エピローグStage0は 村紗成仏異変1 です。そちらからお読みください。
-朝を飛びし夜の怪-
Stage1 上空 BGM.夏の湊に
「うわー、日差しが痛いわ......」
私は夏の太陽と一方的に戦いながら幻想郷のはるか上空、冥界の入口を目指しています。地上を発ってからもうしばらく経つのにいまだに空の境界は見えません。そもそも山彦の私は空を飛ぶことが上手ではないんですが。こうやって、空気の反響を足とか体にうまくまとわりつかせてることによって、ホバリングの要領でふわふわと飛行できます。
「うぅ、朝なのに相当厳しい暑さね。かき氷でも食べてくれば良かった」
後悔先に立たず。私はその言葉を心に刻みながらさらに上空を目指します。
ふわり、と頬を何かがかすめました。それが空気であることは判ったものの、常に空気に触れている状態で空気が撫ぜるのはどういう事か。
「冷たい」
頬を撫でたのは冷気。周りより格段に温度の低い空気が触れたことによって、感触露わに感じたみたいです。でも、こんな所に冷気なんてあるわけが......
「あ、氷精」
太陽の照りつけで前方が良く見えていなかったため気づかないでいたけれど、どうやら氷の妖精が少し前方を飛んでいるようでした。なるほど、だから涼しい。
ピコーンと私の頭に妙案が浮かびました。
「そこの妖精!」
ご自慢の声で氷精に声をかけます。氷精はその声に気づいてこっちを振り向きました。
「あんた誰?」
「私は幽谷響子。山彦よ。ちょっと私のお伴しない?」
名づけて氷精お伴作戦である。ごめんなさい、頭は弱い方なのでひねったアイデアなんて出てこないです。
「嫌よ。あたい今かくれんぼしれるもの!」
「か、かくれんぼ?」
氷精をなぜこんなところで見かけるかと思えば、意外な理由でした。でもかくれんぼって、木の陰とか建物の裏とかに隠れるんじゃないの?そんなアクティビティーに動きまわっていいの?
「そうよ。あいつが空の方に隠れに行ったから追いかけてるの」
「あいつ?」
「あいつよ。えっと......」
うむ。私より頭が弱いみたい。
じりじりと肌を刺す日差しに耐えかねた私はある提案を出す。
「じゃあ、スペルカードバトルしない?あなたが勝ったら探すの手伝ってあげる」
「ほんと!?」
「ただし、私が勝ったら」
「ふふん、わかってるわ。オトモ?してあげる」
お伴の発音が微妙だった気もしますが、互いの了承を得たので、幻想郷のルールに則りスペルカード戦を始めます。
同じ高さで身構えて、攻撃の術を考えようと思いましたが、
「ちょっと試してみようかしら」
私は懐から聖のスペルを取り出しました。超人「聖白蓮」は聖が超高速で動き回り弾幕を生み出すものです。そのあまりの速さに巫女の攻撃を振り切ったと聞きます。しかし、これを私が使うとなると、どうなるのでしょう。
「まあものは試し」
「なにぶつぶつ言ってるの?攻撃しないならこっちから行くわ!」
氷精がバッと両手を広げてスペルカード宣言。
「『パーフェクトフリーズ』!」
とたんにカラフルな氷の弾幕が展開されて、私はとても涼しく感じました。て、そうじゃなくて反撃しなきゃ。...よし、使おう。
私も負けじとスペルを天に掲げて大きく宣言しました。
「『聖白蓮』!」
カッとカードが光り、ドガガガガという音と共に氷精の悲鳴が聞こえた気がしました。
どうやら私は氷精を倒してしまったようです。跡形もなく。スペルの発動中、なんか体がふわふわした感じがしましたが何なのでしょうね。さすが聖、すごいスペルです。自分の力でないですが、とりあえず倒しました!
「って、そうじゃなくて氷精お伴作戦が!」
後悔先に立たず。私はその言葉を心に刻みながらさらに上空を目指します。
途中で気づいたんですが、雑魚妖精とか聖に頂いたおにぎりを投げると倒せるみたいです。しかもホーミング機能付き。当たれば手元に戻ってくる魔法のおにぎり。やっぱり法界の技術ってどこか変ですね。でもこれでは私のお昼ごはんが...
感傷に浸っていると、辺りがわずかに暗くなって眼前に黒々とした空間が広がってきました。ここが、幽明結界。この先は浄土であるというのに、どこか禍々しさを感じさせるそれは私の足をちょっとだけ緩めさせます。
「これをを越えるのね」
「あれ、響子じゃない?」
ごくりと生唾を飲み込んだ時に後ろから声を掛けられました。こんな上空、しかも冥界の入口に一体誰が居ようか、いやいない。反語です。
しかしその聞きなれた声に私は違う疑問を持ちました。
「ミスティアじゃない。どうしてここに?」
「私は空を飛んでいるのよ」
「いやいや、そうじゃなくて目的をね」
ミスティアは頭にハテナマークを乗せて首をかしげた。目的を忘れて飛び続けるって、さすが鳥頭ね。前日のライブのことは覚えているのに、どうしてそういうところはよく忘れるのかしら。
「そうそう。誰かから逃げて上空に行ってたのよ」
「逃げて?それは物騒ね...ってもしかして、氷精とかくれんぼしてなかった?」
「あ、それそれ」
なんと氷精が探している相手はミスティアでした。
「なんで響子が知ってるの?」
「さっき氷精倒しちゃった」
「ありゃ。だったらいいわ。響子、今日のライブの打ち合わせしましょ」
「うーん、ごめん。これから冥界に用事があるんだ」
「えー。打ち合わせは大切よ」
「分かるけど、ちょっと急ぎの用なの」
あ、この流れは分かる。多分次のミスティアの言葉で私とミスティアは戦う事になりますね。
「だったら弾幕ごっこよ!勝った方に従うの!」
なんでしょう、この私のメリットがない感じは。もしかしてさっきの氷精もこんな気分?
とはいっても断ることもできないので、私はしぶしぶ勝負を受け入れることに。このカードがあれば負けそうな気がしませんし。
「いいわ。やってやろうじゃないの!」
「そうこなくっちゃ!」
BGM.もう歌しか聞こえない ~鳥獣伎楽ver
ミスティア・ローレライ。夜雀の妖怪で、相手を夜盲にする。夜限定の能力じゃないのかしら。
「スペルカード宣言!『梟の夜鳴声』!」
声とともに展開される弾幕を、私は出来るだけ離れてから避ける。声が弾幕なら遠くにいるほど弱くなるのは、同業者である私ならよく知っていること。私の場合は反響を使うからそこまで弱くならないが。
とにかく私はおにぎりを投げ続けました。ホーミングするおにぎりは2,3回ミスティアの体にぶつかった後、軽やかに私の手元に戻ってきます。それを何度も。
「ちょ、ちょっと響子!それ卑怯じゃない!?」
焦ったミスティアが大声で私に公平を訴えていますが、こちらとて大切な用事があるので一刻も早く明かに向かわないといけないのです。ミスティア、勘弁を。
「よーし、わかったわ。あなたに本気を出させてあげる!」
顔を真っ赤にしてミスティアは帽子の中からスペルを一枚取り出しました。先ほどのカードとは違う色をしています。
「私のラストワード!『ブラインドナイトバード』!!」
「!?」
さきほどより高密度の弾幕が私を覆っていました。これは避けるのには少し骨が折れそうと思いましたが、どうやら私の勝ちみたいです。
「今が夜ならよかったわね、ミスティア!」
足を思いっきり上げて、それからおにぎりを音速ともいえるスピードで投球。違う。投握り。そのおにぎりはホーミングによって見事なカーブを描きながらミスティアの頭部にべちゃりと衝突しました。
「もがっ!?」
そうです。この弾幕は夜なら私は避けきれなかったでしょう。ですが、今は太陽が半分登った時間、つまりまだ朝方。
「あなたの能力と組み合わさって初めて効果を発揮する弾幕を、こんな朝に避けきれないと思う?」
「もごもごご」
あ、おにぎり咀嚼しないで!
おにぎりは形を球体に戻すと、手元に戻ってきました。やっぱりちょっと小さくなってる。
「ごくん。おいしかったわ」
「あ、そ、そう」
「じゃあ私行くわね。チルノとのかくれんぼ中だし」
「あれ?」
そうしてミスティアは去って行きました。さすがは鳥頭。おにぎりのぶつかったショックで記憶が飛んだんでしょうねえ。とりあえず勝ったみたいです。これで心置きなく冥界を目指せます!
「よし!行くのよ幽谷響子!」
嫌な雰囲気を感じながらも幽明結界の薄くなっている部分に私は突っ込んで行くのでした。
少女反響中...
-冥々悠々なお嬢様-
Stage2 白玉楼階段 BGM.死霊の葉桜
結界を抜けると、そこには長い長い灯篭を備えた階段がありました。これを登って行くのかしら。うひゃあ。でもよく声が通りそう。
「なんだかひんやりしてる」
冥界は夏にも関わらず、秋の夜ほどの涼しさがありました。なんででしょうね。冷たい幽霊がいっぱいいるからでしょうか。
「っと、さっそく怪しい亡霊発見。ここはさくっと倒して幽々子さんを探さないと」
階段の中ごろを飛んでいた水色地でピンク髪の亡霊に向かってライスボール(今名付けた)を投げつけます。投げる最中に思ったのですが、幽霊や亡霊にもライスボールって効くんでしょうか。
「ふぎゅ!」
あ、効きましたね。
倒れた亡霊を後にしてふわふわホバリングで階段を登っていきますよ。
それにしても幽々子さんってどんな方なんでしょうか。聖の話では、優雅で趣のある人物(?)と聞きましたし、ちょっと天然でもあるそうです。まるで聖のようです。さぞ美しくかわいらしいのでしょう。そこに倒れている頼りなさそうな亡霊とは違いますね、きっと。
もう少しで階段の終わりが見えそうな所で、人の姿が見えました。緑の服を着ていて、遠巻きでも長物を一本、短物を一本所持していることがうかがえます。傍らには幽霊が漂っていて、それなのになぜか生気を感じる。あれは誰なのでしょうか。
ちょっと近付くと、向こうは刀を構えようとしていました。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「怪しいものは斬りますよ」
「私は命蓮寺のものです!」
「命蓮寺?」
この時ほど自分の声が大きいという特徴を活かせたことはないと思います。剣士さんは刀から手を離すと、私が話せる距離に来るまで待っていたくださいました。
前髪を切りそろえた白髪に黒のリボンがよく似合っている剣士さんですね。
「私は命蓮寺の修行妖怪、山彦の幽谷響子と言います」
「そうですか。して、その修行妖怪がこの冥界にどういった用で?」
「実は......」
私は明朝からの出来事を簡単に伝えました。村紗が、という単語を出しただけで納得した様子です。やはり6回も過去にお世話になっているだけはありますね。
「直してほしいですがね、成仏癖」
そんな言葉作っていいの?成仏って結構大変なことなんだよ。それが癖になってるって。
話を聞いている間、少し剣士さんがそわそわしていることに気づきました。
「どうしたんですか?」
「ええ、幽々子様を先ほどから待っているのですが、一向に現れず......」
空が落ちてきそうな顔をなさった剣士さん。私も幽々子さんが居ないと用事を果たせないですし、剣士さんの幼いながらもかっこいい表情を見れたので、そのお返しにお心添えしたいと思います。
「私が探してきます!」
「よろしいのですか?冥界は広い上に生ずる者には危険な場所ですよ?」
「大丈夫です!さっきも弱そうな亡霊を一匹倒してきましたから!」
ふふんと私は胸を張ってちらりと剣士さんを見ました。ほめて撫でてくれると嬉しい。
ですが、剣士さんはわなわなと震えていました。
「か、確認します。あなたは今、亡霊を倒したと言いましたか?」
「はい!」
「......冥界には亡霊の類はいません。成仏していないのが亡霊ですからね」
「え、じゃあなんで?」
「その亡霊は、薄青の着物を着て、ピンクの髪の毛ではありませんでしたか?」
「すごーい。よく分かりましたね!」
ちゃきり、と刀の音が私の耳に入りました。
「その方こそ」
ゆらりと腰の短刀と肩の長刀が抜かれました。まさか、私を斬るつもりですか!?私が一体何をしたというのです!
「その方こそ...幽々子様ですっ!」
BGM.広有探主人事 ~ Yuyuko where?
のど元を真っ二つに斬られる感覚がしました。感覚がするまで剣士さんが動いたという事に気が付かなかったです。
「うわっ!?」
剣圧で階段から吹き飛ばされてしまいます。なんとか着地して頭を数回振ってから、首が繋がっていることを確認しつつ剣士さんの言葉を反芻させます。とたんに顔から血の気が抜けていくのが自分でわかりました。日本語でこんな感情を表せるか分からないので、英語で言うと、オーマイガッ!
「あわわ、どうしよう」
目的である幽々子さんを倒した上に、かっこいい剣士さんを怒らせた上に、生命の危機。こんなんじゃ村紗さんを助ける前に私が散るっ!
「はぁっ!!」
「うわっ!!」
灯篭が真っ二つ。昨日、一輪さんがよく切れる包丁を買ってきて、すごーいよく切れるー、なんて言ってたのの比じゃないです。あの包丁じゃ石は斬れないですし。
「その辺の妖怪ごときに幽々子様が負けるわけがありません!」
「だったらその剣を止めてくださいよー!」
私はライスボールを投げる暇も懐からスペルを取り出す暇もありません。斬撃の嵐です。かまいちたちともいいますか、避けていることが奇跡としか言いようがないです。
半ベソをかきながら、どんどん下段に追い込まれていきます。気が付けば階段の中ごろ。あの亡霊、じゃなかった、幽々子さんを倒してしまった場所まで来てしまいました。まだ倒れていらっしゃいます。
「あ、幽々子様!」
幽々子さんに気付いた剣士さんが剣を収めて、光の速さで駆け寄って行きました。私は心の臓の奥からつっかえていた息をぷはぁと思いっきり吐き出すと、階段に座り込みました。生きた心地がしなかったです。死ぬって怖いことと縁側で呟いている村紗さんの気持ちが少しわかりました。
段の下で剣士さんが幽々子さんを起こして必死に呼びかけています。なんだろう、この必死な姿どこかで見たことあるような。
あれ、この人、春にお寺に乗り込んで来た人じゃない?刀振り回してた人じゃない?でも髪型違うし。あの時はボブの白髪でりぼんの剣士だった...そっか、イメチェンね。それにしても、向こうも覚えていないってどういうこと?私は髪型もなにも変えてませんよ。
私が複雑な乙女心を膨らませていると、目の前に目的である西行寺幽々子さんその人が立っていらっしゃいました。私は跳ね上がって、すぐに謝罪の言葉を述べる。幽々子さんはにっこりと笑って、
「いいのよ。それよりもうちの妖夢が迷惑をかけたわね」
と優しく諭して下さった。おお、これが聖の仰っていた幽々子さんだ。
「いえ、こちらこそ迷惑をおかけして」
しゅんとする私に幽々子さんはさらにお言葉を投げかけてくださいます。
「事情をお聞きしました。遠路はるばるご苦労様です。どうぞ白玉楼でゆっくりとしていってくださいね。お話すべきこともありますし」
「??」
この時、柔和な笑顔の幽々子さんが少し焦っているように見えました。
えっと、ライスボールもスペルも使うことなく事が進んでよかったです。
少女反響中...
小ネタも挟んであって面白いです
3様
ありがとうございます。投稿は不定期です。