「おはようございます! 紅美鈴です! 今日も一日頑張りましょう!」
突き立てた親指をグッと前に出して、声を張り上げる。
応える声はない。いつものことである。
ただ一人で門の前に立つ。それが私の仕事だ。一人であるのだから、挨拶をする意味はないのかもしれない。しれないのだが、なぜかこれをやらないといろいろ始まらない気がするのだ。実際、朝一番に館の真ん前で一声を発するのは気持ちがいい。
今日はいつになくいい天気だった。青い空に白い雲がいくつか浮かんでおり、風はない。柔らかな陽光、小鳥たちの声。まさに穏やかさを絵にしたような情景だ。
これならば日暮れまでの12時間、一度も起きることなくシエスタに注ぎ込めるかもしれない。私の勤労意欲はいつも以上に好調だった。だが、その時、
ガサッ
前触れなく前方の茂みが音を立てた。私は既に構えを取っている。左の掌を前に出し、右手を腰の後ろにし、半身となって相手を待ち受ける。
敵意・殺意は感じられなかった。しかし、ただの動物か迷い人であれば唐突に物音が生じるはずもなく──それ以前に気配をこちらで感知できる。
それゆえに構えを取ったのだ。相手は完全に気配を断てる手練れか、あるいは……。得体が知れない以上、警戒はする。最大限に。
「何者ですか!」
声を茂みにぶつける。
返事はない。葉一枚揺れることもなく、沈黙を保っている。解けない緊張状態。
まさか本当に誰もいないのだろうか。朽ちた太枝でも落ちたとか。いや、大木と茂みの位置関係、そして音の質から考えてもまずありえない。
思考の正しさを裏付けるように、茂みが再び音を立てる。
(……来る!)
そしてそれは勢いよく飛び出してきた。
「イヤッフゥー!」
「?!」
片手を突き上げ跳躍してきた存在。小男だった。私の前に無音で着地する。丸鼻の下に豊かな髭を生やしている。しかし、私の腰ほどもない背丈。ホビットかドワーフの類だろうか。
赤い帽子に赤いシャツ、青いオーバーオールを身につけている。動きやすい服装だ。何かの作業着にも見えるが、実戦向きなことには違いない。軍手らしき白手袋まではめている。
ずんぐりとしたボールのような体型の男──便宜上、毬男(マリヲ)と呼んでおこう──は、無表情だ。冷たい、という感じではない。それどころか感情や性格といったものが何も読み取れない。ポーカーフェイスというのがしっくりくる。……いや、これは、まさか、無我の境地?
毬男は無言でこちらを見ている。先ほどの、尻にストロー入れられて思いっきり息を吹き込まれた蛙神のような奇声が、まるで幻聴だったかのように。髭をピクリとも動かさない。
産毛が焼かれるような緊張感の中、こちらの呼吸はわずかに速くなっているというのに、なんだこの平静さは。ただ者ではない。
客人という可能性は捨てていいだろう。何者かを名乗らず、用件も述べない。それでいて、長年門番を務めてきた経験と勘が告げているのだ。こいつは、紅魔館に足を踏み入れる意志を確固として持っている!と。すなわち侵入者。私が止めるべき相手だ。
拳を握る。
「破ッ!!」
気合い一閃、地面を思い切り殴りつける。踏み固められた土に衝撃が広がり、穴が開いた。
威嚇にして牽制。効果は大きいはずだ。瓦やコンクリートブロックで試し割りをするデモンストレーションがあるが、あれらは各箇所に隙間があるが故に割れ、拳を壊さないのだ。堅い大地そのものを殴る行為は、難度としてその数段上を行く。私はそれを行った。力一杯。
並の相手であればこれで退散する。少なくとも気圧される。さあ、どう出る……?
「うっ」
思わず小さくうめいてしまった。
毬男は走り出したのだ。こちらに向かってでなく、その横の塀に。意図するところはわからなかったが、私が驚いたのはその走法である。
手足を素早く、目がとらえきれないほどの速度で動かすのである。にもかかわらず、上半身はまったくぶれない。よほど体幹が鍛えられていなければできない動きだ。やはり、強者。
私は構えを取ったまま小男の方へ身体を向ける。死角をついてくる戦法を取るのかと思ったのだ。が、違った。
ゴスッ!
毬男は塀を殴りつけたのだ。私は唖然として声も出ない。茂みから飛び出してきた時と同様、片手を大きく振り上げた状態での跳躍だが、あらためて見れば勢いと体重が完全に拳に乗っている。その動きが今まさに攻撃行動に転化していた。
箭疾歩(せんしっぽ)……技法そのものは珍しいものではない。中国拳法の諸流派に見られるもので、私自身も使える。だが、言葉を失った理由は、殴りつけたその対象にある。
(紅魔館の塀を、全力で?!)
何層にも重なった赤煉瓦、しかも強力な防護魔術が施されたそれに拳をぶつけるなど、自傷癖があるにしてももっとマシな方法を取る。少なくとも私はやりたくない。できるはずがない。
なのに、毬男は平然としている。それどころか、横に移動しつつ何度も飛び跳ねては塀を殴り続けていた。
意趣返しか。私がした威嚇と牽制への。いや、これはもはや挑発だった。
──どちらが上か理解しているのか?
毬男の青い尻がそう語っているように思えた。
落ち着け、私。腹式呼吸で小さく長く息を吐く。平常心を保て。冷静さを失った分だけ勝機は去っていく。
だが、そんな心掛けをあざ笑うかのように、そいつは更なる現象を引き起こした。
コィーン!
叩いた煉瓦から金貨が飛び出したのだ。顔面ほどもある巨大なものだ。同じ箇所は連続で叩かれ、その度に次々と金色の円盤が生み出される。
まさかあのようなところにヘソクリ用の貯金箱が隠されていたわけでもないだろう。煉瓦の密集した箇所には、咲夜さんの胸パッドほどの余裕どころか、蟻の這い出る隙間もない。つまり金貨は生み出されたのだ、煉瓦の組成式を変化させられて。
この髭男、武闘家というだけでなく、錬金術師でもあったとは!
武闘家としても格上、さらに魔術的能力まで。単独で紅い悪魔の居城に乗り込んで来るだけの力は持ち合わせているということか。だが、こちらとて、その門番を任せられている身、退く選択肢は無い。
強敵は屈んだ状態でいる。何かの文献で見た気がするが、確か極東において喫煙や飲酒をたしなむ未成年が駅前で行う座法だったろうか。しかし、他にもどこかで見たような……。
その時、回転しつつ横に流れていた金貨が毬男の後ろを通った。
「なっ……!」
背筋に電流が走った。開かれた股間から金貨の下半分がきらめいたのだ。
(そ、そういうことか。こいつはたくさんの金貨を生成した。つまり、これは、)
ゴクリと唾を飲む。
「金多毬男……!」
自分でも何を言っているかよくわからなかったが、ともかく何かすごいものを見せつけられたような気になっていた。
そして、ようやく思い出した。あれはトイレでの座り方だ。洋式でない方の。ならば、あの金貨の意味するものは。
ボッ、と音を立てたように顔が真っ赤になったのを感じる。実際真っ赤だろう。許すまじ! 一応これでも年頃の乙女なのだ。やっていいことと悪いことがある!
私の激高を意に介さず、毬男は跳躍した。それは信じられないことだった。
(なっ!? 座ったままの姿勢! 膝だけであんな跳躍を!)
人知を超越した身体技法・運動能力に怒りを忘れる。あの動きが可能なレベルの達人ならば、蛙神を殴りつけてもその下の岩のみを砕くことができると、何かのジョジョで読んだ。だが、本当の驚きはそのすぐ後だった。
ズニョニョニョ
キノコがせり出してきたのだ。背中での体当たり、「靠(こう)」と呼称される打撃を受けた煉瓦から、金貨以上の大きさの菌類が出現していた。オレンジの傘に赤い斑点という毒々しさ。明らかに自然界のものではない。これもまたこの男が生み出したのだろう。
無機物から有機物の錬成。土くれから黄金を生み出すよりも難度が高いことはパチュリー様から聞いている。
それをまさかこんな風体の男が。どこかの土管に潜り込んで亀の甲羅を蹴り飛ばしていそうな、こんな配管工のごとき男が実現してみせようとは。いや、風体でいえば、こちらの魔女も年中ネグリジェ着込んで引きこもってるので似たようなものだが。
巨大キノコは自然物でないことを示すかのように、何の動力もなく地面を滑りつつ移動していた。その先には毬男がいる。
キノコが接触した途端、男の身体に変化。ブクブクと泡立つように膨張し、体格が大きなものとなったのだ。私の腰以下の背丈は、今や私と同等のものとなっていた。
あのキノコは身体増強の魔術的効果があるのか。相手の能力が自分とは桁が違うということは十二分にわかっており、マジックマッシュルームを召還したところで今更驚くことではない。
ただ、「キノコをマジックアイテムに使う」というので嫌な連想をしてしまった。よく書籍を盗みに来る白黒のことを。赤い帽子の中央にある「M」の文字もかなり気になる。まさか身内じゃないだろうな。
(霧雨毬男……やべぇ、違和感無い)
二人から生まれたキノコカットのご子息を想像していると、一陣の風が吹いた。数枚の木の葉が横に流れていく。うち一枚が毬男に当たった。
──尻尾が生えた。
「何でやねんっ!!」
思わず訛ってしまうほどに理不尽な変化だった。「もう一段階変身を残していたのか!」とか「ただの自然物からもパワーを得られるのか!」とか、そんな驚愕の間すら与えてくれないほどのカオス。
キノコでの身体強化はわかるが、葉っぱで尻尾って意味があるのだろうか。と、そこまで考えたところで思い当たった。
しゃがみ状態で金貨を用いて行った挑発。それとの関連で考えれば意味が通じる。怒りが湧いた。
そう、デカいキノコで大きくなったり、葉っぱを取ることで本来葉っぱで隠すべき箇所たる股間から大きなモノを生やしたり。
「紅魔館の真ん前でセクハラとはいい度胸をしていますね、アナタ……!」
いくら私が上司から虐められる可愛い後輩属性を有しているからといって、これ以上の猥褻物陳列を許してはならない。風も無いのにブラブラと揺れるそれ(尻尾)を忌々しげににらみ、拳を握る。このまま放っておけば、亀の頭(ボス)と一戦を交えるなどしかねない。
もちろん勝ち目がないことはわかっている。それでもやらなければならなかった。私の役目はこの門の前に立ち続けること、そしてその後ろにいる人たちを守ることだからだ。腹に力を入れ、私は叫ぶ。
「私の名前は紅美鈴! ここ紅魔館の門番です! どのような状況であれ、私は全身全霊で自らの職務を全うします! たとえ咲夜さんのバスト程の勝ち目しかなくても!」
後頭部に衝撃。投擲された刃物であることを認識したときには、私の身体は崩れ落ちていた。
変身やセクハラで意識をそらしておいて、死角からの攻撃とは。相手は力だけでなく知略にも長けていたということか。ミスディレクション──咲夜さんと同じ技を使うなんて……でもこのナイフ、妙に刺さり心地に覚えがあるんだよなぁ……
そこまで考えて、私の意識は闇に落ちた。毬男が「ヒューイゴー!」と声を上げるのを聞きながら。
突き立てた親指をグッと前に出して、声を張り上げる。
応える声はない。いつものことである。
ただ一人で門の前に立つ。それが私の仕事だ。一人であるのだから、挨拶をする意味はないのかもしれない。しれないのだが、なぜかこれをやらないといろいろ始まらない気がするのだ。実際、朝一番に館の真ん前で一声を発するのは気持ちがいい。
今日はいつになくいい天気だった。青い空に白い雲がいくつか浮かんでおり、風はない。柔らかな陽光、小鳥たちの声。まさに穏やかさを絵にしたような情景だ。
これならば日暮れまでの12時間、一度も起きることなくシエスタに注ぎ込めるかもしれない。私の勤労意欲はいつも以上に好調だった。だが、その時、
ガサッ
前触れなく前方の茂みが音を立てた。私は既に構えを取っている。左の掌を前に出し、右手を腰の後ろにし、半身となって相手を待ち受ける。
敵意・殺意は感じられなかった。しかし、ただの動物か迷い人であれば唐突に物音が生じるはずもなく──それ以前に気配をこちらで感知できる。
それゆえに構えを取ったのだ。相手は完全に気配を断てる手練れか、あるいは……。得体が知れない以上、警戒はする。最大限に。
「何者ですか!」
声を茂みにぶつける。
返事はない。葉一枚揺れることもなく、沈黙を保っている。解けない緊張状態。
まさか本当に誰もいないのだろうか。朽ちた太枝でも落ちたとか。いや、大木と茂みの位置関係、そして音の質から考えてもまずありえない。
思考の正しさを裏付けるように、茂みが再び音を立てる。
(……来る!)
そしてそれは勢いよく飛び出してきた。
「イヤッフゥー!」
「?!」
片手を突き上げ跳躍してきた存在。小男だった。私の前に無音で着地する。丸鼻の下に豊かな髭を生やしている。しかし、私の腰ほどもない背丈。ホビットかドワーフの類だろうか。
赤い帽子に赤いシャツ、青いオーバーオールを身につけている。動きやすい服装だ。何かの作業着にも見えるが、実戦向きなことには違いない。軍手らしき白手袋まではめている。
ずんぐりとしたボールのような体型の男──便宜上、毬男(マリヲ)と呼んでおこう──は、無表情だ。冷たい、という感じではない。それどころか感情や性格といったものが何も読み取れない。ポーカーフェイスというのがしっくりくる。……いや、これは、まさか、無我の境地?
毬男は無言でこちらを見ている。先ほどの、尻にストロー入れられて思いっきり息を吹き込まれた蛙神のような奇声が、まるで幻聴だったかのように。髭をピクリとも動かさない。
産毛が焼かれるような緊張感の中、こちらの呼吸はわずかに速くなっているというのに、なんだこの平静さは。ただ者ではない。
客人という可能性は捨てていいだろう。何者かを名乗らず、用件も述べない。それでいて、長年門番を務めてきた経験と勘が告げているのだ。こいつは、紅魔館に足を踏み入れる意志を確固として持っている!と。すなわち侵入者。私が止めるべき相手だ。
拳を握る。
「破ッ!!」
気合い一閃、地面を思い切り殴りつける。踏み固められた土に衝撃が広がり、穴が開いた。
威嚇にして牽制。効果は大きいはずだ。瓦やコンクリートブロックで試し割りをするデモンストレーションがあるが、あれらは各箇所に隙間があるが故に割れ、拳を壊さないのだ。堅い大地そのものを殴る行為は、難度としてその数段上を行く。私はそれを行った。力一杯。
並の相手であればこれで退散する。少なくとも気圧される。さあ、どう出る……?
「うっ」
思わず小さくうめいてしまった。
毬男は走り出したのだ。こちらに向かってでなく、その横の塀に。意図するところはわからなかったが、私が驚いたのはその走法である。
手足を素早く、目がとらえきれないほどの速度で動かすのである。にもかかわらず、上半身はまったくぶれない。よほど体幹が鍛えられていなければできない動きだ。やはり、強者。
私は構えを取ったまま小男の方へ身体を向ける。死角をついてくる戦法を取るのかと思ったのだ。が、違った。
ゴスッ!
毬男は塀を殴りつけたのだ。私は唖然として声も出ない。茂みから飛び出してきた時と同様、片手を大きく振り上げた状態での跳躍だが、あらためて見れば勢いと体重が完全に拳に乗っている。その動きが今まさに攻撃行動に転化していた。
箭疾歩(せんしっぽ)……技法そのものは珍しいものではない。中国拳法の諸流派に見られるもので、私自身も使える。だが、言葉を失った理由は、殴りつけたその対象にある。
(紅魔館の塀を、全力で?!)
何層にも重なった赤煉瓦、しかも強力な防護魔術が施されたそれに拳をぶつけるなど、自傷癖があるにしてももっとマシな方法を取る。少なくとも私はやりたくない。できるはずがない。
なのに、毬男は平然としている。それどころか、横に移動しつつ何度も飛び跳ねては塀を殴り続けていた。
意趣返しか。私がした威嚇と牽制への。いや、これはもはや挑発だった。
──どちらが上か理解しているのか?
毬男の青い尻がそう語っているように思えた。
落ち着け、私。腹式呼吸で小さく長く息を吐く。平常心を保て。冷静さを失った分だけ勝機は去っていく。
だが、そんな心掛けをあざ笑うかのように、そいつは更なる現象を引き起こした。
コィーン!
叩いた煉瓦から金貨が飛び出したのだ。顔面ほどもある巨大なものだ。同じ箇所は連続で叩かれ、その度に次々と金色の円盤が生み出される。
まさかあのようなところにヘソクリ用の貯金箱が隠されていたわけでもないだろう。煉瓦の密集した箇所には、咲夜さんの胸パッドほどの余裕どころか、蟻の這い出る隙間もない。つまり金貨は生み出されたのだ、煉瓦の組成式を変化させられて。
この髭男、武闘家というだけでなく、錬金術師でもあったとは!
武闘家としても格上、さらに魔術的能力まで。単独で紅い悪魔の居城に乗り込んで来るだけの力は持ち合わせているということか。だが、こちらとて、その門番を任せられている身、退く選択肢は無い。
強敵は屈んだ状態でいる。何かの文献で見た気がするが、確か極東において喫煙や飲酒をたしなむ未成年が駅前で行う座法だったろうか。しかし、他にもどこかで見たような……。
その時、回転しつつ横に流れていた金貨が毬男の後ろを通った。
「なっ……!」
背筋に電流が走った。開かれた股間から金貨の下半分がきらめいたのだ。
(そ、そういうことか。こいつはたくさんの金貨を生成した。つまり、これは、)
ゴクリと唾を飲む。
「金多毬男……!」
自分でも何を言っているかよくわからなかったが、ともかく何かすごいものを見せつけられたような気になっていた。
そして、ようやく思い出した。あれはトイレでの座り方だ。洋式でない方の。ならば、あの金貨の意味するものは。
ボッ、と音を立てたように顔が真っ赤になったのを感じる。実際真っ赤だろう。許すまじ! 一応これでも年頃の乙女なのだ。やっていいことと悪いことがある!
私の激高を意に介さず、毬男は跳躍した。それは信じられないことだった。
(なっ!? 座ったままの姿勢! 膝だけであんな跳躍を!)
人知を超越した身体技法・運動能力に怒りを忘れる。あの動きが可能なレベルの達人ならば、蛙神を殴りつけてもその下の岩のみを砕くことができると、何かのジョジョで読んだ。だが、本当の驚きはそのすぐ後だった。
ズニョニョニョ
キノコがせり出してきたのだ。背中での体当たり、「靠(こう)」と呼称される打撃を受けた煉瓦から、金貨以上の大きさの菌類が出現していた。オレンジの傘に赤い斑点という毒々しさ。明らかに自然界のものではない。これもまたこの男が生み出したのだろう。
無機物から有機物の錬成。土くれから黄金を生み出すよりも難度が高いことはパチュリー様から聞いている。
それをまさかこんな風体の男が。どこかの土管に潜り込んで亀の甲羅を蹴り飛ばしていそうな、こんな配管工のごとき男が実現してみせようとは。いや、風体でいえば、こちらの魔女も年中ネグリジェ着込んで引きこもってるので似たようなものだが。
巨大キノコは自然物でないことを示すかのように、何の動力もなく地面を滑りつつ移動していた。その先には毬男がいる。
キノコが接触した途端、男の身体に変化。ブクブクと泡立つように膨張し、体格が大きなものとなったのだ。私の腰以下の背丈は、今や私と同等のものとなっていた。
あのキノコは身体増強の魔術的効果があるのか。相手の能力が自分とは桁が違うということは十二分にわかっており、マジックマッシュルームを召還したところで今更驚くことではない。
ただ、「キノコをマジックアイテムに使う」というので嫌な連想をしてしまった。よく書籍を盗みに来る白黒のことを。赤い帽子の中央にある「M」の文字もかなり気になる。まさか身内じゃないだろうな。
(霧雨毬男……やべぇ、違和感無い)
二人から生まれたキノコカットのご子息を想像していると、一陣の風が吹いた。数枚の木の葉が横に流れていく。うち一枚が毬男に当たった。
──尻尾が生えた。
「何でやねんっ!!」
思わず訛ってしまうほどに理不尽な変化だった。「もう一段階変身を残していたのか!」とか「ただの自然物からもパワーを得られるのか!」とか、そんな驚愕の間すら与えてくれないほどのカオス。
キノコでの身体強化はわかるが、葉っぱで尻尾って意味があるのだろうか。と、そこまで考えたところで思い当たった。
しゃがみ状態で金貨を用いて行った挑発。それとの関連で考えれば意味が通じる。怒りが湧いた。
そう、デカいキノコで大きくなったり、葉っぱを取ることで本来葉っぱで隠すべき箇所たる股間から大きなモノを生やしたり。
「紅魔館の真ん前でセクハラとはいい度胸をしていますね、アナタ……!」
いくら私が上司から虐められる可愛い後輩属性を有しているからといって、これ以上の猥褻物陳列を許してはならない。風も無いのにブラブラと揺れるそれ(尻尾)を忌々しげににらみ、拳を握る。このまま放っておけば、亀の頭(ボス)と一戦を交えるなどしかねない。
もちろん勝ち目がないことはわかっている。それでもやらなければならなかった。私の役目はこの門の前に立ち続けること、そしてその後ろにいる人たちを守ることだからだ。腹に力を入れ、私は叫ぶ。
「私の名前は紅美鈴! ここ紅魔館の門番です! どのような状況であれ、私は全身全霊で自らの職務を全うします! たとえ咲夜さんのバスト程の勝ち目しかなくても!」
後頭部に衝撃。投擲された刃物であることを認識したときには、私の身体は崩れ落ちていた。
変身やセクハラで意識をそらしておいて、死角からの攻撃とは。相手は力だけでなく知略にも長けていたということか。ミスディレクション──咲夜さんと同じ技を使うなんて……でもこのナイフ、妙に刺さり心地に覚えがあるんだよなぁ……
そこまで考えて、私の意識は闇に落ちた。毬男が「ヒューイゴー!」と声を上げるのを聞きながら。
こwwwwwwwれwwwwwwwwwはwwwwwww
こういうの大好きですwwwww
次楽しみに待ってます!!!
しかしよく考えたら、あの髭男の所作って確かに色々と反則的だよな。
単純明快なゲームのキャラに複雑怪奇な弾幕を放つ少女たちが惨敗ってのも皮肉なもんだがww
続きを期待してもよろしいんでしょか?
ジャンプを見せるだけでただ者ではないと思わせる男だからな。そりゃあ弾幕だって踏むさ。
しかし踏まれるだけで良かったな、下手したら倍々式に増えてたぞ!
そして魔理沙の星魔法でテーレッテレーww
何故魔理沙がいる
面白かったです
この作品は女性の地位向上をを阻んでいますよ。皆さんもそう思いますよね
もはや18禁は必至である
それにしてもなんというヒゲだ……
当たり前のことをしているだけなのに美鈴視点では異常極まりない存在感ッ!!
発想の段階から敗北したと言わざるを得ないw
イチイチ髭男の珍妙挙動は中国拳法式動作に解釈する美鈴さんいい味出してました
1000という文字を出しながら崩れ落ちる美鈴の姿が目に浮かぶようだ…