―――声が聞こえる。
姿がぼやけていて見えないが、多分女性。
声の主が、私に何かを訴えてくる。
『……に………い………リ…………!』
しかし、何を言っているのか上手く聞き取れない。
近くで聞こうとしてそっちに向かったら、姿が一層ぼやけて―――消えた。
彼女が何を伝えたかったのかはわからない。
だけど、一つだけ分かったことがある。それは―――――。
□■□
「………夢?」
今でもハッキリと覚えている。
夢のはずなのに、何故かとても悲しい……。
コンコンッ
「失礼します、紫様。起きていますか?」
「……ああ、藍。おはよう」
物思いに耽っていたら、藍が起こしに来た。
「食事の準備が…紫様、どうなされたのですか!?」
「えっ……?」
何でそんなに驚いているのだろう。
訳もわからずに藍の視線の先を追う。
すると……。
「涙……?」
冷たく、どこか温かいモノが流れていく。
……泣いていた。藍に驚かれるまで気付かなかった。
「どこか痛むのですか?」
「……何でもないわ。すぐに行くから、先に行っててちょうだい」
「………わかりました」
話を切り上げる。
何か聞きたそうにしていたが、私がそう言うと素直に部屋から出て行った。
「はぁ………」
思わずため息が出る。
さっきの藍への態度についてもだが、それよりも。
夢を見て泣く。そんなことが起こるなんて。
ここ最近、泣いた記憶がない。最後に泣いたのは……いつ?
「ただの夢なのに……」
そう、ただの夢。何の変哲もない、夢。
それなのに。
「何でこんなに、泣きたくなるのかしら……?」
あの夢はどこか現実味を帯びていて、ただの夢だと思えなかった。
ならば、現実にあった出来事なのか?
答えはNO。
現実にあんなことがあった記憶は………ない。
「……とりあえず、食事にしましょうか」
頭の中がこんがらがってきたので、一旦考えるのをやめることにした。
□■□
時刻は既にお昼過ぎ。
私は食事のあとからずっと、夢のことを考えていた。
昼食の際に藍が呼びに来たが、「いらない」と伝えた。
「夢……なのよね」
夢の考察を始める。
確かにあれは夢のはず。実際、藍に起こされたわけだし。
しかし、“夢”と一言で片づけるには、不審な点が多すぎる。
第一に、あの夢には現実感があった。そして、確かにあの場には彼女がいた。
第二に、夢を見て私が泣いていたこと。ただの夢で泣くだろうか?
そして、第三に。これが一番おかしい点。
私は彼女のことを知っている気がする。
わずかに聞こえたその声に。ぼやけて見えた輪郭に。
知らないはずのその人を、誰よりも知っているような、変な感覚。
一体何なのだろうか。私は一体何を知っているのだろう?
……色々考えているうちに、ふと意識が沈むのを感じた。
―――声が聞こえる。
(また、あの夢………)
あの夢について考えてたせいか、同じ場所に私はいた。
辺りを見渡すまでもなく、彼女を見つける。
輪郭が、少しだけハッキリとしていた。
そして唯一確信していた通り、彼女は……泣いていた。
『貴…に…いたい………リ…………!』
昨日よりは聞こえたが、全てを聞き取れなかった。
(貴女は……誰なの?)
声を出したはずなのに。音にならずに――消えた。
そして影が……揺らいでいく。
(待って!私はまだ、貴女に聞きたいことが……!)
必死に呼びかけるが、空しく。
プツンッと、そこで意識が途絶えた。
「………っ!!」
目が覚める。時刻は日付が変わる少し前を示していた。
布団が敷いてあるところを見ると、藍が一度来て用意してくれたらしい。
「何なのよ………」
昨日よりもハッキリと、彼女は私に訴えた。
もどかしい。彼女の言っている言葉が知りたい。
知らないはずのその人は、こんなにも私を掻き乱す。
「……今考えても、仕方のないことだわ」
夢のことを現実で考えても意味がない。
そう判断して、もう一度眠りにつくことにする。
何かが頬を流れていく。その日はもう、あの夢を見なかった。
昨日の夢のあと、何度となく寝ては起きることを繰り返した。
しかし、あれから一度も夢を見ることはなかった。
所詮夢だったのか、という気持ちと、もう一度彼女に会いたいという気持ちがごちゃ混ぜだった。
黙って考えていると本当に混乱しそうだったので、少し外に出よう。
行き先は……あの巫女がいる場所にしよう。
□■□
スキマを使って博麗神社へ。
何となく歩いてみたい気分になって、石段を登っていく。
登っていくと、赤い鳥居が見えた。何だか久しぶりに見た気がする。
霊夢は相変わらず縁側でお茶を飲んでいた。
そのことに苦笑しながら、鳥居を潜ろうとして、
「あ………?」
ガクンッと、視界がぶれる。
あまりに突然のことに、思わず膝をついてしまう。
何とか顔を上げると。
今まで赤く輝いていた鳥居が、急にその色を失っていくのを見た。
………私はおかしくなってしまったのだろうか?
古びた鳥居を見て、“懐かしい”と思ってしまうなんて。
「あら、紫……って、どうしたの!?」
私の異変に気付いたのか、霊夢が慌てて駆け寄ってくる。
そして、心配そうに顔を覗き込んできた。
「れい………っ!?」
返事をしようとした声は、最後まで言えなかった。
霊夢の顔が……ぶれたから。
いや、ぶれたと言うよりは別人に見えたと言った方が正しい。
そして、ただぶれただけなら驚かなかった。
知らない顔の別人だったなら、言葉を失くさなかった。
そこには、夢の中の彼女がいた。
何故、そう思ったのかはわからない。
夢の中の彼女の顔だって、ちゃんと見たわけじゃないのに。
だけど私は知っている。知らないのに知っている。
訳が分からない。思考が滅茶苦茶になっていく。
貴女は誰?私は何を知っている―――――――――。
「紫!!」
「れい、む?」
もう、何も分からなくなっていた私を、霊夢が現実に引き上げてくれた。
霊夢の顔は、夢の中の少女じゃなくなっていた。
□■□
「………落ち着いた?」
「……ええ。ありがとう」
あれから少しして。
私は霊夢と縁側に座っていた。
「……少し顔色が悪いわね。今日はもう寝た方がいいわ」
「…………」
「紫?」
「……夢を見るの」
「夢?」
気がついたら、霊夢にポツポツと話しだしていた。
誰にも話すつもりはなかったのに。
でも、何だか少しだけ軽くなっていく気がした。
「夢の中で、誰かが私に何かを訴えてくる」
「………」
「聞き取ろうとするのだけれど聞けなくて、そこで目が覚める」
そう。いつもそこで目が覚めて…そして………。
「……目を開けると、泣いてるの。必ずね」
「紫が……?」
「失礼ね。私だって、泣くこともあるわよ」
クスッと笑いながら言う。
が、対して霊夢は真剣な表情だ。
「それで?」
「それでって?」
「あんたはどうしたいのよ」
「どうって……」
直球で核心をついてくる。
問題は私がどういたいのかっていうこと。
私の答えは決まっているけれど。
「……出来るなら、彼女が何を言っているのか、何を訴えているのか、知りたい」
「なら、悩む事なんて、ないわよね?」
「……ええ。悩みなんて、必要ないわ」
霊夢が笑ってそう言った。
それなら私も笑って答える。
そして、帰るために別れを告げようとしたとき。
フワッと。風が宙を舞った。
「……今、一瞬結界が揺らがなかった?」
「……霊夢もそう思った?」
何かあったのかと結界の方を見る。
すると、黒い何かがこちらに飛んできた。
私はそれをキャッチして――――言葉を失った。
「ゆ、かり………?」
霊夢が酷く驚いている。……当然か。
折角、話して少しは片付いたというのにこれだ。
つまり、どういうことかと言うと。
黒い何か――帽子を見て、私はまた泣いていたのだった。
白いリボンがついた、どこにでもあるような帽子。
だというのに、勝手に涙が流れていく。
止めようとしても、何か自分の奥底がそれを拒んでいる。
「彼女の、帽子なのかしら………?」
確信はないがそんな気がする。
そう思ったら、急に頭痛がしてきた。
記憶の奥底から、何かが引き上げられるような……そんな感覚。
さっき見た、夢の少女の姿がよぎる。
この黒い帽子をかぶって、私の手を引き駆けていく―――。
「……大丈夫?」
「………とりあえずは」
そんな彼女の幻想は、霊夢の声で掻き消された。
そのことにガッカリしたせいか、返答は素っ気なくなってしまった。
「………ごめんなさい、霊夢」
「あ………」
霊夢が何か言いたそうにしていたが、私は構わずスキマを開いた。
今の私には、彼女を気にかける余裕など無かった。
□■□
帰ってきて、倒れこむように体を投げ出す。
前にもこんなことがあった気もするが、気のせいだろう。
手にはさっきの帽子。まだ頭が痛い。
「やっぱり、私は彼女のことを……」
さっき幻視したとき確信した。私は彼女のことを知っている。
……それなのに。
「何で、わからないのよ……!?」
出した声は震えていた。
ここまで感情を表に出したのは、いつ以来だろうか?
記憶の底に、確かに彼女は存在している。
しかし、今ここで確かめることができない。
―――彼女は誰なのだろう?
名前も覚えていない…否、記憶が拒絶していて思い出せない……。
―――彼女は、私にとってどういう存在なのだろう?
……わからない。彼女の全てが、わからない!!
知りたい。彼女のことを、私のことを。
そう、強く願ったとき。
目の前が真っ暗になった。
□■□
『ここは……どこ?』
気が付くと“私”は、深い森の中にいた。
辺り一面、木や草が生い茂っている。
こんな時、彼女ならすぐに場所を告げて……―――ん?
彼女とは……誰?
『あ、あれ……?』
思い出せない。それどころか、徐々に徐々に忘れて――……いや違う。
“私という存在”が“書き換えられていく”。
最初に彼女の名を。次に自分の名を。
そして最後に、彼女と過ごした大切な時間を。
『何、なのよ………』
どんどんどんどん消えていく。
決して失いたくない、大事な大事な宝物たちが。
混乱しているその間にも、自分が自分でなくなっていく。
苦しくて顔を上げた先、何かが視界に入りこむ。
『祠………』
無数の境界が、その祠を覆っていた。
近づいてはいけない。直感的にそう思う。
なのに“私”の足は、勝手に進んでいく。
止まらない。止めたくても出来ない。
そして、その境界に手で触れて。
『い…や………』
そんな願いも叶わずに。
カチッと。歯車がかみ合うように。
最初から、こうなると決まっていたように。
“私”が私に、変わる。
初めからわかっていたかのように、境界を操り封印を解く。
解かれたあと、そこには少女が一人いた。
金色に輝く髪と尾。
どこか神々しい。そんな印象の少女だった。
『あなたは……?』
『私?私は通りすがりの妖怪よ』
ゆっくりと目を開けた少女はそう聞いてきた。
それに対して私は、自然とそう答えていた。
……妖怪。私は、妖怪。
『では、あなたの名前は……?』
『名前、か………』
再び聞かれ、少しだけ考える。
名前なんてものは、記憶と共に忘れてしまった。
名乗る名がないなら、自分で勝手に名乗ってしまおう。
何がいいか考え、空を見上げる。
……決めた。
『紫』
『え……?』
『私の名前は、八雲紫よ』
幾重にも重なった雲のように深く、そこから覗く紫ように妖しく。
八雲紫。境界を操る妖怪の名が決まった。
『じゃあ、あなたの名前は?』
『……私に名などありません。よろしければ、あなたが名づけてください』
『………わかったわ』
彼女が悲しげに笑っている。
何だか放っておけなくて、そう返事をする。
考えていたが浮かばず、彼女の方に目を向ける。
彼女はさっきの私のように、空を見上げていた。
その姿に何故か少し胸が痛んだ。
そんな彼女の視線を見る。
そこにあったのは、紫色と藍色の境界。
『……決めた。あなたの名前は――――』
何もかもを失った私に、唯一残ったモノ。
いつか見た夢は、現へと静かに変わり始め―――。
□■□
光が、戻ってくる。
時間にしてみれば、ほんの数秒のことだったらしい。
「今のは……」
藍を式にする前の記憶。
それは覚えていた。しかし、その前は何だ?
まるで私が、人間だったみたいな。
こうなることを、望んでいなかったような。
こんな記憶、知らない。
唯一残ったモノとは?いつか見た夢って?
疑問は尽きない。
それどころか、どんどん増えていく。
―――ここまで思い出したのに。
あと一歩が届かない。
ピースが足りない。思い、だせない。
「………けど」
たとえ覚えていなくても。
夢の中で、全てが分かる気がした。
それならば。
もう一度、夢を見ようじゃないか。
遠い昔に失ってしまった、彼女に会うために。
ゆっくりと瞳を閉じていく。そして………。
私の意識は闇に呑まれた。
□■□
タッタッタッタッと、誰かが街を駆けていく。
人目を気にせず、全速力で駆けていく。
色んな場所へ駆けていく。その頭に帽子はない。
『……22時13分16秒』
夜空は満天の星空だった。
ふと立ち止まり、空を見上げてそう呟く。
その表情は、影になっていて見えない。
『…………っ』
息をのむような音が聞える。そして、
『貴女に会いたいわ、メリー………!』
ちゃんと、聞こえた。ハッキリと。
言葉と共に、彼女の瞳から涙が零れる。
彼女に手を伸ばそうとして――彼女は走り去ってしまった。
追いかけようとしたけど、意識が遠ざかっていく………。
□■□
目が、覚める。
頬を伝う涙の意味を、今なら理解できる。
「何で………忘れてたのかしら………?」
彼女との思い出が、次々に思い浮かんでくる。
二人で蓮台野に行ったことや、彼女の実家に行ったこと。
……私のこと、唯一“メリー”って呼んでくれること。
大事な大事な思い出たち。その全てを、思い出した。
「……あれから、千年以上も経ってしまったのね」
彼女と会えなくなって、千年。あまりにも長すぎる時を生きてきた。
夢と現、そして人と妖怪の境界を越えてしまった、あの時から。
私は彼女を記憶の奥底へと封じた。
そうでもしないと、私は生きていけそうになかったのだ。
―――会いたい
彼女に、もう一度会いたい。
でも、彼女に会えるのだろうか?
時は無情にも流れていってしまっている。
…………それでも。
「やってみなきゃ、わからないわよね」
迷いなど、いらない。
この力があれば、彼女に会うことだってできるはず。
「……待っててね。今、会いに行くから」
スッと、境界を開く。向かう先は、彼女が待つ世界。
境界の中へと入っていく。が、
「っ!?」
境界に入った場所から、激痛が走る。
慌てて外に出ると、色んな箇所に細かい傷ができていた。
「結界が、邪魔している………?」
今まで、こんなことはなかった。
何か問題が起きているのかもしれない。
私はもう一度境界を開き、結界の元へと向かった。
「紫?」
「………霊夢」
博麗神社に来てみたが、これといって問題があるようには見えない。
「どうしたの?」
「……あなたは、結界に触れられる?」
「……よくわかんないけど、普通に触れるわよ?」
「そう………」
霊夢が結界に触れても何も起きない。
しかし、私が触れるとバチッと音がする。
どうやら私は、外に出られないらしい。
…………彼女に会うことが、できない。
「………今度は何なのよ?」
話すまで帰さないっと言った表情で私を見る。
………仕方ないか。
話すしか、ないのだろう。
「……夢の話をしたでしょう?」
「紫が泣いたってヤツ?」
「ええ。それで、私は全てを思いだしたの」
「ちょっと待って。話が飛びすぎよ」
……私は、思っていた以上にダメらしい。
うまく言葉にして話す事ができない。
「夢の中の彼女は、私が“未来”で一緒にいた人なの」
「未来……?」
「ええ。……私は、千年くらい前に外の世界の未来から来た」
「………つまり、結界ができる前に、未来からタイムスリップしてきたってこと?」
「そういうこと」
霊夢は頭を抱えて唸っている。
そりゃそうだろう。誰だってこんな話を聞いたらそうなる。
一呼吸おいて、また話し出す。
「千年前の未来で、私は夢の中の彼女と一緒にいた」
「………」
「二人で結界を暴きに、色んな所へ行ったわ」
「あんた、そんなことやってたの?」
呆れたように言う霊夢。
私も笑いながら続ける。
「そのころはまだ、私は人間で、能力も『境界を見る程度の能力』だった」
「そう、だったんだ」
「こんな力のせいで、誰も近寄ろうとはしなかった。私は誰も信じず、一人でいようとした。そんな時、彼女が現れた」
偶然出会ったあの日。
彼女は私にこう言った。
「私を見て一言。『気持ち悪い目』って」
「……凄い出会いね」
初対面だったというのに、そんなことを言ってのけた。
私の眼をジッと見て、だ。
「それで?」
「………あの日も、二人で結界を暴きに行ったわ。場所はここ――博麗神社」
「………!」
「ここで、少し大きめの境界を見つけたの。それに触れようとして……空間が歪んだ」
いつか見た夢。
そのうちの一つが、まず現実になった。
……一番私たちにとって最悪な形の夢が。
「……その時、私の能力が暴走したの。そのころには夢の中で境界を越えていたから………」
進化していく能力に、私の体は耐えきれなかった。
そして、気がついたら……。
「千年前のここにいたわ」
「………そういうこと」
話しているうちに、あの頃のことをハッキリと思い出してしまった。
目頭が段々熱くなっていく。
「全てを、思い出した。そして、彼女に会いに行こうとした………!」
「紫………」
「でも、結界がそれを許してくれなかった……!!」
涙と共に、溜まっていた想いを吐き出す。
苦しくて。悲しくて。痛くて。
どうにかなってしまいそう。
「彼女に会いたいのに!こんなにも想っているのに!どうして……?どうしてなのよ!?」
重い沈黙。ただ、私の泣く声が聞えるだけ。
私の問いに答える者は、いない。
「あのさ、紫」
「何……?」
少し経って、ようやく私が落ち着いた頃。
霊夢がそっと訪ねてきた。
「あんたは、その人に会いたいんでしょ?」
「………もちろんよ」
「なら、その人を信じなきゃダメでしょ」
「え………」
「たとえあんたが向こうに行けなくても、外側でその人が紫を探しているかもしれない。……だから」
一旦そこで言葉を区切り、こちらをジッと見てくる。
そしてフッと微笑んだ。
「ちゃんとその人のこと、信じてあげなさい」
「霊夢……。………ありがとう」
言われてから気づくとは情けないけど。
おかげで、大切なモノを見失わずに済んだ。
「貴女のこと、信じて待っているから」
今はただ、この想いが届くように。
向こう側で、きっと私を探してくれている彼女に向けて。
「だから、必ず………」
最後に呟いた言葉は、フワリと吹いた風に包まれ――消えた。
姿がぼやけていて見えないが、多分女性。
声の主が、私に何かを訴えてくる。
『……に………い………リ…………!』
しかし、何を言っているのか上手く聞き取れない。
近くで聞こうとしてそっちに向かったら、姿が一層ぼやけて―――消えた。
彼女が何を伝えたかったのかはわからない。
だけど、一つだけ分かったことがある。それは―――――。
□■□
「………夢?」
今でもハッキリと覚えている。
夢のはずなのに、何故かとても悲しい……。
コンコンッ
「失礼します、紫様。起きていますか?」
「……ああ、藍。おはよう」
物思いに耽っていたら、藍が起こしに来た。
「食事の準備が…紫様、どうなされたのですか!?」
「えっ……?」
何でそんなに驚いているのだろう。
訳もわからずに藍の視線の先を追う。
すると……。
「涙……?」
冷たく、どこか温かいモノが流れていく。
……泣いていた。藍に驚かれるまで気付かなかった。
「どこか痛むのですか?」
「……何でもないわ。すぐに行くから、先に行っててちょうだい」
「………わかりました」
話を切り上げる。
何か聞きたそうにしていたが、私がそう言うと素直に部屋から出て行った。
「はぁ………」
思わずため息が出る。
さっきの藍への態度についてもだが、それよりも。
夢を見て泣く。そんなことが起こるなんて。
ここ最近、泣いた記憶がない。最後に泣いたのは……いつ?
「ただの夢なのに……」
そう、ただの夢。何の変哲もない、夢。
それなのに。
「何でこんなに、泣きたくなるのかしら……?」
あの夢はどこか現実味を帯びていて、ただの夢だと思えなかった。
ならば、現実にあった出来事なのか?
答えはNO。
現実にあんなことがあった記憶は………ない。
「……とりあえず、食事にしましょうか」
頭の中がこんがらがってきたので、一旦考えるのをやめることにした。
□■□
時刻は既にお昼過ぎ。
私は食事のあとからずっと、夢のことを考えていた。
昼食の際に藍が呼びに来たが、「いらない」と伝えた。
「夢……なのよね」
夢の考察を始める。
確かにあれは夢のはず。実際、藍に起こされたわけだし。
しかし、“夢”と一言で片づけるには、不審な点が多すぎる。
第一に、あの夢には現実感があった。そして、確かにあの場には彼女がいた。
第二に、夢を見て私が泣いていたこと。ただの夢で泣くだろうか?
そして、第三に。これが一番おかしい点。
私は彼女のことを知っている気がする。
わずかに聞こえたその声に。ぼやけて見えた輪郭に。
知らないはずのその人を、誰よりも知っているような、変な感覚。
一体何なのだろうか。私は一体何を知っているのだろう?
……色々考えているうちに、ふと意識が沈むのを感じた。
―――声が聞こえる。
(また、あの夢………)
あの夢について考えてたせいか、同じ場所に私はいた。
辺りを見渡すまでもなく、彼女を見つける。
輪郭が、少しだけハッキリとしていた。
そして唯一確信していた通り、彼女は……泣いていた。
『貴…に…いたい………リ…………!』
昨日よりは聞こえたが、全てを聞き取れなかった。
(貴女は……誰なの?)
声を出したはずなのに。音にならずに――消えた。
そして影が……揺らいでいく。
(待って!私はまだ、貴女に聞きたいことが……!)
必死に呼びかけるが、空しく。
プツンッと、そこで意識が途絶えた。
「………っ!!」
目が覚める。時刻は日付が変わる少し前を示していた。
布団が敷いてあるところを見ると、藍が一度来て用意してくれたらしい。
「何なのよ………」
昨日よりもハッキリと、彼女は私に訴えた。
もどかしい。彼女の言っている言葉が知りたい。
知らないはずのその人は、こんなにも私を掻き乱す。
「……今考えても、仕方のないことだわ」
夢のことを現実で考えても意味がない。
そう判断して、もう一度眠りにつくことにする。
何かが頬を流れていく。その日はもう、あの夢を見なかった。
昨日の夢のあと、何度となく寝ては起きることを繰り返した。
しかし、あれから一度も夢を見ることはなかった。
所詮夢だったのか、という気持ちと、もう一度彼女に会いたいという気持ちがごちゃ混ぜだった。
黙って考えていると本当に混乱しそうだったので、少し外に出よう。
行き先は……あの巫女がいる場所にしよう。
□■□
スキマを使って博麗神社へ。
何となく歩いてみたい気分になって、石段を登っていく。
登っていくと、赤い鳥居が見えた。何だか久しぶりに見た気がする。
霊夢は相変わらず縁側でお茶を飲んでいた。
そのことに苦笑しながら、鳥居を潜ろうとして、
「あ………?」
ガクンッと、視界がぶれる。
あまりに突然のことに、思わず膝をついてしまう。
何とか顔を上げると。
今まで赤く輝いていた鳥居が、急にその色を失っていくのを見た。
………私はおかしくなってしまったのだろうか?
古びた鳥居を見て、“懐かしい”と思ってしまうなんて。
「あら、紫……って、どうしたの!?」
私の異変に気付いたのか、霊夢が慌てて駆け寄ってくる。
そして、心配そうに顔を覗き込んできた。
「れい………っ!?」
返事をしようとした声は、最後まで言えなかった。
霊夢の顔が……ぶれたから。
いや、ぶれたと言うよりは別人に見えたと言った方が正しい。
そして、ただぶれただけなら驚かなかった。
知らない顔の別人だったなら、言葉を失くさなかった。
そこには、夢の中の彼女がいた。
何故、そう思ったのかはわからない。
夢の中の彼女の顔だって、ちゃんと見たわけじゃないのに。
だけど私は知っている。知らないのに知っている。
訳が分からない。思考が滅茶苦茶になっていく。
貴女は誰?私は何を知っている―――――――――。
「紫!!」
「れい、む?」
もう、何も分からなくなっていた私を、霊夢が現実に引き上げてくれた。
霊夢の顔は、夢の中の少女じゃなくなっていた。
□■□
「………落ち着いた?」
「……ええ。ありがとう」
あれから少しして。
私は霊夢と縁側に座っていた。
「……少し顔色が悪いわね。今日はもう寝た方がいいわ」
「…………」
「紫?」
「……夢を見るの」
「夢?」
気がついたら、霊夢にポツポツと話しだしていた。
誰にも話すつもりはなかったのに。
でも、何だか少しだけ軽くなっていく気がした。
「夢の中で、誰かが私に何かを訴えてくる」
「………」
「聞き取ろうとするのだけれど聞けなくて、そこで目が覚める」
そう。いつもそこで目が覚めて…そして………。
「……目を開けると、泣いてるの。必ずね」
「紫が……?」
「失礼ね。私だって、泣くこともあるわよ」
クスッと笑いながら言う。
が、対して霊夢は真剣な表情だ。
「それで?」
「それでって?」
「あんたはどうしたいのよ」
「どうって……」
直球で核心をついてくる。
問題は私がどういたいのかっていうこと。
私の答えは決まっているけれど。
「……出来るなら、彼女が何を言っているのか、何を訴えているのか、知りたい」
「なら、悩む事なんて、ないわよね?」
「……ええ。悩みなんて、必要ないわ」
霊夢が笑ってそう言った。
それなら私も笑って答える。
そして、帰るために別れを告げようとしたとき。
フワッと。風が宙を舞った。
「……今、一瞬結界が揺らがなかった?」
「……霊夢もそう思った?」
何かあったのかと結界の方を見る。
すると、黒い何かがこちらに飛んできた。
私はそれをキャッチして――――言葉を失った。
「ゆ、かり………?」
霊夢が酷く驚いている。……当然か。
折角、話して少しは片付いたというのにこれだ。
つまり、どういうことかと言うと。
黒い何か――帽子を見て、私はまた泣いていたのだった。
白いリボンがついた、どこにでもあるような帽子。
だというのに、勝手に涙が流れていく。
止めようとしても、何か自分の奥底がそれを拒んでいる。
「彼女の、帽子なのかしら………?」
確信はないがそんな気がする。
そう思ったら、急に頭痛がしてきた。
記憶の奥底から、何かが引き上げられるような……そんな感覚。
さっき見た、夢の少女の姿がよぎる。
この黒い帽子をかぶって、私の手を引き駆けていく―――。
「……大丈夫?」
「………とりあえずは」
そんな彼女の幻想は、霊夢の声で掻き消された。
そのことにガッカリしたせいか、返答は素っ気なくなってしまった。
「………ごめんなさい、霊夢」
「あ………」
霊夢が何か言いたそうにしていたが、私は構わずスキマを開いた。
今の私には、彼女を気にかける余裕など無かった。
□■□
帰ってきて、倒れこむように体を投げ出す。
前にもこんなことがあった気もするが、気のせいだろう。
手にはさっきの帽子。まだ頭が痛い。
「やっぱり、私は彼女のことを……」
さっき幻視したとき確信した。私は彼女のことを知っている。
……それなのに。
「何で、わからないのよ……!?」
出した声は震えていた。
ここまで感情を表に出したのは、いつ以来だろうか?
記憶の底に、確かに彼女は存在している。
しかし、今ここで確かめることができない。
―――彼女は誰なのだろう?
名前も覚えていない…否、記憶が拒絶していて思い出せない……。
―――彼女は、私にとってどういう存在なのだろう?
……わからない。彼女の全てが、わからない!!
知りたい。彼女のことを、私のことを。
そう、強く願ったとき。
目の前が真っ暗になった。
□■□
『ここは……どこ?』
気が付くと“私”は、深い森の中にいた。
辺り一面、木や草が生い茂っている。
こんな時、彼女ならすぐに場所を告げて……―――ん?
彼女とは……誰?
『あ、あれ……?』
思い出せない。それどころか、徐々に徐々に忘れて――……いや違う。
“私という存在”が“書き換えられていく”。
最初に彼女の名を。次に自分の名を。
そして最後に、彼女と過ごした大切な時間を。
『何、なのよ………』
どんどんどんどん消えていく。
決して失いたくない、大事な大事な宝物たちが。
混乱しているその間にも、自分が自分でなくなっていく。
苦しくて顔を上げた先、何かが視界に入りこむ。
『祠………』
無数の境界が、その祠を覆っていた。
近づいてはいけない。直感的にそう思う。
なのに“私”の足は、勝手に進んでいく。
止まらない。止めたくても出来ない。
そして、その境界に手で触れて。
『い…や………』
そんな願いも叶わずに。
カチッと。歯車がかみ合うように。
最初から、こうなると決まっていたように。
“私”が私に、変わる。
初めからわかっていたかのように、境界を操り封印を解く。
解かれたあと、そこには少女が一人いた。
金色に輝く髪と尾。
どこか神々しい。そんな印象の少女だった。
『あなたは……?』
『私?私は通りすがりの妖怪よ』
ゆっくりと目を開けた少女はそう聞いてきた。
それに対して私は、自然とそう答えていた。
……妖怪。私は、妖怪。
『では、あなたの名前は……?』
『名前、か………』
再び聞かれ、少しだけ考える。
名前なんてものは、記憶と共に忘れてしまった。
名乗る名がないなら、自分で勝手に名乗ってしまおう。
何がいいか考え、空を見上げる。
……決めた。
『紫』
『え……?』
『私の名前は、八雲紫よ』
幾重にも重なった雲のように深く、そこから覗く紫ように妖しく。
八雲紫。境界を操る妖怪の名が決まった。
『じゃあ、あなたの名前は?』
『……私に名などありません。よろしければ、あなたが名づけてください』
『………わかったわ』
彼女が悲しげに笑っている。
何だか放っておけなくて、そう返事をする。
考えていたが浮かばず、彼女の方に目を向ける。
彼女はさっきの私のように、空を見上げていた。
その姿に何故か少し胸が痛んだ。
そんな彼女の視線を見る。
そこにあったのは、紫色と藍色の境界。
『……決めた。あなたの名前は――――』
何もかもを失った私に、唯一残ったモノ。
いつか見た夢は、現へと静かに変わり始め―――。
□■□
光が、戻ってくる。
時間にしてみれば、ほんの数秒のことだったらしい。
「今のは……」
藍を式にする前の記憶。
それは覚えていた。しかし、その前は何だ?
まるで私が、人間だったみたいな。
こうなることを、望んでいなかったような。
こんな記憶、知らない。
唯一残ったモノとは?いつか見た夢って?
疑問は尽きない。
それどころか、どんどん増えていく。
―――ここまで思い出したのに。
あと一歩が届かない。
ピースが足りない。思い、だせない。
「………けど」
たとえ覚えていなくても。
夢の中で、全てが分かる気がした。
それならば。
もう一度、夢を見ようじゃないか。
遠い昔に失ってしまった、彼女に会うために。
ゆっくりと瞳を閉じていく。そして………。
私の意識は闇に呑まれた。
□■□
タッタッタッタッと、誰かが街を駆けていく。
人目を気にせず、全速力で駆けていく。
色んな場所へ駆けていく。その頭に帽子はない。
『……22時13分16秒』
夜空は満天の星空だった。
ふと立ち止まり、空を見上げてそう呟く。
その表情は、影になっていて見えない。
『…………っ』
息をのむような音が聞える。そして、
『貴女に会いたいわ、メリー………!』
ちゃんと、聞こえた。ハッキリと。
言葉と共に、彼女の瞳から涙が零れる。
彼女に手を伸ばそうとして――彼女は走り去ってしまった。
追いかけようとしたけど、意識が遠ざかっていく………。
□■□
目が、覚める。
頬を伝う涙の意味を、今なら理解できる。
「何で………忘れてたのかしら………?」
彼女との思い出が、次々に思い浮かんでくる。
二人で蓮台野に行ったことや、彼女の実家に行ったこと。
……私のこと、唯一“メリー”って呼んでくれること。
大事な大事な思い出たち。その全てを、思い出した。
「……あれから、千年以上も経ってしまったのね」
彼女と会えなくなって、千年。あまりにも長すぎる時を生きてきた。
夢と現、そして人と妖怪の境界を越えてしまった、あの時から。
私は彼女を記憶の奥底へと封じた。
そうでもしないと、私は生きていけそうになかったのだ。
―――会いたい
彼女に、もう一度会いたい。
でも、彼女に会えるのだろうか?
時は無情にも流れていってしまっている。
…………それでも。
「やってみなきゃ、わからないわよね」
迷いなど、いらない。
この力があれば、彼女に会うことだってできるはず。
「……待っててね。今、会いに行くから」
スッと、境界を開く。向かう先は、彼女が待つ世界。
境界の中へと入っていく。が、
「っ!?」
境界に入った場所から、激痛が走る。
慌てて外に出ると、色んな箇所に細かい傷ができていた。
「結界が、邪魔している………?」
今まで、こんなことはなかった。
何か問題が起きているのかもしれない。
私はもう一度境界を開き、結界の元へと向かった。
「紫?」
「………霊夢」
博麗神社に来てみたが、これといって問題があるようには見えない。
「どうしたの?」
「……あなたは、結界に触れられる?」
「……よくわかんないけど、普通に触れるわよ?」
「そう………」
霊夢が結界に触れても何も起きない。
しかし、私が触れるとバチッと音がする。
どうやら私は、外に出られないらしい。
…………彼女に会うことが、できない。
「………今度は何なのよ?」
話すまで帰さないっと言った表情で私を見る。
………仕方ないか。
話すしか、ないのだろう。
「……夢の話をしたでしょう?」
「紫が泣いたってヤツ?」
「ええ。それで、私は全てを思いだしたの」
「ちょっと待って。話が飛びすぎよ」
……私は、思っていた以上にダメらしい。
うまく言葉にして話す事ができない。
「夢の中の彼女は、私が“未来”で一緒にいた人なの」
「未来……?」
「ええ。……私は、千年くらい前に外の世界の未来から来た」
「………つまり、結界ができる前に、未来からタイムスリップしてきたってこと?」
「そういうこと」
霊夢は頭を抱えて唸っている。
そりゃそうだろう。誰だってこんな話を聞いたらそうなる。
一呼吸おいて、また話し出す。
「千年前の未来で、私は夢の中の彼女と一緒にいた」
「………」
「二人で結界を暴きに、色んな所へ行ったわ」
「あんた、そんなことやってたの?」
呆れたように言う霊夢。
私も笑いながら続ける。
「そのころはまだ、私は人間で、能力も『境界を見る程度の能力』だった」
「そう、だったんだ」
「こんな力のせいで、誰も近寄ろうとはしなかった。私は誰も信じず、一人でいようとした。そんな時、彼女が現れた」
偶然出会ったあの日。
彼女は私にこう言った。
「私を見て一言。『気持ち悪い目』って」
「……凄い出会いね」
初対面だったというのに、そんなことを言ってのけた。
私の眼をジッと見て、だ。
「それで?」
「………あの日も、二人で結界を暴きに行ったわ。場所はここ――博麗神社」
「………!」
「ここで、少し大きめの境界を見つけたの。それに触れようとして……空間が歪んだ」
いつか見た夢。
そのうちの一つが、まず現実になった。
……一番私たちにとって最悪な形の夢が。
「……その時、私の能力が暴走したの。そのころには夢の中で境界を越えていたから………」
進化していく能力に、私の体は耐えきれなかった。
そして、気がついたら……。
「千年前のここにいたわ」
「………そういうこと」
話しているうちに、あの頃のことをハッキリと思い出してしまった。
目頭が段々熱くなっていく。
「全てを、思い出した。そして、彼女に会いに行こうとした………!」
「紫………」
「でも、結界がそれを許してくれなかった……!!」
涙と共に、溜まっていた想いを吐き出す。
苦しくて。悲しくて。痛くて。
どうにかなってしまいそう。
「彼女に会いたいのに!こんなにも想っているのに!どうして……?どうしてなのよ!?」
重い沈黙。ただ、私の泣く声が聞えるだけ。
私の問いに答える者は、いない。
「あのさ、紫」
「何……?」
少し経って、ようやく私が落ち着いた頃。
霊夢がそっと訪ねてきた。
「あんたは、その人に会いたいんでしょ?」
「………もちろんよ」
「なら、その人を信じなきゃダメでしょ」
「え………」
「たとえあんたが向こうに行けなくても、外側でその人が紫を探しているかもしれない。……だから」
一旦そこで言葉を区切り、こちらをジッと見てくる。
そしてフッと微笑んだ。
「ちゃんとその人のこと、信じてあげなさい」
「霊夢……。………ありがとう」
言われてから気づくとは情けないけど。
おかげで、大切なモノを見失わずに済んだ。
「貴女のこと、信じて待っているから」
今はただ、この想いが届くように。
向こう側で、きっと私を探してくれている彼女に向けて。
「だから、必ず………」
最後に呟いた言葉は、フワリと吹いた風に包まれ――消えた。