「それではこれより三日間、以前お話しした通り休日となります。
お留守番組、休日組と、その日の自分がどっちなのかを改めて確認してくださいね。」
私がそう言い終えると途端に居間が騒がしくなりました。
里の人形劇を見に行こう。玄武の沢で涼もうよ。っていうか響子はもうライブしないの?
そんな声があちこちから聞こえてきます。
やっと、このお盆を乗り切ることができました。
里で寺といえば、私、聖白蓮のいる命蓮寺。
このお盆は寺が本当に忙しかった。
そこで私が三日間、組を三つ作りローテーションで休日を過ごそう、と提案しました。
皆を休ませたくとも寺を無人にするわけにはいきません。お留守番組がどうしても必要なことからでありました。
もちろん寺の皆は大賛成。お盆の前からどこそこへと行く計画が練られたものでした。
「聖、お疲れ様でした。」
この寺の本尊であり、弟子でもある寅丸星が、まだ騒がしい居間でこちらへと来ます。
『基本的に』優秀な彼女が今日のお留守番。安心して出かけることができます。
「えぇ、あなたもお疲れ様でした。……えっと、私は一日目と三日目に休日をいただきますが、
星は二日目から三日目にかけてお泊まりでしたよね?」
その通りです。と答える星の頬に少しばかり紅がさしました。
この忙しい時期にまともに会うことができなかった部下に久しぶりに会うことができるのです。それもお泊まりで。
きっと星の部下、ナズーリンも寂しく思っていたに違いありません。
彼女は冷静をいつも装いますが、常に尻尾が彼女の気持ちを代弁していました。
誠実な星と素直じゃないナズーリン。二人が仲睦まじく居るのを見ると心が安らぎます。
「あ、そういえば聖は休日をどのように過ごすのですか?」
…答えられない。そうだ、休日の予定なんて忙しくて決められなかった。
霊夢さんのところへ?いや、彼女には商売敵と見られている。いつもお茶は出してくれますが。
魔理沙さんのところへ?彼女は私を慕ってくれている。寺に彼女が遊びに来ては魔法についてよく語りました。
しかし、彼女の家はその……少しばかり魔界なのです。いや、魔境ですか。
ともかくゆっくりできそうな場所ではありませんでした。
そもそも、私がゆっくり遊びに行けるような場所なんてありましたっけ?
寺で仕事、里では説法。なんだかんだ他の幻想郷の方と話すことができたのは宴会(私は酒抜き)ぐらいでした。
困った。
星も勘付いたのか少し困った表情をしています。
「あ、そうそう聖、これなんだけど。」
そろそろ落ち着いてきた居間で舟幽霊、村紗水蜜が私にチケットを差し出しました。これはなんでしょう?
受け取って見ると『ジェラート無料券、ただしサイズは中カップまで、味も制限あり』と書いています。
じぇら~と?
「あ、それこの間のじゃない。へぇ、水蜜にしては珍しく我慢して置いておいたんだ。」
入道使い、雲居一輪が村紗に向かってニヤケながらそう言うと、なによこれぐらいはと、村紗も言い返します。
星も見覚えがないらしく、チケットをじっと見ています。
「えっと、村紗。これは?」
「はい、聖。これは里の氷菓屋で新しく売り出された商品の引換券です。
一輪と二人で食べに行ったのですが、もう美味しくて!
そしたら店のおばちゃんが、私たちが寺の妖怪だと気がついて、日頃お世話になっているからと頂いたわけです。
聖、今年の夏はかき氷も食べていなかったでしょう?今日はこれを堪能してくださいね。」
そういうと居間からさっと駆け出して、一輪が待ってよ!と追いかけました。
いえ、村紗が頂いた物を私が使うわけにもいかないのですが…。
「聖、村紗の折角のご厚意です。行ってみてはどうでしょうか。」
う~ん、星もそう言ってくれますし、行ってみましょうか。
予定はまたその『じぇら~と』を食べた後に考えることにしましょう。
「いってらっしゃい、聖。道中どうかお気をつけて。」
玄関まで見送りに来てくれた星。もう他の休日組は出かけて行きました。
「えぇ、星。ありがとうございます、行ってきます。」
答えると星は、私もナズーリンと……。とブツブツ言いながら戻っていきます。
扉を開ければ、既に太陽も高く、日差しがとても厳しい。参道の石畳の上がゆらゆらと揺らめいています。
今日もとても暑くなりそう。
「…?あら、このチケット。」
厚みがあると思ったら、二枚重なってひっついていました。
* * *
「よいしょっと。…ふぅ、外はとても暑いわね。」
仙界の扉を開ければそこは人里近くの辻。……あら、あの寺の近くね。適当にと開けたのは間違いだったかしら。
仙界は涼しく過ごしやすいけど、いかんせん暇になりがちなのよね。
こうしてたまには外に出かけないと。っと、ちゃんと耳あてもつけないといけない。
「太子…豊聡耳神子様。外はとても暑いですよ?仙界でごゆるりと過ごすのが正解じゃないかしら。」
地面にぽっかりと、四角に空いた穴から亡霊、蘇我屠自古がこちらを見上げている。
「屠自古、確かに仙界での修行もいいけど、こうして息抜きするのも悪くないわ。
それに、彼ら里人も私が行くと、決まって相談しに来ますしね。」
そう、私の能力があれば、相手の本音を見ぬき、何を望み、何を求めているのかはあっという間にわかる。
建前なんて私には意味がない。
里人はそれに気がつかず、建前を立て相談する。しかし私は全て見抜いたうえで助言を伝える。
実際、それで皆うまくいっているのだ。
しかし、彼ら里人が本心を曝け出すのを躊躇するのも理解できる。それは家族にすら難しい事なんだもの。
私は、本心が…相手の欲が分かっても決して卑下しない。当然のものなのだから。
「神子様はお優しいですものね。分かりました。どうか夕食には間に合うように……お気をつけて」
行ってきますと答え、仙界への入り口を閉ざす。
……振り返れば、看板。辻の行き先を示すものがある。
里への入り口、妖怪の山方面、霧の湖方面……そして、命蓮寺。あの妖怪寺。
私の嫌う邪の気が強い寺だ。
とはいえ、最近の私は考えを少し改めている。
ここ、幻想郷の妖怪は非常に特殊だ。無暗に人を襲わず、喰わない。
人間と平等に戦えるルールを設定し、それに従い戦う者も、また楽しそうに見えた。
妖怪が人間とピクニックに出かけている光景も見て非常に驚いたものだった。
私自身も、妖怪とはよく話すようになった。
あの巫女……霊夢の神社にて行われる宴会に参加を続けたお陰だ。
最初は私の門徒である風水仙人、物部布都が暴れまわったせいで、
(彼女自身も妖怪に対してはかなりトラウマがある故だが)、散々な目にあった。
しかし彼女たちは次の宴会では、そんな第一印象も関係なく、話しかけてくれた。
そもそも、彼女たちの根っこはとても真っ直ぐだった。
彼女たちに比べれば、私が生きた時代の人間などのがよほど妖怪染みていた。
……人殺しなど日常茶飯事。
『生きるために』人を喰らう妖怪の方がよほど生き物らしい。
「さて、そろそろ行きますか。」
それでもやはり、私は人間の味方。妖怪に人間が襲われていればもちろん助ける。
人間と妖怪の戦争が起きるなどすれば、迷うことなく、親しくなった妖怪も滅するだろう。
そうやって生きてきたのだ。そして神霊……神となった。
自身を信仰し、慕ってくれている人間がいる限り、私はいつでも人間の味方だ。
まあ、この幻想郷はそんな血生臭い話は無い。きっとこれからもずっと。
今は、人間の相談を受け、助言を託し、妖怪と騒いでは弾幕ごっこに興じよう。
平和なのだから。
あぁ、平和、平等といえば、未だに話しかけづらい奴がいたわね。
全く、妖怪の力を使い、絶対の人妖平等だなんて。
っていうか、この前の三者会談で『思ったよりヤバいものだった』だなんて……ちょっと傷ついたじゃない。
はい、もうやめ。さっさと人里に行きましょう。
……?なにかしら。何か、こう、ゴーーーーって聞こえるわ。飛翔音?
方角は…命蓮寺?って、黒い人影がこっちへ、ちょっと早、ぶつか、え、ちょ、ま。
-----ああ、やっぱり君か。
* * *
私です、やってしまいました。いえ『殺っていません』。遠くから見つけて、嬉しかったのでつい。
だって、あの三者会談で話したっきりでしたもの。あぁ、とにかく無事を確認しないと。
「えっと、神子さん。大変申し訳ありません。その、大丈夫ですか?」
「…えぇ、聖白蓮。私が人間であれば即死でしたけど大丈夫。
それはそうと私は君に何か悪いことしたでしょうか。不意打ちされるような覚えはないのだけど。」
即死だなんて、言いすぎじゃないかしら?
……えっと、辻の景色が少し変わってしまうぐらいには突っ込んでしまいましたか。
うん、きっと即死だなんて言いすぎでしょう。うん。
「不意打ちだなんて、私は神子さんを久しぶりに見かけることが出来て、少し興奮してしまったのです。
とはいえ、嬉しくてスペルカードを発動してしまいました。本当に申し訳なく思っています。
すいませんでした。
…あ!そうだ、お詫びと言っては何ですが。」
『じぇら~と』のチケットを一枚渡すと、神子さんは頭にハテナマークを浮かべました。
「ジェラート?店の名前はあの氷菓屋だから…新商品かしら。いいの?」
「はい。それで許していただけるのでしたら、もう一枚ありますが。」
「いやいや、十分よ。もう気にしないで。……暑いわね、食べるならさっさと行かない?」
あぁ、よかった。見ると彼女の髪の毛(最初は耳かと…)が嬉しそうに揺れています。
どうやら機嫌を直してくれたみたい。
よかった点といえば他にも。
彼女自身は仏教を政略目的として広めたなんて言ってるけど、それでも救われる人が数多く居た事実は変わらない。
それに信貴山で寺を開いたのも彼女。私からしたら頭が高くて申し訳ないほど(彼女は私より背が低い)、偉いお方なのです。
それでも、この幻想郷の妖怪を守るという意味で封印を施しましたが、
むしろ私のそれが切っ掛けに復活なされたみたい。
安心したのは彼女が悠々自適に過ごすのが目的で、妖怪撲滅なんて事をするはずもなかった事です。
それならば話は別。たとえ彼女が道教の信者であろうと変わらない。じっくり二人で話をしたかった。
良い機会を得ました。
うん、今日の予定が決定。彼女と一緒に過ごしたい。『じぇら~と』を食べたら彼女を誘いましょう。
あら、里に到着するなりいろんな方向から、こちらへ声がかかってきました。
私を呼ぶ声も多いですが、神子さんを呼ぶ声がいささか多い気がします。
そういえば彼女は人里で相談をよく受けていたわ。徳の高いお方ですもの、きっと良い助言が聞けるのね。
「神子さん、すごい人気ですね。」
「あら、あなたを呼ぶ声の方が多いわよ?妖怪寺の住職にしては、なかなか人徳が高いじゃない。」
そうかしら?ともかく、彼女が幻想郷に馴染んでいるのに安心しました。
私もここへ来た時は期待と不安が半々だったものです。
…彼女に弟子入りしたい人も多いと聞きます。
寺の住職として、いえ、寺の経営者からみて少し警戒するべきでしょうか?
霊夢さんは警戒心バリバリでしたけど。
「氷菓屋はと、あったわね。……すごい行列。」
「はい、これはちょっと壮絶ですね。」
店の前は凄い事になっています。この炎天下の中、『じぇら~と』目的の為に長蛇の列ができていました。
涼むことが目的なのに、順序が逆じゃないかしら?
「このままじゃ、食べる前に倒れてしまうわね…。
っと、そういえば私、八百屋の人から相談を受けてその後どうなっていたのか気になっていたの。」
え、まずい。このままでは神子さんが離れてしまう。
何とかしないと……?
列の前の方にいる人たちが何やら相談しているみたい。……一人こちらへいらっしゃいました。
「えっ!よろしいのですか!?」
* * *
う~ん。私にとっては嬉しい、というには微妙な展開ね。
氷菓屋から少し離れた木陰。長椅子に座りながら、聖白蓮とジェラートを嗜んでいる。おいしい。
とはいえ、ジェラートは美味しいものの、彼女と一緒ってのがね。
「美味しいですね、神子さん。あの方たちに感謝です。」
「そうね、この炎天下の中、待ってたにもかかわらず、私たちに順番を譲ってくれるなんてね。」
相談事を受け、悩みを解決してきた私。説法を説き、里人の信頼を得ている聖白蓮。
そんな私たちがチケットを持って列を眺めている。
列を譲ってくれるのも、まあわかるけど、申し訳なかったわね。
でも、ここではご厚意は受け取るのが礼儀。聖白蓮は最初辞退していたけど、
こういう気遣いは受けるもの。
次、彼らと出会えば、遠慮なく相談してくれるだろうし、フレンドリーになれる。
日頃のお世話にと、ああしてくれたのだ。だったら私たちも、これからも続けて世話してあげればいい。
…ま、私は信仰が増加し、神霊としての力が増すってのもあるけどね。
にしても、彼女、聖白蓮は真っ直ぐな根を持つ者がほとんどのこの幻想郷でも群を抜いている。
世の為、人の為、自分の為、いささか行き過ぎな気もする人の良さだ。
私の時代に彼女がいれば、きっと利用されるだけ利用されて切り捨てられるに違いない。
私は耳を使い、相手の欲を聞く以外にも、その相手の機微、目の動き、手、足の挙動、声のトーン。
あらゆる情報から相手の真意を読み解く事が出来る。それこそ、過去や未来、その本質も。
……あら、私としたことが、彼女を心配してしまった。
そう、彼女は真っ直ぐすぎる。それも叶いそうもない未来に向かって。
彼女の言うとおり、人と妖怪…ひいては種族の差別。
これらを廃し、平等で、平和な世界を望む者も数多くいるだろう。
しかし、人種はともかく、人妖においてそれは決して叶わない。
なぜなら、妖怪は人を襲うものであり続け、人は襲われるものであり続けるしかないからだ。
スペルカードルールがある幻想郷。今でこそ、平和ではある。今でこそ。
もしも、人と妖怪が対立すれば、彼女は妖怪側に立つだろう、争うのではなく、説得し止めるために。
自身が犠牲になろうとも。
そうなれば、彼女を斬るのは私だろうか?
「神子さん、知ってますか?」
聖白蓮の声にハッと気がつく。考え事をしていたためかジェラートの減るペースが彼女より遅い。
「なにをかしら?聖白蓮。」
「さっきお店の方に聞いたのですが、
この『じぇら~と』、氷精が氷を里人の職人さんに提供したそうですよ?
それだけじゃありません。
ジェラートを作る機械を作った、河童の職人さん。
風味を良くするための香草を提供した、花の妖怪の方。
味付けの果物をお配りになった。山の豊穣の神様。
製造法をお教えになった、山の神社の風祝さん。
多くの人に味わってもらうため宣伝を為さった、天狗の新聞屋さん。
なにより、それらを束ね、こんな美味しいものをおつくりになった、里の氷菓屋さん。
この方たちがいなければ、こんな素晴らしいものを皆で味わうことなんてできません。
皆がいればこそ、これが存在し、楽しみ、幸せになることができました。
そして、きっと。
私たちが見えない、気がつかない部分でもきっと、
より多く、より深く私たちはつながっているのでしょうね。」
………。
この幻想郷でも人は襲われてるかもしれない。
この幻想郷でも妖怪は返り討ちに遭い、滅しているかもしれない。
では、両者の関係はそれだけなのだろうか。
人だって人を欺き殺めることも多い。
妖怪だって、その縄張りや獲物を争い傷つけあうこともある。
人妖、実はその生き方はそんなに変わらないのではないか。
その境界は、実はとても曖昧なのではないか。
「…美味しいわね、聖白蓮。このジェラート。」
「えぇ、本当に。」
そう、実は人妖が力を合わせれば、こんなに美味しいジェラートを作ることができるのだ。
「あ、神子さん。その…。」
「ん?何かしら。」
「私を呼ぶ際に『聖白蓮』では面倒くさくありません?それになんだか遠くにいるように聞こえてしまいます。
神子さんさえ良ければ、せめて、ひじ…」
「『白蓮』。これでいいかしら?」
「…!はい、改めてよろしくお願いしますね!
あ、それで神子さん、これからなんですけど良ければ……」
私も物の見方が少し、歪んでいたのかもしれない。
せっかくこんなにも平和なのだから、私も平和にぼうっと過ごそう。
久しぶりにこんなにもゆったりする事が出来た。
この時間は、白蓮がくれたのだ。彼女にも感謝しなければいけない。
* * *
あぁ!今日は本当に素晴らしい一日でした!
ジェラートがとっても美味しかったのもありますが、
それが人妖協力して出来たものであったと知ることが出来た事。
里人の皆さんが順番を譲ってくれた事。
なにより、あの神子さんと一緒に過ごし、距離が縮まった事。数え切れません。
寺の皆は大好きです。聖と呼んで慕ってくれますが、しかし、どこか対等ではないような気もしたものです。
私を慕ってくれる方も多いですが、白蓮と呼んでくれる方はどちらかといえば少ない方です。
対等に、一人の友人として見てくれている、この呼び方はそんな気がして嬉しいのです。
「ああ、聖。おかえりなさ…ふふ。充実した一日を過ごせたようですね。」
「ただいま、星。えぇ、わかりますか?」
「そんな嬉しそうにニコニコ笑っていたら誰だって気がつきますよ。あ、もうすぐ夕餉ができますよ?」
「えぇ、それじゃあ手を洗ってこようかしら。」
洗面所へと向かいながら今日を振り返りましょう。
あの後も神子さんと一緒に里を周ることが出来ました。
里の皆さんの相談を受け、的確にお応えする神子さんは格好良かったです。
更に、私の辻説法にも付き合ってくれた上、途中途中で補足もしてくださいました。
流石あの聖徳太子様です。なんだかんだとおっしゃっても、やはり仏教を深く理解していらっしゃるのでしょう。
ただ、里に来ていた豊穣の神様が、
『夏の甘味を凝縮じゅ~す』なるものを売っていらっしゃったので神子さんと味わったその際、
神子さんの髪の毛(最初は耳かと…)が嬉しそうにピコピコ動いたのです。
とても可愛らしかったのでモフモフしてしまい、神子さん、プリプリ怒っちゃいました。
お詫びに私の体、好きな場所を触っていただいてかまいません。と、そう言うと神子さん、顔真っ赤にして
そういう事は軽々しく口にしてはいけません!と怒られてしまいました。
更に私の胸のあたりを、じっと、見つめた後に溜息をついていらっしゃいました。
私、何か変なことを言ってしまったのでしょうか。
その後、日が傾き、そろそろ夕刻といったころにお別れしました。あの『事故』が起きた辻で。
明後日が楽しみです。また一日一緒に過ごす約束を取り付けることが出来ました。
「聖~!出来ました~!今日は夏野菜カレーですよ~!」
あぁ、あれは水蜜の得意料理の一つで、とても美味しいのです。
本当に今日は素晴らしい一日です。
* * *
本当にゆったり出来た一日だったわ。
仙界に戻ってくると屠自古が既に夕餉の準備をしてくれていたわ。
「神子様、おかえりなさいませ。……あら、何か良いことがあったのですか?」
「ただいま、屠自古。そう見えるかしら。」
「えぇ、私には神子様に関して知らないことなんてないのですよ?」
得意げに微笑む彼女、本当にその通りなのだ。
私が望むことを気がつくとすぐに行動してくれる。彼女がいると安心する。
…ん、今日の白蓮にも似たような感じがあったわね。
「さあ、神子様。お手をお洗いになって来てください。布都ももうすぐ帰ってきましょう。
それに珍しく青娥殿も帰ってきていますし、芳香も神子様と久しぶりに会いたいと言ってましたよ?」
あら、私の師匠である仙人(邪仙)の霍青娥に、私の霊廟を守ってくれたキョンシー、宮古芳香も来ているのね。
青娥は白蓮を『悪の大王』だなんて言っていたわね。
ま、今日過ごしたことを言ってみましょう。きっと彼女、
豊聡耳様、騙されてはいけません。巧妙な罠です。だなんて言うでしょうね。
相手を見抜くことに関してはこの幻想郷でも私以上の存在なんていない事を知った上で。
白蓮、彼女の瞳はとても深く、澄んでいた。
決して自身の言うことは正しいだなんて、そんな傲慢な目はしていなかった。
受け入れ、理解し、周りの人妖の為に。
太子である私の庇護欲が疼くほど、危なっかしくも護りたい目をしていた。
そうだ明後日、約束の日に少しからかって忠告してあげよう。
「あら、豊聡耳様。ご機嫌麗しゅうございます。お久しぶりでございますね。」
青娥に、
「お~、神子様~。会いたかったぞ~。」
芳香……あら、遠くに布都の声も聞こえるわね。
続々と集まる私の仲間。
聞いてください、今日はこんな事があったのです。
* * *
「フッフッフ……ハッハッハ……ハァ~ハッハッハッ!!
なんとも素晴らしい写真が撮れました!
あの聖徳王、豊聡耳神子と妖怪寺の住職、聖白蓮の人里デート!!
ふむふむ、公に堂々と一緒って事は両陣営の仲間はきっと承知済みなのね。」
妖怪の山、スペシャル天狗ジャーナリストの射命丸文とは私のこと!
私の宣伝した氷菓屋がどうなったか見に行くと、とんでもなく珍しい組合せの二人がいたのよ。
そう、神子と白蓮。
先日の三者会談の語録を見る限り、仲がよさそうには見えなかったのに、人里ではイチャイチャしちゃって!
人気氷菓のジェラートを楽しみつつ木陰で (良く見えなかったけど) 食べあいっこしていたに間違いない!
更に、あの秋の味覚神様の販売するジュースを (レンズが興奮して曇っていたけど) ストロー二つにコップひとつでカップル飲み!
そしてしかと激写してやったわ!白蓮が神子に抱きつく瞬間を! (若干頭よりだったけど)
ククククク、二人がこんな関係だったなんてまだ誰も報道してない…、
伸びる!伸びるわ!!私の新聞の購読数が天にまで!!!
「フフ、若干深夜のテンションだけど書き上げるわ!このスクープ!!号外よ!!」
* * *
居間でお茶を飲んでます。お留守番組なので。
しかし、なんでしょう、お昼前頃から皆の態度がどこかおかしいわ。
あの悪戯娘、封獣ぬえも、信じてるからね!聖!だなんて…。
…あら?この新聞……。
あらあら、うふふ。
* * *
今朝の食事は美味しかったです。あのみそ汁の味加減、流石は屠自古。
お昼の食事は水銀を目の前に置かれました。あの深い銀色具合、流石は屠自古。
いやいやいや、どうしたのでしょうか。布都も飛び出して行ってしまいましたし、
倒れた青娥を芳香が介抱しています。一体何が…。
…おや?この新聞……。
おやおや、まあまあ。
* * *
号外が配られたその日。
とある辻の地面に四角く光が浮かび、中から神子がでてきた。
既に到着していた白蓮が神子へ頷くと、神子もそれに頷き返し、二人で向かうは辻の看板が指す「妖怪の山方面」。
ゆっくりとしかし確実に、獲物を追い詰める野獣がそうするように、二人は山へと向かった。
にやにやしてしまいました。
文と超人はどっちが速いんだろう?
気がする…
作中では「・・・」と書かれていましたが「……」と三点リーダーを2個繋げて使うのが普通なので、そうしたほうがいいですよー
「・」を変換してすぐに「…」と出るように辞書登録でもするといいです
人間と妖怪というテーマにも触れていて深みがあります。