1/16
日が昇った。障子の向こうは空のにおいがする。
「うぅん……」
紫はのそのそと布団から這って抜け出し、左手に力をこめて障子を引いた。
「わあ、いいお天気。今日はおテニスでもしようかしら」
若々しいことを想像するだけで、体中に若さが漲ってくるように思えた。
「その後は藍にバナナジュースでも作ってもらおうかな、ヨーグルトと混ぜたやつ。ふふっ」
すみれのような可愛らしい笑みをこぼし、紫は障子を閉め布団の中へ戻っていった。壁には「貞淑」と書かれた掛け軸がぶら下がっている。満足してこのまま夕方まで二度寝するのが、八雲紫の神聖不可侵たる日課であったが、今日は事情が異なった。
枕元に据え付けられた通称「ゆかりんラジオ」が非常事態を通知したのである。これは通常のラジカセの機能のほかに、幻想郷で起こった重要な事件を速やかに紫に報告する仕組みがついているのだ。「も~なんでこんなことしなきゃいけないのよ」「めんどくさーい」などと霊夢の声が繰り返し流れるのだが、あくまでこれは録音である。
「やあねえ、何かしら」
三角印の再生ボタンをガチャっと押し異変が報告されると、にわかに表情が引き締まる。紫は立ち上がり、着けているものをを一気に脱ぎ捨てそして力強く微笑んだ。
2/16
「詳しい情況を聞かせてもらえるかしら?」
藍に下着をつけてもらいながら、紫は情報を確認する。藍がその口にチョコレートを放り込む。
「対象は現在時速200キロメートルで、なお加速しつつあります。曲率が一定値に近づきつつあり、正午前にほぼ周回軌道に達するものと考えられます」
「なるほどね、でも本当にそれは春告精で間違いないの?」
「はい。天狗が写真を撮りました。間違いなくリリーホワイトです」
「あの妖精にそれほど推力があるとは思えないのだけれど。どのくらいまで加速しそうなの?」
「現時点ではなんとも言えませんが、当分加速は続きそうです。何かしら神クラスの力の影響が考えられます」
「また山の上のやつらかしら」
「恐らくは。どうなさいます、紫さま」
紫はチョコレートを舐めながら若干思案する。そして下着姿のまま両手を腰にあて宣言する。
「今日は制服を着ます」
藍が目を見開く。
「それでは紫様、まさか……」
「ええ、私自身が総指揮をとります。司令室は博霊神社の居間。日本酒は300リットル、予備酒精として洋酒を100リットル。その他食糧は情況に応じて適宜補充。何か質問は?」
「いいえございません。完璧です。私はどこまでも紫さまについていきます」
藍の言葉はいかにも忠実なものだったが、その表情には何か諦めきった明るさがあった。
3/16
「迷惑な話よね。あなたが動くんだったら何もうちに来なくていいじゃない」
「かたいこと言わないの霊夢。お酒いっぱいあるわよ?」
「もちろん飲むけどさあ……。その格好はなんなのよ」
「かっこいいでしょう。軍服っていうのよ」
紫は霊夢の杯を満たし、自分の杯にも注いだ。同じく「軍服」に身を包んだ藍が机を移動して間取りを調節し、やはり「軍服」姿の橙が食糧を手際よく並べてゆく。
「でもリリーホワイトでしょ?ほっといても大丈夫な気がするんだけど」
「そうも行かないわ。無尽蔵の推進力を付与されているみたいなのよ」
「付与?誰が?」
「決まってるじゃない」
「また守屋ね。いつもろくな事をしないわ!」
「確かに現時点では暴走して飛び回っているだけだけど、音速を超えると衝撃波で地上に影響が出るわ」
「いつ音速に達するの?間に合うかしら」
「もうすぐよ。恐らく間に合わない。すでに山の妖怪が減速の努力をしたみたいだけど効果なし」
「で、酒を飲んでるだけで止まるのかしら」
霊夢は空になった杯を再び満たそうとする。その杯を紫が正面から奪い取る。
「あー!私のおさけー!」
「飲みすぎるま・え・に。あなたには主犯の連中を捕まえてほしいの。リリーは私たちにまかせて。あとあなたのお酒じゃないから勘違いしないでね」
「飲みたかったら働けというわけね」
「そういうこと。留守はちゃんと預かるから張り切って行ってらっしゃいな」
「留守中にわたしのお饅頭食べないでよね」
「食べないから安心しなさい。祝勝会の準備しておくわ」
霊夢はすっと立ち上がると、もう境内から外に飛び出していた。
「あ、あとわたしの服とか触らないでよ」
紫は無言で手を振った。
4/16
霊夢がいなくなった神社で、八雲の三人はひとしきり飲んだ。紫は酔ってくると藍にも杯を勧め、藍も日々不満がたまっていたのかいささか飲みすぎた。次に藍が橙に酒を勧め、赤面する橙を面白がって紫がさらに飲ませるものだから総じてぐでんぐでんの有様であった。
「そういえば紫さまー、みこは服にさわるなとか言ってましたねー」
「あー橙、そういえばそうだったなあ。紫さまはーなにか心当たりがあるんですか?」
「ふふっ、前にいちど着たことがあるのよ。内緒にしてたんだけどいい匂いでばれちゃったみたい」
藍はこれを聞き一気に酔いがさめてしまった。何か冷たいものが体を通り抜けたが、あえてそれを無視する形で真面目な話を切り出す。
「ところで紫さま、リリーホワイトの件はお忘れになっていないでしょうね」
「すでに手を打ってあるわ」
「さすが紫さま」
さもありなん。紫さまはどれほど奇矯な振る舞いを見せようとも最高の賢者であったな。藍はおのれの不明を静かに恥じた。
実のところ、紫はすっかりリリーの件を忘れていたのであった。しかし体面というものがあるので、そう正直に言うわけにいかない。誰かが何か対策しているだろうから、いくらでも誤魔化せるのである。
そこにタイミングよく藍の尻尾型通信機にふさふさと連絡がはいった。その隙に紫は密かに戦略的に必要な妖怪たちへ連絡した。
「紫さま、寺の連中が失敗しました。住職が時速7000キロで並走して封印を試みたようなのですが」
紫は無言でうなずいてみせる。
「彼女が失敗したのね。そろそろこちらも本気を出さなければならないかもしれないわ。橙、紅魔館へ行き、そこのメイドを借りてきなさい。これは本部からの通達だと伝えれば快諾してくれるはずよ」
本当に大丈夫かと藍は疑わないでもなかったが、無理難題をこなすのも橙にもいい経験だと考え特になにも言わなかった。橙を信じてみようではないか。
「はいっ任せてください少佐!飲み干してみせます!」
しかし橙はまだ酔っ払っていた。藍は心を鬼にして一張り頬をぶって目を覚まさせた。橙は泣きながら出かけてゆく。
5/16
「作戦を説明するわ」
紫は空になった酒瓶を足で転がしながら鷹揚に告げる。藍はひじきの煮物を鍋ごと持ってきて、二人ぶん盛り付けた。ひじきは外界依存なので貴重品だ。
「対象リリーホワイトは現在なお加速中。何か強い力が作用していて妨害や攻撃を受け付けない。このままでは打つ手はないわ。お箸ちょうだい。まず高速で移動中であるため、力の詳しい分析が不可能である点が問題。したがって足止めをすることが必要ね。これは紅魔館待ち。七味はどうしたの。ああ、あるじゃない。霊夢が早く連中をつかまえてきてくれればその必要もないけれど。さて次にその力をどう中和し、本体から分離させるかということが出てくる。これはまだ先の話ね。ちょっと、これ七味じゃなくて一味よ!」
紫は久しぶりに許せないことに遭遇してしまったと感じた。まさかあの藍が七味と一味を間違えるなどという愚行を犯すとは空恐ろしい気がした。
「でもここ七味無いんです。我慢してください」
藍は付き合ってられないとばかりにひじきを食べて続けている。
「いやよ。七味がないともう何もしないわ。作戦も中止。わたしは寝るからね。ばいばい」
紫はかつて見たこともない俊敏さで立ち上がり、霊夢の寝室にむかった。いそいそと布団を敷いている様子を音で想像しながら藍は「もう長くはないな」と独り言つ。
「頼んだぞ橙、お前だけが頼りだ」
藍は独りもそもそと、鍋いっぱいのひじきを食べ続けた。
6/16
橙がふにゅふにゅと急ぎ駆けつけた紅魔館であるが門前に誰もいない。近くの妖精に聞いたところによると今日は休みらしい。にわかに信じられず門前の受付で再び訊いてみると、「リリーホワイトの件で~紅美鈴せんせいは出張しております~」と妖精レセプショニストの回答が返ってきた。
「違うよ。そのホンという人には用事ないんだよ。危ないメイドのナイフの人間に用があるの!」
妖精はぽわんぽわわんと考えていたが、ああ、とこぶしで掌を打った。
「メイド長も今は~だいじな用で~おいそがしいそうですよ~」
「でもこっちの方が急用だって!」
「わたしにはわかりかねます~。きゃっ、いちど言ってみたかったんですこれ~」
「本部からの通達なんだよ!」
妖精レセプショニストは馬鹿にするようにフッと笑った。橙は泣きそうになった。藍さま、紫さま信じてます。信じてますけど橙は心が折れそうです。
そのとき館の階上のほうから何か騒がしい様子がもれてくる。
「咲夜シャワーやめなさい、消滅しちゃうじゃないか!きゃっきゃっ」
「あらー、お嬢様石鹸をちゃんと流さないとだーめですよ。ウフフ」
「湯船に入るもん!」
「じゃあ一緒に入りますよ。そーれ、えーい!」
水の音がする。嬌声が止まず聞こえてくる。水の音と笑い声と延々と。
「あれなに?」
「なんでしょうね~」
妖精は首をかしげる。
7/16
山頂の守屋神社は人気なく風がまだ冷たかった。霊夢は飛行速度をゆるめず進み、参道を一直線につっ切って境内に陰陽玉を投げ込んだ。慣性で陰陽玉は勢いよくぶち当たり、霊夢は上方に移動し衝突をさける。
数秒ののち「であえ、であえ」と人影が出てくるのだが、その数は一つだけである。
「なんであんた一人なのよ!神奈子と早苗はどうしたの!」
「あいつら仲良く遊んでるんだよ。わたしを仲間はずれにして!」
件の二人はリリーの様子をみるために下界に降りているのだが、諏訪子は大地に芽吹くいのちの蠢動に感動するあまり何も気づかなかったのである。最近諏訪子は麻を育てているのだ。発芽はまだ先かと思われたが、ここ数日地面が暖まったためかぽこぽこと姿をあらわし、諏訪子は何時間も飽きず眺め見守るのが日課になっていた。
霊夢はそんな諏訪子の趣味の話をいちおう聞いてはみたものの、いつまで経っても他の二人の話題につながらないので堪忍袋の緒が切れ、そこから嵐のような弾幕が飛び出した。
急襲に応戦する諏訪子もみごとなもので、接戦激戦が繰り広げられた。とうとう本殿の入り口と屋根が崩壊し妻が半分の長さになったころ、石段から頭をのぞかせたのは、高速リリーになすすべもなく一時帰還した神奈子と早苗であった。茫然、自失。
逆上した二人は責任の所在なぞ考えるも馬鹿らしいと思ったか、あるいは何も考えなかったか定かではないが、ともかく霊夢と諏訪子にありたけの弾幕をたたきつけ、単純に方向の問題から明らかなことであるが神社は完全に倒壊した。
廃墟と化した本殿を眺め、霊夢は自分がなにか大きな満足に浸されているのに気がついた。しかもそれは早苗も同じだった。彼女は達成感に餓えていたのである。巫女姿の二人は手を取り合い清冽な笑いをひびかせた。ぴーす、ぴーす。
「こんなアへ顔ダブルピース、外の世界の同人誌でも見たことないよ!!」
諏訪子の憤懣たるや、絶叫が表現豊かにそれを示していた。ちなみに麻の芽は全滅していた。
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「弾は一発でいい」
ふらりと博麗神社にやってきた魔理沙はそう呟いた。藍はとりあえず駆けつけ一杯とひじきの残りを勧めた。魔理沙は一杯どころか三杯も四杯も飲み干した後に言った。
「霊夢はどうしたんだよ。向こうでは見なかったぜ?あとその服装はどうしたんだ?」
「というとリリーホワイトの足止めに向かってたのか。やはり進展はなしか。ちなみにこれは軍服というものだよ」
「お前は何と戦ってるんだと突っ込まれるぞ?それで霊夢だよ。あとはお前の主人とか」
「巫女なら原因を探しに行ってるよ。紫さまは惜しくも亡くなられた」
藍は哀悼の念を示すため厳かに杯をあおり、魔理沙もそれにならった。
「原因なら話は聞いたぜ」
「なに?」
「また守屋だろ?いつもろくなことしないな。でも今回は誰のせいかといえば神奈子のせいらしいんだが、事情があるようだぜ」
「それで事情というのは聞いたのか」
「ああ。タケミカズチって神が幻想郷に興味持って、リリーの中に自分を降臨させてしまったらしい。神奈子はなんか力関係で弱いらしくて止められなかったんだそうだ。それにしても神奈子より強いのにまぬけだよな。妖精一匹ちゃんと操れずに暴走させるんだから」
「妖精は何も考えていないぶん、精密に律するのが難しいんだよ。そのタケミカズチは知らなかったんだろう。しかしそれでは巫女は無駄足だったか。で何が一発なんだ?」
「それか。いやあいつが一瞬でも止まれば一撃でしとめられると思うんだ。あいつの防御は長時間の攻撃に弱いらしい。ただ動いていると広射もすぐに効果を失ってしまうから困ってる」
「なるほど。それはいい情報を聞いた。私の尻尾レーダーにもすべての情報が入ってくるわけではないからな」
「その尻尾はアンテナだったのか。情報の内容が柔らかくなってしまいそうだな。で、できるか?」
「いま橙が紅魔館に協力を要請している。あそこには一人使える人物がいるからな」
「要請?橙じゃ無理だろ」
「無理じゃない」
「いいや無理だ」
「橙ならできる!」
不毛な言い合いがいつまでも続くので、飲み比べで決着つけようということになった。紫のことでいいかげん体に暗い澱が溜まっていた藍は、自ら急ぐようにぐいぐい呑んでゆき、それにつられた魔理沙もペースを上げ、わずかな後に両者とも人事不省に陥った。こうして博麗の統合指令本部は完全に沈黙するにいたったのである。
9/16
橙と妖精レセプショニストは真実を確かめるべく、伏魔殿の中枢への潜入をこころみることにした。 妖精はもちろん、主とメイドのいけない紅魔遊戯の証人となることを目的にしていた。紅魔という言葉はほうらこんなにいやらしかった。友達にそう自慢してやりたい年頃なのだ。
そして橙はえっちなことに潜在的な興味をもっていたのである。過保護な教育の反動がこんなところで出るとは、さすがの大数学者八雲藍ダウも予想しなかったことだろう。思えば歴史はしばしば情念によって予測を超えた結果を生み出してきたのである。そして今日歴史は動くのだろうか。
「バスルームからもう声はしないですね~」
「そうなの?なんだか騒がしい気配だけど」
「そういわれてみると~。なんでしょ?」
確かに声がするのだが、一人や二人ではなくもっと大勢のざわめきのようであった。レミリア居室の前、二階の回廊には人だかりが出来ていた。
「何が起こったの~」
妖精レセ以下略が妖精の一人に問う。その妖精はシッと指を唇の前に立てた。
「私が入浴していたとき、施錠した室内にあった我が下着が消失した」
いろいろなニュアンスのどよめきが生まれた。レミリアは続ける。
「下着は確かにベッドの上にあった。何者かが居室に侵入しこれを窃取したことは間違いない!」
犯人は誰か!悪魔の怒号を耳にし皆一様にすくみあがる。そこに怖じず口を開くものがあった。あろうことか橙だった。
「それってそこの人間のメイドが犯人なんじゃないの?」
周囲のどよめきは先ほどの比ではない。それが禁句であることは、誰の目にも明らかだったからだ。気まずい空気がいっこうに収まらない。
「咲夜。ああいう者がいるが?」
「心外ですね」
「何が心外だというんだ」
咲夜は勢いよく床にかかとを叩き付けた。革靴だったのでぺしっとしか音はしなかった。
「疑われたのが心外なのです。どうせなら犯人だと宣告して下さい。下着を奪うほどお嬢様に心酔しているというのであれば私も本望です。私は自分の立場に恥じることは行っておりません」
「その言やよし。ならば犯人は美鈴とする!なにしろアリバイがないからな!」
このすぐれた結末はみなに感動を与えた。ひとり不遇なのは紅美鈴であるが、「ふっ、これが運命を操る能力だ、にやり!」とはしゃぐ悪魔に口出しするものは誰もいなかった。
妖精レセは「これがカリスマの力なのです~」と叫んで頬を染めた。ここではこれが普通なのだ。紅魔館の奇怪な権力体系と精神構造をを目の当たりにして、橙は深刻な気分にならざるを得なかった。
「しかし」と橙はある考えが気にかかった。このレミリアという幼い悪魔はいま、下着を履いていないのではないだろうか。橙はその意味を熱心に考え込んだ。
10/16
守屋壊滅の後、かつて神殿を名残惜しげに見つつも三柱は、一からの出発を心に決め、さしあたって迫り来る脅威に備えることにした。
「話はまとまったかしら。じゃ、とりあえずうちの神社に行くわよ」
神奈子はその他三名を抱えこみ、博麗に以前つくった祠まで瞬☆間移動を行った。星マークはあくまで神奈子のさけんだ言葉を準拠にしている。どのような発音か説明することはむずかしいが、愛嬌のあるものであったことは確かだ。
四人の着いた先、博麗神社もまた崩壊していたが、それは建造物についてではなく、より一般的な事象を指すものであることは死屍累々の石畳を見れば明らかだった。
藍と魔理沙が酔いつぶれた後、紫に協力を要請されていた妖怪どもが、義侠心に駆られわんさか殺到したのである。しかし彼女らは目の前にでんとそびえる酒の山に耐えられなかった。300リットルの酒はもはや底をつこうとしていた。それほどまでに彼女らは飲み続けたのである。
霊夢は絶句した。庭は荒らされてしまったのだ。
このように自堕落に地べたで昏睡する多勢のなか、きちんと布団に収まりかわいく寝息をたてる谷間の百合が一輪あった。言うまでもなく紫である。
霊夢はこの惨状を引き起こした元凶を自室で発見した瞬間に、何か素敵で柔らかいものを殴りつけていた。自分でも何が起こったのかわからなかったが、ありのままに(以下略)の後、混乱を過ぎた霊夢が確認したのは紫が呻きながら口から(censored)/
11/16
日が高い。空は限りなく輝いている。
「うぅん……」
紫はのそのそと布団から這って抜け出し、左手に力をこめて障子を引いた。
「わあ、いいお天気。今日は妖精と鬼ごっこでもしようかしら」
若々しいことを想像するだけで、体中に若さが漲ってくるように思えた。
「その後は藍におすしでも作ってもらおうかな、卵焼きをのせたやつ。ふふっ」
ぺんぺんぐさのような可愛らしい笑みをこぼし、紫は障子を閉め布団の中へ戻っていった。
と思ったが、そもそも最初から布団なんてなかった。紫はその他妖怪とともに石畳に転がっていたのである。しかも縄つきと比較的優雅な待遇だった。ささやかながら部屋に(censored)された霊夢の仕返しということになる。布団はなんとか無事だった。
「お目覚めのようね」
「ゆかりん何がなんだか……」
咄嗟のことにショックを受けた紫の心は退行しつつあった。その心のひだを鷲づかみにして振り向かせるのは霊夢の一言だった。
「あなたを信用したわたしが馬鹿だったわ」
紫の瞳に光が戻る。霊夢に仕事をさせておいて、自分は何をやっていたか。七味がないことに我を忘れ寝入ってしまうとは、なんと浅ましき愚挙だろうか。賢者はついに復活したのだ。何重にも巻かれた縄が一度に消え去った。
「私だって毎日酒飲んで昼寝できたらそれがいいわよ!」
「ごめんね、霊夢。気づいてあげられなくて。あなたも飲みたかったんだものね。お仕事ごくろうさま。疲れたでしょう?」
紫は慈愛にみちた声で霊夢をなだめる。霊夢の脇明け装束のかげに手を伸ばし、そこから秘蔵の大吟醸を取り出した。
「ちょっとやめて、よくすぐったいじゃない……」
「ふふっ、かわいいわね。ほら、ついであげる」
「いいわよ!自分で勝手に飲むからその瓶よこしなさいって!」
一升瓶に手を伸ばしてつかもうとする霊夢の体がバランスを崩した。紫は両腕でやさしく抱きとめ、顔をあげた霊夢と視線が合う。紫の微笑みに出会って霊夢の面が羞恥に染まった。
その頃リリーは爆走し続けていた。音速どころか秒速25万キロを越え、大気と地表への衝撃が軽視できないほどになり、重力の影響も考慮せねばならないほどになっていた。そろそろ幻想郷がやばい。ゆかりんラジオは鳴りっぱなしである。もちろん霊夢の声で。
12/16
橙が博麗に戻った。そして報告を聞いた一堂は言葉をなくした。霊夢と紫がぷんぷんいちゃいちゃ飲酒している間に藍と魔理沙はもう目覚めていた。守屋勢は作戦会議をすると言い、洋酒を数本持って庭へと出て行ったままだった。藍はひじき鍋三つの調理を終えひとり静かに賞味していたのだが、この瞬間は驚愕のため顔面蒼白となり箸を落とした。
「橙、それは本当なのか?」
「はい。紅魔館では主人とメイドは一緒に風呂に入っています」
「そして恐らくはそのメイドが下着を盗んだ」
「はい」
「レミリア・スカーレットは下着を履いていなかった」
「はい。もうどうしたらいいのかわからなくて……」
泣き出す橙を藍の抱擁が受け止めた。紫が意味ありげに霊夢を一瞥したが、巫女は目をそらした。
「やっぱりだめだったな」
魔理沙は茶々を入れるが、藍の厳しい眼差しに会って押し黙る。藍は純情という言葉の体現を目の当たりにして激しく感動していたのである。
「橙、お前は悪くないよ。なんてことないんだ。吸血鬼が下着を履いていないことなんて、なんの意味もないよ。ほら蝙蝠なんて全裸なのが普通なんだ。考える必要ない。そうだ、一度うちでも一緒に風呂に入って、みんなで下着を履かないで日々過ごしてみようじゃないか。なんでもないことがわかるよ」
藍のやさしい言葉に橙は頬をすり寄せた。
「つまり万事休すというわけね」
紫が余裕たっぷりにそう言うやいなや空気が殺気立った。
「あんた馬鹿でしょ。やっぱり私が行くわ」
「落ち着きなさい。大丈夫。わが軍は圧倒的優位にあるわ」
酔いが回ってきたのかふらふらと立ち上がろうとする霊夢の肩を紫がよろよろと押さえつけた。霊夢は両手を振り回してその手をはねのけるが、その勢いで転んでしまった。目を回した霊夢を紫の膝が受け入れる。
「予備兵力を投入する。洋酒を出しなさい!あと里香を呼びなさい!」
紫の凛とした指令が響き渡る。服従に歓びを覚えるような、発音そのものに価値のある声。藍は急に背筋がかたくまっすぐになるのに気が付いたが、心情は霊夢の服を着ているとコンフェスされたときと真逆だった。
藍は急いで尻尾からびびびと電波を飛ばし、いづこかにいる里香へ連絡をとった。
その瞬間、神社の物置が爆発した。里香はすぐそこに居たのである。一同が驚きそちらを見やると「何か大きなもの」の気配がした。煙が晴れてくる。
鬼戦車T-34。居住性の悪さからソビエト戦車兵に恐れられたソビエトの伝説の装甲車である。モスクワに哀悼をささげよ。お燐ちゃんが超絶美少女に大変身するときのサウンドエフェクトとともに、T-34が冷徹で厳めしいその偉容を現した。
13/16
「まず足止めする方法を伝えます。まず限定された空間を二つ用意する。そこへ対象を誘導し、二つの空間を往復させるの。空間を限りなく小さくすれば静止させるのと変わらなくなるわ」
「足止めした後はあのごついやつで攻めるのか?通常攻撃が通用するとは思えないんだが」
「大丈夫よ。より強力な力で対象のフィールドを中和するから。あれは本当に鬼戦車なのよ」
「ははあん。なるほどな。そういや酔死者の中に姿がなかったな」
魔理沙は得心した様子だった。紫、里香、そして伊吹萃香。エキストラ級がこれだけ頭数を揃えればもしかしてと思わざるをえない。そして驚くべきことに、全員名前に「か」が入っている。
「うぅ……。あたまがいたい。きもちわるい」
と、そこで唐突に美鈴が目を覚ました。美鈴は紅魔館の代表としてリリー討伐ミッションに参加する予定だったのだが、なにしろどこにいるのかどうすればいいのかさっぱりわからなかったので、闇雲に辺りをうろついていたのであった。酒瓶を片手に。すると神社から妖怪たちの騒ぎ声が聞こえてきて、そして酒の香りがした。美鈴は「私が来たからには、もー大丈夫ですよ!」と叫び、その場へ勇ましく飛び込んだ。美鈴は使命を忘れ、目的を忘れ、自分が誰であるかなぜ生きているのか一切を忘却し去り、本能のままに飲み続けたのである。それがこの結果だった。
「あきらかな不要人員ね。橙、紅魔館へもう一度行って、引き取りに来るように言ってもらえないかしら」
しぶる橙に対して、藍はシェリーをいくらか飲ませ元気付け、その尻をたたいて送り出した。尻尾が風になびく。
14/16
「わたしはもう何もしないわ。ねむいし、絶対に働かないんだから!」
霊夢ははじめ洋酒を機嫌よく飲んでいたのだが、紫があまり優しくするのでかえって拗ねてしまったのである。部屋へ引きこもろうと企む霊夢に対し、「あなたはここにいなさい」と紫の指示があり、「それならここで寝る」と霊夢は布団を持ち出して、今はその中から喋っている。
「あなたはこの居間を死守してくれればいいわ。攻めるのは私たちに任せてね」
「私は攻めて攻めて攻めまくればいいんだよね。そんなのらくちんらくちん」
一同の視線が里香に集まった。里香を知るものは紫の他は霊夢だけだったが、その霊夢もいまひとつ記憶が曖昧で、結局「あんたのことは知らない」と言ってしまった。里香はひどく落胆したようで、過剰に自分の存在をアピールしたがっているのだ。
「肝心のリリーはどこにいるんだよ」
「いまから私が強制的に神社の前まで連れて来るのよ」
「それからどうするんだ?」
「さっき言ったように、そこで空間ごと固定。それから私と伊吹が敵さんの防御フィールドを中和。そこであなたと里香が集中攻撃。その後は……」
「その後は私と早苗に任せて欲しい。建御雷をこっちで再召喚すればいい。現在では奴さんも妖精からどうやって抜ければいいのかわからなくてもがいてる筈だが、そのリリーという妖精を昏倒させてしまえば自然と抜け出ることが可能になるだろう」
作戦会議とやらを行っていた神奈子がやって来て紫の言葉を引き継いだ。慣れない酒を飲みすぎたのか顔が真っ赤だった。
「もう一人はどうするんだよ。今回はサボりか?」
「あいつは今はだめだ。育てていた植物がだめになってご傷心なんだよ」
庭を見ると話の諏訪子が目を覚ました妖怪やら妖精やらに真剣に自分の悲しみを力説していた。どれほど「外の世界の同人誌でも見たことのないアへ顔ダブルピース」だったかを、何度もくり返し語り続けている。こちらも多少飲みすぎのきらいがある
「ねえ紫。アへ顔って、なに?」
「霊夢は知らなくていいのよ」
紫は恥ずかしそうに頬を染めた。
15/16
「どう、できた?そろそろはじめるってよ」
里香がT-34の上部ハッチから車内に入ってきた。萃香は光速に近づいて形成される重力場を無視してリリーに接近できるように、戦車そのものを改造していたのである。主砲も神の防御を突破できるほどの威力がなくてはだめだ。けた外れの鬼としても骨の折れる作業だった。
「ああ、もう完成だよ。いけるさ」
「あたしの作った戦車なんだから大事にしてよね」
「人間ふぜいが生意気だねえ。でもこれはいい乗り物だと思うよ。わたしは気に入った」
「ふふん。戦車のよさがわかるなんて見所があるじゃない」
萃香のほうでも里香を認めていた。誰に見向きもされなくても、最高のものを作り上げようとするその孤独な魂。それがいかにも美しく尊いものに感じられたのである。二人とも飄々としているがどこか真面目なところもあり、何か通じ合うものがあったのかもしれない。ただカップリングとしては略称が作りづらいのが難点だろう。りかすい。すいりか。すいかりか。どれもぴんとこない。むしろ特徴だけとりだして鬼戦車とすべきなのか。しかし、これは本題ではない。
作戦が始まろうとしている。萃香は黙って瓢箪を差し出し、里香がその強すぎる酒をぐいと飲み、口の周りを油っぽい手でぬぐった。萃香は友達ができたと感じた。
「さあ敵さんを持ってくるわよ」
戦車内に紫の声が流れる。
「はいよ。やってくんな。なあ里香、こういうとき兵卒はなんて言うんだい?」
「いくです!」
「それはどうかと思うけどねえ。まあよし。じゃ、いくです!」
戦車が動き出した。博麗の庭に隙間が発生している。そこから黒いものが現れ出る。
「リリーホワイトがもうホワイトじゃないぞ!?」
魔理沙が驚愕の叫びをあげた。黒リリーを見たことがないわけではなかったが、それにしてもこれではリリーと識別できないほどに重々しい。神威がそこに宿っていた。
紫は思い当たることがあった。時の流れの中で白は黒に、黒は白にしばしば転じるものなのだ。白いチョコレートは黒くなり、黒いメーテルが白くなる。そういえば藍が口に入れてくれたチョコはたしかに白いあれのブラックだった。いつか閻魔に食べさせてやらなければならない。
「戦車発進よ。すぐに重力場の中和を行うわ」
「あいよ任せときな」
藍の尻尾から萃香の声が聞こえる。戦車の主砲が火を噴く。真っ黒な砲丸がゆっくりとリリーに向かい、周囲の歪みに触れてはげしく発光した。轟音があたりを包む。
「反重力場と重力場の相殺を確認。さて、魔法使いにもお仕事をあげるわ」
「くれるものは貰うぜ」
魔理沙が勢いよく居間から飛び出した。酒のせいで多少ふらついてはいるが、なんとかお得意のレーザーを投射した。
「威力が足りてないわよ。次、藍行きなさい!」
紫さまは途方もなく久しぶりの「賢者モード」だ。なんという統率力!なんと勇ましくうるわしい姿!見たことのないほどの典雅にあふれていらっしゃる。藍は泣いた。
そのころ橙は紅魔館で美鈴の引き取りを要請していた。先ほどは動揺してしまって用件を言うことさえできなかったが、今度はあまりにも正当な要求であるからには一歩もたじろがない。咲夜ははじめ「うちにはそんな名前の妖怪はいない」としらばっくれていたが、先ほど館主が美鈴を犯人とみなすなどと言っていた事実を持ち出すとそういうわけにも行かず、咲夜本人が橙と一緒に行くことになった。思いがけずメイドを連れてゆく使命を果たすことができて、橙はうれしかった。美鈴に感謝しないとね!
16/16
紫の指揮は激しくも優雅だった。巧妙に防御の隙をつくり、そこに兵力を次々に投入してゆく。しかし問題は、手ごまの妖怪たちはすでに酔っ払っていて使い物にならないという点だった。目が覚めては突入してゆくのだが、足腰もふらふらしたままでタケミカズチの暴走した雷撃に耐えうるはずもなく、一撃も与えずにまた昏倒するという有様だった。時間稼ぎにはなるのだが、いまひとつ持久力がない。これでは決定的な隙を作ることが出来ないではないか。それでも紫とT-34の奮闘はすさまじいもので、度重なる失敗にもまったくひるまず、タケミカズチとリリーの混合である目前の敵から一度たりとも目を逸らさなかった。
そんなとき、唐突に一人の少女が現れた。
「お取り込み中のようですね」
十六夜、咲夜。泥酔してお荷物と化した門番を引き取りに来たのである。紫は瞠目した。もっと早く来ればいいものを!しかしそんなことは口に出さない。世界を救うためには、余裕が大切なのだ。そしてあとは少々の酒が。
「いらっしゃい。いまちょっとごたごたしていて申し訳ないですわ。紅魔館の主好みのいいお酒が手に入ったのだけど、こんなに慌しくてはご用意できないわね。少しお手伝いしていただけるかしら?」
「お酒は館に十分にありますけれど、こんな情況ではうちの者を引き取るのにも面倒ね」
咲夜は踵を返して集中砲火に晒されているリリーに接近する。美鈴が顔をあげて「あ、咲夜さんだ。遊びにきたのかな?」と首をかしげている。
ぼろぼろになった戦車が果敢に攻撃を繰り返している。相手がまだ加速中なのが問題だった。光速の99.99%を越えて重力に逆らうだけで精一杯だ。萃香はT-34が吸い込まれないように踏みとどまるだけに力のほとんどを用いている。里香の反重力砲撃は苛烈だが、リリー=タケミカズチは電場と磁場を発生させて弾幕の直撃を防御している。
咲夜はナイフを投擲する。大量の電子が殺到しナイフは爆発する。しかし電場が一気に乱れた。
「今よ、戦車全力前進。総力をもって敵を討滅せよ!斉射の後に時間停止で道を開け!」
しかしそのとき球電が亜光速で紫のほうに飛んでくる。紫は一瞬しまったという顔をするがもう遅い。防ぐ暇もなくボールライトニングが紫に直撃し、すべてを真っ黒に焼けつくした。誰もがそのように思った。
「えっ……?」
紫が目を開けると目の前に霊夢が大幣に大量の電気を集め、飛来する電気球体を防いでいた。霊夢は布団の中で半ば夢見のうちに建御雷と接触し、彼女を部分的に大幣に依らせたのであった。そこに集まる電荷は本人のもとへ戻ってゆく。しかし大幣は発熱し、霊夢の手はがくがくと震えている。
紫は愕然とした。この子はなんて子なんだろう。紫は何の益もないと知りながら、大幣に手を添える。熱はまだしも、神聖な力が妖怪としてのその身その掌を苛む。霊夢が睨み付ける。紫は微笑んだ。そして叫ぶ。
斉射!!(紫左カットイン)
斉射!!(紫右カットイン)
斉射!!(紫正面カットイン)
戦闘で傷ついた藍は部屋の中でその光景を見た。不撓にして不屈。重厚にして一退を知らず。鬼戦車とはまさにこのお方のことであったか。藍は力尽き弾幕も出なかったが、その代わり空になったひじきの鍋を橙に渡して三つ続けて投げさせる。魔理沙は地べたにうつ伏せになっていたが、その瞬間右手だけをよろよろと上にかざし、極細だがそのぶん凝縮したマスタースパークを放つ。神奈子と早苗がタケミカズチを封じる霊具(炊飯器)の準備を整え息をのむ。美鈴が叫ぶ「そろそろ私の出番ですかね!」
命中の瞬間、時が止まった。静止した時間の中、咲夜は重力場と電磁場を無視し、防御の核と思われる場所にありたけのナイフを突き刺した。そして再び時が始まる。
爆音と衝撃が世界を揺さぶった。敵の黒いフィールドは晴れ、そこには白熱するリリーホワイトの静止する姿がはっきりと視認された。しかしそこに傷は見られない。防御フィールドを撃破しただけで本体にはダメージを与えられなかったのか。リリー=タケミカズチはさらにまばゆく発光し、大量の電荷が放射された。咲夜とT-34が危ない。しかし紫の心配は当たらなかった。なぜか鍋が三つ飛んできて、そこにすべての電荷は集中したのである。鍋が二つばらばらに弾けとんだ。霊夢が絶望の表情を浮かべる。鍋は霊夢のものだった。
そして戦車の砲台が再び動く。
「まだまだやれます!」里香の声と主砲の発射音が響き渡る。
そのとき咲夜が悲鳴をあげた。壊れかかった三つ目の鍋が電荷を含んだまま、咲夜のほうに飛んできたのである。咲夜は力を使い果たし落ちかかる空中でなす術がなかった。そこに紅い影が割り込み、左手で咲夜を抱きかかえ、右手のこぶしを鍋に叩き付けた。まさかのときに紅美鈴。
「美鈴、あなた電気は大丈夫なの!?」
「ふっこれが気を操る程度の能力です!」
橙はこのどや顔を見て、まさに紅魔館だなあと感慨深かった。
T-34の最後の砲弾がリリー本体に直撃する。激しい衝撃波が生まれる。そしてリリーはがっくりと崩れ落ち隙間に引っかかる。すぐさま早苗が何か唱え、リリーから光の塊が霊具(炊飯器)に吸い込まれてゆき、神奈子がそれを力ずくで押さえ込んだ。霊具(炊飯器)が静かになる。
まだ冷めぬ熱気と風圧の中、美鈴が咲夜を抱えゆっくりと降りてくる。そのとき、咲夜の胸元から滑り落ちた純白三角の布が風のままに空を飛ぶ。どこからともなく現れた妖精たちが宙を舞いそれに群がる。至福の時代――
epi/16
霊夢ががっくりと紫のほうに倒れ掛かった。
「ありがとう霊夢。約束通り守ってくれたのね」
「神社をね。私は博麗の巫女だから異変は解決しなくちゃいけないの。その過程で妖怪の安全に寄するところがあっても仕方ないことだわ。必要悪ってやつね」
「よくできました。それじゃあ動けない巫女は役立たずなので食べちゃおうかしら?」
「離しなさいよ!こんなとこで寝られないわ!わたしは部屋に帰る!」
紫は霊夢を背中に負って布団のところへ連れて行った。降ろそうとしたとき、紫は霊夢がもう眠っているのに気が付いた。「お疲れさま」と小さく呟き、霊夢をそっと横たえ布団をかけた。神が去って元通りのリリーホワイトが「春ですよ~」とのんきに騒いでいる。
紫が橙を相手に杯を傾けていると、今回あまり激しいことをせず元気な守屋組がやってきた。早苗が「軍服」を見て言う。
「それにしてもその服懐かしいなあ。制服なんて見るの久しぶりです!」
「こっちではこれが戦闘スタイルなんだね。早苗も引っ張り出して着てみたらいいんじゃないか」
「え~?じゃあ神奈子さまも一緒に着ましょうよ!予備ありますよ!」
「いや私はちょっと……」
美鈴は妖精が遊んでいた三角形の布が咲夜のものだろうと見当をつけ、さっさと奪い返して大切に手元に保管していた。咲夜も疲れて少し休んだため返しそびれ、レミリアの前でふいに懐から取り出して美鈴犯人説を裏付ける結果になるのだが、これはまた後の話である。
戦車のキャタピラにもたれ掛かり、里香と萃香は午睡を楽しんだ。まだ日は高かった。二人はときどき目が覚めると瓢箪から少し酒を飲み、また目を閉じるのだった。
おわり
まさかのときのスペイン宗教裁判だ!
時に、作中における軍服とは本当に軍隊制式服であったのか疑問が残る。
取り敢えず電荷の単位はボルトじゃないです
裁判ネタもどこかでやりたいですね。誤字を少し修正しました。ありがとうございます。随時直していきます。
>>揚げ様
ありがとうございます。そこはナイショです。
>>奇声様
コメントありがとうございます。励みになります。
>>6様
どこにもセーラー服とは明記されてはおりません(キリッ。
>>8様
感謝です。
>>10様
仕様です……と思ったらそこはあまりにもひどいので別の表現にしました。指摘ありがとうございます。電気は気の一種らしいです。
どんなコメントすればいいかわからねぇもんw 貰ってください 私の百点
すごいんだか効率が悪いんだか、とにかく幻想郷的ですね
鬼戦車ことT-34がリリーホワイトに撃ち込んだのが76.2mm砲なのか85mm砲なのかは気になるところですが
ありがとうございます。でもなんだかむずむずします。とてもむずむずです。
>>14様
効率は悪いです。全てはゆかりんが暇なのが悪いのだという教訓があるようです。
無線が入っているので確率的にはT-34/85ではないでしょうか。ただ76のインチキ臭い初期生産タイプが元になっているという設定が捨て切れません。
酒くさいし百合だしカオスだし変態だし凄いし強いしなんだかんだで異変解決するし、東方二次創作をごった煮にした
the・東方二次創作って感じですw。(めちゃくちゃな日本語ですみませんw。)
ハチャメチャしながら、めちゃくちゃな異変を解決してしまう彼女達は、やはりヒーローなんなんでしょうか?
とにかく自分的にはベスト東方二次創作って感じです。