「うぅ、寒い~」
とある冬の日。鈴仙は白い息を吐きながら、輝夜の部屋の前で立ち止まる。
「失礼します。お茶をお持ちました」
彼女が襖を開けて中に入ると、
「きゃあああ!!」
永遠亭に悲鳴が響き渡った。
~ただいま100字~
「ロン」
「たんま!」
「待った無し」
神社の居間のコタツで雀卓を囲む守矢一家と霊夢。渋々霊夢に点棒を渡す早苗に、神奈子と諏訪子も苦笑い。
と突然、神奈子の表情が険しくなった。
「む、ゴッドセンス受信。大変よ早苗、殺人事件だわ! すぐに永遠亭へ」
「了解!」
「何、あんたんとこ探偵ごっこでも始めたの?」
「はい。つい最近」
「へー、ご苦労なことね」
霊夢がじゃらじゃらと雀牌を混ぜようと伸ばした腕を、早苗はがっと掴んだ。
「という訳で行きますよ、霊夢さん。あなたの勘が頼りです!」
「あんたが解決するんじゃないの!? ちょっ、放せこらー!」
~ただいま400字~
永遠亭を訪ねた二人を永琳が迎えた。何やら機嫌が悪そうだ。
「守矢探偵事務所の者です」
「どこよそれ」
「こちらから事件のニオイを感じて馳せ参じました」
「どんなニオイよ」
ぽんぽんと適当な事を言う早苗に、霊夢は逐一口を挟む。彼女は本能で感じ取った。「あぁ、私がツッコミ役なのね」と。
「で、誰か死んだの?」
「えぇ、ついさっき」
「あったのね」
まさか本当に事件が起こっていたとは。
中に通されると、そこには立ち尽くす妹紅、血まみれの服を着た輝夜、泣き崩れる鈴仙がいた。
二人に気づいた輝夜はにこやかに挨拶する。
「いらっしゃい。何か御用?」
「本日は探偵としてやって参りました。で被害者は?」
「被害者は私で、犯人は鈴仙だったわ」
『へ?』
彼女の証言に、二人は間の抜けた声を上げた。
「ほんっとーにすみませんでしたぁ!」
「もういいのよ、事故だったんだから」
額を畳に擦りつけ必死で謝る鈴仙に、輝夜は苦笑して返す。
「どういうこと?」
霊夢はこそっと永琳に尋ねた。
「うどんげがお茶を持ってった際に躓いて、あろうことか姫の頭に湯呑みを叩きつけたの。それで打ち所が悪くて死亡」
彼女は眉を潜めてぼやいた。どうやら機嫌の悪さはこれが原因らしい。
とにもかくにも霊夢は早苗の肩に手を置いた。
「事件解決ね。いや事件ですらなかったけど」
「果たしてそうでしょうか」
もうお終いかと思われたこの場の空気に、早苗が待ったをかける。
「終わっちゃっていいんですか? いいえこの話、まだ終わらせるわけにはいきませんよ。まだ2000字も残ってます。つまりここで終わればタイトル詐欺になってしまう。そうはいきません!」
彼女の言葉に、その場の空気が張り詰める。
「この単純な作品、私が3300文字、もたせてみせます」
普通なら原稿用紙一枚に収まってしまうような超掌編。それを引き伸ばして正味3300文字の掌編にしようというのだ。
迷惑明瞭名探偵、その名も東風谷早苗。
~ただいま1300字~
「まず被害者生き返ってるけど」
「鈴仙さん、あなたは誰かをかばっている」
「無視!?」
霊夢のツッコミを華麗にスルー。作品を終わらせてしまうような言葉には耳を貸さない。
「それはあなたの師匠である永琳さんです!」
ハッとして全員が永琳の方を向いた。当の本人は俯いて腕を組んでいる。
「聞くところによるとあなたは輝夜さんに負い目があるとか。そこで何やかんや彼女を殺してしまった」
「何やかんやって何よ」
霊夢のツッコミに早苗は鼻で笑った。
「何やかんやは……何やかんやです!」
「威張るとこ!?」
「いやほら、あるじゃないですか。主にこき使われてもうなんかつい殺っちゃったみたいな」
「適当過ぎでしょ」
二人のやり取りを黙って聞いていた永琳だったが、ついにため息が漏れた。
「何を言うかと思えば。私が犯人だなんてあり得ないわ」
「何故です」
「だって私はずっと、妹紅が連れて来た患者を診ていたもの」
「そうだな。私もその場にいたし」
永琳の供述を、妹紅が裏付けた。どうやらこの線で推理を進めるのは苦しそうだ。どうする早苗。
「白紙に戻りましたか……聞き込みの必要がありますね」
永琳の証言に異常な信憑性を感じ取った彼女は、部屋を飛び出し竹林へと消えていった。
「ってどこ行くのよー!?」
~ただいま1900字~
竹林の奥にいたのは因幡てゐ。永遠亭の全てを知る人物だ。
「情報が欲しい」
「うっさうっさ~、幸せの漢方薬はいっかがっうさ~」
早苗は銭をてゐの手に握らせる。彼女はにやりと笑みを浮かべ、そっと耳打ちした。
「妹紅が姫様の部屋の前をうろついてるのを見たわ」
「いつですか」
「今なら幸せの座薬もつけるうさ~」
今度は紙幣を手に握らせる。
「事件が起こるちょっと前よ。妹紅は病気の人間を連れて来た後、いつもなら診察が終わるまで付いてるのに、今日は途中で抜け出してた」
「ありがとう」
~ただいま2200字~
「有力な情報を得ました」
「おかえり」
「輝夜さん、あなたの能力なら事故の際にも避けれた筈。しかし実際出来なかったのは何故か」
「おかえりすら無視か」
早苗の言葉に輝夜は黙り込んだ。霊夢は無視された。それを認め、次は妹紅の方に向き直る。
「聞くところによると妹紅さんと輝夜さんは昨夜殺し合いをしたそうで」
「あれ、ねぇ、それは事件にならないの?」
「結果輝夜さんが勝ち、傷だらけのまま帰った」
「やっぱ無視か」
「腹の虫が収まらない妹紅さんは患者を案内した後、彼女を殺しに行った。鈴仙さんが現れたのはまさに幸運。まるで彼女のせいで死んだように見せれたのですからね。そう、その時輝夜さんは既に死んでいたんです」
ようやくそれっぽいことを言い出した。
「確かに私は輝夜を殺そうとした」
「おぉ!?」
妹紅が認めた。まさかの展開に霊夢も思わず声を上げる。
「でも止めた」
『へ?』
「私は別に負けたのが悔しいからって殺そうとしたわけじゃない。あの状態じゃ一旦死んだ方が楽だろうと思ったからさ。ただ、もし私が同じ状況でそんな風に同情されたらプライドが傷付くんじゃないかって……だから何もせずに戻った」
彼女の言い分が本当か証明するものは無い。しかしその真剣な表情と、ほんの僅かに照れで染まった頬が、真実を訴えかけていた。
「……まー多分そんなこったろーとは思ってました」
「ねぇ、内心へこんでるでしょ。ねぇ?」
「そんなこったろーと思ってました!」
~ただいま2800字~
「ていうかあと500字しか無いわよ」
霊夢の心配をよそに、早苗は余裕の笑みを浮かべた。
「ご安心を。この上に表示されてる字数は、空白と改行さらにはカウントテロップなど込みでの数値。故に実質まだ700文字程残ってます!」
「そんな七面倒くさいこと言うなら字数稼ぎなんてすんじゃないわよ!?」
~ただいま(正味)2600文字~
「尺が無いので本気でいきます。輝夜さん、あなたが被ったお茶は熱かったですか?」
「ん、ちょっとぬるいぐらいだったかしら」
「やはりそうですか」
早苗は右腕を高く掲げ、人差し指をぴんと立てた。
「真犯人は」
バッと振り下ろし、指された先はなんと!
「鈴仙さん、あなたです」
「……あ、はい」
「うん、皆知ってた。しかも事故」
静まり返った部屋の中に、霊夢の呟きがはっきりと聞こえた。
「彼女は何も無いところでつまづく程、運動音痴ですか?」
『!?』
ここに来て核心をつく言葉に、再び緊張が走る。
「こんな寒い日です。熱々のお茶を用意するのが普通。なのにぬるかった。それは偶然を装う心の準備をしてるうちに、冷めてしまったからです。そう、あなたは輝夜さんの水も滴るエロい姿を見たいがために犯行に及び、結果誤って殺してしまった!」
「違います!」
「違うんですか!」
渾身の否定で返された。
「ただ……犯行が故意だったのは事実です。お茶は最初からぬるいのを入れてました」
「何ですって?」
彼女の自白に、傍に立っていた永琳の肩が震える。
「姫に対してなんという狼藉。そこになおれ、私が直々に介錯してあげる」
猛る彼女を、輝夜が慌てて制した。
「待って! ねぇ鈴仙、どうしてそんなことを?」
「恨みがあった訳ではありません。弱った姫様を見てられなかったんです。しかし妹紅も言った通り、あからさまにやったのでは姫様の尊厳を蔑ろにすると思い……」
輝夜の問いに、ぼろぼろと泣きながら自供する鈴仙。
そんな彼女の目尻を、輝夜はそっと指で拭った。
「あれは事故だった。被害者の私が言うんだから間違いないわ。ね、永琳?」
「姫がそういうのであれば」
「ひ、姫様ぁ~!」
輝夜に抱きつく鈴仙。早苗はそれを満足気に眺めていた。
「これにて一件落着ですね」
「あんた何もしてないでしょ」
霊夢の言葉に、早苗は満面の笑みを浮かべ、読者の方へ振り返った。
「3300文字、もたせました!」
\ /
● ● ドヤァ
/// ▽ ///
普通に面白かったんですけどw
途中の(正味)で増えたのがメタくてディモールト・良し。
これは是非とも続編を期待する。紅魔館や地霊殿あたりで(チラッ
やろうと思えば簡単にできるし、そもそも引き延ばした理由が文字稼ぎの時点でマイナス評価。
実に忠実な原作再現がたまらない。もう早苗の格好した堂本君にしか見えません(笑)
個人的には最後にちょっと良いこと言ってる感のあるお決まりのしめがほしかったところ。
文字制限のある中で話をしっかり管理した手腕、お見事でした。
この短さで、きっちり導入からオチまでおさめた手腕に拍手。
このアイデアは、案外思いつかないんじゃないでしょうか。
面白かったです!
字数もたせました! って言う割には最後の方超駆け足だったのも何となく笑ったww
面白かったです
このグダグダっぷりとかどうでもいいことに全力を尽くすところとかノリがいいところとか幻想郷の皆らしい。
やはり現人神は違いますねぇ
全体にテンポ良く読めてとても面白かったです
ただ鈴仙に本当に殺意があったのが少々蛇足かと
そのせいで、無意味なはずの早苗の捜査に意味が生じてしまったのが残念です
純粋にグダグダなまま収拾付かずに終わっていたら、文句なしに100点でした
折角揃っているんだしね
似た発想の作品、実は過去にあるのですが、
それよりも元ネタっぽさを上手く生かしたまま形作っているように思えました。