のそれだった。
私達は蓬莱人。一体何をすれば消えるのやら。凡人の私にはまったくわからなかったが、永琳は違う。
曰く、蓬莱人は不老不死である。その仕組みは体にどんな損傷を負おうとも絶対に死なないのではなく、死んでもまた生き返ること。
では、生き返ることの出来ない場所で死ぬとどうなるのか? 例えば浮かび上がることの出来ない水底、決して消えることの無い業火の中で命を絶てば、どうなるのか。
宝来人は死に続ける形となり、決して生き返ることはないのではないか。これが永琳の考えだった。
確かにそうかもしれないけれど。私と輝夜には踏ん切りがつかなかった。
そんな私達の目の前で、永琳はたくさんの石を拾い、服の中に入れる。何をしようとしているのかはすぐにわかった。けれど、止めなかった。
石によって着膨れた永琳は湖の前に立った。
今から私は入水する。もし水底でも生き返ってしまったら石を捨てて戻ってくる。数日経っても戻らなかったら、私は水底で永遠に眠っている証拠。後は好きになさい。私を救うもよし、忘れるもよし、真似するもよし。
濁った湖に波紋が生まれ、永琳が消えた。
私達は畔の枯れ木に腰を下ろし、ただ時が過ぎるのを待った。
数日経った。
永琳は戻ってこなかった。
私達は永琳の真似をすることにした。手ごろな石を片っ端から服の中に入れ、水に沈みやすいようにする。
着膨れたお互いを見て笑った。嗚呼、こんな風に笑えたのは暫くぶりだ。
一通り笑い終えたら、さあ、時間だ。輝夜と手を繋いで、こんな寂しい世界からはおさらばだ。
湖の中も濁りきっていて何も見えない。石の重みで体はどんどん沈んでゆく。けれど繋いだ手は決して離れる事はなくて、それだけでなんだか安心した。
胸が熱くなり、口から巨大な気泡が吐き出された。体は新しい酸素を欲するが、沈み行く水中にそんなものどこにもない。
まるで息をするように肺に水が入った。頭の中に霞が生まれ、少し楽になった。
今輝夜はどこにいるだろうか。まだ手は繋がっているだろうか。私と同じように心地良い苦しみを感じているだろうか。
沈んでいた体が止まった。気持ち悪いぬるぬるやごつごつした小石のようなものが体に触れている気がする。水底に辿り着いたのだ。
その感触に混じって硬いものがあった。きっと、それは。繋いだ手を必死に持ち上げ、輝夜と一緒にそれに触れる。
また水が肺に進入し、微かに見えていた水底の世界が真っ暗になった。
ここならばもう生き返る事は出来ない。私は、いや私達はここで死に続ける。
死後の世界、か。これまで何度も何度も死んだけれど、到達するのはこれが始めてだ。そこにはいなくなってしまった皆がいるのだろうか。
寂しくも苦しくも無い。ずっと独りだった。終わりは来ないと諦めていた。けれど今はどうだ。私の傍には二人がいて、今まさに終わりを迎えているのだ。
これ以上の幸せは無い。
可哀想。
読んでて気分がよくなりましたか?
偶々東方に死なないキャラクターがいるから思い付いたことをやらせた感じでした。
二次創作だから別に厳守しなくてもいいと思うけど
かといってたいしたオチもなく入水だけで終わっても……
死ぬからかわいそうなんてのは本質を理解していない。
もう少し広げてくれれば・・・!
ただ東方キャラが死ぬだけの悪趣味な話ではないと、私は感じます。
というホラー的なオチを期待してた。
作者様が「不老不死になんてなるものじゃない」と感じておられるのなら、
延々窒息し続けて苦しむだけという終わりでもよかったんじゃないかなぁと。
書いた本人は面白いとでも思ったの?
早すぎたんやな・・・・・・沈むのが!
作品するには、もう少し深く潜るといいよ。色々と