午前2時。草木も眠る丑三つ時。起きているのは妖怪か幽霊くらいだ。しかし私は眠くなる。幽霊なのに。
「うぅ、冷えるわね。厠、厠」
だんだんと冬の近付き感じてくる今日この頃。ついでに厠も近くなる。
「......だーれか厠で水難事後でも起こさないかなー」
ボーっとよくわからないことを発する私。この時間の私はこんなものだ。幽霊だけど。
用も足して、自室へ戻ろうとする。そこで、聖の部屋がわずかに明るい事に気が付く。
「起きてるのかな?」
なんてことない興味でちらっと隙間から明かりを覗く。
「えっ......!?」
目を疑った。
聖 と 響 子 が 裸 で 抱 き 合 っ て い た
◇
『おはーよーございます!』
朝からまじめな山彦であるなー、と今までは思っていた。
まあ口からこぼれてくる読経に成仏させられかけたこともあるが。
しかし......
「はあああああぁぁぁぁぁぁ」
私は縁側で大きなため息をつく。
昨日のアレが頭から離れない。とっさに足音を殺して自室へ逃げ、一瞬しか見ていないが、明らかにあれは......
「どうしたの?口から魂飛んでるわよ?」
「おはよういっちりん。大丈夫よ私、全身魂だから」
「それもそうね」
一輪は大きな洗濯かごを抱えていた。今から妖怪たち大勢で洗濯が始まる。なんせ、命蓮寺で修行する妖怪は結構多いので、洗濯ものも大量にある。加えて修行の一環とかで3日に1度が洗濯日となっている。洗濯ものが溜まる溜まる。
「大変そうだね。手伝おうか?」
「あら、気が利くわね。朝ご飯増し増しにしてあげようか?」
「気が利くじゃない」
そんな他愛もない一輪との会話に昨日のことは夢だったと思い始めた。
そうだ。あれは夢だったんだ。きっと厠の妖怪が私に見せた奇怪な幻術だったに違いない。
私は一輪から洗濯ものを半分受け取った。
そこには、
聖 と 響 子 の パ ン ツ が 仲 良 く 並 ん で い た
「うわああああああああああああああああ!!!」
私は駆け出した。洗濯ものが宙を舞う。聖の黒のパンツがいっちりんに降り注ぐ。
「ちょっと村紗!どこ行くの!?洗濯ものは!?」
いっちりんの制止は私の耳には届かなかった。
◇
「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」
命蓮寺の裏の陽の当らない場所で膝を抱えて、朝よりさらに大きなため息をついた。
もうだめだ。昨日のあれはあれに違いない。
しかし、なぜ響子と聖が?
一輪と聖なら分かる。星もなんとなく。
でも響子て。
そんなポッと出の山彦が聖のハートをズッキュンできるだろうか。小傘も許されてないのに。
「どうしたの?成仏しかかってるじゃん」
「うそ!?透けてる!?」
「いんや。冗談」
「ちょっと、勘弁してよぬえ。ただでさえお経にビクビクしてるんだから!」
「あんた、スリリングな毎日送ってんだね」
そう。読経の修行があっているときは耳を塞いで、自室の隅っこで丸まっているのだ私は。
ちょっとでもお経が耳に入ってくるとたちまち透けちゃうからね、体。
「なんか悩み?」
ぬえなら、話して大丈夫かな。
一輪は卒倒しそうだし、星は充てにならなさそうだし。
「うん。実は......」
私は事を語った。ぬえは話を聞くやいなや少女らしからぬ汚い声で笑い出した。そうね、コポォとでも言っておきましょうか。
「聖と響子がねえ」
一通り笑い終えると、やけに真剣な顔になった。
「どう思う?」
「どう思うも何も、恋愛は個人の自由でしょう。ほら私も」
「私も何!?え、あんた恋愛してんの!?」
「あー......知らなかった?マイスウィートエンジェル小傘たん」
「うっそお!!」
びっくり仰天、天元突破なんとかガン。
え、なんなの?命蓮寺ってお寺なのに恋愛自由なの?そういう邪心を滅するのがお寺じゃないの?
「最初はさ、人も脅かせないバカな妖怪とか思ってたけどさ。その、なんていうか、それでも頑張る小傘が愛おしくなっちゃって......」
頬を赤らめるぬえ。こっちがらめぇだって!
「じゃあ、星のことも知らないの?」
「星も!?」
「いや、普通に星とナズーリンはセットとしか見れないでしょ」
「ででででも!あの2人は主従関係であって」
「主従を超えた愛っていうの?これには毘沙門天も祝福ってか」
どうしよう。私の知らないところで事はすでに進みっぱなしだった。
いや、百歩譲って恋愛自由寺でいいよ。いいけどさ、女の子同士ってどうなの?なにも生産できないよ?
「ほ、ほかには?」
私は恐る恐る聞いてみる。もう自棄だ。
「マミゾウは里の人間のところに通いつめてたっけ」
「お、男?」
「里の甘味処の看板娘だよ」
「うへぇ」
「ピンク入道も妖怪の山に雲美さんっていう積乱雲見つけたんだって」
「雲山はべつにいいや」
その他、あの妖怪とあの妖怪があれしただの、あの主人公とあの主人公は出来てるだの、正直途中から頭に入っていなかった。
「ま、これくらいかな、私が知ってるのは」
「そ、そうですかい......ん?」
「どうしたの?」
「いっちりんは?」
「んー、そういやあの尼さんは聞かないなあ」
「きっと一輪は法にまじめだから、そういう戒律を守っているんだ!」
一輪、私あなたを見なおしたよ!一輪はきっと素晴らしい尼になれるわ!
「村紗フリーなら一輪と付き合っちゃえば?」
「ば、バカ言うなやい!一輪がまじめに修行してるのにそんなことできないわよ!」
「へー」
急にぬえがにやにやし始めた。
「その言い方だと、村紗の方は付き合ってもオッケーって感じ?」
「あ、や、そんなつもりで言ったわけじゃ......」
ない。
......おかしい。最後の2文字が言えない。
一輪と一番付き合いが長いのは私だよね。あ、付き合いって恋愛ちゅっちゅの意味じゃないわよ。
聖は私たちと違うところに封印されてたし。
数百年間地底にいた時も一輪はなんだかんだで私を気遣ってくれたし、おしゃべり楽しいし、料理美味しいし。
おや?
「ぷくく。その間!思う事がたくさんあるのね!ゾッコンじゃない」
「ち、違う!そ、そう。これは家族愛的なそんな何かよ!」
「でも愛に変わりはないんでしょ?家族愛の中には、夫婦愛も含まれるのよ」
「ふ、夫婦って。夫婦は夫と婦人なのよ!」
よくわからん事を言い出す私。
「婦を2つ並べても、ふうふ、って読むわよ」
「そうなの?」
「知らないけど、読みそうじゃない?」
「知らんのかい!」
私はだいぶ頭が混乱していることに気づく。落ち着け。ぬえに乗せられているだけだ。
「あれ?ぬえちゃん?」
「小傘!」
バッドタイミング!やめてくれ。今ここでちゅっちゅとか始めたら私はもう成仏してしまうかもしれない。
「なにしてるの?」
「いやなに、村紗の恋愛相談をね受けてたんだ」
「そうなんだ」
「ちーがーうーーーー!!」
って、さらっと自然な動作で手をつないでるんじゃないよ!見せつけないでよ!しかも恋人つなぎじゃん!
「あ、そうだ。今お墓に人が来てるんだけど、一緒に脅かしに行こうよ」
「よし。私の正体不明の種で度肝抜いてやるわ」
「わちき、ぬえちゃんと一緒なら何でも出来そうな気がする!」
「私もよ、小傘」
ああ、恋愛という海で水難事故に遭って、私は二度目の死を迎えます。どうか安らかに。
「村紗、透けてるよ?」
「もう、ほっといて......」
残念。村紗は成仏してしまった!
◇
「......さ......らさ」
「ほ、え?」
「村紗、起きなさい。朝ご飯抜きにするわよ」
「......おや?」
朝だ。希望の朝だ。私は朝起きて昼働いて夜寝る。幽霊だけど。
その一日のサイクルの始めだ。
そして目の前にいるのなんの変哲もない洗濯ものを抱えた一輪。
「どうしたの?素っ頓狂な声出して」
「一輪、ちょっと質問していい?」
「?いいわよ」
「今日は洗濯の日?」
「ええそうよ」
という事は。
「よっしゃあああああああ!!」
「うわびっくりした!」
昨日のことは夢だったんだ!やっぱり厠の妖怪が見せた幻覚だった!そんな妖怪いないけど!
とりあえず夢だ!夢だ!
私は心の底から安堵する。あまりの嬉しさに、涙がこぼれ落ちる。
「どうしたの?」
「いやあ、悪い夢を見たのよ」
「へえ。どんな?」
「聖と響子が、ぬえと小傘が、星とナズーリンが付き合ってる夢」
「何それ」
「一輪、あなたは戒律を守る素晴らしい尼だったわ!」
「あらそう。あなたは?」
「私も誰とも!」
「そう......」
「??」
急に一輪が目を細める。そっと洗濯ものを置いて私の部屋のふすまを閉める。
そのまま、私の横にぴったりとくっついて座った。
「え、えっと、いっちりんさーん?」
一輪は頭巾を左手で髪をかき上げるように下ろした。
そして顔を近づけて囁くように言った。
「夢は写し鏡というのよ」
「へ、へえ」
「私とあなただけ、恋人ではなかったのね」
「そ、そうね」
「じゃあ、現実だったら......」
一輪が私をぐっと押し倒す。
私は混乱して、されるがままに布団に倒れこむ。
「私とあなただけが、恋人になれるわ......村紗」
一輪の唇が私の唇に迫っていった。
◇
「これでよかったのですか?」
こたつ越しにぬえが聖に向かって親指をぐっと立てる。こたつには聖、響子、小傘、ぬえ、星にナズーリンがいる。
「うまくいったわね」
みかんを剥きながらぬえはけらけら笑っていた。星は少し複雑そうな顔である。
「しかし、数ヶ月前に一輪から相談を受けた時は驚きました」
「何て言ったんだっけ?」
「確か『村紗を好きすぎて夜も眠れません!』でしたっけ」
「そうそう!傑作よね!」
「こら。あんまりバカにするのはよくないぞ」
「よくないぞ!」
事の顛末はこうだ。
一輪が村紗を愛してやまないと、聖に相談をする。
命蓮寺みんなで考えた結果、2人の恋路を応援することに。
しかし、村紗は女性同士という壁を持っているはずだ。
だったらその壁を壊そう。
でもどうやって?
みんな女性同士で付き合ってるって設定を擦りこめばいいんじゃない?
でもそれだと、ばれたとき後々面倒ですよ。
じゃあ夢落ちにしちゃえ!
「わちきは楽しかったけどね!驚いてたから!」
「あんたよくあんなくっさい演技できたわね」
「驚かすためなら、いろいろ辞さないのよ、ぬーえちゃん!」
「やめて!鳥肌立つから!」
「私は納得いきません」
「仕方ないさ御主人。こういう愛もあるということだ」
「あるということだ!」
「それにしても濡れ役の二人は不適だったのでは?」
「ああいうのは、一番不適そうな人そこ常識の壁を壊すことに適任なのさ」
「な、なるほど」
「なんなら私と御主人でもよかったんだよ?」
「ナ、ナズ。それは本気で言ってるんじゃないですよね......?」
「さあ?受け取り方は御主人次第じゃないかい?」
「遊ばれてるねー星」
しばらく談笑が続く。
「さて、戒律どうこう言う前に2人を祝福しなくてはいけませんね」
聖がにっこり笑う。
◇
半年後、私は妖怪の山の巌の上に立っていた。
いや、正しくは私と一輪は、だ。
「ここよ、ここ。修行してるときに気付いたの」
一輪は私の裾をひっぱり、巌に座らせた。そして慣れたように私の手を握ってくる。
その手を私も握り返す。
「ここから見える夕焼けが綺麗なのよ」
少し一輪の頬が赤く見えたのは夕日のせいだろうか。
「綺麗ね」
「ええ」
私と一輪は戒律を破ったという事で、聖に1年間破門を言い渡された。2人で修行をしてきなさい、と。何の戒律を破ったのか、聖の口からは一切出なかった。
私たちは今、妖怪の山の山中に小屋を建ててそこで暮らしている。天狗に追い出されないのは聖が手回ししてくれたからみたいだ。まったく、聖には敵わない。
「ねえ村紗」
「なに?一輪」
「私、村紗のこと好きよ」
「そうね」
夕日が私たちを眩しく包む。
「私も数百年前から一輪のこと好きよ」
[終]
「うぅ、冷えるわね。厠、厠」
だんだんと冬の近付き感じてくる今日この頃。ついでに厠も近くなる。
「......だーれか厠で水難事後でも起こさないかなー」
ボーっとよくわからないことを発する私。この時間の私はこんなものだ。幽霊だけど。
用も足して、自室へ戻ろうとする。そこで、聖の部屋がわずかに明るい事に気が付く。
「起きてるのかな?」
なんてことない興味でちらっと隙間から明かりを覗く。
「えっ......!?」
目を疑った。
聖 と 響 子 が 裸 で 抱 き 合 っ て い た
◇
『おはーよーございます!』
朝からまじめな山彦であるなー、と今までは思っていた。
まあ口からこぼれてくる読経に成仏させられかけたこともあるが。
しかし......
「はあああああぁぁぁぁぁぁ」
私は縁側で大きなため息をつく。
昨日のアレが頭から離れない。とっさに足音を殺して自室へ逃げ、一瞬しか見ていないが、明らかにあれは......
「どうしたの?口から魂飛んでるわよ?」
「おはよういっちりん。大丈夫よ私、全身魂だから」
「それもそうね」
一輪は大きな洗濯かごを抱えていた。今から妖怪たち大勢で洗濯が始まる。なんせ、命蓮寺で修行する妖怪は結構多いので、洗濯ものも大量にある。加えて修行の一環とかで3日に1度が洗濯日となっている。洗濯ものが溜まる溜まる。
「大変そうだね。手伝おうか?」
「あら、気が利くわね。朝ご飯増し増しにしてあげようか?」
「気が利くじゃない」
そんな他愛もない一輪との会話に昨日のことは夢だったと思い始めた。
そうだ。あれは夢だったんだ。きっと厠の妖怪が私に見せた奇怪な幻術だったに違いない。
私は一輪から洗濯ものを半分受け取った。
そこには、
聖 と 響 子 の パ ン ツ が 仲 良 く 並 ん で い た
「うわああああああああああああああああ!!!」
私は駆け出した。洗濯ものが宙を舞う。聖の黒のパンツがいっちりんに降り注ぐ。
「ちょっと村紗!どこ行くの!?洗濯ものは!?」
いっちりんの制止は私の耳には届かなかった。
◇
「はああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ」
命蓮寺の裏の陽の当らない場所で膝を抱えて、朝よりさらに大きなため息をついた。
もうだめだ。昨日のあれはあれに違いない。
しかし、なぜ響子と聖が?
一輪と聖なら分かる。星もなんとなく。
でも響子て。
そんなポッと出の山彦が聖のハートをズッキュンできるだろうか。小傘も許されてないのに。
「どうしたの?成仏しかかってるじゃん」
「うそ!?透けてる!?」
「いんや。冗談」
「ちょっと、勘弁してよぬえ。ただでさえお経にビクビクしてるんだから!」
「あんた、スリリングな毎日送ってんだね」
そう。読経の修行があっているときは耳を塞いで、自室の隅っこで丸まっているのだ私は。
ちょっとでもお経が耳に入ってくるとたちまち透けちゃうからね、体。
「なんか悩み?」
ぬえなら、話して大丈夫かな。
一輪は卒倒しそうだし、星は充てにならなさそうだし。
「うん。実は......」
私は事を語った。ぬえは話を聞くやいなや少女らしからぬ汚い声で笑い出した。そうね、コポォとでも言っておきましょうか。
「聖と響子がねえ」
一通り笑い終えると、やけに真剣な顔になった。
「どう思う?」
「どう思うも何も、恋愛は個人の自由でしょう。ほら私も」
「私も何!?え、あんた恋愛してんの!?」
「あー......知らなかった?マイスウィートエンジェル小傘たん」
「うっそお!!」
びっくり仰天、天元突破なんとかガン。
え、なんなの?命蓮寺ってお寺なのに恋愛自由なの?そういう邪心を滅するのがお寺じゃないの?
「最初はさ、人も脅かせないバカな妖怪とか思ってたけどさ。その、なんていうか、それでも頑張る小傘が愛おしくなっちゃって......」
頬を赤らめるぬえ。こっちがらめぇだって!
「じゃあ、星のことも知らないの?」
「星も!?」
「いや、普通に星とナズーリンはセットとしか見れないでしょ」
「ででででも!あの2人は主従関係であって」
「主従を超えた愛っていうの?これには毘沙門天も祝福ってか」
どうしよう。私の知らないところで事はすでに進みっぱなしだった。
いや、百歩譲って恋愛自由寺でいいよ。いいけどさ、女の子同士ってどうなの?なにも生産できないよ?
「ほ、ほかには?」
私は恐る恐る聞いてみる。もう自棄だ。
「マミゾウは里の人間のところに通いつめてたっけ」
「お、男?」
「里の甘味処の看板娘だよ」
「うへぇ」
「ピンク入道も妖怪の山に雲美さんっていう積乱雲見つけたんだって」
「雲山はべつにいいや」
その他、あの妖怪とあの妖怪があれしただの、あの主人公とあの主人公は出来てるだの、正直途中から頭に入っていなかった。
「ま、これくらいかな、私が知ってるのは」
「そ、そうですかい......ん?」
「どうしたの?」
「いっちりんは?」
「んー、そういやあの尼さんは聞かないなあ」
「きっと一輪は法にまじめだから、そういう戒律を守っているんだ!」
一輪、私あなたを見なおしたよ!一輪はきっと素晴らしい尼になれるわ!
「村紗フリーなら一輪と付き合っちゃえば?」
「ば、バカ言うなやい!一輪がまじめに修行してるのにそんなことできないわよ!」
「へー」
急にぬえがにやにやし始めた。
「その言い方だと、村紗の方は付き合ってもオッケーって感じ?」
「あ、や、そんなつもりで言ったわけじゃ......」
ない。
......おかしい。最後の2文字が言えない。
一輪と一番付き合いが長いのは私だよね。あ、付き合いって恋愛ちゅっちゅの意味じゃないわよ。
聖は私たちと違うところに封印されてたし。
数百年間地底にいた時も一輪はなんだかんだで私を気遣ってくれたし、おしゃべり楽しいし、料理美味しいし。
おや?
「ぷくく。その間!思う事がたくさんあるのね!ゾッコンじゃない」
「ち、違う!そ、そう。これは家族愛的なそんな何かよ!」
「でも愛に変わりはないんでしょ?家族愛の中には、夫婦愛も含まれるのよ」
「ふ、夫婦って。夫婦は夫と婦人なのよ!」
よくわからん事を言い出す私。
「婦を2つ並べても、ふうふ、って読むわよ」
「そうなの?」
「知らないけど、読みそうじゃない?」
「知らんのかい!」
私はだいぶ頭が混乱していることに気づく。落ち着け。ぬえに乗せられているだけだ。
「あれ?ぬえちゃん?」
「小傘!」
バッドタイミング!やめてくれ。今ここでちゅっちゅとか始めたら私はもう成仏してしまうかもしれない。
「なにしてるの?」
「いやなに、村紗の恋愛相談をね受けてたんだ」
「そうなんだ」
「ちーがーうーーーー!!」
って、さらっと自然な動作で手をつないでるんじゃないよ!見せつけないでよ!しかも恋人つなぎじゃん!
「あ、そうだ。今お墓に人が来てるんだけど、一緒に脅かしに行こうよ」
「よし。私の正体不明の種で度肝抜いてやるわ」
「わちき、ぬえちゃんと一緒なら何でも出来そうな気がする!」
「私もよ、小傘」
ああ、恋愛という海で水難事故に遭って、私は二度目の死を迎えます。どうか安らかに。
「村紗、透けてるよ?」
「もう、ほっといて......」
残念。村紗は成仏してしまった!
◇
「......さ......らさ」
「ほ、え?」
「村紗、起きなさい。朝ご飯抜きにするわよ」
「......おや?」
朝だ。希望の朝だ。私は朝起きて昼働いて夜寝る。幽霊だけど。
その一日のサイクルの始めだ。
そして目の前にいるのなんの変哲もない洗濯ものを抱えた一輪。
「どうしたの?素っ頓狂な声出して」
「一輪、ちょっと質問していい?」
「?いいわよ」
「今日は洗濯の日?」
「ええそうよ」
という事は。
「よっしゃあああああああ!!」
「うわびっくりした!」
昨日のことは夢だったんだ!やっぱり厠の妖怪が見せた幻覚だった!そんな妖怪いないけど!
とりあえず夢だ!夢だ!
私は心の底から安堵する。あまりの嬉しさに、涙がこぼれ落ちる。
「どうしたの?」
「いやあ、悪い夢を見たのよ」
「へえ。どんな?」
「聖と響子が、ぬえと小傘が、星とナズーリンが付き合ってる夢」
「何それ」
「一輪、あなたは戒律を守る素晴らしい尼だったわ!」
「あらそう。あなたは?」
「私も誰とも!」
「そう......」
「??」
急に一輪が目を細める。そっと洗濯ものを置いて私の部屋のふすまを閉める。
そのまま、私の横にぴったりとくっついて座った。
「え、えっと、いっちりんさーん?」
一輪は頭巾を左手で髪をかき上げるように下ろした。
そして顔を近づけて囁くように言った。
「夢は写し鏡というのよ」
「へ、へえ」
「私とあなただけ、恋人ではなかったのね」
「そ、そうね」
「じゃあ、現実だったら......」
一輪が私をぐっと押し倒す。
私は混乱して、されるがままに布団に倒れこむ。
「私とあなただけが、恋人になれるわ......村紗」
一輪の唇が私の唇に迫っていった。
◇
「これでよかったのですか?」
こたつ越しにぬえが聖に向かって親指をぐっと立てる。こたつには聖、響子、小傘、ぬえ、星にナズーリンがいる。
「うまくいったわね」
みかんを剥きながらぬえはけらけら笑っていた。星は少し複雑そうな顔である。
「しかし、数ヶ月前に一輪から相談を受けた時は驚きました」
「何て言ったんだっけ?」
「確か『村紗を好きすぎて夜も眠れません!』でしたっけ」
「そうそう!傑作よね!」
「こら。あんまりバカにするのはよくないぞ」
「よくないぞ!」
事の顛末はこうだ。
一輪が村紗を愛してやまないと、聖に相談をする。
命蓮寺みんなで考えた結果、2人の恋路を応援することに。
しかし、村紗は女性同士という壁を持っているはずだ。
だったらその壁を壊そう。
でもどうやって?
みんな女性同士で付き合ってるって設定を擦りこめばいいんじゃない?
でもそれだと、ばれたとき後々面倒ですよ。
じゃあ夢落ちにしちゃえ!
「わちきは楽しかったけどね!驚いてたから!」
「あんたよくあんなくっさい演技できたわね」
「驚かすためなら、いろいろ辞さないのよ、ぬーえちゃん!」
「やめて!鳥肌立つから!」
「私は納得いきません」
「仕方ないさ御主人。こういう愛もあるということだ」
「あるということだ!」
「それにしても濡れ役の二人は不適だったのでは?」
「ああいうのは、一番不適そうな人そこ常識の壁を壊すことに適任なのさ」
「な、なるほど」
「なんなら私と御主人でもよかったんだよ?」
「ナ、ナズ。それは本気で言ってるんじゃないですよね......?」
「さあ?受け取り方は御主人次第じゃないかい?」
「遊ばれてるねー星」
しばらく談笑が続く。
「さて、戒律どうこう言う前に2人を祝福しなくてはいけませんね」
聖がにっこり笑う。
◇
半年後、私は妖怪の山の巌の上に立っていた。
いや、正しくは私と一輪は、だ。
「ここよ、ここ。修行してるときに気付いたの」
一輪は私の裾をひっぱり、巌に座らせた。そして慣れたように私の手を握ってくる。
その手を私も握り返す。
「ここから見える夕焼けが綺麗なのよ」
少し一輪の頬が赤く見えたのは夕日のせいだろうか。
「綺麗ね」
「ええ」
私と一輪は戒律を破ったという事で、聖に1年間破門を言い渡された。2人で修行をしてきなさい、と。何の戒律を破ったのか、聖の口からは一切出なかった。
私たちは今、妖怪の山の山中に小屋を建ててそこで暮らしている。天狗に追い出されないのは聖が手回ししてくれたからみたいだ。まったく、聖には敵わない。
「ねえ村紗」
「なに?一輪」
「私、村紗のこと好きよ」
「そうね」
夕日が私たちを眩しく包む。
「私も数百年前から一輪のこと好きよ」
[終]
この二人はやっぱり良いですね
そんな浮気現場を見たみたいに驚かなくてもいいだろうにw
次回も頑張ってください
笑ったのにほのぼのさせられました。よかったです。
テンポがよくて楽しく読めました