Coolier - 新生・東方創想話

こがさかさかさ

2012/06/14 08:09:01
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こがさかさかさ、さかさかさ。
さかさかさかさ、こがさかさ。

あの子の目んたまのいろ青かった。
いや赤かった。
信号機のどちらがわ?

かわいらしい子だったよ。
へんなかさ、さしてたけどね。
下駄はいてた。
しただしてた。
おどろかそうとしていた。

それでその子の目のいろは?

かわいらしい子。
へんなかさをさしてる。
そういうのをみなかった?



ぽつんとかさ、わすれもの。
電車、終電のイスのうえにムラサキいろのやつで、へんないろのやつで、だれもいない。
なんだか、おしまいの掃除のおじさんもみつけられなかったみたい。
ムラサキいろでめだってて、へんないろで、へんなかさなのに、だれにもきづかれずにおかれたまま。

で、かさは、みんなにわすれられてカナシイので、じぶんでかえることにした。
だれもきづいてくれないので。
にょきりとあしをはやして、かえることにした。
そのまんまあるくと、地面かたいし、いたいし、だから下駄はいた。
下駄がどこからでてきたのか、わすれものなのかもわからなかったけど、とりあえずはいて電車おりて、で、かえることにした。
(うふふ。・・・)
なんかのわらいごえが、どっかのスキマからもれたけど、かさには聞こえなかったみたいで。


むかしさ、ぬいぐるみがすきで、ぬいぐるみにかこまれてくらしていて、ぬいぐるみは生きてるんだ、しゃべるんだっていってたひとがいてさ、へんなひとでさ、けどね、あれ、本当だったんだね。
いましった。
だって、かさがあるいているんだもん。
なら、ぬいぐるみだってしゃべるさ。かさだって生きてあるいてんだもん。
ほら、目のまえに、下駄はいたのがあるいてる。
こえをかけてみた。
「おい」
ふりむいた。
(あ、)
ウィンクした顔の、ふしぎな赤い目の子がかさのなかからあらわれて。
おれもばかだなぁ。よっぱらってて、ばかなことをかんがえちまっていたよ。
おおきなかさに、おんなのこがかくれてて、そのあしだけが背中側からみえていたんだ。
けど、こんな夜中にちいさいおんなのこひとりで、こんな繁華街をうろついてて大丈夫か?
で、心配して、なにかをいおうとおもったら、
「おどろけー」
「おどろいた」
「やったっ!」
そのまま下駄をからころからころ、ならしながらどっかへいった。
酒のみすぎた? かんちがいしたし。
なんだかかさに、むらさきいろのへんなそいつにおおきなくちとベロがついてた気するんだけど、うん、それもかんちがいなんだろう。うん。
家にかえろう。

家にかえろう♪
どっちにいこう?
かさは、こがさはからころとあるいてさがす。
あちきのおうちはどこなのさ、にゃんにゃんにゃにゃん。
ねこじゃないから、イヌのおまわりさんはあらわれない。
かわりにクルクルまわる厄神様がいらっしゃった。
ビルにつるされたネオンのひかる看板のしたで、くるくるとまわってひかってらっしゃった。
横には開店休業、三千円ぽっきりという、わけのわからない立てかけ式の看板(?)と貯金箱のようなお賽銭箱があった。
「あちきのおうちはどこなのさ、にゃんにゃんにゃにゃん」
「厄いです。このマチは厄いです。だから厄をあつめなければならないのです」
そういわれたので、厄にまきこまれるのがこわくなったので、とっととにげだすことにした。
にゃんにゃんにゃにゃん。

あるいていったら横断歩道に信号機があって、赤かったのでみぎめをとじたままで、そのあとは青くなったので、わたれるようになったので、かわりばんこにひだりをとじて、みぎをひらいた。
信号機のようにかわりばんこに、どっちかの目をひらくのが、かの女のルールだった。いま信号機をみてきめたのだが。
わたってく。
くるくるかさをまわしてわたっていく。むらさきのかさについている、おっきな口からでたおっきなべろがぐりんぐりんとまわっていく。
(青い目の子とは、異人さんかな? しかしこんな夜中にひとりであぶなくないのかな?)
とおりすがりのひとは、その子をみてそうおもい、
(しかしへんなかさをさしていたね。むらさきいろのけばけばしい)

こがさかさかさ、さかさかさ。
さかさかさかさ、こがさかさ。
あちきのおうちはどこなのさ。

さがしたけれど、みつからない♪
自分のおうちがみつからない♪
こがさはたのしそうにうたいながら、さがしたけれどみつからない。
そのうち朝日がかおをだし、
「あさですよー」
太陽はにっこりわらって、そういうと、こがさはつかれてしまって、ころりと地面にころがった。
ころり。


現人神は女子学生でセーラー服をきていて、つまり学校にいくふりをして、そのままエスケープでぶらぶらとあるいていたら、むらさきのかさをみつけた。
十字路のまんなかに水死体のようによこたわっていたのだから、すぐにわかった。
それをひろって、
「いのち、大事に」つぶやいた。
「なにをひろっているのですか?」
現人神の女子学生のうしろから、べつの少女のこえ。
かの女がふりむくと、そこにはいく人もの少女たち。
「かさをひろったのです」
「なぜひろったのですか」
「あちきのおうちはどこなのさ、にゃんにゃんにゃにゃん、いっていたので、ひろってあげたのです。かわいそうでしょう?」
「ええ、そうですね」
少女たちはこたえた。
「神を待っていたのでしょう」
べつの少女がいった。
「神はあらわれました」
現人神の女子学生がそうこたえた。
そうしてこえをそろえて、
「いのち、大事に」

めがさめると、そこはおおきな建物のなか。
まわりにはいっぱい、おんなのひとたち。
こえをそろえて、
「いのち、大事に」
いわれたので、
「はい」
かさは、こがさはそうへんじをかえした。
(いのち、大事に)
こころのなかで反すうする。
「かさは、おなかがへったでしょう」
そのなかのひとり、みどりいろの髪をしたひとがそうつげた。
「おうどんをおたべ」
そういって、コンビニでうってそうな使い捨てな発泡スチロールのどんぶりによそったうどんをつきだした。
「いただきます」
こがさはうけとって、うどんをたべた。
すべてたべて、おなかがふくれたので、
「あなたはだれなのですか。学生なのですか、女学生なのですか」
たずねると、
「神です」
「どちらの神なのでしょう」
「神を待つ少女の神なので、神待ち少女の神です」
「なるほど」
「ちなみに神を待つ少女たちの神さまといういみです」
「わかるよ」
「ねんのため。そしていまは神を待つ少女たちを一同にあつめ、将来は神を待つ少女たちのもとへまた旅立つのです」
「はあ」
「そしてかさよ」
「はい」
「こがさよ」
「はい」
「あなたはねながら、イヌのおまわりさんをうたっていました」
「はい。おきていてもうたっていました」
「それはいけない」
深刻そうな顔をして、現人神はいいました。
「イヌはいけない。どれほどいけないか、とくにいけないのはヤマイヌなのですが、かれらはいけない」
「どのようにいけないのでしょうか」
うしろから、べつの少女がこえをかけた。
「かれらはしんだ人間をたべるのです」
「まあおそろしい」
またべつの少女がつぶやいた。
「しんだ人間ですよ?」
じっとみつめながら、こがさにいった。
「わかるよ。死体でしょ?」
どうにも居心地がわるいかんじがしたけれども、こがさはこたえた。
「わかっていません。死体ではないのです。死んだ人間なのです。生きた人間がいるように、死んだ人間がいるのです。どちらにしても人間です。もともと死体、というのは人間でもなく、すでに死んだ体にたいしてのみいうべきことばなのです」
「わからないよ」
「まあ、いいです。ここでは死んだ人間と死体のちがいにかんしては、またあとにしましょう。とりあえずヤマイヌです」
「はい」
(わけがわからないよ)
こがさはおもったけど、とりあえず、うどんもたべさせてもらったのだし、このへんな女の子のいうことはちょっとだけがまんしてやろう、そうこころにきめることにして、
「ヤマイヌはいけないのですね?」
「いけません。あれらは、死んだ人間をたべて、そうしてこういうのです」
「このモノはわたしに布施をした。だから、このモノは天国へいくはずだ。
たとえ、生きているあいだは、おおくのツミをおかしたとしても、おおくのヒトを殺したとしても、さいごにわたしにその体を布施をした。
その肉体をわけあたえ、きょう一日、このヤマイヌがいきながらえるかてとなった。
だから、このものは天国へいくはずだ。天国へいくもののために、わたしは経をとなえよう。
やまの神霊のように、法楽をしよう。かつての高僧の唱えた経文をやまびことしてとなえよう。しんで天国へいった、このもののために、、、ぎゃーてー」
「ひえええ、おそろしい」
とりあえずおどろくことにした。
「そして猫もだめです」
かの女はつづけた。
(もうイイかなー)
なんとか抜け出すすべがないものか、かんがえた。
そのあいだにも、かの女のはなしはすすんでいく。
「猫はネコ車で死体をのせて、地獄の業火の燃料とするために、はこんでいくのです」
「死んだ人間ではなくって?」
あ、まずい、とおもったときにはすでにおそかった。
ついはずみで聞いてしまったのだが、
「よくわかりましたね。あなたはあたまがよい」
はなしがつづく。
ひえええ、おそろしい。


いつまでつづくのかとおもったのだけど、どこからかこの建物にはいってきた少女が、といっても、ここにはほんとうに女の子しかいないのだけど、神様にこえをかけた。
「おつとめのときです」
そうしてもってきたのは、いっぱいの紙。
それをうけとり、すべてに目をとおし、
「神はいっています。すべてを救えと」
みどりいろのかみのけの現人神の女子学生はのたまわり、
「いのち、大事に」
みんなしてこえをあわせてたちあがり、その建物をでていき、
「ついてきなさい、こがさよ」
かさも現人神の女子学生にうながされてついていくことになった。
なってしまった。

だれもいなくなったその建物は、むかしは学校の体育館とよばれ、いまは避難所跡とよばれ、それは大災害のときにも避難所であったのだけど、そこはすべてがすこしづつかけていて、さみしかった。
それで、ぜんぜんへっていない、つめたくなったうどんがのこされた。
うどんは、すでにこの場所のさみしさにはなれていたのだろうか、かさのようにあまえた態度をよしとしなかったのだろうか、とくに足をはやすこともなく、かの女らをおいかけることもせずに、そこにのこっていた。


よるの繁華街はにぎにぎしかったが、しかしうらびれてもいた。
でも神を待つ少女はいたので、
「さあ、ふんじばってきなさい!!」
神さまがゆびさすと、ついてきた少女らは神を待っていたその女の子をふんじばって、
「いのち!! 大事に!!」
テンション高めでかついでもっていく。
「ぎゃーー!! ひとさらいーー!!!」
えっさ!! えっさ!! えっさ!!
そのまま、もときたみちをかえっていく。
「神かくし!! ひとりめ!! 完了!!」
右手をぐっとにぎりしめ、清清としていい切った。
ああ、なぜこんなのにかかわってしまったのだろうとおもいつつ、
「あの、なにをしてらっしゃるのでしょうか? 神さま」
「ん? 神かくしですよ? そんなこともわからないのですか?」
「え?」
「インターネットの神待ち掲示板にかかれていたのです」
「インターネット?」
「神待つ。一泊でいいです。十四歳、ユユコ。あと、ここの住所です。十四歳にしてはすこしケバいかんじでしたが、たぶん、あの子がユユコというのでしょう。ですので、神としてはつれかえらなくてはならないでしょう?」
「ええと」
「ほかにも神がすべて男だと勘違いしているコメントを掲示板にかいているかたもいますね。エッチなことをするけど、それも泊めてくれたらしますというのもよくあります。わたしはおとめなのに。女子とにゃんにゃんにゃにゃんしません。あ、けど、もういちどいいますが、自分はおとめですよ? よくおぼえておくように」
「ええと」
「まあいいです。とりあえず、今夜の神待ち少女は十一人です。とっととつれてかえって保護、もとい、神かくしをせねば!!」
いきおいこんで神はいい、こがさはそれについていくしかなかった。


なんじゃそりゃ。
こがさはツッコミたいきもちをおさえながら、神様についていくことになった。
あさになるまでに、十一人の少女をふんじばって、神かくしして、
「もう、ねむいのです」
「神はねむらないからだいじょうぶです」
「かさは神ではないので、ねむいのです」
「しかたありませんね。かさは。しょうがないから、拝殿にもどりましょう」
ついてきた少女たちは、みんなふんじばっては体育館にもどっていってしまったので、ふたりだけでかえることになった。


「厄いです。厄いのです」
もうすぐ朝日がのぼろうとしつつ、そのときまで厄神様はくるくると回転しながら厄をあつめて、あらゆる生きもの、生きものでないもの、この世にあるもの、ないものすべてのために、そのような善行をいたしておりましたが、
「厄すぎるのです!!」
くわりと目をおっぴろげ、いままでの回転をやめてしまいました。
そして朝日がのぼり、
「あさですよー」
太陽がそうつげると、もやのようにきえてしまい、のこったのは、くるくると回転する電気のきれかけたネオンサインだけ。


「まったくもって、かさは度し難いのです」
そうぶつくさとつぶやきながら、かの女はこがさをおんぶして体育館にもどってきた。
と中でねむってしまったので、おんぶしてここまでつれてきた。
拝殿の入り口でこがさをわたすと、
「今日はかよっている学校へいきます」
「いってらっしゃいませ」
かばんもなにも特に用意することもなく、かの女は自分の通学している学校へあるいていった。


「ヒいいイーーー!! 神だ!! 神がきたぞ!!」
「いやーーーー!!!」
そんな金切り声もかまわずに、
「にげろ!! 神かくしにあうぞ!!」
「しっ!! 目をあわせただけで石にされるぞ。だまってうつむいてろ!!」
「どうか!! どうかこの子だけはおたすけください!! 神様!! あぁぁぁあああーーー!!」
ムシして、
「#?!!!!%&&&&!!!」
声にならないヒメイもあいてにせずに、少女は教室までたどりついたのであった。


「えー、こほん。おひさしぶりですね。今日はどういうことで通学されたのですか?」
「神は学生なので、たまには通学します」
「ええ、そうですね。この教室の生徒ですから、そういうこともあるでしょう。しかし、校長先生もおっしゃったとおり、べつに通学されなくとも、単位もいただけるし卒業もできる、そいうことですよね?」
「ええ、すばらしいことです。神の威徳というやつですね」
「けど、この朝のホームルームにいらっしゃる。なぜでしょうか?」
「だからいったでしょう? 先生。神は学生なので、たまには通学します」
だれもいなくなった教室のどまんなかの席で、敬語というにはイマイチはっきりしないしゃべりかたをする担当の教師とむきあって、そんな問答くりかえす。
ちなみに教室の生徒は緊急避難とばかりに体育館に全員、にげてしまっている。
そんななかでもすべきことをすすめないと、担当教師のつらいところである。
(というか、この子だけの特別教室、ひとりだけのクラスとかつくればいいのに)
担当教師はそうおもったものだが、そして、それを進言してもいたのだが却下された。
だれにというか、まあ、えらいヒトたち全員に。
(どっかの学園都市ではそういうのがあるのに)
(けど、それに、自分がそんなんの担当になったらそれはそれでいやだし)
(まあ、いまぐらいで)
それが担当教師として任命された際のあきらめ具合というか、許容範囲というか、そういうところだった。

そのあとの授業はすべて平々凡々、いいあんばいにすすんでいった。
体育がないので、災害を校庭までおよぼすおそれがなかったのはさいわいか。
昼食はない。神なので、ひつようない。
おわりは古文で、すでにしわだらけの老人が、それをとりおこなった。
あたまのさきからつまさきまで黒ばっかりな服装でソフト帽をかぶっていて、とってもやせていてメガネをかけている。
なれたもので、かしわでをうってから、
「かしこみ、かしこみ。これから授業をとりおこなわさせていただきます」
「はい」
「では、こちらのプリントを、、、」
そういって、かれは全員分の机のうえに補助教材のプリント用紙をひとりでくばる。
ぽつんとひとり、みどりいろの髪をした現人神の少女はプリントをとって、
『子傘』
「こがさ」
「はい。こがらがさ、とよみます。はい」
「こがらかさ」
「はい」

こがらがさでございます。
きょうはこれについておはなししたいとおもいます。はい。
あるところにお堂をたてた徳のたかいご老人がおりました。
その堂のおまもりをするお坊様をみちすじでさがしておりますと、そこにちょうどよいあんばいにお坊様がいらっしゃったではないですか。
そこでご老人、お堂のおまもりをしていただきたいともうしますと、お坊様は「はい、うけたまわりましょう」といいます。
お坊様をつれてお堂へまいり、法要がはじまりましたが、じつはお坊様はお経がよめませんでしたので、てきとうにうたをお経のようにとなえてごまかしました。
そうしてお堂のみなさまがそれをきいて、すばらしいお坊様がいらっしゃった。このような法楽をきくことができたのだから、亡くなったあとにはお釈迦様にみちびかれ、星々のさきにあるであろう天国へいくことができるであろう。
そのようによろこんでいるスキに、お供物のたぐいをゼンブぬすんでしまったのです。
じつはお坊様はうそ者で、くいつめた悪者がなりすまして、ご老人らをだましてしまったのです。

とおりすがりの何者かが、だましてしまうというのは民話や神話ではでよくあるモチーフですね。
たとえばアメリカのインディアンですと、いたずらの神様が、はんぶんはみどり、はんぶんはしろいトンガリさんかくなぼうしをかぶって農夫らのもとにあらわれました。
農夫らは、あの神様はしろいぼうしをかぶっているといい、またみどりだともいい、おたがいにケンカをしてしまいます。
それをみた神様は、「やあやあ、じぶんはかたっぽしろくて、かたっぽみどりのぼうしをかぶってて、きみたちはそのどっちかだけをみて、もうかたほうをののしっているんだゼ!!」とおしえてあげたのです。
まあ、そんなかんじです。

こがらがさです。
悪者がとなえたうたというのが、そのころのはやったものでして、
「きのうとおるこがらがさが、今日もとおりそうろう。あれみさいたよ、これみさいたよ」
というものでございまして、まあ、これは、
「わかります」
少女は先生のことばをきっぱりとさえぎって、
「わかりますか?」
「ええ。ついこのあいだ、あいましたから。あれですね。かさがさみしくなって、じぶんでにょっきりあしをはやして、あるいていることをさしているのですね」
「ええ、マア」
黒ずくめの先生はすこしことばをえらんで、
「じっさいには、カサをさした美人がきのうとおなじようにきてるよ、あれをみたいな、これからみたいな、というはやりウタなのですが、それをお経をとなえるようなふし回しでとなえていたのですね。うそんこのうそっぱちなのですが、それでみんなありがたがっていたと」
「それほど美人ではなかったのです、どちらかというとかわいい系ですか?」
「なるほど」
先生はせきばらいをひとつして、
「では、授業をおわりにします。かしこみ、かしこみ」
かしわでをして、ごおーん、というチャイムの音とともにでていきました。

 ☆

「さて、夜になりました」
多少うんざり気味の口調でこがさはいい、
「はい、夜になりました。おつとめの時間なので、今日もこがさは一緒にくるのです」
にこりと微笑み、現人神の女子高生はあとをつぐ。
「ええと、おいとまして、おうちをさがしにいきたいとおもうのですが。・・・にゃんにゃんにゃにゃん」
「ついてくるのです。にゃんにゃんにゃにゃん」
「・・・はい、にゃんにゃんにゃにゃん」

ふたりは夜のマチへふみだした。
「あれ? おつれの方々はどうしたのでしょう」
むらさき色のどぎついカサをくるくるとふりまわしながら、こがさはきいた。
かさのまんなかには悪趣味なでかいべろがついていたので、それがぐりんぐりんとまわり、そのうえにはさらに悪趣味なでかい目がえがかれていたので、それが360度を監視するかのようにぐりんぐりんとあたりを見回しまくる。
「今日はあんまり神をまってないので、あなただけです。なんとも一人だけですから、さみしいものです」
ため息をつき、
「なんと信仰のうすい時代なのでしょう。かなしいことです。現代人のかわいたココロをあらわすかのようなさみしさです」
なんかチガウ気がするのだけど、そうおもいましたが、しかし面倒なことなので口にしません。
チンチンチンチン、踏み切りのおとがして、どうやらちかくにきたようで。
踏み切りのそばには、一人の少女がいて、背中をこちらにむけている。
「あれでしょう」
ちいさな少女で、踏み切りをわたろうとしたところで電車がきてしまったのか、ずっとあちらをむいたまま。
「それで神かくしをするのですか?」
「ああ、ちょっとまってください」
電車がとおって、踏み切りがあがってあるけるようになって、
「あれ?」
少女は踏み切りのまえに立ったまま、歩いていこうとしない。
(ああ、神さま待ちで、ずっと立ったまんまなのだな)
「こがさ」
緑色のかみのけをした現人神は、こがさの肩にてをかけて、
「こがさ、あなたが声をかけなさい。神さまがおむかえにきましたよというのです」
「え? なんで?」
「いいから、声をかけるのです。あと、おどろかせてはいけませんよ? さあ、いくのです」
なんで自分がそんなことをしないといけないのかと、こがさは少しおもいましたが、とりあえず向かうことにした。
ここでさからうのもまた、なんかめんどうだし。
少女はずっと、あちらをむいたまま。
「あの、」
そばまでよって、チンチンチンチン、また電車のくる合図。
こっちをふりむてくれなくて、電車がついにやってこようとしても、こちらをむいてくれなくて、
「あの、神さまがいらっしゃいました、よ?」
おうじてもくれず、あちらをむいたまま、
「あの、あの、」
こがさはなんだか、いたたまれないような、それで、どこかあせったようすで何度もこえをかけて、電車がふたたびやってきた。
ぼそぼそというこえ。どうやら電車をみたまましゃべったようす。
「え? わちき、電車のおとできこえないんだけど」
ぼそぼそ。
「え?」
電車がついにとおりすぎ、
「ごめんなさい。こがさには、こえがちいさくて聞こえなくって、だから、もう一回いってくださいよ」
けど、少女はまたしらんぷりしたままだったので、こがさは少しはらがたって、
「もう! 神さまきたんですよ! こっち!」
そういって少女に手をのばそうとしたときになって、ようやっと少女はむきなおり、
「え?」

 ☆

「まったくもって、かさは度し難いのです」
そうぶつくさとつぶやきながら、かの女はこがさをおんぶして体育館にもどってきた。
体育館にある毛布にこがさをころがすと、
「きゃん!!」
あんまりにも無遠慮すぎて、ごつんとアタマをうって目をさました。
「びっくりしたー!! びっくりしたー!! びっくりしたー!!!!」
毛布のうえにたちあがり、こがさはびっくりくりかえす。
ねたままでも持ったままだった、むらさきのかさをぶんぶんふりまわしながら連呼する。
「まったくもって、かさは度し難いのです」
やれやれというしぐさをしながら、現人神はつぶやいた。
「あれ?」
「きかれるまえにいいますが、ここは拝殿です。ここまでおんぶしてあげたのですよ? これで二日連続でおんぶです。あなたは実はかさではなくって、おんぶおばけでコナキジジイなんでしょう。ん? コナキババアか?」
「あちき、まだ少女です」
「コナキ少女」
「かさです」
「かさコナキ少女」
ゴロがわるいなぁ、こがさはおもったけど、やっぱりめんどうなので口にせず、
「あれ? 体育館ということは、神かくしした子は?」
「おりません。かさがへましたので、おりません」
「あれ? あちきゆるされない?」
「神は寛大なので、ゆるします」
「ゆるされた!! やった!!」
「やっぱゆるしません。反省がかんじられないし、なんだかむかつくんで」
「え!! ゆるされない!! あちき、ばつをうける!?」
「いえ、ばつはないです。ただ、またいくので、かさもついてくるのです」
「もういないのでは?」
「います。絶対います。だから、こんどはかさはへましちゃいけないのです。分かりましたね?」
なんで自分がまたやるの?
「ゆるされないからに決まっているでしょう? 神はコンティニューはゆるしますし、失敗しても、『ああ、今度もダメだったよ。次のクローンはきっとうまくやるでしょう』とサワヤかにいいますが、途中放棄はゆるしません。ゲームはクリアーするまでがゲームです」
「そんなこといっても。・・・」
困る。
なにが?
ん?
「あれ、あちき、いつねちゃったんでしょうか」
「しりません」
えーっ! と、抗議のこえをあげるけど、しらんぷりして、
「とりあえず、また夜になったらいくのです。ああ、そうだ」
ぽんと手をうつ。
「今日の忠告」
「はい?」
「最後まで、きちんとみること。じっとみること、みとること。わすれるのもいいし、気絶するのもいいけど、じっとみとどけること。それが最後の責任」
「はい?」
「じゃあそういうことで」みどりいろの髪の神様はスタスタとどっかへいってしまった。


もう日はあけたのですが、つまりは太陽が「あさですよー」と告げてはいたのですが、スベテの怪異、天兆、化け物、神意、この世にあり得るべからざるものごとすべては、その言葉とともになくなるべきなのですが、
「厄すぎるのです!! 厄すぎるのです!! 厄すぎるのです!! 厄すぎるんです!!」
厄神様は回転しており、あんまりにもはやすぎる回転だったので、ぎゅんぎゅんと音をたてながらお勤めをつづけておりました。
「厄いのです!! 厄いのです!! 厄いのです!! 厄いのです!!」
しかし厄はどうにもまとまらぬばかり、そのうち厄神様のすいきれない分がキリかガスのようになって町をおおいはじめました。
これは灰のような雪? 空があれにおおわれて、太陽が消えたような? そんなチラチラというカガヤキがまいおりて、ついには太陽のあかりさえとどかぬかのようなアカい赫奕たるキリが異変となっておりきたる。
(だって、それは運命だもの)
どこからか悪魔のこえ。



「運命なんてありませんわ。あるのは神の威光と奇跡です」
すべてがおおわれ太陽もヤタガラスのツバサでかくされた、どんよりとした通りのどまんなかで現人神の女子学生はのたまわる。
キリはすべてをかくしたが、しかし不可思議なことにチラチラとカガヤいている。
「でてきなさい夜の悪魔、吸血鬼。ここまであの世とおなじにしようというの?」
(もうすでに、ここはあの世とかわらないじゃない。生きているニンゲンなんて、ここにはいないし。遺棄されて廃棄された、すでに死んだ町でしょう? あの大災害で)
あかいキリがしゃべりだす。
「吸血鬼、ここにはあなたの欲するニンゲンとその生き血はない。なぜ、こんなところにあらわれるのかしら?」
「あら? あなたがいるじゃない?」
どっかとおくからこえ。
「わたしは神です」
「ちがう」
肉声はちかく、それはかの女のうしろから聞こえて、
「ちがうわ。あなたは、ただのニンゲンのココロのありようよ。ずっと奥底の善性そのもの。もうすでにニンゲンの不要な部分、カラダやらシットやら強欲やらをぬぎすてた、そのもののすがたで、」
そちらをふりむく。

そこにはだれも居らず、ただアカいキリがおおうだけ。
「つまりは神様のようなもので、神様ではないわ」
また遠くからこえ。
「なぜここにあらわれたのですか? 吸血鬼、レミリア・スカーレット」
「運命だから。悪魔が神様、もしくは神様のようなものをすくうのが、きょうの運命だから」
「わからない。なにをいっているのか、わからない」
「あなた、このマチにずっといるとしぬわよ。そろそろおもどりなさい。あの小さな幻視者のおんなの子が心配してる。ひとだすけも大概にしなさいな。まだあなたのカラダ、おわってないの。あなたは死んでないの。だから、」
「あんな、あるけもしない、目をあけるだけで一日がおわってしまうような、あんなのは私ではありません」
「・・・」
「だったら生霊となってさまよいあるいて、この世にのこっているさまよえるタマシイをすくうほうがマシです。このマチには思慕の念がつよすぎる。いきなり終わったマチの中で、だれもかれものタマシイが、幽霊が、死んだことに気づかず、いままでの生活のつづきをやりたがっている」
「おもったよりもニンゲンらしいわ。うれしいくらい。痛みや恐怖や限界を愛してやることもできずに、忌避しているんだもの」
距離感も方向感もわからないけど、言葉だけがあちらからこちらから、なにか微笑ましげにわらっているかのような、
「なにをわらっているのです? 悪魔」
「だって、おかしいんですもの」
「おかしい?」
「ただひとりだけたすかって肉体もあるというのに、思慕の念がつよすぎてこのマチをうろついている。そんなあなたが、死んだタマシイを救いあげている」
「わたしが思慕している、未練していると?」
「そのくせ、」
べつのことを悪魔はかたりだす。
「そのくせ肉をまとった人生にもひかれて、けどカラダがいうことをきかないものだから、どこか別のマチにある学校へふらふらと幽霊のままであるいて、みんなにこわがられている」
「・・・」
「一体全体どうしたいの? 神様未満は? 奇跡の最後のひとりとなった生きのこりは」
「ふつう」
対手のよゆうのあるものいいに、すこしひるんだようなこえ。
「ふつう、悪魔はニンゲンを誘惑するもので、さとすものではないのでは?」
「誘惑してるじゃない。きちんと肉をまとえ、恐怖と苦痛を知覚するカラダへと、病院のベッドによこたわる意識不明でやせおとろえた肉の牢獄へと帰還して、今まさに物質化されたあなたの肉体をはしる痛みへたちむかえ。きちんと使いモノになるように回復してリハビリして、この世の誘惑にまどえ。・・・そうね、手始めにスイーツでも食べられるぐらいになってはいかが?」
「何年かかることやら」
現人神とみずからを名乗る少女はかたをすくめる。
「けど、けれども」
「悪魔のこえはききません。このマチでたすけるべきは、のこりひとり。”神待ち掲示板”にかかれた、さいごのひとりを今日こそたすけるのです。かえるのはそのあとでいい」
「それまでもたなかったなら、それこそわたしも神去ればいい。だから悪魔、ここから去ぬるのです」

 ☆

夜になっても、体育館跡に現人神の女子学生はかえってこない。
(なんだか、ほかの女のひとたちもいなくなってしまったのだけど)
こがさはこころぼそくなって、うろうろとうろついた。
「そうだ、おうちをさがさないと!!」
そういって外へとびだしていった。

いつもの夜よりもしずかで、すこしガスがでていて、それもなんだかすこしアカくて、気のせいだろうけどチラチラとひかっているかのような、そんななかを小走りで、それでなんだか心ぼそくなる。
「あちきのおうちはどこなのさ、にゃんにゃんにゃにゃん!!」
ひめいじみて、うたう。
雨はふってはいないのだけど、ひらいたままのかさをさして、

こがさかさかさ、さかさかさ。
さかさかさかさ、こがさかさ。
あちきのおうちはどこなのさ。

さがしたけれど、みつからない!!
自分のおうちがみつからない!!

だれもかれもいない、さびれたさみしいマチの中をうろつきまわる。
キリの合間にちらりとひとかげがみえる。
あそこにだれかいるから聞いてみよう。
しかしそれをおいかけると、すでにそのひとかげはいなくなり、ああ、だれもここにはいないのか。

「きのうとおるこがらがさが、今日もとおりそうろう。あれみさいたよ、これみさいたよ」
べつの方角へいく、こがさのあとでそんなこえがきこえる。

道路をわたる。
赤信号だったので、片目をとじて、青信号になったので、もう片方をとじて、いままでとじてたほうをひらく。
車はとおらなかったけど、それは律儀にまもっていた。
みちをわたるさなか、キリのなかでだれかの気配。
「きのうとおるこがらがさが、今日もとおりそうろう。あれみさいたよ、これみさいたよ」
ふりむくけど、そこにはだれもいない。

どこにいるのかわからなくなったころ、チンチンチンチンと電車がくる合図。
そちらにいくと、こちらに背中をむけたままの少女がひとり居る。
(あの子だ)
だれのすがたもキチンとせずにおぼろげだった恐ろしさと淋しさから、そちらへむかって足をすすめる。
そばまでちかづき、「ねえ」こえをかける。
こちらもむかずにつぶやきつづける。
「ねえ」もういちど、こえをかける。
チンチンチンチン、電車がとおる。
ごおんという音をたててとおりすぎるその列車の窓には、すでにここでの日常をおえた無数の人影があって、それは星辰世界のペテルギウスへむかう長距離列車だった。
車掌室には金色の髪をしたうつくしい女のひとがのっていて、運転席でキツネがうごかしている。
無数の人影はじっとこちらをみつめていたが、しかしそれも少女らにはわからない。
「ねえ」
ぶつぶつとつぶやきつづける。
ああ、これはこえをかけてもダメなんだ。
こがさはようやっと、そのことに気づく。
そして、じっと少女のこえに耳をかたむける。うるさい。きこえない。
ついに列車がとおりすぎて遮断機のうでがばさっとあがったころになって、「どこへいっちゃったの?」という連呼をききとれるようになる。
(どこへいっちゃったの?)
「なにが?」
そうたずねると、ようやっとぴたりと口をつむった。
「なにが? なにがどこへいっちゃったの? なんでそんなに、かなしそうなの?」
沈黙がつらく、さみしくなってきいてみる。
「私は」
「え?」
泣きはらした少女がこちらをふりむいた。
「私は、どこへいっちゃったの?」
そのかおをみて、こがさはみたことがあるようなとおもいおこし、ふらりと意識がとおのいていくかのような、
(そういえば昨日みたのだから、どこかでみたこともなにも昨日みたのではないですか)
そういえば神様がじっとみていろといってたなとおもい、じっとみつめつづけると、少女の瞳のおくには自分が、片目をとじて舌をだしている少女が逆さになってうつってた。
うつっていた自分のすがたは、目のまえの少女とまったくおなじだった。
「あれ? 私だ」
呆けたようなこえでいった。


「ちがうよ」
少女はむずがるような、ぐずぐずとしたしゃべりかたをした。
「ちがうよ、私は私だよ。かさじゃないよ」
そういわれたので、
「私はかさです」
こがさはいった。

私はかさです。
ムラサキいろでめだっているのに、だれにもきづかれずにおかれたままだったのです。
みんなにわすれられてカナシイので、じぶんでかえることにしたのです。
けど、あしがないのでにょきりとはやして、かえることにしました。

「うそだよ」
少女はいいかえす。
「かさにはあしは生えないし、けど、あなたはここにいるから、もうかさじゃないんだよ」
(あれ? あちき、もうかさじゃない?)
ふと自身をうたがったところで、
「かさじゃないよ。仮にかさだったとしても、もう妖怪になったかさだよ。電車にひかれてしんだ私を駅員さんの目を盗んでもってって、ばらばらになったのをつないで、さも自分ははじめからそうなんだってフリをしている、妖怪のかさなんだよ」
え?
「あちき、ぬすっと? ゆるされない?」
「あちきなんていうなよ、つくってるでしょ。そのしゃべり方。さっきは私っていってたのに。なんで、ここに私のからだがバラバラになってないの? なんで、駅員さんがキレイにかたづけて、おうちにとどけてくれないの? だって、そんなじゃ、おうちに帰れないじゃないの」
こがさは気づいた。
家にかえりたいのは自分自身ではなく、この少女のばらばらになって、それで自分が自分だとおもっている、このカラダだ。
かさのための家なんてないのだから、イヌのおまわりさんがいたとしてもわかるはずはない。
宝ものさがしは宝がないどころか、宝のありかをしめした地図すらなくおわってしまい、そのくせに自分がヒトからぬすんだ盗人で、しかもぬすんだものなしには存在することすらできない。
ぬすんだものをうめて宝の地図をかくことすらできないほどに自分自身だ。
つまり存在する意義がなく、なら、ただのかさでいい、足はいらないし、しゃべれなくともよいとおもう。
ただのかさであろうか、そうおもったとき、キリのあいだからこえがした。

「そら、だからいったろう?」
「あれがここにあるさいごの死人だよ」
「あれがあるいているとき、かさがあるいてるとおもったんだ。けど、ちがったんだ」
「あれはここにのこった、さいごの死人だ。だって、ほら、うごいてるけど死んでるんだ。だからまちがいない」
「だから、あれはヤマイヌに布施をされるべきなのだ。そうすることで、あの子はこの世で最後の善業をおこない、天国へいくのだ、ワンワン」
きっぱりといいきったもので、キリのなかでニョキリと二本のみみをはやしていた。
「ちがうよ」
べつのこえ。
「あれは死体だ。すでにタマシイがぬけたぬけがらで、だから地獄の釜をたくためにもやすべきなんだ。地獄の罪人をいためつけるために。だから地獄猫が地獄ネコ車でもっていって、地獄の火炎にうちすてるべきなんだニャア」
そいつもキリのなかでうごいていて、ニョキリとみみをはやしてて、にゃーんと二本のしっぽを化け物らしくはやしてて、なにか台車のようなものをおしているのだか、ひいているのだか、そんなようすだった。
「なんとネコめ! ほしいからって、ムリヤリつごうよくいって。ネコババするつもりだろうけど、あれはヤマイヌのなんだ。きっとあの少女はお布施をしたいとおもっているんだ」
「なにをう! イヌめ! 山にかえってヤマビコの仕事にはげんでなさい。聖者をたたえる山の聖霊のマネをして、ヘタなお経をとなえてなさい。あれはもう、地下のさらにずっとしたにあるところまではこんでいくのだ」

そのあとずっと、イヌめ! ネコめ! と、ののしり合いがつづく。
そのキリのなかをみて、
「なんか、とんでもないことをはなしているみたい」
「かさのせいだ。勝手にわたしのをもってったから。地獄もいやだし、たべられてぐちゃぐちゃもやだよ」
少女はおこっていった。

「あの青い目の子はこっちのだ!!」
「あの赤い目の子はこっちのだ!!」
同時にいいつのり、アレ? とびっくりして、
「あれの目は赤いぞ」
「いや、青い」
アレ?
「だとしたら、」
「そうだとしたら、」
「二人いるんだろうから、ハンブンこにすればいいのではないか?」
「うん、どうやら、よくみると二人いるようにみえる。キリでぼんやりしてるけど、うん、たしかにそうだ。べつべつのをみたんだろう。ひとりで目の色がふたつもあるなんて、ないだろうしな。いたとしたら、ニンゲンじゃあるまい。妖怪だ」
「ヤマイヌとわけあうなんて、けったくそわるいけど、けど、いいよ。ここであんまりいいあってて、くさっちゃうともえなくなるから、もう、それでいいよ」
「たしかにそうだ。あんまりコッテリしちゃってると、おなかをこわしてしまう。フレッシュなのをいただきたい」
なかよくわけあうことで決まって、こっちへむかってあるいてくる。

「え? え? え?」
こがさはオロオロしてあっちをみまわし、こっちをみまわす。
「あなたの両方の目をみせなさい」
少女はいう。
「え? え? え?」
「もうかたっぽもあけて、こっちむきなさい!!」
「はい!!」
剣幕がすごいので、びっくりしてひらいて、かわりにベロをひっこめる。
「かたほうが赤くて、もうひとつが青くて信号機みたい。いつもどっちかしかあいてないから、あのキリのなかにいるヤツらがカンちがいしたんだ。どうしよう」
「どうしよう」



「いのち、大事に」
緑色の髪の神様のこえがした。
「む?」「む?」
二匹が、そちらをふりむく気配。
「妖怪は大事にしていませんね」
キリのさらにさきから、かの女はあるいてきた。
「妖怪は、大事をわすれて、むさぼることしかないですね」
「山につかえるイヌとしての本分もわすれて、たべたい、たべたい。あれを私のくいものにしたいとおもっている」
アカいキリでうすらぼんやりとしかみえないのだけど、ぴたりとイヌにむかってゆびをさしているのがわかる。
「うっ!」
そのイキオイに負けたかのようにのけぞる。
「そしてネコ。もやしたい、もやしたい、そうおもっているだけで、ちょっとはカンづいてるくせにしらんぷりしてる」
もう片方でネコをゆびさす。
「ふ、ふん!! もやしちゃったら、みんなわからないじゃないさ!」
「こころがのこっているのをもやすと、地獄の火はぶすぶすときえていくのはわかってるくせに、地獄カラスたちにミエはって、いっぱいもっていこうとしてる」
「・・・にゃーん。・・・」
「イヌもネコも、ここを去ぬるのです。このマチにはすでにもっていく死体も、たべてよいのもないのですから」
そのようにのたまわると、オノレのあさはかさに恥じたかのように二匹はキリのかなたへときえていった。
「にゃーん、にゃーん。神さまがいじめる。神さまがハジかかせた。地獄へきたら、いじめてやる。おぼえてろ」
「ワンワン、ワワン。神さまがゴハンをとってった、ゴハンをとってった。神さまなんて、善業をつめずに地獄へおちちゃえ、ぎゃてー」


「さて、イヌもネコもきえていきました」
なおも神は、キリのなかでしゃべりつづける。
こちらへむかってあるいてこようとしているのだが、いまだに顔すらみえない。
「神さま」
こがさはすがるようなこえで、
「あちきはぬすっとだったんです。自分はかさのつもりだったけど、この子のからだを勝手にもってっちゃって、それで、」
「神はゆるします」
きっぱりとさえぎって、
「ゆるします。だから、あなたもゆるしなさい」
「ずるいよ! なら、私はどうやっておうちにかえれば。・・・」
ないてうったえると、
「うしろをみなさい」
「え?」
うしろをふりむくと、そこには列車があった。
星辰世界へとびたつ列車は、おともたてずにもどってきて、ぴたりとそこにとまっていた。
「かえらなくともよいのです。むかえにきてくれていますから」
そうつげると、列車の扉がひらいて、
「ママ?」
そういって少女は列車からのびた手をにぎって乗りうつり、本当のさいごとして列車はうごきだしたのだった。


アカい、チラチラとカガヤいているキリのなかで、たがいをきちんとみることができないほどに濃いそれのなかで、こがさと現人神の少女だけがのこっていた。
「さて、こがさ」
「はい」
「さて、こがさ。これで全部おわりました」
「なにが?」
「未練が」
こがさには、なにもわからなかった。
「とりのこされたままだったかさが、星へいく列車をうごかないままにさせてしまったことも、うちにかえれないままのこってしまったタマシイも、なにもかにもがおわって、つまり、このマチはようやっとおわることができたのです」
「神さま、あちきにはゼンゼン、まったく分からない。なんで自分がたってあるいているのかも、なんでゆるされたのかも、ゼンゼン、まったく分からない」
「かさがおりないと列車はうごかせなかったし、踏み切りまえの少女ものることができなかった」
「けど、あちきはぬすっとなんでしょう?」
「ちがいます」
きっぱりという。
「ちがいます。あの子は、ここへ駅員さんがきれいにならべたときも、ずっとボーゼンとして、ここにいつづけることをのぞんだのです。だから、かさが気にやむことはないのです」
「でも、」
「いいから、こがさ。そろそろ、私もおわりになってきたみたいだから、」
「この踏み切りをこえておいきなさい。ずっとずっとあるいていくと、妖怪の山という山があります。その山をのぼりなさい。ずっとのぼって、ひょいと雲にのるのです。あなたは、そうして、さいごにはさみしくなくなるのです」
「けど、それまでにさみしくなったら? ひもじくなったら?」
「山へいたるまでにヒトにあうでしょう。妖怪にあうでしょう。そうしたら、気づいてもらうようにするのです。そうすれば、さみしくもならないし、ひもじくもなりません」
「けど、けど、」
「こがさ、ごめんなさい。ほんとうに。最後までつきあってあげたかったのだけど、もう私、目がさめてしまいそうで、」
神さまは、現人神の女学生は、ふいとキリのなかからきえてしまった。

ひとりになってしまったので、神さまをさがそうかとそちらへいこうとして、やめる。
ふりむくと踏み切り。
永遠にうでをあげつづけたままとなる踏み切り。
こがさはそちらへむかって、あるくことにした。



★聖者がマチへやってくる☆

めざめると、白い天井があった。
奇跡的に生存者となった少女はそれをみつめて、
(天井がたかい)
こころのなかでつぶやいた。
たまさかめざめるたびに、これがまずはじめに目にうつる。
そのたびに重病人が絶望をおぼえるのは、これのせいだなと、おもいいたる。
たかいうえに、いつもおなじで、しかも今後、これしかみることができなくなってしまうのではないかという絶望感がわきあがる。
そのたびに、自分は奇跡なんだ。自分は運がよかったんだと考えることにする。
アタマをよこへうごかす。
まるでそれだけで、一日がすぎてしまうかのような気になるが、それも事実ではない、ほんとうはもう、すぐに回復するのだといいきかせる。
そういったひとつひとつが、かの女にとっての奇跡であり、奇跡とすることを可能にする意思そのものであった。
(まだ流動食なんだよね、たしか。・・・まんじゅうくいたい、もしくはイモ、ふかしたのか)
つまりはかの女は、生物として健全であり、生に執着するものであり、どんなに不幸なことがあっても自身とまわりの幸福をうたがわないのだろう。

ふりむいた先には、遠い縁戚の子がいた。
まだ小学生のまんなかあたりだったが絵は達者で、よくみせてもらう。
その大半はマンガのような、そんなかんじのもので、たとえば、
(紅い悪魔、レミリア・スカーレット)
まえにみせてもらったのを、おもいだす。

レミリア・スカーレットはかの吸血鬼、ヴラド公の娘で五百年のときをへた悪魔なのだが、いまだにおさないままなので、どんなに吸血しても、ひとりもたべきれることができないのだ。
それで吸血するのがまたウマくできないので、そこらじゅうをよごしてしまう。
それをかの女に仕える完璧な従者がきれいにかたづける。
かの女のいもうとは、狂気をおびたキラキラとカガヤクはねをもち、四百九十五年間を狭い地下室ですごしている。
そしてある日、アカいキリで世界をおおってしまい、自分が日中にあるけるようにしてしまうらしい。
(まー、将来はマンガ家かな?)
それにしても、病院で意識がめざめてからこのかた、奇妙な夢ばっかり連作でみる。
なんだかヘンなもんで、全能感たっぷりな自分が勧善懲悪、ばったばったとなんかをなぎたおして世紀末救世主としてあがめられた挙げ句、なんだか趣味の悪いかさをバットのかわりにして、大リーグボールをうちかえして逆転ホームランしたりとか。あとなんでかしらないけど、髪の毛があおあおしいまでに真緑だったり、宇宙人か? あたしゃ。
ながくねむっていたせいもあり、医師が血相をかえていたらしいが、よくわからない。
「おねえちゃん、おきたの?」
おきたよ。正直シンドイ。からだは動かないと牢獄のようなもんだね。タマシイの。
「あれ? おねえちゃん、レミリア・スカーレットにあってきたの?」
ずっとベッドにねてたよ、そういいかえそうとおもったけど、それもおっくうで、
「レミリア・スカーレットはやさしいね。だって、おねえちゃんをたすけてくれたみたいなんだもの」
なにをいっているのだか、まったくわけが分からないけど、まあいいや。ひとりで納得してるみたいだし、それにまだ子供だし。まあ自分も、にたようなもんか?
「ほら、手にキバのあと。これはね、レミリア・スカーレットが血をすうかわりに、生命力をわけあたえてくれたんだよ」
ホイミでヒットポイント回復ってか。点滴のあとかなにかでしょ。
「いま、へんなことかんがえたでしょ。バカにしたでしょ」
そんなことないよ。
そういえば、夢のなかでこの子が列車をうごかしていたのもみた気がするのだけど、本当になんだかミャクラクがないな。となりにキツネがいたし。
まあいいや。
で、ああ、退院したらスイーツだ、スイーツ。あと、おばあちゃんとこへあずけられるらしいし、そしたら、あっちのほうではたしかお祭り、神社であったな。田舎のほうだし、けっこうおおきくやるやつ。
いけるまでには退院したいな。
うん、やることはみんなやったんだし、あとは、自分のすきなようにいきてけばいいよね。
(やることはやったって?)
なにを? こころの中のつぶやきにつっこみかえす。そうか、回復していくまでに、ずっと寝てたご褒美は大切ってやつだ。うん。大丈夫、大丈夫。・・・
そこまでおもって、ふとおもいだす。またミャクラクないこと。
ずっと昔に、おきわすれたままにしてたアレ。
むらさきいろで、けばくって、おばサンくさくって悪趣味なやつを、ワザとおきわすれたままにして、しらんぷりして電車からおりたことをおもいだす。
たしか、この子とおなじ小学生の真ん中ぐらいだったっけ?
なんでそんなことをおもいだしたか、多分、夢のなかでの大リーグボールとか、そこらへんだとはおもうけど、ほんとうにミャクラクない。
自分、くるっちゃってるんじゃないとおもうほどに、いろんなことをおもいかえす。
で、まあ、ありえないことだけど。
ありえないことだけど、もし、かさにまた会ったら、すこしはやさしくしてやろうかな? と。
ま、ありえないんだけども。
生き残った記念に、いままで粗略にしていたものすべてにヤサシクしようかと、抱負をたててみた。世界に感謝、みたいな?

だから東風谷早苗は、たぶん、これから生きたまま神さまのようなものになるのであろう。

なんか、前に投稿したのがいつかみたら五年前。
いろいろとクサクサしてたので、久しぶりに文章をまともに書き出しました。w
暮夜満足
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コメント



0.390簡易評価
2.100名前が無い程度の能力削除
すげえ。面白かった
言葉のセンスというかそんな感じのものにのめり込んでしまいました
まあ読みづらさはあるけど
3.90奇声を発する程度の能力削除
言い回しが面白くて良かったです
7.100名前が無い程度の能力削除
正直読みづらい
でも好き
11.100名前が無い程度の能力削除
なかなか神がかってますね
12.100名前が無い程度の能力削除
いいねえこういうの大好きだ
14.90藍田削除
>「おうどんをおたべ」
>そういって、コンビニでうってそうな使い捨てな発泡スチロールのどんぶりによそったうどんをつきだした。
ここにやられました。
で、自分は前半の早苗さんと小傘が好きでした。後半はちょっとぶっ飛んじゃって、物語のレールがはずれちゃったのがちょっと残念でした。
15.100過剰削除
最初読み始めた時、なにがなんだか分からないと頭を捻るばかりでした
けれど、読み進めるにつれて明かされていく真実にびっくり
そして、もう一度最初から読んで感動しました。これはここ最近読んだSSの中でも最高傑作です
文句なしの100点です。願わくば小傘に幸あれ

レミリアに幻視者と呼ばれてた早苗の遠い親戚の子はメリーなのかな?銀河鉄道の車掌だった金髪の女性と重なってますしね
本当に何から何まで面白かったです
16.100名前が無い程度の能力削除
うまく言えませんがすごいよかったです。
17.100ずわいがに削除
多分一回読んだだけで理解するのは不可能なんじゃないでしょうか。それぐらいにカオス。
文章という媒体であるため尚更ですね。
映像作品なら千と千尋の神隠しとかのジブリ作品、あるいはパプリカみたいな抽象的イメージを叩きつけられた気分。
幻想郷でもなく、外の世界でもない。セカイ系と言って良いんだろうか?とにかくそんな印象。
これだけのカオスを詰め込んでおきながら、タグが「こがさな」て……。面白かったです。
18.100名前が無い程度の能力削除
あっ、これは、これは面白い。
19.100名前が無い程度の能力削除
読み終わって、そう着地するのかと軽く感動しましたが、※16のお陰で更にその感動が
深い物となりました
これからは小傘と早苗の組み合わせに微笑ましい感情を抱けそうです
22.100クソザコナメクジ削除
やべかった