幻想郷 春
一応の休日 正午
さすがに籠もりすぎたみたい。記事は仕上がったけど。
そして体が痛い。重い。軽く固まってんじゃないの、これ?
座ったまま伸びをして、そのままいすの背もたれに体を任せる。
ギィィ と、音がしてる。
「あぁ~、疲れた…」
今まで部屋に篭って作業をすることは決して少なくなかったけどさ、今回はさすがに堪えたわ。
頭を窓に向ける。
閉じっぱなしのカーテンの隙間から、仕事場に陽光が差し込んでる。
全く気付かなかった。それだけ集中していたのかな。
机の端に置いてる時計を見たら、そろそろ正午を向かえそう。でしょうね。
カーテンだけでも開けておこう。
「─っ!眩しすぎじゃん…」
カーテンを払ったと同時に強烈な光が。
なんか久しぶりに光を浴びた気がする。…そんなことないけど。
というか、電気も付けたままじゃん。マグカップも中身がちょっと残ってるままじゃん。
いやぁ、ほんと集中してたみたい。
「……」
何か飲もう。
そう思ったら急に喉が渇いてきたし。
あぁ、体が重い。立ち上がったら、これ、立眩み…。そんなにきてますか?私?
お湯を沸かして、何を飲もうか。なんでもいいわ。紅茶にしよう。
「─無いじゃん。えぇ~、紅茶も?お茶も無いじゃん…」
最悪…。
棚、空っぽじゃん。買いに行かなくちゃ。面倒だけど。ほんと、面倒だわ。立眩みしそう。
もういいや。正直、水でもいいし。別に食べ物が無いわけじゃないし。
なんか疲れた。座ろう。
「─おわっ!?…っっっ痛ぁ…!」
何?えっ?いす?壊れたの?えっ?いす…壊れてんじゃん。
背もたれ、折れてる?
最悪…。
いや、確かにちょっと変な音はしてましたけどさ。今ですか?今、壊れちゃいますか?
新しいの買わなくちゃ。面倒だけど。ほんと、面倒だわ。立眩みしそう。
「そして…このスタンドの電気、切れてるし」
この電気スタンド、いつ買ったっけ?もう覚えてない。まぁ、買ったときからちょっと古かったから仕方ないか。
新しいの買わなくちゃ。面倒だけど。ほんと、面倒だわ。立眩みしそう。
紅茶とかは人里に行けば買えるけど、いすとかって、売って…るよね?
香霖堂。あの店で買ったはずだから、また行けばいいか。無くても、文に頼めば譲ってくれるだろうし。
はぁ…。なんか、この数分ですごいやることが増えたんですけど。
「ん~。─はぁ…」
窓辺に座って伸びをしたら、まだ体が硬かった。
頭だけ振り返って外を見たら、すごい青空。
部屋に視線を戻してみる。
折れて座れないいす。もう点かない電気スタンド。そして、棚も空っぽ。
「……」
一応、休日だからってこんなに頑張るんじゃなかったわね。
お昼になってることに気付かなかった。とか、棚が空っぽになってることに気付かなかった。とか、その他諸々、気付かなかった。だから頑張るも何もそんなんじゃないんだけどね。
別にそれが原因でもないし。
「……」
ふむ、これはあれですか、
「外に出ろ。ってことですか?」
幻想郷 春
一応の休日 正午
「気を付けて帰るんだぞ。遊ぶなら一旦、家に帰ってからにするように」
寺子屋の玄関まで生徒たちを見送り、さよならを言う。
全く。帰る時が一番はしゃいでいる。授業中にはしゃがれても困るが、これはこれで。
さて、そんな私はこれからの用事は特に無かったな。寺子屋の用は全て終わっている。自宅に帰ったところでやることは無い。妹紅は昼間は屋台の仕込みなどで忙しいと、言っていたな。今から会いに行っても邪魔になるだけか。止めておこう。
どうしようか。まだ正午を回った程。ここ最近は私も忙しく、寺子屋と自宅を行ったり来たりだったな。
適当な茶店にでも入って昼食ついでに、ゆっくりと午後の一時を満喫しよう。うむ、そうしよう。
─最近はこの里にも飲食店というかその類の店が増えてきたな。流行っているのか?
そういえば、少し前に八雲のところの式神が新しくできる店を紹介する広告紙─彼女は『ポスター』と言っていたな─を貼ったりしていたな。寺子屋にも貼るようにと何枚か渡されていたな。全く忘れていた。すまない。
あの式神が動いているということは、八雲紫も動いている。そう思っても間違いはないだろう。宣伝の仕方などを見るに、また外の世界からの入れ知恵か。
まぁ、悪事ではないであろうから心配は要らないか。…たぶん。
「─お?これか…」
八百屋にそれは貼られている。なんともまぁ。
『今まで出会ったことの無い様式を!今まで出会ったことの無い味を!』
ほう。
行く行かない というのはともかく、興味は出るもになっているな。私に渡されたものと若干、違う気がするが…気にしないでおこう。
謳い文句通りだな。あまり見ない料理の写真が載っている。なかなか鮮やかだな。
「悪食」がすぎる私にはもってこい?やかましいわ。
しかし、少々だが値が張るな。仕方ないか。それだけの価値はあるだろう。まさか、あの八雲紫でも客の足許を見るような真似はしないだろうし。
『撮影・姫海棠はたて』
姫海棠はたて…。ああ、花果子念報のか。これはまた珍しいな。
彼女はあまり外交的ではないと聞いていたのだが、存外、そうでもないようだな。大変結構だ。
私も文々。新聞と共に拝見させてもらっている。まぁ、どちらの内容もなかなか評価し難いがね。
せっかくだ。この店に行ってみるとしようか。
地図によると、角を曲がってすぐそこだ。
─当初の目的からだいぶかけ離れてしまったが、いいだろう。忙しかった分をこれだけで取り戻せそうだな。
もし、いけるようであれば、近いうちに妹紅を連れて行きたいな。屋台を始めてからここ(人里)との関わりは増えてきているようだから、今の時機に行くのもありだな。うむ、そうしよう。
さっきの八百屋の店主に、この店に行くのか?と、訊かれたが…。そうなのか?
「─!あれは…確か…」
ほう。
この流れでここに君が居ようとは。驚いてしまったよ。
[─ご一緒してもいいかな?」
幻想郷 春
一応の休日
人里の中央には一本の大きな通りが走っている。その通りの中心に民家や店舗が広がっており、この幻想郷の住人達の生活に必要な物がある程度揃うので昼間ともなれば人通りも盛んになる。その通りの一角に店はある。
幻想郷での飲食業界が流行りだしてから、この通り沿いはそういう店が増えてきた。その半分は便乗店でもあったりする。上手く軌道に乗ったところは行列が止まず、一部では予約制を採用したりもしていた。
その中でも新規店舗だが既に評判は上々、その外来食店にはたては居た。ちょうど、注文を終えたところ。何枚かの紙の束を机に広げて見比べていたところに声をかけられた。
「─あぁ…はい、どうぞ…」
「ありがとう。─急にすまないな。驚かしたことの無礼は許してくれ。偶然、君がここにいたもので声をかけてみたんだ。個人の事だが君を知っているんだ。私は上白沢慧音。ここの寺子屋で教鞭をとっているんだが…知っているかね?」
慧音の突然の現れに少々驚きつつ、4人席の空いている残りの席に広げていた物を下げながら答える。慧音も空いている席に提げいた鞄を置き、はたての対面に座った。
「ええ、知ってますよ。すぐそこのですよね?私は姫海棠はたて。花果子念報って新聞の記者。…さっきの言い方だと…読者?」
「ああ、知っているよ。毎号、楽しく読ませてもらっている」
寺子屋の位置を軽く教えて、運ばれてきた水を一口飲んだ。
「そうなんだ。ありがとう。ちょっとびっくりしたわ。─何か食べるの?」
「今日はそのつもりで来たんだ。どうやらここでは、普通では食べられないものがあるんだろ?」
そう言うと、慧音は机の端に立てられているメニューと書かれているお品書きの類を取って広げた。
はたては水を飲み、面白そうに口角を上げた。
「─ほう。どうやら私の想像をはるかに超えている。写真は載っているものの…全く味などが想像できんな」
そこには、前菜から一品までの品名が写真とともに載せられていた。しかし、名前も見た目もどれも幻想郷には無いものなので、そこから味を想像することなどはできるはずもなかった。
絵に描いた様な目をする慧音に、はたては堪らず吹き出しそうになった。
「あぁ…と…君はどれを注文したんだ?正直、どれを頼めばいいのか全く分からない」
吹き出すのを堪えていたはたては、自分が考えていたのと同じ反応を見れたので満足したように笑っていた。それから「でしょうね」と、付け足し。
「私はこれ。『鮭のクリームパスタ』。一番美味しかったし」
「なるほどな。では私はこの『ほうれん草ときのこの醤油パスタ』にしよう。ざっと見た限りでは『まとも』そうだからな」
もう一つ、軽いものも注文しようとしたが初見で危うい橋を渡るのは止めておこうと思い、メニューを閉じて元の場所に戻し、店員を呼び注文をした。
この流れは同じなんだなと、慧音はなんとなくおかしなものを感じた。
「─そういえばさっき、一番美味しかったと言っていたが、ここに来たことがあるのか?それと『パスタ』とはなんだ?」
「あぁ、それ?ううん違うの。この店の宣伝を手伝って欲しいって言われてね。その時にいくつか食べたの。味見っていうかなんていうの?試食っていうの?それであれが一番だったの。パスタは…こっちでいう『うどん』とか『そば』みたいな物…って思ってもいいんじゃない?…かな?」
「ほう。麺類になるのだな。写真もそんなかんじだったな。─そこら中に貼られているポスターだったか?に、君の名前が載っていたな。その時というわけか」
「そそ。見てくれたんだ」
はたては得意げな顔をして目を少し輝かせた。
その表情に気付いたが、その期待に応えられるような感想ではない。と、心の中で慧音は謝った。
「まぁ、見るもなにも、あれだけそこらに貼られていたら目にも付くさ。私の寺子屋にも貼ってくれとまで言われたからな」
「なんかごめんなさいね。あれ作ったの私だし。貼りすぎなのは私も分かってたんだけどね。どこの誰かさんがね、もっと貼れもっと貼れってうるさかったのよ。分かるでしょ?」
「なるほどな。君の気持ちはよく分かるよ。その誰かさんも、やるだっけやって後は任せた。といったところか」
眉間を押さえてわざとらしく大げさに溜息をつくはたてに、慧音は乾いた笑みを投げることと水を飲むことしかできなかった。
「へぇ、これまた珍しい組み合わせじゃないの…」
店の奥から店先までを一望していた八雲紫は、談笑するはたてと慧音を見付けた。
外の世界からの物は直ぐには根付かないことは解っている。他人には見せないが、紫もこの店の行く末は気にはなっていた。かなり強引な宣伝ではあったが、初動からの来客数は安定している。
しっかりとした食事だけでなく、紅茶などのハイカラなものを中心とした軽食を置き、小休憩がてらに立ち寄れるようにしたのは大正解だった。やはり幻想郷は『刺激』を求めている。人も妖も、全てが。
紫の隣を、二つの皿を持った店員が通る。
「さて、あなたたちはどんな『声』を聞かせてくれるのかしら…」
配膳している店員を遠目で見る紫は、持っていた扇子で口元を隠すと、目を細めていやらしく微笑した。
「うむ、実物を見るとやはり違うな」
「でしょ?」
「ちょっとした創作物みたいだ。飾りつけがすごいな。手をつけるのを躊躇ってしまう」
慧音の目の前に置かれた皿には、パスタが一回り小さめに盛られていた。ほうれん草やきのこなどの具材がまるで芸術品のように盛り付けられ、魅了させた。
「では、頂こう─。…と、思ったのだが」
「─慧音はパスタの食べ方を悩んでいるようだった」
はたては食器を持ち食べようとしたが、周囲を困ったかのように見回す慧音を見て面白そうに弾んだ声でそう言った。
「どうしていきなり状況描写なんだ…。まぁ、その通りに悩んでいるんだが…これで食べるのか?」
「─はい、これを」
慧音がスプーンとフォークを両手に持ち、首を傾げる慧音に、はたてはメニューとは別に綴じられているものを渡した。
「これに食べ方が?」
はたては嬉しそうに頷き、食べ始めた。
そこには食器の使い方から食べ方までが絵付きで書かれており、これらに全く無縁な幻想郷の住人でもかなり解り易かった。しかし、それでもこれを読みながらの食事は心底面倒ではある。こんなものでは苦情が来るのではと、慧音は読みながら思った。
「…よし、とりあえず試してみるか。それしかない」
「そんなに力まなくてもいいのに。私も最初は同じだったけどね」
気を引き締めるように体勢に入った慧音に、はたては笑いを堪えられずに小さく吹き出していた。
慧音は食べ方と料理を交互に見てなんとか口まで運んだ。その姿にはたてはまた吹き出していた。
「─!美味しいな。想像していた以上に味が濃いのは慣れていないせいなんだろうが、それを差し引いてもなかなかだ」
口元を隠しながら率直な感想を述べ、また直ぐに食べ始めた。食べる度にひとりでうんうんと、頷いていた。
「美味しいでしょ?パスタ。その様子だと結構気に入ったみたいだけど」
はたては満足そうに尋ねた。
「あぁ!これは素晴らしい!この歯ごたえ、独特だな。気に入ったよ!」
「ふふっ、そう言ってくれると私も宣伝した甲斐があったわ」
「そうだな、これは誇っても良いほどだ」
「さすがに誇るまでのものじゃないと思うけど。そういう私も気に入ってるし」
食器の扱いに慣れたのか、すいすいと口に運ぶ慧音を見て、喋りかけるのを止め、はたてもまた食べるのに戻った。
二人が食べ終わるまでそのまま終始無言だったが、特に気まずい雰囲気になることは無く、むしろ、料理を存分に楽しめた。
空いた皿が下げられて二人の前には食後の紅茶が置かれていた。
その紅茶の葉もこだわったものらしく、紅魔館の主、レミリア・スカーレットが選別に参加していたというのをはたては教えた。
「私は紅茶をほとんど飲まない故にこだわりなんてものは持っていないが、これも随分と素晴らしいものということは分かる」
お互いに一口飲み、香りを楽しんだ。
「ほんとよね。私も紅茶は飲むけどそんなに知ってるわけじゃないの。でもこれはおいしいわ」
「ああ。─そうだ、さっき聞こうと思っていてすっかり忘れていた。ここへは何をしに?君が人里にいるなんて珍しいじゃないか。いや、決して悪口では無いんだ」
「いいわ、それは気にしないで。ちょっと買い物にね。今日一日でいろんな物が壊れたりしちゃってね」
「そうなのか。それは気の毒に。しかし、それらしい物を持ってないということは、目当ての物は見付からなかったのか?」
買い物というわりには提げ鞄くらいしか持っていなかったので、疑問に思い聞くと、
「ううん、見付かったんだけど、壊れたのが家具でね。家まで運んでくれるんだって」
助かったわ。と、はたてはカップに口を付けつつ答えた。
「そういうことか。確かに、いくら天狗とはいえそんな物の持って飛ぶのはな」
「そゆこと。落としてまた壊すのも嫌だし、自分で歩いて運ぶのも嫌だし」
「全くだな。私も力仕事は極力避けたいからな」
「そっちは今日も寺子屋だったの?」
「その通りだ。午前中だけだがね」
「休日なのに大変ね」
「まぁな。生徒たちの今の実力をみるために定期的にちょっとした試験を行っていてな。その試験で点数が良くなかった者たちを集めて、この日に補習をやっているんだ」
「なんかすごいめんどくさそう…」
「だろうな。だが、これも生徒たちのためだ」
自分が受けるわけでもないのに、はたてはあからさまに嫌そうな顔をし、それを見た慧音はその反応が普通だというように小さく笑った。ふと気が付けば客が増えてきていた。二人とも話しに夢中で気が付かなかった。
紅茶を飲み干しどちらかともなく解散という流れになった。
「そろそろお暇しようかな」
「ええ、そうね。いい時間にもなってきたし」
「今日はありがとう。急に一緒してもらって勝手なこと言うが、楽しい時間を過ごせたよ」
「いいよ、こっちこそ久しぶりに外で喋ることもできたし」
「そう言ってくれると助かる。─そうだ、帰る前に一つ相談があるんだが」
「ええ、何?」
「もし良かったら友人の屋台の宣伝か君の新聞に載せてやってほしいんだ。どうだろう?」
「屋台ねぇ。ここ最近は結構流行ってるもんね。その一つとして屋台…。いいかもしれないわね…。いいわ、やりましょう」
顎に手をあてて少し考え承諾し、鞄から手帳とペンを取り出し予定表に取材についての走り書きをした。
「そうか、ありがとう。それなりに流行ってはいるみたいなんだが、やらないよりは良いだろうからな」
「直ぐにってのは難しいんだけど、近いうちに始めるわ」
二人が席を立ち上がった時、思わぬ人物に声をかけられた。
この場に居るはずのない、ましてやこんな往来の中に。勝手にそう思っていただけだが、あまりにも予想外過ぎる邂逅に二人は直ぐに声が出なかった。
紫は相変わらず顔の半分を扇子で隠し、不適な笑みを浮かべている。
「どーもー」
「…八雲…紫…」
「お、お金なら今から払うとこなんだけど…!」
「ああぁん、そんなに怖がらなくていいのよ。お金ももちろん貰うわよ。でも、それよりもっと欲しいものがあるの」
「………おい…まさか…!」
「大丈夫よ、戸惑うのは最初だけよ。直ぐに理解できるわよ」
「な、何をする気なのよ!?」
はたては何が起きているのかさっぱり理解できずに、慧音と紫の顔を交互に見るしかなく、慧音は理解したのか、ここから逃げるべきか思案していた。
そんな二人に紫は今にも笑い出しそうなのを堪え、それがバレてしまう前に二枚の紙を各々に渡した。
「─アンケート、よろしくお願いしま~す」
一応の休日 正午
さすがに籠もりすぎたみたい。記事は仕上がったけど。
そして体が痛い。重い。軽く固まってんじゃないの、これ?
座ったまま伸びをして、そのままいすの背もたれに体を任せる。
ギィィ と、音がしてる。
「あぁ~、疲れた…」
今まで部屋に篭って作業をすることは決して少なくなかったけどさ、今回はさすがに堪えたわ。
頭を窓に向ける。
閉じっぱなしのカーテンの隙間から、仕事場に陽光が差し込んでる。
全く気付かなかった。それだけ集中していたのかな。
机の端に置いてる時計を見たら、そろそろ正午を向かえそう。でしょうね。
カーテンだけでも開けておこう。
「─っ!眩しすぎじゃん…」
カーテンを払ったと同時に強烈な光が。
なんか久しぶりに光を浴びた気がする。…そんなことないけど。
というか、電気も付けたままじゃん。マグカップも中身がちょっと残ってるままじゃん。
いやぁ、ほんと集中してたみたい。
「……」
何か飲もう。
そう思ったら急に喉が渇いてきたし。
あぁ、体が重い。立ち上がったら、これ、立眩み…。そんなにきてますか?私?
お湯を沸かして、何を飲もうか。なんでもいいわ。紅茶にしよう。
「─無いじゃん。えぇ~、紅茶も?お茶も無いじゃん…」
最悪…。
棚、空っぽじゃん。買いに行かなくちゃ。面倒だけど。ほんと、面倒だわ。立眩みしそう。
もういいや。正直、水でもいいし。別に食べ物が無いわけじゃないし。
なんか疲れた。座ろう。
「─おわっ!?…っっっ痛ぁ…!」
何?えっ?いす?壊れたの?えっ?いす…壊れてんじゃん。
背もたれ、折れてる?
最悪…。
いや、確かにちょっと変な音はしてましたけどさ。今ですか?今、壊れちゃいますか?
新しいの買わなくちゃ。面倒だけど。ほんと、面倒だわ。立眩みしそう。
「そして…このスタンドの電気、切れてるし」
この電気スタンド、いつ買ったっけ?もう覚えてない。まぁ、買ったときからちょっと古かったから仕方ないか。
新しいの買わなくちゃ。面倒だけど。ほんと、面倒だわ。立眩みしそう。
紅茶とかは人里に行けば買えるけど、いすとかって、売って…るよね?
香霖堂。あの店で買ったはずだから、また行けばいいか。無くても、文に頼めば譲ってくれるだろうし。
はぁ…。なんか、この数分ですごいやることが増えたんですけど。
「ん~。─はぁ…」
窓辺に座って伸びをしたら、まだ体が硬かった。
頭だけ振り返って外を見たら、すごい青空。
部屋に視線を戻してみる。
折れて座れないいす。もう点かない電気スタンド。そして、棚も空っぽ。
「……」
一応、休日だからってこんなに頑張るんじゃなかったわね。
お昼になってることに気付かなかった。とか、棚が空っぽになってることに気付かなかった。とか、その他諸々、気付かなかった。だから頑張るも何もそんなんじゃないんだけどね。
別にそれが原因でもないし。
「……」
ふむ、これはあれですか、
「外に出ろ。ってことですか?」
幻想郷 春
一応の休日 正午
「気を付けて帰るんだぞ。遊ぶなら一旦、家に帰ってからにするように」
寺子屋の玄関まで生徒たちを見送り、さよならを言う。
全く。帰る時が一番はしゃいでいる。授業中にはしゃがれても困るが、これはこれで。
さて、そんな私はこれからの用事は特に無かったな。寺子屋の用は全て終わっている。自宅に帰ったところでやることは無い。妹紅は昼間は屋台の仕込みなどで忙しいと、言っていたな。今から会いに行っても邪魔になるだけか。止めておこう。
どうしようか。まだ正午を回った程。ここ最近は私も忙しく、寺子屋と自宅を行ったり来たりだったな。
適当な茶店にでも入って昼食ついでに、ゆっくりと午後の一時を満喫しよう。うむ、そうしよう。
─最近はこの里にも飲食店というかその類の店が増えてきたな。流行っているのか?
そういえば、少し前に八雲のところの式神が新しくできる店を紹介する広告紙─彼女は『ポスター』と言っていたな─を貼ったりしていたな。寺子屋にも貼るようにと何枚か渡されていたな。全く忘れていた。すまない。
あの式神が動いているということは、八雲紫も動いている。そう思っても間違いはないだろう。宣伝の仕方などを見るに、また外の世界からの入れ知恵か。
まぁ、悪事ではないであろうから心配は要らないか。…たぶん。
「─お?これか…」
八百屋にそれは貼られている。なんともまぁ。
『今まで出会ったことの無い様式を!今まで出会ったことの無い味を!』
ほう。
行く行かない というのはともかく、興味は出るもになっているな。私に渡されたものと若干、違う気がするが…気にしないでおこう。
謳い文句通りだな。あまり見ない料理の写真が載っている。なかなか鮮やかだな。
「悪食」がすぎる私にはもってこい?やかましいわ。
しかし、少々だが値が張るな。仕方ないか。それだけの価値はあるだろう。まさか、あの八雲紫でも客の足許を見るような真似はしないだろうし。
『撮影・姫海棠はたて』
姫海棠はたて…。ああ、花果子念報のか。これはまた珍しいな。
彼女はあまり外交的ではないと聞いていたのだが、存外、そうでもないようだな。大変結構だ。
私も文々。新聞と共に拝見させてもらっている。まぁ、どちらの内容もなかなか評価し難いがね。
せっかくだ。この店に行ってみるとしようか。
地図によると、角を曲がってすぐそこだ。
─当初の目的からだいぶかけ離れてしまったが、いいだろう。忙しかった分をこれだけで取り戻せそうだな。
もし、いけるようであれば、近いうちに妹紅を連れて行きたいな。屋台を始めてからここ(人里)との関わりは増えてきているようだから、今の時機に行くのもありだな。うむ、そうしよう。
さっきの八百屋の店主に、この店に行くのか?と、訊かれたが…。そうなのか?
「─!あれは…確か…」
ほう。
この流れでここに君が居ようとは。驚いてしまったよ。
[─ご一緒してもいいかな?」
幻想郷 春
一応の休日
人里の中央には一本の大きな通りが走っている。その通りの中心に民家や店舗が広がっており、この幻想郷の住人達の生活に必要な物がある程度揃うので昼間ともなれば人通りも盛んになる。その通りの一角に店はある。
幻想郷での飲食業界が流行りだしてから、この通り沿いはそういう店が増えてきた。その半分は便乗店でもあったりする。上手く軌道に乗ったところは行列が止まず、一部では予約制を採用したりもしていた。
その中でも新規店舗だが既に評判は上々、その外来食店にはたては居た。ちょうど、注文を終えたところ。何枚かの紙の束を机に広げて見比べていたところに声をかけられた。
「─あぁ…はい、どうぞ…」
「ありがとう。─急にすまないな。驚かしたことの無礼は許してくれ。偶然、君がここにいたもので声をかけてみたんだ。個人の事だが君を知っているんだ。私は上白沢慧音。ここの寺子屋で教鞭をとっているんだが…知っているかね?」
慧音の突然の現れに少々驚きつつ、4人席の空いている残りの席に広げていた物を下げながら答える。慧音も空いている席に提げいた鞄を置き、はたての対面に座った。
「ええ、知ってますよ。すぐそこのですよね?私は姫海棠はたて。花果子念報って新聞の記者。…さっきの言い方だと…読者?」
「ああ、知っているよ。毎号、楽しく読ませてもらっている」
寺子屋の位置を軽く教えて、運ばれてきた水を一口飲んだ。
「そうなんだ。ありがとう。ちょっとびっくりしたわ。─何か食べるの?」
「今日はそのつもりで来たんだ。どうやらここでは、普通では食べられないものがあるんだろ?」
そう言うと、慧音は机の端に立てられているメニューと書かれているお品書きの類を取って広げた。
はたては水を飲み、面白そうに口角を上げた。
「─ほう。どうやら私の想像をはるかに超えている。写真は載っているものの…全く味などが想像できんな」
そこには、前菜から一品までの品名が写真とともに載せられていた。しかし、名前も見た目もどれも幻想郷には無いものなので、そこから味を想像することなどはできるはずもなかった。
絵に描いた様な目をする慧音に、はたては堪らず吹き出しそうになった。
「あぁ…と…君はどれを注文したんだ?正直、どれを頼めばいいのか全く分からない」
吹き出すのを堪えていたはたては、自分が考えていたのと同じ反応を見れたので満足したように笑っていた。それから「でしょうね」と、付け足し。
「私はこれ。『鮭のクリームパスタ』。一番美味しかったし」
「なるほどな。では私はこの『ほうれん草ときのこの醤油パスタ』にしよう。ざっと見た限りでは『まとも』そうだからな」
もう一つ、軽いものも注文しようとしたが初見で危うい橋を渡るのは止めておこうと思い、メニューを閉じて元の場所に戻し、店員を呼び注文をした。
この流れは同じなんだなと、慧音はなんとなくおかしなものを感じた。
「─そういえばさっき、一番美味しかったと言っていたが、ここに来たことがあるのか?それと『パスタ』とはなんだ?」
「あぁ、それ?ううん違うの。この店の宣伝を手伝って欲しいって言われてね。その時にいくつか食べたの。味見っていうかなんていうの?試食っていうの?それであれが一番だったの。パスタは…こっちでいう『うどん』とか『そば』みたいな物…って思ってもいいんじゃない?…かな?」
「ほう。麺類になるのだな。写真もそんなかんじだったな。─そこら中に貼られているポスターだったか?に、君の名前が載っていたな。その時というわけか」
「そそ。見てくれたんだ」
はたては得意げな顔をして目を少し輝かせた。
その表情に気付いたが、その期待に応えられるような感想ではない。と、心の中で慧音は謝った。
「まぁ、見るもなにも、あれだけそこらに貼られていたら目にも付くさ。私の寺子屋にも貼ってくれとまで言われたからな」
「なんかごめんなさいね。あれ作ったの私だし。貼りすぎなのは私も分かってたんだけどね。どこの誰かさんがね、もっと貼れもっと貼れってうるさかったのよ。分かるでしょ?」
「なるほどな。君の気持ちはよく分かるよ。その誰かさんも、やるだっけやって後は任せた。といったところか」
眉間を押さえてわざとらしく大げさに溜息をつくはたてに、慧音は乾いた笑みを投げることと水を飲むことしかできなかった。
「へぇ、これまた珍しい組み合わせじゃないの…」
店の奥から店先までを一望していた八雲紫は、談笑するはたてと慧音を見付けた。
外の世界からの物は直ぐには根付かないことは解っている。他人には見せないが、紫もこの店の行く末は気にはなっていた。かなり強引な宣伝ではあったが、初動からの来客数は安定している。
しっかりとした食事だけでなく、紅茶などのハイカラなものを中心とした軽食を置き、小休憩がてらに立ち寄れるようにしたのは大正解だった。やはり幻想郷は『刺激』を求めている。人も妖も、全てが。
紫の隣を、二つの皿を持った店員が通る。
「さて、あなたたちはどんな『声』を聞かせてくれるのかしら…」
配膳している店員を遠目で見る紫は、持っていた扇子で口元を隠すと、目を細めていやらしく微笑した。
「うむ、実物を見るとやはり違うな」
「でしょ?」
「ちょっとした創作物みたいだ。飾りつけがすごいな。手をつけるのを躊躇ってしまう」
慧音の目の前に置かれた皿には、パスタが一回り小さめに盛られていた。ほうれん草やきのこなどの具材がまるで芸術品のように盛り付けられ、魅了させた。
「では、頂こう─。…と、思ったのだが」
「─慧音はパスタの食べ方を悩んでいるようだった」
はたては食器を持ち食べようとしたが、周囲を困ったかのように見回す慧音を見て面白そうに弾んだ声でそう言った。
「どうしていきなり状況描写なんだ…。まぁ、その通りに悩んでいるんだが…これで食べるのか?」
「─はい、これを」
慧音がスプーンとフォークを両手に持ち、首を傾げる慧音に、はたてはメニューとは別に綴じられているものを渡した。
「これに食べ方が?」
はたては嬉しそうに頷き、食べ始めた。
そこには食器の使い方から食べ方までが絵付きで書かれており、これらに全く無縁な幻想郷の住人でもかなり解り易かった。しかし、それでもこれを読みながらの食事は心底面倒ではある。こんなものでは苦情が来るのではと、慧音は読みながら思った。
「…よし、とりあえず試してみるか。それしかない」
「そんなに力まなくてもいいのに。私も最初は同じだったけどね」
気を引き締めるように体勢に入った慧音に、はたては笑いを堪えられずに小さく吹き出していた。
慧音は食べ方と料理を交互に見てなんとか口まで運んだ。その姿にはたてはまた吹き出していた。
「─!美味しいな。想像していた以上に味が濃いのは慣れていないせいなんだろうが、それを差し引いてもなかなかだ」
口元を隠しながら率直な感想を述べ、また直ぐに食べ始めた。食べる度にひとりでうんうんと、頷いていた。
「美味しいでしょ?パスタ。その様子だと結構気に入ったみたいだけど」
はたては満足そうに尋ねた。
「あぁ!これは素晴らしい!この歯ごたえ、独特だな。気に入ったよ!」
「ふふっ、そう言ってくれると私も宣伝した甲斐があったわ」
「そうだな、これは誇っても良いほどだ」
「さすがに誇るまでのものじゃないと思うけど。そういう私も気に入ってるし」
食器の扱いに慣れたのか、すいすいと口に運ぶ慧音を見て、喋りかけるのを止め、はたてもまた食べるのに戻った。
二人が食べ終わるまでそのまま終始無言だったが、特に気まずい雰囲気になることは無く、むしろ、料理を存分に楽しめた。
空いた皿が下げられて二人の前には食後の紅茶が置かれていた。
その紅茶の葉もこだわったものらしく、紅魔館の主、レミリア・スカーレットが選別に参加していたというのをはたては教えた。
「私は紅茶をほとんど飲まない故にこだわりなんてものは持っていないが、これも随分と素晴らしいものということは分かる」
お互いに一口飲み、香りを楽しんだ。
「ほんとよね。私も紅茶は飲むけどそんなに知ってるわけじゃないの。でもこれはおいしいわ」
「ああ。─そうだ、さっき聞こうと思っていてすっかり忘れていた。ここへは何をしに?君が人里にいるなんて珍しいじゃないか。いや、決して悪口では無いんだ」
「いいわ、それは気にしないで。ちょっと買い物にね。今日一日でいろんな物が壊れたりしちゃってね」
「そうなのか。それは気の毒に。しかし、それらしい物を持ってないということは、目当ての物は見付からなかったのか?」
買い物というわりには提げ鞄くらいしか持っていなかったので、疑問に思い聞くと、
「ううん、見付かったんだけど、壊れたのが家具でね。家まで運んでくれるんだって」
助かったわ。と、はたてはカップに口を付けつつ答えた。
「そういうことか。確かに、いくら天狗とはいえそんな物の持って飛ぶのはな」
「そゆこと。落としてまた壊すのも嫌だし、自分で歩いて運ぶのも嫌だし」
「全くだな。私も力仕事は極力避けたいからな」
「そっちは今日も寺子屋だったの?」
「その通りだ。午前中だけだがね」
「休日なのに大変ね」
「まぁな。生徒たちの今の実力をみるために定期的にちょっとした試験を行っていてな。その試験で点数が良くなかった者たちを集めて、この日に補習をやっているんだ」
「なんかすごいめんどくさそう…」
「だろうな。だが、これも生徒たちのためだ」
自分が受けるわけでもないのに、はたてはあからさまに嫌そうな顔をし、それを見た慧音はその反応が普通だというように小さく笑った。ふと気が付けば客が増えてきていた。二人とも話しに夢中で気が付かなかった。
紅茶を飲み干しどちらかともなく解散という流れになった。
「そろそろお暇しようかな」
「ええ、そうね。いい時間にもなってきたし」
「今日はありがとう。急に一緒してもらって勝手なこと言うが、楽しい時間を過ごせたよ」
「いいよ、こっちこそ久しぶりに外で喋ることもできたし」
「そう言ってくれると助かる。─そうだ、帰る前に一つ相談があるんだが」
「ええ、何?」
「もし良かったら友人の屋台の宣伝か君の新聞に載せてやってほしいんだ。どうだろう?」
「屋台ねぇ。ここ最近は結構流行ってるもんね。その一つとして屋台…。いいかもしれないわね…。いいわ、やりましょう」
顎に手をあてて少し考え承諾し、鞄から手帳とペンを取り出し予定表に取材についての走り書きをした。
「そうか、ありがとう。それなりに流行ってはいるみたいなんだが、やらないよりは良いだろうからな」
「直ぐにってのは難しいんだけど、近いうちに始めるわ」
二人が席を立ち上がった時、思わぬ人物に声をかけられた。
この場に居るはずのない、ましてやこんな往来の中に。勝手にそう思っていただけだが、あまりにも予想外過ぎる邂逅に二人は直ぐに声が出なかった。
紫は相変わらず顔の半分を扇子で隠し、不適な笑みを浮かべている。
「どーもー」
「…八雲…紫…」
「お、お金なら今から払うとこなんだけど…!」
「ああぁん、そんなに怖がらなくていいのよ。お金ももちろん貰うわよ。でも、それよりもっと欲しいものがあるの」
「………おい…まさか…!」
「大丈夫よ、戸惑うのは最初だけよ。直ぐに理解できるわよ」
「な、何をする気なのよ!?」
はたては何が起きているのかさっぱり理解できずに、慧音と紫の顔を交互に見るしかなく、慧音は理解したのか、ここから逃げるべきか思案していた。
そんな二人に紫は今にも笑い出しそうなのを堪え、それがバレてしまう前に二枚の紙を各々に渡した。
「─アンケート、よろしくお願いしま~す」
各人物の話と話との繋がり方が良かったです。ただ、最後のアンケートの部分も書いて欲しかったです。
次は妹紅の取材を期待していますよ!
あ、パスタ美味しそうです
誤字報告なんですが題名が…。デフォだったらごめんなさい
別々のお話を並行して創っていたんですが、途中で似たような展開になっていたので合わせてみました。
アンケートの部分も用意していましたが、私の力では無駄に長くなるというか、ぐだぐだになるというか。なので、ここで切ることにしました。
妹紅のお話も書きたいです。
>>愚迂多良童子さん
私もはたては外で動いている方が良いと思っているのでこうしてみました。
本当はもっとあれこれする予定だったんですけど、さすがにやりすぎかなと思い止めました。
「ことす」
すいません、完全に誤字です。ご指摘ありがとうございます。修正します。
慧音は和食より、パスタみたいなオシャレな料理が似合うとずっと思っていたので食べさせてみました。デザートも食べさせてみるのもありでしたね。
>>14さん
そうですね。食べ物系はほのぼのとして書けるかなぁと。もっとゆっくりとした展開にした方が良かったですね。
屋内のはたてももちろん良いものですが、私も外に出ている方が好きです。その分、外でやれる事が結構あると思うのでまた書いてみたいです。
題名で誤字。致命的な失敗ですね。ご指摘ありがとうございます。
二人とも実に美味しそうに食べている描写が良いなぁ
原作では絡みのない人物を絡ませるのは意外と良いのかなぁと。書いている最中はいろいろな妄想ができましたし。
今更なんですが、デザートとか食べさせたかったです。