Coolier - 新生・東方創想話

ヤマザナドゥ地獄録 ~逆襲の風見幽香~

2012/08/19 00:43:28
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「あ~酔っ払っちまった。明日の予定は二日酔いで休みだなぁ。また四季さまに怒られちまうよ」

 中有の道の居酒屋にて、酔っ払っているのは小野塚小町。地獄の閻魔、四季映姫ヤマザナドゥの下で働く死神だ。そして不運にも酔っ払った死神の相手をしているのは霧雨魔理沙。普通の魔法使い。
「四季さま四季さまっと…そう言えば、四季さまの事で面白い話あるんだ。ここだけの話にしといてくれよ。笑っちまって」
 酒で気分のよくなった小町は口も軽く、ぺらぺらと喋りだした。守秘義務はどこにいったのか、この公務員は。
「あたいたち死神も時を操れるんだよ、場所限定だけどねぇ」
「ほう?それは知らなかったな」
 少し興味を持つ魔理沙。そんな話は初耳である。
「考えてもみなよ、此岸から彼岸までの川幅は死者の所持金で変わる。所持金の少ないヤツを乗せた船は、彼岸に着くまで長いものになる」
「そんな時間を漕ぎ続けてるのは無理があるだろう?だから死神はその時間は切ってなくしてしまうのさ」
「成る程」
 くいっと酒をあおる小町。
「それでだ、面白くなるのはここからだ。この前、随分と徳の高い魂を運んだんだ。まあ人々に愛されてたんだろうねぇ。あっと言う間に裁判所まで着いちまった」
「で、彼岸に着いて裁判所まで案内したのさ。ほとんど簡易裁判だったからそのまま傍聴してみたんだ」
「四季さまは、『貴方の罪はとても軽い。子供の頃に、つまみ食いをしてしまった… これだけでは地獄行きにはなりませんので安心して下さい。ただ、私の説教を聴き、それをよく胸に刻むように』だとさ」
「あたいは四季様の懐の深さに思わず涙ぐんだよ。ところが…」
「それでまた仕事に戻ったんだ、今度のヤツはとにかく所持金の少ない奴でね、例によって川幅は長い長いものになった。人の体感時間で中劫くらいかな?」
「ようやくその罪人を裁判所まで連れて行ったら、四季様ったらまだ説教してんの!」
「つまみ食いひとつで中劫分の説教とか半端じゃあないね。だったら大人しく地獄に落ちてる方がよっぽど楽じゃないかっての!」
 だはははー!と笑い、バンバンとテーブルを叩く小町。
「笑えねー…」
 苦笑いする魔理沙。泥棒家業の彼女、盗んだ金は自分への施しと見ていいのだろうか。多分ダメだろう。

「笑えるじゃないの」
 不意をついて声が割って入った。
「笑えるって言ってんのよ」
 その声の主は、風見幽香。花の妖怪である。
「風見幽香…あんた、長生きし過ぎって四季様に説教くらったヤツだね…」
 小町がドスの聞いたで幽香に詰め寄る。険悪な空気がフロアに漂い始める。
「生きる事そのものが罪。アンタはどれくらい生きて、どれくらいの罪を重ねてきたんだい?」
 グラスに入った酒を一気に飲み干す幽香。その目は据わっていた。
「さあ?一介の花の妖怪として覚えている一番古い記憶は一億年くらい前の事かしら」
「人間ならどんな聖人でも、50年も生きれば大罪人。アンタの罪は赦されるまでにどれくらいかかる?」
「赦されるつもりなんてないわ」
 グラスを叩き割る幽香。ガシャンという音ともに、完全に静まり返る店内。
「赦される?なんで私があの説教女に赦されなければならないと言うの?」
「でもまあ良いわ、そろそろ決着つけなきゃならないと思っていたところなのよ、四季映姫とはね」
「今の話を聞いて心が決まったわ。決着を今つける。すぐつける。今すぐにつける」
 小町が文字通りにガアンと席を蹴って立つ。
「面白い、その勝負、この私小野塚小町と霧雨魔理沙が見届けさせてもらうよ」
 これにとまどうのが魔理沙。
「おい、私もかよ」

◇ ◇ ◇

 さて、やってきたのは無縁塚。叫ぶ幽香。
「四季映姫!ヤマザナドゥ!出てこーい!」
 第一声目に返事はなかった。なおも幽香の挑発は止まらない。
「四季映姫は変態だー!みんな四季映姫に気をつけろー!!」
 この一声でさすがに反応があった。
 フラフラと人影が近づいてくる。
 四季映姫・ヤマザナドゥの登場である。しかし、どうにも足元がおぼつかないようだ。
「なんですか、貴女たち。人の晩酌を邪魔して…」
「あ。小町、貴女酔っ払ってますね?いかに非番の日であったしても、そのように酔った姿を人様に…」
「四季様の方が酔っていますよ。あと、お説教の途中悪いのですが、四季さまに用事のある方がいたので」
 小町がくい、と顎をあげる。その先には風見幽香。
「あっ、風見幽香…。なんです、今更謝りに来たのですか?言っておきますが、貴方の罪は今更何をもってしも償いきれませんからね」
「貴女の罪は私が裁くと決まっているのです。地獄の地獄の地獄の最下層の最下層の最下層、大紅蓮地獄の底の底で、氷付けになったあなたの耳元で、終わり無きお説教をしてあげますよ。イヒヒッ」
「なにそれ。気持ち悪っ」
「な、何を!気持ち良いとか気持ち悪いとかの問題では…!」
 映姫の言葉は幽香の言葉にさえぎられた。
「地獄の責め苦はどうでも良い。主にアンタが気持ち悪いって言ってんのよ、四季映姫」
「何度でも言ってあげる。アンタが気持ち悪いの。気持ち悪い。気持ち悪い、気持ち悪い、四季映姫は気持ち悪い。いつも気持ち悪い。そしてこれからも気持ち悪い。未来永劫気持ち悪い」
 罵倒という言葉の弾幕が、情け容赦のなく映姫に浴びせられる。
 泣きそうな顔になり、何かをブツブツ言いはじめる四季映姫。

「…のに…」
「貴女のためなのに…」
「貴女のために言っているのに!!」
「なのに、いつも、いつも、いつも!」
「許せない。許せない許せない…許せない、風見幽香ァー!」
「その怒った顔も、より一層気持ち悪いわね」
 してやったりとばかりにニヤリと笑う幽香。

「もう、許せない。風見幽香、今この場で判決を下す!判決は死刑!地獄行き!閻魔の怒りをその身に受けよ!」
 ゴゴゴゴゴ…と地響きのような音が響く。
「なんだっ!地面が揺れているぞ」
 これに慌てたのが魔理沙。これは大変だ。大変な事になってしまった。

『でれりれれれれれでれりれれれれれ…♪ *』 *六十年目の東方裁判
 荘重かつ軽快なメロディが流れる。閻魔の携帯が鳴っているようだ。
「もしもし…四季映姫です…」
「何をしているのだ四季映姫!」
 すさまじい怒号が受話器から響いてくる。
「世界中の火山が一斉に噴火している!地獄をこの世に顕現させる気か! このままでは外の文明が皆溶岩に埋まってしまうぞ!」
「ああ…秦広王様…」
「私は今、閻魔の職務として目の前の大罪人を裁かなければならないのです。それでは」
 ぶちり、と終話ボタンを押す映姫。

『でれりれれれれれでれりれれれれれ…♪ *』 *六十年目の東方裁判
 間髪置かずに再び流れる荘厳かつ流麗なメロディ。
「んううぅむ!」
 映姫が声を荒げて携帯を握り締める。携帯は無残にも粉々に砕け散った。

「ははは…。やった。遂にやってしまった。もう、後には引けない。粉々だ。終わった。終わりだ」
 くるりと身体を翻し、悔悟棒を突きつける四季映姫。
「ならばせめて風見幽香、次は貴女がこうなるべきなのです…」
「私は正義を全うするぞ!ではその目に刻め、この世で最初で最期の、閻魔の本気を!!」
 映姫がその手に持った悔悟棒を振り下ろすや、断層が裂け、地が割れ、マグマがそこかしこから噴出した。雷鳴が轟き、豪雨が降り始める。

 対する幽香。閻魔を前に、挑発こそすれ、一歩たりとも引く気配はない。
「黙って聞いていれば、相も変わらず退屈なお説教ね。あくびがでるわ。で?まだ自分だけは虐められないと思っているのかしら?」
 幽香は日傘を ―幻想郷唯一の枯れない花― を地面に突き立てた。風が巻き起こり、雷雲に亀裂を入れていく。差し込む太陽。そして咲き乱れる向日葵、彼岸花、大小の花々…。
 花は風によって花粉を、種子を撒き散らし、一斉に植物達が幻想郷を埋めつくす。
「な、なんだか胸が苦しくなってきたぜ…」
 倒れこむ魔理沙を抱きかかえる小町。
「きっと世界中の花が狂い咲いているんだ。いまや大気の濃さはきっと太古の地球だよ」
 
 遂に悔悟棒が天に向けてかざされる。
「最後の審判…」
 ドオオオン… と、陥没と隆起を繰り返す大地。激しく変化していく地形。
「ラストジャッジメント!」

 幽香が目を閉じ、ゆっくりと両の手を広げる。
「花鳥風月、嘯風弄月…」
 ゴオオオオ…と、暴風が吹き荒れ、咲いた花びら達が散り舞い踊る。
「マスタースパーク!」

 二人から放たれた二つの巨大なエネルギーが激突し、力のせめぎ合いを始める。
「ぐううっ! 私が勝ったら八大地獄の名所を貴女と一緒に巡ってからお説教です…!」
「…っく!私が勝ったらあんたを骨の髄まで存分に嬲りつくしてあげるわ!」

「あ~、なんてこったい。あたいのせいで大変な事になっちまった。明日は二日酔いだから休みで、明後日からは忙しくなるな、こりゃ」
 頭に手をやる小町。

◇ ◇ ◇

ギイ、ギイと船を漕ぐ音が聞こえる。

「あーあ。外の文明も幻想郷も彼岸までも一切合切吹っ飛ばしちゃって。何やってるんですか、四季さま」
 小町が呆れたように言う。
 船上では二つの幽体が押し合いへし合いしている。
「ちょっと、いい加減に四季さまも風見幽香も、狭いんだからで喧嘩しないで下さいよ」
「それにしても二人一緒に乗っけるなんて、我ながら粋な計らいでしょ?」
「ところで四季さま。因果応報ってやつは本当にあるんですねぇ。四季さまがあたいにちゃんとした船を支給してくれたら、舟着場を失った三途の川の旅も、もちょっと快適になりましたよ」

しまった、魔理沙はどうなったんだ。
TK01
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コメント



0.200簡易評価
2.50名前が無い程度の能力削除
展開が早いと思ったらいつの間にか終わってた。
同じ人物が続けて話しているのにわざわざ区切っている意味が分からない。
誰が話しているか分かりずらいので描写をもっと増やしてほしい。
臨場感や危機感があまり伝わってこない。

素材は良いと思う。
3.60奇声を発する程度の能力削除
展開が早く、描写がちょっと分かり辛い部分が多々ありましたが
悪くは無かったです
7.100名前が無い程度の能力削除
「なんですか、人の晩酌を邪魔して…」と次の台詞は両方ともえーき様?
突っ込みどころはそれくらいで、すごく面白い。好みです。
私もこういうのが書きたいんですが、前に書いて評価はされなかったなあ。
純粋にメカニカルなテンポ・ユーモアって余程うまくやらないと上っ面なものに見えてしまうんでしょうかね。
このいいセンスを失わずに上手な形で伸ばして頂きたいです。