夏も入口を過ぎ、妖怪の山にもじりじりと太陽が照りつける。
木々の青さが目に沁みる。
「暑いね」
「違うわ。熱いのよ」
「早く秋にならないかなあ」
「今年も秋は遅くなりそうね」
妹が縁側でだらけて寝返りをうつ。
私は読書に勤しんでいるのだが、この暑さ、やはり頭に入ってこない。
「どうして夏はこう長いのに、秋はこうも短いんだ!」
「夏は妖精が活発になるからじゃないの?」
「でも妖精が元気じゃない冬も結構長いよ?」
「冬の妖怪が居るからじゃない?」
「…………」
つまり、私たちには秋を増長させるほどの力が無いという結論に達してしまった。
私が読んでいる『神様図鑑』にはきちんと私たちが載ってるのになあ。
そのページをめくってみる。
姉妹ひとセットで括ってある。
私は少しやるせない気持ちになってしまった。
「第3492回、秋自慢大会~」
妹が一人で何かを始めてしまった。もう少しで3500回になるわね。初めて聞くけど。
「秋と言えば」
「秋と言えば?」
「食べ物がおいしいわ!」
「秋の作物限定ね」
「…………」
「他には?」
「……以上」
「山が紅葉して綺麗って言いなさいよ!」
「えー」
まったく。困ったものよね。実りの秋だけが秋だと思っている妹。
秋は紅葉こそ見どころじゃない。人間は紅葉した山を見て秋を感じるのよ!
「おお、お二柱様!」
人間の声がした。しゃがれた年老いた声だ。確か里の農夫だった気がする。
「あら、今年は元気そうじゃない。腰はもういいの?」
妹が対応にあたる。どうやら顔見知りのようだ。
そうよね。妹はだって奉納祭に呼ばれたりするんだから。
「ええ。お陰様で。八意センセの薬で治りましてでさぁ」
「そう。農業には心身ともに健康が一番だからね」
「そうですなあ。元気に恩恵を受けとります」
「ところで、その野菜はどうしたの?」
「ええ、なんちゃ早いですが暑中見舞いです。ええ西瓜とかができたんでお二柱様にと」
「そ、そうなのね」
複雑そうな顔をする妹。実は秋の作物にしか能力が効かないことを伝えていないのだ。
ふむ、ここは事実を農夫に伝えて信仰を私のものに……
「ありがたや、ありがたや」
止めた。そんなこと伝えたら今目の前にある瑞々しい西瓜を食べれなくなるかもしれないからね。
水分補給っと。
「しっかしここ数年は暑くてかないません」
「熱射病とか気をつけてね。歳なんだから」
「もったいねえお言葉を」
「あなたが元気でないと、おいしい実りができないからよ」
ふふんと鼻を鳴らす妹。素直じゃないわね。
そうそう、最近は熱射病じゃなくて熱中症と言うのよ。知的アピールして信仰アップもいいわね。
私は本を閉じて、縁側へ向かう。
見れば見るほどおいしそうな野菜たちである。この農夫が丹精込めて作り上げた野菜。それは妹を信仰しているからではない。恵みに感謝して、物々を粗末にしない純粋な心を持てば、野菜に宿る小さな神が振り向いてくれる。妹はその神に語りかけるお手伝いをしているだけだ。
だったら私は。
「夏がどうして暑いか知っているかしら?」
「いんや、存じません」
「それはね――――」
夏が過ぎれば秋が来る。
だんだん短くなる秋を私たちがどう受け止めるかなんて、はじめから決まっている。
今年の夏はもっと暑くなりそうだから、秋にはもっと頑張らないといけないわね。
「私は納得いかない!秋は長ければ長いほうがいい!」
「はいはい。きゅうりは浅漬けがいい?ビール漬けがいい?」
「浅漬け!」
「トマトも漬けてみようかしら」
「いや、それは止めた方が……」
食卓を彩る夏野菜。そして、お酒。
どれもこれも神の恵み。
神が神から恵みを受けるって、なんだか笑っちゃうわね。
さて、これを食べて夏を乗り切って、秋を待ちましょうか。
「暑い分だけ、その暑さを耐えた分だけ、秋が輝くからよ」
木々の青さが目に沁みる。
「暑いね」
「違うわ。熱いのよ」
「早く秋にならないかなあ」
「今年も秋は遅くなりそうね」
妹が縁側でだらけて寝返りをうつ。
私は読書に勤しんでいるのだが、この暑さ、やはり頭に入ってこない。
「どうして夏はこう長いのに、秋はこうも短いんだ!」
「夏は妖精が活発になるからじゃないの?」
「でも妖精が元気じゃない冬も結構長いよ?」
「冬の妖怪が居るからじゃない?」
「…………」
つまり、私たちには秋を増長させるほどの力が無いという結論に達してしまった。
私が読んでいる『神様図鑑』にはきちんと私たちが載ってるのになあ。
そのページをめくってみる。
姉妹ひとセットで括ってある。
私は少しやるせない気持ちになってしまった。
「第3492回、秋自慢大会~」
妹が一人で何かを始めてしまった。もう少しで3500回になるわね。初めて聞くけど。
「秋と言えば」
「秋と言えば?」
「食べ物がおいしいわ!」
「秋の作物限定ね」
「…………」
「他には?」
「……以上」
「山が紅葉して綺麗って言いなさいよ!」
「えー」
まったく。困ったものよね。実りの秋だけが秋だと思っている妹。
秋は紅葉こそ見どころじゃない。人間は紅葉した山を見て秋を感じるのよ!
「おお、お二柱様!」
人間の声がした。しゃがれた年老いた声だ。確か里の農夫だった気がする。
「あら、今年は元気そうじゃない。腰はもういいの?」
妹が対応にあたる。どうやら顔見知りのようだ。
そうよね。妹はだって奉納祭に呼ばれたりするんだから。
「ええ。お陰様で。八意センセの薬で治りましてでさぁ」
「そう。農業には心身ともに健康が一番だからね」
「そうですなあ。元気に恩恵を受けとります」
「ところで、その野菜はどうしたの?」
「ええ、なんちゃ早いですが暑中見舞いです。ええ西瓜とかができたんでお二柱様にと」
「そ、そうなのね」
複雑そうな顔をする妹。実は秋の作物にしか能力が効かないことを伝えていないのだ。
ふむ、ここは事実を農夫に伝えて信仰を私のものに……
「ありがたや、ありがたや」
止めた。そんなこと伝えたら今目の前にある瑞々しい西瓜を食べれなくなるかもしれないからね。
水分補給っと。
「しっかしここ数年は暑くてかないません」
「熱射病とか気をつけてね。歳なんだから」
「もったいねえお言葉を」
「あなたが元気でないと、おいしい実りができないからよ」
ふふんと鼻を鳴らす妹。素直じゃないわね。
そうそう、最近は熱射病じゃなくて熱中症と言うのよ。知的アピールして信仰アップもいいわね。
私は本を閉じて、縁側へ向かう。
見れば見るほどおいしそうな野菜たちである。この農夫が丹精込めて作り上げた野菜。それは妹を信仰しているからではない。恵みに感謝して、物々を粗末にしない純粋な心を持てば、野菜に宿る小さな神が振り向いてくれる。妹はその神に語りかけるお手伝いをしているだけだ。
だったら私は。
「夏がどうして暑いか知っているかしら?」
「いんや、存じません」
「それはね――――」
夏が過ぎれば秋が来る。
だんだん短くなる秋を私たちがどう受け止めるかなんて、はじめから決まっている。
今年の夏はもっと暑くなりそうだから、秋にはもっと頑張らないといけないわね。
「私は納得いかない!秋は長ければ長いほうがいい!」
「はいはい。きゅうりは浅漬けがいい?ビール漬けがいい?」
「浅漬け!」
「トマトも漬けてみようかしら」
「いや、それは止めた方が……」
食卓を彩る夏野菜。そして、お酒。
どれもこれも神の恵み。
神が神から恵みを受けるって、なんだか笑っちゃうわね。
さて、これを食べて夏を乗り切って、秋を待ちましょうか。
「暑い分だけ、その暑さを耐えた分だけ、秋が輝くからよ」
次回作も期待してます。
しかしそういう秋姉妹の日常を書きたかったんでしょうね