一条の光も差さない闇の中。
誰かが、何かを咀嚼する音だけが響く。
がりっ。
ぼりっ。
むしゃ。
しゃくしゃくしゃく。
じゅる。
ごくん。
がぶっ。
もぐ。ぺっ。
姿は見えない。
分かるのは、周囲に漂う甘い匂いと、湿った水音だけ。
闇の中を見てるだけでは、ここで何が行われているのか判断するのは難しい。
しかし、周囲の状況と、下調べしてきた情報を加味すれば。
この闇の中で何が行われているのか、想像するに難くない。
そもそも、この暗闇自体が不自然なのだ。
辺りには秋の陽射しが射しているというのに、この一帯だけ不自然に暗い。
夜を集めて丸めたようなこの暗闇には、覚えがある。
「ルーミア」
暗闇の外から、暗闇の元凶であろう存在に向かって話し掛ける。
暗闇のせいで相手の正確な位置は分からないけど。
聞こえてくる音と、暗闇の大きさから大体の見当をつけて呼びかける。
「んぁ」
少しして、間延びした声が返ってくる。
食事中の彼女にも、ちゃんと声は届いてくれたようだ。
「誰かいるのー?」
言葉と、しゃくしゃくと噛む音と、啜るような汚い音が交互に聞こえてくる。
暗闇を見通す術を持たない彼女は、私が誰で、どこにいるのか分からないらしい。
「風見幽香よ」
「あー……?」
反応が鈍い。
名前を覚えられていないのだろう。
姿を見れば思い出すかもしれないけど。
暗闇が消えない限り、お互い顔を合わせることすらままならない。
相手の反応は置いといて。
必要なことを話して、然るべき処置をすることにしよう。
「人食いが、なんで林檎泥棒なんてやってるのよ」
暗闇の中から、こりっ、と小気味良い音が響く。
暗闇の中で、ルーミアが林檎を食べている。
暗闇の外には、食べ散らかされた林檎が転がっている。
芯以外を綺麗に食べたのもあれば、一口齧って投げ捨てられたものも。
枝ごとへし折ったのもあれば、枝に生った林檎に齧りついたのもある。
暗闇の中で手探りで林檎を食べるせいか、食べ方が汚いし、木も傷つけている。
マナーがまるでなってない。
畜生でももう少しマシな食べ方をするというのに。
教育してくれる者もなく、学びもしない。
分別を知らない妖怪はこれだから性質が悪い。
「なんで私だって分かったの?」
「暗闇を使う妖怪なんて、貴女くらいなものでしょ」
「あー、そっかー」
所詮は妖精程度の知恵。
悪さをするなら闇に乗じるのが基本だけど。
明るい日中に闇をまとえば、余計目立ってしまう。
だからこそ、僅かな目撃情報でも簡単に犯人を特定できたのだけど。
話す合間に、林檎を食べる音が聞こえてくる。
よほどお腹が空いていたのか、そんなに林檎が好きなのか。
肉を食べた方が腹持ちはいいでしょうに。
細々と自生している果実を食い荒らされるのは、いい迷惑だ。
「それはいいから、食べるのを止めて、暗闇を消してくれない?
何もない場所に話しかけるもの大変なのよ」
相手を消し炭にするだけなら、暗闇でも大した問題ではないけれど。
今日は子供を叱りに来ただけなのだ。
物言わぬ肉塊に変えてしまっては意味が無い。
「食べ終わったらねー」
「盗み食いも止めなさい」
「やだー」
がぶがぶと林檎を食べる音がする。
止めさせようにも、相手は暗闇の中にいて、捕まえるのは骨が折れる。
私はそこまで夜目が利く方でもないし、逃げられたら面倒臭い。
さて。
いくつか方法はあるけど、ここは餌で釣るのが一番だろう。
こんなこともあろうかと、丁度いい物も持ってきた。
下調べをしていたおかげで、準備は万端だ。
手提げから、細長い紙の包みを取り出す。
紙の包みをほどくと、中から茶色い棒状の塊が顔を出す。
そしてすぐに、辺りに食欲をそそる香ばしい匂いが広がる。
「おお?」
ルーミアもそれに気付いたのか、林檎を食べる音が止み、すんすんと鼻を動かす気配がする。
暗闇で目が見えない分、他の感覚が鋭くなっているのかもしれない。
香りの出所を探り、ばたばたと動いている。
「なにこれ?」
りんごの甘い匂いに混じる、別の香り。
それが何の匂いか分からなくても、美味しい物であることは分かるのだろう。
新しい匂いに、興味津々だ。
「パンよ。正確には、バゲットね」
堅くて細長いパン。フランスパンと言った方が通りがいいかもしれない。
持ってきたのは焼き立ての、とびきり香りがいいやつだ。
この匂いを嗅いで、無視できる者はそうはいない。
それがお腹を空かせた子供なら、効果は覿面だ。
「鬼、さん、こちら。手の、鳴る、方、へ♪」
仰ぐようにパンを揺らし、リズムよく指を鳴らす。
匂いに釣られ、鬼がふらふらと歩いてくる。
ルーミアが動くと、それに合わせて闇も動く。
幽香も完全に闇に呑まれ、視界が完全に奪われる。
そしてそのまま、動かずに待っていると。
「あてっ」
「はい、おめでとう」
少しして、パンに何かがぶつかる。
ぺたぺたと触り、その形を確認している。
多少の警戒心があるというより、どうやって食べようか考えてるだけのよう。
「食べていいわよ」
「がぶぅ」
幽香が許可を出すや否や、ルーミアがパンに食らいつく。
堅いパンを噛み千切り、ばりばりと噛み砕いている。
一口。二口。三口目で、バゲットを全て飲み込んでしまう。
パンを食べつくしてから、勢い余って幽香の手にまで噛み付いてくる。
故意にやったのかは分かりかねるが。
吐き出す様子もなく噛み続けているところを見ると、パンのついでに幽香も食べてしまうつもりらしい。
幽香は慌てる様子もなく、少し考えた後、ちょっとした行動を起こす。
大した労力も使わず、相手を撃退する効果的な行動を。
ルーミアの口の中で、幽香が軽く指を擦り合わせる。
行動はそれでお終い。
それだけで、劇的な変化が訪れる。
ルーミアが盛大に噎せて、幽香の手を吐き出す。
吐き出された手を拭ってから、幽香は暗闇の中にいるルーミアの様子を窺う。
落ち着き払っている幽香とは対照的に、ルーミアはわーわーと叫び、走り、盛大に転ぶ。
そして最後に、困惑の声を漏らす。
「え、え、え? なにこれなにこれ」
「暗闇を解いて、明るいところで見てみるといいわ」
「お、おう」
ルーミアが返事をすると、程なくして闇が消え、光が満ちる。
秋の陽射しに目を慣らしてから、周囲の状況を確認する。
幽香はしゃんと2本の足で地面立っていて。
そこからそう遠くない位置で、ルーミアが地べたに倒れ込んでいる。
ルーミアが元いた場所には、食べ散らかされた林檎と、林檎の木があった。
ちゃんと手入れしてあげたとしても、来年の収穫は怪しいかもしれない。
「あ、おおおおおお」
自分の現状を把握したルーミアが奇声をあげる。
驚くのも無理は無い。
だって。
「花!」
「そうね、花ね」
「はな!」
「綺麗に咲いてるわね」
現状を簡潔に説明すると。
ルーミアの鼻の穴から、一本ずつ花が顔を出している。
ルーミアが顔を左右に動かすと、それにつられて背の高い花がふらふらと揺れる。
間抜けな顔と相まって、すごく面白い。
「うぅ」
ルーミアがべそをかく。
それを黙って見ていて、反省したのを確認すると。
幽香が声を掛ける。
「根は張ってないから、引っ張ればすぐ抜けるわよ」
「あい」
ルーミアが正座して、鼻から伸びる花に恐る恐る手を伸ばす。
神妙な面持ちと、鼻から飛び出した花がミスマッチで見ていて面白い。
ルーミアが花を抓んで、鼻からずるずると引き抜いていく。
「へくちっ」
全て引き抜いたところで、何度もくしゃみをして、花を地面に投げ捨てる。
鼻がむずむずしているのか、涙目になって何度も何度も鼻を擦る。
二度と幽香に逆らうまいと、肝に銘じた瞬間だ。
「さて、話をしてもいいかしら」
「なにが?」
「りんご」
「んー?」
「食べすぎ」
「あー」
頭上に枝を伸ばした、林檎の木を見上げる。
たわわに実っていたりんごはそのほとんどが齧られ、雑に食い捨てられている。
暗闇の中手探りで齧り付くため、あちこちの枝や葉が折られ、かわいそうな有様だ。
「貴女には分からないかもしれないけど、木にも心があるの。
育ててもらったり、花を見てもらうと嬉しいし。
枝を折られたり、生った果実を粗末にされると悲しいの」
幽香がしゃがんで、ルーミアと目の高さを同じにする。
ルーミアは不思議そうに首を傾げ、その言葉を理解した様子もない。
自然から生まれた妖精なら、自然を粗末に扱ったりはしないけど。
どこから湧いてきたか分からないような妖怪は、そういう自然を愛する心が欠落しているのかもしれない。
もう少し、自然か人間寄りの存在なら。あるいは、学を修めてくれていれば分かるのかもしれないが。
ちょっとした難題に、幽香が頭を悩ませる。
何が悪いのか分からせないと、叱っても意味がない。
悩みながら、ルーミアのほっぺを抓む。
思いの他柔らかったようで、餅のようにうにょんと伸びる。
幽香が、嫌そうなルーミアの顔を眺め、ほっぺを引っ張って遊ぶ。
程なくしてお仕置きの方針が決まったようで、ルーミアのほっぺを手放す。
頬を押さえるルーミアに、幽香が声をかける。
「貴女、林檎が好きなの?」
「うーん……。それなり?」
質より量。
手近にあったのが林檎だっただけで、特に拘りはないのかもしれない。
他に楽に獲れて腹持ちのいい食べ物があれば、それを食べるに違いない。
「美味しい食べ物が採れる場所を教えてあげるから、少しデートしましょうか」
林檎の被害を減らすため、他の果物を食べさせて被害を分散させようとの考えだ。
ルーミアが新しい食べ物をどれ程覚えられるかは分からないが、今より少しはマシになることだろう。
「食べ物! 行く行く!」
「その代わり、いくつか約束事があるから、それをちゃんと守ること。
守れないなら教えてあげないわ」
「守るー。だから早く、はやくー」
「それじゃ、指きりしましょ。嘘ついたら拳骨と針千本ね」
「はーい」
「破ったら本当にお仕置きするわよ?」
「守るからいいもん」
ルーミアがぷくっと頬を膨らませる。
それをかわいらしく思いながらも、手のかかる子だと溜息を吐く。
木を大切にすることや、収穫の際の作法、食べ方や食べ残しの処理の方法。
木に感謝する事などを約束して指を切る。
そしてそれを実践するため、2人で食べ歩きに出掛けるその前に。
幽香が手提げから何かを取り出し、ルーミアの前に差し出す。
「はい。右と左、どっちがいい?」
「?」
幽香が手に持って差し出した物は。幽香がいつも使っている日傘と、赤い首輪。
ルーミアはそれの意図が分からず、不思議そうに首を傾げる。
「好きなほうを選ばせてあげるわ」
「?」
ルーミアは未だハテナマークを浮かべている。
そんなルーミアの前で、幽香が楽しそうに分かり易く解説を始める。
「日傘と首輪。好きな方を選んでいいわよ。
日傘で太陽の光を遮ってもいいし。
暗闇を纏いたいなら、はぐれないように首輪をして連れていってあげる」
「うーん」
ルーミアが、先程までとは違う趣で首を捻る。
吸血鬼のように日光が弱点でもない限り、どちらのアイテムも本来は必要ないのだろう。
それを幽香も薄々分かっていながら、敢えて選ばせる。
主に、自分の趣味のために。
「じゃあ、こっち」
「首輪ね。それじゃ、着けるから少し大人しくしてなさい」
「はーい」
従順なルーミアに赤い首輪を着け、リードを引いて満足そうな笑みを浮かべる。
「それじゃ、美味しい果物がなる木を探しに行きましょうか」
「わーい!」
諸手を上げて喜ぶルーミアの首輪を引いて空を飛ぶ。
実に平和な光景だ。
いくつか秋の味覚を食べ歩き、すっかり日も暮れた頃。
最後にとっておきの林檎の木に着いたところで締めにする。
「いいにおい~♪」
ルーミアが鼻をひくつかせる。
草原に生えた一本の林檎の木。
幽香曰く、幻想郷で一番美味しい林檎が採れる木だ。
風に土に水、全ての自然が最上だからこそ採れる奇跡の実。
理屈は分からなくとも、そこに生った林檎が美味しいということはルーミアでも分かるらしく。
たわわに実った林檎の実を、じっと見つめて唾を飲んでいる。
「この木は明日が食べ頃だから、もう一日だけ我慢してね」
「食べちゃだめなの?」
「一つくらいならいいけど、明日まで待てばもっと美味しくなるわよ」
「じゃあ我慢するー」
「そうね。今日は食べ過ぎたくらいだし、少し間を置いた方がいいわ」
「うん。それじゃ、ばいばーい」
「さようなら。近いうちにまた会いましょう」
それきり興味を失くしたのか、闇をまとってふよふよとどこかへ飛んで行く。
リードは外したものの、首輪は着けたまま。
ルーミアも気にした様子がないので、そのままでいいのかもしれない。
ルーミアが去った後、幽香が木に語り掛ける。
子供に物を教える苦労を愚痴り、今日の顛末を話す。
幽香には木の声が聞こえているらしく、会話するように話しかける。
一通り喋り終えてから、林檎を一つもぎ取り、口づけするように齧り付く。
ルーミアのマナーは少しは良くなったけど。野放しにするにはまだ危ない。
やはり一度、痛い目に遭って反省するのが一番だろう。
そこまで考えて、幽香の目に複雑そうな色が現れる。
林檎の雫を飲み干してから、幽香が、こう呟く。
「ごめんね、ルーミア」
☆
その翌日。
前日の最後に回った林檎の木まで来たルーミアは、予想外の事態に直面する。
「あ、う」
場所はここで合ってる。
昨日は林檎がたくさんあった。
匂いもまだ残ってる。
それなのに。
楽しみにしていた林檎が、一つも残っていない。
「う、うあ……」
今にも泣き出しそうな顔で、状況を飲み込めず、途方に暮れている。
美味しいりんごを楽しみにしていただけに、そのショックは計り知れない。
これなら、昨日のうちに食べておけば良かった。
いったい誰に食べられたのか。
一つくらい残ってたりしないだろうか。
いくつもの考えがまとまらず、頭の中で混線する。
どうすればいいのか分からず、ただその場に立ち尽くす。
そんなルーミアの前に、1人の女性が現れる。
「あら、誰かと思えば。ルーミアじゃない」
「ゆうかぁ」
たまたま通りかかったような顔をして、幽香が顔を出す。
幽香の方を向いたルーミアの表情は、今にも泣き出しそうで。
少し頭を撫でてあげれば、堪えていたものが溢れ出してしまいそうだ。
「泣きそうな顔をして、一体どうしたの?」
「りんご」
「うん」
「ない」
「そうね。ないわね」
「昨日はあんなにいっぱいあったのに」
「そうね」
「うん」
「私が食べちゃった」
「…………え?」
「ルーミアが帰った後、あまりに美味しそうだったから、1人で全部食べちゃった」
「え、えう」
幽香が反省した様子もなく、唇に指を当て、小悪魔風に喋る。
ぽろぽろと涙を零すルーミアに、とどめの一言。
「とっても美味しかったわ♪」
「ば、ばかああああああああああああああああああ!!!!!」
ルーミアの体から闇が湧き出し、周囲が一瞬で闇に包まれる。
悲鳴のような、雄たけびのような声が響いてくる。
並の人間なら腰を抜かしてしまいそうな迫力。
それに動じることもなく、幽香が一歩前に出る。
ルーミアが飛びかかろうと地面を蹴る。
そしてすぐ、べちんと肉のぶつかる音がする。
「はい、そこまで」
幽香がそう言うと、地面に堅いものがぶつかる音が鳴る。
ルーミアの声が漏れる。
「がふっ」
数秒後、闇が薄れ、2人の姿が現れる。
ルーミアの顔面を鷲掴みして地面に叩きつけている幽香。
地面に叩きつけられ、仰向けにのびているルーミア。
暗闇になった数秒で、何があったのかは一目瞭然だ。
例え視界が奪われたとしても、最短距離で突っ込んでくる相手を捕えるのはそう難しくない。
一度捕まえてしまえば、最早暗闇など関係ない。
格下の妖怪一匹、如何様にも料理できる。
ルーミアの敗因は、暗闇を有効に使えなかったこと。それに尽きる。
ルーミアがしっかり気を失っていることを確認してから、どこからか藤の蔓を取り出し、雁字搦めにして縛りつける。
そうして暴れられないようにしてから、逆さまにして林檎の木に吊るす。
ルーミアに何かの草を嗅がせると、程なくしてルーミアが目を覚ます。
「目が覚めた?」
「がう!」
目覚めたルーミアの目に、逆さまの幽香が映る。
「む」
すぐに体の自由が利かないことに気付く。
「話を聞いてくれるように、少し縛らせてもらったわ」
「うなー!!!!」
木の蔓で縛られ、ミノムシの体で逆さまに吊るされている。
蔓を引きちぎろうと力んでみるが、ルーミア程度の力ではびくともしない。
誰かに解いてもらうまで、ずっとこのままだろう。
生殺与奪権は完全に幽香の手の内にある。
幽香の言葉に耳を貸すもんかと、大声を上げて動かない体を暴れさせる。
しばらくしてから。
耳を塞いでしれっと眺めていた幽香が、息切れを起こして静かになったルーミアに語りかける。
「全く。私が悪かったけど、少しは話を聞いて欲しいわね」
ルーミアが、ぷいっと顔を背ける。
林檎を1人で食べた幽香が大嫌いになったようだ。
呆れた表情で、幽香がルーミアのおでこを押す。
奥に動いた蓑虫ルーミアが、反動で手前に揺れる。
ルーミアが体を揺らし、幽香に噛み付こうと暴れだす。
それを避けたり、押し戻したりして遊びながら、幽香が質問する。
「楽しみにしてた林檎が無くて、どんな気持ちだった?」
ルーミアが不愉快を隠そうともせず、歯を鳴らす。
「貴女だって、1人でたくさんの林檎を食べていたじゃない。それと同じ事をしただけよ」
その言葉に返事はない。
あからさまな威嚇も、文句も出てこない。
幽香が何を言いたいのか、ルーミアにも伝わってくれたらしい。
「楽しみにしてたものを食べられたら悲しいでしょ。次からは、食べ尽くさないようにしなさい」
「…………はい」
ルーミアが、しゅんとうなだれる。
自分の行いをしっかりと反省してくれたようだ。
それを見て、満足そうに幽香が頷く。
「よろしい。りんご飴食べる?」
「食べる」
仲直りの印に、幽香がりんご飴を差し出す。
幽香が取り出したりんご飴に、ルーミアが齧りつく。
がりがりと噛み砕いて、あっという間に食べてしまう。
林檎を食べるのが楽しみで、お腹を空かせてきたのかもしれない。
だから林檎がなくて悲しかったし、犯人を見つけて頭にきた。
林檎を食べられた側の気持ちを知る事が出来たわけだ。
「おかわり」
「もうないわよ」
「うぇ……」
再び泣きそうになるルーミアに、幽香が慌てて声をかける。
「今はないけど、私の家に林檎で作ったお菓子がたくさんあるから、食べに来るといいわ」
「やったあ!」
体が自由だったのなら、バンザイをして飛び跳ねそうな勢いの満面の笑顔を浮かべる。
幽香は林檎を独り占めしたくて、この木の林檎を全部収穫したわけではない。
ルーミアの反省を促すため。
そして首尾よくよく反省してもらえたのなら、ご褒美として美味しいお菓子を振舞うために林檎を収穫したのだ。
そのままで食べるよりずっと美味しくなった林檎のお菓子が、幽香の家に山ほどある。
「それじゃ早速行くとしましょうか」
「うん」
ルーミアの襟元を、猫を抓むようにひょいと持ち上げる。
「縄ほどいてよ」
「このままでいいわ」
「やだー!」
「ジュースにジャムにうさぎさんカット。シャーベット、焼き林檎、アップルパイにりんごのタルト。
たくさん作ったから好きなだけ食べていいわよ」
「おおう」
じゅるりと、ルーミアが涎を垂らす。
「腕によりをかけて作ったから、たくさん食べてちょうだいね」
「はーい」
幽香に連行されるルーミア。
ルーミアが自然を大切にして、一人前になるまで、もうしばらくはペット(あるいは玩具)扱い。
幽香とルーミアが肩を並べて一緒に飛ぶのは、もう少し先の話かもしれない。
このルーミアは天真爛漫というか自分に素直なので憎めないのかもしれないですね。
ただ、内容が少し薄かったように思いました。
もうちょっと膨らみが欲しかったところですな。
幽香さんの調教もっと見たいから続けて下さい(血涙)