――前略、この度、明後日にて野球大会を実施したいと思います。
そのため、メンバーを募集するにあたりこの手紙を書かせていただきました。
とりあえず明後日博麗神社に集合、話はそれからだぜ。
あぁ来なかったら呼びにいくついでにマスタースパークを打ちにいくのでよろしくだぜ。
「で、あの手紙はなんのつもりよ?」
「なんだ、ちゃんと読まなかったのか?しっかりと“野球大会”と書いてあっただろ」
呆れ顔の霊夢に、さも当然のように言い切る魔理沙。
魔理沙があの手紙を送ってから2日後、つまり野球大会当日である。
「そうね、まずはそこからね。どうして急に野球をするなんて言い出したのかしら?」
「大方パチェの書斎で野球の本でも見て感化されたんでしょ。ったく、こっちはただでさえ日光がきついっていうのに・・・」
「お嬢様、あそこにいるのはルーミアじゃないでしょうか?」
「あら、本当。丁度よかった、このあたり一帯を闇にしてくれない?」
「いいよー」
「あーこれで少しは楽になったわ」
「よかったですねお嬢様」
「あんたらちょっと黙ってなさい・・・。で、野球がしたいのは分かった。じゃあ、どうして此処なのよっ!」
「ほら、あれだ。おまえって人気者だから此処なら皆来るかなって思って」
「またいけしゃあしゃあと・・・。まぁいいわ。それじゃあ最後にもうひとつ」
「おう、なんだ?」
「この人数は何!?」
普段は寂れきっている博麗神社。しかし今日は違った。
人間妖怪、幽霊にはたまた宇宙人と、その境内に所狭しと幻想郷人が訪れていた。
いわずもがな、参拝しに来たわけではない。
「おまえちゃんと手紙読んだか?野球しに来たに決まってるだろ」
大半がマスタースパークを恐れてきたに決まっている。
「野球は最低でも9人必要なんだぜ。人が多くなるのは当然じゃないか」
「分かった、分かったわよ。でも、せめて場所変えれないの・・・?」
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン♪」
「呼んでないわよ」
「呼んでないぜ」
あれは確か、神隠しの妖怪・八雲 紫。彼女まで来てたのか。
彼女ほどの者が魔理沙に恐れてきたとは思えない。きっと何か思うところがあったのだろう。
・・・ただ暇だっただけかもしれないが。
「なによ、冷たいわね。せっかく私が特別の球場を用意してあげたというのに」
「本当!?紫!!」
「スキマ、嘘つかない」
「おいおい、いいのか?こいつのことだぜ、また何か面倒なことになるんじゃ」
「あんたの思いつきのほうが面倒よ。というか、神社じゃないなら無問題!」
「じゃ、決まりね」
どうやら野球は紫嬢のスキマの中で行われることが決定したらしい。
大丈夫なんだろうか・・・不安だ。だが顔に出してはいけない。出せばもっと面倒なことになる気がするから。
「おーい、みんなー!此処は狭くてみみっちいから紫のスキマの中で野球をやることにしたぜー!!」
「狭いいうな!みみっちいいうな!!」
「怒るな、些細なことじゃない」
「むきー!!」
おいおい、こんな状況で喧嘩するなよまったく。
もう少し空気というものを読んでだな・・・
「輝夜!」
「あら、今日はお祭りよ?こっちはやる気がないのに仕掛けてくる気かしら」
なんだ、こっちもか。どうして僕の周りの人たちは落ち着きがない者ばかりなのだろう。
「こら、妹紅。輝夜のいうとおり今日はお祭り。向こうにその気がないんだ、やり合う必要はない」
「けどっ・・・」
やれやれ・・・。
「そんなに勝負がしたいなら、今日の野球で戦えばいいじゃないか」
「そ、それだ!輝夜、お前には絶対負けないぞ!!」
「はいはい、頑張ってねー。期待はあんまりしないであげるわ」
「あとでほえ面掻くなよー!」
ふぅ、とりあえず収まったか。
「済まなかったな、関係ないのに仲介をさせてしまって」
「いえいえ、今日の人数が人数ですから。誰も揉め事なんて見たくないですしね」
「あの二人は犬猿の仲もいいところでな・・・」
「まぁでも、野球で勝負なら大丈夫でしょう」
「・・・だといいがな」
「へ?」
慧音が不吉を漂わせる台詞に驚いたとき、魔理沙が大声で喋りだした。
「よーし、それじゃあ先にチーム分けを発表するぜ。今日は皆沢山来てくれてありがとう。今から名前を呼ぶからしっかり聞いて自分がどっちのチームか、誰が自分のチームかを確認してくれ」
――・・・・・・
魔理沙は箒の上に乗り、2mくらい上空で喋っている。
上から眺めている魔理沙なら見えるだろう。未だに野球面倒くさいオーラを纏っている多くの者たちの嫌そうな顔を。
さて、彼女がそれらをどう説得するかが少しばかり楽しみであったりする。
魔理沙というやつは、自分のしたいことは必ずやる人間だ。もちろん手段は選ばないだろう。さて、どうするのか。
「あー、そうそう。いい忘れてたんだが、優勝チームには、香霖が全額負担の宴会に出席できる権利があたえられるぜ。みんな、頑張って優勝してくれ」
――わぁぁぁぁぁいいぞー!!
・・・おい待て。僕はそんな事一言も聞いてないぞ。君たちのやる宴会にどれだけの食料や酒が消費されているか知らないはずがない。
しかも優勝チームということは必ず誰かに提供しないといけないということだ。
さらに断ったりなんてしてみろ。数が数だ。ふくろにされるのは目に見えている。ただでさえ僕は荒っぽいことはできないというのに。
「んじゃあ、今度こそチームを発表するぜ。みんな聞き逃しとかするなよ」
いつの間にか全員やる気MAXになってるし。どうやら魔理沙の野望を止めることはもう無理らしい。
しかたない、僕も腹をくくるしかないか。
「まず、Aチームの発表だ。
・レミリア
・フラン
・メイド長
・パチュリー
・小悪魔
・中国
・紫
・藍
・橙
の9人だ」
なるほど、紅魔館のメンバーを主軸にマヨイガ一家を含めた妖怪チームか。
パワー重視もいいところだな。
「らんさまらんさま、同じチームだねっ」
「そうだな橙、紫さまも同じだし、頑張るぞ」
「うん!」
「魔理沙がいない・・・魔理沙が・・・魔ぁー理ぃー沙ぁー!」
「お嬢様、この五月蝿い居候、どうします?」
「放っておきなさい。この状態のときに絡むと面倒よ」
「分かりました」
「ごちゃごちゃやってると聞き逃すぜ。次はBチームだ。
・輝夜
・永琳
・ウドンゲ
・てゐ
・妹紅
・慧音
・霊夢
・アリス
・私
以上の9人だ」
月の民+地上の民のチーム。翻弄されそうなメンバーばかりだな。
「ちょっ、どうして輝夜と同じチームなのよ!!」
「あらあら、残念ね。これじゃあ私を倒すことができないわね」
「むっきー!!!」
「落ち着け、妹紅!輝夜より活躍すればいいんだ!!」
最後のチームが発表され、今までわらわら散らばっていた人妖が左右に分散していた。
だが、どちらのチームにも名前がないのは何故だ。僕はいったいどのチームなんだ?
「あぁ、香霖。おまえには審判をやってもらうぜ」
「は?」
「審判だよ、シンパン。審判がいないとカウントがとれないだろ?」
「・・・君は勝手に僕を景品にした挙句に勝手にポジションまで決めて」
「いつものことだろ。じゃあ審判よろしくな。頼んだぜ」
「あ、こら魔理沙。まだ話は終わって・・・もう、本当に話を聞かないやつだ」
理不尽だ。だが、ボイコットしたならばきっとさらに理不尽なことをされるに違いない。
・・・香霖堂全品タダ、とか幻想郷内に言いふらしかねないな。
仕様がない、メリットなんてこれっぽっちもないがデメリットのほうが怖い。やるか。
「それじゃあ、みんなチームでポジションなり作戦なり練ったら、このスキマに入っていってくれ。球場はこの中にあるそうだ」
「本当に大丈夫なのかしら・・・」
「霊夢が許可出したんでしょうが。まったく、あの妖怪とかかわると絶対ろくな事にはならないんだから。ね、上海」
「シャンハーイ?」
「そうそう、スキマの中に入るといくつか能力が制限されるぜ」
「制限?空でも飛べなくなるのかしら?」
「正解。野球に飛行なんて論外だぜ。よって、飛行能力は完全に使用不可だ」
「ちょ、ちょっとまって!私の能力って“空を飛ぶ程度”の能力なんだけど・・・」
「人のことなんて知らないぜ」
「ガーン・・・」
「れ、霊夢・・・」
「こんなへたれ巫女は放っておいて続きだ。飛行は不可能。そして、ドでかい魔力を使うような魔法も禁止されるぜ」
「じゃあ、ロイヤルフレアやサイレントセレナみたいなのは・・・」
「余裕でNGだな。もちろん、私の魔砲もダメだ。本当に使える魔力は微小にしてある」
「いっそのこと完全に禁止すればいいじゃない」
「分かってないな、メイド長。ちょっとくらい使えたほうが面白いに決まってるだろ」
「そういうものなのかしら?」
「そういうものなんだぜ。で、最後だ。試合中の弾幕行為の禁止。今日は、野球をしにきたのであって弾幕ごっこをしに来たわけではない。その事を常に頭に入れておいてほしいぜ」
「弾幕ごっこー」
「お前は特に絶対ダメだ、フランだと球場ごと壊しかねん。・・・とまぁ一通りこんなもんか。それじゃあ、第一試合はAチーム対Bチームだぜ」
珍しい。魔理沙がここまで手際がいいのは珍しい。
・・・きっと何かがあるに違いないな。って、僕はもうすでに被害にあっているわけだが。
まぁただ単に野球がとてもやりたいだけなのかもしれない。
「みんな、準備はできたか?」
――おぉぉぉぉぉ!!
「ならこれより、第1回幻想郷リーグを開催する!!」
スキマを抜けると、そこは球場でした。
なんて名台詞が聞こえてきそうなほど、それは立派に鎮座していた。
日光が苦手な者のことも考えてか、ドームで球場が覆われている。これならあのスカーレット姉妹も安心だろう。
しかも大きい。野球場というだけあって、今此処にいる全員が入っても十分余りある大きさだ。幻想郷じゃあこんな建物は見ることがないだろう。
「って東○ドームじゃないのよ!!!」
「五月蝿いぜ、ただの巫女」
「そうよ。せっかくこの建物を使えるようにしたっていうのに感謝くらいしてほしいわ、ただの巫女」
「ただの巫女いうな!」
「事実だろ?もしかしたらここじゃあ中国にも劣るかもな」
「ガーン・・・」
霊夢ノックダウン。どうやら再起は無理そうだ。
まぁ、霊夢は放っておこう。面倒だが審判をやらなければ。そのためにもルールの確認をしておこう。
・飛行は不可能
・膨大な魔力や能力を必要とする技は使用不可(基本的にはスペルカードの類だろう)
・ただし、ちょっとした魔法や術は使える(そのほうが面白い、らしい)
・試合は3回1ゲーム
・延長戦は5回まで
・明らかな点数差はコールドゲーム
・・・と、こんなところか。
しかし、今更だが皆は野球の基本的なルールを知っているのだろうか。
幻想郷の中では野球なんて行われていない。だからこそ魔理沙が強制召集したのだろうが。
「いいか、橙。お前は足が速いんだ。とりあえず塁に出るんだ、そうすればあとはやりたい放題だ」
「らんさま~盗塁のサインは~?」
「そんなものはいらん。ホームスチールも自分の判断でしていいぞ」
「分かりました~」
「私がどでかい一発を打ってやるから安心しな。マスタースパーク打法だぜ」
「何言ってるのよ、野球というのは一歩一歩確実に進むもの。確実にヒットを打ち確実に犠牲バントで進塁よ」
「そんなちまちまやってられないぜ。私は巨人派なんでな」
「とりあえず勝てばいいんでしょ・・・」
「当たり前だぜ、ただの巫女」
・・・ふむ、よく知っているようだ。ルールを知らないが故にイチャモンでもつけられたらたまったもんじゃない。
「それじゃあ第一試合を始めるぜ。咲夜、永琳。お互い、打順とポジションを発表してくれ」
「分かったわ。それじゃあAチームの発表ね。
1番 橙(遊撃手)
2番 小悪魔(二塁手)
3番 中国(三塁手)
4番 妹様(一塁手)
5番 お嬢様(投手)
6番 藍(右翼手)
7番 私(捕手)
8番 紫(左翼手)
9番 パチュリー様(中堅手)
・・・以上よ」
「次はBチームの発表ね。
1番 魔理沙(中堅手)
2番 てゐ(遊撃手)
3番 妹紅(投手)
4番 霊夢(左翼手)
5番 慧音(三塁手)
6番 ウドンゲ(一塁手)
7番 アリス(二塁手)
8番 姫様(捕手)
9番 私(右翼手)
・・・こんなところね」
「よし、それじゃあ早速はじめるぜ」
「プレイボール」
「まずは魔理沙ね・・・ふふ、軽く三振にしてあげるわ」
「甘いぜ。まずは軽く打たせてもらうぜ」
早速、レミリアが大きく振りかぶって第一球を投げる。
「ふふ、吸血鬼の力、とくと見るがいい!」
レミリアの放った球は、瞬く間に咲夜のミットに吸い込まれた。
・・・速い!あの小さな身体からどうすればあんなスピードが出るのだろうか。
「ボール」
だが、少しばかりコントロールを誤った様だ。
「なんだ、速いだけか。どうやら私は四球みたいだな」
「好き勝手吠えてなさい。あなたは最後に無様にバットを空振りさせて終わる運命なのよ」
「そんな運命なんて願い下げだぜ」
レミリアが振りかぶる。そして第二球を投げた。
速い、さっきよりも速い!しかも狙いは内角高めストライクゾーンギリギリというところだ。
さっきの球はワザとはずしたのだ。自信満々なわけだ。
「もらったぜ」
「なっ・・・」
カキーーーン!!
金属バットが音を立てる。魔理沙が打った。その打球は大きな孤を描き、スタンドへと叩き込まれた。
「ほ、ホームラン!」
「そんな・・・」
あの速い球を見事スタンドへと持っていくとは・・・魔理沙恐るべし。
「だからいっただろ?甘いって」
「くぅぅぅ・・・」
「お嬢様、気を取り直して次です。どうせ1点くらいあとで返せばいいんです」
「そ、そうね・・・魔理沙、覚えてらっしゃい!」
「頑張って忘れるぜ」
1回表
A 0-1 B
「次は・・・なんだ子兎か。楽勝ね」
「よろしくおねがいします☆」
「かっ可愛い・・・」
「咲夜、騙されちゃダメ。兎さん、あなたも本性を出したらどう?」
「・・・けけ、ばれてたか。まぁいい、さっさと投げてこいよこのチビ」
「自分のことかしら?まったく、最近の子供は躾の悪いことだわ」
レミリアが半ばあきれながら振りかぶる。そして、投げる。
しかし、相変わらず速い。果たしててゐは打てるのだろうか。
「けけけ」
なっ、バントの構えだ!セーフティバントを仕掛けるつもりか。ファーストのフランドールもサードの中華娘も気づくのが遅れたのか、前に出てきていない。このままだと内野安打だ。
「もらったよ!」
「だから楽勝って言ったのよ」
「なっ・・・!?こなくそ!!」
レミリアの放った速球。確かに速かったが、実はストレートではなかった。てゐの前で落ちた。フォークボールだったのだ。
しかし、これで変化球に気づいてしまったのがてゐの失態だった。慌ててバットにボールを当てに行く。だがボールの速度を気にするあまり、バットを下げ過ぎてしまったのだ。
その結果、本来バットの下部に当てるはずだったボールはあろうことかバットの上半分に当たり・・・
「オーライ、おーらい・・・」
パスッ。
無様なキャッチャーフライとなった。
「ナイスキャッチよ、咲夜」
「いえいえ、お嬢様の見事な変化球のおかげですよ」
「ちっ・・・」
1回表
一死
A 0-1 B
「さて、軽く左中間でも抜くとするかね」
「ほざけ蓬莱人」
3番妹紅。そろそろあの速い球も見慣れてきたのだろうか、割と余裕そうな表情だ。
そんな妹紅に第一球を・・・投げた。
「ボール」
外れた・・・いや、外した。どうやら様子見らしい。
「なんだ、態度が大きい割りに引け腰だな」
「言ってろ・・・」
「所詮西洋の鬼なんてこんなものか。これならまだ輝夜と殺り合うほうが面白い」
「っ・・・!!」
「さ、早く投げて来い西洋の。しっかりと打ち返してあg&%$#£!!」
「はぁ・・・はぁ・・・ウルサイ!」
「デ、デッドボール!!」
うっわー・・・挑発しすぎてモロ顔面くらっちゃってるよ・・・。
「・・・大丈夫かい?生きてる?」
「あぁ、大丈夫。その娘、蓬莱人だから死なないわ。もうそろそろ復活するんじゃない?」
「・・・ってぇな!あからさまにぶつけるな!」
「はいはい、あなたはデッドボールだからさっさと一塁に行って頂戴。よかったわね、出塁できて」
「こんの吸血鬼が・・・ちっ」
1回表
一死一塁
A 0-1 B
そして、次のバッターはただの巫女霊夢。
ただの巫女はせっかく出塁した妹紅の犠牲を他所に、セカンド真正面のゴロを打ってしまい、併殺打。残念。
「ちょっと、私だけ明らか手抜きじゃないの!」
「どうやらそういうキャラが定着してしまったみたいだね」
「誰によ!!」
「さぁ、さっさとチェンジしてくれ。次はAチームの攻撃だ」
「話を聞けー!!」
1回表を終わって、Bチーム1点リード。
ここからどのようにしてAチームは切り替えしていくのかぁ!!
「香霖うるさいぜ」
「むぅ」
・・・僕だって楽しみたいだけなのに。
そのため、メンバーを募集するにあたりこの手紙を書かせていただきました。
とりあえず明後日博麗神社に集合、話はそれからだぜ。
あぁ来なかったら呼びにいくついでにマスタースパークを打ちにいくのでよろしくだぜ。
「で、あの手紙はなんのつもりよ?」
「なんだ、ちゃんと読まなかったのか?しっかりと“野球大会”と書いてあっただろ」
呆れ顔の霊夢に、さも当然のように言い切る魔理沙。
魔理沙があの手紙を送ってから2日後、つまり野球大会当日である。
「そうね、まずはそこからね。どうして急に野球をするなんて言い出したのかしら?」
「大方パチェの書斎で野球の本でも見て感化されたんでしょ。ったく、こっちはただでさえ日光がきついっていうのに・・・」
「お嬢様、あそこにいるのはルーミアじゃないでしょうか?」
「あら、本当。丁度よかった、このあたり一帯を闇にしてくれない?」
「いいよー」
「あーこれで少しは楽になったわ」
「よかったですねお嬢様」
「あんたらちょっと黙ってなさい・・・。で、野球がしたいのは分かった。じゃあ、どうして此処なのよっ!」
「ほら、あれだ。おまえって人気者だから此処なら皆来るかなって思って」
「またいけしゃあしゃあと・・・。まぁいいわ。それじゃあ最後にもうひとつ」
「おう、なんだ?」
「この人数は何!?」
普段は寂れきっている博麗神社。しかし今日は違った。
人間妖怪、幽霊にはたまた宇宙人と、その境内に所狭しと幻想郷人が訪れていた。
いわずもがな、参拝しに来たわけではない。
「おまえちゃんと手紙読んだか?野球しに来たに決まってるだろ」
大半がマスタースパークを恐れてきたに決まっている。
「野球は最低でも9人必要なんだぜ。人が多くなるのは当然じゃないか」
「分かった、分かったわよ。でも、せめて場所変えれないの・・・?」
「呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン♪」
「呼んでないわよ」
「呼んでないぜ」
あれは確か、神隠しの妖怪・八雲 紫。彼女まで来てたのか。
彼女ほどの者が魔理沙に恐れてきたとは思えない。きっと何か思うところがあったのだろう。
・・・ただ暇だっただけかもしれないが。
「なによ、冷たいわね。せっかく私が特別の球場を用意してあげたというのに」
「本当!?紫!!」
「スキマ、嘘つかない」
「おいおい、いいのか?こいつのことだぜ、また何か面倒なことになるんじゃ」
「あんたの思いつきのほうが面倒よ。というか、神社じゃないなら無問題!」
「じゃ、決まりね」
どうやら野球は紫嬢のスキマの中で行われることが決定したらしい。
大丈夫なんだろうか・・・不安だ。だが顔に出してはいけない。出せばもっと面倒なことになる気がするから。
「おーい、みんなー!此処は狭くてみみっちいから紫のスキマの中で野球をやることにしたぜー!!」
「狭いいうな!みみっちいいうな!!」
「怒るな、些細なことじゃない」
「むきー!!」
おいおい、こんな状況で喧嘩するなよまったく。
もう少し空気というものを読んでだな・・・
「輝夜!」
「あら、今日はお祭りよ?こっちはやる気がないのに仕掛けてくる気かしら」
なんだ、こっちもか。どうして僕の周りの人たちは落ち着きがない者ばかりなのだろう。
「こら、妹紅。輝夜のいうとおり今日はお祭り。向こうにその気がないんだ、やり合う必要はない」
「けどっ・・・」
やれやれ・・・。
「そんなに勝負がしたいなら、今日の野球で戦えばいいじゃないか」
「そ、それだ!輝夜、お前には絶対負けないぞ!!」
「はいはい、頑張ってねー。期待はあんまりしないであげるわ」
「あとでほえ面掻くなよー!」
ふぅ、とりあえず収まったか。
「済まなかったな、関係ないのに仲介をさせてしまって」
「いえいえ、今日の人数が人数ですから。誰も揉め事なんて見たくないですしね」
「あの二人は犬猿の仲もいいところでな・・・」
「まぁでも、野球で勝負なら大丈夫でしょう」
「・・・だといいがな」
「へ?」
慧音が不吉を漂わせる台詞に驚いたとき、魔理沙が大声で喋りだした。
「よーし、それじゃあ先にチーム分けを発表するぜ。今日は皆沢山来てくれてありがとう。今から名前を呼ぶからしっかり聞いて自分がどっちのチームか、誰が自分のチームかを確認してくれ」
――・・・・・・
魔理沙は箒の上に乗り、2mくらい上空で喋っている。
上から眺めている魔理沙なら見えるだろう。未だに野球面倒くさいオーラを纏っている多くの者たちの嫌そうな顔を。
さて、彼女がそれらをどう説得するかが少しばかり楽しみであったりする。
魔理沙というやつは、自分のしたいことは必ずやる人間だ。もちろん手段は選ばないだろう。さて、どうするのか。
「あー、そうそう。いい忘れてたんだが、優勝チームには、香霖が全額負担の宴会に出席できる権利があたえられるぜ。みんな、頑張って優勝してくれ」
――わぁぁぁぁぁいいぞー!!
・・・おい待て。僕はそんな事一言も聞いてないぞ。君たちのやる宴会にどれだけの食料や酒が消費されているか知らないはずがない。
しかも優勝チームということは必ず誰かに提供しないといけないということだ。
さらに断ったりなんてしてみろ。数が数だ。ふくろにされるのは目に見えている。ただでさえ僕は荒っぽいことはできないというのに。
「んじゃあ、今度こそチームを発表するぜ。みんな聞き逃しとかするなよ」
いつの間にか全員やる気MAXになってるし。どうやら魔理沙の野望を止めることはもう無理らしい。
しかたない、僕も腹をくくるしかないか。
「まず、Aチームの発表だ。
・レミリア
・フラン
・メイド長
・パチュリー
・小悪魔
・中国
・紫
・藍
・橙
の9人だ」
なるほど、紅魔館のメンバーを主軸にマヨイガ一家を含めた妖怪チームか。
パワー重視もいいところだな。
「らんさまらんさま、同じチームだねっ」
「そうだな橙、紫さまも同じだし、頑張るぞ」
「うん!」
「魔理沙がいない・・・魔理沙が・・・魔ぁー理ぃー沙ぁー!」
「お嬢様、この五月蝿い居候、どうします?」
「放っておきなさい。この状態のときに絡むと面倒よ」
「分かりました」
「ごちゃごちゃやってると聞き逃すぜ。次はBチームだ。
・輝夜
・永琳
・ウドンゲ
・てゐ
・妹紅
・慧音
・霊夢
・アリス
・私
以上の9人だ」
月の民+地上の民のチーム。翻弄されそうなメンバーばかりだな。
「ちょっ、どうして輝夜と同じチームなのよ!!」
「あらあら、残念ね。これじゃあ私を倒すことができないわね」
「むっきー!!!」
「落ち着け、妹紅!輝夜より活躍すればいいんだ!!」
最後のチームが発表され、今までわらわら散らばっていた人妖が左右に分散していた。
だが、どちらのチームにも名前がないのは何故だ。僕はいったいどのチームなんだ?
「あぁ、香霖。おまえには審判をやってもらうぜ」
「は?」
「審判だよ、シンパン。審判がいないとカウントがとれないだろ?」
「・・・君は勝手に僕を景品にした挙句に勝手にポジションまで決めて」
「いつものことだろ。じゃあ審判よろしくな。頼んだぜ」
「あ、こら魔理沙。まだ話は終わって・・・もう、本当に話を聞かないやつだ」
理不尽だ。だが、ボイコットしたならばきっとさらに理不尽なことをされるに違いない。
・・・香霖堂全品タダ、とか幻想郷内に言いふらしかねないな。
仕様がない、メリットなんてこれっぽっちもないがデメリットのほうが怖い。やるか。
「それじゃあ、みんなチームでポジションなり作戦なり練ったら、このスキマに入っていってくれ。球場はこの中にあるそうだ」
「本当に大丈夫なのかしら・・・」
「霊夢が許可出したんでしょうが。まったく、あの妖怪とかかわると絶対ろくな事にはならないんだから。ね、上海」
「シャンハーイ?」
「そうそう、スキマの中に入るといくつか能力が制限されるぜ」
「制限?空でも飛べなくなるのかしら?」
「正解。野球に飛行なんて論外だぜ。よって、飛行能力は完全に使用不可だ」
「ちょ、ちょっとまって!私の能力って“空を飛ぶ程度”の能力なんだけど・・・」
「人のことなんて知らないぜ」
「ガーン・・・」
「れ、霊夢・・・」
「こんなへたれ巫女は放っておいて続きだ。飛行は不可能。そして、ドでかい魔力を使うような魔法も禁止されるぜ」
「じゃあ、ロイヤルフレアやサイレントセレナみたいなのは・・・」
「余裕でNGだな。もちろん、私の魔砲もダメだ。本当に使える魔力は微小にしてある」
「いっそのこと完全に禁止すればいいじゃない」
「分かってないな、メイド長。ちょっとくらい使えたほうが面白いに決まってるだろ」
「そういうものなのかしら?」
「そういうものなんだぜ。で、最後だ。試合中の弾幕行為の禁止。今日は、野球をしにきたのであって弾幕ごっこをしに来たわけではない。その事を常に頭に入れておいてほしいぜ」
「弾幕ごっこー」
「お前は特に絶対ダメだ、フランだと球場ごと壊しかねん。・・・とまぁ一通りこんなもんか。それじゃあ、第一試合はAチーム対Bチームだぜ」
珍しい。魔理沙がここまで手際がいいのは珍しい。
・・・きっと何かがあるに違いないな。って、僕はもうすでに被害にあっているわけだが。
まぁただ単に野球がとてもやりたいだけなのかもしれない。
「みんな、準備はできたか?」
――おぉぉぉぉぉ!!
「ならこれより、第1回幻想郷リーグを開催する!!」
スキマを抜けると、そこは球場でした。
なんて名台詞が聞こえてきそうなほど、それは立派に鎮座していた。
日光が苦手な者のことも考えてか、ドームで球場が覆われている。これならあのスカーレット姉妹も安心だろう。
しかも大きい。野球場というだけあって、今此処にいる全員が入っても十分余りある大きさだ。幻想郷じゃあこんな建物は見ることがないだろう。
「って東○ドームじゃないのよ!!!」
「五月蝿いぜ、ただの巫女」
「そうよ。せっかくこの建物を使えるようにしたっていうのに感謝くらいしてほしいわ、ただの巫女」
「ただの巫女いうな!」
「事実だろ?もしかしたらここじゃあ中国にも劣るかもな」
「ガーン・・・」
霊夢ノックダウン。どうやら再起は無理そうだ。
まぁ、霊夢は放っておこう。面倒だが審判をやらなければ。そのためにもルールの確認をしておこう。
・飛行は不可能
・膨大な魔力や能力を必要とする技は使用不可(基本的にはスペルカードの類だろう)
・ただし、ちょっとした魔法や術は使える(そのほうが面白い、らしい)
・試合は3回1ゲーム
・延長戦は5回まで
・明らかな点数差はコールドゲーム
・・・と、こんなところか。
しかし、今更だが皆は野球の基本的なルールを知っているのだろうか。
幻想郷の中では野球なんて行われていない。だからこそ魔理沙が強制召集したのだろうが。
「いいか、橙。お前は足が速いんだ。とりあえず塁に出るんだ、そうすればあとはやりたい放題だ」
「らんさま~盗塁のサインは~?」
「そんなものはいらん。ホームスチールも自分の判断でしていいぞ」
「分かりました~」
「私がどでかい一発を打ってやるから安心しな。マスタースパーク打法だぜ」
「何言ってるのよ、野球というのは一歩一歩確実に進むもの。確実にヒットを打ち確実に犠牲バントで進塁よ」
「そんなちまちまやってられないぜ。私は巨人派なんでな」
「とりあえず勝てばいいんでしょ・・・」
「当たり前だぜ、ただの巫女」
・・・ふむ、よく知っているようだ。ルールを知らないが故にイチャモンでもつけられたらたまったもんじゃない。
「それじゃあ第一試合を始めるぜ。咲夜、永琳。お互い、打順とポジションを発表してくれ」
「分かったわ。それじゃあAチームの発表ね。
1番 橙(遊撃手)
2番 小悪魔(二塁手)
3番 中国(三塁手)
4番 妹様(一塁手)
5番 お嬢様(投手)
6番 藍(右翼手)
7番 私(捕手)
8番 紫(左翼手)
9番 パチュリー様(中堅手)
・・・以上よ」
「次はBチームの発表ね。
1番 魔理沙(中堅手)
2番 てゐ(遊撃手)
3番 妹紅(投手)
4番 霊夢(左翼手)
5番 慧音(三塁手)
6番 ウドンゲ(一塁手)
7番 アリス(二塁手)
8番 姫様(捕手)
9番 私(右翼手)
・・・こんなところね」
「よし、それじゃあ早速はじめるぜ」
「プレイボール」
「まずは魔理沙ね・・・ふふ、軽く三振にしてあげるわ」
「甘いぜ。まずは軽く打たせてもらうぜ」
早速、レミリアが大きく振りかぶって第一球を投げる。
「ふふ、吸血鬼の力、とくと見るがいい!」
レミリアの放った球は、瞬く間に咲夜のミットに吸い込まれた。
・・・速い!あの小さな身体からどうすればあんなスピードが出るのだろうか。
「ボール」
だが、少しばかりコントロールを誤った様だ。
「なんだ、速いだけか。どうやら私は四球みたいだな」
「好き勝手吠えてなさい。あなたは最後に無様にバットを空振りさせて終わる運命なのよ」
「そんな運命なんて願い下げだぜ」
レミリアが振りかぶる。そして第二球を投げた。
速い、さっきよりも速い!しかも狙いは内角高めストライクゾーンギリギリというところだ。
さっきの球はワザとはずしたのだ。自信満々なわけだ。
「もらったぜ」
「なっ・・・」
カキーーーン!!
金属バットが音を立てる。魔理沙が打った。その打球は大きな孤を描き、スタンドへと叩き込まれた。
「ほ、ホームラン!」
「そんな・・・」
あの速い球を見事スタンドへと持っていくとは・・・魔理沙恐るべし。
「だからいっただろ?甘いって」
「くぅぅぅ・・・」
「お嬢様、気を取り直して次です。どうせ1点くらいあとで返せばいいんです」
「そ、そうね・・・魔理沙、覚えてらっしゃい!」
「頑張って忘れるぜ」
1回表
A 0-1 B
「次は・・・なんだ子兎か。楽勝ね」
「よろしくおねがいします☆」
「かっ可愛い・・・」
「咲夜、騙されちゃダメ。兎さん、あなたも本性を出したらどう?」
「・・・けけ、ばれてたか。まぁいい、さっさと投げてこいよこのチビ」
「自分のことかしら?まったく、最近の子供は躾の悪いことだわ」
レミリアが半ばあきれながら振りかぶる。そして、投げる。
しかし、相変わらず速い。果たしててゐは打てるのだろうか。
「けけけ」
なっ、バントの構えだ!セーフティバントを仕掛けるつもりか。ファーストのフランドールもサードの中華娘も気づくのが遅れたのか、前に出てきていない。このままだと内野安打だ。
「もらったよ!」
「だから楽勝って言ったのよ」
「なっ・・・!?こなくそ!!」
レミリアの放った速球。確かに速かったが、実はストレートではなかった。てゐの前で落ちた。フォークボールだったのだ。
しかし、これで変化球に気づいてしまったのがてゐの失態だった。慌ててバットにボールを当てに行く。だがボールの速度を気にするあまり、バットを下げ過ぎてしまったのだ。
その結果、本来バットの下部に当てるはずだったボールはあろうことかバットの上半分に当たり・・・
「オーライ、おーらい・・・」
パスッ。
無様なキャッチャーフライとなった。
「ナイスキャッチよ、咲夜」
「いえいえ、お嬢様の見事な変化球のおかげですよ」
「ちっ・・・」
1回表
一死
A 0-1 B
「さて、軽く左中間でも抜くとするかね」
「ほざけ蓬莱人」
3番妹紅。そろそろあの速い球も見慣れてきたのだろうか、割と余裕そうな表情だ。
そんな妹紅に第一球を・・・投げた。
「ボール」
外れた・・・いや、外した。どうやら様子見らしい。
「なんだ、態度が大きい割りに引け腰だな」
「言ってろ・・・」
「所詮西洋の鬼なんてこんなものか。これならまだ輝夜と殺り合うほうが面白い」
「っ・・・!!」
「さ、早く投げて来い西洋の。しっかりと打ち返してあg&%$#£!!」
「はぁ・・・はぁ・・・ウルサイ!」
「デ、デッドボール!!」
うっわー・・・挑発しすぎてモロ顔面くらっちゃってるよ・・・。
「・・・大丈夫かい?生きてる?」
「あぁ、大丈夫。その娘、蓬莱人だから死なないわ。もうそろそろ復活するんじゃない?」
「・・・ってぇな!あからさまにぶつけるな!」
「はいはい、あなたはデッドボールだからさっさと一塁に行って頂戴。よかったわね、出塁できて」
「こんの吸血鬼が・・・ちっ」
1回表
一死一塁
A 0-1 B
そして、次のバッターはただの巫女霊夢。
ただの巫女はせっかく出塁した妹紅の犠牲を他所に、セカンド真正面のゴロを打ってしまい、併殺打。残念。
「ちょっと、私だけ明らか手抜きじゃないの!」
「どうやらそういうキャラが定着してしまったみたいだね」
「誰によ!!」
「さぁ、さっさとチェンジしてくれ。次はAチームの攻撃だ」
「話を聞けー!!」
1回表を終わって、Bチーム1点リード。
ここからどのようにしてAチームは切り替えしていくのかぁ!!
「香霖うるさいぜ」
「むぅ」
・・・僕だって楽しみたいだけなのに。
明日あたり投下予定だったのに……東方草野球……
>>夏影洋行氏
創想話の野球物はけっこう歴史があって、今までも2本くらいでてます。
ここは本来、送りバントの所をバスターで三遊間を狙うような作戦でも面白いのでは?
めっちゃ吹いた。
その台詞自体が嘘じゃないですk(生と死の境界
ちなみに、東方サッカー派です。
別の切り口の野球SSも見てみたいものです。