「三人とも、己の魂にかけて答えなさい。空を飛ぶ為に必要なものは何?」
「努力」
「揚力」
「アボカド」
「……大空の覇者は誰かしら?」
「太陽」
「オゾン」
「セロリ」
「――ッ! ……そ、それじゃ私とフランに有って、貴方達に欠けている物は何かしら」
「我侭」
「つるぺた」
「オリーブオイル」
「くっ……この……ちょっと三人ともそこに正座なさい! 咲夜! 主の質問中に料理の本を読まない!」
「これは失礼致しましたお嬢様。今夜はアボガドとセロリのサラダをお出ししようかと思いますが宜しいでしょうか」
「セロリはニガいから嫌よ!」
「残念です」
残念そうなそぶりを微塵も見せず咲夜さんが言った。お嬢様はぷりぷり怒っているが咲夜さんはどこ吹く風だ。咲夜さんは最近『焦らし』を覚えたらしい。確かに腕をぶんぶん振り回してご立腹具合をアピールするお嬢様は大変に愛らしい。咲夜さんはお嬢様フェチとしてまた一つ位階を上げたようだ。
ご相伴に預かりお嬢様を愛でる私としてもそのキュートっぷりは大歓迎。いや、眼福眼福。欲を言えば腹いせのハートブレイクの矛先が私に向かなければ尚良いのだが。
「夕食のメニューはハンバーグ。遵守なさい」
「厨房に伝えましょう」
子供舌だ。
「ともかく先ほどの問い、貴方達三人の答えはてんで的外れよ」
「はあ」
腕を組んだお嬢様が言い放つ。
咲夜さん、パチュリー様と顔を見合わせる。イキナリ呼びつけられてワケの分からん質問に答えたら正座でお説教。てんで的外れときたもんだ。そう言われても思うままに解答したのだからこれ以上どうしようもない。
「ではお嬢様、正解は何だったのですか?」
「よく聞いたわ美鈴。答えは――羽よ」
「羽……ですか?」
お嬢様の背中でパタパタ揺れる蝙蝠羽を見る。この翼、お嬢様の感情に比例して揺れ方が変わるので見ていて飽きない。しかも本人に自覚は無いらしく、つん、とそっぽを向いてみせても羽は忙しなく上下していたりする。その正直な意地の張り方は非常に可愛らしく、つい頭を撫でてあげたくなるのだが、実践すると槍が飛んでくるので怖くて出来ない。
その羽を見るに、今のお嬢様はさほど機嫌は悪くないようだ。
「そうよ。羽。空を飛ぶ為に欠かせないものは、壮麗なる漆黒の翼と古来より決まっているの」
「はあ……。では大空の覇者とは?」
「私に決まっているでしょう」
ふふん、と胸を反らすお嬢様。己に対する絶対の自信がフラットなボディに満ち溢れる。
「そう。レミィ、覇者も翼も結構だけど、どうしてそんな話を私達に?」
パチュリー様が首を傾げる。三人共通の疑問。だがそれを見て柳眉を逆立てるお嬢様。
「……あのねパチェ。もう一度言うけれど、空を飛ぶ為には羽が必要なの。悪魔も妖怪も妖精も――魔女もメイドも中国も」
「そうかしら」
「そうなのよ。いいこと? 風を随え地上を睥睨するは力有る者の特権よ。そして翼はその証。飛べる飛べないの問題では無いの。翼無き者は大空を舞う資格が無いのよ」
そんなもんだろうか。お嬢様がそんな持論を持っているとは知らなかった。大図書館から得た似非真理の可能性も高いが。
「だというのに貴方達は。努力だの魔力だの揚力だので好き勝手飛び回って。咲夜に至っては瀟洒の一言で黄泉までカッ飛んでいく始末。ああ、嘆かわしい。いいこと? 貴方達は誇り高き紅魔館の住人なのよ。その存在だけで常に周囲を圧倒していなければならないの。私は貴方達に翼も無しにフラフラ飛び回る、なんて醜態を曝して欲しく無いのよ。それは紅魔を、そして貴方達自身の価値を貶めるわ」
分かるかしら? とある種の慈愛を湛えた瞳で私達三人を見るお嬢様。それは手のかかる娘を見る母の目であり、身内の不始末を見逃さない父の目だった。
その瞳は嬉しかった。羽が強者の証云々の根拠は兎も角、お嬢様が私達を想ってくれている事は確かに伝わってくる。
「お嬢様……」
見れば咲夜さんは既に涙目である。それも当然。咲夜さんは重度のお嬢様フリーク。お嬢様の入浴中を狙い澄ましてシャンプーの替えを持って行く真(まこと)の忠臣だ。お嬢様が我が身を想って下さった。その事実だけで咲夜さんは十二分に性的興奮を覚えるのだろう。
「レミィ、貴方……」
少々驚いた。パチュリー様までが感極まった声を出したのだ。が、よく考えれば驚く事は無い。咲夜さんがその愛情の全てをお嬢様に捧げる一点集中型であるのに対し、パチュリー様は拡散系である。自己を中心とした円形の恋心を装備し、お眼鏡に適った射程範囲内の少女達を絡め取るパチュリー様だが、お嬢様に対しては一際熱烈なアプローチをしかけている。
聞くところによると仏滅の日には必ず紅い薔薇を持ってお嬢様の私室を訪ねるというパチュリー様。お嬢様の暖かな言葉が彼女の胸を打たない筈が無かった。
「そこまで私達のことを……」
かくいう私も、先の二人に決して引けを取らない幼女愛好者。お嬢様の為ならば死すら恐れぬ自負がある。愛する主の思いやり、この美鈴にもグッときた。
「分かってくれたかしら」
分かりました。分かりましたとも。
目頭を押さえお嬢様に駆け寄る三人。お嬢様はそれを柔らかく制し、懐から黒い小瓶を取り出した。
「それじゃあ三人にはコレを飲んで貰うわ。羽の生える薬よ」
「……」
自然と足が止まった。嫌な汗が止まらない。
お嬢様が取り出した小瓶は如何にも妖しい気配を発していた。ピンク色のラベルにはジョリーロジャーの如き髑髏が描かれ、極太マジックでぞんざいに育翼剤と書かれている。とってつけたように添えられた『羽が生えますように』という殴り書きが医学的信頼を粉砕する。
どう好意的に解釈しても劇薬だった。
「こ、これを飲めというの……?」
パチュリー様の声が震える。
「ええ」
にっこりと笑うお嬢様。本気の目だった。
「し、正気ですか?」
「もちろんよ?」
邪気も悪気も無かった。そこには純粋な厚意と夢いっぱいの少女しか存在していなかった。お嬢様の頭の中ではフワフワした羽を生やした三人がお嬢様、妹様と仲良く空を飛んでいるのだろう。或いは魔王然と威風堂々地上を見下ろしているのか。
「お、お嬢様、イカロスの話をご存知ありませんか……?」
羽フェチの先駆者は大きな代償を支払ったのだ。
「イカロスの恩返し? 知っているわよ。夜な夜な機を織るイカロスの部屋をコッソリ覗くと正体は実の父だったのよね」
「違うわレミィ……斬新な寓話ね」
「あら。大造爺さんとイカロスだったかしら」
それも違います。
「イカロスは兎も角、お嬢様、この薬(ヤク)を胃に入れるのは流石に……」
ハートブレイク覚悟で進言する。
「美鈴、貴方の不安は分かっているわ。けど安心なさい。これはあの八意永琳の薬。この私が直々に出向いて彼女に作らせた育翼の妙薬よ。大丈夫。永琳は言ったわ。この薬を飲んでキッカリ72時間後に立派な翼が生えてくる、と」
「……」
沈黙の螺旋が場を支配する。
出た。永琳の薬。東方界隈において永琳の薬は最も都合の良い、かつ説得力の有る破滅の呼び水である。コレが出てくると碌な事にならない。大体にして永琳自身が相当にキッツイのだ。
八意永琳は永遠亭のブレインである。罪悪感だか同性愛だかの為、仲間を裏切り輝夜の右腕として生きる月人だ。月の頭脳とまで称される彼女は智において全能。更に弓術、弾幕など武に関してもソツが無い。だが永琳の最も恐るべきところは怜悧冷徹な徹底主義だ。輝夜の為ならば射殺毒殺何でもござれ。その少年野球に釘バットを持ち出す容赦の無さに底は無く、彼女に比すればアウシュヴィッツの看守すら菩薩の部類に入るだろう。妹様が幼さゆえに加減を知らないのとは違い、八意永琳は全てを熟知した上で鼻に孫の手を捻じ込む女である。
そんな手合いの調合した薬だ。真っ当な効果を期待する方が愚かというもの。腎臓を両方手放すくらいの覚悟が無いのならば、彼女の薬は敬遠するが賢明である。
永琳の薬とは危険の代名詞。だがお嬢様は気にした風も無い。
「さ、皆飲んで頂戴。人によっては翼の生える位置が背中じゃなくなるみたいだけれど、まあそれは些事よね」
ちっとも些事ではない。ワケの分からんところから羽がまろび出てきても困る。自慢じゃないがこの私は紅魔館一のネタキャラだ。どうせ鼻の下とか脇の下とか、奇怪な部位を担当する事になるのだろう。
それは非常に困るのだ。長い長い妖怪人生、せめて平穏に暮らしたい。鼻の下の翼などという余計なオプションは円満な人生設計を著しく阻害するのだ。
「お、お嬢様、私も豊かな老後が……」
「何よ美鈴さっきから。私の厚意が飲めないと言うの?」
「い、いえ……そういうわけでは……」
じろりとお嬢様に睨まれる。マズイ。怒らせてはいけない。お嬢様は可愛い顔して相当な瞬間湯沸かし器だ。廊下の端に咲夜さんを見つけ、手を振って駆け寄る途中でスッ転んだ腹いせに、門番詰め所でランチをとっていた私にバッドレディスクランブルを叩き込んだ事もある。
「アレは理不尽だったなあ……」
「何か言ったかしら美鈴」
「いえ何も」
とはいえブチ切れるお嬢様もまた愛しい。頑丈な我が身に感謝を。私はお嬢様の全力の愛を受け止めた回数ならば誰にも引けを取らないのだ。
「けれどもレミィ。その薬はちょっと……永琳が作ったのでしょう?」
「そうですよお嬢様。あのルナティック薬剤師の薬なんて、パチュリー様の媚薬と肩を並べる危険物じゃないですか」
「なんですって? 分かってないわね美鈴。私の媚薬は無農薬無検査のナチュラルラブポーションよ。あんな副作用まみれの駄薬と一緒にしてもらっては困るわね」
「はあ」
媚薬って時点で既に勘弁して欲しいのだが。
ダメだ。パチュリー様は。色々と。
「咲夜さんも何か言って下さいよ……」
さっきから黙っている咲夜さんに振ってみる。
「ん、そうね。確かにパチュリー様の媚薬は安全かつ効果覿面よ。あれほどの仕事を成しえたパチュリー様を侮辱する事は許されないわ」
「そうでしょう、そうでしょうとも」
こくこくと頷くパチュリー様。
「いえ、媚薬の話ではなくて」
「羽の薬? それならば飲むわ。当然でしょう」
「えええ!?」
真顔で答える咲夜さん。正気か。
「ちょっと、分かっているの咲夜? 永琳の薬なのよ。飲んだ瞬間足がキャタピラになってもおかしくないブラックボックスなのよ?」
パチュリー様も声を荒げる。そう、永琳の薬なのだ。何が起きてもおかしくない。
「大丈夫。多少の不安はあるけれどお嬢様の目の前で調合した薬ですもの。妙な材料は使用していない筈よ。……この薬はお嬢様のお気持ち。お嬢様の為ならば翼でもキャタピラでも受け入れるわ」
「けど咲夜さ……ん?」
淡々と語る咲夜さんに反論しようとしたところで、彼女の目配せに気付いた。ぱち、ぱち、と二回。任せておけ、という事だろうか。
「……そう。咲夜がそう言うなら……」
パチュリー様も気付いたようだ。ほんの僅かに頷いて、おっかなびっくりお嬢様から薬を受け取る。
「流石は咲夜ね。分かってくれて嬉しいわ」
お嬢様は嬉しそうだ。その顔を見ると薬への警戒も薄れる気がした。
「さあ飲んで頂戴。グッと。イッキに」
「うぅ……」
薬を渡される。ガラス栓を引き抜くと中にどろりとした液体が見えた。刺激臭は無い。だが見るからにヤバい汁だ。ホントに咲夜さんに任せて大丈夫なのか?
ちらりと咲夜さんを見ると彼女はにっこり微笑んで一息に飲み干した。
「――っふぅ。大丈夫ですよパチュリー様、美鈴。さあ飲んでください。お嬢様の厚意を」
くっ。そう言われては飲まない訳にはいかない。パチュリー様と頷きあう。薬を捨てろと叫ぶ本能をお嬢様への愛慕で捩じ伏せ、儘よとばかり喉に流し込んだ。
咲夜さん、信じてますよっ。
ぐいっと呷る。
「旨っ」
何だコレ。こんな不気味なラベルと効用の癖にやたらと爽やかな喉越しだった。シャンディーガフにレモン果汁を一滴加えた様な味。薬がこれだけ美味しいと逆に不安になる。
「皆飲んだわね。それでいいわ。三日後、皆で有翼飛行を楽しみましょう。それじゃ私はフランとお風呂に入ってくるから。咲夜、忘れてはダメよ。ディナーはハンバーグ。必ずよ」
お嬢様は満足げに微笑んで去っていった。
くはあ。飲んでしまった。何が起きるか分からないのに。額面通りの効用だとしても十中八九脇の下から羽が生えてくるというのに。
こうなっては頼みの綱は咲夜さんだ。お嬢様の仰る事、叶えて差し上げたいのは山々だが無視できないリスクが在るのだ。
遠ざかるお嬢様の足音を聞きながら縋るように咲夜さん見る。お願いしますよ――咲夜さん。
◇
「さあ。説明してもらうわよ咲夜。貴方に従って薬は飲んだ。貴方の言うとおり、確かにレミィが望むなら羽の一枚や二枚どうという事は無いわ。けれどもこれはあの永琳の薬。大統領暗殺や爆破オチに使われても全くおかしくないバッドメディシンよ。胃の中の薬は獅子身中の虫。この窮地をどう凌ぐのかしら」
こく、と頷いてパチュリー様に同意する。この極めて物騒な液体を飲んだのはお嬢様に対する愛と咲夜さんへの信頼故。咲夜さんならばお嬢様の心を傷つけず、現状を打破出来ると信じたからだ。
パチュリー様と二人、咲夜さんをじっと見つめる。
「分かりましたパチュリー様。美鈴も。ええ、お嬢様の願い、お嬢様のご厚意ですもの。たとえ毒でも受け入れるが従者の務め。けれど永琳が絡むならば話は別です。あの絡新婦は弟子に座薬の知識のみを与える嫌がらせの達人。この薬にもどんな効果があるか分かったものではありません。そもそも内服薬で翼を生む事など可能なのかどうか。……残念ながらこの薬によってお嬢様が望まれる結果が得られる可能性は、極めて低いと考えるが妥当でしょう」
その通りである。永遠亭は輝夜に永琳、飼い主の悪影響を受けたてゐという粘着気質のS属性が跋扈する伏魔殿だ。迷い込んだ月ウサギはかくも哀れなる日々を過ごしていると聞く。頼まれたからといって正直に仕事をする輩どもでは無いのだ。
更に言えば永琳が調合ミスをする可能性もある。翼が生えるなどという奇天烈な薬だ。マニュアルや前例があるとも思えない。
仮に薬がホンモノだったとした場合の、お嬢様が望まれる様な翼が生える期待値を100としよう。
翼の完成度、薬効の個人差など考慮してマイナス5。調合ミスの可能性を考えてマイナス5。そして調合を手がけたのがあの永琳である事を鑑みてマイナス85だ。
残存期待値たったの5。これは我々の生命の安全保障度数であるばかりでなく、お嬢様がションボリしてしまう結末に直結する数字である。
被弾率95%のライジングゲームにお嬢様の身を晒す。それは許されることではない。紅き姉妹に集う者を代表する四名の末席に名を連ねる身として、断じて見過ごす訳にはいかないのだ。
「ですので此度の件。お嬢様には申し訳ありませんが薬の効果が現れる前に中止とさせて頂きましょう。永琳の言を信じるならばタイムリミットは72時間。永琳の性格を鑑みるに恐らくこの時間は真実でしょう。時間いっぱい期待させておいて実は豊胸剤でした。そんな素晴らしい……もとい、期待を裏切る結果に終わるのを物陰から覗いてほくそ笑むのが八意流。この72時間の間に解毒とお嬢様の慰撫を行う必要があります」
「そうね。それで具体的にどうする心算だったのかしら」
咲夜さんの解答に、満足げに続きを促すパチュリー様。私としてもここまで全く異存は無い。三人の心は一つになっていた。
「私達三人は三手に分かれます。美鈴は永遠亭に行って永琳をシメ上げ薬の効果、彼女の本音を聞きだして頂戴。そして永琳がお嬢様を謀っていたならば解毒剤と反省文を作成させて。パチュリー様には万一に備えて独自に解毒剤の調合を試みて頂きます。これは美鈴が失敗した時の為の保険となりますが、永琳自身にも解毒剤が作れない可能性がありますので是非ともお願い致します」
「分かりました。それで咲夜さんは何を?」
「私は『永琳の薬は失敗作だった』とお嬢様に伝え、傷心を癒す代案を提示し説得に当たるわ」
「「……む」」
パチュリー様と私の目が同時にキラリと光った。
「ちょっと待ちなさい咲夜。貴方の役割、随分とオイシイじゃないの。……交換なさい。私が密室で手取り足取りレミィを説き伏せるわ」
「私もそこは譲れませんね。咲夜さんが永遠亭に行ってもいいじゃないですか。お嬢様の説得は私が。お任せ下さいお二人とも。裸の付き合いは得意なんです」
ずい、と前に出る。
「……譲れなければどうすると?」
咲夜さんが目を細めた。
「そうですね。私としては少々荒っぽい手段を用いても構わないのですが……」
ちらりとパチュリー様を見る。
「ま、止めておきましょう。病弱な魔女ッ子もいることですしね。ポーカーでもして決めますか?」
「……言うじゃないの弁髪の末裔が。構わないわよ。新しいスペルの実験もしたかったし」
「ぬぅっ……」
ぐぐぐ、と魔力濃度を上げたパチュリー様と睨みあう。
と、
「はあ……やれやれ。落ち着いて下さいパチュリー様。美鈴もよ。今は喧嘩をしている場合じゃないでしょう。三人協力し合い、お嬢様の納得いく明日を紡がなくてはいけないのよ」
「むぅ……」
「ぬぅ……」
「ほら握手して。そんなに言うなら持ち場を変更してあげるから」
咲夜さんが微笑みながら私達二人の肩を抱く。その手に軽く力を込めて私とパチュリー様を近づけた。
「咲夜さん……」
「咲夜……」
それは出来の悪い妹を窘める言葉。ああ、自分が恥ずかしい。己の恋慕の為にひ弱な本の虫に手を上げそうになるとは。ぎゅ、とパチュリー様の右手を握る。
「――なんて言うと思ったら大間違いよ」
絶対零度の声が響く。
過去を恥じ、頬を掻きつつ握手する私達にナイフをブン投げる咲夜さん。私とパチュリー様をくっ付けたのは標的を一網打尽にする為か。
汚ッ!
「くっ、咲夜! 不意打ちとは卑怯よ!」
「何とでも言いなさい! パスウェイジョン&ペッティングは誰にも譲れないわ!」
「くぉぉ、この裸エプロンがあ!」
「ちょっと美鈴! 人聞きの悪いこと言わないで頂戴!」
ギャアギャア喚きつつ見苦しく取っ組み合う三人。
「貧乳メイド!」
「完熟ペドフィリア!」
「あの素晴らしい弁髪をもう一度!」
加熱する揉み合い。通りすがりのメイドが足早に去っていった。
「はあ……はあ……っく、私の勝ちね。お嬢様を慰めるのは私の役目よ」
キャットファイトを制した咲夜さんがゆらりと立ち上がり宣言する。
くそう。Aカップの癖に。
「くっ……仕方ないわね。どちらにせよ解毒薬の調合なんて私以外には出来ないし……ここは譲ってあげるわよ」
そっぽを向いてパチュリー様が言う。ならば最初から大人しくしていて欲しかった。額に刺さったオータムエッジを投げ捨てる。
「仕様がない……ですね。納得いかないところもありますが、咲夜さんの策ですし今回は従いましょう」
取っ組み合いの最中、咲夜さんは一度も時操の力を使わなかった。パチュリー様にしてもロイヤルフレアなどの大技は用いなかった。
何だかんだいっても信を置く間柄なのだ。私達は。無念極まりないがお嬢様については咲夜さんにお任せしよう。
「私は……永遠亭にカチ込みか」
嘆息を漏らす。心も体も疲弊しそうな任務の前に無駄に体力を使ってしまった。しゃあない。この無念を永遠亭でブチ撒けてこよう。
「善は急げ。早速行動に移るわよ。パチュリー様は解毒剤をお願いします。美鈴はちょっと待ってて。永琳に手紙を書くからそれを持って行って頂戴」
「分かりました」
厨房にハンバーグ作成を命じ、手紙を書きあげる咲夜さんをボンヤリ眺めて一服する。
タイムリミットは72時間。だが急いだ方が良いに決まっている。いつまでも得体の知れない薬物を体内に留めおくのは危険である。
「ふう。それじゃ美鈴。これを持ってお願いね」
「はい。咲夜さんも頑張って下さい」
大暴れした挙句の配役だ。今更拘泥はしない。手紙を受け取り一路永遠亭を目指した。
◇
「さてと、必要なものはここで全部揃う筈よね」
馴染みのスーパーマーケットの前で独り言ちた。寂れた店構えに相応しく店の周囲に人影は無い。通りまで漏れ出た店内BGMのアニメソングが哀愁を煽る。
『ごめんね素直じゃなくて。月の為なら死ねる』
バリバリの原理主義を高らかに宣言するこの歌は、妹様の大好きなアニメのオープニングテーマである。私は見たことが無いがテーマソングから察するに相当血生臭いアニメなのだろう。情操教育上宜しくないと思うのだがお嬢様は妹様の好きにさせている。それも良かろう。信頼と尊重も麗しき姉妹愛の一つの形だ。
だが妹様が口ずさむならばともかく、この曲を店内BGMとしてエンドレスループさせるのは如何なものか。店主は豪の者だ。
「月の為なら……か。やれやれ何を考えているのやら」
全く何を考えているのだろうか。勿論スーパーの店主についてではない。八意永琳の話である。
遡る事二時間前。私は単身永遠亭に乗り込んだ。
此方は正真正銘のお客様であり95%の確率で被害者である。遠慮なく正面玄関から突入し、彩雨をばら撒き崩山彩極砲で宣戦布告した。
とはいえフィールドはアウェー中のアウェー。ステゴロならば並の相手に引けを取らぬ自負はあるが、多勢に無勢、四面楚歌。些かポリシーに反するものの、玄関脇の家庭菜園で人参に水をやっていた鈴仙を人質にとることにした。卑怯とは言うまいね。
後ろ手に縛った鈴仙のコメカミに人参を突きつけて降伏を勧告すると、永琳、輝夜はすぐに白旗をあげた。
永遠亭において優曇華弄りは単調な毎日に潤いを与える極上の清涼剤だ。鈴仙のちょっと拗ねたような、それでいて甘えたくて仕方ないような仕草は、少々生き飽きた感のある永遠亭住人達の人生の励みとなり、明日への活力となっている。
鈴仙にしてみれば大変に迷惑千万なライフワークであるが、永琳達にとって鈴仙は最早無くてはならない存在なのである。
さて、全面降伏した永琳への此方からの要求は『育翼剤』とやらの詳細と解毒薬の提供、そして反省文の提出である。鈴仙の早期解放を望む永琳はこれに速やかに応じた。
驚いた事に薬は本当に豊胸剤だった。永琳曰く『製薬を頼まれた時、あの子が胸を押さえて溜息をついているのを思い出した。喜んで欲しくてやった。今は反省している』だそうだ。『あの子』とはおそらく咲夜さんの事だろう。永琳は咲夜さんに対し何か思うところがあるらしい。稀に彼女を眺め呆としている事がある。
お嬢様の依頼を裏切った事は万死に値する不敬ではあるが、どうやら咲夜さんを想っての事のようだ。何となく責める気にはなれず私から咎める事はしなかった。反省文だけで十分だろう。そう思ったのだ。
その後反省文と解毒薬のレシピを受け取り鈴仙を解放し、すっかり失念していた咲夜さんの手紙を渡して永遠亭を辞去した。ナシをつけてから渡しても無意味だったろうか、と己の不注意を呪ったが手紙を見た永琳はどこか嬉しそうだった。一体何が書かれていたのやら。まあ詮索はすまい。変態どものコミュニケーションに水を差すのは野暮というものだ。
「しっかし、本当にこんなものが解毒剤になるのかしらね」
永琳に渡されたレシピのメモをぺらりと捲る。彼女を信じるならば解毒剤はご家庭で簡単に作れるものらしい。材料の一部を挙げるとアボカド、セロリ、オレガノ、レモン、コルニッション等々。紛う事なきアボカドとセロリのサラダである。咲夜さんはエスパーか。いや寧ろ疑うべくは永琳だろうか。これならば永琳に作らせるまでもない。というか持ち帰るのが大変なのでレシピだけ受け取ってきたのだ。
「まあいいか。さっさと買って試してみましょう」
おそらくレシピが嘘八百である可能性は低いだろう。根拠は無いが先ほどの永琳を見てそう感じた。
「ダメなら何度でも聞けばいいしね」
スーパーの入り口前に重ねてある買い物籠をひょいと取り上げ、外装よりは幾分小奇麗な店内に入っていく。
このスーパーマーケットは幻想郷唯一の雑貨店、香霖堂の別店舗である。寂れた外観からは想像出来ない豊富な品揃えが魅力の地域密着型生鮮特化雑貨店であるが、店主の厄介な性癖の為繁盛とは程遠い客の入りだ。
店主の名誉の為一応触れておくが、店主は決して悪い人物ではない。寧ろ人の良い部類に入り、その出で立ちを無視出来る強靭な精神力さえ備えていれば、気さくな青年実業家として節度ある交友を暖める事も可能な男である。
なればこそ、実(げ)に惜しむらくは露出癖。彼曰く、『伊達や酔狂で褌姿をしている訳では無い』との事だが、半裸でにこやかに揚げ物の試食を勧めてくる男の姿は酔狂どころの話ではなく、幻想郷史上最も心臓に負担のかかる接客スタイルであることは疑うべくもない。
この店での買い物は店主が店先にいない時間を狙って速やかに行うのが、常連客共通の自衛手段(たしなみ)である。もちろん、タイミングを見誤り店主と鉢合わせる無様を曝すなどといった、テンポの悪い客など存在していようはずもない。
香霖堂食品部門特化支店、通称(蔑称)フンドシマートはそんなキュリアン邸ばりの魔窟であるが、咲夜さんのお買い物の荷物持ちとして何度も来店している私は既にコツを掴んでいる。何を恐れることも無く次々と食材を籠に放り込んでいく。
「えと、アボカドにレモンに……キュウリと……胡椒と……」
鮮度を見定めた商品をぽいぽいと籠へ。咲夜さんはディナーの前菜にアボガドとセロリのサラダを出そうとしていた。恐らく材料は揃っているのだろうが、三人前あるかどうかは分からない。一応全ての材料を買うことにした。
「ま、咲夜さんとパチュリー様は解毒しないかもしれないけどね」
72時間体内に潜伏した豊胸剤の効果は覿面らしい。これ以上肩こりの要因を増やしたくない私にとってはありがたくもなんともない一品だが、持たざる者達にしてみれば正に僥倖ではなかろうか。このスーパーは食品がメインだが一部衣類や雑貨なども取り扱っている。お土産はCカップくらいでいいだろうか。
無駄の無い動きで食品とお土産をチョイスする。さて、こんなものだろうか。
「それじゃ最後に……」
雑貨品の手芸コーナーに足を運んだ。この店に来た理由はレシピとお土産の為だけではない。
「うーん。このくらいかなあ」
真っ黒いビロードの布地を適当に切り取って買い物籠に入れる。この程度の大きさがあれば十分だろう。
「後は骨になる……これでいいか」
ソコソコの長さのプラスチック棒を手に取る。軽くて丈夫。うん。これでいい。
目当ての物は全て籠に。そうとなればこんな魔窟に用は無い。さっさとキャッシャーに向かい会計を済ませる。レジ打ちがあの店主だった、などという趣味の悪いイベントも起こらず、買い物は迅速に達成された。
◇
紅魔館に戻ると既に咲夜さんとパチュリー様は仕事を終えていた。咲夜さんは薬の失敗を嘆き悲しみブチ切れたお嬢様をその薄い胸で慰め、妙案とやらを提示する事で一先ずお嬢様の怒りを抑えることに成功していた。パチュリー様はパチュリー様でご自慢の如何わしい実験室に篭り、独自に解毒剤を作り上げていた。大したものである。
よく考えれば不機嫌なお嬢様を宥めるのは咲夜さん以外には至難の業。薬物の分析と調合はパチュリー様の他に為せる者はいない。永遠亭襲撃も成功に終わったし、なんだ結局咲夜さんの人員配置は的確だったのか。
「ふふ。Aカップもやりよるわ」
「Aカップが何ですって?」
「ひぃ」
気付けば背後に咲夜さんが。首筋にヒタリと冷たい感触があった。
「Aカップが……何と?」
「い、いえAカップ万歳、と……」
「――へぇ」
首筋の冷たい気配が存在感を増す。
「ち、違うんです咲夜さん! Aカップは今日でオサラバなんですよ!」
「そう。良く分からないけれど前言のフォローは出来ないようね」
「い、いや……そ、そう、お土産が! ホラこれを見て下さい! 脱、なだらかな稜線を祝うべくこんなステキなお土産が!」
振り向きざま、チェリーピンクに輝くCカップのソレを咲夜さんの胸に押し付ける。ちょっと驚いた顔の咲夜さん。だが胸に収まるものを見てゆっくりと笑顔になる。ああ良かった。分かってくれたのだ。
「――良く分かったわ美鈴。その喧嘩、高く高く買いましょう」
「くわっ、分かってないです咲夜さん! ナイフを仕舞って微笑んで! 助けてマーキュリポイズン!」
ゆらりと幽鬼の様にナイフを構える咲夜さん。
「マーキュリポイズンは媚薬を盛ったのがバレて現在小悪魔に叱られているわ。……助けは来ない。覚悟を決めなさい」
「ぅおおい! なにやってんだ知識人! ちょっと咲夜さん、殺人ドールは流石に……! ぎゃあ!」
◇
ぴん、と糸を弾いた様な音が響く。
月下に佇むテラスのテーブルを挟み、咲夜さんとブランデーグラスを合わせた。
テラスに置くにしては豪華な椅子に深く腰掛け、グラスを傾け深く深く息をつく。
「そう。……しかし豊胸剤ね。永琳も何を考えているんだか」
「はあ、咲夜さんでも分かりませんか」
気が合うと思うのだが。容赦無いところとか。
「さっぱりね」
ナイフの嵐が去った後、気の晴れた咲夜さんにミッションコンプリートとその仔細を伝え、永琳の反省文を手渡した。
その後咲夜さんの作ったアボカドとセロリのサラダを食べて解毒した。これは咲夜さんとパチュリー様もである。折角の脱Aカップのチャンスだったというのに。二人が言うには『薬に頼る事じゃない』らしい。AにはAの矜持があるのだろう。毅然とした態度だった。だが私は忘れない。二人が目尻に涙を浮べ、食い入るように私の胸部を見つめていた事を。断腸の思いだったのだろう。お土産も無駄になってしまった訳だが……まあいい。メイドの誰かに贈るとしよう。
パチュリー様が作った解毒剤は申し訳ないが使わなかった。というか使えなかった。朝鮮朝顔だのカンナビスだのから抽出された薬を簡単に服用する訳にはいかないだろう。パチュリー様の薬は次善の策ということにして皆でサラダを食べた。
小悪魔に叱られた挙句自信作の薬を飲んでもらえなかったパチュリー様は、サラダを食べた後ションボリ館を出て行ってしまった。今は中庭で『レミィ』と名付けたカニサボテンに穏やかに話しかけている。そっとしておいてやろう。なに、立ち直りの早いパチュリー様のことだ。明日には爽やかな笑顔で媚薬を盛ってまわるに違いない。
「それで咲夜さん、妙案というのは? どうやってお嬢様に納得して頂いたのですか?」
翼は紅魔のライセンス、とばかりに執着していたお嬢様だ。適当な誤魔化しでは通用すまい。と同時にお嬢様は私達の為にと薬を調達してきて下さったのだ。咲夜さんに限って無体な言葉でお嬢様を傷つける事などありえないが、お嬢様が心から納得できる方法でなければこちらとしてもやりきれない。
「ああ、それは明日分かるわ。それよりも美鈴。貴方のあれは何なのよ。プラスチックとベルベットなんて買い込んで」
ブランデーグラスをゆっくりと揺らしながら聞いてくる。琥珀色の液体が月光を飲み込む様は手品の様だった。
「あれは……まあ何と言いますか、紛い物の羽でも手作りだったら、少しはお嬢様が喜んでくれるかなあ……なんて。さっきちょっと作ってみたんですよ。これが結構良い出来でして。背中に付ければ羽に見えなくもないかと……あはは……」
「翼を模そうと? 美鈴、貴方……」
咲夜さんはちょっと呆れたような顔をして、
「……まあやってみなさいな」
けれどもくすりと笑ってくれた。
「あ……はいっ。私達に羽は無いけれど、想いはきっと届きますよねっ」
「ええ、そうね」
くっとグラスを呷る。見上げた月は優しかった。
「この駄門番っ! さっきから妙な姿でフラフラと! トイレにまでついてこないで頂戴!」
「ぎゃー」
届きませんでした。
◇
翌日の昼過ぎ。お嬢様の命でロビーに集合がかけられた。呼ばれたのは妹様、咲夜さん、パチュリー様、小悪魔に私。お嬢様本人と合わせて六名がロビーに集まった。咲夜さんと目が合うと彼女は小さく頷いてみせた。成る程。この集合は妙案とやらの為なのだろう。
「今から空の散歩に行くわよ」
お嬢様が言った。
「散歩ですか? しかしお嬢様我々は結局……」
私達にはお嬢様の望む翼は無い。翼のことはスッパリ諦めたのだろうか。
「無ければ作れば良い。作れないならば持ってくれば良い」
翼への信仰が無くなった訳ではないらしい。
「けどあの薬も……」
「煩いわね。いいから行くわよ。フラン、貴方は美鈴をお願いね」
「はーい」
元気良く答える妹様。
「え? いやちょっと……ぐふぉあ」
何をする気ですか、と皆まで言わせず妹様が首に絡み付いてきた。柔らかい二の腕が頬にあたる。甘いミルクみたいな匂いがした。
「小悪魔はパチェを。咲夜は私と来なさい。……さ、行くわよ」
さ、行くわよ。なんて憮然と言い放った途端咲夜さんの背中にべったり張り付くお嬢様。首に手を廻し、肩越しに顔を出して咲夜さんとお喋りしている。
咲夜さんは片手をお嬢様の背中に添え、頬擦りせんばかりに顔をくっつけたままロビーを出て空に飛び上がる。空いた手で日傘を広げた為此方から二人の様子は見えなくなった。
日傘の下は正にプライベートスクウェア。パチュリー様のお株を奪う少女密室っぷりだ。
「くぉぉ。あのメイドまたオイシイところを……」
拳を震わせる。何が妙案だ。
「ねー。美鈴。ほら早くー」
「え?」
私の体をよじよじと登り、妹様が私の首の上に座っていた。肩車の形だ。
「はやく飛ぶのー」
妹様がペチペチと私の頬を叩く。飛ぶのーってこの体勢でだろうか。
「ほーらー。はやくー」
ぺちぺちぺちぺちっ。
く、仕方ない。
「はいはい。分かりましたよ妹様。しっかり摑まっていて下さいね」
日傘を掴み、ちらと隣を見るとパチュリー様が小悪魔を背負ってロビーを出るところだった。病弱なのに大丈夫かアレ。吐血程度ならまだ良いが背骨でも折られたら処置が面倒だ。
「おーそーいー!」
などと考えていると肩の上の妹様が暴れだした。マズイ。急がなくては。
「はいはい只今」
妹様に日傘を手渡し、太陽の角度を確認してから四人を追った。
「咲夜さん。これが妙案ですか?」
お嬢様を背負った咲夜さん、小悪魔を背中に貼り付けたパチュリー様、そして妹様を肩車した私。六人三影が並んでフワフワ適当に宙を飛んでいた。飛ぶ事自体が目的らしく、特にどこかを目指す事も無くお嬢様はゆったり地上を眺めている。
「ええそうよ。お嬢様も私達も大満足のハイクォリティウィンドウォーク。貴方も堪能して頂戴」
「はあ……まあ私は良いのですけれど、お嬢様はこれで宜しいのですか?」
肩車におおはしゃぎの妹様が日傘の影から出ないよう気を配りつつ、そして肩の上のふとももの感触を忘れないよう脳に刻み込みつつお嬢様に尋ねる。
「ええ。これで構わないわ。貴方達に翼を求めるのは無理なようだからね。直接的な方法はもういいわ。翼が無ければ作れば良い。作れないならば持ってくれば良い。翼の無い咲夜の背中に私がいれば……ほら、咲夜にも翼ができるじゃない」
ぎゅ、と咲夜さんの首に廻した手に力を入れるお嬢様。チョークスリーパーか、と小さくガッツポーズをとるも、そんな事は無く二人は楽しげに笑いあっている。ち、Aカップが。
だがまあいい。お嬢様のこの笑顔、企画立案は咲夜さんだ。今回は譲るとしよう。
それに私の肩の上には幼い魅力満載の妹様の腰がある。今は此方を堪能する事に集中しよう。妹様はお嬢様の許可が無ければ紅魔館の奥部から出てこない。門番の私が妹様にコンタクトをとる機会は非常に限られているのだ。千載一遇のこのチャンスを逃す手は無い。まずはさり気なくふくらはぎなんてどうだろう。
お嬢様と咲夜さんから目を離し、少し後ろを飛んでいるパチュリー様と子悪魔を見る。成る程子悪魔も黒翼保持者だ。彼女がパチュリー様の翼という訳か。ということは私の羽は妹様のそれなのだろう。妹様だけは背中ではなく肩の上にいるのだが……気にすることもないか。脇の下から生える翼に比べれば奢侈の極みである。
パチュリー様は高度を若干下げて、咲夜さんの短いスカートの中身を網膜に焼付けつつ、小悪魔の尻に手を這わせて頬を抓られている。どうやら彼女もこの空中遊泳を心から満喫しているようだ。
妹様の手を握って彼方を眺める。鳥の声と湖に映る微かに赤み差す空がじんわり心を満たしていく。秋の陽はどこか胡乱で、その幻想的な景色には私達もが含まれている様な気がした。
「咲夜、今日もハンバーグよ」
「あははっ、美鈴もっと高くー」
「どうしてそういうことをするのですパチュリー様。無闇にスカートを覗いてはいけないと何度も申し上げたじゃありませんか」
その景色は暖かく、間違いなく幸せだった。お嬢様の翼は嬉しそうに羽ばたいていた。
みんな仲良くていいですね~
紅魔館と永遠亭も仲良し幸せ
最初から最後まで一気に読めました。
最高でしたよ。
パチュリー様と子悪魔が素敵すぎます!!
ああ、確かにこれなら某天狐の言うとおり、本当に毎日が楽しそうだ♪
香霖堂の別店舗と主の接客姿勢も繋がってるあたり丁寧で深くも感じますし
説明のくだりは個人的にツボでした。
そして綺麗な締めくくり、まさに秀作!ご馳走様でした♪
イカロスの恩返しには本気で吹きましたが(笑
鷹揚とした語り口の中に潜む、一撃必笑の魔弾の射手が絶えずこちらをロックオン。
こういうのを真面目なギャグと言うのでしょうか。
等身大の日常なのにあんた達可笑しすぎだよ!
ああくそう面白いなあ。
>八意永琳は全てを熟知した上で鼻に孫の手を捻じ込む女である
なんて恐ろしい(笑)
こいつは……くるぜ!
霖之助「うわあ、とっても高いよ」
妖忌「こらこら、はしゃぐな坊主」
ふふ…これはまた、グラップラー! な御言葉で。
なんだかんだいって、貴方の紅魔館SSを見かけたら読まずには居られない私が居た。
疲れた頭に染み入ります。色々な毒と愛が(何
……若干一名、救えないのもいますが。
しかしあれだ。なにやってるんだマーキュリーポイズン(笑)
やはり紅魔館にまともな人っていないんでs(ギャー
>>イカロス=羽フェチの先駆者
これが最大のヒットでした、なるほどw
なぜか2度読み返したことにも気づきませんでした。
凄すぎる。
兎に角テンポや会話が絶妙。前振りや後への話のつなぎ方も絶妙。
……凄いところだ、創想話。
(ココのおかげで、最近市販小説を読まんくなったとです。)
次回作見かければ、絶対読ませていただきます。
5,6回読んで、いまさらながら気づきました。
嘘ォ。あれって原作少女漫画でしたよね? 自爆テロとかするのかなあ。
ともあれ原作ままでは失態です……が、直すにしてももう投稿から一年以上たってるし、今更感が拭えないのは確か。甘い下調べの戒めとさせてください。
つまり、苦労人だ!!
初代はムーン以外の4人が敵の3幹部と相打ちで死ぬ結末でしたね。
最終的に生き返りましたが。
大造じいさんとがんなんてワードを見たのは20年ぶりくらいかw懐かしい
やっぱこのメンバーで完成してるな