「どうだい店主、これは。沢山あるところを見ると、そんなに価値のあるものではなさそうだが」
「ふむ、これは」
ちらりと一瞥しただけであまり興味なさげにしている。多少の価値があれば、これだけの数だ、
なかなかの収入になると思ったのだが。
「これはトランジスタ[1]という。この真ん中の足に“琥珀力”とも“エレクトリカ”ともいう不可視の力をかけることで、
両端の足が特定の方向で琥珀力を伝播するようになるのさ」
なるほど、それは興味がなくなるな。魔法でも妖力でもない力に作用する物品となれば、この世界では無用の長物だろう。
みみっちくも岩場の隙間に大量に挟まっていたのを全て集めてきたのは、徒労に終わってしまったということか。
「つまり箸にも棒にもかからない、屑というわけか」
「そうでもないさ。なぜならこれは河童達に、量さえあればそれなりの価格で売れるからね。
しかし、僕には興味をまったく持てないというのも、否定できない事実だ。その価値では君の言うように屑なのだろう」
いったいこんな小さなものを何に使うのだろうか。まあいい、零でないというだけで、
私の痛めた腰も報われるというものだ。しかしまったく気に入らないな。手に入れた物の価値がわからねば、
一生、私はこの店主による中間搾取を受けず、見つけた宝を価値どおりに売りさばくことはできない。
もちろん、私の本業は別であり、宝探しは生き甲斐と言いつつも副業であるからして、
自分で一つ一つ調べずに、直に売りたいものを現金化できるのは良いのだが。
「そうか、その袋一杯でいくらになるかね」
ふと目に入った、先日買い取らせた銅塊に付く、買い取り価格の三倍額の値札。口に苦いものが走るな。
「どれ、計数してみようか。三、六、九、十、三、六……」
なかなか多く集められたものだから、時間がかかるだろう。この店主の性質的に、不正のようなことは行わないようであるから、
しばらくこの店内で宝探しでもしてみるか。不注意を指摘する魔法道具でもあれば儲けものだ。
わが敬愛なる主人の宛名の書き間違い、仏具の過失的破損及び覚え書きの紛失などの不注意をもし無くすことができれば、
彼女も作られた優秀から真の優秀に進化を遂げ、私は晴れて後始末業務から開放されるというわけだ。
「ふむ、商品名を書いた札をつけることにしたのか。いい心がけじゃないか。これでいちいち訪ねる必要も無くなる」
口にしてから思い出したが、店主が計数中であったのだった。今話しかけては店主の努力と私の待ち時間が無駄になりかねない。
む、なにやら興味をそそられる器具があるな。“鶏卵断割機……”ふん、英字か。フル…あうと、まちく。
「いいものに目をつけたね」
「なんだ、もう終わったのかい」
「それは“鶏卵断割機フルオートマティック”食べ物をおいしくする効果があるようだ」
「鶏卵断割という名称から見るに、主に鶏卵をおいしくするものであるのかな」
見た目上はどうも未確認飛行物体という感じだけれども、果たしてどのようにして効用を満足するのか見てみたい気もするな。
「お気に召したかな、早速然るべき商品説明の後、値段の交渉に入らせて貰いたいのだが」
「お断りだ。それで、買い取り額はどうなった」
仏頂面にわずかな変化が見られる。あいにくだがそのうさんくさい商品を買い取る気は無いぞ。
そろばんに提示されている金額、なるほど小遣いにはなるな。河童達が求めるというのなら、
直接知り合いに交渉しに行くのもいいが、果たしてこれが日常的に必要になるものなのかどうかが問題だ。
せっかくの商品も売れないのであれば倉庫の肥やしだ。買い取り手が容易に見つからない場合は、ここで手放すのが賢明だろう。
しかしそこに付け込まれて、店主が得するのを遠くから手をくわえて見ている、というのも気に入らない。
「このトランジスタという三本足の石がどう動くか、興味があるかい?」
「特に。私には必要なさそうだからね」
「河童達はこの石を大量に並べて用いるそうだ。この足同士を接触させて置くことによって、琥珀力を受けた石達が、
力の通る道筋を変えるように動き出すらしい。ナズーリン、君もこの石が動いているのを見たくないかい?」
なんだって、この黒い石が……。三本の足というのは、およそまともな生き物ではない。妖怪の類だというのか。
まるで、力を求めるように足を動かす石。いけない、想像しただけで気持ちが悪い。
湿った大岩をひっくり返した裏のような、ざわざわ、わさわさと蠢く大量の石達。
夕食前に聞くんじゃ無かったよ。なんて物を拾ってきてしまったんだ。気味が悪い。
「ちょうどここに微弱ながら琥珀力を起こす装置がある。僕も実際に動いたところは見たことが無いから、試して――」
ドンッ!
机に手のひらを叩きつければ、やはり面白くなさそうな顔で見返してくる。
いったいどんな趣味があるのかはわからないが、ここで退散させて貰おう。
「代金を支払ってくれたまえ。私はそろそろ失礼させてもらう」
まったくこの世界においては、変人偏屈が跋扈するのに何の障害も無いと見える。
ことさら、命蓮寺の仲間が良識を備えたすばらしい人物に見えるという、やや過剰な評価も挙がってくるわけだ。
にしても立て付けの悪い戸だ。力自慢の空っぽ共ばかりが客であるとは言え、私のような一般的女性客のための気も回すべきだな。
「おや、単価についての交渉は良いのかい」
ふう、魔法の森から人里までは随分遠いよ。この暑さじゃまいるね。店主もどうしてあんなところに店をだしたんだか。
きっと偏屈すぎて村八分にされたんだな。あんな男と毎日顔を合わせるなんて、確かに我慢のならないことだ。
さて小遣いも入ったことだし、少しこのあたりも見て回るか。ペンデュラムの反応は薄いが、
たまの当りを見つけるのがトレジャーハントの醍醐味だからな。しかしこんな熱い日中だというのに活気があるじゃないか。
団子屋には相変わらず、早朝に野良仕事を終え暇を持て余した人々が管を巻き、隣の呉服屋は相変わらず買いもしない客が出入り、
その隣の宿場でも軒先でなにやら陽気に話し合っている。薄黄土色の通りは陽光に輝き、端のどぶ板の隙間から草が伸びている。
そのすぐ先はひさしに陰を与えられたこげ茶の板壁。汗をかきながら道を行く人々、店でくつろぐ人々、
向かいの長屋の戸も開いたり閉じたり。町は活気づき、山に目をやれば原色の緑、空は瑠璃のように、目が覚めるほど青い。
実に夏らしい。これぞ風流というものだね。
「いらんかねー! 舶来氷菓、きんきんの一本! さあ買った買った!」
お、あれはアイスキャンデーの屋台じゃないか。
この暑い時期に甘く冷たいカリカリの歯ざわり。ご主人の分、いや、寺のみんなの分も買っておくかな。
「すまない、六、七本。いや念のために十と一本。いただけるかな」
「おや、めんこいお嬢ちゃんだ。お使いかい? 偉いねえ!」
「君、私の頭の上にあるものが見えないかね」
「お祭りで買ってきたのかい? よく似合ってるよ」
「違う、私は妖怪だ。ついでに君より年上でもある。子ども扱いはやめて頂きたいね」
「そりゃすまねぇ、あ、お嬢ちゃん、それ一枚でいいよ。そうそう、一人でお使いもできてしっかりものだ」
「頭を撫でるのはやめてくれないか」
「ほれ、かわいらしいお嬢ちゃんには、おまけにもう一本やるよ。くわっせ、くわっせ」
ふん、まったく気に入らない。レディを子ども扱いするとはマナーがなっていないな。
まあこんな田舎のしがないアイスキャンデー売りにそれを求めるのは、見当違いとはわかっているさ。
どれ、早速一本いただくとしようか。
「いただきます」
いい、実にいいな。薫風が鼻を抜ける。ラムネの香りとは実に清々しいものだ。レモネードを基に作ったというが、
このラムネの香りのほうが好きだな。氷の歯ざわりとあいまって実に、その、なんだ、官能的というか。
「おーおー、コリコリコリコリと、愛くるしい食べ方だねえ。ほっぺたまん丸にして」
「んく、んく、ふふふ、驚いたか。人間にはとても真似できない芸当だろう。自慢じゃないが、この歯なら柿の木も秒殺さ」
「そーかい、そーかい」
「しかし君もなかなか素敵な商売をしているじゃないか。このアイスキャンデーというやつは実に爽快だ。
これを皆に売り分けるというのは、徳が高い行いだと思うよ」
「お嬢ちゃん、あいすきゃん“でぃ”だよ、“でぃ”。本当に愛くるしいねえ」
完全に馬鹿にしているな。私が仏門に入っていなかったら、そのまま仏にしているところだったよ。君は実に運がいいね。
「もし」
ん、なんだ、この女の人は。知り合いではないようだが、いったい何の用事だろう。
紫の服に長い黒髪に、ややつり上がり気味の目。先日寺に来た入門者にも似ているが、違うな。
というかキャンデー売りといいこの女人といい、近すぎる。顔を見ようとすると首が疲れるじゃないか。
「なんの御用だろうか。入門であれば寺にて説明を行うので、道をお教えしよう」
「命蓮寺のお方ですね? 折り入ってお願いがあるのですが、聞き届けて頂けますでしょうか」
「ああ、私は一介の毘沙門天代理の補佐であるからして、お話を伺うことだけはできるが」
面倒ごとに巻き込まれてしまったな。アイスキャンデーのことを考えると、この後の古道具屋覗きはお預けかな。
「実は昨日、私の家に幽霊が現れたのです」
幽霊か、騒音でも立てているのかな。この暑いのに難儀なことだ。村紗船長に依頼すればすぐに解決、だといいが。
「寺としては、困っているものを無視はできないね、お聞かせ願おう」
「非常に恐ろしく、危険な幽霊でした。運よく私の父が買った命蓮寺の御守りに救われましたが、
あの幽霊は、必ず今日も来やると言い残して、身も凍るような形相で私を見つめながら消えていったのです」
これは大事だな。こういった荒事は一輪の方が向いているのだろうか。それともやはり幽霊のよしみであるし、
村紗船長に頼むのが適当なのかな。まあひとまず帰ってから検討するとするか。
検討を精到に行うためにも、十分な情報を聞きだしておくべきだろう。筆記具は確か籠に、お、あるある。
「具体的にどのような状況で現れ、どんな特徴を持つか教えてくれないか」
「そうですね、恐怖に凍っていたため、うまく思い出せないのですが、現れたのは昨日の夜の寝室、
時刻は子の刻より後だったと思います。髪は燃えるような金、女の幽霊でした。何か喋っていましたが、最後以外は、
何を言っていたかは覚えていません。歌のようなものが聞こえ、幽霊はただ、恐ろしい形相で私を笑い続けていました」
「なるほど、ではあと、君の家の入り口の方角と、近くの水場の位置と――」
「やあ、励んでいるかい」
ふむ、村紗船長に一輪雲山に、聖にご主人、ぬえもいるのか。しかし寺の中は屋根が高いせいか外に比べ涼しいものだ。
この畳の上で行儀悪くも足を投げ出し、アイスキャンデーを齧れば、吹いた汗もすぐにひくだろう。
「陣中見舞いだ。無縁塚の方は涼しいが、こちらはそうでもないだろう」
「やったー! ナズーリン大好き!」
「こんな気の効いたことをするなんて、わ、雲山の分も買って来てくれたの」
「あら、皆良かったわね」
「なんと、ナズーリン、ありがとうございます! 大好きなんですよこれ!」
「うわぁー! ア、イ、ス、キャンディーだ、あぁー!!」
ふふ、たまにはこういうのも悪くないかな。いやそれにしても、ご主人の笑顔は天使だな。買ってきた甲斐がある。
こっちまで顔がほころびそうだ。黙して立てば、精悍な美男子といった顔つきをしたご主人が、甘味を前にとろけ、
うっとりとして伏目がちにキャンデーと向き合い、あぁ、扇情的なその唇。瑞々しくなまめかしい。キャンデー、君は今幸せかい?
ご主人の舌の味はどうだい? 私は君に心から嫉妬するよ。ううっ、ふぅふぅ、そんな上から下まで……。
なんてことだ。往復するその赤い三角形が少しでも私に触れてくれたなら。だめだ、眩しすぎてめまいがする。
眩んでしまいそうだ。あ、しずくが垂れて、ほぉ、手首を舐めるとは。どこまでも私の、君で曇った眼を楽しませてくれる。
誘っているのかい? そうなんだね? いいのかな、私は君がキャンデーを味わい尽くすより、君を味わいつくす自信があるよ。
君のその手はどんな味がするのだろうね。きっと最上の甘露より濃密な味がするとは思わないか?
ふふっ、舐めたって君自身じゃわからないよ。君を想うこの心こそ、その味を引き出すエッセンスなのだから。
ああ、だめだよそんな。もっと優しく噛んでおくれ。痛いのは君からでも少しためらうよ。そう、もっと優しく。
私のことを挟み込んで欲しい。あ、キャンデーの棒を両手で持ったりして、なんと愛らしいことだろう。
そんなにせがまなくとも、今夜はお姫様の望むままさ。私の尻尾もそんな、懇願するように握ってくれるかい。
だめだ、ご主人の舌が出たり入ったりする度に、私のハートが心室細動してしまう。鎮まれ、鎮まれ私の血潮よ。
ドキドキと音が止まないよ。君が触れてくれたら、心の臓が私ごと飛び上がってしまう。
だめだめ、いけない。こんな暑い季節なのに、胸の中に暖かいものがあふれちゃう。ほっぺたもカイロを当てたようだ。
いいだろう、ご主人が私を悩殺するというのなら受けて立つよ。望むところさ。何回死んでも愛は死せず。
すなわち私は死せず。君のためなら今から私は不死身のナズーリン。ああっ! そのナズーリンの“ず”を発音するときの君の顔。
なんと、なんと心をくすぐるんだ。平常時は常にやや困り気味の眉と、輝きすぎて直視することが難しい瞳、
ふにゃふにゃと柔らかそうなゆるんだ頬。アンバランスにすっと筋の通った小気味良い鼻。そして、そして、そのすぼめられた唇。
天使かい? 天使なんだね? いやいい、言わずともわかるさ。しかし不思議だな。地上にいるのに私は極楽浄土を見ている。
これは幻覚ではないね、断言できる。君がこの世界に万の花を添えているのさ。いや、君自体が花だったかな。
色はすなわち空であるよ、というかの教えも、私になら断言できる、例外があると。そう君さ。
ご主人のこのご尊顔が存在しないと? それは無い。そんなこと言う奴がいたら両頬を張ってやるさ。
はあっ! ご主人、首筋を汗が伝っているよ! 私に見られてそんな風になってしまったのかい。なんていけない虎(こ)だ。
そうだ、アイスキャンデーを持ってきた報酬として、君の喉元を味わわせてくれないか。大丈夫、私は舌使いに自信がある。
君に恥をかかさない舌鼓を打って見せる所存だよ。それにしても何でご主人はそんな、ふわふわの襟付のゆったりした服を、
無駄にきつく巻いたさらしの上に着ているんだい。まったくそんなんだから参拝者の女性方からよこしまな目で見られるんだ。
いや、しかし逆でも男性方からより熱い視線を送られるだけか。まあいいさ、問題は無い。私がそんな邪悪から守ってあげる。
いつだって危険が迫れば君の前に立って、右よし、左よし、君によし。私と君の時間を邪魔する愚か者を、雲散霧消させてやる。
それにしても一体この病はどうしたら良いんだ、いや心配せずとも、手を当ててくれなくとも良いよ。
何せこの病は恋わずらい、君に心配されるとより悪化してしまうじゃないか。いいんだよ、照れながら手を引っ込めなくても。
もっともっと手遅れに、世界を股に掛ける医師が、その匙に価値を見出さなくなるまで[2]、二人の世界を楽しもうじゃないか。
大丈夫大丈夫、この恋の嵐は永遠に止まないよ。ふおあっ! ご主人、それはいけない! 唇を舐め回すなんて!
だめだよご主人、いくらアイスキャンデーがおいしいからといってそんなはしたない。上唇と下唇と舌先が絡み合って、
いったいどういうことだい! 興奮冷めやらないじゃないか! ふっ、だめだな私は。こんなことで熱くなってしまって。
清らかな気持ちを思い出すんだ、あの最初にご主人を意識し始めたころの。ああ、不思議な気持ちが、くわわる、くわわる。
この気持ちをいったいどこにぶつけたらいいんだ! 私は今全世界で一番憤っている。このあらがえない気持ち、愛について。
いやそんなことよりもだ、ご主人のあごから回って首元に結ばれるリボンまでの、頸部が悩ましい。
ご主人がじっとしている時間が許す限り、延々と見つめたい。あわよくば指で頸部をなぞりたい。
ちょっと道草して胸鎖乳突筋[3]を人差し指及び中指の二本で感じたい。ふうあぁ、ご主人の胸鎖乳突筋麗しすぎる。
ご主人が不思議そうに首を傾けたときの胸鎖乳突筋の張り加減について、一昼夜語り合う仲間がほしい。
できることなら本人と語り合いたい。いやわかっているさ、そんなのはもちろん絵空事だ。ご主人を前にしては、
いちいち口を開いている時間など無いからね。襲い来る甘酸っぱさの濁流に飲まれ、息をすることはおろか、
体を動かすことができなくなる。まさに笑顔の吹雪とも言うべきだが、反対に体は熱に呑まれる一方だ。
なんでご主人はご主人なんだい? ライオンが哲学したってわからない。これは何人もを悩殺に追い込んだ未解決問題。
ぜひこれを解決してみたいものだね。しかしもし解決したところで、その解法を記すには世界に樹木が足りなすぎる。
とにかく、ご主人のこの善と美[4]、その全てを表したい。ん、善がる美乳か、意味深じゃないか! いや、何を考えている。
ばかばか、私の馬鹿。ああ、ご主人に突っつかれながら、ばか、ってその夜叉の心を融かすメルティスマイルをご馳走になりたい。
しっしょー! ああ、私のあのボルテージが上がっていく。仏界の法則を壊してご主人への愛で涅槃寂静に至りそう。
たまらないだろ? たまらないはずさ! なあ! たまらないだろう! たまら――たまらあぁん! たまらんぅうううううう!
ノオ、ご主人がもう舐め終わってしまった。なんと、不甲斐ない。伸びろアイスキャンデーよ、ってもう次を食べようとしてる。
いやしい虎(こ)だね、いや、いやらしい虎(こ)かな。その、いけない麗しすぎる胸鎖乳突筋を見せびらかすようにしてっ!
どれにしようかなーって、君は子供じゃないんだから。私? 私は当然決まっているだろう! 君だ! 他に何があるんだ!
「こら星、水蜜やぬえちゃんに譲ってあげなさい。貴方が甘味のような贅沢を求めてどうするのです」
「ああっ! そんな意地悪しないでくださいよ!」
「まったく、あきれるね。まあ聖、ここは禅寺でもない。一汁一菜のように節制しなくてもいいのではないかな」
「ふふっ、そうね。ナズーリンがもて来てくれたんだものね、ありがたく思いなさい星。はい、あーん」
なあっ! ご主人に手に持ったアイスキャンデーを舐めさせるなんて、なんとうらやましい贅沢を!
くうぅ! 覚えておけよ! 次は必ず私が先に実行する!
「どうしたんだナズーリン、怨霊のような顔して。私より幽霊みたいだぞ」
「なんでもないさ、ちょっとご主人の姿にあきれているだけだ」
「相変わらず手厳しいなぁ、寅丸もいつもにらまれてちゃ落ち着けないんじゃないか」
余計なお世話だ。それにご主人を見て思わず笑みがこぼれたところを本人に見つかると、死にたいぐらい恥ずかしいからな。
また布団につま先で穴を開けるのは、私も良く思わないところだ。おっといけない、アイスキャンデーの事にとらわれて、
肝心の話をすっかり忘れてしまっていた。早いうちに当たりをつけておかないと、どうも悠長な話ではないからな。
「そうだ、皆に聞いてほしいことがあるんだが……というかできれば村紗船長にお願いしたいことだ」
「ん、なんだい改まっちゃって、似合わないなあ」
「実は今日人里で、幽霊に悩まされる町娘からお祓いの依頼を受けたんだ」
「おおっ! それで私に協力してほしいというわけだね」
「うん、概要はこの覚え書きにまとめてきた。依頼人は若い女性、父と二人で田に囲まれた家に住んでいる。
幽霊はうちで作った御守りを破壊し、依頼人は身の危険を感じた。聞き取れた言葉は今日来るということだけで、
殺すなどのことは言っていないが、御守りを破壊したこと、依頼人が危険を感じたことを考えると楽観視はできない」
おお、村紗船長がこんな真剣な顔で聞き入っているのは久しぶりに見たな。話を聞きつつも、ちらちらと覚書に目を通している。
さすが、専門分野になれば頼りにできる。
「覚え書きにあるように、風水、地理条件は大まかなところ問題なし。細かく調べるには今日の対策に間に合うか怪しかったので、
切り上げて戻ってきた。同様に、最近古道具など原因となりそうな物を手に入れた事実、人の死に関わった話などは無かった。
細かく調べれば、媒介となる物や因縁などを発見できるかもしれないが、とりあえず私の調査で簡単にわかる範囲では無かった」
「なるほど、本当に突然だとしたら、過去の因縁とか呪いではなく、やはり物を手に入れたか、工事や災害で霊の道が変わって、
そこにちょうど家がぶち当たってしまったとかかなあ」
「工事や土砂崩れなどの災害の話は聞いていなかったね。後で行ったときに聞いてみよう」
「どちらにしろ情報が無さ過ぎるから、今日はとりあえず実地調査と護衛のために、依頼人の家に行ってみようか」
頼もしいことだ。幽霊退治に現役の幽霊がついてきてくれれば、これ以上心強いことは無いね。
「ありがとう村紗船長。霊の危険度は不明だから、もし邪魔でなければ安全を期して私も護衛を手伝うよ。
専門外だがいないよりはましだろう。それに、元々私が受けた依頼であるわけだし」
「いやいや、ナズーリンがついてくれれば大船に乗った気分だよ。体は笹舟レベルの大きさだけど」
「余計なお世話だ。取り越し苦労になってくれるといいがね」
あ、急に視界に天使……じゃないご主人か。
「ナズーリン、私も行きます」
「やめてくれ、物理的なこと以外では頼りにならないだろう、君は」
「何を言っているのです、私は武神の代理人。荒事に向かう者には必ず加護があります」
まったくこの人は、もしご主人の身に何かあったら私はどうすればいいんだい。
頑丈なのは知っているけれど、幽霊は相性が悪い。一緒にいられないのは残念だが、引いてくれ。
「ナズーリン、手伝おうか?」
「それはありがたい申し出だが、一輪、君もご主人と同じく向いていないだろう。
あと、興味深そうに見ているぬえ。万が一のことがある、命に関わることになるから君は連れて行けない。
そして今回の依頼は不明を解明しなければならない。君との相性も悪い。遊びでついてきて事故を起こすのは嫌だろう?」
なんだ、皆随分頼もしいことだな。こんなに手伝いを申し出てくれると、なんだか断るのも忍びない。
聖に来てもらえばなんでも何とかなる気がするが、この件みたいな悩みを抱えた人がいつ寺に来るともわからないしな。
それに皆の大好きな聖を危険にさらすというのも、気がひけることだ。
「聖は実質寺を運営しているわけだから、あまり空けて欲しくないな。この依頼を受けている間に、
緊急の面倒事がおきたときに困る。もしもどうしても私達で何とかならなかったら助けを借りに来ていいだろうか」
「ええ、わかりました。無理しないでね」
「では準備が出来たら声をかけてくれ、村紗船長」
「私はいつでもこの錨と柄杓で準備万端よ!」
「そうかい……。私は念のため、聖に役に立ちそうなものをもらって行くことにするよ。準備ができたら声をかける」
さて、妖術には多少の自信はあるが、私も探すこと意外は専門外だからな。
運良く原因を突き止め、戦闘を行うことなく済めばいいが。そこは私の腕の見せ所だ。
しかし、ま、村紗船長がいてくれればよほどの危険が無い限りは大丈夫だろう。
しかし考えてみるとうちの寺は探索が一、物理が聖、ご主人、一輪と雲山、村紗船長の四、妖術がぬえの一。
突撃型だが、物理が四、術が一というのは偏りすぎな気もする。さてじゃあ、準備を整えるとしようか。
「もし、命蓮寺より馳せ参じた、どなたか居られるか?」
「あ、どうもおいで下さりありがとうございます。父さん、先の毘沙門天代理補佐代理心得のナズーリンさんよ」
ふ、あまり物覚えは良くないようだな。
「どうも、毘沙門天代理のナズーリンだ。そして私と対策に当たる船長、村紗水蜜」
「どうも、よろしくお願いいたします。不安を取り除くため、尽力いたします」
おや、さっぱり天を突くような髪に、岩を思わせるような輪郭だが、釣り目気味な目は娘そっくりだ。
鼠と同じく、人間も親と子供は似るのだな、ほほえましい。しかし、表札に“鳥取部蔵介”と“典如”、二人の名前があったから、
てっきり夫婦で住んでいるのかと思っていた。母親がいないところも、聞き難いが尋ねておく必要があるか。
もしかしたらそのあたりが関係しているかもしれないしな。
「本日は娘のためにありがとうございます。トトリベ、クラスケと申します、おてん、挨拶を」
「どうも、来ていただきありがたく思っています。テンニョです。おてんとお呼び下さい」
おや、昼に会ったときとは、おてんさんの服装が違っているか。紫の和服なのは同じであるが、複雑な模様が入っている。
これはなかなかに珍しいものだな。トレジャーハンターとしての本能がうずく。しかし女人にしては背が高く、
骨も太そうな印象だ。顔立ちは釣り目で柔らかな顔が引き締まり、私は好きな方だな。父のほうも無骨で背が高いが、
やはり釣り目が岩石の顔に、よく合っている。私もあのくらい背が高ければ舐められることもないのだが。
と、いけないな。余計なことを考えて時間を無駄にしている場合ではなかった。
「して、その後ろの方は?」
「ん?」
「来ちゃいました、てへ。あ、どうも初めまして!」
ご主人、何をやってるんだい。ついてくるなと言っただろう。また男物の小袖[5]に袴の田植え農民スタイルで人里に入ってきて。
毘沙門天様に迷惑をかけるとは思わないのかい。その小作農民姿で歩いている君を見た信徒の、
やるせない気持ちを感じ取れないのかい? 幻想郷にもそんな目立つ髪色の者はいない。変装してるつもりでもすぐわかるよ。
そして人里で物見遊山に出かけては失せ物、迷子。いや、わざとじゃないのは十分知っているよ。
ずっと寺じゃ退屈なのもわかる。ご主人が退屈なのは私も望まない。しかし、しかしせめてもう少し服装に気をつかってくれれば。
いや、違うんだ。別に法衣で来いってわけじゃない。むしろ宝塔片手に独鈷杵を持って人里の茶屋で舟を漕いでいたら、
私も手がすべるかもしれないからね。いやいや兎に角、嘘はつけないんだ、すぐばれる。ここは他言無用で通してもらおう。
「我が寺の本尊、毘沙門天の代理、寅丸星です。ご主人様は今、不要な混乱を避けるために、かような格好を――」
「あら、おてん、お見かけしたことがあります。いつも笑顔で茶屋などにて談笑されて、ご本尊様の代理の方なのですか?」
「くっ、さあ、早速私たちは調査を始めるよ。何か気づいたことがあれば直ちに伝えてくれたまえ」
「ありゃー、寅丸様、来ちゃったんですか?」
村紗船長もあきれてるじゃないか。いけないいけないいけない虎(こ)だご主人。おしおきだね。
かわいいご主人におしおきをするのは心苦しいが、毘沙門天様も私にとっては大事なのさ。
比べるななんて野暮なことは言わないでくれ。どちらも私の大切な、大事な方なんだ。
「あ、ナズーリン、とりあえずなんだけど、何か霊の気配って物はまったく感じないね。
家や人にずっと取り付いているものじゃない。これは厄介だよ、外的要因、偶発的原因によるものだと、
未然に防ぐことはかなり難しい。また今日の夜までに原因を突き止めるのは至難だろうね。もちろんはっきりとは言えないけど」
「そうかい、まあやるだけやってみるよ。どのあたりを探したらいいか、村紗船長」
「そうだねえ……」
入り口からそんなに広くない土間、水がめとかまどに圧迫感を覚える。すぐに囲炉裏を囲うような座敷。隣は居間で、
奥に客間と寝室のありがちな家だろう。どれも言っちゃなんだが狭いな、探索もすぐ終わりそうだ。一応この家のすぐ隣の蔵も、
農具と食物以外入る隙間もなさそうだが、調べてみることにするか。しかしこの狭さなら不審にはすぐ気づく。
となれば、村紗船長の勘通り、家周辺の探索か。はっきりしないものが相手じゃ、私も人間とそう変わらない、手探りになるな。
日中は安全だろうから、室内を二人とご主人に調べてもらおう。
「村紗船長、私はどうすればいいでしょうか」
「え、ええと、寅丸様は……うーん」
「ご主人様はどうかお二人を守護していただけますでしょうか。武神のお力をたまわれば、
これ以上ないことと存じます。何か探すべき場所、非常のことあれば、おおせつけください。
山を越えない範囲でならいずくでも、私はご主人様のお声を聞き逃すことはありませんので」
「あ、はい! わかりました。頑張ります!」
女神。いや、女神だが。
「それでは、行ってまいりますご主人様。お二人はこの家をもう一度良く調べておいてくれ。村紗船長、外を手分けして探そう」
「私も行ってくるねー! おてんさん、くらすけさん、また後で! おもかじいっぱーい!」
「お気をつけて! なんと心強い、やはり専門家の方は違うな、おてん」
「ええ、さあ代理様、こちらへどうぞ」
怪しい呪符、骨董品、塚や祠など、工事や土砂崩れその他、ここまで何もないと途方にくれるな。
どうやら原因を掴んで握り潰すのは困難を極めるようだ。さすが村紗船長、本職は違うよ。ま、別に幽霊退治が職ではないが。
日もそろそろ顔を隠しそうだし、万全を期して二人の護衛をするため戻るしかなかった。
ダウザーとしては、どうしても手ぶらで帰るのはためらわれるが、わがままを通して危険を冒したら目も当てられないからな。
さて、この扉一枚くぐれば、私の想い人が待っている。疲れを癒してもらうか。
「ただいま帰りました」
「あら代理補佐代理心得様、お帰りなさいませ」
「代理補佐殿、お帰りなさいませ」
「二人ともお変わりなかったかい。不甲斐ないが、私は手がかりになるようなものを見つけることができなかった」
囲炉裏を囲んでお茶とは、なんだか物騒な話のわりに随分和やかな雰囲気だな。
「村紗船長はもう帰ってきていたんだね。どうだろう、何かわかったかな」
この様子じゃあかんばしくなかったようだね。
「おかえり。こっちもだめだったよ。となると、その幽霊の言うことがほんとなら、このまま直接対決になるかな」
「……聖にもらった御守りや数珠が役に立ちそうだね」
まったく、世間話でもするような、軽い感じで言ってくれるね。
「あ、お帰りなさいナズーリン。おてんさんが淹れてくれたこのお茶、とても良い香りがしますよ。貴方も一緒に頂きましょう」
「ははは、これは里では珍しいものではないのですが、お気に召したようでしたら幸いですな」
「きっとおてんさんの淹れ方が素晴らしいのですよ」
「お父様聞きました? 星ちゃんに褒められてしまいました。おてんとっても嬉しいです」
溶け込むのが早いな、本当に。私もすぐ頂きたいところだが、先に対策を済ませておいたほうがいいな。
「すまない村紗船長」
「ぷはー! なんだか心が洗われるような感じがするねえ。おかえり、どうしたのナズーリン」
「依頼を達成する前に成仏しないでくれたまえよ。聖の垂直無制限水平矩形範囲の魔法障壁発生装置があるんだが、
距離制限があるから、最大出力になるように屋内の対角線上に配置したい。一人だと位置の調整が大変だから手伝ってくれ」
「了解!」
聖の魔法道具があれば、よほど力強い相手でない限り何とかなる。もちろん、いかに頼りになる道具にも、
頼りすぎてはいけないが。さて、一緒にこちらも取り付けてしまうか。
「あと、これは温度の大幅な低下に反応して、警報を鳴らすタイプの巻物。これも要所要所に配置しよう」
「お二人ともご安心下さい。伝説の尼僧、聖白蓮の道具と、天かける我らの大型船の船長村紗の手腕、
そして私の素晴らしい部下、賢将ナズーリンの賢い頭脳にかかれば、悪霊なぞ一ひねりで昇天します」
「おお、お代理様、なんと力強い言葉であることか」
「星ちゃん頼もしい! おてん、間違いを犯してしまいそうです……」
賢いんじゃない、私の知識は基本的に将と呼ばれるように、鼠などの隊の兵站と戦略に偏っているんだ。
むしろ賢さという意味では、あまり私は頭がいい方じゃない。一輪と村紗船長のようなブレインマッスル、
ご主人と聖のようなブレイン天気、子供なぬえと、周りがお世辞にも賢そうに見えないから、相対的にそう言われるだけなんだ。
後で恥ずかしい思いをするのは私なんだから、あんまり誇張は、ひゃっ。耳に息がっ!
「ナ、ナズーリン、ちょっとすみません。あまり大きな声では言えないのですが、私もしかして今日、役に立っていないですか?」
「耳のそばで喋るのは控えてくれ、非常にくすぐったい。大丈夫だ、ご主人の出番はこれからさ。出番が来ないのが一番だが」
まったく、耳から心臓が飛び出るかと思った。世界初の未確認びっくり生物になるところだったよ。
「村紗船長、どうだい? 障壁装置の光は、今場所をずらしたんだが、ずらす前とどっちの光り方が強い?」
「うーん、ずらす前かな、もうちょい右。それにしても、ぷっ、ナズーリン、耳の裏側を頭に、反らしてくっつけられるんだ。
すごい方向に耳を動かせるんだな、くふっ。なんか耳が片方しか立ってないと間抜けだ、もうだめ、はははは!」
「笑うんじゃない!」
「ねぇねぇ、また耳触らせてよ。なんか薄くてぴらぴらで気持ちいい感触なんだよね。ギョーザの皮みたいな、ぷくっ!」
「だめだ。作業に集中してくれ」
無視無視。この手の輩はすぐに調子に乗るからな。むっ、
「やめろと言ったはずだが」
「読まれたか。でも、両耳、倒して、ぶははっ! 頭にカマボコが貼り付いてるみたい、ぶはははははは!
そうまでして耳、触られたくないんだ。くっくっく、こりゃおかしい。あっはっはっはっはっはっは!」
「む、村紗、笑ってはいけませんよ、くくっ。まったく失礼というものです、ふふふっ」
どうやら、人選を誤ったようだな。ご主人まで笑わなくてもいいじゃないか。そんなに鼠の耳がおかしいかね。
これでも私は自分のルーツには誇りを持っているんだ。そんなに笑われると傷つくな。
「ぷふっ、代理補佐代理心得様、だめです、くふふっ」
「こらおてん! 失礼じゃないか!」
叱っているあなたも顔が笑っているだろう。親子そろって、君たちもかい。誰のために私が来たと思ってるんだ。
「どうやら二つはこの距離間で位置が決まったようだな。
残り二つも、綺麗な四角になるように先に置いた二つに合わせて置けば、ばっちりだ」
「よし、じゃあ巻物も……粘着テープの端と端を合わせ……ペッタンテープ[6]の出来上がり! これでどんどん壁に貼り付けよう!」
「あ、村紗、私もやりたいです!」
ご主人っ! もういまさらだとは思うがっ! 少し威厳を保とうとは思わないかねっ!?
「おてんも、星ちゃんと船長さんといっしょにやりたいです」
「私、不肖くらすけも、微力ながら助太刀いたしましょう」
ふ、もう何も言うまい。いいさ、ご主人は私の、世界中でたった一つの宝物だからな。
「わくわくしちゃいますね父様、わくわく」
「おてん、皆様の巻物を傷つけないようにな」
「う、うーん、幽霊の私が言うのもなんだけど、これから幽霊が来るってのにわくわくするものかな?」
「だってほんとに、皆でこうしてお部屋を飾るなんて楽しいですもの、船長さん。これが終われば準備は完了でしょうか?」
「う、うーんと、ナズーリン、まだ他にある?」
他は事前に設置するものはないなあ。正直気が緩んでいるが、あまり楽観しできるような状況じゃないから、
まだできることがあるのならやっておきたいところだが。
「いや、ないな」
「それでしたら、もう遅くなってきましたし、ゆうげをご用意します。なにかご希望はありますか?」
「それはありがたい。頂かせてもらうが、内容についてはかまうことはないよ。むにゅ、でぎゅ、すたしおん[7]でお願いしよう」
「むにゅ、ですか? おてんの知らない料理です。さすがナズーリンさん、賢いお方です!」
「ふふ、舶来の文句さ。調理師の書いた献立の表を舐めること、転じて“おまかせで”ってことらしい。いい響きじゃないかい?」
ふふ、あの店のグラタンは最高だったな。つい、店長が教えてくれたことを口からこぼしてしまうなんて、私もご主人ぐらい、
意外に食いしん坊だったのかもしれないな。
「ナズーリン、なんかそれ、エロいね」
「村紗船長……君は寺の者だよ、口をつつしみたまえ」
「いやだってさ、むにゅ、で献立をペロペロ舐めるんでしょ? なんかすごい特殊な――」
「黙れ」
「ご馳走様、堪能した。旨かった。はあ、もう戌の刻か。あたりもすっかり暗くなった」
「とってもとっても美味しかったです! ご馳走様でした」
「ふふ、星ちゃん幸せそうな顔で食べるんだから。また私の料理で喜ぶ星ちゃんを見せてくれる?」
ああ、食事が終わった後に手の甲で頬を擦る癖。なんてかわいいんだろう。
それにしても、おてんさんもわかっているじゃないか。この笑顔は私の好きなご主人の笑顔の三本の指に入る。
「ええ……もう一杯おかわりがあれば、今すぐにでも、見せられちゃうかもしれないです」
バンッ!
「すまない、手が滑った。そうだ、一応、今までの情報を元に敵を推測してみようか。何もしないよりはましだろう」
ついつい本気で畳を打ってしまった。いまさら顔を青くしなくてもいいよご主人、とっくにおしおきは確定だ。
「幽霊には詳しいつもりだけど難しいな。深い因縁などはなく、道具に憑くものでない。強烈な危険を感じさせる」
「そして歌が聞こえたんだったね、明日必ず来るという言葉を残した」
「地縛霊や憑依にしては痕跡が薄すぎる、浮遊幽霊にしてははっきり見えて危険、且つ霊道の異常もない」
「金の髪の女、嘲笑する顔」
「何か思い当たらないかい、村紗船長」
「いや、難しいね」
そうだろうな、これだけ情報がなければ。正体のわからないものと戦うというのは苦しいが、
どうやらもう完全に避けることはできなさそうだ。取り越し苦労の線を除けば。
「私も昔は幾度となくお祓いの依頼を受けましたが、悪意の強い幽霊で事前に痕跡を発見できないものは、多くないですね」
「例えばどのようなものがいたのですか?」
「覚えているものでは、強い思いで生霊となり現れたもの。もしくは呪術によって霊のような幻覚が見えていたものがありました」
なるほど、生霊は場所、物、人に憑くことなく、逃げられれば霊としての発見は不可能。霊自体が幻ということもあるか。
さすがに手がかりが少なすぎるな。ま、絞り込むことが不可能なほどの未知は脅威だ。十分警戒すべきだな。
「そういえば、もうほとんどうろ覚えで、まったく当てにならないのですが」
おいおい、なんだい、何かまだ覚えていたのかい。今になって言い出すのか、勘弁してくれ。もっと早く言ってくれよ。
まあでも、そんなものだな。金型職人も印刷会社も、納期間際の突然の変更点を客に告げられ、大きく振り回されるものだ。
物事は簡単には進まない。生あるものには絶対ということはないからね。
「歌が聞こえている間、声は聞き取れなかったのですが、
トン、トン、トン、というリズムで、“あ”の形に三回、繰り返し口を開いていた――」
「随分ためになりそうな情報じゃないか」
「――ような気がするんです。すみません、記憶が曖昧で、ほとんどうろ覚えだったので、皆様を混乱させるかと思いまして」
「おてん、皆様は専門家だ。素人考えで判断せず、きちんと全部伝えるべきだよ」
その通りだ、参ったなこれは。他にもうろ覚えの情報があったりしたら、もしかしたらもっと早く解決していたかもしれないのに。
まあいい、今はよそう。
「もしかして」
「どうしたんだい村紗船長? 何か思い当たったのか」
「さすがは村紗です! 敵は一体なんなんですか?」
「“あ”を三回、それは、“あぎょうさん”[8]という妖怪かもしれない」
「幽霊でなく、妖怪だというのかい?」
うーん、不意に現れ、消えるように去ったというから、幽霊だと決め付けていたが、そういう能力のある妖怪、
という線も当然あるよな。
「もしその妖怪であれば、退治は簡単なんだ。その妖怪の聞き取れなかった残りの言葉は、“さぎょうご”。
ア行の三番目、サ行の五番目、すなわち嘘。その妖怪の性質を逆に利用してやれば、跡形もなく消し去ることができる」
「やりました! 村紗、ここ一番に頼れる女です!」
くああ! ご主人のアドミレーションを独占しやがって! 抱き付かれるなんて妬ましい! なぜ、なぜ、
なぜ、ご主人の抱擁を奪った?
ご主人の部下でもなく、ご主人を恋してもいない貴方が!
「と、寅丸様、抑えて抑えて。まだそうと決まったわけではありません。情報が少ない上での推測です」
「とりあえず、幽霊が現れたときは試してみよう。ご主人様、村紗船長を放してあげて下さい」
「あはは、でも、別の場合の対策も考えておかないとねえ。幽霊にはいろんな奴がいるから」
そうだろうね、君のように随分陽気で茶目っ気のある性格をしている幽霊もいるのだから。
しかし、自分と同じ幽霊を相手にするというのは、村紗船長も気分のいいものじゃないかもしれないな。
人に深刻な害を及ぼすなら、仏門に入っている以上、覚悟は決めているのかもしれないが。
「……村紗船長、相手が同属だと、どうかな。やっぱり気が引けるかい?」
「いや、そんなことはないさ」
随分簡単に言ってくれるな。根っから能天気なのか、敵であれば抵抗が沸かないのか。
「大体、現世の幽霊なんて不満があるもんさ。うじうじしてても不満は満ちない。スパッと送ってあげるのが親切だよ」
「そうか、変なことを聞いてしまったな。すまない」
いったい村紗船長はどんな考えを持っているのかな。妖怪である私には、人間のように他人に興味を持てないから、
このわずかばかりの好奇心もすぐついえてしまうのだろうが、ちょっと聞いてみたい気もするな。
人間はきっと、興味と好奇心に強く働きかけられ、私達では気付かないところに気付けるのだろう。
そう思うと、半端者ながらも知を求める私には少しうらやましい。
おっと、しまった。私のせいで部屋が静寂に包まれてしまったな。どうもにぎやかな人物に日頃から会っているのに、
会話を滑らかにつなげるのは相変わらず苦手だ。長い間必要としていなかったものは、いざそのときには会得しがたいね。
「あのさ、ナズーリン、んと、えーっと」
ま、こんな妖怪の癖にお人よしな、信心ある、気の良い、いや、変な奴らに囲まれてるんだから。
「大丈夫さ、わかっている」
嫌でもそのうち、得意になってくるだろうな。まったく、言葉が見つからないのに無理をして。
「わかっているって、ナズーリンは、私の思ってることがわかるの?」
他人を理解する、か。人間なら愛のため、妖怪なら生のため。今までそれを、どれだけの者が願っただろうね。
自分を理解するのも、時には難しいというのに。
「わからないよ」
「なーんだ」
「わからないね、他者の考えていることは。長年顔を合わせてる者のことだって、ほんのひとかけらしかわからない」
ある者が、起きている時間の中に対する、私がその者と会っている時間。私に喋る内容に対する、真実である内容。
伝えたかった言葉に対する、誤り、または不足した言葉。伝えてくれた意図に対する、私が誤解、都合よく解釈した意図。
その全ての割合の積が、私の認識できる真実で、普通の誰もが認識できる真実なのだから。
「じゃあ、なんでそんなこと言ったのさ」
「私は君の事はひとかけらしかわからない。でも、君が今何も言わなくてもいいのはわかる。私は私のことはわかるから」
「……」
いけないな、また静寂が。誰かこの空気をぶち破ってくれるものはいないか。お、おてんさんと目が合ってしまった。
なにかね、もし言いたいことがあるなら口に出したまえ。このままにらみ合っていると気まずいじゃないか。
よし、君の言いたいことを当ててやろう。他人を理解することもひとかけらなら可能だ。
今に君は、めっちゃ言ってることと外見が合わねぇ、などと言い出すのだろう。
ふん、悪かったな。私だってこんな哲学的なことを言ったりもするさ。そして、体型のことはほっといてくれ、気にしてるんだ。
「あ、そういえば、ホサちゃん、先ほど設置した四つの水晶と沢山の巻物で、幽霊をやっつけられるのですか?」
「それはわたしのことを言っているのかい?」
何を笑顔で頷いているんだ。ホサって、私は墨西哥(メキシコ)人[9]じゃないぞ。
っていうかやっぱり全然、他人の考えていることなんてわからなかったな。正解はあだ名と仏具のことを考えていた、か。
「マラカスが似合いそうな美しい響きです。よいあだ名をつけてもらえましたね、ナズーリン」
ふ、冗談で言っているのではないことが泣かせるね。褒めてもらえたのにあまり嬉しくないよご主人。
「あれではやっつけることはできない。巻物のほうは“鳴子巻き”[10]といって、幽霊の接近を気温低下から間接的に検出できる」
「なんだか美味しそうな名前ですなあ。して代理補佐殿、四隅に配置した水晶球は、障壁装置とおっしゃいましたが」
「親子そろって好奇心旺盛だね。あれは悪意を退け、内側に入らせないものだよ。“マジカルキルリアンバイブレータ”[11]という。
魔法生物や、完全に自立無心で害なすものを除く、あらゆる悪意を持つもの、悪意を持つものに操られたものの侵入を防ぐ。
ご用命の際はぜひ命蓮寺へ。購入続きは私か、私がいなければ聖に直接頼んでいただければ、材料費そのままの価格でご提供」
「ナズーリン、大事なことを忘れていますよ」
「失礼いたしましたご主人様。入門してもらえれば、毎年一定量まで無償提供、ぜひご検討を」
ま、こんな宣伝文句をいちいち伝えずとも、寺の信徒は増す一方だがね。悪辣な巫女という生き物が潜む宗教設備になぞ、
とても人間は集まらんよ。既に信心深き人々は全て我々の手に堕ちようと、いや表現がよくないな、救われようとしている。
「ナズーリン、あのさ、この障壁発生装置」
「ん、何か異常があったか?」
まさか、聖に限って手抜かりはないと思うが、これが壊れていたりしたら、ことだぞ。
「エロいね」
「村紗船長……君は寺の者だよ、口をつつしみたまえ」
「だってさ、バイブレータだよ? ナズーリンも見たでしょ、私の知り合いの河童が――」
「黙れ」
だ~らだ~らで~れだ~りらん
「なんだこの音……?」
「これは、鳴子巻きの警報だ。気をつけろ、来たぞ」
ひしひしと感じる“脅威”の感じ。これがおたえさんが言っていたことか。
チャカチャカチャカチャカチャカ
「気温が急激にさがってるよナズーリン! もう来たのか!?」
「村紗、戦いの準備を。ご主人、お二人を守る位置に。お二人はこの紙の文字を何度も繰り返し読んで」
「わかりました。宝塔よ、力を貸しなさい」
「ホサちゃん、この紙は一体?」
毘沙門天様以外の神様の力を借りるのは忍びないが、非常時にそんなことは言ってられないな。
「読み仮名を振っておいたから、そっちをね。回数は適当でいいよ。君たちを霊に見つからぬよう隠してくれる」
「適当って、代理補佐殿」
「大丈夫、神様は割りと大雑把だし、危機にある者を助けてくれる。可能なら黙読でなく、音読してくれ」
それにしても随分早いじゃないか。まだ巳の刻にもなっていないのに。昨日は子の刻に来たんだろうが。
ま、恐怖に混乱した者の記憶なんか当てにならないって事は、わかっているさ。
それでも、幽霊が現れる時間じゃないな。
「この時間に来るということは、村紗船長の勘は当たったかもね。敵は妖怪の可能性がある」
「ナズーリン、貴方も私の後ろへ」
貴公子。ってそんな場合じゃない。
「ご主人、君は二人を守る。私は君を守る。必ずしもご主人の得意な対妖怪とは限らないんだ。いいね」
「そんな」
で~れで~れだ~らだ~ららん、チャカチャカチャカチャカチャカ
頼りにしてるよご主人。君は決して守るものを守りきれなかったことがない、聖を除いては。
それにしてもまずいことになったね、これは。壁に貼った鳴子巻きもぼとぼと落下してるし。かなり強い奴だってことはわかるよ。
ま、聖の障壁が破られるとは思えないけど、常に最悪のことを考えておかないとね。警報の音の方向が変わらないから、
まっすぐ向かってきているのかな。不意打ちしようとしても、私なら君の気配を“探せる”がね。
「おん、べいしら、まんだや、そわか。不届き者め、ほえづらをかかせてあげるよ」
チャララ、チャララ、チャララ、チャララ、チャララ、チャララ、んばーばっ
「鳴子巻きの音が激しくなってきたよ!」
「ナズーリン、気をつけてください!」
わかってる、大丈夫さ。親子二人はちゃんと言うことを聞いてくれているみたいだ。さすがに恐ろしくて声は出ないようだが。
くらすけさん、しっかり娘をかばってるな。いいね、こういうのは妖怪にはあまりないことだから。
「オン、ベイシラマンダヤ、ソワカ。海の藻屑と消えるが良い」
チャリラリチャリラリチャリラリチャリラリジャラララララララ、どんどんどん
「うそだろ!? 聖の障壁が弱ってる!」
「やってくれるね。ご主人! 不意打ちに備えて二人の後ろに回ってくれ!」
まずいな、想像よりずっと強大なやつだったか、水晶がもう割れてしまっている。
来る。
ピキピキピキピキピキピキピキピキピキピキピキピキ、んぱーぱっ
「正面から来るとは良い度胸だな。私と村紗船長との二対一を選ぶとは、失策だよ」
髪は短く、炎の中心のような金。やにのような黄色い洋服、こいつに間違いない。警報もついに壊れたか、凄まじい気だ。
「“サッ”ちゃんは、“サチコ”ってゆううううんだ、“ほんと”は、な……」
「呪歌か、貴様はセイレンの種族か? 皆、歌をなんでもないことと思い込むんだ。耳を貸すな」
見た目にはこれといった特徴はないな。この気がなければ人間と言っても差し支えない。
「だけどおおおお、“チッチャイ”からっ……!! 自分のこと…………ぉぉぉぉおおおお“サッ”ちゃんて」
「あぎょうさん、さぎょうご。つまり“嘘”だ! “お前の存在”は“真”。この“村紗水蜜の存在”は“嘘”。消えうせろ!!」
「“呼ぶ”んだよおおおおぉぉぉぉ!! おおおお!!!!」
「ぐはっ!?」
な、何をしたんだ。動きが見えなかったぞ。あいつは“歌”を歌っているだけなのに、
村紗船長はまるで殴り倒されたようだったぞ!?
「大丈夫か!?」
「大丈夫ですか村紗!?」
「だめだ、やっぱり霊だったっぽいな」
「“おかしい”と……思わないかァ……“サッ”ちゃンンンンゥ!? クファ、クファファ! クファファファファ!!」
気持ちの悪い笑みを浮かべて、覚悟しておけよ。あの攻撃、村紗船長がすぐに立ち上がれたところを見ると、
物理的にはたいした打撃じゃなかったようだな。よかった。
「ご主人、読経の準備をしてくれ、数珠を。私たちが攻撃を始めたら頼む」
「くくっ、さっきのお返しに、寅丸のお経に、成仏するほどのありがたみを感じられるようになるまで、じわじわいたぶってやるよ」
本当なら私が読んでいたところだが、ご主人がいてくれてよかった。村紗船長と一緒とはいえ、二人ではこいつはきつかっただろう。
だがもう大丈夫、撃ち出す妖気の錬気はできた。
「“サッ”ちゃんはねええええええええ、“バァナナァ”ガ“ダァアアアアァイスキ”」
「その歌を、止めろっ!」
並大抵の結界じゃ、わずかの緩衝も不可能な妖力塊だ。防いだとして消耗は避けきれない。くらえ。
――って、何!? 膝から上が左方向に、曲がるはずのない方向に直角に曲がっている!?
腰を落とさず、膝を曲げずに棒立ちだったのは、避けられないと思って私が攻撃するのを誘うため、か。無駄撃ちに終わったな。
ん、奴の体が薄らいでいる、姿を隠す気か。くそ、探すんだ、呪歌が聞こえる場所を。
「“ホント”だ……ぜ?」
なっ! 真横に、いつの間に移動したんだ。くそっ、こんなに距離を詰められたら!
「“ダケド”“バァナナァ”ヲッ、“半ブン”……“半ブン”シか、食べられナいノオオオオォォォォ!!」
「ぐはっ!!」
「ナズーリン! くっ、村紗、ナズーリンを助けて!」
くっ、痛い、何が起きたんだ、物凄い力で、体中が痛い! 服が、ずたずたに破れている。どんな、種類の力で、こんなことが、
できるんだ?は、早く起き上がらないと。奴は何処にいるんだ。
「“臭ウ”な、子鼠。“ドブ臭い”んダヨッ!」
「がっああ! ああああ!!」
肩に、やつの、手が、地面に、押さえ、られて、潰される……痛い痛い痛い!痛い!
「てめぇ! 許さん、錨の錆にしてやる!!」
「猛虎の拳打を受けてみろ!!」
ばか、君達、なんで物理、なんだ。それに、忘れているぞ!
「バカご主人! 戻れ! 二人を、守れない、だろ! あうぅぅ」
ゴキッ
な、んの、音だ。息できな、い。
「おまぇえええええええええ!!」
「ナズーリン!!」
ダンッ! ドスン!
「くそっ、外したか!」
「私もです、また消えました! どこにいるのです!? 出てきなさい!!」
「遅い、そんな大振りじゃ当たらねァ。それにもう手遅れだ。貴様らは疑念に駆られたろう?
なぜ“サチコ”を“サッちゃん”と呼ぶのかなああああ! だがスグに、緊張は“解決”する……そう、“チッチャイ”から……
しかし手遅れァ!! “強烈”な“緊張”に襲われているはずだ! “オルタード”のようなああぁぁ、
記憶から消せない“バナナ”が好きという“Incredible(驚愕すべき)”な“事実”ェェエエエエエエエエ!!
“バナナ”ヲぉぉぉぉおおおお!! “バナナ”ヲぉなぜ“食せ”なイヒヒヒィヒィヒィヒィ!!
ナゼナゼ、ナゼナゼナゼナゼ、ナゼナゼナゼナゼナーゼナーゼ! クアファファファファ!!!!」
くそっ、妖気を、なん、とか……
「“半ブン”“半ブン”“半ブン”“半ブン”ウェヘェヘェヘェヘェ、“バナナ”無けれァば、“シ”あるのみァ。
かわいそうァ、かわいそうァ、ドブ鼠ちゃんゥ。“サッちゃん”はお前を気に入った。
苦しくユックリ、最初にお前からあの世へァ」
「村紗、狙いはナズーリンです! これ以上は危険、いったん退きましょう! 村紗は二人を抱えて!」
「了解!」
あ、ご主人、抱っこ、して、くれる、なんて、こんな状況じゃなきゃもっと堪能できたのにッ……!
「二人共、強くつかまってくれ! 行くぞ」
「ひっ、はっ、はい……」
ガタン! ベキッ!
無茶する、なあ。いてて、すごい、加速だ。
「おーいてて、障子戸って案外硬いんだな。寅丸っ! ナズーリンは!?」
「大丈夫です。どうやら追ってこれなかったようですね。幽霊の浮遊では、全速の飛翔には普通、ついてこれませんが」
「念のため全速を維持して町のほうに進もう、あと少しだ」
逃げられたのか、あいつのあの速さは、あの屋内でのみ、出せるもの? ついてきていない、ところをみると、そうかも。
まだ、わからないが。とにかく、逃げて、聖の協力を仰いで、やり直しだ。
「すみません、おたえがこんなことを頼んでしまったばかりに、おたえ、どうしたら……」
「おたえ……」
「いいから強くつかまってくれ! 行くぞ」
ふ、二人に被害が無かっただけでも、幸いか。
「もう少し、大丈夫だ!」
「そうでもないさ」
「えっ」
あ、足が、ねじ切られる。
「ぢう゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!! う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛う゛!!」
「素敵な悲鳴、“サッちゃん”うれしいァ! クアファファファファ!」
意識が、飛びそうだッ!
「ああああ!! ナズーリン! ナズーリン!」
「化け物同士仲良しごっこをやって、人間と馴れ合ってるヘンな妖怪。どうだい、“自分の”、“大事なもの”を奪われる気分は」
もう、どう、すれば、辺りは、田んぼ、ばかり、か。人里、届き、そうに、ないな。
「ナズーリン! ナズーリン! ナズーリン!」
「自分のウデの中で、苦しむ鼠の姿は、“最高”だろおおおおァ!! クアファファファファ! イニエイニエイニエ!!」
「寅丸! しっかり!」
「次が“最期”ダ! 怖がれ、怖がれァ! お前らの恐怖、“バナナァ”より、アンマァァァァアアアアイ!! クアファッ!!」
策は、無し、か。やけだ。
「はぁ、はぁ、ご主人、村紗、田んぼ、に、降りて」
「なぜっ! 逃げましょう!」
「はや、く、んはぁ、はぁ」
まあ、どちら、にしろ、だめ、かも。さいごに、ためして、みたい。
「ナズーリン、信じてるよ」
「はっ、はっ、むら、さ、たの、むよ、はっ、はぁ」
「村紗……。わかりました、ナズーリン」
ベシャベシャッ、ベシャ、ベシャベシャ
「イヒヒィイヒヒィ!! 諦めたか、つまらんゥ。もっと“生きようと”しろァ! ソコデ殺してこそ、意味があるァ!」
「どこにいるのです! 出てきなさい、私が相手になります。ナズーリンに手を出すな!」
ごしゅじん。
「まて、はぁ、ふっ、きさ、まの言う、緊張、は、はぁ、はぁ」
「ンー、なンだなンだ、ドブ鼠」
「“解決”、した、ふーっ、ふーっ」
くそ、こわい、よ。ごしゅじん、たす、けて。
「歌ってただろ、はっ、“ちっちゃい”から。わたしも、そう、だから、わかる」
「へァ、クアファ!」
「はんぶん、しか、たべ、られない」
だめだった、か。いやだ、いやだよ。
「やるな、“解決”したやつは、久しぶりだ。しかしざんねええええええええん! バァナナァなければ、
同じことよぁぁぁぁああああああああ!! イヒヒィイヒヒィヒヒィヒヒィイイイイヒヒィイヒヒィ!!」
「く、そっ」
しにたく、ない。
「死、ん、ンンン、なんだ、体が重いァ、息が苦しいァ!」
え、まさか。
「くそっ、シネッ! シネッ! くそっ! 重いッ! お前の最期ヲッ!」
うまくいったのか、信じ、られないな。
「わた、の、さいご、か。くくっ、ふっ、君に、ゆうじんのきめぜりふを、おくろう。私は、まだまださ」
ごしゅじん、たのむ。
「くそっ、それがゥお前のァ、最期ノ言葉――」
やってくれ。
「“おまえはここで、おわりだがな!”」
ベキッ
「ブベラッ!」
「お、私の拳が当たりましたよ」
「なっ! 体が動かないァ!」
あれ、なんか、あっけ、ない。
「聖の数珠ナックルダスターに打たれては、大抵の霊は身じろぎひとつ取れません。観念しなさい」
「ナックルダスターにしてるのは寅丸だけだぞ。油断するな、直接数珠で縛ろう」
「いやあ、意外だなあ、障壁もぶっ壊したやつが、数珠に捕まるとは」
「ふふ、村紗が溺れさせてくれたおかげです!」
「幽霊にはあんまり効かないんだがなぁ。変なやつだ、こいつ」
さあね、もう知りたくもないよ。体中が痛い。
「ホサちゃん……」
「代理補佐殿、申し訳ない、こんなおいたわしい姿にッ!」
よかった、二人とも無事で。
「大丈夫さ、妖怪なんだ。すぐなおるよ」
そんなに心配しなくても大丈夫さ。でも、いやあ、すぐなおるといいなあ。
「さてじゃあ、浄霊をはじめようか。寅丸様、こいつの足が坂の上側に、頭が下側になるように土手に寝かせて」
「わかりました」
柄杓、持って来てたんだ。
「サワルナッ!!」
ズリズリズリ
「寝かせましたよ」
「ありがとう、ではさっそくいこうか」
久しぶりに、あれが見れるな。
「待たせてすまない。この“柄杓の水”は、私のおごりだから、存分に飲んでほしい」
バシャ、ビチャビチャビチャ
「ンゴッ」
「いやあ、水で溺れさせられる相手で、嬉しいよ。今夜の浄霊は楽しくなりそうだ」
ビチャビチャビチャビチャピチピチピチピチチチチ、ブシュ
「んごほっ」
「たーんとおあがり、鼻から」
ビチャビチャビチャビチャピタタタタタタタ
「ゴ、ンゴッ」
出た、村紗船長熟練の“水かけお姉(ルナティック・ウォータボーディング)”![12] 逆さ釣り、またはそれに近い姿勢で、
鼻及び口に、無制限に水の沸く“無限柄杓”[13]で水を注ぐ。水が入り込めば身体の反射により息を吐き出し、 溺死を体感する。
何度も相手を溺死の感覚に追い込みながらも、決して死に至らしめない。永遠に慈悲なく吸えぬ息。さてこそ村紗船長、
ここ一番に頼れる女。今宵の水は、転生してからも君のトラウマになるよ。
「土手の向こう側が町だったっけ、つまりお前は北枕かぁ。縁起が良いねえ、北はいいよ、北」
「あ、そうでした、読経を始めないと」
いや、まだ早い。
「待つんだご主人! もっと弱らせてからでないと効果が無い。村紗船長、私もやらせてもらうよ。
幻想郷の娯楽、弾幕ごっこで鍛えた絶妙な手加減。今ここで試させてもらおう!」
こんなにコテンパンにされたのは久しぶりだ。それに――
「ご主人に反吐が出る言葉を浴びせて、許せない。妖怪弾をくらえっ」
完全に“とさか”にきたよ。
「まず腹!」
「ホゴッ」
「腹!」
「ぐあッ」
「次に腹!」
「ゲッ」
「そして腹!」
おっといけない、調整が難しいな。
「腹、腹、腹、腹、腹っ!」
「ゴホンッ! ゴホンゴホンゴホン!」
君は本当に強大な敵だった。瞬間的な出現、消滅。間違いなく私の人生の五本指に入る。
「選ばせてあげよう、次は、目、耳、肩、腕、指、胸、腹、足、どこがいい?」
「ハァー、ハァァアア……!」
「腹だな」
バチン!
「村紗、ナズ、もういいでしょう。読経を始めます。それにナズーリンは、怪我をしているのですから動かないでください」
「お待ち下さい、寅丸様!」
わかっているな村紗船長。まだまだ夜は始まったばかりだ。ここで終わりにするのはあまりにも早すぎる。
さあ、夜通し遊ぼうじゃないか。今は妖怪とお化けの時間なのだから。
ビチャビチャビチャビチャビチャ
「ンゴッ、ゴプッ」
「どうでしょう、まだ余裕があるとは思えませんか?」
「いえ、十分です」
「ご主人様、お言葉ですが、村紗の申す通りかと」
「いいえ。魂が消えてしまったらどうするのです」
しょうがないな、残りの時間で返せるだけ返すか。
「“観音様が瞑想したとき、心身は関係なのだということをみつけました。舎利子よ、ものと関係は異ならず、
関係とものも異ならず、ものは関係です、関係はものです。受け取ること、想うこと、行うこと、知ることも同じです”」
「くらえっ!」
「まだまだおかわりは沢山あるよ」
弾幕ごっこをやっていてよかった、力加減を学んでいなかったら、憂さ晴らしに支障が出ていたところだ。
「“舎利子よ、全ては関係という様相です。生成も消滅も、垢付きも清浄も、増加も減少もなく、
それゆえ関係の中にものは無く、受け取ること、想うこと、行うこと、知ることも無いのです”」
「痛いか、私はたぶんもっと痛かったぞ」
「秘儀、背面柄杓注水!」
「“目、耳、鼻、舌、体、心、もの、声、香り、味、感触、何かが何かであるという法則。
見える世界、思う世界、知が存在しないこと、また、知が消えていくこと。あるいは、老いと死、
また、老いないことと死なないこと。生の苦しみ、老いの苦しみ、病の苦しみ、死の苦しみ。
知ること、また、得ること。これら全ては無いのです。得ることがないので、よって、気付いている者は、
知によって何のさまたげも無く、さまたげが無いことによって恐怖無く、逆さまの考えから遠く離れて、静寂に至るのです”」
「くらえ、新スペルカード! “先端『高尖度ナズーリンペンデュラム』”」
「ギャアアアアアアアア!!」
「“行き、行き、遠くへ行き、全く遠くへ行き、気付き、幸せに”。って、あれ、昇って行っちゃってますね」
「ちっ、もうお経に浄化されたか」
「仕方ないだろう、村紗船長があんなに痛めつけるからすぐ逃げられたんだ」
「完全に自分のこと棚に上げてるな」
「それにしてもご主人様のお経で逝けるなんて、最後まで嫌味な奴だった」
まあ、来世ではご主人の世話にならないように頑張るんだな。
「いやあ、お代理様。美しいお声でいらっしゃる。今までで聞いた中で、妻を除けば、一番美しい声です」
「本当に、おたえのハートにズギュンときました。しかし、お経には聞こえませんでしたが」
ふふふ、くるだろうくるだろう。あんな悪霊も一発で浄化するご主人の魅力は。
今すぐ幻想郷を回って、全ての住民に自慢したいぐらいさ。いや、でもやはり、ご主人は私だけのものだ。
「えへへ、そんな、照れちゃいますよ。お経は呪文ではないのです。考えを求め、伝えることができれば、
それがお経なのですよ。……力不足で不安にさせて申し訳ありませんでした。お二人ともご無事で何よりです」
「そんなことないよ、星ちゃん、守ってくれてありがとう。ホサちゃん、ありがとう。船長さん、ありがとう」
「皆様、娘を守っていただき、ありがとうございました。このお礼は必ずいたします」
やれやれ、どっと疲れたよ。でも、二つも命を救えたし、寺の名声も上げられた。久しぶりに強烈な訓戒も受けたし。
これからは、不明確な事件には準備万端の最警戒で当たらないとな。いや、それにしても、私を抱えて飛び出してくれたご主人、
か、かっこよかったなあ。最後に時間稼ぎに喋ってたときも、まるで示し合わせたようなタイミングで、
一発であいつを倒してくれて。い、いけない、思い出したら、すごく手汗が出てきた。顔、熱い。
あ、ご主人。ちょっとまってくれ、今近づいてきては困る。タイミングが悪い。
「あ、そうだナズーリン、まったく、動かないでと言ったのに! さあ、お医者さんに行きますよ!」
え、ちょ、ご主人、なにしてるの、やめて。
「こ、これは“貴公子的お姫様抱っこ(ノーブルマンズ・プリンセス・リフティング)”![14]」
「なんですかそれは?」
「おたえさん、知らないとは言わせないよ。生きとし生ける女性が誰しも一度は望むという――あ、なんか卑猥な表現だけど、
安心してくれ、そういうことじゃない――伝説の奥義であるが、しかし、それは生ける伝説という、今世に代々伝わる普遍の技」
だめ、だめだめ、顔ちかいよご主人。
「いやっ!」
もうだめ、にるう゛ぁーな到達しちゃう。あたまのなかふきとんでにるう゛ぁーなになっちゃう。
「す、すみませんナズーリン、失念していました。怪我人は不用意に動かしてはいけないのでした」
「だ、だじょいぶ、だかぁ」
いや、やっぱだめかも。
「そーっとおろしますから動かないでください」
あ、もうちょっと。
「はい、そのまま寝ていて下さい。村紗、ちょっとナズーリンをお願いします。私はお医者さんを呼んできますので」
「は、はい、わかりました。って速っ!!」
もう、ご主人のばか。そんなに、あわてなくても、いいのに。えへへ、でも、うれしいな。
「ナズーリン、大丈夫なのか?」
「大丈夫に決まってるだろ。そんなに丈夫じゃないが、私も妖怪だからね」
はは、村紗船長まで心配してくれてる。迷惑かけちゃったな、助けてくれたお返し、考えとかないと。
あ、でもちょっとつけこんできそうだな。
「それにしてもさっきのナズーリン、見物だったな。ぷくくっ」
「なに」
「寅丸に抱かれて、握りこぶしを両方とも胸のあたりで合わせて、顔赤くして尻尾伸びきってて。
あんなナズーリン初めて見たぞ。ぷぷぷっ」
な、な、な、ムラサセンチョウウウオアアアアアアアアアアアアーーーーーーーー!!
「笑わなくてもいいだろう、ご主人にあんなことされたら、誰でもああなるさ」
「ぶははははっ、だめだ、思い出したら、笑いが止まらない、くくくくくくっ」
この“ L ・ i ・ B ・ e (エル・アイ・ベー・イー)の先行者ファッション野郎”(ジェイ・ケイ)[15]が!
いいだろう、君がその態度なら、私だって考えがあるぞ。
「君なら、ああはならなかったかい?」
「あはははは! あはははは! ナズーリンほんと乙女! ぷっはははは!」
「そうかい。これならどうだい」
ペタッ
「な、なにするんだナズーリンッ!!」
「おお、昔、劇で見たことはあったが、本当に頬を押さえて恥らうんだな。脚本家は人をよく見ていたようだ」
まあ、劇とは違ってほんのり顔が赤みがかっているようだが。たいそうに狼藉して、笑えてしまうな。
人を怒らせるからこんなことになるんだ。全く、いたずら好きなのはなおってないな。ぬえも増えたし、
これからは中々心休まらなさそうだ。
「こ、こんな、き、せっぷんなんて」
おうおう、言いよどんじゃって、普段の君からは想像できないな。
「おいおい、頬へのキスは親愛の印だぞ。“西欧(パスタを吸う一族の地)”[16]ではよくあることだろう。
もちろん鼠社会でも。そんなに動揺してしまって、寺の頼れる村紗船長はいったいどうしてしまったんだい?」
ふふふ、言葉も無いか。まあ無理は無い。身体を鍛えることのみに魔力を使う者や、拳を鍛えるもの、
野生の力に身を任せるものなどのブレインマッスルが集まった寺じゃ、私程度にも口げんかじゃ勝てないさ。
「むぁーーーー!!」
気分が良い、すがすがしいな。なにかこう、満ちるものがあるね。
「ははは、すまないな。私はネズミなものだから、ついついやってしまったんだ。
――“ちゅうちゅう”、とね」
「バカヤロウ!」
「ふん、私のことをからかうからだ。これに懲りたらもうしないことだね」
さて、ご主人はいつ帰ってくるかな。
「……ところで、ナズーリン」
「なんだい」
まだやる気かい?
「ナズーリンさ」
「うん」
「エロいね」
「村紗船長……君は寺の者だよ、口をつつしみたまえ」
「だってさ、服ぼろぼろだよ? 良い位置に穴や裂け目があって、なんかまるで、そんな大変なことになってるみたいで――」
「黙れ」
「いや、ほんと泥とかもついてて臨場感があって」
「黙れ」
「ナズーリンのトレードマークの、冷たくまどろんでる目もそれっぽくて」
「黙れ」
「まるでおそ」
「黙れ」
「まるでお」
「黙れ」
「まる」
「……黙れ」
「まるでおそわれちゃったみたいじゃん」
「黙れ」
[1]トランジスタ(transistor):電気で動かす電気のスイッチ。夜に歩き出すことはない。
[2]匙を投げる(さじをなげる):漢方薬師が薬の調合を放棄することから、“諦める”。精神科医ならまだ手はある。
[3]胸鎖乳突筋(きょうさにゅうとつきん):首の横にある筋肉。性的魅力を有する。
[4]善と美(kalon and arete):哲学に大事なこと。転じて、胸部刺激行為に因る悦楽のこと。
[5]小袖(こそで、formal suit of peasant):一般的な農民の服。女物は“身八つ口”があり、脇に穴があるため耐熱能力が高い。
[6]ペッタンテープ(pettan tape):あらゆるがらくたを玩具に整形する魔法道具。粘着テープを粘着面を外側に輪状にして作る。
[7]ムニュ・ディギュスタシオン(menu degustation):身も心も全て任せ、身体を投げ打ち料理を楽しむエクストリームスポーツ。
[8]あぎょうさん(column:"あ" row:3):伝説の退魔師を復活させた妖怪。その際、全力を使い果たして消滅したといわれる。
[9]墨西哥人(メキシコじん):タコスを口にくわえながらマラカスを腰に挿し、バンジョーをかき鳴らして移動する異国人。
[10]鳴子巻き(なるこまき):警報を鳴らす巻物。今回使用されたのは、一定の負の温度変化量を検出し警報を鳴らす型式のもの。
[11]マジカルキルリアンバイブレータ(magical Kirlian vibrator):魔法動力型のキルリアン振動機。
[12]ルナティック・ウォータボーディング(lunatic waterboarding):詳しくは本文中のナズーリンの説明台詞を参照。
[13]無限柄杓(むげんひしゃく):遠い昔、村紗水蜜が友から譲り受けた柄杓。新しい生き方を知ったことの記念にとっておいた。
[14]ノーブルマンズ・プリンセス・リフティング(nobleman's princess lifting):乙女の夢。夢は夢のままが良い。
[15]ジェイ・ケイ(JK):外の世界に存在するイロコイ族。セーラー服を纏う。愚か者への蔑称、または美人への敬称。
[16]西欧(せいおう):様々な美術、技術が発達した地。パスタを消費しすぎて、幻想郷のどこかに入ってしまったと言われる。
L.685 蛇足:
私には、私が“‘これ以上君に何か言わせて気分を悪くさせたくない’と私が思っている”ことがわかる。
だから君は何も言うべきでない。
/*
ナズーリン&農家幽霊出没問題
ナズーリン 寅丸 星蓮船 ギャグ
*/
注釈は形式的には最後にまとめるのが正しいのかもしれないけど、個人的にはその単語を使った直後に入れてくれたら面白さがすぐ伝わって良くなるんじゃないかと思う。
あと、行間あけて場面転換がちょっと多すぎじゃね?書く方としては楽かもしれないけど、読んでる方としては今どこなの?なんのシーン?ってなって味気なくなる。
しかし、久々に秀逸なギャグSS読んだ気がする。楽しかった。ありがとう。
星ちゃんへのお仕置きシーンが見たかったです。
読解力の問題なのですが、なんで鳥取部さん宅が標的になったのかわかりませんでした。
と思ってたら船長も大概だった
もう安心して見られるのは星ちゃんだけだね
星ちゃんずっと眺めていたいです
ああっ!?窓に!窓に!!
私も注釈は文中挿入が良かったです。