『歴史と言う反物』
「やっほー!慧姉ぇいる~?」
「おや、珍しいな。妹紅から訪ねてくるなんて。」
最近出来た友人の藤原妹紅が私の家を訪ねてきた。
理由を聞こうかと思ったが、その姿を見て聞かずとも判った。
「また今夜も輝夜と死合をしてきたのか。」
彼女は身に僅かな衣服しか纏っていなかったのだ。
しかもボロボロで纏っているというよりは、張り付いていると言ったほうが正しいだろ
う。
「そうなのよ。で、服はボロボロだし、このまま家に帰るのは恥ずかしいし、疲れたか
ら、今日は慧姉ぇの家に泊まっていこうかなぁと思って。」
まあ確かに、うら若き乙女(こんな事を言うと妹紅は「若くない!」というだろうが)が
するような格好じゃないな。
ほとんど生まれた姿になっているし。
「判った。とりあえず中に入れ。風呂を沸かすから、それまでこれでも着てろ。目のやり
場に困る。」
そう言って着ていた羽織を渡し後ろを向く。
背の高い私の羽織は背の低い妹紅には丁度良いだろう。
頃合いを見て振り返ると羽織ですっぽりと体を覆った彼女が赤い顔をして立っていた。
「どうした、顔が赤いぞ?」
そう言いつつ彼女を招き入れる。
「慧姉ぇが変な事を言うから意識しちゃったじゃない。」
「しかしなぁ。私が襲い掛かったらどうするつもりだったんだ。」
「大丈夫。慧姉ぇはそんな事するやつじゃないって、信じてるから。」
「な!?」
今度は私が赤くなる番だった。
「と、とにかく中へ入れ。もう夜も遅い。あんまり騒ぐと周りに迷惑だ。」
内心の動揺を悟られぬよう、さっさと家の奥へ行く。
だから私は、後ろで妹紅の呟いた言葉を聞かなかった。
「それにね・・・慧姉ぇなら襲われても良いんだけどなぁ。」
「ん?何か言ったか?」
「何でもないよ。」
私は妹紅を囲炉裏の側に座らせると風呂を沸かしに行った。
・
・
・
・
・
「慧姉ぇ、お風呂ありがとう。」
妹紅が風呂から上がったようだ。
「着替えの大きさはどうだ?私のでは大きいと思ったから小さいものを出しておいた
が。」
私は飯の支度をしながら聞く。
「ぴったりだよ。それにしても何で慧姉ぇの家に小さい服があるの?」
「妹紅がこうやって訪ねて来るのは、目に見えていたからな。さあ、出来たぞ。飯は、ま
だなのだろう?」
私の言い方に少し膨れている妹紅に気づかぬフリをして呼ぶ。
そして二人で食卓を囲む。
妹紅は食事中ずっとしゃべっていた。
自分のこの弾幕で輝夜をやっつけたとか、輝夜のこの弾幕にやられたとか。
食事が終わると満腹になったことで、死合の疲れに、話疲れが出たのだろう、妹紅はその
まま寝てしまった。
そんな彼女を布団に運び、食器の後片付けをする。
いつもだったら、ここで私も寝る準備をするのだが、今夜は満月。
今日はもう一仕事残っている。
「さてと、やるか。」
私は一言自分に気合を入れ、物置へと行く。
そこには様々な道具と共に、古びた機織り機が置いてある。
私はその前に座ると機織りを始めた。
・
・
・
・
・
・・・カッシャン・・・トントン・・・カッシャン・・・トントン・・・
「ん・・・」
私は音で目を覚ました。
「慧姉ぇ?」
布団に居るのは慧姉ぇが運んでくれたからだろう。
しかし、いつもなら隣で寝ている慧姉ぇの姿がない。
・・・カッシャン・・・トントン・・・カッシャン・・・トントン・・・
何の音だろう?
窓から覗く空はまだ暗く、朝には遠い。
1つだけ思い当たる音があった。
しかしこんな真夜中には普通しない音だ。
不思議に思いながらも音のするほうへ向かう。
・・・カッシャン・・・トントン・・・カッシャン・・・トントン・・・
音は物置から聞こえてくる。
やはりこの音は機織りの音だ。
しかし、何故こんな夜中に?
そう思いながら物置の扉を開ける。
「・・・何してるの、慧姉ぇ?」
思ったとおり、そこには慧姉ぇが居た。
「すまんな。起こしてしまったか。見ての通り、布を織っているのだが?」
「でも糸も何も無いじゃない。しかも白沢化までして。」
そう、機織り機には何も入っていなかった。
布を織るための糸も無い機織り機を、慧姉ぇは真剣な顔をして操作している。
しかも白沢化までして、布を織る必要はあるのだろうか?
「私が織っているのは、普通の布じゃない。」
「愚か者には、見えない布とか言うんじゃないでしょうね。」
「はは、そんな物じゃないさ。私が織っているのは『歴史』という名の布だよ。」
「歴史?」
「そう、この幻想郷の歴史さ。月日と言う糸を縦糸に、出来事と言う糸を横糸に歴史と言
う反物を織り上げるのが私の仕事。」
機織り機を操作しながら慧姉ぇは、それが自分の役目だという。
「普通の白沢は何にも無くてもできるんだがな。私は半獣だから何かを媒体にしないと歴
史を作る事ができないのだよ。」
「ふーん。」
「あ、その目は信じてないな?・・・よし、しょうがない特別に見せてやろう。」
そういうと慧姉ぇはブツブツ言いながら機織り機をニ、三回動かし始めた。
しばらくすると慧姉ぇの周りにキラキラと光る玉が幾つも現れた。
それらからは細い糸が伸び、機織り機で織り込まれていく。
「わぁ~。」
「どうだ、綺麗だろう。」
機織り機の表面に、光り輝く布が作り出されていく。
表面の光は一瞬ごとに色や形を変え、様々な紋様を描き出していく。
「私はこうやって織った反物を元に歴史書を書く。人間たちにも見えるようにな。」
「出来上がったこれはどうするの?」
「どうもしない。出来上がったものは時間と共に色を失い、覚えているものがいなくなっ
たときに消え去る。今この歴史が輝いているのは、たくさんの命とたくさんの想いが詰
まっているからだ。」
「へぇ~。」
慧姉ぇは誇らしげにその反物を見つめる。
しかしその目は少し寂しそうにも見えた。
「さて妹紅、先に寝てろ。まだ疲れが取れていないのだろう?私はもう少し織ってから寝
るから。」
・・・カッシャン・・・トントン・・・カッシャン・・・トントン・・・
私は慧姉ぇの操る機織り機の音を子守唄に眠りについた。
朝起きた時には、既に慧姉ぇが起きて朝食を作っていた。
二人で朝食を取り、家にたどり着いた時には昼になっていた。
昼食を取り、穏やかな日の光の下昼寝をする。
勿体無いと言う事無かれ。
私の時間のつぶし方は大概こうなのだ。
私には無限の時間があるのだから。
・
・
・
・
「やれやれ、何とかばれずに済んだな。」
妹紅を送り出した私は、大きく息を吐く。
まさか妹紅が、機織りの音を聞きつけて見に来るとは思わなかった。
あの反物を見せた時も、バレはしないかと内心冷や汗をかいていたのだ。
妹紅に見せたのは、昨日までの幻想郷の過去を織った布だった。
未来の布を織っているときに見つかったら、私の願いは駄目になってしまっていただろ
う。
未来は容易に変えられる。
故に自分の未来を知ったものは、良くも悪くも自分で未来を変えてしまうからだ。
そして自分の未来の布は、その内容が読めてしまうのだ。
私はあの後、私自身の願いを込めて、未来の妹紅の布を織った。
私が未来に与えられる影響など微々たる物だがそれでも良い。
『輝夜と和解し、良き友人になれますように。』
その後、輝夜と妹紅の関係がどう変わったか。
それは知識と歴史の半獣の反物に記されている事だろう。
end
「やっほー!慧姉ぇいる~?」
「おや、珍しいな。妹紅から訪ねてくるなんて。」
最近出来た友人の藤原妹紅が私の家を訪ねてきた。
理由を聞こうかと思ったが、その姿を見て聞かずとも判った。
「また今夜も輝夜と死合をしてきたのか。」
彼女は身に僅かな衣服しか纏っていなかったのだ。
しかもボロボロで纏っているというよりは、張り付いていると言ったほうが正しいだろ
う。
「そうなのよ。で、服はボロボロだし、このまま家に帰るのは恥ずかしいし、疲れたか
ら、今日は慧姉ぇの家に泊まっていこうかなぁと思って。」
まあ確かに、うら若き乙女(こんな事を言うと妹紅は「若くない!」というだろうが)が
するような格好じゃないな。
ほとんど生まれた姿になっているし。
「判った。とりあえず中に入れ。風呂を沸かすから、それまでこれでも着てろ。目のやり
場に困る。」
そう言って着ていた羽織を渡し後ろを向く。
背の高い私の羽織は背の低い妹紅には丁度良いだろう。
頃合いを見て振り返ると羽織ですっぽりと体を覆った彼女が赤い顔をして立っていた。
「どうした、顔が赤いぞ?」
そう言いつつ彼女を招き入れる。
「慧姉ぇが変な事を言うから意識しちゃったじゃない。」
「しかしなぁ。私が襲い掛かったらどうするつもりだったんだ。」
「大丈夫。慧姉ぇはそんな事するやつじゃないって、信じてるから。」
「な!?」
今度は私が赤くなる番だった。
「と、とにかく中へ入れ。もう夜も遅い。あんまり騒ぐと周りに迷惑だ。」
内心の動揺を悟られぬよう、さっさと家の奥へ行く。
だから私は、後ろで妹紅の呟いた言葉を聞かなかった。
「それにね・・・慧姉ぇなら襲われても良いんだけどなぁ。」
「ん?何か言ったか?」
「何でもないよ。」
私は妹紅を囲炉裏の側に座らせると風呂を沸かしに行った。
・
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「慧姉ぇ、お風呂ありがとう。」
妹紅が風呂から上がったようだ。
「着替えの大きさはどうだ?私のでは大きいと思ったから小さいものを出しておいた
が。」
私は飯の支度をしながら聞く。
「ぴったりだよ。それにしても何で慧姉ぇの家に小さい服があるの?」
「妹紅がこうやって訪ねて来るのは、目に見えていたからな。さあ、出来たぞ。飯は、ま
だなのだろう?」
私の言い方に少し膨れている妹紅に気づかぬフリをして呼ぶ。
そして二人で食卓を囲む。
妹紅は食事中ずっとしゃべっていた。
自分のこの弾幕で輝夜をやっつけたとか、輝夜のこの弾幕にやられたとか。
食事が終わると満腹になったことで、死合の疲れに、話疲れが出たのだろう、妹紅はその
まま寝てしまった。
そんな彼女を布団に運び、食器の後片付けをする。
いつもだったら、ここで私も寝る準備をするのだが、今夜は満月。
今日はもう一仕事残っている。
「さてと、やるか。」
私は一言自分に気合を入れ、物置へと行く。
そこには様々な道具と共に、古びた機織り機が置いてある。
私はその前に座ると機織りを始めた。
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・・・カッシャン・・・トントン・・・カッシャン・・・トントン・・・
「ん・・・」
私は音で目を覚ました。
「慧姉ぇ?」
布団に居るのは慧姉ぇが運んでくれたからだろう。
しかし、いつもなら隣で寝ている慧姉ぇの姿がない。
・・・カッシャン・・・トントン・・・カッシャン・・・トントン・・・
何の音だろう?
窓から覗く空はまだ暗く、朝には遠い。
1つだけ思い当たる音があった。
しかしこんな真夜中には普通しない音だ。
不思議に思いながらも音のするほうへ向かう。
・・・カッシャン・・・トントン・・・カッシャン・・・トントン・・・
音は物置から聞こえてくる。
やはりこの音は機織りの音だ。
しかし、何故こんな夜中に?
そう思いながら物置の扉を開ける。
「・・・何してるの、慧姉ぇ?」
思ったとおり、そこには慧姉ぇが居た。
「すまんな。起こしてしまったか。見ての通り、布を織っているのだが?」
「でも糸も何も無いじゃない。しかも白沢化までして。」
そう、機織り機には何も入っていなかった。
布を織るための糸も無い機織り機を、慧姉ぇは真剣な顔をして操作している。
しかも白沢化までして、布を織る必要はあるのだろうか?
「私が織っているのは、普通の布じゃない。」
「愚か者には、見えない布とか言うんじゃないでしょうね。」
「はは、そんな物じゃないさ。私が織っているのは『歴史』という名の布だよ。」
「歴史?」
「そう、この幻想郷の歴史さ。月日と言う糸を縦糸に、出来事と言う糸を横糸に歴史と言
う反物を織り上げるのが私の仕事。」
機織り機を操作しながら慧姉ぇは、それが自分の役目だという。
「普通の白沢は何にも無くてもできるんだがな。私は半獣だから何かを媒体にしないと歴
史を作る事ができないのだよ。」
「ふーん。」
「あ、その目は信じてないな?・・・よし、しょうがない特別に見せてやろう。」
そういうと慧姉ぇはブツブツ言いながら機織り機をニ、三回動かし始めた。
しばらくすると慧姉ぇの周りにキラキラと光る玉が幾つも現れた。
それらからは細い糸が伸び、機織り機で織り込まれていく。
「わぁ~。」
「どうだ、綺麗だろう。」
機織り機の表面に、光り輝く布が作り出されていく。
表面の光は一瞬ごとに色や形を変え、様々な紋様を描き出していく。
「私はこうやって織った反物を元に歴史書を書く。人間たちにも見えるようにな。」
「出来上がったこれはどうするの?」
「どうもしない。出来上がったものは時間と共に色を失い、覚えているものがいなくなっ
たときに消え去る。今この歴史が輝いているのは、たくさんの命とたくさんの想いが詰
まっているからだ。」
「へぇ~。」
慧姉ぇは誇らしげにその反物を見つめる。
しかしその目は少し寂しそうにも見えた。
「さて妹紅、先に寝てろ。まだ疲れが取れていないのだろう?私はもう少し織ってから寝
るから。」
・・・カッシャン・・・トントン・・・カッシャン・・・トントン・・・
私は慧姉ぇの操る機織り機の音を子守唄に眠りについた。
朝起きた時には、既に慧姉ぇが起きて朝食を作っていた。
二人で朝食を取り、家にたどり着いた時には昼になっていた。
昼食を取り、穏やかな日の光の下昼寝をする。
勿体無いと言う事無かれ。
私の時間のつぶし方は大概こうなのだ。
私には無限の時間があるのだから。
・
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「やれやれ、何とかばれずに済んだな。」
妹紅を送り出した私は、大きく息を吐く。
まさか妹紅が、機織りの音を聞きつけて見に来るとは思わなかった。
あの反物を見せた時も、バレはしないかと内心冷や汗をかいていたのだ。
妹紅に見せたのは、昨日までの幻想郷の過去を織った布だった。
未来の布を織っているときに見つかったら、私の願いは駄目になってしまっていただろ
う。
未来は容易に変えられる。
故に自分の未来を知ったものは、良くも悪くも自分で未来を変えてしまうからだ。
そして自分の未来の布は、その内容が読めてしまうのだ。
私はあの後、私自身の願いを込めて、未来の妹紅の布を織った。
私が未来に与えられる影響など微々たる物だがそれでも良い。
『輝夜と和解し、良き友人になれますように。』
その後、輝夜と妹紅の関係がどう変わったか。
それは知識と歴史の半獣の反物に記されている事だろう。
end
私の周りでも「けーねぇ」と呼ばれております
なんとなく、おねーさん(おねーさまでなく)ぽいのですよねぇ
あと未来にささやかな希望を感じさせているところが良かったです。
変なところで文が折り返されているのが気になりましたが。