七月も半ばになり暑さがさらに増した幻想郷。ここ香霖堂ではチルノが作った氷で冷やされた店内でいつもと変わらずに本を読んでいる店主がいた。
「外はすごく暑いのに部屋の中だとこんなにも涼しいなんてな。今度チルノには何かお礼をしなければいけないな。」
そうつぶやいてふと店の窓から外を見るとふわふわと変な軌道をしている黒い塊が飛んでいた。
「あれはルーミアか。」
そして次の瞬間黒い塊はドガッという音を立てて香霖堂に直撃した。
僕はすぐに立ち去って行くかと思って放置していたがどうも様子が変だった。なかなか動かなくてどんどん闇が薄れていった。しかたなく僕は立ち上がり様子を見に行ってみることにした。
「ルーミア大丈夫かい。」「・・・」
返事がない、どうやらぶつかった衝撃で気絶してしまったみたいだ。妖怪だからこのままほっといても死なないが、店の前で少女が倒れているなんてことが幻想郷中に知れたら店の評判が落ちてしまう。悩んだ末僕はルーミアを看病することにした。
店を閉店にして、店内に置いてあった氷を居間に持ってきた。そして布団をひいてその上にルーミアを寝かせた。
「あとは濡らしたタオルを用意すればいいかな。」
濡らしたタオルをルーミアの頭に乗せ僕はその隣でさっき読んでいた本の続きを読むことにした。それから数分後急に眠気が襲ってきたため本を読むのを中断して眠りについた。
目が覚めたとき私は見たことない部屋にいた。でも部屋自体は見たことがなかったが、部屋のにおいやそこに住んでいる人の雰囲気を知っている感じがした。起き上がってまわりを見るとよく知っている人物が寝ていた。
「霖之助おきて~」
「ん、目が覚めたのか。頭は痛くないかい。」
「頭?ううん全然痛くないよ。でもどうして。」
「君がこの店にぶつかって頭を打って気絶してたからね。」
「そーなのかー、それで霖之助が看病してくれてたんだね。ありがとう。」
満面の笑みでお礼を言われて、その笑顔を見れただけでも看病したかいがあったなと思えた。
「どういたしまして、今度からは気を付けるんだよ。」
「わかったのだ~」
ほんとに判ってるのか心配だがまあいいだろう。
「それで君はこんなところで何をしてたんだい。いつもは神社の境内にいるはずだが。」
それを聞くとルーミアははっと何かを思い出した顔をした。
「今日は霖之助に聞きたいことがあってきたの。この前七夕っていうのやったでしょ、それでその時書いたお願い事はいつ叶うのかなって。はやく叶ってほしいから。
「それは僕にもわからないな。彦星が誰の願いからかなえてくれるのかわからないからね。」
「え~そーなのか~」
ルーミアはすごく残念そうな顔をしていたがすぐになにかひらめいたような顔になって話してきた。
「なら霖之助が私の願いを叶えてよ。」
「そんなこと言われても僕に出来ることなんて少ししかないんだが。ちなみに願い事はなんだったんだい。」
だいたい予想はつくがルーミアに願い事の内容を聞いてみた。
「おやつをおなかいっぱい食べたい。」
案の定、食べ物関係だった。それくらいだったら僕でも叶えてあげられるかな。
「なら今から一緒につくろうか。」
「うん!」
ルーミアの願い事を叶えるために僕とルーミアは人里までおやつの材料を買いに行くことにした。
「ねえ霖之助、さっき言ってたクッキーってどんなおかしなの。」
僕とルーミアは人里でクッキーを作るための材料を買いに来ていた。
「クッキーとは、小麦粉を主原料とした焼菓子のことで・・・ん」
いつもの癖でうんちくを語ろうとしているとルーミアがひっぱてきた。
「霖之助、わかんないよぅ。もっとわかりやすくして。」
「ああ、すまない。簡単に言うと甘くてサクサクとしたお菓子のことだ。」
「そーなのかー、早く食べたいのだ。」
そう言って話しながら小麦粉などの材料を買い集めていった。
「ついでに夕食の材料も買っていくかな。」
「ねえ霖之助、あの店はなに。」
その店の中でおいしそうに何かを食べている客を見ながら聞いてきた。
「あそこは甘味所と言って、和菓子などの甘いものが食べれる場所だよ。行きたいのかい。」
「うん、でも今日は霖之助がクッキーを作ってくれるから今度連れて行って。」
「仕方ないな。また今度一緒に行こうか。」
そんなたわいもない話をしながら僕とルーミアは家に帰って行った。
僕とルーミアは今台所に立ってクッキーを作っている。はじめは僕一人で作る予定だったが、ルーミアが作ってみたいと言ってきたので二人で作っている。
「霖之助、混ぜ終わったよ。」
「それじゃあ次に混ぜてまとまってきた生地を手でこねてくれ。」
「わかったのだ。」
僕が思っていたよりもルーミアは料理がうまかった。初めはこぼしてしまったりとミスがあったがすぐに慣れて今僕がすることは作り方の指示を出すだけになっている。なかなか素質があるみたいだな。これなら料理をしっかり教えてあげたほうがいいかもしれないな。
「出来たよ~」
「後はねかせて焼けば完成だ。」
「楽しみだね」
「まだクッキーを焼くまで時間があるし夕食でも作るか。クッキーが出来上がるのは夜になるから今日は泊っていくといい。」
「え、いいの?」
急にあわてだしたが何か問題でもあっただろうか。
「まあ君がかまわなければだけどね。それじゃあ夕食を作るけど一緒に作ってみるかい。」
「う、うん。」
この後ルーミアと一緒に夕食を作ったがルーミアの手が震えていて包丁を使うのがとても危なかった。
夕食を食べながらルーミアにいろんなことを聞いていた。
「君はいつもどこで過ごしているんだい。」
「うーんとね、いつもはチルノ達と遊んだり空をふわふわ飛んだりしてるよ。」
「ご飯とかは作ったりするのかい。」
「いつもはしないよ。料理を作ったのも今日が初めてだし。でも楽しかったからまた作りたいな。」
「そうかい、ならまたここに来るといい。その時はなにか料理を教えてあげるよ。」
そういうとルーミアはとても嬉しそうな顔をした。
「さて、そろそろクッキーを焼こうか。」
そう言って立ち上がり僕たちは台所に向かった。
「ねかせておいたクッキーを暑さが3~5ミリほどになるように切ってくれ。そのあと焼けばいいと。」
僕はルーミアがクッキーを切っているうちに河童が作ったオーブンと呼ばれる道具を取りに行った。
「霖之助これはなに。」
クッキーを切り終えたルーミアが不思議そうに聞いてきた。
「これはオーブンと言って河童の発明品だよ。詳しくはまだ調べてないが洋菓子を作ったりするときに便利なんだ。」
「そーなのかー」
「それじゃあ、焼こうか。」
チン
焼きあがったことを知らせる音が鳴り僕とルーミアは台所へ向かった。おいしそうなにおいを漂わせているオーブンをあけ中身を取り出すときれいな焼き色がついたクッキーができていた。
「わぁおいしそうだね。」
「うまくできているな。それじゃあ紅茶をいれてくるから居間にクッキーを運んでおいてくれ。」
「はーい」
そう言ってルーミアはクッキーの入った皿を持って居間に駆けていった。僕も紅茶を入れてすぐに居間にむかった。
「おいしいね。」
「自分で作ったからなおさらおいしいんだよ。苦労して手に入れたものほど手に入れた時の喜びも大きいからね。」
笑顔でサクサクと音を立てて食べているルーミアを見てるとこちらまで嬉しくなってくるな。やっぱり食事は一人よりも多数で食べるほうが楽しいな。
クッキーを食べ終わる頃にはもう夜遅くになっていた。
「そろそろ寝ようか。」
「うん」
「そっちの部屋に布団がひいてあるからそこで眠るといいよ。」
「わかった」
ルーミアが部屋についたのを確認して僕も眠りについた。
霖之助が用意してくれた布団に入って私は今日の出来事を思い出していた。
「今日はとても楽しかったな~」
人里へ買い物に行ったり、霖之助とクッキーを作ったりといつもは出来ないことばかりを経験できた。そして霖之助は布団まで用意して泊めてくれた。霖之助が泊めてくれると言ったときに何故かわからないけどすごくどきどきしてしまった。でもこのどきどきは心地よいものだった。そんなことを考えているうちに私は眠りに落ちていった。
次の朝
「それじゃあまたくるね~」
そういってルーミアは帰っていった。そして布団を片付けようとルーミアが寝ていたところに行くと一枚の紙切れが落ちていた。そこには
「願い事を叶えてくれてありがとう。今度の願い事はまた一緒に料理がしたいな。また叶えてくれるよね彦星さん。ルーミアより」
こう書かれていた。
僕はやれやれと首を振りながら今日読む本を棚から取り出し読み始めた。その本のタイトルは
「誰でも作れる簡単洋菓子レシピ集」だった。