ある昼下がりのこと、私こと射命丸文はニヤニヤしながら家にいた。なぜなら今回も新聞大会で一位をとったからだ。他の天狗達が面白いと思いそうな話をネタにし、それにあることないことを加えて新聞にしていく。そんなの新聞では無い、と言う人もいるだろう。確かにその通りだが、天狗はこういうゴシップ系というか、あることないことぐちゃぐちゃに書き、面白おかしく記事を書いていったほうが人気はあるのだ。それに天狗社会ではこの新聞大会の順位によって社会的地位が決まってくると言っても過言ではない。ここで人気が取れないと、こき使われたり、色々な無茶な命令が来たり、そのほか色々な場所で馬鹿にされたりする。逆にどんな内容でも順位が取れてしまえばこの世界では勝利なのだ。だから私はそんな新聞を書いていく。そしてそのデタラメ新聞を書くのがもっともうまいのが、先ほども言ったとおり私こと射命丸文なのだ。
「さてと、次のネタは何にしようかなっと」
ペンをくるくると回しながらぼうっと考える。最近はいろんな人の色恋沙汰について食い荒らしてきた感がある。二人の巫女の蜜月から、黒白魔法使の取り合い。はては、偉大な僧の禁欲からの解放や、地底の姉妹と獣達の絡みなど。もちろんほとんどが嘘だったり、話を盛って書きましたけどね。実際の幻想郷ではそのようなことは多分起きていないはずなので、あしからず。
「最近は少しネタの傾向が同じになってきていますからここらへんで心機一転また違う傾向のネタでも探しますか!」
しかし言うのはいいがどうしよう。天狗が興味あるものといえば人の根も葉もない噂や恋愛、または小さい子供などしか簡単に思いつきやしない。
ん?小さい子供?
「これだ!」
思わずあの最近出てきた山彦もびっくりするくらいの大きい声を出してしまった。そうだこの手があったか。子供達の無邪気に遊んでいる様子、愛くるしい表情、その他諸々を基礎として新聞を作れば結構いけるんじゃないか、この考えの素晴らしさに思わずニヤニヤしてしまう私。
いや、しかし落ち着け私。そんなことをして誰かに通報されてみろ。そんなことをされたら今までに頑張ってようやくたどり着いたこの地位を捨てることと同義だぞ。そしてその後の人生は変態ロリコンとか付けられたくもない二つ名を付けられ皆から白い目でみられてしまう。それはいやだ。だがこの考えもあきらめたくない。
「なんとか合法的にロリを撮る方法はないものか……。」
私は考え続けた。親に許可を取る、いや天狗なんかに許可をくれるはずは無い。里の守護者に頼み込む、これもだめだろう。速攻ボコられる。博麗の巫女に金を積んで依頼する、やってくれるかもしれないが速攻で巫女が金を持ってとんずらしそうなので信頼できない。うーんうーんとうめき声をあげながらあれやこれを考え続けたが思いつかない。
夕方位になっても何も思いつかず、もはや何も考えず近くにあった写真の束を見ていた。要は考えるのに疲れたのである。一種の現実逃避である。そしてそれをぼんやりと見続けていたら一枚の写真が目にとまった。それは氷の妖精ことチルノの写真であった。小っちゃい子だなとか思っていたらふっとひらめいた。
「そうか、この手があったか!」
またもや大声を上げてしまった。だがそんなことはどうでもいい。チルノならば見た目はまぁ何とかロリな感じであり、バカだから可愛いというところもある。そして何より取材が容易できる、というのが一番のポイントだ。チルノが一人遊びをしている時を狙って喜びそうなものをあげる。きっとこれだけで取材ができる気がする。まぁ、傍からみたら危ない人に見えそうだけど。
だが、そんなことは気にしない。記事が書ければそれで問題ない。善は急げ、ということでさっと立ち上がり、扉を開け、外に出たがあたりはもう暗くなっていた。さすがに今から行ってもいい取材ができない。このはやる気持ちを抑えるのは苦労しそうだが取材をするのは明日まで我慢しよう。
翌日、いつもよりも少し早く起き身支度を整え、家を出た途中で安い箱売りのアイスキャンディーをかった。チルノが喜びそうな、もとい取材料金替わりでだ。きっとこれでなんとかなるだろう、多分。
その後、あっという間に湖に到着。チルノはいないかとあたりを見たらさっそく見つけた。しかも一人。これはチャンス、さっさとチルノに話しかけなければ。
「おはようございます、チルノさん」
「文じゃん、おはよう」
よしまずつかみはオッケー。さてどうやって取材の話に持っていこうかと考えていたらチルノの方から話しかけられた。
「なんで文ここにきたの?」
いい質問ですね、と言いたくなるような質問。すかさず私は
「いや、ちょっとチルノさんの用事がありまして」
「用って何?」
よし来た。このタイミングでかますしかない。
「いや、実をいうと今度、チルノさんについての特集をやろうと思っていましてですね、今回はその取材のために来たのですよ。だから今日一日取材させてもらってもよろしいでしょうか?もちろんタダとは言いません。取材料金としてチルノさんにはこれを渡しますよ」
そういって私はさっき買ったアイスキャンディーを見せた。さあ、食いついてこい!
「え!アイスくれるの!」
ヒット!これは取材してもいいよという意味でとって間違いないだろう。
「はい今日一日取材させてくれるのなら全部あげますよ」
「本当!?文ありがとう!」
すごくいい笑顔を向けてきたので、すかさず一枚反射的にとってしまった。チルノは少しビックリしていたがしょうがない、これは記者の性だ。
「いきなりごめんね。だけど今日一日はこういうことが結構あると思うから気にしないでね」
「わかったー」
いい返事だ。よしこれはいい記事が書けそうだ、と興奮していたら
「ねえ文、どんなことを取材するの?」
確かにそれは言わないといけないな、と思い
「チルノの毎日の生活、毎日している遊びなどを中心に取材していこうと思います」
「えぇーそうなの?」
少し不満な声が上がった。もしかしてやっちまったのか?
「あたいはもっとこう、あたいの弾幕のカッコよさとかそういうことについての取材かと思ったのに~」
なるほど、そういうことですか。なら話は早い。
「そのことを踏まえた上で今日の取材ですよ。そういうチルノの弾幕の強さとか、カッコよさはどこから来ているのかと私は思ったのですよ。それで悩んだ結果、もしかしたら私たちと生活のしかたが違うのではないかと思ったのです。そう思ったからこそチルノの日常の取材ですよ。」
「なんだ、そういうことだったのね。あたいみたいに皆強くなりたいからあたいの生活をまねしたいのね。やっぱりあたいってば最強ね!」
「はい、そういうことです。」
こんな嘘にのってくれるとは、妖精はバカで可愛いな。
「ということで、取材は受けてくれますよね?」
「もちろん!」
よしきた、これで堂々とカメラでチルノを撮れる。
「じゃあまずはアイスを前払いということで渡しますね」
「やったー!」
「あともう一度確認で言いますが本当にいつも通りのチルノさんの生活でいいですからね。変にカッコつけたり見栄はったりして違う風にしていると、チルノさんの強さの理由が分からなくなってしまいますから」
「はーい」
もうすでにアイスをたべ始めている。その姿も可愛かったので私はまた無意識のうちにシャッターを切っていた。無意識で撮ってしまうとは、私の記者魂はなかなかのものだ。そんな風に自画自賛してたら、チルノはいつのまにか箱一つ分のアイスを全部を食べてしまっていた。さすが氷の妖精の名は伊達じゃない、と思っていたら、
「さて、今日もアレをして遊ぼう」
そう言って彼女は何故か妖怪の山の方へと飛んで行った。まさか天狗の領土に侵入するのか?と思い少し注意したがそんなことは杞憂で山の麓で地に降りて歩き始めた。こんな所で何して遊ぶのかな、と思い、
「チルノ、ここで何して遊ぶの?」
と私は質問した。
「あと少ししたら分かるよ」
そう返事がきた。なるほど、この奥にチルノの秘密の遊び場みたいなのがあるのか。綺麗な泉とか、美しい花畑とかそういうのかな、と私は夢想していたら、
「文、着いたよ!」
とチルノの声が聞こえた。さてどんないい場所かな、と周りを見たらなんてことない木や草が生えている普通の山の麓。あれ?想像と違うぞ。
「ここで何して遊ぶの?」
私はここまできて、まさか土遊びじゃないよな、と思いながらチルノに質問した。
「これで遊ぶの!」
チルノは何かを指さした。私はチルノの指した方をよくみたらそこには大人が十人くらい抱き合ったものより少し大きい岩があった。え?ちょっとまって、そんな岩を指さされても分からない。私の理解力が乏しいのでは無く、きっと他の天狗でも分からない。
「その岩で何して遊ぶの?」
「文バカなの?岩と言ったらあれしかないじゃん!」
なんか一瞬物凄くイラッとした。分かるわけあるかチキショー。
「いや……あれと言われても分かりませんよ……チルノさん教えてください」
私は言った。ものすごく悔しいが言った。そしたらチルノは急に得意げな顔をして嬉しそうに言った。もしかしたら教えてと言われたのが気持ち良かったのかもしれない。
「簡単よ!あたいが作った氷でこの岩を叩くのよ!」
それ、遊びかよ!物凄く大声で言いたかったが我慢して
「なるほど、流石チルノさん、面白い遊びをしますね!」
とりあえず褒めておいた。記者たるもの相手の機嫌を損なわないようにするのは当然だ。ここで変に反論し、相手が取材拒否をしてきたら、元も子もないしね。
「やっぱりそう思う?この遊びをしてるあたいってば最強ね!」
ちょっと意味が分からないがチルノが楽しそうでなによりだ。
「じゃあ、チルノさん。私のことは気にせず遊んでいてください。途中でカメラのシャッターの音が聞こえても無視して構いません」
「分かったー!」
そう言ってチルノは氷の塊を作りそれで岩を叩きはじめた。これって絵になるのか?私は一抹の不安を感じた。
チルノが自作の氷塊で岩を叩く遊びに入ってから数十分たった。チルノが使っている氷塊は何度も砕け、そのたびに新しい氷塊を作る。この作業が何度も繰り返されており、もはや今チルノが使っている氷塊は何代目なのか、もう分からない。何がここまでチルノに岩を叩く、という行動に駆り立てるのかはっきりと分からないが、まぁ私も子供の頃は川に石を投げ続けこの川を埋め立てる。という馬鹿で無駄なことをしたことがあったし、地球の真ん中に行きたいと言って地面を掘り続けたこともあった。要は子供の頃にしか出来ない、傍からみたら無駄なこと。本人からしたら本気で楽しいこと、というやつなのだろう。
それよりも今はこのシーンを撮った写真をどうしようか悩んでいた。子供独特の集中した表情で何かに取り組んでいる、というのはいいが、如何せん今回のテーマは子供の無邪気で可愛い笑顔。かみ砕いて言うと萌え要素を求めているのだが……まぁ飽きて違う遊びをするのを待つしかないか。そう思ってぼーっとチルノが岩を叩く遊びを見ていた。
チルノが自作の氷塊で岩を叩く遊びにはいってから数時間たった。チルノはまだ同じことをしている。もう昼の時間など過ぎて世の中はおやつの時間に入りかけている。チルノは遊ぶのに忙しいからと私と食事に行くのを断ったが、私はもうお腹が空いた。限界だ。何でもいいから食いたい。
「チルノさーん」
「なーにー?」
「一口サイズの氷作ってくださーい」
「また作るのー?こっちも忙しいのに」
「お願いしますよー」
そうしたらチルノはしょうがないという感じで氷をつくってくれた。
「あやーいくよー!」
そういってチルノはそれを全力でこちらに投げてきた。すかさず幻想郷最速のスピードでそれを捉え、うまく口の中に入れる。
「ありがとうございまーす」
もうこのくだりを何度も繰り返している。別に氷など食べても美味しくはないし、食べ過ぎるとお腹を壊すが、今はともかく何でもいいから口の中にいれておきたい。何かを食べている、という状態にしておきたいのだ。
しかし私の空腹との戦いを余所にチルノはいまだに岩を叩く遊びをしている。そんなに楽しいのだろうか疑問に思い、
「その遊び楽しいですかー?」
と聞いてみた。当然だ、傍からみたら全然おもしろそうに見えないからだ。むしろ拷問の一種に見える。
「楽しーよー。」
まぁ楽しくなかったら何時間もそんなことをしてないよな。我ながら無駄な質問をしてしまった。
「どのへんが楽しいのですかー?」
「んー分からないけどともかく楽しいよー。」
答になっていない。
「そーなのですかー。」
と、とりあえず答えておいた。まぁ私も子供のころどうしてそんな遊びをしているの、と聞かれたら多分チルノみたいに答えていたと思う。きっとこの考えは周りのことを気にせず、好きなだけ遊ぶことができる子供時代の特権なのだろう。そんなふうに解釈しておいた。
とうとう夕暮れになった。結局チルノは一日中あの遊びをしていた。本当にチルノにとっては楽しいのだろうなと思い、やはり何故子供というのはあんなものに熱中できるのか、という疑問もでてきた。いっそこれを記事にしたほうが書けるんじゃね?と思ったがきっとこれは天狗受けが悪いだろう。仕方ない、あきらめよう。
「チルノさん、明日も取材したいのですがよろしいですか?」
「いいよー、あ!そのかわりまたアイス持って来て!」
「勿論です。じゃあ明日も今日と同じ時間に伺います。」
「分かったー!」
よし、取材の契約がとれた。やはり相手は妖精。たやすいことだ。
「では、また明日。」
「うん、じゃーねー!」
そうしてチルノの岩叩き場から私は飛び去った。明日は違う遊びをしてほしいとか、弁当を持ってきたほうがいいなとか、そんなことを考えながら夕焼けの空の中を飛んで家に帰った。帰宅しても何もやることは無く、昼ご飯の分が追加された特盛晩御飯を食べた後、さっさと風呂に入って私は寝た。
夢をみた。私が子供の頃の夢だ。
あの頃の私はやはり謎の遊びをしており、ひたすら蝉の抜け殻を集めたり、闘いだー!とか叫んでひめりんご同士をぶつけ合ったり、落ち葉を集めては天狗の団扇でぶっ飛ばしたり、と数々の謎の遊びをしている夢を見た。正直、こんなのを今の大人の私からするとバカ丸出しで、見ていてとても恥ずかしかった。しかし、ある夢になってから、その謎の遊びが無くなった。代わりに、小さい頃の私がとても楽しそうに新聞らしいものを書いている夢になった。勿論今の私だって新聞を書くのは楽しいがそれとは何と無く違う感じに見えた。私をここまで引き寄せた魅力のある記事ってどんなだったっけ?と思い私は昔の私の新聞を覗き込もうとした。
夢が覚めた。まぁお約束ですよね、こういういい感じの夢が最後まで見れずに途中で起きてしまうのは。それにしても昔の夢を見るのは久しぶりだな。あんな子供の頃は完全に忘れていたのに、あれか?チルノという子供の代表のごとき妖精と一日中一緒にいたから思い出したのか?まぁそんなことはどうでもいい、早く支度をしてチルノの所に行こう。おっと、お弁当を忘れないようにしないとね。
昨日見つけた場所に行ったらチルノはそこに居た。昨日のように会話し、取材料としてのアイスを渡し、今日も取材することが出来るようになった。
「チルノさんは今日、何して遊ぶのですか?」
できれば写真に映えるのをお願いします、と心の中で念じながら聞いた。
「もちろん、今日も岩叩きだよ!」
ですよねー。子供は一度何かにのめり込むとそれをしまくる。私もそうだったと思う。その上、周りから批判されると意地になってさらにそれをやり続けちゃうんだよな。だから私は
「そうですか、じゃあ行きましょう。」
と岩叩き以外でなど決して言わず、賛同しておいた。まぁ取材させてもらっている身で相手に文句を言うのは記者として最悪ですし。
「うん!」
満面の笑みでチルノは頷いた。ナイス表情、勿論写真に納めた。
ガン、ガン、ガン、岩を叩く音が響く。もう時刻は既に昼を過ぎている。私は昨日の反省を踏まえて持ってきたお弁当をチルノにも、食べる?と聞いたが、チルノは忙しいからと断った。はたして岩叩きで遊んでいるチルノに対し忙しい、という表現があっているかは疑問だが、まぁ食べたくないのなら無理にとは言わない。さっさと私一人で食べよう。
カン、カン、カン、岩を叩く音が響く。時刻は小腹が空いてきたから3時位だと思う。というかよくチルノ飽きないな、と思い
「チルノさん、飽きないのですか?」
と聞いてみた。暇を潰すための会話、要はだる絡みというやつだろう。
「飽きるわけないじゃん、こんな楽しい遊び!」
いったいどこが楽しいのか分からん。まぁ私も昔は……って最近昔を回顧しすぎな気がするな。
「具体的にどこが楽しいのですか?」
昨日よりもちょっと踏み込んで聞いて見よう、もし興味深いい答がでたらそれはそれで面白そうだし。
「うーん……わかんない!ともかく楽しい!」
なるほど、分からんということか。まぁ好きな事をやるのは理由がいらない、という感じに受け取っておこう。
ゴン、ゴン、ゴン、岩を叩く音が響く。あたりはもう暗くなり始めていたが、そんなことはお構い無しにチルノは遊び続けていた。流石にもう子供は家に帰る時間帯だと思い
「チルノさん、もうあたりが暗くなってきたから帰りましょう。」
と言った。昨日はまだ夕方だったからこんなことは言わなかったが、今日はもうあたりが暗い。幽霊とかがでてもおかしくない位に暗い。
「わかったー。文も一緒に帰ろう!」
意外にも素直な返事。こういう時、普通の人間の子供だったら、まだ遊びたいよー、とか言って座り込んで動かなくなるものなのに。さすが氷の妖精は伊達じゃない、ということで納得しておいた。
「分かりました。ではチルノさん、行きましょうか。」
「うん!」
そして私はチルノの住む湖周辺まで連れていって、別れた後自宅に帰った。というか今日も成果が全然無く、こんな調子で大丈夫か?と思ったが、チルノが違う遊びをしてくれと神に祈る位しか対策が無い。つまり結果的に何も対策など取れない状態である。だからなるようになれだ、そんなことを思いながら飯を食い、風呂にはいり寝た。
夢を見た。子供の頃の夢だ。というかまたか。
小さい頃の私は必死に新聞を書いていた。その目はまるでチルノが岩叩きをしている時位に輝いていて、本当に楽しそうだった。一体私をここまで楽しませる記事とは何だったのか、昨日出来なかった新聞の覗き見をしてみた。パッと目に入ったのは、『文々。新聞』、新聞の名前は昔から変わっていなかったらしい。さて肝心の内容は……
「あれ?」
思わず声が出てしまった。なぜなら記事がぼやけていてよく読めないのだ。目が疲れているのかな?と目をこすり、すこし目を閉じてもう一回見たがなにも変わらなかった。もしかして年か、そうも思ったが私はまだ天狗の中でも若い方なのでありえない。そういうことにしておきたい。いや、だけどもしかしたら……。
そんなことをしている内に目が覚めた。チキショウ、また記事の内容を見ることができなかった。モヤモヤとした気持ちのまま、さっさと身支度をして、チルノの所に行った。
あの不思議な夢を見てから数週間経った。私はその間ずっとチルノを取材していた。取材できた内容は岩叩きのみ、やってらんない。どうしても我慢できず、失礼承知でチルノに一回だけそれとなく違う遊びをしましょうと言ってみたが、嫌だ、と言われ、最終手段として山の神様にもお祈りしたが全然効かない。これはもうどうしようもない、きっとこうなる運命なのだろう。いっそのこと岩叩きを記事にしようと思ったが、これでは人気がでなさそうなのでやっぱり書けない。個人的にはこれで書いてみたいと思ったが、仕方ない。
あの変な夢もちょくちょく見る。毎日というわけでは無く、サイコロで偶数が出る位の確率で見ている。あの夢の私は基本部屋の中で新聞を書いている。たまに外にいる私の夢も見るが、何故か外の風景もぼやけていてよく分からない。そのよく分からないものを私は必死に紙に模写している。もちろん、その絵もよく分からない。何で絵なんか書いてたんだっけと思ったが、そういえば昔はカメラというものがなく、写真の変わりに自分で絵を描いていたようなような記憶がある。しかしこんなことよりも驚く事がこの夢にはあった。なんと夢の中の私が成長しているのだ。内容は毎回変わらないが見るたびに少しずつ私が大きくなっている。ご丁寧に外に出るとき、手に持っているのが色鉛筆と紙から、カメラになっていた。まるで断片的に録られた自分の成長の記録を見ている感じだ。なんか怖い。まぁ夢だから別にどうでもいいけど。
そんな感じに何故か最近の事情を回想しながら私は今晩飯を食べている。もちろん、今日もチルノは岩叩きをしていたので収穫は無い。一体何故あのような無駄な遊びに必死になれるのか、やっぱりよく分からない。遊びなのだから気まぐれに好きな時にやって、気まぐれにやめて、気まぐれに違うことをすればいいのに。もはやチルノにとってあれは生きがい、もしくは仕事、もしくは人生?いや飛躍しすぎたな。まぁそんな感じなのだろう。そんな事を考えながら飯を食べていたらいつの間にか完食していた。飯を食べていた気がしないがまぁいいや、風呂入って寝よう。
夢を見た。昔の夢だ。まぁどうせ内容は変わってないだろう、いつも通り私が自分の部屋で必死に新聞を書いている夢だと思ったが違った。なんとちょうど私が新聞大会に新聞を出そうとしているとこだったのだ。あやややや、なんか昔のこういう自分を見るのは恥ずかしいですね。人間的な目線で言えば、自分の黒歴史ノートを成長した自分がみる位恥ずかしい。うわー恥ずかしい。夢の中の私は出来上がった原稿を見て、
「いい感じじゃない!」
と凄い自信に満ちた声を出している。何か、とても恥ずかしい。そしてそのまま、
「よし、早く投稿しよう!」
と言いながら夢の中の私は立ち上がり、扉をバン、と開け外に出て行った。その瞬間夢が変わった。どっかの大きいホールみたいな場所になった。周りをみたらどうやらここは新聞大会の結果発表の場のようだ。これまた随分ピンポイントな所に変わったとか、都合のいい夢だなとか思いながら、私は昔の自分の書いた記事の内容、そして何より評価が気になった。初めての新聞の評価位覚えとけよ、と思ったが何百年も前の話しだ。忘れていても仕方ない。さて、私の新聞はどこにあるのかな。
数分間歩き回って、私は昔の私の記事を見つけた。しかも内容も今回はぼやけておらずはっきり見ることが出来るので、早速中身を見た。
「何々……変わりゆく幻想郷の風景、もう二度見ることのできない景色……」
昔の私はこんなのを書いていたのか、そういえば目に見える全てを記録するとか、今しか無いこの瞬間を撮りたいとか、皆にこの瞬間の幻想郷を覚えていて欲しいとか、ちょっとした日常こそを取材したいとか、こんなことを言っていた気がする。これが私の書きたかった記事か……。内容は所々うまく書けていない所もあるが、本当にこの記事を書きたい、この気持ちがこの新聞を読むとひしひしと伝わってくる。本当に好きなことを書いていたんだな、そう感じた。さて、私の感想は置いといて、評価は……、
「「えっ……?」」
思わず呟いてしまった、というか後ろの誰かと声が被ったことに気づき、振り向いて、誰が声をだしたのかを見た。そこには昔の私がいた。
「嘘でしょ……?いや、確かに文章は下手かもしれないですよ、けど何で?」
昔の私は何とか聞こえる位の小さな声で呟いていた。それもそのはず、評価が今回の新聞大会で一番下なのだ。私も流石にこれはおかしいと思い、新聞の横にかいてある評価の理由、というのを見た。
『この記事には何も面白い所がなく、意味も無いただの日常を無駄に書いてあるだけである。このような記事では読み手を楽しますことなどできない。よって今回はこの評価とする。まず射命丸文は読者である天狗を楽しませる記事とは何か、という基礎から勉強することがいいだろう。』
こう書いてあった。じゃあ他の新聞はどうなのかとすぐに見てみた。ある記事にはこんなの絶対嘘だろ、というのがよい評判になっており、あるものは、誰が、見ても作り話にしか見えない記事にも関わらず、トップ5の地位を得ている。じゃあトップの記事はどんなものかとみたら、そこにはただ人間の恋物語に脚色をつけたような、いかにも記者が天狗受けするために話を盛ったような記事が一位だった。どれも現実のことを書いていない、真実だけで書いていない、
「なんですか、これは!」
怒りを我慢できずついつい叫んでしまった。まぁ夢の中だからか知らないが誰も振り返らなかったけれど、それより、夢の中の私はどうしているのだろう。ふとそう思ったら彼女も私の横にいた。おそらく彼女もこの新聞といえない新聞たちを見てきたのだろう。
「こんなのおかしいよ……ちゃんとした新聞は私のしかないのに何でこんな評価なのでしょうか……」
彼女はこんなことをずっとぶつぶつ言っていた。慰めてあげたいがそんなことはできない、どうしたものかかと思っていたら、
「文じゃーん!」
何人かで固まって行動している天狗達が話し懸けてきた。
「ひ、ひさしぶり」
夢の中の私は返事をする。集団は何故かニヤニヤしながら
「文、見たよ、あのしんぶ」
「うわあああああああ!」
私は物凄い声を出して飛び起きた。あたりはまだ暗い。
「はぁ…はぁ…」
息切れがする、心臓がバクバクしている、吐き気もする。
私は何となく、何となくだが昔のことを思い出した。だからあのあと話し掛けられた後どうなるかも何となく思い出した。思い出したくもなかった。
「あの後……、」
あの後、私はあの天狗達に馬鹿にされ、笑われ、あんな新聞つまらないと言われた。あんだけ必死で頑張って頑張って書いて、あの中で一番新聞らしかったのにだ。あそこでもし私が賢かったらもうあのような新聞は書かずに、きっと天狗達が喜びそうな新聞を書き、馬鹿にされないように努力してただろう。しかし私は馬鹿だった。子供だった。無駄に燃え上がり
「今度こそは!」
と気合いを入れながら自分の好きな新聞、つまり一般の天狗が嫌いな新聞を書いていた。独りよがりの自己満足新聞だが、その時の私はそんなこと気にしていなかった。
そんなことを何年、何十年と続けるとだんだんと周りの天狗の馬鹿にしてくることが多くなっていった。新聞を馬鹿にすることはもちろん、私の頭がおかしいと馬鹿にし、学習能力のない馬鹿鴉と笑われ、底辺新聞記者なのだから新聞をかくこと以外で仕事をカバーしろと言われ、他の天狗の仕事を押し付けられ、雑用なんかもやり続けた。そんな感じに周りの環境が悪化していくだけなのに、私はまだ好きな新聞を書きつづけた。プライドなど捨て、周りの天狗に愛想笑いをしながら、ヘコヘコしながら、自分の好きな新聞を書き続けた。馬鹿にされると分かっていても私は好きな新聞を書きつづけた。あの頃は周りがどんなであろうと、ただ新聞を書くのが好きだったのだ。
だけと何百年もそんなことが繰り返されると流石に私もダメだった。何でこんな新聞書いているのだろうと思い、そんなことを思ってしまう自分がいやでしょうがなく、そんな気持ちは無いと自分に言い聞かすため、さらに好きな新聞を書いていた。しかしある日、その当時のはやり病にかかってしまい、数週間家で寝込んでしまった時があった。そのせいでどうしても新聞のための取材ができずに、新聞大会の期限が残り一週間くらいにもかかわらず、手元には何も資料がないという状態になってしまった。そんなときだった。今、色々と思い出した身から言うと魔がさしたのだと思う。私は記事にあることないことを書き連ねたのだ。書いてみると意外と簡単で、自分が読んでこんなんだったら面白いかな、という妄想を書き連るだけでよいのだから。勿論この時の私はこんなのが入賞するなんて思って無かったと思う、だがその新聞は三位という素晴らしい評価を得た。この時の周りの天狗の反応は凄かった。
「あの文が?」「嘘でしょ?」「ありえないんだけど」 とかそんな声がヒソヒソと聞こえてきたり、中にはあんぐりと口をあけてアホ面さらすほど驚いているやつもいた。
それから一気に私の評価は変わり、今までのことなんか無かったように、むしろ周りがヘコヘコしてきた。私はそれが気持ち良かった。そしてその気持ちを忘れることが出来なかった。麻薬のように、もう一度あのでたらめの記事を、もう一度あのでたらめの記事を……。そんなことをやっている内に忘れていったんだな。そう思った。
あの時位から、例え自分の書きたいものでなくても、したくないことでも、それが周りに評価されることが大事なんだ、という価値観に変わっていった気がする。評価されれば正義。例えどんな内容だとしても。一度そう思ってしまったらもう昔の新聞、自分の好きな新聞なんて書けなかった。書いても書いても意味が無い。評価されないとただの自己満足新聞。所詮、自分の好きなことを仕事に出来るの者はごく僅か。後の者は好きじゃなくても、それをしなければならない。いつまでも、子供みたいに夢を見ることなんて出来ない、大人にならないといけないんだ。そう思い、捏造新聞を書き続けて、自分の好きな新聞を忘れた、いや忘れようとしていたんだ。結局思い出してしまったが。
「はぁー」
昔のことを思い出して整理していたらすでに太陽が昇り始める時間になっており、どんだけ回顧に時間かけていたんだと少し自分にあきれた。しかもあれだけ時間をかけたくせに、これからどうするのか、という答も出ていない。これからも捏造新聞を書き続けるか、それとも思い出した昔の私の新聞を書くか。まぁ、そもそも考えて答が出るものでも無い気がするけど。こんなことで悩むなら、昔の夢なんか忘れていたかった。思い出してしまったから、また自分の新聞を書きたくなってしまった。思いださなかったら、悩みもなく捏造新聞を書いて天狗達からの良い評判だけを受け取り続ける楽な人生だったのに。
とりあえず今日はチルノの取材をやめて、この精神を落ち着かせたい。そう思い、私は外に出て天狗の団扇を使い、風を起こした。その風に自分の声をのせ、相手に連絡するという天狗独自の連絡手段だ。相手は勿論私の信頼する部下だ。数分後、私の部下、犬走椛が目茶苦茶不機嫌そうな顔でやってきた。確かに朝早くに起こしたのは悪いけど、上司の前ではその表情を隠しましょうよ椛さん。そう思ったがこんなことを言ったら「じゃあ起こすな」とか言ってキレそうだったのでやめた。とりあえず今度なんか奢ってあげよう、覚えていたら。さて、あんまり待たせすぎると椛の怒りが有頂天になりそうなので早急に用を伝えなければ。
「これをチルノさんに渡してくれませんか?湖にいますので」
そう言って私は椛が来る数分の間に書いたチルノ宛ての手紙を見せた。内容は単純に風邪気味なので今日の取材は中止させて頂きます、的な内容だ。
「わかりました。」
椛はイライラした声で返事をしながら受けとり、チルノのいる湖の方へ飛んでいった。まだ朝早いからチルノはいないかもしれないが、まぁいいや。それより眠いから寝よう。そう思い布団に潜った。
寝初めてからどれくらいの時間が経ったかは分からない。けど玄関からドンドンと音が聞こえてきた時には日は結構昇っていた。それより誰だ、安眠妨害するやつは、いい感じに寝ていたのに。しかし出ないという訳にはいかないので、仕方なく玄関のほうへ行き、
「どなたですか。」
といいながら扉を開けた。そこにはチルノと椛がいた。何で?と思っていたら
「チルノさんが、お見舞いしたいらしいので連れて来ました。」
と椛が言った。
「文、風邪大丈夫?」
チルノは少し心配そうな表情で聞いてきた。どうやら、冷やかしやイタズラなどで来たのでは無いようだ。流石にここまでちゃんと見舞いに来た客を無下に帰すことは出来ず、
「はい、風邪はもう大丈夫です。熱もないですし。家に上がりますか?」
と聞いた。チルノは
「文の家の中に入るー!」
と元気な声で返事をし、椛は、
「まだ、仕事があるので失礼させて頂きます」
と言ってすぐにどっかに飛んでいってしまった。釣れない子だ。
「じゃあ家の中に入って下さい。」
そう言ってチルノを家の中にいれ、自分の部屋までチルノを通したら、
「ここが文の部屋かー」
と言って物色を始めた。おい、お見舞いはどうした。まぁ言っても多分聞かないだろうから、
「物は壊さないでね」
と言うしか無かった。
「分かったー!」
元気よく返事。まぁ今チルノが漁っている場所は昔からいらないものを適当に投げ捨てとく所だから、無くなったりして大変な物は何一つとして無いんだけどね。
チルノがごみだめを漁り始めてから何分経っただろうか。恐らくチルノは完全にお見舞いで私の家に来たことを忘れている。やはりチルノは子供なんだな、とか考えていたら、
「あー!」
と何かを見つけた声が聞こえた。まさかゴキ○リとかじゃないだろうな、とビクビクしながらも、花果子年報とかいう名前の新聞を丸め、チルノのほうに近づいてみたらそこには私の書いた新聞があった。とりあえずゴ○ブリでないことに安心し、丸めておいた新聞は部屋の隅にブン投げた。しかしこの新聞、タイムリーなことにまだ私が好きな事を好きなだけ書いていた頃の新聞で、題名は幻想郷の素敵な風景、と書いてあった。しかし何故チルノはこれに反応したのか、とりあえず
「これ、私が昔書いた新聞だけどどうしたの?」
と聞いてみた。
「この新聞、持ってるからびっくりしたの!」
え、持っている?チルノが?私の新聞を?何で?頭の中はクエスチョンマークで一杯になり、言葉として出たのは、
「何でこんな昔の新聞持っているのですか?」
という質問がでた。月並みな質問かもしれないが、これしか言葉に出なかった。
「人間が落としていったんだよ!」
どういうことだ?
「チルノさん、もう少し詳しく説明出来ますか?」
「文はあの説明じゃわかんないのー?バカだなぁ。」
くそ、目茶苦茶イラッとする。だが仕方ない。
「はい、すみません。教えてくれませんか?」
下手にでるのは昔から得意だったのよ。今日思い出したんだけど。
「しょうがないなー」
そういいながらチルノは教えてくれた。口調は面倒臭い、という感じだったが表情はとても嬉しそうだった。かわいいやつめ。
それからチルノの話しを何十分かかけて聞いたが、私の知りたい内容については数分程度しか触れておらず、チルノの世間話や武勇伝などがほとんどだった。とりあえず要約すると、私の新聞にのっていた写真の場所に行こうとしていた人間を途中でイタズラして遊んだら、持っていた新聞を落としたらしい。それをチルノが拾ってみたら、チルノもその写真に痛く感動したらしく、新聞に書いてあった地図を頼りにその場に行ったら、想像以上の美しい風景が広がっており、この新聞を書いた人は凄い、とチルノの脳内でなったらしい。聞いている時、あまりのベタ褒めで恥ずかしく、私は顔を赤くして下をむいていただろう。こんなふうに新聞に対して褒められたことが今までに一回も無かったからだ。ともかく、ヒャッホーとか叫びたいほど嬉しかった。
「お褒めの言葉ありがとうございます。チルノさん」
とりあえず感謝の言葉を言った。テンション上がり過ぎて、声が裏返ったけど気にしない。
「すごいね、文!ねぇ他にも文の新聞みせてよ!」
その言葉で自分のテンションの高さが元に戻った。なぜかって?今私の書いている新聞は昔の私が書いている新聞とは違うからだ。もし今書いている新聞をチルノに読ませたら、どんな反応をするのだろうか。つまらないといって新聞を投げるかもしれない。微妙な表情をうかべるかもしれない。ともかく、いい反応をしないのは確かだ。しかし、だからと言って見せないというのもまたおかしい。私、射命丸文がこれ以外に新聞を書いたことが無い、なんてことはありえないからだ。どうやって返答しよう。考えても思い付かず、黙りこくってしまった。そしたら
「文どうしたの?」
チルノが聞いてきた。私はもう半分無意識で、
「い、いやなんでもいりませんよ。そうですね、私の新聞は勿論他にもありますが、もしそれらの新聞は今チルノさんが読んだような新聞とは違う、と言ったらどうしますか?」
と言った。少しおかしい感じもしたが、パニクってたから仕方ない。
「え、もうこういう新聞書いてないの?」
「え、まぁ、そうですね。」
流石にばれたか。まぁそっちのほうが、こっちも楽だからいいけど。
「そしたら、悲しいな。」
「悲しい?」
「だってあの新聞、もう読めないんでしょ?」
本当にチルノはしょんぼりとしていた。ここまで素直に感情表現するほど、私の新聞が好きだったというのは本当に嬉しいことだ。出来ることなら、この言葉を昔の私に聞かせてやりたい。そんなことをしみじみ思い、黙っていたら、
「なんであんな感じの新聞書くのやめちゃったの?」
とチルノが聞いてきた。恐らく普段の私だったらはぐらかして、答えていなかった質問かもしれない。しかし、ここまで私の昔の新聞を好きだと言ってくれた妖精の前でそんなことをする気にもならなかった。
「単純に言いますと、疲れたんだと思います。」
「疲れた?好きなことをやってるのにそんなことあるの?」
やはり、子供は羨ましい。
「はい。勿論、私もそう思っていた時期がありました。どんなことがあっても、自分の好きな事が出来ればどうだっていいと。だけど、私が新聞を書いても、書いても、書いても、だれも私の新聞が好きだと言ってくれなかったんですよ。中傷の言葉はたくさん言ってくれたんですけどね。そんな中で何百年も書いていたら、ある日とても疲れたんです。だからもういいやって思って、適当に新聞書いて、そしたら今まで貰えなかった賞が貰えて、皆から認められて。だから私は昔の新聞を書くのをやめたんです。書いても報われない、書いても意味が無い、こんな風に思ってしまいましたからね」
今まで、誰にも言ったことが無いことを、自分でも昔の私を思い出したくないからと忘れていたことをチルノに話した。
「文、何言ってるの?」
チルノが突然聞いてきた。私は訳が分からず、え?と声を出した。
「私は文の新聞が大好きだよ!きっとあの新聞のよさが分からないなんて、そいつらはバカなんだ!だからそんなバカのことは気にしないで、書いて!あの新聞は最高だよ!自信を持ってよ!なんたって最強のあたいが言ってるんだから!」
なんとも子供らしい単純な意見。しかも返事として、少し的外れにも感じるバカさ。しかしその言葉は本当に嬉しかった。思わず涙がでそうになったが、こっちは大の大人。上を向いてなんとか我慢した。その間チルノは、どうしたの?と聞いてきたが、なんでもないと言ってごまかした。その後、上を向きながらありがとうとも言った。チルノは、何が?と聞いてきた。私は、今日あのことを思い出してから悩んでいた私に、一歩踏み出す勇気をくれたことについてだよ、と言いたがったが、恥ずかしかったので言えなかった。
数十分後、あの状態から落ち着いたら、自然と
「私、もう一度書いてみようかな」
と私は呟いていた。勿論、天狗の価値観は今も昔も変わってないから、また好きな新聞を書けば、新聞大会の順位は下がり、周りにまたバカにされるだろう。だけど、そんな価値観をぶち壊す位に面白い新聞を書いてやる。
「本当?やったー!」
チルノの喜ぶ声が聞こえた。今の私にはたった一人だけど、私の新聞を大好きといってくれた妖精がいる。例え周りから自己満足などと言われても、何百年バカにされようと、一人でも私の新聞が好きという人がいるなら書いてみせる。そして自己満足新聞といってきた奴ら、バカにしてきたやつらも全員私の新聞を認めさせてみせる。何百年かかったとしても。久しぶりに、血がたぎるような情熱が生まれてきた。
「こうしちゃいられません!チルノさん、今から取材してもいいでしょうか?」
「いいよ!」
さぁ書こう。好きな新聞を書いてやる。今度は絶対逃げない。その決意を持って私は扉を力強く開けた。
「さてと、次のネタは何にしようかなっと」
ペンをくるくると回しながらぼうっと考える。最近はいろんな人の色恋沙汰について食い荒らしてきた感がある。二人の巫女の蜜月から、黒白魔法使の取り合い。はては、偉大な僧の禁欲からの解放や、地底の姉妹と獣達の絡みなど。もちろんほとんどが嘘だったり、話を盛って書きましたけどね。実際の幻想郷ではそのようなことは多分起きていないはずなので、あしからず。
「最近は少しネタの傾向が同じになってきていますからここらへんで心機一転また違う傾向のネタでも探しますか!」
しかし言うのはいいがどうしよう。天狗が興味あるものといえば人の根も葉もない噂や恋愛、または小さい子供などしか簡単に思いつきやしない。
ん?小さい子供?
「これだ!」
思わずあの最近出てきた山彦もびっくりするくらいの大きい声を出してしまった。そうだこの手があったか。子供達の無邪気に遊んでいる様子、愛くるしい表情、その他諸々を基礎として新聞を作れば結構いけるんじゃないか、この考えの素晴らしさに思わずニヤニヤしてしまう私。
いや、しかし落ち着け私。そんなことをして誰かに通報されてみろ。そんなことをされたら今までに頑張ってようやくたどり着いたこの地位を捨てることと同義だぞ。そしてその後の人生は変態ロリコンとか付けられたくもない二つ名を付けられ皆から白い目でみられてしまう。それはいやだ。だがこの考えもあきらめたくない。
「なんとか合法的にロリを撮る方法はないものか……。」
私は考え続けた。親に許可を取る、いや天狗なんかに許可をくれるはずは無い。里の守護者に頼み込む、これもだめだろう。速攻ボコられる。博麗の巫女に金を積んで依頼する、やってくれるかもしれないが速攻で巫女が金を持ってとんずらしそうなので信頼できない。うーんうーんとうめき声をあげながらあれやこれを考え続けたが思いつかない。
夕方位になっても何も思いつかず、もはや何も考えず近くにあった写真の束を見ていた。要は考えるのに疲れたのである。一種の現実逃避である。そしてそれをぼんやりと見続けていたら一枚の写真が目にとまった。それは氷の妖精ことチルノの写真であった。小っちゃい子だなとか思っていたらふっとひらめいた。
「そうか、この手があったか!」
またもや大声を上げてしまった。だがそんなことはどうでもいい。チルノならば見た目はまぁ何とかロリな感じであり、バカだから可愛いというところもある。そして何より取材が容易できる、というのが一番のポイントだ。チルノが一人遊びをしている時を狙って喜びそうなものをあげる。きっとこれだけで取材ができる気がする。まぁ、傍からみたら危ない人に見えそうだけど。
だが、そんなことは気にしない。記事が書ければそれで問題ない。善は急げ、ということでさっと立ち上がり、扉を開け、外に出たがあたりはもう暗くなっていた。さすがに今から行ってもいい取材ができない。このはやる気持ちを抑えるのは苦労しそうだが取材をするのは明日まで我慢しよう。
翌日、いつもよりも少し早く起き身支度を整え、家を出た途中で安い箱売りのアイスキャンディーをかった。チルノが喜びそうな、もとい取材料金替わりでだ。きっとこれでなんとかなるだろう、多分。
その後、あっという間に湖に到着。チルノはいないかとあたりを見たらさっそく見つけた。しかも一人。これはチャンス、さっさとチルノに話しかけなければ。
「おはようございます、チルノさん」
「文じゃん、おはよう」
よしまずつかみはオッケー。さてどうやって取材の話に持っていこうかと考えていたらチルノの方から話しかけられた。
「なんで文ここにきたの?」
いい質問ですね、と言いたくなるような質問。すかさず私は
「いや、ちょっとチルノさんの用事がありまして」
「用って何?」
よし来た。このタイミングでかますしかない。
「いや、実をいうと今度、チルノさんについての特集をやろうと思っていましてですね、今回はその取材のために来たのですよ。だから今日一日取材させてもらってもよろしいでしょうか?もちろんタダとは言いません。取材料金としてチルノさんにはこれを渡しますよ」
そういって私はさっき買ったアイスキャンディーを見せた。さあ、食いついてこい!
「え!アイスくれるの!」
ヒット!これは取材してもいいよという意味でとって間違いないだろう。
「はい今日一日取材させてくれるのなら全部あげますよ」
「本当!?文ありがとう!」
すごくいい笑顔を向けてきたので、すかさず一枚反射的にとってしまった。チルノは少しビックリしていたがしょうがない、これは記者の性だ。
「いきなりごめんね。だけど今日一日はこういうことが結構あると思うから気にしないでね」
「わかったー」
いい返事だ。よしこれはいい記事が書けそうだ、と興奮していたら
「ねえ文、どんなことを取材するの?」
確かにそれは言わないといけないな、と思い
「チルノの毎日の生活、毎日している遊びなどを中心に取材していこうと思います」
「えぇーそうなの?」
少し不満な声が上がった。もしかしてやっちまったのか?
「あたいはもっとこう、あたいの弾幕のカッコよさとかそういうことについての取材かと思ったのに~」
なるほど、そういうことですか。なら話は早い。
「そのことを踏まえた上で今日の取材ですよ。そういうチルノの弾幕の強さとか、カッコよさはどこから来ているのかと私は思ったのですよ。それで悩んだ結果、もしかしたら私たちと生活のしかたが違うのではないかと思ったのです。そう思ったからこそチルノの日常の取材ですよ。」
「なんだ、そういうことだったのね。あたいみたいに皆強くなりたいからあたいの生活をまねしたいのね。やっぱりあたいってば最強ね!」
「はい、そういうことです。」
こんな嘘にのってくれるとは、妖精はバカで可愛いな。
「ということで、取材は受けてくれますよね?」
「もちろん!」
よしきた、これで堂々とカメラでチルノを撮れる。
「じゃあまずはアイスを前払いということで渡しますね」
「やったー!」
「あともう一度確認で言いますが本当にいつも通りのチルノさんの生活でいいですからね。変にカッコつけたり見栄はったりして違う風にしていると、チルノさんの強さの理由が分からなくなってしまいますから」
「はーい」
もうすでにアイスをたべ始めている。その姿も可愛かったので私はまた無意識のうちにシャッターを切っていた。無意識で撮ってしまうとは、私の記者魂はなかなかのものだ。そんな風に自画自賛してたら、チルノはいつのまにか箱一つ分のアイスを全部を食べてしまっていた。さすが氷の妖精の名は伊達じゃない、と思っていたら、
「さて、今日もアレをして遊ぼう」
そう言って彼女は何故か妖怪の山の方へと飛んで行った。まさか天狗の領土に侵入するのか?と思い少し注意したがそんなことは杞憂で山の麓で地に降りて歩き始めた。こんな所で何して遊ぶのかな、と思い、
「チルノ、ここで何して遊ぶの?」
と私は質問した。
「あと少ししたら分かるよ」
そう返事がきた。なるほど、この奥にチルノの秘密の遊び場みたいなのがあるのか。綺麗な泉とか、美しい花畑とかそういうのかな、と私は夢想していたら、
「文、着いたよ!」
とチルノの声が聞こえた。さてどんないい場所かな、と周りを見たらなんてことない木や草が生えている普通の山の麓。あれ?想像と違うぞ。
「ここで何して遊ぶの?」
私はここまできて、まさか土遊びじゃないよな、と思いながらチルノに質問した。
「これで遊ぶの!」
チルノは何かを指さした。私はチルノの指した方をよくみたらそこには大人が十人くらい抱き合ったものより少し大きい岩があった。え?ちょっとまって、そんな岩を指さされても分からない。私の理解力が乏しいのでは無く、きっと他の天狗でも分からない。
「その岩で何して遊ぶの?」
「文バカなの?岩と言ったらあれしかないじゃん!」
なんか一瞬物凄くイラッとした。分かるわけあるかチキショー。
「いや……あれと言われても分かりませんよ……チルノさん教えてください」
私は言った。ものすごく悔しいが言った。そしたらチルノは急に得意げな顔をして嬉しそうに言った。もしかしたら教えてと言われたのが気持ち良かったのかもしれない。
「簡単よ!あたいが作った氷でこの岩を叩くのよ!」
それ、遊びかよ!物凄く大声で言いたかったが我慢して
「なるほど、流石チルノさん、面白い遊びをしますね!」
とりあえず褒めておいた。記者たるもの相手の機嫌を損なわないようにするのは当然だ。ここで変に反論し、相手が取材拒否をしてきたら、元も子もないしね。
「やっぱりそう思う?この遊びをしてるあたいってば最強ね!」
ちょっと意味が分からないがチルノが楽しそうでなによりだ。
「じゃあ、チルノさん。私のことは気にせず遊んでいてください。途中でカメラのシャッターの音が聞こえても無視して構いません」
「分かったー!」
そう言ってチルノは氷の塊を作りそれで岩を叩きはじめた。これって絵になるのか?私は一抹の不安を感じた。
チルノが自作の氷塊で岩を叩く遊びに入ってから数十分たった。チルノが使っている氷塊は何度も砕け、そのたびに新しい氷塊を作る。この作業が何度も繰り返されており、もはや今チルノが使っている氷塊は何代目なのか、もう分からない。何がここまでチルノに岩を叩く、という行動に駆り立てるのかはっきりと分からないが、まぁ私も子供の頃は川に石を投げ続けこの川を埋め立てる。という馬鹿で無駄なことをしたことがあったし、地球の真ん中に行きたいと言って地面を掘り続けたこともあった。要は子供の頃にしか出来ない、傍からみたら無駄なこと。本人からしたら本気で楽しいこと、というやつなのだろう。
それよりも今はこのシーンを撮った写真をどうしようか悩んでいた。子供独特の集中した表情で何かに取り組んでいる、というのはいいが、如何せん今回のテーマは子供の無邪気で可愛い笑顔。かみ砕いて言うと萌え要素を求めているのだが……まぁ飽きて違う遊びをするのを待つしかないか。そう思ってぼーっとチルノが岩を叩く遊びを見ていた。
チルノが自作の氷塊で岩を叩く遊びにはいってから数時間たった。チルノはまだ同じことをしている。もう昼の時間など過ぎて世の中はおやつの時間に入りかけている。チルノは遊ぶのに忙しいからと私と食事に行くのを断ったが、私はもうお腹が空いた。限界だ。何でもいいから食いたい。
「チルノさーん」
「なーにー?」
「一口サイズの氷作ってくださーい」
「また作るのー?こっちも忙しいのに」
「お願いしますよー」
そうしたらチルノはしょうがないという感じで氷をつくってくれた。
「あやーいくよー!」
そういってチルノはそれを全力でこちらに投げてきた。すかさず幻想郷最速のスピードでそれを捉え、うまく口の中に入れる。
「ありがとうございまーす」
もうこのくだりを何度も繰り返している。別に氷など食べても美味しくはないし、食べ過ぎるとお腹を壊すが、今はともかく何でもいいから口の中にいれておきたい。何かを食べている、という状態にしておきたいのだ。
しかし私の空腹との戦いを余所にチルノはいまだに岩を叩く遊びをしている。そんなに楽しいのだろうか疑問に思い、
「その遊び楽しいですかー?」
と聞いてみた。当然だ、傍からみたら全然おもしろそうに見えないからだ。むしろ拷問の一種に見える。
「楽しーよー。」
まぁ楽しくなかったら何時間もそんなことをしてないよな。我ながら無駄な質問をしてしまった。
「どのへんが楽しいのですかー?」
「んー分からないけどともかく楽しいよー。」
答になっていない。
「そーなのですかー。」
と、とりあえず答えておいた。まぁ私も子供のころどうしてそんな遊びをしているの、と聞かれたら多分チルノみたいに答えていたと思う。きっとこの考えは周りのことを気にせず、好きなだけ遊ぶことができる子供時代の特権なのだろう。そんなふうに解釈しておいた。
とうとう夕暮れになった。結局チルノは一日中あの遊びをしていた。本当にチルノにとっては楽しいのだろうなと思い、やはり何故子供というのはあんなものに熱中できるのか、という疑問もでてきた。いっそこれを記事にしたほうが書けるんじゃね?と思ったがきっとこれは天狗受けが悪いだろう。仕方ない、あきらめよう。
「チルノさん、明日も取材したいのですがよろしいですか?」
「いいよー、あ!そのかわりまたアイス持って来て!」
「勿論です。じゃあ明日も今日と同じ時間に伺います。」
「分かったー!」
よし、取材の契約がとれた。やはり相手は妖精。たやすいことだ。
「では、また明日。」
「うん、じゃーねー!」
そうしてチルノの岩叩き場から私は飛び去った。明日は違う遊びをしてほしいとか、弁当を持ってきたほうがいいなとか、そんなことを考えながら夕焼けの空の中を飛んで家に帰った。帰宅しても何もやることは無く、昼ご飯の分が追加された特盛晩御飯を食べた後、さっさと風呂に入って私は寝た。
夢をみた。私が子供の頃の夢だ。
あの頃の私はやはり謎の遊びをしており、ひたすら蝉の抜け殻を集めたり、闘いだー!とか叫んでひめりんご同士をぶつけ合ったり、落ち葉を集めては天狗の団扇でぶっ飛ばしたり、と数々の謎の遊びをしている夢を見た。正直、こんなのを今の大人の私からするとバカ丸出しで、見ていてとても恥ずかしかった。しかし、ある夢になってから、その謎の遊びが無くなった。代わりに、小さい頃の私がとても楽しそうに新聞らしいものを書いている夢になった。勿論今の私だって新聞を書くのは楽しいがそれとは何と無く違う感じに見えた。私をここまで引き寄せた魅力のある記事ってどんなだったっけ?と思い私は昔の私の新聞を覗き込もうとした。
夢が覚めた。まぁお約束ですよね、こういういい感じの夢が最後まで見れずに途中で起きてしまうのは。それにしても昔の夢を見るのは久しぶりだな。あんな子供の頃は完全に忘れていたのに、あれか?チルノという子供の代表のごとき妖精と一日中一緒にいたから思い出したのか?まぁそんなことはどうでもいい、早く支度をしてチルノの所に行こう。おっと、お弁当を忘れないようにしないとね。
昨日見つけた場所に行ったらチルノはそこに居た。昨日のように会話し、取材料としてのアイスを渡し、今日も取材することが出来るようになった。
「チルノさんは今日、何して遊ぶのですか?」
できれば写真に映えるのをお願いします、と心の中で念じながら聞いた。
「もちろん、今日も岩叩きだよ!」
ですよねー。子供は一度何かにのめり込むとそれをしまくる。私もそうだったと思う。その上、周りから批判されると意地になってさらにそれをやり続けちゃうんだよな。だから私は
「そうですか、じゃあ行きましょう。」
と岩叩き以外でなど決して言わず、賛同しておいた。まぁ取材させてもらっている身で相手に文句を言うのは記者として最悪ですし。
「うん!」
満面の笑みでチルノは頷いた。ナイス表情、勿論写真に納めた。
ガン、ガン、ガン、岩を叩く音が響く。もう時刻は既に昼を過ぎている。私は昨日の反省を踏まえて持ってきたお弁当をチルノにも、食べる?と聞いたが、チルノは忙しいからと断った。はたして岩叩きで遊んでいるチルノに対し忙しい、という表現があっているかは疑問だが、まぁ食べたくないのなら無理にとは言わない。さっさと私一人で食べよう。
カン、カン、カン、岩を叩く音が響く。時刻は小腹が空いてきたから3時位だと思う。というかよくチルノ飽きないな、と思い
「チルノさん、飽きないのですか?」
と聞いてみた。暇を潰すための会話、要はだる絡みというやつだろう。
「飽きるわけないじゃん、こんな楽しい遊び!」
いったいどこが楽しいのか分からん。まぁ私も昔は……って最近昔を回顧しすぎな気がするな。
「具体的にどこが楽しいのですか?」
昨日よりもちょっと踏み込んで聞いて見よう、もし興味深いい答がでたらそれはそれで面白そうだし。
「うーん……わかんない!ともかく楽しい!」
なるほど、分からんということか。まぁ好きな事をやるのは理由がいらない、という感じに受け取っておこう。
ゴン、ゴン、ゴン、岩を叩く音が響く。あたりはもう暗くなり始めていたが、そんなことはお構い無しにチルノは遊び続けていた。流石にもう子供は家に帰る時間帯だと思い
「チルノさん、もうあたりが暗くなってきたから帰りましょう。」
と言った。昨日はまだ夕方だったからこんなことは言わなかったが、今日はもうあたりが暗い。幽霊とかがでてもおかしくない位に暗い。
「わかったー。文も一緒に帰ろう!」
意外にも素直な返事。こういう時、普通の人間の子供だったら、まだ遊びたいよー、とか言って座り込んで動かなくなるものなのに。さすが氷の妖精は伊達じゃない、ということで納得しておいた。
「分かりました。ではチルノさん、行きましょうか。」
「うん!」
そして私はチルノの住む湖周辺まで連れていって、別れた後自宅に帰った。というか今日も成果が全然無く、こんな調子で大丈夫か?と思ったが、チルノが違う遊びをしてくれと神に祈る位しか対策が無い。つまり結果的に何も対策など取れない状態である。だからなるようになれだ、そんなことを思いながら飯を食い、風呂にはいり寝た。
夢を見た。子供の頃の夢だ。というかまたか。
小さい頃の私は必死に新聞を書いていた。その目はまるでチルノが岩叩きをしている時位に輝いていて、本当に楽しそうだった。一体私をここまで楽しませる記事とは何だったのか、昨日出来なかった新聞の覗き見をしてみた。パッと目に入ったのは、『文々。新聞』、新聞の名前は昔から変わっていなかったらしい。さて肝心の内容は……
「あれ?」
思わず声が出てしまった。なぜなら記事がぼやけていてよく読めないのだ。目が疲れているのかな?と目をこすり、すこし目を閉じてもう一回見たがなにも変わらなかった。もしかして年か、そうも思ったが私はまだ天狗の中でも若い方なのでありえない。そういうことにしておきたい。いや、だけどもしかしたら……。
そんなことをしている内に目が覚めた。チキショウ、また記事の内容を見ることができなかった。モヤモヤとした気持ちのまま、さっさと身支度をして、チルノの所に行った。
あの不思議な夢を見てから数週間経った。私はその間ずっとチルノを取材していた。取材できた内容は岩叩きのみ、やってらんない。どうしても我慢できず、失礼承知でチルノに一回だけそれとなく違う遊びをしましょうと言ってみたが、嫌だ、と言われ、最終手段として山の神様にもお祈りしたが全然効かない。これはもうどうしようもない、きっとこうなる運命なのだろう。いっそのこと岩叩きを記事にしようと思ったが、これでは人気がでなさそうなのでやっぱり書けない。個人的にはこれで書いてみたいと思ったが、仕方ない。
あの変な夢もちょくちょく見る。毎日というわけでは無く、サイコロで偶数が出る位の確率で見ている。あの夢の私は基本部屋の中で新聞を書いている。たまに外にいる私の夢も見るが、何故か外の風景もぼやけていてよく分からない。そのよく分からないものを私は必死に紙に模写している。もちろん、その絵もよく分からない。何で絵なんか書いてたんだっけと思ったが、そういえば昔はカメラというものがなく、写真の変わりに自分で絵を描いていたようなような記憶がある。しかしこんなことよりも驚く事がこの夢にはあった。なんと夢の中の私が成長しているのだ。内容は毎回変わらないが見るたびに少しずつ私が大きくなっている。ご丁寧に外に出るとき、手に持っているのが色鉛筆と紙から、カメラになっていた。まるで断片的に録られた自分の成長の記録を見ている感じだ。なんか怖い。まぁ夢だから別にどうでもいいけど。
そんな感じに何故か最近の事情を回想しながら私は今晩飯を食べている。もちろん、今日もチルノは岩叩きをしていたので収穫は無い。一体何故あのような無駄な遊びに必死になれるのか、やっぱりよく分からない。遊びなのだから気まぐれに好きな時にやって、気まぐれにやめて、気まぐれに違うことをすればいいのに。もはやチルノにとってあれは生きがい、もしくは仕事、もしくは人生?いや飛躍しすぎたな。まぁそんな感じなのだろう。そんな事を考えながら飯を食べていたらいつの間にか完食していた。飯を食べていた気がしないがまぁいいや、風呂入って寝よう。
夢を見た。昔の夢だ。まぁどうせ内容は変わってないだろう、いつも通り私が自分の部屋で必死に新聞を書いている夢だと思ったが違った。なんとちょうど私が新聞大会に新聞を出そうとしているとこだったのだ。あやややや、なんか昔のこういう自分を見るのは恥ずかしいですね。人間的な目線で言えば、自分の黒歴史ノートを成長した自分がみる位恥ずかしい。うわー恥ずかしい。夢の中の私は出来上がった原稿を見て、
「いい感じじゃない!」
と凄い自信に満ちた声を出している。何か、とても恥ずかしい。そしてそのまま、
「よし、早く投稿しよう!」
と言いながら夢の中の私は立ち上がり、扉をバン、と開け外に出て行った。その瞬間夢が変わった。どっかの大きいホールみたいな場所になった。周りをみたらどうやらここは新聞大会の結果発表の場のようだ。これまた随分ピンポイントな所に変わったとか、都合のいい夢だなとか思いながら、私は昔の自分の書いた記事の内容、そして何より評価が気になった。初めての新聞の評価位覚えとけよ、と思ったが何百年も前の話しだ。忘れていても仕方ない。さて、私の新聞はどこにあるのかな。
数分間歩き回って、私は昔の私の記事を見つけた。しかも内容も今回はぼやけておらずはっきり見ることが出来るので、早速中身を見た。
「何々……変わりゆく幻想郷の風景、もう二度見ることのできない景色……」
昔の私はこんなのを書いていたのか、そういえば目に見える全てを記録するとか、今しか無いこの瞬間を撮りたいとか、皆にこの瞬間の幻想郷を覚えていて欲しいとか、ちょっとした日常こそを取材したいとか、こんなことを言っていた気がする。これが私の書きたかった記事か……。内容は所々うまく書けていない所もあるが、本当にこの記事を書きたい、この気持ちがこの新聞を読むとひしひしと伝わってくる。本当に好きなことを書いていたんだな、そう感じた。さて、私の感想は置いといて、評価は……、
「「えっ……?」」
思わず呟いてしまった、というか後ろの誰かと声が被ったことに気づき、振り向いて、誰が声をだしたのかを見た。そこには昔の私がいた。
「嘘でしょ……?いや、確かに文章は下手かもしれないですよ、けど何で?」
昔の私は何とか聞こえる位の小さな声で呟いていた。それもそのはず、評価が今回の新聞大会で一番下なのだ。私も流石にこれはおかしいと思い、新聞の横にかいてある評価の理由、というのを見た。
『この記事には何も面白い所がなく、意味も無いただの日常を無駄に書いてあるだけである。このような記事では読み手を楽しますことなどできない。よって今回はこの評価とする。まず射命丸文は読者である天狗を楽しませる記事とは何か、という基礎から勉強することがいいだろう。』
こう書いてあった。じゃあ他の新聞はどうなのかとすぐに見てみた。ある記事にはこんなの絶対嘘だろ、というのがよい評判になっており、あるものは、誰が、見ても作り話にしか見えない記事にも関わらず、トップ5の地位を得ている。じゃあトップの記事はどんなものかとみたら、そこにはただ人間の恋物語に脚色をつけたような、いかにも記者が天狗受けするために話を盛ったような記事が一位だった。どれも現実のことを書いていない、真実だけで書いていない、
「なんですか、これは!」
怒りを我慢できずついつい叫んでしまった。まぁ夢の中だからか知らないが誰も振り返らなかったけれど、それより、夢の中の私はどうしているのだろう。ふとそう思ったら彼女も私の横にいた。おそらく彼女もこの新聞といえない新聞たちを見てきたのだろう。
「こんなのおかしいよ……ちゃんとした新聞は私のしかないのに何でこんな評価なのでしょうか……」
彼女はこんなことをずっとぶつぶつ言っていた。慰めてあげたいがそんなことはできない、どうしたものかかと思っていたら、
「文じゃーん!」
何人かで固まって行動している天狗達が話し懸けてきた。
「ひ、ひさしぶり」
夢の中の私は返事をする。集団は何故かニヤニヤしながら
「文、見たよ、あのしんぶ」
「うわあああああああ!」
私は物凄い声を出して飛び起きた。あたりはまだ暗い。
「はぁ…はぁ…」
息切れがする、心臓がバクバクしている、吐き気もする。
私は何となく、何となくだが昔のことを思い出した。だからあのあと話し掛けられた後どうなるかも何となく思い出した。思い出したくもなかった。
「あの後……、」
あの後、私はあの天狗達に馬鹿にされ、笑われ、あんな新聞つまらないと言われた。あんだけ必死で頑張って頑張って書いて、あの中で一番新聞らしかったのにだ。あそこでもし私が賢かったらもうあのような新聞は書かずに、きっと天狗達が喜びそうな新聞を書き、馬鹿にされないように努力してただろう。しかし私は馬鹿だった。子供だった。無駄に燃え上がり
「今度こそは!」
と気合いを入れながら自分の好きな新聞、つまり一般の天狗が嫌いな新聞を書いていた。独りよがりの自己満足新聞だが、その時の私はそんなこと気にしていなかった。
そんなことを何年、何十年と続けるとだんだんと周りの天狗の馬鹿にしてくることが多くなっていった。新聞を馬鹿にすることはもちろん、私の頭がおかしいと馬鹿にし、学習能力のない馬鹿鴉と笑われ、底辺新聞記者なのだから新聞をかくこと以外で仕事をカバーしろと言われ、他の天狗の仕事を押し付けられ、雑用なんかもやり続けた。そんな感じに周りの環境が悪化していくだけなのに、私はまだ好きな新聞を書きつづけた。プライドなど捨て、周りの天狗に愛想笑いをしながら、ヘコヘコしながら、自分の好きな新聞を書き続けた。馬鹿にされると分かっていても私は好きな新聞を書きつづけた。あの頃は周りがどんなであろうと、ただ新聞を書くのが好きだったのだ。
だけと何百年もそんなことが繰り返されると流石に私もダメだった。何でこんな新聞書いているのだろうと思い、そんなことを思ってしまう自分がいやでしょうがなく、そんな気持ちは無いと自分に言い聞かすため、さらに好きな新聞を書いていた。しかしある日、その当時のはやり病にかかってしまい、数週間家で寝込んでしまった時があった。そのせいでどうしても新聞のための取材ができずに、新聞大会の期限が残り一週間くらいにもかかわらず、手元には何も資料がないという状態になってしまった。そんなときだった。今、色々と思い出した身から言うと魔がさしたのだと思う。私は記事にあることないことを書き連ねたのだ。書いてみると意外と簡単で、自分が読んでこんなんだったら面白いかな、という妄想を書き連るだけでよいのだから。勿論この時の私はこんなのが入賞するなんて思って無かったと思う、だがその新聞は三位という素晴らしい評価を得た。この時の周りの天狗の反応は凄かった。
「あの文が?」「嘘でしょ?」「ありえないんだけど」 とかそんな声がヒソヒソと聞こえてきたり、中にはあんぐりと口をあけてアホ面さらすほど驚いているやつもいた。
それから一気に私の評価は変わり、今までのことなんか無かったように、むしろ周りがヘコヘコしてきた。私はそれが気持ち良かった。そしてその気持ちを忘れることが出来なかった。麻薬のように、もう一度あのでたらめの記事を、もう一度あのでたらめの記事を……。そんなことをやっている内に忘れていったんだな。そう思った。
あの時位から、例え自分の書きたいものでなくても、したくないことでも、それが周りに評価されることが大事なんだ、という価値観に変わっていった気がする。評価されれば正義。例えどんな内容だとしても。一度そう思ってしまったらもう昔の新聞、自分の好きな新聞なんて書けなかった。書いても書いても意味が無い。評価されないとただの自己満足新聞。所詮、自分の好きなことを仕事に出来るの者はごく僅か。後の者は好きじゃなくても、それをしなければならない。いつまでも、子供みたいに夢を見ることなんて出来ない、大人にならないといけないんだ。そう思い、捏造新聞を書き続けて、自分の好きな新聞を忘れた、いや忘れようとしていたんだ。結局思い出してしまったが。
「はぁー」
昔のことを思い出して整理していたらすでに太陽が昇り始める時間になっており、どんだけ回顧に時間かけていたんだと少し自分にあきれた。しかもあれだけ時間をかけたくせに、これからどうするのか、という答も出ていない。これからも捏造新聞を書き続けるか、それとも思い出した昔の私の新聞を書くか。まぁ、そもそも考えて答が出るものでも無い気がするけど。こんなことで悩むなら、昔の夢なんか忘れていたかった。思い出してしまったから、また自分の新聞を書きたくなってしまった。思いださなかったら、悩みもなく捏造新聞を書いて天狗達からの良い評判だけを受け取り続ける楽な人生だったのに。
とりあえず今日はチルノの取材をやめて、この精神を落ち着かせたい。そう思い、私は外に出て天狗の団扇を使い、風を起こした。その風に自分の声をのせ、相手に連絡するという天狗独自の連絡手段だ。相手は勿論私の信頼する部下だ。数分後、私の部下、犬走椛が目茶苦茶不機嫌そうな顔でやってきた。確かに朝早くに起こしたのは悪いけど、上司の前ではその表情を隠しましょうよ椛さん。そう思ったがこんなことを言ったら「じゃあ起こすな」とか言ってキレそうだったのでやめた。とりあえず今度なんか奢ってあげよう、覚えていたら。さて、あんまり待たせすぎると椛の怒りが有頂天になりそうなので早急に用を伝えなければ。
「これをチルノさんに渡してくれませんか?湖にいますので」
そう言って私は椛が来る数分の間に書いたチルノ宛ての手紙を見せた。内容は単純に風邪気味なので今日の取材は中止させて頂きます、的な内容だ。
「わかりました。」
椛はイライラした声で返事をしながら受けとり、チルノのいる湖の方へ飛んでいった。まだ朝早いからチルノはいないかもしれないが、まぁいいや。それより眠いから寝よう。そう思い布団に潜った。
寝初めてからどれくらいの時間が経ったかは分からない。けど玄関からドンドンと音が聞こえてきた時には日は結構昇っていた。それより誰だ、安眠妨害するやつは、いい感じに寝ていたのに。しかし出ないという訳にはいかないので、仕方なく玄関のほうへ行き、
「どなたですか。」
といいながら扉を開けた。そこにはチルノと椛がいた。何で?と思っていたら
「チルノさんが、お見舞いしたいらしいので連れて来ました。」
と椛が言った。
「文、風邪大丈夫?」
チルノは少し心配そうな表情で聞いてきた。どうやら、冷やかしやイタズラなどで来たのでは無いようだ。流石にここまでちゃんと見舞いに来た客を無下に帰すことは出来ず、
「はい、風邪はもう大丈夫です。熱もないですし。家に上がりますか?」
と聞いた。チルノは
「文の家の中に入るー!」
と元気な声で返事をし、椛は、
「まだ、仕事があるので失礼させて頂きます」
と言ってすぐにどっかに飛んでいってしまった。釣れない子だ。
「じゃあ家の中に入って下さい。」
そう言ってチルノを家の中にいれ、自分の部屋までチルノを通したら、
「ここが文の部屋かー」
と言って物色を始めた。おい、お見舞いはどうした。まぁ言っても多分聞かないだろうから、
「物は壊さないでね」
と言うしか無かった。
「分かったー!」
元気よく返事。まぁ今チルノが漁っている場所は昔からいらないものを適当に投げ捨てとく所だから、無くなったりして大変な物は何一つとして無いんだけどね。
チルノがごみだめを漁り始めてから何分経っただろうか。恐らくチルノは完全にお見舞いで私の家に来たことを忘れている。やはりチルノは子供なんだな、とか考えていたら、
「あー!」
と何かを見つけた声が聞こえた。まさかゴキ○リとかじゃないだろうな、とビクビクしながらも、花果子年報とかいう名前の新聞を丸め、チルノのほうに近づいてみたらそこには私の書いた新聞があった。とりあえずゴ○ブリでないことに安心し、丸めておいた新聞は部屋の隅にブン投げた。しかしこの新聞、タイムリーなことにまだ私が好きな事を好きなだけ書いていた頃の新聞で、題名は幻想郷の素敵な風景、と書いてあった。しかし何故チルノはこれに反応したのか、とりあえず
「これ、私が昔書いた新聞だけどどうしたの?」
と聞いてみた。
「この新聞、持ってるからびっくりしたの!」
え、持っている?チルノが?私の新聞を?何で?頭の中はクエスチョンマークで一杯になり、言葉として出たのは、
「何でこんな昔の新聞持っているのですか?」
という質問がでた。月並みな質問かもしれないが、これしか言葉に出なかった。
「人間が落としていったんだよ!」
どういうことだ?
「チルノさん、もう少し詳しく説明出来ますか?」
「文はあの説明じゃわかんないのー?バカだなぁ。」
くそ、目茶苦茶イラッとする。だが仕方ない。
「はい、すみません。教えてくれませんか?」
下手にでるのは昔から得意だったのよ。今日思い出したんだけど。
「しょうがないなー」
そういいながらチルノは教えてくれた。口調は面倒臭い、という感じだったが表情はとても嬉しそうだった。かわいいやつめ。
それからチルノの話しを何十分かかけて聞いたが、私の知りたい内容については数分程度しか触れておらず、チルノの世間話や武勇伝などがほとんどだった。とりあえず要約すると、私の新聞にのっていた写真の場所に行こうとしていた人間を途中でイタズラして遊んだら、持っていた新聞を落としたらしい。それをチルノが拾ってみたら、チルノもその写真に痛く感動したらしく、新聞に書いてあった地図を頼りにその場に行ったら、想像以上の美しい風景が広がっており、この新聞を書いた人は凄い、とチルノの脳内でなったらしい。聞いている時、あまりのベタ褒めで恥ずかしく、私は顔を赤くして下をむいていただろう。こんなふうに新聞に対して褒められたことが今までに一回も無かったからだ。ともかく、ヒャッホーとか叫びたいほど嬉しかった。
「お褒めの言葉ありがとうございます。チルノさん」
とりあえず感謝の言葉を言った。テンション上がり過ぎて、声が裏返ったけど気にしない。
「すごいね、文!ねぇ他にも文の新聞みせてよ!」
その言葉で自分のテンションの高さが元に戻った。なぜかって?今私の書いている新聞は昔の私が書いている新聞とは違うからだ。もし今書いている新聞をチルノに読ませたら、どんな反応をするのだろうか。つまらないといって新聞を投げるかもしれない。微妙な表情をうかべるかもしれない。ともかく、いい反応をしないのは確かだ。しかし、だからと言って見せないというのもまたおかしい。私、射命丸文がこれ以外に新聞を書いたことが無い、なんてことはありえないからだ。どうやって返答しよう。考えても思い付かず、黙りこくってしまった。そしたら
「文どうしたの?」
チルノが聞いてきた。私はもう半分無意識で、
「い、いやなんでもいりませんよ。そうですね、私の新聞は勿論他にもありますが、もしそれらの新聞は今チルノさんが読んだような新聞とは違う、と言ったらどうしますか?」
と言った。少しおかしい感じもしたが、パニクってたから仕方ない。
「え、もうこういう新聞書いてないの?」
「え、まぁ、そうですね。」
流石にばれたか。まぁそっちのほうが、こっちも楽だからいいけど。
「そしたら、悲しいな。」
「悲しい?」
「だってあの新聞、もう読めないんでしょ?」
本当にチルノはしょんぼりとしていた。ここまで素直に感情表現するほど、私の新聞が好きだったというのは本当に嬉しいことだ。出来ることなら、この言葉を昔の私に聞かせてやりたい。そんなことをしみじみ思い、黙っていたら、
「なんであんな感じの新聞書くのやめちゃったの?」
とチルノが聞いてきた。恐らく普段の私だったらはぐらかして、答えていなかった質問かもしれない。しかし、ここまで私の昔の新聞を好きだと言ってくれた妖精の前でそんなことをする気にもならなかった。
「単純に言いますと、疲れたんだと思います。」
「疲れた?好きなことをやってるのにそんなことあるの?」
やはり、子供は羨ましい。
「はい。勿論、私もそう思っていた時期がありました。どんなことがあっても、自分の好きな事が出来ればどうだっていいと。だけど、私が新聞を書いても、書いても、書いても、だれも私の新聞が好きだと言ってくれなかったんですよ。中傷の言葉はたくさん言ってくれたんですけどね。そんな中で何百年も書いていたら、ある日とても疲れたんです。だからもういいやって思って、適当に新聞書いて、そしたら今まで貰えなかった賞が貰えて、皆から認められて。だから私は昔の新聞を書くのをやめたんです。書いても報われない、書いても意味が無い、こんな風に思ってしまいましたからね」
今まで、誰にも言ったことが無いことを、自分でも昔の私を思い出したくないからと忘れていたことをチルノに話した。
「文、何言ってるの?」
チルノが突然聞いてきた。私は訳が分からず、え?と声を出した。
「私は文の新聞が大好きだよ!きっとあの新聞のよさが分からないなんて、そいつらはバカなんだ!だからそんなバカのことは気にしないで、書いて!あの新聞は最高だよ!自信を持ってよ!なんたって最強のあたいが言ってるんだから!」
なんとも子供らしい単純な意見。しかも返事として、少し的外れにも感じるバカさ。しかしその言葉は本当に嬉しかった。思わず涙がでそうになったが、こっちは大の大人。上を向いてなんとか我慢した。その間チルノは、どうしたの?と聞いてきたが、なんでもないと言ってごまかした。その後、上を向きながらありがとうとも言った。チルノは、何が?と聞いてきた。私は、今日あのことを思い出してから悩んでいた私に、一歩踏み出す勇気をくれたことについてだよ、と言いたがったが、恥ずかしかったので言えなかった。
数十分後、あの状態から落ち着いたら、自然と
「私、もう一度書いてみようかな」
と私は呟いていた。勿論、天狗の価値観は今も昔も変わってないから、また好きな新聞を書けば、新聞大会の順位は下がり、周りにまたバカにされるだろう。だけど、そんな価値観をぶち壊す位に面白い新聞を書いてやる。
「本当?やったー!」
チルノの喜ぶ声が聞こえた。今の私にはたった一人だけど、私の新聞を大好きといってくれた妖精がいる。例え周りから自己満足などと言われても、何百年バカにされようと、一人でも私の新聞が好きという人がいるなら書いてみせる。そして自己満足新聞といってきた奴ら、バカにしてきたやつらも全員私の新聞を認めさせてみせる。何百年かかったとしても。久しぶりに、血がたぎるような情熱が生まれてきた。
「こうしちゃいられません!チルノさん、今から取材してもいいでしょうか?」
「いいよ!」
さぁ書こう。好きな新聞を書いてやる。今度は絶対逃げない。その決意を持って私は扉を力強く開けた。
チルノの子供らしさや、⑨っぽさ、お見舞いに来る優しさがいいですね。
文章もうまいと思います。ただ、webというか、自分の環境だと、字が詰まりすぎて読みにくく感じました。
もう少し改行を多くしてもらった方がうれしいです。
あと、文が自分らしい新聞を書こうと決心するのが、早すぎるように思いました。
何百年もの間、大衆受けのする新聞を作ってきたわけで、その間、自分好みの新聞を作りたいという逡巡があったと思います。
しかし、文は迷いながらも、自分が書きたい物を書くのではなく、大衆受けする新聞を書こうと決断を続けてきたはずです。
何度も自問したと思われるのに、チルノがその新聞を好きだという一言で、今までの迷いを全部吹っ切ってしまうのは、ちょっと安易かなと私は感じました。
やはり、長い間悩んでいた問題なら、解決にもそれなりの時間や展開を挟んで欲しいというのが一読者としての願いです。
すいません、えらそうに長々と書いてしまいました。笑殺ください。
ですが、やはりもう少し改行を多くすることで読みやすくなるかと思います。
後、これは個人的な趣味ですが、今回の取材に際して昔の新聞に掲載した場所にチルノが案内して、それを文が夢に見る―――等の繋ぎがあっても面白いかなーとか思いました。
妖怪の山の社会性や文の悩み等、良かったです。
次回作も楽しみにしています。
に笑いましたwww
チルノの純粋さに文が救われるというオチは、分かり易くて大好きです。
気なった所は、物語序盤での文のチルノへの呼称が、さん付だったり呼び捨てだったりするところでしょうか。
他の方も書かれていますが、改行を増やした方が物語に入りやすくなってよりいいと思います。
次の作品も楽しみに待ってます!!!
素敵な新聞でした。
面白かったです、一回若いころの文の新聞をよんでみたいw
評価とかレートとかそんなもの気にしてられるかという純粋な文章に惹かれました。
次回も流行りに囚われない、のびのびとした作品でありますよう。
これからどのような新聞を送り出していくのか楽しみです
あとチルノが岩を打ち続ける理由が結局子供だからというのでは
意味のない描写に思えてしまいました。
自分の中だけでも折り合いが付けばまた始めたくなりますよね。
不思議な魅力のあるSSでした。