三度、勝手な設定の幻想郷です。
特に『○○』に関しては公式設定(?)すら無視してます・・・多分。
ですので、そんな幻想郷は認めないという方はご遠慮をお願いします。
怒んないで怒んないで。
『時の魔術師の刻』
魔理沙「暑いぜ」
霊夢「暑いぜ」
レミリア「暑くて」
三人「死ぬぜー」
一糸乱れぬコンビネーション。博麗神社の縁側で一つの芸術が誕生した。
見るべきはその心の繋がり。強固な絆。美しい友情。
「・・・・って、私は別に平気なんだけど」
―――芸術の命の、何と儚いことか―――
夏も盛りの幻想郷。人間以外は概ねいつも通りで、人間だけが猛暑にバテていた。
汗一つかかないで座るレミリアを中心に、両脇で霊夢と魔理沙が寝転がっている。
「・・・四季を味わう事が出来るのは人間だけって、パチェが言ってたわ」
「そんな風流より今は涼をクレ~・・・」
もう半分溶けてるんじゃないかってくらいダレた魔理沙がぼやいた。
「アンタ、噛んでもらったら~・・・?」
これまた溶けかかった霊夢もぼやいた。
「噛んでいいの?」
「涼の為に人生捨てる気は無いぜ~・・・?」
そう、残念。レミリアは特に尾を引く事無く諦めた。
みーん・・・みーん・・・・みーん・・・・
蝉達が絶え間なく鳴き続ける。
「れいむ~・・・、水でも撒けよ~・・・」
「思い立った奴がやりなさいよ~・・・」
「・・・・・任せたぜレミリア~・・・・」
「無理ね、日差しが強すぎるわ。・・・というかしないわよ私は」
――――チリーン・・・・
涼を告げる風鈴がフォローとばかり、一度だけ鳴った。
「・・・・そういや」
魔理沙が言った。
「そういや今日は一緒じゃないのか~、ナイフマニアのメイド長は~・・・」
「メイドを何人か連れて買出しに行ったわ」
「・・・この⑨も殺せるような日に、良く働くなぁ・・・」
感心したというより呆れたに近い感慨。
「終わり次第迎えに来るって言い張ってたわ。私は別に良いって言ったんだけど」
「仕事熱心だなぁ・・・・」
「何か自分が居ない間に、私が紅白色や白黒色に染まってたら大変とか言ってた」
「想像力豊かだなぁ・・・・」
もう半分は聞いていなかった。
――――チリーン・・・・
「・・・・そういや」
魔理沙が言った。
「そういやあの切り裂きマニアは、歳幾つなんだっけか~・・・?」
霊夢が少しだけ顔を上げた。
――――チリーン・・・・
「直接聞いて、穴だらけになってくれば?」
「だから居ない時、本人以外に聞いてるんだぜ?」
二人は起き上がって、レミリアを挟む形で対峙した。
「・・・アイツ、その手の話は避けてた気がするわ」
「避けてたぜ」
言いながら、両側から同時にレミリアを見つめる。
そのどちらにも顔を向けず、
「私も知らないわよ」
レミリアは言った。
「知らないの?」
「知らないわ」
「あの幼女マニアの事なら、何でも知ってると思ってたぜ」
――――チリーン・・・・
ジワジワジワジワ・・・・・・・
「二十歳は超えてるよなぁ?」
「超えてる・・・・・かなぁ」
「だってあの落ち着きようは無いだろ?・・・瀟洒なんてアダ名も」
「そんなの人それぞれじゃない」
「んー?・・・じゃ霊夢はどう思ってるんだ?」
霊夢は腕を組んで考えた。
「二十歳前後・・・・十八、九・・・いって二十一くらい・・・・」
「十八ぃ?・・・老け過ぎだぜ」
「ちょっと人より成熟が早いだけよ、きっと」
「胸以外がか」
二人とも、本人が居ないと思って言いたい放題である。・・・霊夢は居ても言うかも
しれないが・・・
顔立ちは若い。霊夢や魔理沙とそう離れているとは思えなかった。背は高いほう
だ。胸は・・・・あれだ、割愛。
やはり性格が二人の意見を割っている。魔理沙は瀟洒ぶりで成人女性と考えていて、
その中でたまに見せる『素』・・・ヌケたところが、霊夢にそれほど年上じゃないと思わ
せていた。
――――チリーン・・・・
「賭けるか?・・・二十歳超えてたら私の勝ち。超えてなかったら霊夢の勝ち」
「何を賭けるのよ」
「勝った方が、負けた方を一日好き勝手出来るってどうだ」
魔理沙が人差し指を立てながら提案する。その顔をジーッ・・・・・・と見つめていた霊夢が、
そのままニヤリと笑った。
「ビクリッ!?」
「い~わよ~、乗ったわその賭け・・・・・ウフフフフフフフ・・・・」
魔理沙は何かとんでもないモノを呼び覚ましてしまったと直感する。しかし吐いた唾は
飲めず。時既に遅し。目覚めた霊夢は冥界一堅い盾でもきっと止められない。きっと。
「好きにして良いって?あれやこれや思い立ったわよ~ウフフフ」
両手をわきわき動かす霊夢。そこはかとなく不吉である。紅白なのに。
「やばいぜこれは・・・、勝たなきゃ『普通の魔法使い』って名乗れなくなるぜ多分・・・」
かつてどんな強敵と対峙しても不敵に笑っていた魔理沙。しかし今は眼前の邪気に戦慄し
顔を青くしていた。
かくて。何の気無しに始まった咲夜の歳当ては、魔理沙の乙女的に大事なモノを賭けた
大決戦へと発展してしまったのであった。
これが後の悲劇を生む事は、浮いた足をプラプラさせていた運命を操る紅い悪魔でも
読み切ることが出来なかった・・・・・・とか。
――――チリーン・・・・
みーんみんみんみんみん・・・・・・・
ジーワジーワ・・・・・・
カナカナカナ・・・・・
日がやや傾いてきた頃。
暑さも少しだけ引いたようだ。霊夢も魔理沙も少しだけ元気になっている。
三人は時折少なく会話する以外、風鈴の音をただ聞いた。
・・・・もっとも、たまにレミリアの右でウフフと笑い声が聞こえたり、それを聞いた左が
ビクリと体を振るわせた後、小さくかたかたと震えたり、などはあったが。
「あ」
レミリアが声を出した。視線の先、赤く染まり始めた空に青い点が一つ。近付かなくても
全員が理解した。彼女は・・・・・・
しゅたっ、
「お嬢様、お待たせ致しました」
瀟洒に頭を垂れる。
「よう、ナイフマニア」
「いらっしゃい、切り裂きマニア」
「ご苦労様、幼女マニア」
「・・・・救い様が無い人格破綻者ですわね」
紅魔館のメイド長、時を操る悪魔の狗、十六夜咲夜・・・である。
「ねぇ咲夜」
レミリアが何気なく話しかけた。
「はい、なんでしょうお嬢様?」
「あなた、歳は幾つなの?」
―――始まった。最初は無難に、主であるレミリアが尋ねるという作戦。あっさり嘘を
返される確立が高いが・・・・、レミリアなら怒ってナイフも投げまいという考え。
・・・・は、浅はかだった。
カカカカカカカッ!
レミリアの両脇、二人の周囲に無数のナイフが突き刺さった。
「・・・ああ、そう思うわな」
「迂闊だったわねぇ」
特に驚く事も無く。未だ笑顔を崩さぬ従者を二人は見つめた。投げる前に時を止めて
主をしっかり自分の胸に抱いているあたり、実に完璧で瀟洒。
「そうですわね・・・・、お嬢様は幾つだと思います?」
にっこり笑って言った。因みに主を胸に抱いたまま。
聞いてレミリアは、んー、と小首を傾げる。人差し指を口の下に付ける。非常に愛ら
しい仕種で、思わず咲夜は頬擦りしたい衝動に駆られた。
スリスリ「ちょ、咲夜!?」スリスリ
我慢は出来なかったようだ。
「うっひょーお嬢様ほっぺやわらか・・・・・ハッ!」
霊夢と魔理沙のジト目で我に返る。
「・・・コホン、失礼致しました・・・・で、お嬢様?」
何事も無かったように佇まいを直す。その手際はまさに見事の一言だったが、霊夢も
魔理沙も酷く疲れたような顔をしていた。
「え、えーっと・・・・・、二十歳?」
気を取り直すのに少しかかったが、レミリアは霊夢と魔理沙の話を思い出して言って
みる。
―――――咲夜の口の端がほんの僅か動いたのを、魔理沙は見逃さなかった。
「・・・・正解ですわお嬢様、流石です」
―――――咲夜の声が若干震えているのを、霊夢は聞き逃さなかった。
即ち、嘘。まず嘘をつくだろうと思って構えていたが故、その僅かな変化を逃しは
しなかった。
・・・そして魔理沙は心の中でガッツポーズをし、霊夢は同じ様に舌打ちした。あれで
動揺したという事は。二十歳であると言い難かったという事は、それより上である可能性
が高い。二人はそう思ったのである。
そうと解れば、魔理沙に俄然ヤル気が出てきた。
「ぃよっしゃ!私が本当の事言わしてやるぜ、咲夜!」
両手をパンと叩いて魔理沙が立ち上がった。
「あんたら、お嬢様まで使って何を企んでるのよ」
「お前の年齢が知りたいだけだぜ?暇つぶしに」
「二十歳だって言ったでしょ?」
「そんな嘘は、魔理沙さんのピュアな恋心がとっくの昔にお見通しだぜ☆」
胸の前で両手のコブシをぴったり付けて、ぱちっとウインク。
「・・・・・喧嘩の押し売りね?・・・なら高く買ってあげるわよ」
咲夜から膨大な殺気が生まれる。先程まで呑気な神社の境内が不穏な空気に支配され、
木々に止まっていた鳥達が一斉に空へと避難していった。
チャキッ・・・
咲夜の両手に多数のナイフ。両腕を交差して投げる構え。鋭い目で魔理沙を睨む。
対する魔理沙。おもむろに愛用の帽子の中に手を突っ込んだ。もぞもぞ、やがて
一冊の本を取り出す。
「・・・?グリモワール?」
咲夜が警戒し、構えにより一層力を込める。
魔理沙がその本を開きながら、クククと笑った。
「コイツは外の世界の魔道書だ。何でも人の心を見透かしてどんな秘密も暴いちまうって
危険な代物らしいぜ。・・・私も使うのは初めてだが」
蒐集家、霧雨魔理沙の恐るべきコレクション。大概は役にも立たない、精々五十へぇ得る
程度の能力しかないアイテムばかりだが・・・・、たまにこんな究極兵器が眠っていたりする。
外の世界を変えてしまう程のモノだってあった。・・・もっともそれは、不用品として格安で
売ってしまっていたりするが。
「・・・・じゃあいくぜ!紅魔の狗ッ!!」
「上等よ!不吉の魔法使い!!」
先手必勝、咲夜がナイフを投げる――――
直前。
「そもさん!!(答えられるか)」
魔理沙が大声で言った。
「せ、せっぱ!?(答えてみせよう)」
突然の出来事に、咲夜はつい調子を合わせてしまった。
その瞬間、体が動かなくなる。金縛り、ピクリとも動けない。
―――しまった。咲夜は舌打ちした。これはおそらく呪文・・・呪だ。
「かかったなメイド長。これでお前さんはこの本の問いかけに嘘偽り無く答える事しかでき
ない。・・・・そして全ての質問が終わった時、お前の秘密は全て暴露される・・・!」
咲夜の顔から血の気が引いた。何と恐ろしい魔法だろうか、戦慄する。
グリモワールからむらさき色のオーラが生まれた。やがてそれは顔を形作る。
「・・・汝、呪の契約によって我が質問に答えよ・・・・!」
暗闇の底から響くような声。
「うっ・・・くっ・・・・・、は、はい・・・・!」
否応無く返事してしまう咲夜。
「おっほぉ、こりゃ予想以上にすげぇ威力だぜぇ」
効果の程に満足する魔理沙。
「第一の質問・・・・お前の伴侶に対する理想を述べよ・・・・」
「ウ・・アッ・・・!・・・プ、プニッとしてチョコンとして・・・早い話がれみりゃ様・・・!」
「第二の質問・・・・その理想がお前の前に現れた・・・どうする」
「グウゥッ・・・!と、とりあえずお着替えと称して脱がせて、どさまぎでアッチコッチ
触りまくる・・・!」
「第三の質問・・・・・」
「ア、グウァ・・・!お嬢様萌えぇ・・・!」
「・・・愛されてるわねぇ」
霊夢がため息をついた。
「・・・あれさえ無ければ完璧なんだけどねぇ」
レミリアもため息をついた。
質問は十ほど続き、その都度咲夜のレミリアに対する愛情とか劣情とかどろどろしたもの
とかが浮き出て、最後の方は呪をかけた魔理沙もうんざりしている始末だった。
「質問終了・・・全てを理解した・・・」
むらさきの顔が魔理沙に向けて言った。
「・・・・あー、やっと終わったか。・・・あやうくこっちがダウンするとこだったぜ」
座ってあさっての方向を向いていたが、言われてやれやれと腰を上げた。
金縛りが解けて、咲夜がその場に膝を付く。汗が滴り落ちる。呼吸が荒い。
「では・・・結果を報告する」
「おう、派手に頼むぜ」
「や、やめてぇ・・・・!!」
咲夜の静止虚しく、それは高々と声を上げた。
「この者、十六夜咲夜は・・・・」
「九十八パーセントのロリコン度だ」
「は?」
目を丸くした魔理沙が、何ともマヌケな声を上げる。
「真性のロリコンだ。相当にヤヴァイ。もう回復の見込みは無い。社会復帰はまず無理
だろう・・・・・」
「いやだろうって・・・・・・・・・・・・・・それだけ?」
「では、また我が必要になったら呼ぶが良い・・・」
シュゥゥゥ・・・・、むらさきの顔は再び本の中に戻っていった。
魔理沙は思いっきり本を地面に叩き付けた。そしてゲシゲシと何度も踏みつけた。だが
しばらくして、まぁ効果の程はどうあれ、これも珍しいアイテムには違いないと思い直す。
拾い上げて自分で汚したトコロをパンパン叩き、土を落として再び帽子の中にしまった。
スコーン、
そんな彼女の後頭部にナイフが命中。ぱたり、魔理沙は静かに倒れた。
魔理沙Lose、残機マイナス一。
「・・・ったく、相変わらず魔理沙の道具は頼りにならないわねぇ」
お払い棒の先で魔理沙を小突く霊夢。魔理沙は時折ピクッと反応するだけだった。
「・・・・で、あなたはどうする気なの?博麗霊夢」
咲夜は瀟洒に立ち直っていた。少し疲労の色が見えるが、それでも臆することなく、
かつて主をも退けた紅白の巫女の前に悠然と立った。
「私?・・・回りくどいのは面倒くさくて嫌いよ」
「あなたらしいわ・・・・じゃあ実力行使ね」
「一番確実ね」
「一番悪手だわ」
倒れている魔理沙を「邪魔」とばかりに蹴り飛ばす。そして霊夢はお払い棒を静かに構えた。
咲夜も再びナイフを構える。張り詰めた空気。今度は本当の弾幕ごっこが始まる・・・か?
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ジリッ・・・、数ミリずつ足をずらし、お互いがその距離を縮めていく。
「・・・アンタが私に勝てると思ってるの?」
霊夢が袖から御札を取り出す。
「あの時と同じとは思わない方が良い―――!」
言うと同時に咲夜はナイフを投げた。速く鋭い。
瞬時にその場から飛ぶ霊夢。その影に十数本のナイフが刺さった。
空中で静止、霊夢の右手にあった御札が青い炎をあげて燃える。瞬時にそれは数十本の針に
生まれ変わった。巫女針、正式名称パスウェイジョンニードル。そして左手に攻撃用の御札、
同時に咲夜へ向かって放った。針は咲夜のナイフに勝るとも劣らぬ速度で飛び、御札は射角の
狭い針をフォローする形で広範囲にばら撒かれる。霊夢が得意の弾幕形成。
「時符ッ!!」
咲夜がスペルカードを取り出した。彼女の足元に魔方陣が生まれる。
「くらえッ!!」
殺人ドール。咲夜の回りに数えるのも馬鹿らしい程のナイフが現れる。それらはまるで意思を
持つかのように飛び、霊夢が形成した弾幕の一点を打ち破った。残ったナイフはそのまま霊夢に
向かって猛進していく。
「甘いわ!」
しかし霊夢、このナイフの群れを容易く回避する。極小さな動きだけで。
これが博麗巫女の力。その名も「究極の面倒くさがり」、動きまくっての回避は疲れるから嫌、
なんてくだらない理由で生まれた、最小限の動きだけで弾幕を回避する技。
出来ると思ったら出来てしまう、天賦の才を持つ霊夢だから出来た奥義。
「チッ・・・!」
咲夜も穴が開いた弾幕を容易く回避する。しかし相殺させたとは言え、スペルが一つ丸々通じない
という結果は面白くない。
そうだ。以前この二人が紅魔館を襲撃した時もそうだった。手持ちのスペルを全て破られ、敗北
した。
―――お嬢様が見ている。二度の敗北など絶対許さない・・・!
決意新たに、咲夜は霊夢をしっかりと見据える。
「アンタの能力は奇襲やだまし討ちに特化したもの・・・、正面きっての弾幕じゃ私には当てられない」
余裕の霊夢。再び両手いっぱいの御札を取り出した。
「那由他の位まで敵を追え・・・!博麗アミュレット!!」
放つ。御札は数枚ずつが融合し巨大なアミュレットを形成する。それは回転しながら不規則な動きで
咲夜に向かって飛んでいく。
咲夜が空を飛ぶ。しかしアミュレットは目標を見失わない。瞬時に飛ぶ方向を変えて、再び咲夜に
接近する。
咲夜は再びスペルカードを構えた。
自身の速度を限界まで上げた連続切り、『傷符』インスクライブレッドソウル。
「っはああぁぁぁぁぁぁッ!!」
無限の剣閃。迫るアミュレットを次々に切り落としていく。そして最後のそれを切ったと思った
刹那―――
「もらったわッ!!」
真後ろで声がする。咲夜は慌てて振り向いた。そこにはスペルカードを今まさに宣言しようとする
霊夢が居た。理屈関係無しにこの巫女は瞬間移動が出来る。咲夜が霊夢から一瞬でも目を離せば、
その後ろを取る事は容易かったのだ。
顔を強張らせる咲夜。カードを構える霊夢。
そして―――
霊夢の動きが止まった。
「・・・フゥ・・・」
咲夜が一息つく。
「・・・奇襲とだまし討ちに特化してるですって?霊夢、その通りよ」
ニヤリ、動かぬ霊夢に咲夜が笑った。
「最初のスペル、私は時符を宣言した・・・なのに殺人ドール?あれは幻符よ。使ったのはプライベート
スクウェア」
自分を中心とした限定空間内の時間を操るスペル。そして『傷符』も宣言はしていない。回りの時間
を遅らせて、あたかも咲夜が高速運動しているように見せただけ。
「時符の発動時間内にあなたが仕掛けてくるかは賭けだったけど・・・」
勘が鈍ったんじゃない、霊夢?
そう言って、咲夜はナイフを一本投げた。霊夢の眉間ぎりぎりでそれは停止する。
「・・・・・そして時は動き出す」
ドンッ!!ドンッ!!
「!!うあぁッ!!」
時が動き出した直後。衝撃音。
悲鳴を上げて・・・・・・咲夜は倒れた。
全て落としたと思っていたアミュレットが二枚、咲夜に背中から直撃したのである。
「な・・・・何ッ・・・!?」
「・・・・フゥ、間に合ったみたいね」
霊夢の声がする。眉間の前で止まっていたナイフは、今もそこで停止していた。
スペルが発動していた。強固な霊力製の壁を二枚重ねた防御スペル『夢符』二重結界。その壁に
刺さるような感じでナイフは止まっていた。霊夢が結界を解くと、カラン、と音を立てて地面に
落ちる。その近くに霊夢は着地した。
「ま、確かにあんたのカードの種類なんて覚えてないわよ。それにあんたが形成した弾幕もちゃんと
スペルカードの効果に見えた」
ぽんぽん、お払い棒で自分の肩を軽く叩いた。
「だけど言った通り。アンタのスペル・・・と言うよりアンタ自身、奇襲とだまし討ちが得意。正面から
弾幕って私に勝とうとしてるなんて、⑨みたいな考えはするはずがない」
「・・・・・・・」
咲夜、無言。
「だから私が無用心に突っ込めば必ず仕掛けてくると思ったわ。必殺でね」
「・・・・・・・」
「で、タイミングをずらしたアミュレットを二発、撃ったのよ。私が突っ込んだ直後にアンタに届く
よう調節してね」
「・・・・・・・」
「後は攻撃するフリをして、防御用のスペルを宣言した。・・・正直、目の前にナイフが見えた時は冷や汗
掻いたわよ」
あっはっは、霊夢はまるでそんな事無いかのように笑った。
「・・・・クッ!」
「何、まだやる気?」
咲夜はよろよろと立ち上がった。途中で膝に力が入らず崩れ落ちる。霊夢の弾幕の中でも威力的には
低いアミュレットだが、直撃で二発ともなれば、人間である咲夜には大きいダメージである。
それでも・・・何とか立ち上がろうとする咲夜。
その肩を、優しくレミリアが叩く。
「お・・・お嬢様・・・・・!」
「もういいわ、咲夜。あなたの負けよ」
・・・その一言で勝負はついた。もう咲夜は無理に立ち上がろうとはしなかった。
――――チリーン・・・・
カナカナカナカナ・・・・・・・
「さて、じゃー綺麗サッパリ喋ってもらおーか」
残機を一つ減らした魔理沙が、まるで自分の手柄のように問い詰めた。
「・・・・・ぅ」
ボロボロの咲夜、小さく呻いて口ごもる。
「何だ、ここまで来て抵抗すんのかよ」
「・・・しないわよ。しない・・・・けど・・・・」
非常に咲夜らしくない、弱気な物腰だった。
「けど?何だよ」
「・・・これから言うのは本当よ。お嬢様の従者として誓っても良い・・・・、だから」
「だから?」
「・・・・笑ったら許さないからね・・・!」
じろり、魔理沙を睨みつける。・・・そんなに歳くってるのだろうか。今更だが言い知れぬ罪悪感が
湧いてきた。・・・だからと言って止めはしないが。
しばらく沈黙。
そして、
咲夜は再び口を開いた。
「じゅう・・・・・ご」
「・・・・・・・・・・はぁ?」
霊夢と魔理沙が同時に声を上げた。
「・・・十五よ・・・!・・・もうすぐ十六になるわ・・・!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・沈黙。
「・・・・えええぇぇぇぇぇぇッ!?」
「ぶッ!ぶぅッ!ぶわっはっはっはっはっはっ!!」
霊夢は目玉が飛び出るんじゃないかというほど見開いて驚き、魔理沙は堪え切れず爆笑した。
「わ、若いとか、そんなに離れてないと思ったけど、何、一つ二つくらいしか離れてないのッ!?」
「ヒーッ!ヒーッ!お、おま、老け過ぎだぜあっはっはっはっはっはっはっ!!」
「・・・・によ」
ゆらり、咲夜が動いた。
「あ」
「あ?」
「さ、咲夜?」
レミリアまで驚く。
鬼も黙らせると噂のメイド長が、ぽろぽろと涙を流していた。
「何よ・・・私が十五なのがそんなに悪いの!?こんな性格しているから面白いの!?いっつも!
歳を教えると笑うか驚くかして・・・!だから教えたくなかったのにぃ!うわあぁぁぁぁぁん!!」
完璧で瀟洒、ここに崩れる。咲夜は大声をあげて泣き出した。
「お、おい泣くなよ、笑ったりして悪かったぜ」
「うるさい!死んじゃえ白黒!うわーん!!」
「うわ、何だその絶対咲夜じゃ無いボキャブラリーは」
どうしたら良いか解らず。魔理沙はおろおろするばかりだった。霊夢も半ば放心状態である。
その中で。
スッ・・・・
レミリアが咲夜の頬を優しく拭いた。
「・・・・あっ・・・・」
「・・・咲夜、泣かないで。大丈夫、私はアナタを笑ったりしないわ」
にっこり、微笑むレミリア。
「お・・・お嬢さ・・・・・・ふぅぇぇぇぇぇぇぇぇ~~!」
レミリアの胸に抱かれて、咲夜は泣き続けた。よしよし、レミリアがその頭を撫でてやる。
――――美しくも、仰天の光景であった―――――
――――チリーン・・・・
日もすっかり落ちて。
日傘が必要無くなったレミリアは、ヒックヒック言ってる咲夜を抱いて帰っていった。
その消えていった空を、霊夢とまだ居座っている魔理沙が眺め続けていた。
夏も、夜は涼しい。風もあれば尚更。
――――チリーン・・・・
「・・・霊夢」
「なに?」
「今度咲夜に会ったら、私謝るぜ」
「・・・そうね、私も一応、そうするわ」
ふっ、と、二人は笑いあった。
「さて、じゃー私もそろそろお邪魔するぜ」
そう言って、魔理沙は愛用の箒に跨った。
「マテ」
その頭をグワシッと掴む霊夢。
「わひゃッ!?」
「・・・ちょっと誤算があったけど、賭けは私の勝ちよねぇ?」
「・・・・・・覚えてやがった」
魔理沙の顔色がどんどん青くなる。
「あー、霊夢?・・・お手柔らかにな?」
「うふふ、今夜は境内に結界張っておかなくちゃ」
「ちょっ、何する気なんだよぉ!!うわ、離せ離せ離せうわぁーッ!?」
ジタジタ暴れる魔理沙を引きずって、霊夢は部屋の中へ入っていった。
わー、わー、・・・・・ピシャリ。
戸が閉まった。
こ、こんな格好いやだ霊夢ーッ!
え、何、次!?
次っておい、何だこの金粉!?
やだやだやだ助けてあ、・・・・あーーーーーッ!!
――――チリーン・・・・
涼を告げる風鈴がフォローとばかり、一度だけ鳴った。
~終~
特に『○○』に関しては公式設定(?)すら無視してます・・・多分。
ですので、そんな幻想郷は認めないという方はご遠慮をお願いします。
怒んないで怒んないで。
『時の魔術師の刻』
魔理沙「暑いぜ」
霊夢「暑いぜ」
レミリア「暑くて」
三人「死ぬぜー」
一糸乱れぬコンビネーション。博麗神社の縁側で一つの芸術が誕生した。
見るべきはその心の繋がり。強固な絆。美しい友情。
「・・・・って、私は別に平気なんだけど」
―――芸術の命の、何と儚いことか―――
夏も盛りの幻想郷。人間以外は概ねいつも通りで、人間だけが猛暑にバテていた。
汗一つかかないで座るレミリアを中心に、両脇で霊夢と魔理沙が寝転がっている。
「・・・四季を味わう事が出来るのは人間だけって、パチェが言ってたわ」
「そんな風流より今は涼をクレ~・・・」
もう半分溶けてるんじゃないかってくらいダレた魔理沙がぼやいた。
「アンタ、噛んでもらったら~・・・?」
これまた溶けかかった霊夢もぼやいた。
「噛んでいいの?」
「涼の為に人生捨てる気は無いぜ~・・・?」
そう、残念。レミリアは特に尾を引く事無く諦めた。
みーん・・・みーん・・・・みーん・・・・
蝉達が絶え間なく鳴き続ける。
「れいむ~・・・、水でも撒けよ~・・・」
「思い立った奴がやりなさいよ~・・・」
「・・・・・任せたぜレミリア~・・・・」
「無理ね、日差しが強すぎるわ。・・・というかしないわよ私は」
――――チリーン・・・・
涼を告げる風鈴がフォローとばかり、一度だけ鳴った。
「・・・・そういや」
魔理沙が言った。
「そういや今日は一緒じゃないのか~、ナイフマニアのメイド長は~・・・」
「メイドを何人か連れて買出しに行ったわ」
「・・・この⑨も殺せるような日に、良く働くなぁ・・・」
感心したというより呆れたに近い感慨。
「終わり次第迎えに来るって言い張ってたわ。私は別に良いって言ったんだけど」
「仕事熱心だなぁ・・・・」
「何か自分が居ない間に、私が紅白色や白黒色に染まってたら大変とか言ってた」
「想像力豊かだなぁ・・・・」
もう半分は聞いていなかった。
――――チリーン・・・・
「・・・・そういや」
魔理沙が言った。
「そういやあの切り裂きマニアは、歳幾つなんだっけか~・・・?」
霊夢が少しだけ顔を上げた。
――――チリーン・・・・
「直接聞いて、穴だらけになってくれば?」
「だから居ない時、本人以外に聞いてるんだぜ?」
二人は起き上がって、レミリアを挟む形で対峙した。
「・・・アイツ、その手の話は避けてた気がするわ」
「避けてたぜ」
言いながら、両側から同時にレミリアを見つめる。
そのどちらにも顔を向けず、
「私も知らないわよ」
レミリアは言った。
「知らないの?」
「知らないわ」
「あの幼女マニアの事なら、何でも知ってると思ってたぜ」
――――チリーン・・・・
ジワジワジワジワ・・・・・・・
「二十歳は超えてるよなぁ?」
「超えてる・・・・・かなぁ」
「だってあの落ち着きようは無いだろ?・・・瀟洒なんてアダ名も」
「そんなの人それぞれじゃない」
「んー?・・・じゃ霊夢はどう思ってるんだ?」
霊夢は腕を組んで考えた。
「二十歳前後・・・・十八、九・・・いって二十一くらい・・・・」
「十八ぃ?・・・老け過ぎだぜ」
「ちょっと人より成熟が早いだけよ、きっと」
「胸以外がか」
二人とも、本人が居ないと思って言いたい放題である。・・・霊夢は居ても言うかも
しれないが・・・
顔立ちは若い。霊夢や魔理沙とそう離れているとは思えなかった。背は高いほう
だ。胸は・・・・あれだ、割愛。
やはり性格が二人の意見を割っている。魔理沙は瀟洒ぶりで成人女性と考えていて、
その中でたまに見せる『素』・・・ヌケたところが、霊夢にそれほど年上じゃないと思わ
せていた。
――――チリーン・・・・
「賭けるか?・・・二十歳超えてたら私の勝ち。超えてなかったら霊夢の勝ち」
「何を賭けるのよ」
「勝った方が、負けた方を一日好き勝手出来るってどうだ」
魔理沙が人差し指を立てながら提案する。その顔をジーッ・・・・・・と見つめていた霊夢が、
そのままニヤリと笑った。
「ビクリッ!?」
「い~わよ~、乗ったわその賭け・・・・・ウフフフフフフフ・・・・」
魔理沙は何かとんでもないモノを呼び覚ましてしまったと直感する。しかし吐いた唾は
飲めず。時既に遅し。目覚めた霊夢は冥界一堅い盾でもきっと止められない。きっと。
「好きにして良いって?あれやこれや思い立ったわよ~ウフフフ」
両手をわきわき動かす霊夢。そこはかとなく不吉である。紅白なのに。
「やばいぜこれは・・・、勝たなきゃ『普通の魔法使い』って名乗れなくなるぜ多分・・・」
かつてどんな強敵と対峙しても不敵に笑っていた魔理沙。しかし今は眼前の邪気に戦慄し
顔を青くしていた。
かくて。何の気無しに始まった咲夜の歳当ては、魔理沙の乙女的に大事なモノを賭けた
大決戦へと発展してしまったのであった。
これが後の悲劇を生む事は、浮いた足をプラプラさせていた運命を操る紅い悪魔でも
読み切ることが出来なかった・・・・・・とか。
――――チリーン・・・・
みーんみんみんみんみん・・・・・・・
ジーワジーワ・・・・・・
カナカナカナ・・・・・
日がやや傾いてきた頃。
暑さも少しだけ引いたようだ。霊夢も魔理沙も少しだけ元気になっている。
三人は時折少なく会話する以外、風鈴の音をただ聞いた。
・・・・もっとも、たまにレミリアの右でウフフと笑い声が聞こえたり、それを聞いた左が
ビクリと体を振るわせた後、小さくかたかたと震えたり、などはあったが。
「あ」
レミリアが声を出した。視線の先、赤く染まり始めた空に青い点が一つ。近付かなくても
全員が理解した。彼女は・・・・・・
しゅたっ、
「お嬢様、お待たせ致しました」
瀟洒に頭を垂れる。
「よう、ナイフマニア」
「いらっしゃい、切り裂きマニア」
「ご苦労様、幼女マニア」
「・・・・救い様が無い人格破綻者ですわね」
紅魔館のメイド長、時を操る悪魔の狗、十六夜咲夜・・・である。
「ねぇ咲夜」
レミリアが何気なく話しかけた。
「はい、なんでしょうお嬢様?」
「あなた、歳は幾つなの?」
―――始まった。最初は無難に、主であるレミリアが尋ねるという作戦。あっさり嘘を
返される確立が高いが・・・・、レミリアなら怒ってナイフも投げまいという考え。
・・・・は、浅はかだった。
カカカカカカカッ!
レミリアの両脇、二人の周囲に無数のナイフが突き刺さった。
「・・・ああ、そう思うわな」
「迂闊だったわねぇ」
特に驚く事も無く。未だ笑顔を崩さぬ従者を二人は見つめた。投げる前に時を止めて
主をしっかり自分の胸に抱いているあたり、実に完璧で瀟洒。
「そうですわね・・・・、お嬢様は幾つだと思います?」
にっこり笑って言った。因みに主を胸に抱いたまま。
聞いてレミリアは、んー、と小首を傾げる。人差し指を口の下に付ける。非常に愛ら
しい仕種で、思わず咲夜は頬擦りしたい衝動に駆られた。
スリスリ「ちょ、咲夜!?」スリスリ
我慢は出来なかったようだ。
「うっひょーお嬢様ほっぺやわらか・・・・・ハッ!」
霊夢と魔理沙のジト目で我に返る。
「・・・コホン、失礼致しました・・・・で、お嬢様?」
何事も無かったように佇まいを直す。その手際はまさに見事の一言だったが、霊夢も
魔理沙も酷く疲れたような顔をしていた。
「え、えーっと・・・・・、二十歳?」
気を取り直すのに少しかかったが、レミリアは霊夢と魔理沙の話を思い出して言って
みる。
―――――咲夜の口の端がほんの僅か動いたのを、魔理沙は見逃さなかった。
「・・・・正解ですわお嬢様、流石です」
―――――咲夜の声が若干震えているのを、霊夢は聞き逃さなかった。
即ち、嘘。まず嘘をつくだろうと思って構えていたが故、その僅かな変化を逃しは
しなかった。
・・・そして魔理沙は心の中でガッツポーズをし、霊夢は同じ様に舌打ちした。あれで
動揺したという事は。二十歳であると言い難かったという事は、それより上である可能性
が高い。二人はそう思ったのである。
そうと解れば、魔理沙に俄然ヤル気が出てきた。
「ぃよっしゃ!私が本当の事言わしてやるぜ、咲夜!」
両手をパンと叩いて魔理沙が立ち上がった。
「あんたら、お嬢様まで使って何を企んでるのよ」
「お前の年齢が知りたいだけだぜ?暇つぶしに」
「二十歳だって言ったでしょ?」
「そんな嘘は、魔理沙さんのピュアな恋心がとっくの昔にお見通しだぜ☆」
胸の前で両手のコブシをぴったり付けて、ぱちっとウインク。
「・・・・・喧嘩の押し売りね?・・・なら高く買ってあげるわよ」
咲夜から膨大な殺気が生まれる。先程まで呑気な神社の境内が不穏な空気に支配され、
木々に止まっていた鳥達が一斉に空へと避難していった。
チャキッ・・・
咲夜の両手に多数のナイフ。両腕を交差して投げる構え。鋭い目で魔理沙を睨む。
対する魔理沙。おもむろに愛用の帽子の中に手を突っ込んだ。もぞもぞ、やがて
一冊の本を取り出す。
「・・・?グリモワール?」
咲夜が警戒し、構えにより一層力を込める。
魔理沙がその本を開きながら、クククと笑った。
「コイツは外の世界の魔道書だ。何でも人の心を見透かしてどんな秘密も暴いちまうって
危険な代物らしいぜ。・・・私も使うのは初めてだが」
蒐集家、霧雨魔理沙の恐るべきコレクション。大概は役にも立たない、精々五十へぇ得る
程度の能力しかないアイテムばかりだが・・・・、たまにこんな究極兵器が眠っていたりする。
外の世界を変えてしまう程のモノだってあった。・・・もっともそれは、不用品として格安で
売ってしまっていたりするが。
「・・・・じゃあいくぜ!紅魔の狗ッ!!」
「上等よ!不吉の魔法使い!!」
先手必勝、咲夜がナイフを投げる――――
直前。
「そもさん!!(答えられるか)」
魔理沙が大声で言った。
「せ、せっぱ!?(答えてみせよう)」
突然の出来事に、咲夜はつい調子を合わせてしまった。
その瞬間、体が動かなくなる。金縛り、ピクリとも動けない。
―――しまった。咲夜は舌打ちした。これはおそらく呪文・・・呪だ。
「かかったなメイド長。これでお前さんはこの本の問いかけに嘘偽り無く答える事しかでき
ない。・・・・そして全ての質問が終わった時、お前の秘密は全て暴露される・・・!」
咲夜の顔から血の気が引いた。何と恐ろしい魔法だろうか、戦慄する。
グリモワールからむらさき色のオーラが生まれた。やがてそれは顔を形作る。
「・・・汝、呪の契約によって我が質問に答えよ・・・・!」
暗闇の底から響くような声。
「うっ・・・くっ・・・・・、は、はい・・・・!」
否応無く返事してしまう咲夜。
「おっほぉ、こりゃ予想以上にすげぇ威力だぜぇ」
効果の程に満足する魔理沙。
「第一の質問・・・・お前の伴侶に対する理想を述べよ・・・・」
「ウ・・アッ・・・!・・・プ、プニッとしてチョコンとして・・・早い話がれみりゃ様・・・!」
「第二の質問・・・・その理想がお前の前に現れた・・・どうする」
「グウゥッ・・・!と、とりあえずお着替えと称して脱がせて、どさまぎでアッチコッチ
触りまくる・・・!」
「第三の質問・・・・・」
「ア、グウァ・・・!お嬢様萌えぇ・・・!」
「・・・愛されてるわねぇ」
霊夢がため息をついた。
「・・・あれさえ無ければ完璧なんだけどねぇ」
レミリアもため息をついた。
質問は十ほど続き、その都度咲夜のレミリアに対する愛情とか劣情とかどろどろしたもの
とかが浮き出て、最後の方は呪をかけた魔理沙もうんざりしている始末だった。
「質問終了・・・全てを理解した・・・」
むらさきの顔が魔理沙に向けて言った。
「・・・・あー、やっと終わったか。・・・あやうくこっちがダウンするとこだったぜ」
座ってあさっての方向を向いていたが、言われてやれやれと腰を上げた。
金縛りが解けて、咲夜がその場に膝を付く。汗が滴り落ちる。呼吸が荒い。
「では・・・結果を報告する」
「おう、派手に頼むぜ」
「や、やめてぇ・・・・!!」
咲夜の静止虚しく、それは高々と声を上げた。
「この者、十六夜咲夜は・・・・」
「九十八パーセントのロリコン度だ」
「は?」
目を丸くした魔理沙が、何ともマヌケな声を上げる。
「真性のロリコンだ。相当にヤヴァイ。もう回復の見込みは無い。社会復帰はまず無理
だろう・・・・・」
「いやだろうって・・・・・・・・・・・・・・それだけ?」
「では、また我が必要になったら呼ぶが良い・・・」
シュゥゥゥ・・・・、むらさきの顔は再び本の中に戻っていった。
魔理沙は思いっきり本を地面に叩き付けた。そしてゲシゲシと何度も踏みつけた。だが
しばらくして、まぁ効果の程はどうあれ、これも珍しいアイテムには違いないと思い直す。
拾い上げて自分で汚したトコロをパンパン叩き、土を落として再び帽子の中にしまった。
スコーン、
そんな彼女の後頭部にナイフが命中。ぱたり、魔理沙は静かに倒れた。
魔理沙Lose、残機マイナス一。
「・・・ったく、相変わらず魔理沙の道具は頼りにならないわねぇ」
お払い棒の先で魔理沙を小突く霊夢。魔理沙は時折ピクッと反応するだけだった。
「・・・・で、あなたはどうする気なの?博麗霊夢」
咲夜は瀟洒に立ち直っていた。少し疲労の色が見えるが、それでも臆することなく、
かつて主をも退けた紅白の巫女の前に悠然と立った。
「私?・・・回りくどいのは面倒くさくて嫌いよ」
「あなたらしいわ・・・・じゃあ実力行使ね」
「一番確実ね」
「一番悪手だわ」
倒れている魔理沙を「邪魔」とばかりに蹴り飛ばす。そして霊夢はお払い棒を静かに構えた。
咲夜も再びナイフを構える。張り詰めた空気。今度は本当の弾幕ごっこが始まる・・・か?
「・・・・・・」
「・・・・・・」
ジリッ・・・、数ミリずつ足をずらし、お互いがその距離を縮めていく。
「・・・アンタが私に勝てると思ってるの?」
霊夢が袖から御札を取り出す。
「あの時と同じとは思わない方が良い―――!」
言うと同時に咲夜はナイフを投げた。速く鋭い。
瞬時にその場から飛ぶ霊夢。その影に十数本のナイフが刺さった。
空中で静止、霊夢の右手にあった御札が青い炎をあげて燃える。瞬時にそれは数十本の針に
生まれ変わった。巫女針、正式名称パスウェイジョンニードル。そして左手に攻撃用の御札、
同時に咲夜へ向かって放った。針は咲夜のナイフに勝るとも劣らぬ速度で飛び、御札は射角の
狭い針をフォローする形で広範囲にばら撒かれる。霊夢が得意の弾幕形成。
「時符ッ!!」
咲夜がスペルカードを取り出した。彼女の足元に魔方陣が生まれる。
「くらえッ!!」
殺人ドール。咲夜の回りに数えるのも馬鹿らしい程のナイフが現れる。それらはまるで意思を
持つかのように飛び、霊夢が形成した弾幕の一点を打ち破った。残ったナイフはそのまま霊夢に
向かって猛進していく。
「甘いわ!」
しかし霊夢、このナイフの群れを容易く回避する。極小さな動きだけで。
これが博麗巫女の力。その名も「究極の面倒くさがり」、動きまくっての回避は疲れるから嫌、
なんてくだらない理由で生まれた、最小限の動きだけで弾幕を回避する技。
出来ると思ったら出来てしまう、天賦の才を持つ霊夢だから出来た奥義。
「チッ・・・!」
咲夜も穴が開いた弾幕を容易く回避する。しかし相殺させたとは言え、スペルが一つ丸々通じない
という結果は面白くない。
そうだ。以前この二人が紅魔館を襲撃した時もそうだった。手持ちのスペルを全て破られ、敗北
した。
―――お嬢様が見ている。二度の敗北など絶対許さない・・・!
決意新たに、咲夜は霊夢をしっかりと見据える。
「アンタの能力は奇襲やだまし討ちに特化したもの・・・、正面きっての弾幕じゃ私には当てられない」
余裕の霊夢。再び両手いっぱいの御札を取り出した。
「那由他の位まで敵を追え・・・!博麗アミュレット!!」
放つ。御札は数枚ずつが融合し巨大なアミュレットを形成する。それは回転しながら不規則な動きで
咲夜に向かって飛んでいく。
咲夜が空を飛ぶ。しかしアミュレットは目標を見失わない。瞬時に飛ぶ方向を変えて、再び咲夜に
接近する。
咲夜は再びスペルカードを構えた。
自身の速度を限界まで上げた連続切り、『傷符』インスクライブレッドソウル。
「っはああぁぁぁぁぁぁッ!!」
無限の剣閃。迫るアミュレットを次々に切り落としていく。そして最後のそれを切ったと思った
刹那―――
「もらったわッ!!」
真後ろで声がする。咲夜は慌てて振り向いた。そこにはスペルカードを今まさに宣言しようとする
霊夢が居た。理屈関係無しにこの巫女は瞬間移動が出来る。咲夜が霊夢から一瞬でも目を離せば、
その後ろを取る事は容易かったのだ。
顔を強張らせる咲夜。カードを構える霊夢。
そして―――
霊夢の動きが止まった。
「・・・フゥ・・・」
咲夜が一息つく。
「・・・奇襲とだまし討ちに特化してるですって?霊夢、その通りよ」
ニヤリ、動かぬ霊夢に咲夜が笑った。
「最初のスペル、私は時符を宣言した・・・なのに殺人ドール?あれは幻符よ。使ったのはプライベート
スクウェア」
自分を中心とした限定空間内の時間を操るスペル。そして『傷符』も宣言はしていない。回りの時間
を遅らせて、あたかも咲夜が高速運動しているように見せただけ。
「時符の発動時間内にあなたが仕掛けてくるかは賭けだったけど・・・」
勘が鈍ったんじゃない、霊夢?
そう言って、咲夜はナイフを一本投げた。霊夢の眉間ぎりぎりでそれは停止する。
「・・・・・そして時は動き出す」
ドンッ!!ドンッ!!
「!!うあぁッ!!」
時が動き出した直後。衝撃音。
悲鳴を上げて・・・・・・咲夜は倒れた。
全て落としたと思っていたアミュレットが二枚、咲夜に背中から直撃したのである。
「な・・・・何ッ・・・!?」
「・・・・フゥ、間に合ったみたいね」
霊夢の声がする。眉間の前で止まっていたナイフは、今もそこで停止していた。
スペルが発動していた。強固な霊力製の壁を二枚重ねた防御スペル『夢符』二重結界。その壁に
刺さるような感じでナイフは止まっていた。霊夢が結界を解くと、カラン、と音を立てて地面に
落ちる。その近くに霊夢は着地した。
「ま、確かにあんたのカードの種類なんて覚えてないわよ。それにあんたが形成した弾幕もちゃんと
スペルカードの効果に見えた」
ぽんぽん、お払い棒で自分の肩を軽く叩いた。
「だけど言った通り。アンタのスペル・・・と言うよりアンタ自身、奇襲とだまし討ちが得意。正面から
弾幕って私に勝とうとしてるなんて、⑨みたいな考えはするはずがない」
「・・・・・・・」
咲夜、無言。
「だから私が無用心に突っ込めば必ず仕掛けてくると思ったわ。必殺でね」
「・・・・・・・」
「で、タイミングをずらしたアミュレットを二発、撃ったのよ。私が突っ込んだ直後にアンタに届く
よう調節してね」
「・・・・・・・」
「後は攻撃するフリをして、防御用のスペルを宣言した。・・・正直、目の前にナイフが見えた時は冷や汗
掻いたわよ」
あっはっは、霊夢はまるでそんな事無いかのように笑った。
「・・・・クッ!」
「何、まだやる気?」
咲夜はよろよろと立ち上がった。途中で膝に力が入らず崩れ落ちる。霊夢の弾幕の中でも威力的には
低いアミュレットだが、直撃で二発ともなれば、人間である咲夜には大きいダメージである。
それでも・・・何とか立ち上がろうとする咲夜。
その肩を、優しくレミリアが叩く。
「お・・・お嬢様・・・・・!」
「もういいわ、咲夜。あなたの負けよ」
・・・その一言で勝負はついた。もう咲夜は無理に立ち上がろうとはしなかった。
――――チリーン・・・・
カナカナカナカナ・・・・・・・
「さて、じゃー綺麗サッパリ喋ってもらおーか」
残機を一つ減らした魔理沙が、まるで自分の手柄のように問い詰めた。
「・・・・・ぅ」
ボロボロの咲夜、小さく呻いて口ごもる。
「何だ、ここまで来て抵抗すんのかよ」
「・・・しないわよ。しない・・・・けど・・・・」
非常に咲夜らしくない、弱気な物腰だった。
「けど?何だよ」
「・・・これから言うのは本当よ。お嬢様の従者として誓っても良い・・・・、だから」
「だから?」
「・・・・笑ったら許さないからね・・・!」
じろり、魔理沙を睨みつける。・・・そんなに歳くってるのだろうか。今更だが言い知れぬ罪悪感が
湧いてきた。・・・だからと言って止めはしないが。
しばらく沈黙。
そして、
咲夜は再び口を開いた。
「じゅう・・・・・ご」
「・・・・・・・・・・はぁ?」
霊夢と魔理沙が同時に声を上げた。
「・・・十五よ・・・!・・・もうすぐ十六になるわ・・・!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・沈黙。
「・・・・えええぇぇぇぇぇぇッ!?」
「ぶッ!ぶぅッ!ぶわっはっはっはっはっはっ!!」
霊夢は目玉が飛び出るんじゃないかというほど見開いて驚き、魔理沙は堪え切れず爆笑した。
「わ、若いとか、そんなに離れてないと思ったけど、何、一つ二つくらいしか離れてないのッ!?」
「ヒーッ!ヒーッ!お、おま、老け過ぎだぜあっはっはっはっはっはっはっ!!」
「・・・・によ」
ゆらり、咲夜が動いた。
「あ」
「あ?」
「さ、咲夜?」
レミリアまで驚く。
鬼も黙らせると噂のメイド長が、ぽろぽろと涙を流していた。
「何よ・・・私が十五なのがそんなに悪いの!?こんな性格しているから面白いの!?いっつも!
歳を教えると笑うか驚くかして・・・!だから教えたくなかったのにぃ!うわあぁぁぁぁぁん!!」
完璧で瀟洒、ここに崩れる。咲夜は大声をあげて泣き出した。
「お、おい泣くなよ、笑ったりして悪かったぜ」
「うるさい!死んじゃえ白黒!うわーん!!」
「うわ、何だその絶対咲夜じゃ無いボキャブラリーは」
どうしたら良いか解らず。魔理沙はおろおろするばかりだった。霊夢も半ば放心状態である。
その中で。
スッ・・・・
レミリアが咲夜の頬を優しく拭いた。
「・・・・あっ・・・・」
「・・・咲夜、泣かないで。大丈夫、私はアナタを笑ったりしないわ」
にっこり、微笑むレミリア。
「お・・・お嬢さ・・・・・・ふぅぇぇぇぇぇぇぇぇ~~!」
レミリアの胸に抱かれて、咲夜は泣き続けた。よしよし、レミリアがその頭を撫でてやる。
――――美しくも、仰天の光景であった―――――
――――チリーン・・・・
日もすっかり落ちて。
日傘が必要無くなったレミリアは、ヒックヒック言ってる咲夜を抱いて帰っていった。
その消えていった空を、霊夢とまだ居座っている魔理沙が眺め続けていた。
夏も、夜は涼しい。風もあれば尚更。
――――チリーン・・・・
「・・・霊夢」
「なに?」
「今度咲夜に会ったら、私謝るぜ」
「・・・そうね、私も一応、そうするわ」
ふっ、と、二人は笑いあった。
「さて、じゃー私もそろそろお邪魔するぜ」
そう言って、魔理沙は愛用の箒に跨った。
「マテ」
その頭をグワシッと掴む霊夢。
「わひゃッ!?」
「・・・ちょっと誤算があったけど、賭けは私の勝ちよねぇ?」
「・・・・・・覚えてやがった」
魔理沙の顔色がどんどん青くなる。
「あー、霊夢?・・・お手柔らかにな?」
「うふふ、今夜は境内に結界張っておかなくちゃ」
「ちょっ、何する気なんだよぉ!!うわ、離せ離せ離せうわぁーッ!?」
ジタジタ暴れる魔理沙を引きずって、霊夢は部屋の中へ入っていった。
わー、わー、・・・・・ピシャリ。
戸が閉まった。
こ、こんな格好いやだ霊夢ーッ!
え、何、次!?
次っておい、何だこの金粉!?
やだやだやだ助けてあ、・・・・あーーーーーッ!!
――――チリーン・・・・
涼を告げる風鈴がフォローとばかり、一度だけ鳴った。
~終~
・・・・いやぁ、今までにない斬新な考え・・・そうか・・ちょっと老けk(ドスドスドス)ガファ!?
・・・・・ちょっと人より成長が早いのですね・・ガクッ(死
……と言うことはまだまだ発育のチャンスが(ry
何はともあれ楽しんで読ませてもらいました。
涙の咲夜さんもいいなぁ(恍惚
つまり暦の上では15歳でも本人の肉体年齢は既n(時間が止まった
女性の方が成長期に入るのは早いというのも聞きますし。
しかし「社会復帰はまず無理だろう」って結構手厳しいのねグリモワール。
九十八パーセントもあったら仕方ない気もしますけども。
とにかく、楽しませていただきました。
>時間を止めてる間も咲夜自身の時間は過ぎていく。
>つまり暦の上では15歳でも本人の肉体年齢は既n(時間が止まった
実は自分もそう思っt(プライベートスクェア
私も、15くらいでもアリだとは思いますけどね。だって今の時代ならともかく、昔の文化ならそれくらいはすでに成人していた年齢でしょう? それくらいの年齢で既にメイドとして働いていた娘さんだっていたはず。なら、幻想郷の文化レベルなら咲夜さんが15だっておかしくはないでしょうし。
あと、魔理沙が金粉でなにされたかが気になる……。
あの咲夜さんが!?
まぁ、女性なら十五で大体背は伸びきるらしいし……
でもそんなことは瑣末事!!
大泣きするさくぽに萌えた!
…コホン。
咲夜さんが15.でもあり得そう…
ここは天使様しか居ない正にパラダイスだったのデスネー?
ネタ拾いに紅魔郷のテキスト読んでたら、『咲夜、10~20年程人間をやっています』って神主様のコメント発見しまして。「ってこたぁ、咲夜さんは
二十歳前ってことかぁ」なんて漠然と思って。それが咲夜さんを泣かせる為の
トラウマへと直結した訳で。
「んん!?咲夜さん15!?いつもは子供っぽい自分を瀟洒な仮面で隠してる!?」豆蔵の額にピンク色の種が落ちる。ピキーン!何かが覚醒。
しつこいですが、お読み下さった方々・・・愛してますゼッ!
その後の意外な真実と、泣き萌えメイド、ラストは(ピ――ッ)。最初から最後まで、飽きのこない展開!
戦闘場面でスペルの違いに「あれっ?」とは思ったのですが、その後の展開の速さに、そんな事は
すっかり忘れてました。完全に術中に嵌ってるよ、自分……
所々に挿入される風鈴の音や蝉の声も、夏の空気を強く醸し出していて、もう凄く素敵でした♪
うわゎ…今までの咲夜さんのイメージが…
崩れていく…
>時間を止めてる間も咲夜自身の時間は過ぎていく。
>つまり暦の上では15歳でも本人の肉体年齢は既n(時間が止まった
自分も同じ意k(インスクライブレッドソウル
……「天武」じゃなくて・・「天賦」・・ですよぉ…グハァ(滅
・・・って、今まで気付かなかったですヨ。すまんです。
イメージ壊しちゃって本当にゴメンナサイ!
なんか細々しいとこを指摘してすみませんでした。
申し訳ありません。
すいません、やっぱり笑ってまいまったw
まあ普通に考えればそれだけは無いに全財産かけるよねえ、と、15歳で青髭MAXで30と間違えられたオイラがいってみるテスト。
でもそれは15くらいであそこまで成熟させる何かがあったってことで。
98%のロリコンだし、咲夜さんの過去はゆゆ様の胃袋より謎だ。
霊夢金粉使って何したんだ?w