Coolier - 新生・東方創想話

わくわく

2005/07/25 09:40:56
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きい、と椅子を軋らせると、パチュリーは、小悪魔の知らせに訝しげに眉をひそめた。
「宴会…?」
「はい。以前ひと悶着あった冥界の人たちやら辺りの小妖まで含めて、あの黒白の主催だそうです。特に理由はない、月曜日は何でもない日で酒が呑めるぞぉ、だそうですが」
訝しげが、今度は苛立たしげに変わる。
「ふん、面倒なことね。貴重な読書の時間をふいにしてまで、騒がしい外へ出て行って乱痴気騒ぎに巻き込まれろと言うの」
いかにも不機嫌そうな…もっとも、ほとんどいつでもむすっとした表情のような気もするが…主人を見て、小悪魔がおずおずと切り出した。
「あ、あの…やはり、お断りになりますか?そうおっしゃると思いまして、断りの手紙はいつでも書けるようにしてありますけど…」
紫の魔女はしばらく無言のまま、何を考えているのかじっと小悪魔を見つめ…
「…いえ、いいわ。レミィにも招待状が来ているのでしょう?レミィが行くのにその客分の私が面倒だから断るなんて、紅魔館の沽券にかかわるわよ」
「は、はい!…そ、そうですよね…短慮でした、申し訳ありませんっ!」
そう言って勢いよく下げられた小悪魔の頭をぽんぽんと叩くと、パチュリーはやや優しく言った。
「別にいいわ、あなたの判断自体は間違っていないから。そうしたいけどできない、ってだけ。…さ、適当に準備をしておくから、その間に昨日壊れた第二閲覧室を修理しておいてちょうだい」
「はい、わかりました」
パチュリーは素直にうなずいて退出する小悪魔をじっと、静かに見送り、ドアが閉まって、再び部屋が静寂に包まれた。



…と、その瞬間。パチュリーは閲覧室から急ぎ足に自室へ戻り…
「宴会かあ…外に誘われるなんて初めてね。何着てこうかな…いつも同じ服じゃあちょっとあれだし…」
その態度はまさにころりと一変し、いかにもうきうきとした足取りで、病弱も意識のどこへやら、時折ステップを踏んでくるくると回ってまでいた。
「それに、魔理沙も来るのよね…やっぱりもうちょっと…あっ、この間入った銀のアミュレット。あれなら、ペンダントだしデザインもちょうどいいな。えっと、確か引き出しに…」
独りごとを忙しなくしゃべりながらいそいそと机の引き出しを探るその姿は、とても先刻の不機嫌な魔女と同一人物のものとは思えなかった。そして、目的のものが見つかると、その顔はにこにこと笑みに崩れる。
「うん、これこれ。あの青のドレスと一緒にするといいかな…ふむ…あ、ちょうどいい腕輪もあったわよね。あれはどこにあったかな…♪」



と、その時。部屋の扉が静かにノックされた。瞬間、空中に飛び上がって三回転、ひねりを加えて、一瞬のうちに彼女はいつもの無愛想な表情で愛用の椅子に音もなく着地した。それは実に見事な芸であった。
「…何」
「失礼します、パチュリー様。閲覧室の修理のことなのですが、宴会の準備に大勢駆り出されていて人手が…」
扉を静かに開けて入って来た小悪魔の言葉を、パチュリーは言下に切り捨てた。
「そう。じゃあ、今日はもういいわ。あなたも準備を手伝ってらっしゃい。妹様の準備もあるから、レミィもいつもより人手がいるんでしょう」
「はあ、しかし…よろしいんですか、本当に?」
「決定に確認はいらない…そうでしょ、小悪魔?」
「はい、差し出口でした。…あ、パチュリー様のお支度のお手伝いはどうしましょう?」
「別にいらないわ。どうせ大した支度をする気もないもの。せいぜい、みっともなくない程度ね」
「そうですか…かしこまりました」
頭を下げて退出しようとしかけた小悪魔に、パチュリーはぼそりと声をかけた。
「…小悪魔」
「はい?何でしょうか」
小悪魔は振り向き、何か忘れたことでもあったかと首を傾げた。そんな彼女に、パチュリーは平坦な声で告げた。
「ご苦労」
「…ありがとうございます」
しかし、その言葉を受け取った小悪魔は心底嬉しそうだった。無愛想ではあっても、この主人が彼女を深く思いやってくれているのは知っていたから。



そして、小悪魔が今度こそ部屋を出てから数分。何度も慎重に部屋の外を観察してから、パチュリーはドアを閉めなおした。急ぎすぎて、ドアにたまたま落ちていた布切れが挟まって閉まりきらなかったことにさえ気付かずに。
「さて、と…」
再びいつもの無愛想はどこへやら、にこにこと彼女は本棚へと歩み寄った。
「あまり持って行くと、宴会なのに誰の相手もしないって嫌われるかしら。でも、魔理沙とかアリス相手なら話題の種にもなるから…少しくらいは持って行きましょうか。さて、何を持って行くといいかな…」
実に楽しそうに、彼女は本棚の本を次々と取り出してはめくっていった。
「宴会ってどんなかしら。きっと楽しいわね。そうだ、私も何か作って持って行こうか。でも、はしゃいでるのが分かっちゃうと恥ずかしいしね…」
とうとう鼻歌まで交えだす始末。しかもなかなか上手かった。…ちなみに、彼女のこんな姿を他人が目にしたことは、非常に古いつきあいのレミリア以外では一切ない。仮にいたとしたら、その者は哀れにもその場で豪華白玉楼行き片道旅行のチケット当選が確定していただろう。



「あの、パチュリー様。レミリア様がお呼びで…」
「?!」
…いや。なかった、と言うべきだろう、今となっては。不幸にもこのタイミングで図書館に来てしまい、たまたま閉まり切らずに開いてしまっていたドアの中を覗いてしまったのは、いつもの事ながらやっぱり紅魔館の門番、紅美り
「見たわね」
…それはもう、刃のように鋭く、深く、底冷えのする声だった。説明さえ問答無用で切り払える程度には。
「…い、いえいえいえ!見てません、何も見てません、パチュリー様が鼻歌交じりに踊ってたり、楽しそうに鏡の前でドレス合わせするとこなんて一切見てませんってば!」
あまりにあり得ないものを見てしまったショックに、言葉を選ぶことも忘れて自らの死刑宣告書にサインをしてしまった哀れな門番の周囲に、ふわりと五色の石が浮かび上がった。
「火+水+木+金+土符『賢者の石』…」
「ひ、ひぇえ?!」
「喘息の調子も良いから、とっておきの魔法見せてあげるわ」
「あわわわわわパ、パチュリー様、お許しをー!」
「…さて、消極的に記憶がなくなるまで殴る方法は…」



…とまあ、ドタバタしたやり取りで約一名ほどの参加が治療で遅れることになりつつも、宴会はつつがなく始まることとなった。
パチュリーはその賑やかな中でもいつも退屈そうにしていたが、なんだかんだで振られた話題にはきちんと答えたので、話し相手にはあまり事欠いていなかった。だから、彼女の周りもそれなりに賑やかだった…本が読めないと始終こぼしてはいたが。
しかし、ある時を境に、彼女はその賑やかさの中に妙な気配を感じ、調査に乗り出した。この宴会に悪影響を与えるものなら排除しなくてはならないからだ。せっかくみんなと会っていられる時間を、彼女は何としても守りたかった。外面はいくらつまらなさそうにしていても、次の日が楽しみで夜なかなか寝付けない日々が続くくらいに彼女はこの外出を楽しんでいたのだ。



「……どうして最初からそんなにカリカリしてるの?」
「ここんところ、三日置き位に腹を立てるのが、日課だったからよ。でも、私はあんたの事をよく知ってるよ。ずっと見てきたもの。宴会ではいつも退屈そうにしてたわね。口数も少なくて、存在自体も忘れられそうに。でも、本当は一番楽しみにしてるんでしょ?…普段は余り出かけて無いから寂しいのよね。今日、漸く私の元に来たのは、好奇心?それとも……建前かしら?」
「うるさいわよ。貴方。口数が多いのは相当イライラしている証拠。腹を立てた方が勝負に負けるよ」
「じゃあ、負けた方が腹を立ててた方って事ね」
「そうね」
「残念。私は結構イライラしてるんだ」
(こっちも、邪魔されて相当イラついてるんだけどね…まったく)



――以降、東方萃夢想本編、萃香ストーリーモードへと続く――
ストーリーモード萃香会話の「本当は一番楽しみに…」を見て、ふと考え付いて勢いのままだっと書き上げてみました。
実は部屋ではいそいそと準備をしているパチェ萌…げほげほ。ううむ、知らないうちに某スレに侵蝕されつつあるような気がする…(笑)


※ご指摘のあったかぎ括弧、修正しておきました。感謝です。
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コメント



0.3310簡易評価
6.80名前が無い程度の能力削除
ぱちゅーーーん(やられ音) 落とされました。
12.90名前が無い程度の能力削除
ああ…やばい。
パチェ大好き派の人間にとってこれは…コレは…致死…量…だ……。
17.80懐兎きっさ削除
無駄にアクロバティックな瞬間芸がカッコかわいいです。
萃香が実はパチュリーの独り言とか全部聞いてたりしたら面白いですね。
美鈴と同じく確実に亡き者にされるのでしょうが。ともあれ人目を憚って素に戻るパチェ萌h…いえ別に?
(あと萃香との会話、萃香の一つ目の会話の始めに鉤括弧が抜けてますです)
38.無評価七死削除
こう言う気持ちになったとき、多く語る必要なんてありゃしねえ。
たった一言で片付けるのが男ってもんだ。

そうだな、こう言うときは静かに深く丹田に力を七部のラインややギリギリにしぼりながら、心の中で十字架を三回きって祈りながら目を細め、東を向いてにやりと口の端を吊り上げながら、ああそれじゃだめだめまるで解ってないこうにやりとなっちゃだめだ、ぬたり、これが正しい、そうそれでいながら顎をひいて首をちょいと斜めににかしげながら頭の後ろぽりぽりっとかきつつ、遠い昔の流れ星なんぞを思い出しながら煙草の煙をぷかりと吐き出すようにパチェ萌えって言うんだよ。
46.70沙門削除
 美鈴の瞳に映ったパチェに萌え。