遅いお帰りでしたね、姫様。いかがでしたか。
その様子でいらっしゃいますと、また見つからなかったようですね。竹林の家にも行ってみたのですか……あんなところまで。釜戸(かまど)に蜘蛛の巣が張っていた? 誰もいなくなってからかなり経っているようですね。
まあ、気にすることもないでしょう。これまでは時折やってきた彼女を迎え撃っていただけなのですから、同じようになさるのが一番ですよ。来ないなら来ないでよろしいではないですか。散策ついでの探索というのもたまにならば悪くないでしょうが、こうたびたびの外出ではお召し物も汚れますし、お体に障りますわ。
てゐに尋ねてみる? ああ、なるほど。確かに竹林のことなら詳しいでしょうね。しかし、以前に私の方で聞いてからそう間も空いておりませんし、期待なさるような情報は得られないかと……あら、それでもお聞きになる?
えぇと、困りましたわね。というのも、今現在屋敷の中にいるのは確実なのですが、どこにいるのかわからなくて。いえ、矛盾したことは言っておりません。いたずら好きなあの子のこと、カクレンボだって得意なのは姫様もご存じでしょう。こちらから見つけるのは至難の業ですわ。ただ、根気よく探せばあるいは。どうします?
他の者を呼ぶ? それは──ああ、鈴仙ですか。そうですね、良い着眼点です。てゐのいたずらに引っ張られて竹林の中を迷子になる、といったことは今までもよくありましたから。思いがけない所で思いがけない情報を得ているかもしれませんわね。私も失念しておりました。ああ、でも今すぐに会うというのはご勘弁ください。ええ、ちょっと手が離せないと言いますか、ともかく夕餉(ゆうげ)の時には対面するようにいたします。申し訳ありません。
まあ、とりあえずは屋敷の中でお休みください。お食事もお湯も用意してありますわ。料理の方は慣れないものでお口に合うかわかりませんけれど。ええ、今夜は私が作りました。一人で、です。誰の助けも借りてませんよ。私の手料理、不安ですか? ふふっ、そうですか。そう言っていただけると腕を振るったかいがあったというものです。是非ご賞味くださいね。
では、中へ──あら、いけなかった。裏口から入らないと。
いえ、ちょっと散らかっているもので。なにしろ久々でしたから、不作法と非難されても仕方ないことをやってしまいましたわ。すみません、私の失敗です。いいえ、実験ではありませんよ。料理でもありません、と、そうでもなかったかしら?
詳しくは中でご説明しますわ。さあさ、どうぞこちらへ。
どうしました? 私の顔に何かありますか。そんなに見つめられると恥ずかしいのですけれど。もしかして惚れ直しました? ふふ、冗談ですよ。
気になることがあったのかもしれませんが、何もありませんよ。いつも通りです。以前の通り。以前の「いつも」ですわ。
ええ、まずはご入浴なさいますか。良いお湯加減になっていますよ。よろしければお背中お流しいたしますわ。あらあら、そんなに赤くなって。昔はよくやらせていただきましたのにね。
では、ご入浴の間にお布団を敷いておきますね。お疲れでしょうからお休みも早い方が良いでしょう。お膳も並べておきます。精が付くものですよ。たくさんお召し上がりください。
え? お弁当ですか。できないこともありませんけれど……なぜです?
白沢の所に、行く、と。意味はないと思いますわ。何度も確認しています。彼女の所にも全く来ていないとのことですよ。行方知れずで、あちらからも何かわかったことがあったら教えて欲しいと──それでも行きたいとおっしゃるのですか。ウサギたちの報告だけでは満足できない。ご自分の目で、耳で、確かめてみたいと。そうでなければ納得できないと。そう……そこまで、ですか。ふふっ。
ふっ、ふふふっ、うふふふふっ。い、いえっ、何でも、ふふふふふっ、何でもありませんわ、あはははははっははははははっ! あはははははっはははははっははっははははっはははは!
も、申し訳ありません。しかし──ふふっ──しかし、どうしてこれが笑わずにいられましょう。やはり正解だったのですわ。月の頭脳は地上に堕ちても輝きに曇りが掛かることはなかった! あはははははっ!
行かせられるはずがないでしょう、人里などに。あのような穢れた所に。あのような下賤で下卑た下衆どもが群れる掃き溜めなどに。穢れで穢れてしまいますわ。姫様は永遠に綺麗でなくては。穢れとは無縁でいてくれなくては。ええ、そうでなければなりませんわ。
なのになぜ? なぜ執着するのです。あのような……あのような穢れた地上の穢れた娘に! なぜ! なぜです! あなたが穢れてしまうでしょう!?
あなたが地上に堕とされたとき、私は寂しくありませんでした。不安でもありませんでした。むしろ幸せでしたわ。だって、蓬莱の薬を飲んでくれたのですもの。同じ薬を飲んだ私は、姫様と同じ世界に存在していました。永久の時の中では、地球と月ほどの隔たりも、あってないようなものです。
私の導くままに創り、私の促すままに飲み、私の勧めるままに生きた。あなたは私の願う通りに永遠の檻へ入ってくれましたわ。不死の世界で二人きり。これ以上の幸せがあるでしょうか。
あの小娘がこの世界に入ってきたとき、それでも正直歯牙にも掛けていませんでした。あなたの戯れで創ったもう一壺の不死薬、まさか飲む者がいるとは思ってもみませんでしたけれど、万が一飲まれたところで問題はないと考えていたのです。
瞬きの間に消えて無くなるような存在が、永遠の命を得たところで心が付いていけるはずがありませんもの。
自然の摂理から外れる恐怖。周囲から取り残される悲痛。重荷が延々と重なり、決して終わることのないという重圧。地上人が持ち得ないこれらによって、遠からず壊れてゆくものと思っていましたわ。
けれどしぶとく生き長らえましたね。身勝手な恨みの感情を灯火にして、明けることのない夜をさすらってきたのです。
正直侮っていたとは存じます。いえ、それだけならばまだ些事とできたのですわ。それだけならば……
なぜなのでしょうね? 私にとって、ほんの少しでも姫様との間に入り込まれるのは神経に障るというのに、なぜ。
ああっ! 理解できません! なぜです! なぜあなたはあんな下女に関わろうとするのです! ふと抱いた興味などいずれ雲散霧消するだろうと思ってましたのに、なぜあなたの方からッ!
だからこそ、結界を張って迷わせたり、他の者をけしかけて争わせる余興を提案したり。いずれもあなたの興味の喪失を早めるためのものだった。なのに。
なのに、私の想いとは裏腹に、あなたはあの女に対する興味をますます強めていった。あなたはご自身の姿を、表情を、知っておられますか? あの娘と殺し合っているとき、どれほど輝いていたかをご存じですか?
あの子が憎悪の炎を燃やすとき、あなたは愉悦の光で瞳をきらめかせるのですわ。あの子が悲哀の陰りで顔をふと曇らせると、あなたは憐憫と共感が入り混じったその何とも言えないお顔が安らぐのですわ。あるいは互いがその表情を替えることもありましたっけ。
喜怒哀楽の全てがそこにありました。あんな鮮烈なやり取りは今まで見たことがなかった。私には決して見せることのなかったあなたの──輝夜の──。
目まぐるしく、しかし色あせずに流れ、ますます鮮やかに、強く輝いていくその日々を、私はいつまで見つめ続けなければならないのでしょう。あなたとあの子の交接を、いつまで? 永遠の命を持った者同士の姿を、永遠の命を持った傍観者は、いつまで?
…………永遠に?
いいえ、そんなことは許されませんわ。絶対に、許しません。私とあなたの世界は変化させてはならない。どんなことをしてでも。
あなたがいけないのですよ。私の考えが杞憂であるならばとも思ったのですが、先ほどの言葉、自ら人里に下りてあの子のことを聞くなどというのは、私の行為の正しさを裏付けてしまいましたわ。今までしたこともないようなことをする、それは今回に限ったことではありませんけれどね、その度、私の鬱屈は澱(よど)んでいったのですよ。
もうあの子に会うことはできません。私がそのようにいたしました。死ぬことはありませんけれど、各所に封印しておきましたから身動きは取れない状態です。それどころかものも考えられないでしょうね。頭部は特に念入りに分割いたしましたので。あまりにあちこちに封じましたので、行った私自身も全ての場所はもう把握できませんわ、うふふ。
私とあなたの世界。二人だけの場所。そこではあなたは私だけを見ていれば良いのです。それ以外は要りません。あなたが私の他に興味を持ちそうなものは、全て無くなってしまえば良いのです。永遠の檻の中で二人で生きていくにはそうでなくてはなりませんわ。
てゐがどこにいるかわからないと言いましたね。屋敷の中で、床と言わず、壁と言わず、散らばっておりますわ。他のウサギたちと一緒に。みんな一緒くたになってしまったので、どれが誰だかわからないのですよ。言い訳するのではありませんけど、手早くたくさん処理することと、自分の服を汚さないことだけで一杯一杯でしたので。ただ、掃除が大変な状態になってしまいましたし、その点は謝罪しますわ。
ああ、でも鈴仙ならばわかりますよ。臭みを風味と転じさせることに成功したかはわかりませんが、難儀しただけあって一応の成果は出ているかと自負しております。精も付くことですし、是非ご賞味下さい。月のウサギの肉なら不浄でもないでしょう。
あらあら、なぜ泣くのですか。かつて月の使者たちを皆殺しにさせたあなたが、今更何を厭うのでしょう。それに、私たち永遠の住人からすれば、泡沫の命など意識に止める必要すらないはず。姫様は私だけがいれば良いのですよ。私だけを見ていてくだされば良いのです。そう言ったでしょう?
っと、いけません。
感情に任せて行動するにしても、少しは策を使いませんとね。発動の速さ、弾の威力だけでも、私はあなたを遙かに凌駕(りょうが)していますもの。身に染みていただけました?
ほら。
ですからね、正面からの単純な攻撃は無駄なのです。同じことをしても同じ結果にしかなりませんよ。左の腕まで千切れてしまったではありませんか。痛みに慣れているから、物覚えがよろしくないとか?
では、ついでですから両の脚にも弾を当てておきましょうか。ええと、そんなに暴れられると狙いが付けづらいですわ。まあ、でもこのくらいなら、
はい、はい、と。
お召し物の上からでも上手く命中したようですね。
ああ、もう、何て良い声で鳴くのですか。肺腑の空気を全て吐き出すかのよう。心の中身を完全に放出するかのよう。私の手によって為された、私の目の前で為される、あなたの叫び。もっとお聞かせください。
さあさ、私の膝の上へどうぞ。懐かしいですね、この膝枕。ここで声を張り上げてください。私に幸せをお与えください。
どうかしましたか? お声が小さくなっておりますよ。……ふふっ、そうですか、痛み以上の感情が湧いてきたのですね。ああ……良い。良い目をしています。私への憎悪で燃えています。それだけでなく様々な──恐怖、憐憫、困惑、侮蔑、憤怒などが溶け合って坩堝(るつぼ)の如くです。
それが欲しかったのですよ。今、あなたの全ての感情が私に向けられています。あなたの目には私だけが映っています。どうか今後も永遠に、あなたの網膜に私だけを焼き付けてください。その願いと共に、私の親指で今の瞳をあなたの中に押し込みましょう。
再生しきったら、全身全霊で私を殺しに来てくださいね。私はあなたを何度でも、何度でも殺してさしあげましょう。そうして至福の時を刻むのですわ。永遠に、永久に、いつまでも。二人だけの世界で。
その様子でいらっしゃいますと、また見つからなかったようですね。竹林の家にも行ってみたのですか……あんなところまで。釜戸(かまど)に蜘蛛の巣が張っていた? 誰もいなくなってからかなり経っているようですね。
まあ、気にすることもないでしょう。これまでは時折やってきた彼女を迎え撃っていただけなのですから、同じようになさるのが一番ですよ。来ないなら来ないでよろしいではないですか。散策ついでの探索というのもたまにならば悪くないでしょうが、こうたびたびの外出ではお召し物も汚れますし、お体に障りますわ。
てゐに尋ねてみる? ああ、なるほど。確かに竹林のことなら詳しいでしょうね。しかし、以前に私の方で聞いてからそう間も空いておりませんし、期待なさるような情報は得られないかと……あら、それでもお聞きになる?
えぇと、困りましたわね。というのも、今現在屋敷の中にいるのは確実なのですが、どこにいるのかわからなくて。いえ、矛盾したことは言っておりません。いたずら好きなあの子のこと、カクレンボだって得意なのは姫様もご存じでしょう。こちらから見つけるのは至難の業ですわ。ただ、根気よく探せばあるいは。どうします?
他の者を呼ぶ? それは──ああ、鈴仙ですか。そうですね、良い着眼点です。てゐのいたずらに引っ張られて竹林の中を迷子になる、といったことは今までもよくありましたから。思いがけない所で思いがけない情報を得ているかもしれませんわね。私も失念しておりました。ああ、でも今すぐに会うというのはご勘弁ください。ええ、ちょっと手が離せないと言いますか、ともかく夕餉(ゆうげ)の時には対面するようにいたします。申し訳ありません。
まあ、とりあえずは屋敷の中でお休みください。お食事もお湯も用意してありますわ。料理の方は慣れないものでお口に合うかわかりませんけれど。ええ、今夜は私が作りました。一人で、です。誰の助けも借りてませんよ。私の手料理、不安ですか? ふふっ、そうですか。そう言っていただけると腕を振るったかいがあったというものです。是非ご賞味くださいね。
では、中へ──あら、いけなかった。裏口から入らないと。
いえ、ちょっと散らかっているもので。なにしろ久々でしたから、不作法と非難されても仕方ないことをやってしまいましたわ。すみません、私の失敗です。いいえ、実験ではありませんよ。料理でもありません、と、そうでもなかったかしら?
詳しくは中でご説明しますわ。さあさ、どうぞこちらへ。
どうしました? 私の顔に何かありますか。そんなに見つめられると恥ずかしいのですけれど。もしかして惚れ直しました? ふふ、冗談ですよ。
気になることがあったのかもしれませんが、何もありませんよ。いつも通りです。以前の通り。以前の「いつも」ですわ。
ええ、まずはご入浴なさいますか。良いお湯加減になっていますよ。よろしければお背中お流しいたしますわ。あらあら、そんなに赤くなって。昔はよくやらせていただきましたのにね。
では、ご入浴の間にお布団を敷いておきますね。お疲れでしょうからお休みも早い方が良いでしょう。お膳も並べておきます。精が付くものですよ。たくさんお召し上がりください。
え? お弁当ですか。できないこともありませんけれど……なぜです?
白沢の所に、行く、と。意味はないと思いますわ。何度も確認しています。彼女の所にも全く来ていないとのことですよ。行方知れずで、あちらからも何かわかったことがあったら教えて欲しいと──それでも行きたいとおっしゃるのですか。ウサギたちの報告だけでは満足できない。ご自分の目で、耳で、確かめてみたいと。そうでなければ納得できないと。そう……そこまで、ですか。ふふっ。
ふっ、ふふふっ、うふふふふっ。い、いえっ、何でも、ふふふふふっ、何でもありませんわ、あはははははっははははははっ! あはははははっはははははっははっははははっはははは!
も、申し訳ありません。しかし──ふふっ──しかし、どうしてこれが笑わずにいられましょう。やはり正解だったのですわ。月の頭脳は地上に堕ちても輝きに曇りが掛かることはなかった! あはははははっ!
行かせられるはずがないでしょう、人里などに。あのような穢れた所に。あのような下賤で下卑た下衆どもが群れる掃き溜めなどに。穢れで穢れてしまいますわ。姫様は永遠に綺麗でなくては。穢れとは無縁でいてくれなくては。ええ、そうでなければなりませんわ。
なのになぜ? なぜ執着するのです。あのような……あのような穢れた地上の穢れた娘に! なぜ! なぜです! あなたが穢れてしまうでしょう!?
あなたが地上に堕とされたとき、私は寂しくありませんでした。不安でもありませんでした。むしろ幸せでしたわ。だって、蓬莱の薬を飲んでくれたのですもの。同じ薬を飲んだ私は、姫様と同じ世界に存在していました。永久の時の中では、地球と月ほどの隔たりも、あってないようなものです。
私の導くままに創り、私の促すままに飲み、私の勧めるままに生きた。あなたは私の願う通りに永遠の檻へ入ってくれましたわ。不死の世界で二人きり。これ以上の幸せがあるでしょうか。
あの小娘がこの世界に入ってきたとき、それでも正直歯牙にも掛けていませんでした。あなたの戯れで創ったもう一壺の不死薬、まさか飲む者がいるとは思ってもみませんでしたけれど、万が一飲まれたところで問題はないと考えていたのです。
瞬きの間に消えて無くなるような存在が、永遠の命を得たところで心が付いていけるはずがありませんもの。
自然の摂理から外れる恐怖。周囲から取り残される悲痛。重荷が延々と重なり、決して終わることのないという重圧。地上人が持ち得ないこれらによって、遠からず壊れてゆくものと思っていましたわ。
けれどしぶとく生き長らえましたね。身勝手な恨みの感情を灯火にして、明けることのない夜をさすらってきたのです。
正直侮っていたとは存じます。いえ、それだけならばまだ些事とできたのですわ。それだけならば……
なぜなのでしょうね? 私にとって、ほんの少しでも姫様との間に入り込まれるのは神経に障るというのに、なぜ。
ああっ! 理解できません! なぜです! なぜあなたはあんな下女に関わろうとするのです! ふと抱いた興味などいずれ雲散霧消するだろうと思ってましたのに、なぜあなたの方からッ!
だからこそ、結界を張って迷わせたり、他の者をけしかけて争わせる余興を提案したり。いずれもあなたの興味の喪失を早めるためのものだった。なのに。
なのに、私の想いとは裏腹に、あなたはあの女に対する興味をますます強めていった。あなたはご自身の姿を、表情を、知っておられますか? あの娘と殺し合っているとき、どれほど輝いていたかをご存じですか?
あの子が憎悪の炎を燃やすとき、あなたは愉悦の光で瞳をきらめかせるのですわ。あの子が悲哀の陰りで顔をふと曇らせると、あなたは憐憫と共感が入り混じったその何とも言えないお顔が安らぐのですわ。あるいは互いがその表情を替えることもありましたっけ。
喜怒哀楽の全てがそこにありました。あんな鮮烈なやり取りは今まで見たことがなかった。私には決して見せることのなかったあなたの──輝夜の──。
目まぐるしく、しかし色あせずに流れ、ますます鮮やかに、強く輝いていくその日々を、私はいつまで見つめ続けなければならないのでしょう。あなたとあの子の交接を、いつまで? 永遠の命を持った者同士の姿を、永遠の命を持った傍観者は、いつまで?
…………永遠に?
いいえ、そんなことは許されませんわ。絶対に、許しません。私とあなたの世界は変化させてはならない。どんなことをしてでも。
あなたがいけないのですよ。私の考えが杞憂であるならばとも思ったのですが、先ほどの言葉、自ら人里に下りてあの子のことを聞くなどというのは、私の行為の正しさを裏付けてしまいましたわ。今までしたこともないようなことをする、それは今回に限ったことではありませんけれどね、その度、私の鬱屈は澱(よど)んでいったのですよ。
もうあの子に会うことはできません。私がそのようにいたしました。死ぬことはありませんけれど、各所に封印しておきましたから身動きは取れない状態です。それどころかものも考えられないでしょうね。頭部は特に念入りに分割いたしましたので。あまりにあちこちに封じましたので、行った私自身も全ての場所はもう把握できませんわ、うふふ。
私とあなたの世界。二人だけの場所。そこではあなたは私だけを見ていれば良いのです。それ以外は要りません。あなたが私の他に興味を持ちそうなものは、全て無くなってしまえば良いのです。永遠の檻の中で二人で生きていくにはそうでなくてはなりませんわ。
てゐがどこにいるかわからないと言いましたね。屋敷の中で、床と言わず、壁と言わず、散らばっておりますわ。他のウサギたちと一緒に。みんな一緒くたになってしまったので、どれが誰だかわからないのですよ。言い訳するのではありませんけど、手早くたくさん処理することと、自分の服を汚さないことだけで一杯一杯でしたので。ただ、掃除が大変な状態になってしまいましたし、その点は謝罪しますわ。
ああ、でも鈴仙ならばわかりますよ。臭みを風味と転じさせることに成功したかはわかりませんが、難儀しただけあって一応の成果は出ているかと自負しております。精も付くことですし、是非ご賞味下さい。月のウサギの肉なら不浄でもないでしょう。
あらあら、なぜ泣くのですか。かつて月の使者たちを皆殺しにさせたあなたが、今更何を厭うのでしょう。それに、私たち永遠の住人からすれば、泡沫の命など意識に止める必要すらないはず。姫様は私だけがいれば良いのですよ。私だけを見ていてくだされば良いのです。そう言ったでしょう?
っと、いけません。
感情に任せて行動するにしても、少しは策を使いませんとね。発動の速さ、弾の威力だけでも、私はあなたを遙かに凌駕(りょうが)していますもの。身に染みていただけました?
ほら。
ですからね、正面からの単純な攻撃は無駄なのです。同じことをしても同じ結果にしかなりませんよ。左の腕まで千切れてしまったではありませんか。痛みに慣れているから、物覚えがよろしくないとか?
では、ついでですから両の脚にも弾を当てておきましょうか。ええと、そんなに暴れられると狙いが付けづらいですわ。まあ、でもこのくらいなら、
はい、はい、と。
お召し物の上からでも上手く命中したようですね。
ああ、もう、何て良い声で鳴くのですか。肺腑の空気を全て吐き出すかのよう。心の中身を完全に放出するかのよう。私の手によって為された、私の目の前で為される、あなたの叫び。もっとお聞かせください。
さあさ、私の膝の上へどうぞ。懐かしいですね、この膝枕。ここで声を張り上げてください。私に幸せをお与えください。
どうかしましたか? お声が小さくなっておりますよ。……ふふっ、そうですか、痛み以上の感情が湧いてきたのですね。ああ……良い。良い目をしています。私への憎悪で燃えています。それだけでなく様々な──恐怖、憐憫、困惑、侮蔑、憤怒などが溶け合って坩堝(るつぼ)の如くです。
それが欲しかったのですよ。今、あなたの全ての感情が私に向けられています。あなたの目には私だけが映っています。どうか今後も永遠に、あなたの網膜に私だけを焼き付けてください。その願いと共に、私の親指で今の瞳をあなたの中に押し込みましょう。
再生しきったら、全身全霊で私を殺しに来てくださいね。私はあなたを何度でも、何度でも殺してさしあげましょう。そうして至福の時を刻むのですわ。永遠に、永久に、いつまでも。二人だけの世界で。
輝夜にできる最大の反撃は、永琳から興味を無くして無視する事かな。
たぶん発狂してくれる。
これくらい歪んでる永琳も大好きだわぁ。
でも、この感じ好き
だが、鈴仙への呼び方は「うどんげ」だった筈
それと読み方の括弧書きが邪魔で狂気の流れを阻害しているような
でも、話としてはありかなとも思います。