千年弱を共にした。外で生きるために、仕方がなく。
大雨があり突風があり日照りがあり、大喧嘩があり衝突があり照れはなく。
私達は、距離が近いと仲が悪かった。
ぶつかって相手を理解すると、親密になれる。そんな教えは嘘だと思う。幾度口論をしても、収穫はなかった。
――必要なのはわかるが、君は外面が良過ぎる。もっと普段の烈しさを出したらどうだ、毘沙門天様らしく。
――私は私なりに全力です。怒鳴る毘沙門天様など、聖は望んでいなかった。
――また聖か。君は自分の頭で判断できないのかい? まるで空っぽの樽だ、叩くと音だけは大きい。
――貴方だって、本物の主に従っているだけでしょう。偽物はどちらですか、答えろ!
私激昂。彼女沈黙。一時撤退。実に不愉快な、決着のない勝負の日々だった。
彼女に見下されるのが嫌で、私は神様を続けた。私の意地を、彼女は嫌がらせと呼んだ。当然争いの火種になった。
幻想郷で、苦労が報われた日。私達は、初めて意見を同じくした。
「君とはやっていけそうにない。私は適当に独り暮らしをする。用事があったら連絡をくれ」
「貴方と同居は難しそうです。出ていくのなら止めません。月報は送ります」
幸せだった。毒を吐く顔がいなくなって、清々した。
私達の声は離れ、文字での交わりが始まった。
私の知らなかった、彼女と出会った。
◆
晴探雨筆。土砂降りで探し物は中断です。家で返事を書いています。雨漏りなどはしていないので、ご安心を。
夏の夜の雨は、光る糸のようです。激しくて鮮やかで、心に残ります。さあっと立ち去るのも、潔くて良いです。貴方も見習うべきです。
陰暦七夕の法会、お疲れ様でした。やや猫背気味だったことを除けば、減点はありません。宝塔の扱いが、去年よりも上手になっていました。
星、貴方は優秀です。実務面では。だからでしょうか、余計に精神面の粗が気になります。聖や友人の期待に応えるだけが、貴方ではないでしょう。やりきれない感情をお酒で誤魔化すのもみっともないです。報告するのもみっともないので、毘沙門天様には黙っておきますが。
失礼、辛口が過ぎました。どうか手紙を破かないでください。
私も、貴方に希望を押し付けている身です。批判をしてから、自己嫌悪で逃げています。
無縁塚で拾った、外の胃薬を同封します。疲れる前に、水で一錠飲んでください。
ナズーリン
◆
面と向かって言われたら、吠えたくなる講評だ。けれども手紙だと、腹が立たなかった。丁寧な文体と、小さめの字と、内容のおかげだろう。言い争いでは見えなかった、細やかさが感じられる。意外に詩的な一面も。
こんな彼女に、乱暴な返しはできない。自然、私も礼儀正しくなった。熟考を覚え、売り言葉に買い言葉を忘れた。
念入りに磨った墨に、本心が滲んだ。
◆
以前の胃薬、全部美味しく頂きました。
里は緑から、黄や紅の季節へと変わろうとしています。食卓も彩り豊かです。貴方もちゃんと食べていますか。面倒だとか食が細いだとか、言い訳をしてはいけませんよ。
お寺は毎日千客万来。入門者も順調に増えています。賑やかこの上なく、なかなか返事の時間が取れませんでした。ああ、私も言い訳っぽい。
私は元々は、使命も役割もなかった妖怪です。自分が何なのかも、よくわかっていない。それゆえに指示に縋り、貴方の叱責に反発するのでしょう。
でもねナズーリン、自分の務めを知るひとなんてそうそう居ませんよ。そして、意味を持って生きるだけが道でもない。正誤を問わず、狭量は他人を追い詰めます。
聖やムラサ達は、私を真面目と褒めてくれます。でも私には、真面目という認識がありません。ちょっと臆病で、貴方に見下されまいと必死なだけです。真面目は、嬉しい評価ではありません。それでも喜ぶべきなのでしょうか。
寅丸星
秋深し、ご飯はそこそこ食べています。山で平茸の群生を発見しました。鼠の胃に収まる前に、確保できました。大人しい、他の食材と喧嘩をしない味です。
文を重ねる度に、私は私の無理解を悟らされます。あんなに月日があっても、対話は足りなかったようですね。
幻想郷の中では、私や聖や巫女こそ少数派なのでしょう。一生の役目を定めている。巫女は自由人ですが。紅い方も緑の方も。
しかし私は、選んだ立場に後悔はありません。後悔をするくらいなら、最初から選びません。……こういう点が、狭量に繋がるのでしょうね。
どうしても辞めたくなったら、いいえ、辞めたくなったら言ってください。此処は妖怪の楽園です。神を辞しても生きられます。星が星らしく。貴方の決断を、私は見下しません。けれど、もし、聖や寺を思って遠慮したら。そのときは、迷わず軽蔑します。聖に迷惑がかかるから、皆に負担が行くかもしれないから。そのような理由は言い訳です。優しさではなく卑怯です。
多分していないでしょうが、私の心配は要りません。単純に上に帰ります。
ひとつ、打ち明けますと。先の騒動で貴方が宝塔を落としたとき、私はほっとしたのです。貴方が演技から解放されたくて、わざとやったものと誤解して。やっと貴方の意志に触れられたと、安堵したのです。毘沙門天様の部下らしくなく。偽物らしくなく。すぐにうっかりの所業と知って、呆れました。あれがないと聖が戻らない! 聖、聖と慌てる貴方に、苦く失望しました。ただ、喜んでもいたのです。星がまだ、うっかり間違えられるひとで良かったと。貴方は望まれたことなら、完璧にできてしまうひとだから。毘沙門天様らしく。偽物らしくなく。
ややこしい独白になりましたね。書いてみて、私自身も混乱しています。直接話していたら、一層滅茶苦茶になったでしょう。素直は苦手分野です。よく噛んでお読みください。
私は、星は真面目ではないと断言できます。ただし、真面目の振りは得意だとも言えます。良く取ればいい子、悪く取ってもいい子です。臆病ゆえか親愛ゆえか、周りに合わせてしまう。頑張ってしまう。実力があるから、結果も出せてしまう。挫折がないことが、貴方の挫折でしょう。
また毒舌、毒筆が走りました。ここまでにします。
平茸の包みも届けます。命蓮寺でご賞味ください。私は食べ飽きました。
ナズーリン
◆
無理解と語りながらも、彼女は私を見事に分析していた。ダウザーをしていると、他者の内面も掘り当てられるのだろうか。
彼女の助言で、私は自由なのだと気付かされた。もう辞めてもいいのだ。船は着いたのだから。
神様降板。一妖虎としての再出発。想像して、真っ先に思い浮かんだのは彼女だった。残念そうな聖や、見送りの一輪達ではなく。いなくなるナズーリン。
長年の、最悪の相方。顔も見たくない。最近は、仕事以外では会っていない。遠くなったのに、前よりも親近感は湧いている。
別れたくはない。純粋に、そう願った。本物も偽物も関係なかった。真っ直ぐに、彼女だから。
しかしそれでは、彼女は認めないだろう。
――もし、聖や寺を思って遠慮したら。そのときは、迷わず軽蔑します。
――言い訳です。優しさではなく卑怯です。
ナズーリンを行かせたくないから、毘沙門天様を続けます。そんなの、嘘の優しさにもならない。ずるいわがままだ。
彼女に侮られるのは、耐えられない。対等に関わっていたい。
私の言葉が欲しかった。
寺に贈られた山平茸は、含め煮と蕎麦の具になった。なるほど、何にでも合う優等生だ。純米酒のつまみにいいと、マミゾウさんが気に入っていた。今の私には、幾分物足りなかった。
◆
先月はご馳走様でした。
貴方に選択肢を示されて、私は悩んでいます。義理とは無縁に、重く。
時間をください。一年、来年の夏くらいまで。制限を設けないと、私は延々と思案しそうです。かつての千年のように。
舌戦ばかりの歳月でしたね。当時、何故ああも激突していたのか。文通の今になって、解ってきています。まあ、未だに一緒だと険悪ですけれども。会話の速度が酷くて、主張の真意に至れなくて。ぬえは私達のことを、磁石の同極に喩えます。SとS、NとN。ぶつかれば反発するのが道理です。でも同族嫌悪なのでしょうか。私は貴方に共通点を見出せません。毘沙門天様以外、全く。貴方も私のように、些細なことで苦しむのでしょうか。
宝塔の一件には、驚きました。まさかナズーリンが、ほっとして喜んでいたなんて(責める意図はありません)。ナズーリンらしくないなと、笑ってしまいました(繰り返しますが責める意図はありません)。
うーん。らしい、らしくないって、何なのでしょうね。疑問です。自分探しの旅に出そうです。少し参道を散歩してきます。落ち葉で滑らないように、気をつけて。
寅丸星
初雪かと思ったら、北風に乗った灰でした。空は唸っているのに、まだ降りません。
来年の夏まで。では、陽暦の七夕に伺います。丁度説法の手伝いもありますから。大事なことです、対面して聞きましょう。有益な議論になりますように。
ぬえは貴方よりも鋭いです。貴方は私を買い被っています。私も星のように、小さく惑っています。情と理に乱されています。格好悪いので、外には隠していますが。
……貴方の文章にも、毒が混じっていますね。狙っていない分、私よりも性質が悪いです。
らしい、らしくないを決めるのは貴方です。難しいようなら、他人の貴方評を訊ねてみるといいです。強く反感を覚える評価があるでしょう。「真面目」のように。そこに星、貴方の本当が埋もれています。
貴方が貴方を探そうとしているのが、嬉しいです。昔はなかったことです。
言いなりの貴方は、嫌いでした。私も、きらいでした。
ナズーリン
あけましておめでとうございます。お正月はろくに話さなかったので、此方で改めてご挨拶を。
ナズーリン、貴方は大した役者です。いえ、私が鈍感なのでしょうか。格好悪い貴方など、後にも先にもいないような気がするのです。無言で退く程度で。私は貴方のようになりたくて、なれませんでした。敗北感で苛立っていました。
貴方の手法と感想をまとめると、その。私の醜態に、ほっとして喜んでいた。私の意志に触れようとしていた。それが、本来の貴方らしさなのでしょうか。だとしたら、私は大馬鹿者です。身近にあった幸福を、踏みにじっていました。
貴方が何を「きらい」なのかは、読めません。けれど、私は手紙の貴方は好きです。手紙ではない貴方も、好きになりたいです。
来月響子さん(大晦日に除夜の鐘を真似していた子です)が、雪原耐久ライブをするそうです。気が向いたら、行きませんか。あの大音量の中では、喧嘩もできないでしょう。
寅丸星
ライブよりも雪かきです。塚の桜は白銀に染まりました。深夜に時々、冷たい塊を落とします。一瞬目が覚めて、冬を感じるのです。
私は星の手本になれる、偉人ではありません。小物です。敵意ならともかく、敬意は苦痛です。貴方の傍で、いつも劣等感に苛まれていました。
見解を改めます。貴方も鋭いです、部分的に。筆が辛いので、詳しくどことは書きませんが。
貴方の長所は、善意に正直なところです。短所は、相手を選ばないところです。
ナズーリン
◆
遅い、薄い。ナズーリンの封書は、段々小柄になっていった。私が真剣に、大量に綴るのとは反対に。
六月分は、
来月七日にお邪魔します。夜、法会が終わってからどこかで。
ナズーリン
たったのこれだけ。
私はいつ、彼女を無口にしてしまったのだろう。送った文面を思い出し、過去を悔やんだ。自室や倉庫や、通路で変な声が出た。
――私は、選んだ立場に後悔はありません。後悔をするくらいなら、最初から選びません。
ぐあ。ぅう。ナズーリンは、後悔なんかしないのに。憎らしいほど強いのに。
門と裏庭には、支度の済んだ笹。もう余裕がない。答えを告げるのは明日、いや既に今日? まずい、
「のう」
突然、後頭部に硬い衝撃が走った。痛みと悩みで、二重に頭を抱えた。振り返れば、徳利を構えたマミゾウさん。
「何ですか、いきなり」
「こっちが問いたいわ。何じゃ、廊下の真ん中でがおがおと。酔ったか」
「いえ、禁酒中でして」
やりきれない感情を、お酒で誤魔化しては駄目だから。ナズーリンに怒られる。
だけれど、彼女は言いなりの私も嫌いで。
立ち止まった思考に、柔らかい香りが紛れ込んだ。マミゾウさんが、容器の栓を開けていた。
「付き合わんか? 素面も赤面も、今のおぬしじゃ変わらんよ」
仏門の貴重な飲み仲間じゃ。どうせ潰れるなら酔い潰れい。気取らず明るく、誘いをかけられた。
私の意志は、情けない。
「一人よりは、酔っ払い二人。聞いちゃるぞ、酒の肴に。『あどばいす』をどうするかは、おぬし次第じゃ」
深みのある、化け狸の言葉に動かされた。半分泣きついていた。反則でもいい、喋りたい。縁の長い聖達には、とても明かせない。
宴会場は、本堂の屋根の上になった。半端な形の月が待っていた。
「おぬしのような考え馬鹿には、高いところと決まっておる」
涙用の手拭いと、冷えた大吟醸が振る舞われた。杯の表面に、たちまち水滴が浮かぶ。
すっきりとした味と、温度が沁みた。少しずつ、説明した。
マミゾウさんは、話し上手の聞き上手だ。私の独り語りを、相槌で展開してくれた。
「虎が自分から捕まりおった」
自縄自縛。自爆かの? 一通り呑み込んで、マミゾウさんはそう要約した。
「爆発してますか、私」
「盛大に。ぬえの喩えが傑作の正解じゃろうて。磁石のような似たもの同士」
「でしょうか。彼女は立派ですよ。私なんかについてきて、ずっと」
「どっちもどっち、仲良く小物。儂に言わせれば」
流水紋様の布地を、きつく握り締めていた。私はともかく、彼女は違う。侮辱されたくない。
怖い顔をするでない。のんびりゆったり、マミゾウさんは口を進めた。
「他でもない、ナズーリンが自称しておったではないか。小物と。おぬし、信じてやれんのか」
「私に合わせた謙遜でしょう。彼女は素晴らしいひとで、」
「じゃからおぬしは敗北感に、向こうは劣等感に嘆いた。『らしくない』と。称賛も過ぎれば毒、『真面目な』おぬしが何故解らない」
らしくない、真面目。ナズーリンの意見が、すぐに蘇った。
狭量を咎めておいて、私が。
「あの娘にも、後悔や挫折があろう。今は無いと書けても。言いなりになって、挫けた日があろう。皆そうじゃろう。ゆえに次こそはと頑張る、成長する。面白いの、生き物は」
欠けていた月が、再び満ちていくように。
もっと信じてみよう、読んでみよう。何度でも。正しいを正しい、おかしいをおかしいと言えるまで。本物になるまで。
「まぁあちらさんの問題は、苦手分野の、と?」
「マミゾウさん失礼します、やることができました」
それは、それは。眼鏡越しの瞳が、緩い弧を描いた。酒杯と手拭いを奪い、
「まだ『ひんと』は出せるぞ?」
「解答欄を覗くのは、ズルですから。ありがとうございます、先生」
「おったのう、そういう小学生。教師に化けて『めっ』しとった」
変化の尻尾が、手の代わりに振られた。
ああそうだ、マミゾウさんも外にいたのだった。ぬえに呼ばれるまでは。
下りる前に訊いてみた。貴方にも、後悔があるのですかと。
「うんと。なあに、酒を旨くする秘訣じゃ」
月夜を掬う杯は、揺れて輝いていた。
明けて、七夕。ナズーリンと、久々に対面した。
為すべきことに、黙々と打ち込んでから。裏庭の、笹飾りの下で落ち合った。
頭上には曇天。板敷きの縁に、並んで座った。
激論にはならなかった。私には火種が、彼女には元気がなかった。逃げないでと手を握っても、無反応。
やりたいように、やってみる。彼女が応えてくれなくても。数年間彼女と通じていた、
「拝啓。前略? ナズーリンへ。今月分の、私の言葉です。そのまま、聞いていてください。此方を向かなくてもいいです」
手紙のようにして。
「まず、お詫びをさせてください。私はこれまで、貴方を誤解していました。敬意を押し付けられる辛さは、知っていたはずなのに。貴方の劣等感を、軽んじていました。困った仮のご主人様です」
一拍。彼女の左手が、弱々しく丸まった。
「けどね、ナズーリン。私は敬意を抑えても、好意は捨てません。毎月、貴方の返事が楽しみでした。千年を費やすよりも、ずっと貴方に近かった。貴方らしさに近付けて、幸いだった」
だからどうか、
「好きや嫌いから逃げないでください。私を探す私を、真摯に助けてくれたように。貴方への好きを、素直に受け取ってください。貴方を嫌いな貴方とも、闘ってください」
睨むような、不器用な視線が来た。叫びたいのか、泣きたいのか、怒りたいのかは判別できない。
私と彼女は、お互いに壁を設けていた。会えないように、雨を降らせていた。
「私は戦いの神様として、財宝の神様として、貴方にまだまだ贈りたいものがある。だから、幻想郷で毘沙門天様を続けます」
「他人を理由にするなと、あれほど」
「他人を理由にするなと、貴方は軽蔑するでしょう。構いません。持ち上げられるより、落とされる方がいい。上って、追いつきます。それに、これが私の意志です。誰の言いなりでもない私です。貴方には責められない」
卑怯者。何百回と投げつけられた、批難を聞いた。いつの口調とも異なる、透明な響きだった。
「たまには、命蓮寺にも遊びに来てください。今すぐは難しくても、いつかは。また、沢山喧嘩をしましょう。不愉快な結末には、ならないはずです」
「どう、だか」
「少なくとも、私は貴方を」
好きでいますと、届いただろうか。彼女が、
「星、雨だ!」
大声で切り上げた。封殺したかったのではと、疑いたくなるタイミングで。
本当だった。右手に一滴、数えられたのはそこまで。無数の条に化けた。目の前が霞む。
「さ、笹仕舞わないと」
「後でいい、中に急げ! 一時の豪雨だ」
「でも皆の短冊が、ナズーリンまだ書いてないのに。私外して入れますから、」
「自分も大事にしろ馬鹿! そういうところが私は、ああもう放せご主人!」
雨風雪崩。避難しても今更な、濡れ虎と濡れ鼠の完成。彼女は観念したのか、笹を固定する紐を解いてくれた。それはもう不満そうに。夏雨が屋根を叩くように、私を詰っていた。いちいち心配をかけるな、君は面倒臭い、やりにくい、手がかかる、困惑する、私を庇うな、乾かせば戻る云々、
「頑張りますから、私は」
「頑張ってやる、私が」
二つの手の上で、同じ決意が重なった。不思議な偶然に、目を合わせた。
こんなに似ているのに、今は離れない。
彼女が笑った気がした。微かに、心底。
私達の大喧嘩の、最初の収穫。
「光る雨、ですね」
「夏だからね」
激しくて鮮やかな、忘れられないはじまりだった。
大雨があり突風があり日照りがあり、大喧嘩があり衝突があり照れはなく。
私達は、距離が近いと仲が悪かった。
ぶつかって相手を理解すると、親密になれる。そんな教えは嘘だと思う。幾度口論をしても、収穫はなかった。
――必要なのはわかるが、君は外面が良過ぎる。もっと普段の烈しさを出したらどうだ、毘沙門天様らしく。
――私は私なりに全力です。怒鳴る毘沙門天様など、聖は望んでいなかった。
――また聖か。君は自分の頭で判断できないのかい? まるで空っぽの樽だ、叩くと音だけは大きい。
――貴方だって、本物の主に従っているだけでしょう。偽物はどちらですか、答えろ!
私激昂。彼女沈黙。一時撤退。実に不愉快な、決着のない勝負の日々だった。
彼女に見下されるのが嫌で、私は神様を続けた。私の意地を、彼女は嫌がらせと呼んだ。当然争いの火種になった。
幻想郷で、苦労が報われた日。私達は、初めて意見を同じくした。
「君とはやっていけそうにない。私は適当に独り暮らしをする。用事があったら連絡をくれ」
「貴方と同居は難しそうです。出ていくのなら止めません。月報は送ります」
幸せだった。毒を吐く顔がいなくなって、清々した。
私達の声は離れ、文字での交わりが始まった。
私の知らなかった、彼女と出会った。
◆
晴探雨筆。土砂降りで探し物は中断です。家で返事を書いています。雨漏りなどはしていないので、ご安心を。
夏の夜の雨は、光る糸のようです。激しくて鮮やかで、心に残ります。さあっと立ち去るのも、潔くて良いです。貴方も見習うべきです。
陰暦七夕の法会、お疲れ様でした。やや猫背気味だったことを除けば、減点はありません。宝塔の扱いが、去年よりも上手になっていました。
星、貴方は優秀です。実務面では。だからでしょうか、余計に精神面の粗が気になります。聖や友人の期待に応えるだけが、貴方ではないでしょう。やりきれない感情をお酒で誤魔化すのもみっともないです。報告するのもみっともないので、毘沙門天様には黙っておきますが。
失礼、辛口が過ぎました。どうか手紙を破かないでください。
私も、貴方に希望を押し付けている身です。批判をしてから、自己嫌悪で逃げています。
無縁塚で拾った、外の胃薬を同封します。疲れる前に、水で一錠飲んでください。
ナズーリン
◆
面と向かって言われたら、吠えたくなる講評だ。けれども手紙だと、腹が立たなかった。丁寧な文体と、小さめの字と、内容のおかげだろう。言い争いでは見えなかった、細やかさが感じられる。意外に詩的な一面も。
こんな彼女に、乱暴な返しはできない。自然、私も礼儀正しくなった。熟考を覚え、売り言葉に買い言葉を忘れた。
念入りに磨った墨に、本心が滲んだ。
◆
以前の胃薬、全部美味しく頂きました。
里は緑から、黄や紅の季節へと変わろうとしています。食卓も彩り豊かです。貴方もちゃんと食べていますか。面倒だとか食が細いだとか、言い訳をしてはいけませんよ。
お寺は毎日千客万来。入門者も順調に増えています。賑やかこの上なく、なかなか返事の時間が取れませんでした。ああ、私も言い訳っぽい。
私は元々は、使命も役割もなかった妖怪です。自分が何なのかも、よくわかっていない。それゆえに指示に縋り、貴方の叱責に反発するのでしょう。
でもねナズーリン、自分の務めを知るひとなんてそうそう居ませんよ。そして、意味を持って生きるだけが道でもない。正誤を問わず、狭量は他人を追い詰めます。
聖やムラサ達は、私を真面目と褒めてくれます。でも私には、真面目という認識がありません。ちょっと臆病で、貴方に見下されまいと必死なだけです。真面目は、嬉しい評価ではありません。それでも喜ぶべきなのでしょうか。
寅丸星
秋深し、ご飯はそこそこ食べています。山で平茸の群生を発見しました。鼠の胃に収まる前に、確保できました。大人しい、他の食材と喧嘩をしない味です。
文を重ねる度に、私は私の無理解を悟らされます。あんなに月日があっても、対話は足りなかったようですね。
幻想郷の中では、私や聖や巫女こそ少数派なのでしょう。一生の役目を定めている。巫女は自由人ですが。紅い方も緑の方も。
しかし私は、選んだ立場に後悔はありません。後悔をするくらいなら、最初から選びません。……こういう点が、狭量に繋がるのでしょうね。
どうしても辞めたくなったら、いいえ、辞めたくなったら言ってください。此処は妖怪の楽園です。神を辞しても生きられます。星が星らしく。貴方の決断を、私は見下しません。けれど、もし、聖や寺を思って遠慮したら。そのときは、迷わず軽蔑します。聖に迷惑がかかるから、皆に負担が行くかもしれないから。そのような理由は言い訳です。優しさではなく卑怯です。
多分していないでしょうが、私の心配は要りません。単純に上に帰ります。
ひとつ、打ち明けますと。先の騒動で貴方が宝塔を落としたとき、私はほっとしたのです。貴方が演技から解放されたくて、わざとやったものと誤解して。やっと貴方の意志に触れられたと、安堵したのです。毘沙門天様の部下らしくなく。偽物らしくなく。すぐにうっかりの所業と知って、呆れました。あれがないと聖が戻らない! 聖、聖と慌てる貴方に、苦く失望しました。ただ、喜んでもいたのです。星がまだ、うっかり間違えられるひとで良かったと。貴方は望まれたことなら、完璧にできてしまうひとだから。毘沙門天様らしく。偽物らしくなく。
ややこしい独白になりましたね。書いてみて、私自身も混乱しています。直接話していたら、一層滅茶苦茶になったでしょう。素直は苦手分野です。よく噛んでお読みください。
私は、星は真面目ではないと断言できます。ただし、真面目の振りは得意だとも言えます。良く取ればいい子、悪く取ってもいい子です。臆病ゆえか親愛ゆえか、周りに合わせてしまう。頑張ってしまう。実力があるから、結果も出せてしまう。挫折がないことが、貴方の挫折でしょう。
また毒舌、毒筆が走りました。ここまでにします。
平茸の包みも届けます。命蓮寺でご賞味ください。私は食べ飽きました。
ナズーリン
◆
無理解と語りながらも、彼女は私を見事に分析していた。ダウザーをしていると、他者の内面も掘り当てられるのだろうか。
彼女の助言で、私は自由なのだと気付かされた。もう辞めてもいいのだ。船は着いたのだから。
神様降板。一妖虎としての再出発。想像して、真っ先に思い浮かんだのは彼女だった。残念そうな聖や、見送りの一輪達ではなく。いなくなるナズーリン。
長年の、最悪の相方。顔も見たくない。最近は、仕事以外では会っていない。遠くなったのに、前よりも親近感は湧いている。
別れたくはない。純粋に、そう願った。本物も偽物も関係なかった。真っ直ぐに、彼女だから。
しかしそれでは、彼女は認めないだろう。
――もし、聖や寺を思って遠慮したら。そのときは、迷わず軽蔑します。
――言い訳です。優しさではなく卑怯です。
ナズーリンを行かせたくないから、毘沙門天様を続けます。そんなの、嘘の優しさにもならない。ずるいわがままだ。
彼女に侮られるのは、耐えられない。対等に関わっていたい。
私の言葉が欲しかった。
寺に贈られた山平茸は、含め煮と蕎麦の具になった。なるほど、何にでも合う優等生だ。純米酒のつまみにいいと、マミゾウさんが気に入っていた。今の私には、幾分物足りなかった。
◆
先月はご馳走様でした。
貴方に選択肢を示されて、私は悩んでいます。義理とは無縁に、重く。
時間をください。一年、来年の夏くらいまで。制限を設けないと、私は延々と思案しそうです。かつての千年のように。
舌戦ばかりの歳月でしたね。当時、何故ああも激突していたのか。文通の今になって、解ってきています。まあ、未だに一緒だと険悪ですけれども。会話の速度が酷くて、主張の真意に至れなくて。ぬえは私達のことを、磁石の同極に喩えます。SとS、NとN。ぶつかれば反発するのが道理です。でも同族嫌悪なのでしょうか。私は貴方に共通点を見出せません。毘沙門天様以外、全く。貴方も私のように、些細なことで苦しむのでしょうか。
宝塔の一件には、驚きました。まさかナズーリンが、ほっとして喜んでいたなんて(責める意図はありません)。ナズーリンらしくないなと、笑ってしまいました(繰り返しますが責める意図はありません)。
うーん。らしい、らしくないって、何なのでしょうね。疑問です。自分探しの旅に出そうです。少し参道を散歩してきます。落ち葉で滑らないように、気をつけて。
寅丸星
初雪かと思ったら、北風に乗った灰でした。空は唸っているのに、まだ降りません。
来年の夏まで。では、陽暦の七夕に伺います。丁度説法の手伝いもありますから。大事なことです、対面して聞きましょう。有益な議論になりますように。
ぬえは貴方よりも鋭いです。貴方は私を買い被っています。私も星のように、小さく惑っています。情と理に乱されています。格好悪いので、外には隠していますが。
……貴方の文章にも、毒が混じっていますね。狙っていない分、私よりも性質が悪いです。
らしい、らしくないを決めるのは貴方です。難しいようなら、他人の貴方評を訊ねてみるといいです。強く反感を覚える評価があるでしょう。「真面目」のように。そこに星、貴方の本当が埋もれています。
貴方が貴方を探そうとしているのが、嬉しいです。昔はなかったことです。
言いなりの貴方は、嫌いでした。私も、きらいでした。
ナズーリン
あけましておめでとうございます。お正月はろくに話さなかったので、此方で改めてご挨拶を。
ナズーリン、貴方は大した役者です。いえ、私が鈍感なのでしょうか。格好悪い貴方など、後にも先にもいないような気がするのです。無言で退く程度で。私は貴方のようになりたくて、なれませんでした。敗北感で苛立っていました。
貴方の手法と感想をまとめると、その。私の醜態に、ほっとして喜んでいた。私の意志に触れようとしていた。それが、本来の貴方らしさなのでしょうか。だとしたら、私は大馬鹿者です。身近にあった幸福を、踏みにじっていました。
貴方が何を「きらい」なのかは、読めません。けれど、私は手紙の貴方は好きです。手紙ではない貴方も、好きになりたいです。
来月響子さん(大晦日に除夜の鐘を真似していた子です)が、雪原耐久ライブをするそうです。気が向いたら、行きませんか。あの大音量の中では、喧嘩もできないでしょう。
寅丸星
ライブよりも雪かきです。塚の桜は白銀に染まりました。深夜に時々、冷たい塊を落とします。一瞬目が覚めて、冬を感じるのです。
私は星の手本になれる、偉人ではありません。小物です。敵意ならともかく、敬意は苦痛です。貴方の傍で、いつも劣等感に苛まれていました。
見解を改めます。貴方も鋭いです、部分的に。筆が辛いので、詳しくどことは書きませんが。
貴方の長所は、善意に正直なところです。短所は、相手を選ばないところです。
ナズーリン
◆
遅い、薄い。ナズーリンの封書は、段々小柄になっていった。私が真剣に、大量に綴るのとは反対に。
六月分は、
来月七日にお邪魔します。夜、法会が終わってからどこかで。
ナズーリン
たったのこれだけ。
私はいつ、彼女を無口にしてしまったのだろう。送った文面を思い出し、過去を悔やんだ。自室や倉庫や、通路で変な声が出た。
――私は、選んだ立場に後悔はありません。後悔をするくらいなら、最初から選びません。
ぐあ。ぅう。ナズーリンは、後悔なんかしないのに。憎らしいほど強いのに。
門と裏庭には、支度の済んだ笹。もう余裕がない。答えを告げるのは明日、いや既に今日? まずい、
「のう」
突然、後頭部に硬い衝撃が走った。痛みと悩みで、二重に頭を抱えた。振り返れば、徳利を構えたマミゾウさん。
「何ですか、いきなり」
「こっちが問いたいわ。何じゃ、廊下の真ん中でがおがおと。酔ったか」
「いえ、禁酒中でして」
やりきれない感情を、お酒で誤魔化しては駄目だから。ナズーリンに怒られる。
だけれど、彼女は言いなりの私も嫌いで。
立ち止まった思考に、柔らかい香りが紛れ込んだ。マミゾウさんが、容器の栓を開けていた。
「付き合わんか? 素面も赤面も、今のおぬしじゃ変わらんよ」
仏門の貴重な飲み仲間じゃ。どうせ潰れるなら酔い潰れい。気取らず明るく、誘いをかけられた。
私の意志は、情けない。
「一人よりは、酔っ払い二人。聞いちゃるぞ、酒の肴に。『あどばいす』をどうするかは、おぬし次第じゃ」
深みのある、化け狸の言葉に動かされた。半分泣きついていた。反則でもいい、喋りたい。縁の長い聖達には、とても明かせない。
宴会場は、本堂の屋根の上になった。半端な形の月が待っていた。
「おぬしのような考え馬鹿には、高いところと決まっておる」
涙用の手拭いと、冷えた大吟醸が振る舞われた。杯の表面に、たちまち水滴が浮かぶ。
すっきりとした味と、温度が沁みた。少しずつ、説明した。
マミゾウさんは、話し上手の聞き上手だ。私の独り語りを、相槌で展開してくれた。
「虎が自分から捕まりおった」
自縄自縛。自爆かの? 一通り呑み込んで、マミゾウさんはそう要約した。
「爆発してますか、私」
「盛大に。ぬえの喩えが傑作の正解じゃろうて。磁石のような似たもの同士」
「でしょうか。彼女は立派ですよ。私なんかについてきて、ずっと」
「どっちもどっち、仲良く小物。儂に言わせれば」
流水紋様の布地を、きつく握り締めていた。私はともかく、彼女は違う。侮辱されたくない。
怖い顔をするでない。のんびりゆったり、マミゾウさんは口を進めた。
「他でもない、ナズーリンが自称しておったではないか。小物と。おぬし、信じてやれんのか」
「私に合わせた謙遜でしょう。彼女は素晴らしいひとで、」
「じゃからおぬしは敗北感に、向こうは劣等感に嘆いた。『らしくない』と。称賛も過ぎれば毒、『真面目な』おぬしが何故解らない」
らしくない、真面目。ナズーリンの意見が、すぐに蘇った。
狭量を咎めておいて、私が。
「あの娘にも、後悔や挫折があろう。今は無いと書けても。言いなりになって、挫けた日があろう。皆そうじゃろう。ゆえに次こそはと頑張る、成長する。面白いの、生き物は」
欠けていた月が、再び満ちていくように。
もっと信じてみよう、読んでみよう。何度でも。正しいを正しい、おかしいをおかしいと言えるまで。本物になるまで。
「まぁあちらさんの問題は、苦手分野の、と?」
「マミゾウさん失礼します、やることができました」
それは、それは。眼鏡越しの瞳が、緩い弧を描いた。酒杯と手拭いを奪い、
「まだ『ひんと』は出せるぞ?」
「解答欄を覗くのは、ズルですから。ありがとうございます、先生」
「おったのう、そういう小学生。教師に化けて『めっ』しとった」
変化の尻尾が、手の代わりに振られた。
ああそうだ、マミゾウさんも外にいたのだった。ぬえに呼ばれるまでは。
下りる前に訊いてみた。貴方にも、後悔があるのですかと。
「うんと。なあに、酒を旨くする秘訣じゃ」
月夜を掬う杯は、揺れて輝いていた。
明けて、七夕。ナズーリンと、久々に対面した。
為すべきことに、黙々と打ち込んでから。裏庭の、笹飾りの下で落ち合った。
頭上には曇天。板敷きの縁に、並んで座った。
激論にはならなかった。私には火種が、彼女には元気がなかった。逃げないでと手を握っても、無反応。
やりたいように、やってみる。彼女が応えてくれなくても。数年間彼女と通じていた、
「拝啓。前略? ナズーリンへ。今月分の、私の言葉です。そのまま、聞いていてください。此方を向かなくてもいいです」
手紙のようにして。
「まず、お詫びをさせてください。私はこれまで、貴方を誤解していました。敬意を押し付けられる辛さは、知っていたはずなのに。貴方の劣等感を、軽んじていました。困った仮のご主人様です」
一拍。彼女の左手が、弱々しく丸まった。
「けどね、ナズーリン。私は敬意を抑えても、好意は捨てません。毎月、貴方の返事が楽しみでした。千年を費やすよりも、ずっと貴方に近かった。貴方らしさに近付けて、幸いだった」
だからどうか、
「好きや嫌いから逃げないでください。私を探す私を、真摯に助けてくれたように。貴方への好きを、素直に受け取ってください。貴方を嫌いな貴方とも、闘ってください」
睨むような、不器用な視線が来た。叫びたいのか、泣きたいのか、怒りたいのかは判別できない。
私と彼女は、お互いに壁を設けていた。会えないように、雨を降らせていた。
「私は戦いの神様として、財宝の神様として、貴方にまだまだ贈りたいものがある。だから、幻想郷で毘沙門天様を続けます」
「他人を理由にするなと、あれほど」
「他人を理由にするなと、貴方は軽蔑するでしょう。構いません。持ち上げられるより、落とされる方がいい。上って、追いつきます。それに、これが私の意志です。誰の言いなりでもない私です。貴方には責められない」
卑怯者。何百回と投げつけられた、批難を聞いた。いつの口調とも異なる、透明な響きだった。
「たまには、命蓮寺にも遊びに来てください。今すぐは難しくても、いつかは。また、沢山喧嘩をしましょう。不愉快な結末には、ならないはずです」
「どう、だか」
「少なくとも、私は貴方を」
好きでいますと、届いただろうか。彼女が、
「星、雨だ!」
大声で切り上げた。封殺したかったのではと、疑いたくなるタイミングで。
本当だった。右手に一滴、数えられたのはそこまで。無数の条に化けた。目の前が霞む。
「さ、笹仕舞わないと」
「後でいい、中に急げ! 一時の豪雨だ」
「でも皆の短冊が、ナズーリンまだ書いてないのに。私外して入れますから、」
「自分も大事にしろ馬鹿! そういうところが私は、ああもう放せご主人!」
雨風雪崩。避難しても今更な、濡れ虎と濡れ鼠の完成。彼女は観念したのか、笹を固定する紐を解いてくれた。それはもう不満そうに。夏雨が屋根を叩くように、私を詰っていた。いちいち心配をかけるな、君は面倒臭い、やりにくい、手がかかる、困惑する、私を庇うな、乾かせば戻る云々、
「頑張りますから、私は」
「頑張ってやる、私が」
二つの手の上で、同じ決意が重なった。不思議な偶然に、目を合わせた。
こんなに似ているのに、今は離れない。
彼女が笑った気がした。微かに、心底。
私達の大喧嘩の、最初の収穫。
「光る雨、ですね」
「夏だからね」
激しくて鮮やかな、忘れられないはじまりだった。
面白かったです。
貴方の書かれる星はいつもどこか不安定な感じがして愛しくてたまらなくなります。貴方の文章が私はとても好きです。
これからも応援しています。
綺麗な物語をありがとうございました!
口授を読んで以来「この設定を深山さんならどう活かすのかな」と思っていましたが、さすがですね。単純に支え合うわけではない二人の距離感、とても素晴らしかったです。
様々な、強さ弱さに叩かれ揉まれ、それでもなお、だからこそ、その先へと踏み出す、深山咲さんの「生き物」然とした人妖たちの物語は、読んでいてとても心が和ぎます。
どくを食らって食らわせて、ひとりはどくに参ってしまったが、ひとりはくすりに変えて糧とした。
どくすらも活かす強さ、憧れます。
基本的には、皿は食べないよう気をつけたいものです。
「頑張ってやる、私が」 で泣いてしまいました。
今後の二人の関係をニヤニヤしながら想像させてもらいます。
点数入れ忘れです。すみません。
短い文章なのに読む度に引き込まれる情動、吸い込まれるほど軽妙で、それでいて心の形が見える表現だなと、想いました。
つまり、素敵なのでした。
互いに不器用ながら思いやる気持ち、あるいは思いやるが為に不器用になってしまう気持ち、二人の距離感がとても良いですね。
タイトルの意味合いもさることながら、ラストの一文がとても爽やかで、心地よかったです。
内容も素晴らしく、余韻に浸れる作品です。
「自分の言葉」を見つける事はとても難しいけれど、手探りでも自分なりの答えを見つけた星に勇気づけられました。
本当に、「自分の言葉」を見つけるのは難しいです。もっとこの作品を読んで感じた事、伝えたい事は沢山あるはずなのですが。
>楽しめました
>面白かったです
ありがとうございます。好きに走って、振り回していませんように。
>タイトル
変に気取っていないかなと、心配していました。
真っ直ぐなコメントが有難いです。
>口授
>求聞口授の記述
主従で命蓮寺にいるものと、思い込んでいました。内容に衝撃を受け、もっと書いてみたいと燃えました。
設定を活かせていれば、何よりです。
>星ナズ
>二人の関係
>距離感
誰の視点でどのように見るかで、次々と関係が変化します。正解がないから、何度も想像したくなります。
上手に向き合えない二人も、同じ道を歩める二人も好きです。
>「生き物」然とした人妖たちの物語
一度、妖怪になってみたいなぁとも願います。人間の頭では、考え付かないことも沢山あるでしょうから。
でも、妖怪も「生き物」。先へ踏み出せる存在だったら、人として嬉しいです。
>想いを綴れる言葉が見つからない
>本当に、「自分の言葉」を見つけるのは難しい
とても幸せで、共感を覚えるお言葉です。
いつも、今も文章に詰まっています。ご感想をくださる皆様を、尊敬しています。
迷いながらも、自分なりの声を出していきたいです。
いやはや流石です。素晴らしい。只只感歎。
表現方法も、発想やセンスも、文章力や言葉選びも、そして何よりキャラクターに対する愛が溢れてて全てがステキでした。
完成された世界観だなぁと。あと、単純に文才がすごいなぁと。マミゾウさんの言葉が、とても穏やかに心に響きました。読後の余韻も穏やかで、いい作品読んだなぁって気持ちになれました。
書けなくなってしまっても不思議ではないかな、なんて、思ってたりもしたんですが、実際悩まれたのでしょうか。
この作品は、口授の設定さえもあなたの作品の雰囲気に馴染むのだと教えてくれました。ううむ、文通で交流させるとは。
ラストの雨がすごく綺麗です。晴れた夏の雨を、綺麗なものとして見るなんて考えは思いつきませんでした。
抑えた描写と愛情を持ってキャラクターを掘り下げるあなたの姿勢が好きです。
…いやまあ特に意味はないんだけどw
手紙にすると、なんとはなしに、素直になれる。
いい星ナズでした。
では、本当に個人の日記や手紙を読めば、ひきこまれるものがあるのかというと、最近『アミエルの日記』を読んでいますが、ちょっと違うんですよね。
逆に、お分かりいただけるかは不明ですが、「ノベルゲー」なんかは、スゴイ当事者性みたいなのを与えてくれる。
これはたぶん、プレイヤーが主体となって物語を読み解いていくということもありますが、回想という形をよくとるからではないか、と思います。
正確には、キャラクターへの愛着が高まったところに、回想を持ってくるから、ズンと来るのだと、思うわけです。
つまり何を言いたいかと言えば、手紙という形式に小説としての修辞や形式を適切に加えられており、それが二次創作という読み手のキャラクターへの愛着が強い場で用いられているから、効果は抜群でしたということです。
勉強になりました。
あの設定をこのように優しいお話にされるとは、これも驚きました。
ずっと先を走る貴方に憧れています。
元気と勇気をもらった気がします
短い文章ながら二人の葛藤に長所も短所も表れていて、人物描写に人間らしさと厚みがありました。近いと険悪で離れて初めて理解しあえた二人の関係にも非常に説得力を感じました。
好意や嫌悪感に情や劣等感など様々な感情が混ざった二人の微妙な関係性を文章だけで正確に描写できる技術もすばらしいです。
他作品も全て読んでいますが深山さんの作品は登場人物が皆優しく一生懸命なので好きです。他の人のコメントにもありましたがこういった深い内面描写中心の作品は深山さんにしか書けない作品だと思います。
多くは語れまい 文句無しに面白かったです
文章一つ一つの感性、美しさがたまりませんでした。この言葉のある日本人に生まれてよかった。
この作品を正しく評価出来るだけの言葉は私の力量では扱えませんので、点数で。
次回作を楽しみに待ってます