※この作品には以下の要素を含みます。
※未来話(都合上、萃夢想は無かった事にされています。紅魔郷以前の過去作と香霖堂は曖昧にされてます)
※なお、この月ノ涙~アリスの本~の舞台は、前回の~野春菊~より数年ほど時を遡った時代であり、
※「月ノ涙~魔理沙編~」の第四話になります。
4月19日
近くの空き家に誰かが住み着いたらしい。
少し様子を見に行ってみたが、どうやら元々この家の持ち主だった家系の人間のようだった。
こんな人も妖怪も寄り付かないような魔法の森に住もうとは、なかなかどうして酔狂な人間もいたものだ。
私の邪魔にならなければいいが、所詮は人間のしかもまだ年端もいかない少女。
すぐに元いた家に戻るだろう。
6月4日
たまたま見つけたマジックアイテムを持ち帰ろうとしたら、例の人間に出くわした。
どうやら彼女もこれを狙っていたらしい。先に見つけたのはこちらなのだが。
再三自分の物だと主張するのでひと勝負する事になった。
多少は魔法が使えるらしいが、まだまだ私の敵ではなかった。
目尻に涙を浮かべて悔しがる姿を見ていると少し可哀相かとも思ったが、獲って食われなかっただけマシだろう。
しかし、人間にしてはなかなか見込みがある。次が楽しみだ。
6月29日
またしてもあの人間と出会ってしまった。彼女は魔理沙というらしい。
相変わらずの理不尽な物言いに思わず獲って食ってやろうかとも思ったが、どうやら前回の借りを返したかっただけのようだった。
前回よりも少しだけ力を上げて勝負に挑んだのだが、彼女はこちらが予想していたよりも遥かに力を上げていた。
結果として負けてしまったが、あんなに嬉しそうな顔を見せられてはまだまだ本気じゃないなどとはとても言えなかった。
尤も、そんなこちらの手の内をばらすような事は絶対に言わないが。
11月21日
最近魔理沙を見かけなくなった。
家まで行って外から中の様子を窺ってみると、苦しそうな顔をしてベッドで寝ている姿が見えた。何かの病気だろうか。
だが、生憎私には人間の病気に関する知識などというものは持ち合わせていなかった。
折角新しい魔法を試すいい相手ができたと思っていたのだが、人間とはなんとも不便なものだ。
11月22日
どうにも気になってしまったので香霖堂へと行ってみた。
しかし人間が病気なので薬が欲しい、などと言ったところでそうそう簡単にくれるはずがない。
店主が言うには、人間とは実に様々な病気にかかり、それによって必要となる薬が替わってくるのでただ病気というだけではどの薬が効くのかが解らないのだそうだ。
だが私が魔理沙の名前を出すと、店主はあぁ、と暫く考えた後私にひとつの紙包みを寄越してくれた。
どうせただの風邪だろうと言っていたが、その様子から察するにこの店主も魔理沙とはそこそこの付き合いがあるのだろう。
あれだけの物がある店だ。あの娘なら立ち寄っていない方がおかしいようにも思えた。
貰った薬を持って魔理沙の家に行くと、そこには昨日と変わらず苦しげな顔で寝ている魔理沙の姿が見えた。
家の中に入る訳にもいかないので、とりあえず窓の外枠に紙包みを引っ掛けておいたがちゃんと見つけただろうか。
12月3日
人形たちの手入れをしていると、玄関の戸を叩く音が聞こえた。
好き好んでこんな所を訪れる者などまずいない。
ドアを開けたらいきなり襲われました。なんて事になっては敵わないので玄関から外の気配を探ってみたが、そこには一切何も感じられなかった。
ドアを開けてみると、足元には皿が置いてあり、その上に米を握って三角にして海苔を巻いた物と、大根を漬けた物が乗っていた。
辺りには既に誰もいなかったが、深く生い茂る森の木々のスキマから僅かに覗いた空に、こちらに背を向けて飛んでいく見覚えのある黒白が見えた。
薬の礼のつもりだったのだろうか。
人間の食べ物を初めて食べたが、なかなかに美味しかった。
2月12日
久しぶりに魔理沙に会った。
またしても目の前のマジックアイテムを巡って勝負をしたのだが、今日は負けてしまった。
私に勝ったのがそんなに嬉しいのか、はたまたマジックアイテムが自分の物になったのが嬉しいのか、満面の笑みを浮かべて去っていく魔理沙を見ているとなぜだか安心してしまった。
12月31日
魔理沙に宴会に誘われた。
博麗神社に来いと言われたが、あそこの巫女の霊夢とはあまりいい思い出がない。
少し躊躇ったが、折角の誘いを断るのも気が引けるので行く事にした。
しかし、霊夢は私の事など特に気にする様子もなく、魔理沙と一緒に騒いでいた。
私が気にしすぎていたのか。いや、あの霊夢の事だ。こちらの事など覚えていないのだろう。
途中、酔った魔理沙にきなり抱きつかれた事にびっくりして倒れてしまい、押し倒されたような形になってしまった。
魔理沙はふざけて笑っていたが、霊夢は倒れこんだ私たちを見て、へー、とか、ほぉ~、とか意味深な笑みを浮かべていた。
一体なんだというのか。
5月10日
なかなか春がこない。
誰かが幻想郷の春度をどこかへ持っていってしまったようだ。
私としては別にこのままでもよかったのだが、人間たちは春が来ないと困るらしい。
新しい魔法を試す相手を探していると、幻想郷に残った僅かな春度を掻き集めている魔理沙に会った。
実験も兼ねて足止めをしてみたが、よほど急いでいたのか、私に勝ったというのにいつもの向日葵のような笑顔も見せずに行ってしまった。
それはそうと、その時の戦闘で私のかわいい上海が傷んでしまった。すぐに直してやらないと。
それと新しい魔法はまだまだ改良が必要だ。まだ実践で使うには問題点が多い。
9月11日
この前春が奪われたと思ったら、今度は満月が奪われてしまったようだ。
人間たちは気付いていないみたいだが、奪われたのが満月となっては私を含めた妖怪たちにはいい迷惑だ。
前回のように傍観している訳にもいかないので調査に出てみることにした。
満月を奪うような者が相手では流石に一人では心もとない、もとい、面倒だ。
気は進まないが、魔理沙の家にでも行ってみる事にしよう。
少しもったいない気もするが、グリモワールを数冊持っていけばきっとついてきてくれるだろう。
9月26日
あれから色々とあって間が空いてしまった。
結果として、満月は取り戻す事ができた。
犯人は月人だったのだが、その力の強大さには恐れ入るばかりだ。やはり魔理沙と一緒に行ったのは正解だった。
蓬莱の薬が既になくなっていたのは残念だったが、その存在も確認できた。
月を取り戻す道中で霊夢にもいつぞやの借りを返す事ができたので、今回の一連の事件は万事解決としておこう。
12月31日
魔理沙に宴会に呼ばれた。
つくづく人間とは集まって騒ぐのが好きなんだなと思う。もっとも、魔理沙が騒ぎすぎなだけだとも思うけど。
いつも通りに博麗神社に行くと、何故かそこは見た事もないような大所帯になっていた。
春頃から見かけるようになった亡霊の姫とそのお付。同じく春頃からたまに現れる八雲一家。
そして何故かこの前の事件の犯人である月人たちと蓬莱人。更には紅魔館の面々までもがそこに集っていた。
いくらなんでも集めすぎだろうと思ったが、魔理沙ならやりかねない。
事実、霊夢はもの凄く迷惑そうな顔をしていた。
宴会が始まってからも、やはりその場は混沌としていた。
月人の姫と蓬莱人は仲が悪いと聞いていたが、二人で怪しい笑い声を上げながら飲み比べなんてしていた。案外気が合うんじゃないだろうか。
他の面々もそれぞれで騒いでいたが、私はと言えば隅で一人、孤立していた。
魔理沙は亡霊たちの所に行ってしまったし、かわいいかわいい上海は隣で中国っぽい奴と楽しそうに遊んでいる。上海が楽しいのならそれでいいのだが、友達は選んで欲しい。
見渡していると、どうも宴会が始まってからずっと魔理沙に付きまとっているのが一人。
あれは確か紅魔館に住んでいる魔女。
見ていると、魔理沙に向かって必死にジェスチャーを交えて何かを言っているが、魔理沙はそれを聞くとからからと笑って魔女の頭なんか撫でていた。
自分でも解らないが、何故かむしょうに腹が立ったので魔理沙が腰を下ろした所へ向かい、魔女の逆側に座ってみた。
魔理沙の腕を引っ張ってみると、程よく酔いが回っていたのか簡単にバランスを崩してこちら側に倒れてきた。
それを見た魔女が反対の腕を引っ張って魔理沙を自分の方へと傾ける。
私が魔女を睨むと、向こうも凄い形相でこちらを睨んできた。
暫く睨みあっていたが、二人の間で珍しくおろおろとしている魔理沙が可笑しかったのでこの件は不問にしようと思う。
色々あったが楽しい宴会だった。
今日は長くなってしまった。この辺りで筆を下ろそう。
4月9日。
幻想郷に花が咲き乱れている。
私は再び────────
「おいアリス」
その声に、私は読んでいた本をぱたんと閉じると声の聞こえてきた方へと振り向いた。
「魔理沙、どうしたの?」
「お茶が入ったぜ、少し休憩にしないか?」
そう言ってふたつの湯飲みと羊羹が乗った盆を少し掲げてみせる魔理沙。
確かに、もうこの掃除を始めてから結構な時間が経過している。
そろそろ一休みしてもいい頃だろう。
「そうね、いただこうかしら」
魔理沙がなんとか本来の目的に使えそうなほどに片付いた机の上に盆を下ろし、傍らの椅子に腰掛ける。
置かれた湯飲みを手にとって一口飲んでみる。
そのお茶は昔から変わらない、どこか少し渋い味がした。
すると、頬張っていた羊羹を飲み込んだ魔理沙がそういえば、と聞いてきた。
「お前がいつも大事そうに抱えてるその本、一体何の本なんだ?」
出会った頃から、いや、その前からずっと持っているこの本の中身が気になるようだった。
もちろん正直には答えられないので多少はぐらかさせてもらおう。
「そうね、この世界の全て………かしらね」
「ほう、そいつは興味があるな。是非とも見せてもらいたいもんだ」
「駄目よ。それにあなたが見たところでこの本は使いこなせないわ」
自分の言った言葉に思わず笑ってしまいそうになるのを我慢しながらなんとか応えを返した。
魔理沙は一言、それは残念だ、と言ってまた羊羹を頬張っていた。
けれど、確かにそこにはこの世界の全てが書かれていたのだ。
どんな魔術書にも、どんな文献にも載っていない、私が今までに見て、聞いて、感じてきた私の世界の全てが。
物欲しそうに眺める上海に小さく切り分けた羊羹を渡してやりながら、そんな事を思っていた。
4月24日
二週間ぶりに魔理沙の家を訪れてみた。
家の中に入って呼んでみたが返事が返ってこない。
心配になって部屋まで行ってみると、椅子に腰掛けたまま眠っていた。
膝の上には読んでいる途中だったのだろう、開いたままの本が乗っていた。
その時が夕方で、椅子の後ろの窓が東向きなのが悔やまれるところだ。
もしその窓が西向きならば、僅かに入り込んでくる夕日に照らされた魔理沙はそれはきっと綺麗だっただろう。
もう暫く寝顔を眺めていてもよかったが、日が沈めばまだまだ肌寒い。
風邪を引くといけないので起こすことにした。
起きてからも、どこかまだ寝ぼけているのではないかと思えるような言動だった。
昔の夢を見たと言っていたが、一体どんな夢を見たのか。
5月26日
少し間が空いてしまったが、一ヶ月ぶりに魔理沙の家に向かった。
またしても返事がない。
いつもなら既に起きている時間だったのだが、やはり返事がないと心配だ。
急いで部屋に行ってみたが、そこに魔理沙の姿はなかった。
家の中を探し回ったが、結局魔理沙は居なかった。
部屋の痕跡からつい先程までそこに居た事は間違いないのだが。
その後幻想郷中を飛び回り、聞きまわってみたが結局魔理沙は見つからなかった。
一体どこへ行ってしまったのか。
────────また私は独りになるの?
※未来話(都合上、萃夢想は無かった事にされています。紅魔郷以前の過去作と香霖堂は曖昧にされてます)
※なお、この月ノ涙~アリスの本~の舞台は、前回の~野春菊~より数年ほど時を遡った時代であり、
※「月ノ涙~魔理沙編~」の第四話になります。
4月19日
近くの空き家に誰かが住み着いたらしい。
少し様子を見に行ってみたが、どうやら元々この家の持ち主だった家系の人間のようだった。
こんな人も妖怪も寄り付かないような魔法の森に住もうとは、なかなかどうして酔狂な人間もいたものだ。
私の邪魔にならなければいいが、所詮は人間のしかもまだ年端もいかない少女。
すぐに元いた家に戻るだろう。
6月4日
たまたま見つけたマジックアイテムを持ち帰ろうとしたら、例の人間に出くわした。
どうやら彼女もこれを狙っていたらしい。先に見つけたのはこちらなのだが。
再三自分の物だと主張するのでひと勝負する事になった。
多少は魔法が使えるらしいが、まだまだ私の敵ではなかった。
目尻に涙を浮かべて悔しがる姿を見ていると少し可哀相かとも思ったが、獲って食われなかっただけマシだろう。
しかし、人間にしてはなかなか見込みがある。次が楽しみだ。
6月29日
またしてもあの人間と出会ってしまった。彼女は魔理沙というらしい。
相変わらずの理不尽な物言いに思わず獲って食ってやろうかとも思ったが、どうやら前回の借りを返したかっただけのようだった。
前回よりも少しだけ力を上げて勝負に挑んだのだが、彼女はこちらが予想していたよりも遥かに力を上げていた。
結果として負けてしまったが、あんなに嬉しそうな顔を見せられてはまだまだ本気じゃないなどとはとても言えなかった。
尤も、そんなこちらの手の内をばらすような事は絶対に言わないが。
11月21日
最近魔理沙を見かけなくなった。
家まで行って外から中の様子を窺ってみると、苦しそうな顔をしてベッドで寝ている姿が見えた。何かの病気だろうか。
だが、生憎私には人間の病気に関する知識などというものは持ち合わせていなかった。
折角新しい魔法を試すいい相手ができたと思っていたのだが、人間とはなんとも不便なものだ。
11月22日
どうにも気になってしまったので香霖堂へと行ってみた。
しかし人間が病気なので薬が欲しい、などと言ったところでそうそう簡単にくれるはずがない。
店主が言うには、人間とは実に様々な病気にかかり、それによって必要となる薬が替わってくるのでただ病気というだけではどの薬が効くのかが解らないのだそうだ。
だが私が魔理沙の名前を出すと、店主はあぁ、と暫く考えた後私にひとつの紙包みを寄越してくれた。
どうせただの風邪だろうと言っていたが、その様子から察するにこの店主も魔理沙とはそこそこの付き合いがあるのだろう。
あれだけの物がある店だ。あの娘なら立ち寄っていない方がおかしいようにも思えた。
貰った薬を持って魔理沙の家に行くと、そこには昨日と変わらず苦しげな顔で寝ている魔理沙の姿が見えた。
家の中に入る訳にもいかないので、とりあえず窓の外枠に紙包みを引っ掛けておいたがちゃんと見つけただろうか。
12月3日
人形たちの手入れをしていると、玄関の戸を叩く音が聞こえた。
好き好んでこんな所を訪れる者などまずいない。
ドアを開けたらいきなり襲われました。なんて事になっては敵わないので玄関から外の気配を探ってみたが、そこには一切何も感じられなかった。
ドアを開けてみると、足元には皿が置いてあり、その上に米を握って三角にして海苔を巻いた物と、大根を漬けた物が乗っていた。
辺りには既に誰もいなかったが、深く生い茂る森の木々のスキマから僅かに覗いた空に、こちらに背を向けて飛んでいく見覚えのある黒白が見えた。
薬の礼のつもりだったのだろうか。
人間の食べ物を初めて食べたが、なかなかに美味しかった。
2月12日
久しぶりに魔理沙に会った。
またしても目の前のマジックアイテムを巡って勝負をしたのだが、今日は負けてしまった。
私に勝ったのがそんなに嬉しいのか、はたまたマジックアイテムが自分の物になったのが嬉しいのか、満面の笑みを浮かべて去っていく魔理沙を見ているとなぜだか安心してしまった。
12月31日
魔理沙に宴会に誘われた。
博麗神社に来いと言われたが、あそこの巫女の霊夢とはあまりいい思い出がない。
少し躊躇ったが、折角の誘いを断るのも気が引けるので行く事にした。
しかし、霊夢は私の事など特に気にする様子もなく、魔理沙と一緒に騒いでいた。
私が気にしすぎていたのか。いや、あの霊夢の事だ。こちらの事など覚えていないのだろう。
途中、酔った魔理沙にきなり抱きつかれた事にびっくりして倒れてしまい、押し倒されたような形になってしまった。
魔理沙はふざけて笑っていたが、霊夢は倒れこんだ私たちを見て、へー、とか、ほぉ~、とか意味深な笑みを浮かべていた。
一体なんだというのか。
5月10日
なかなか春がこない。
誰かが幻想郷の春度をどこかへ持っていってしまったようだ。
私としては別にこのままでもよかったのだが、人間たちは春が来ないと困るらしい。
新しい魔法を試す相手を探していると、幻想郷に残った僅かな春度を掻き集めている魔理沙に会った。
実験も兼ねて足止めをしてみたが、よほど急いでいたのか、私に勝ったというのにいつもの向日葵のような笑顔も見せずに行ってしまった。
それはそうと、その時の戦闘で私のかわいい上海が傷んでしまった。すぐに直してやらないと。
それと新しい魔法はまだまだ改良が必要だ。まだ実践で使うには問題点が多い。
9月11日
この前春が奪われたと思ったら、今度は満月が奪われてしまったようだ。
人間たちは気付いていないみたいだが、奪われたのが満月となっては私を含めた妖怪たちにはいい迷惑だ。
前回のように傍観している訳にもいかないので調査に出てみることにした。
満月を奪うような者が相手では流石に一人では心もとない、もとい、面倒だ。
気は進まないが、魔理沙の家にでも行ってみる事にしよう。
少しもったいない気もするが、グリモワールを数冊持っていけばきっとついてきてくれるだろう。
9月26日
あれから色々とあって間が空いてしまった。
結果として、満月は取り戻す事ができた。
犯人は月人だったのだが、その力の強大さには恐れ入るばかりだ。やはり魔理沙と一緒に行ったのは正解だった。
蓬莱の薬が既になくなっていたのは残念だったが、その存在も確認できた。
月を取り戻す道中で霊夢にもいつぞやの借りを返す事ができたので、今回の一連の事件は万事解決としておこう。
12月31日
魔理沙に宴会に呼ばれた。
つくづく人間とは集まって騒ぐのが好きなんだなと思う。もっとも、魔理沙が騒ぎすぎなだけだとも思うけど。
いつも通りに博麗神社に行くと、何故かそこは見た事もないような大所帯になっていた。
春頃から見かけるようになった亡霊の姫とそのお付。同じく春頃からたまに現れる八雲一家。
そして何故かこの前の事件の犯人である月人たちと蓬莱人。更には紅魔館の面々までもがそこに集っていた。
いくらなんでも集めすぎだろうと思ったが、魔理沙ならやりかねない。
事実、霊夢はもの凄く迷惑そうな顔をしていた。
宴会が始まってからも、やはりその場は混沌としていた。
月人の姫と蓬莱人は仲が悪いと聞いていたが、二人で怪しい笑い声を上げながら飲み比べなんてしていた。案外気が合うんじゃないだろうか。
他の面々もそれぞれで騒いでいたが、私はと言えば隅で一人、孤立していた。
魔理沙は亡霊たちの所に行ってしまったし、かわいいかわいい上海は隣で中国っぽい奴と楽しそうに遊んでいる。上海が楽しいのならそれでいいのだが、友達は選んで欲しい。
見渡していると、どうも宴会が始まってからずっと魔理沙に付きまとっているのが一人。
あれは確か紅魔館に住んでいる魔女。
見ていると、魔理沙に向かって必死にジェスチャーを交えて何かを言っているが、魔理沙はそれを聞くとからからと笑って魔女の頭なんか撫でていた。
自分でも解らないが、何故かむしょうに腹が立ったので魔理沙が腰を下ろした所へ向かい、魔女の逆側に座ってみた。
魔理沙の腕を引っ張ってみると、程よく酔いが回っていたのか簡単にバランスを崩してこちら側に倒れてきた。
それを見た魔女が反対の腕を引っ張って魔理沙を自分の方へと傾ける。
私が魔女を睨むと、向こうも凄い形相でこちらを睨んできた。
暫く睨みあっていたが、二人の間で珍しくおろおろとしている魔理沙が可笑しかったのでこの件は不問にしようと思う。
色々あったが楽しい宴会だった。
今日は長くなってしまった。この辺りで筆を下ろそう。
4月9日。
幻想郷に花が咲き乱れている。
私は再び────────
「おいアリス」
その声に、私は読んでいた本をぱたんと閉じると声の聞こえてきた方へと振り向いた。
「魔理沙、どうしたの?」
「お茶が入ったぜ、少し休憩にしないか?」
そう言ってふたつの湯飲みと羊羹が乗った盆を少し掲げてみせる魔理沙。
確かに、もうこの掃除を始めてから結構な時間が経過している。
そろそろ一休みしてもいい頃だろう。
「そうね、いただこうかしら」
魔理沙がなんとか本来の目的に使えそうなほどに片付いた机の上に盆を下ろし、傍らの椅子に腰掛ける。
置かれた湯飲みを手にとって一口飲んでみる。
そのお茶は昔から変わらない、どこか少し渋い味がした。
すると、頬張っていた羊羹を飲み込んだ魔理沙がそういえば、と聞いてきた。
「お前がいつも大事そうに抱えてるその本、一体何の本なんだ?」
出会った頃から、いや、その前からずっと持っているこの本の中身が気になるようだった。
もちろん正直には答えられないので多少はぐらかさせてもらおう。
「そうね、この世界の全て………かしらね」
「ほう、そいつは興味があるな。是非とも見せてもらいたいもんだ」
「駄目よ。それにあなたが見たところでこの本は使いこなせないわ」
自分の言った言葉に思わず笑ってしまいそうになるのを我慢しながらなんとか応えを返した。
魔理沙は一言、それは残念だ、と言ってまた羊羹を頬張っていた。
けれど、確かにそこにはこの世界の全てが書かれていたのだ。
どんな魔術書にも、どんな文献にも載っていない、私が今までに見て、聞いて、感じてきた私の世界の全てが。
物欲しそうに眺める上海に小さく切り分けた羊羹を渡してやりながら、そんな事を思っていた。
4月24日
二週間ぶりに魔理沙の家を訪れてみた。
家の中に入って呼んでみたが返事が返ってこない。
心配になって部屋まで行ってみると、椅子に腰掛けたまま眠っていた。
膝の上には読んでいる途中だったのだろう、開いたままの本が乗っていた。
その時が夕方で、椅子の後ろの窓が東向きなのが悔やまれるところだ。
もしその窓が西向きならば、僅かに入り込んでくる夕日に照らされた魔理沙はそれはきっと綺麗だっただろう。
もう暫く寝顔を眺めていてもよかったが、日が沈めばまだまだ肌寒い。
風邪を引くといけないので起こすことにした。
起きてからも、どこかまだ寝ぼけているのではないかと思えるような言動だった。
昔の夢を見たと言っていたが、一体どんな夢を見たのか。
5月26日
少し間が空いてしまったが、一ヶ月ぶりに魔理沙の家に向かった。
またしても返事がない。
いつもなら既に起きている時間だったのだが、やはり返事がないと心配だ。
急いで部屋に行ってみたが、そこに魔理沙の姿はなかった。
家の中を探し回ったが、結局魔理沙は居なかった。
部屋の痕跡からつい先程までそこに居た事は間違いないのだが。
その後幻想郷中を飛び回り、聞きまわってみたが結局魔理沙は見つからなかった。
一体どこへ行ってしまったのか。
────────また私は独りになるの?