「姉さん、すごい雨ですね」
「そうねー。さっきまで晴れてたのに」
私、リリーブラックと姉のリリーホワイトは窓の外を見て、そう言葉を交わす。
外からはざぁっ、という激しい雨音が聞こえてくる。
夕暮れ時なのもあいまって、外は完全に真っ暗だ。
「さてと、そろそろ夕食の準備でもしましょうか」
「そうですね。手伝いますよ」
「うん、お願い」
と、そこまで話したところで、家のドアがドンドンと叩かれた。
あれ、お客様かな? こんな雨の時に?
「あら、こんな大雨の中お客様? ブラックちゃん、出てもらってもいいかしら?」
「あ、はい。すぐに行きます」
私は椅子から立ち上がり、玄関のドアへ向かう。
それにしても、こんな雨の日に誰だろう?
もしかしたら「雨宿りさせてください!」って人だったりして……
「はいはーい、今開けますよーっと……」
ドアを開けると……ずぶ濡れになった二人の女の子が立っていた。
二人は私がドアを開けた瞬間、こう叫んだ。
「ごめん、いきなりですまないけど、雨宿りさせて!」
「あ、う、うん、別にいいよ」
玄関の軒下に立っていたのは雨宿り希望者。まさかの予想的中。
とにかく、私は二人を家の中へと招き入れるのだった。
このまま放置するのも可哀想だしね。
「ふいー、助かったぁ……」
「いきなり大雨になるもんだから、驚いちゃったよ……」
私が渡したタオルで頭を拭く二人組。
片方は長くてサラサラとした黒い髪を持った子。
もう片方は綺麗な金色の長髪をリボンで縛り、ポニーテールにしている子だ。
髪の色も、身長も全く違う二人。だけど、二つの共通点があった。
それは……青を基調とした可愛らしいメイド服を着ているところと、背中に透明な羽があるところだ。
もっとも、濡れたメイド服は干してあるから、二人は今、私と姉さんの服を着ているのだけれど。
そう、彼女たちは妖精メイド。紅魔館で働いている妖精なのだ。
「私もびっくりしたよ……まさか二人が大雨の中、家に来るなんてね……」
いつも丁寧語で話す私としては、珍しく砕けた口調になっている。
なぜなら、この二人は昔からの友人だからだ。
「で、シエラもリマも何でこんな雨の中を?」
簡単に説明をすると、長い黒髪をしていて、身長の高い子がシエラ。
金色のポニーテールで、シエラとは対照的に小さい子がリマだ。
どちらも紅魔館で長い間働いている、ベテランの妖精メイドである。
特にシエラは紅魔館の副メイド長として大活躍中……らしい。
流石に私も詳しい活躍は聞いてないけれども、副メイド長なんだから、それはもうすごい働きぶりなのだろう。
「いやー、咲夜さんに頼まれ物をされたその帰りに降られちゃったのよ」
「頼まれ物って?」
私の問いには、リマが答えてくれた。
「白玉楼に紅茶とお菓子を持っていってくれ、っていうのが今回のお仕事!」
「へぇ、白玉楼って言ったら妖夢さんと幽々子さんのところだよね。あの二人、紅茶も飲むんだ」
あの二人は緑茶しか飲まないってイメージがあったんだけど、そうでもないのね。
「なんか最近紅茶に凝ってるんだって。妖精の噂によると咲夜さんの影響らしいわよ?」
妖精の噂……ってことは本当なのかそうでないのか判別しづらいわね。
だって妖精の噂だし……
そもそも、どうやったら咲夜さんの影響でそうなるのか分からないし。
「なるほどねー。で、そのお仕事の帰りに降られちゃったってわけだ」
「うん、そういうこと」
二人とも苦笑い。
この季節になると天気が変わりやすくなるから大変なのよねぇ……
私もつられて苦笑してしまう。
「二人とも災難だったわねー。とりあえず、ゆっくりしてって。
今姉さんがご飯を作ってるし、一緒に食べようよ」
「ええ、しばらくは帰れそうにないし、ゆっくりさせてもらうよ」
「ごめんねー」
「いえいえ、大丈夫よ。それじゃ、私は咲夜さんに連絡してくるね」
二人に軽く手を振ってから、電話へと向かう。
電話って言うのは、最近河童が開発したという機械。
これを使えば遠く離れた人とも会話が出来る! って河童は言っていたわね。
今は試験もかねて、河童の友人たちに無償で貸し出されているんだとか。
うちにあるのもそんな電話機の一つ。
最初は眉唾物でしたが、使ってみるとかなり便利なのよね。
これが幻想郷中に普及する日が来るのかなぁ……
幻想郷中に広まれば、それはもう便利になると思うのだけれど。
「さてと、紅魔館は……これね」
電話機の中にある『紅魔館』と書かれたボタンを押す。
これをポチッと押せば紅魔館にあっという間に繋がるというわけ。
流石にどういう仕組みなのかは分からないけど……
受話器(と河童は呼んでいた)部分を耳に当てると、ルルルルル、という呼び出し音が聞こえる。
数秒後、音が鳴り止み、女性の声が聞こえた。
『はい、紅魔館の咲夜です』
電話に出たのは咲夜さんのようだ。
「あ、森のリリーです」
まず始めに名前を名乗る。
咲夜さんとは紅魔館のパーティーや買い物の時に結構話しているから、声で分かってくれるとは思うけれども。
『あら、リリー……その声はブラックね』
「ええ、ブラックです。えと、少しお話がありまして」
『何かしら?』
私は咲夜さんに二人のことを伝える。すると、こんな言葉が返ってきた。
『なるほどね。この雨じゃ今日帰るのは無理っぽいから……出来れば泊めてやってもらいたいのだけど、大丈夫かしら?』
「ええ、こちらは大丈夫ですけれど、そちらの方は?」
『こっちは大丈夫よ。仕事はなんとか回るから』
「わかりました。それでは家に泊めておきます」
『ええ、お願いね。今度お礼に、美味しい紅茶とお菓子を奢るわ。それじゃ』
そこで電話は切れた。
「……お泊りねぇ。そういえば二人と一緒に寝るのは何年ぶりかしら」
昔は他の妖精たちも誘ってお泊り会とかしてたけど、最近はご無沙汰だったなぁ。
久しぶりのお泊り会。そう考えるとなんだか楽しくなってきた……!
「さってと、三人に報告しなきゃ」
楽しみに思う気持ちを押し込めて、私は三人が待つであろう居間へと急いだ。
「ふぅん、二人とも頑張っているのねー」
夕食のホワイトシチューを口に運びながら、姉さんが笑う。
余談になるが、ホワイトシチューは姉さんの好物だったりする。
昔からよく「リリー『ホワイト』だから『ホワイトシチュー』が好きなんだね!」って皆から、からかわれてたなぁ。
ちなみに私はビーフシチューが好きなので、逆に「ブラックだから黒いビーフが好きなんだね!」って言われていたりする。
二人とも、こんなこと言ってたの覚えてるかな。
「そりゃもう頑張ってるよ! あたしが紅魔館だ! ってくらいにー」
「へぇ、美鈴さんと遊んでるのが頑張ってるうちに入るのかしら?」
「あ、あれはー……く、訓練だよ!」
「私には遊んでるようにしか見えないけどねぇ」
「うー……シエラのいじわる……」
そんなやりとりを見て、笑ってしまう私と姉さん。
あぁ、久々に賑やかな食卓だ。
私と姉さんだけじゃ、ここまで賑やかにならないからね。
やっぱり賑やかだと嬉しくなってしまう。
「あはは、嘘よ! リマは十分頑張ってるもんね」
「う、うん、それなりには……ね」
「このままだと門番隊に入れるんじゃない? やる気があるなら推薦しておくけど」
「本当に!?」
リマの顔がぱぁっと輝く。
んーと、門番隊って門の近くにいる妖精たちのことかな?
いつも美鈴さんと門の警備をしている妖精は見るのだけれど。
「姉さん、門番隊ってわかります?」
「えーと、確か美鈴さんと一緒にいる妖精たちのことだったような?」
そんな私たちの会話が聞こえたのか、シエラが口を挟んできた。
「あー、門番隊って言うのは、門番の美鈴さんと一緒に門番や警備のお仕事をする部署なの。
その仕事の内容上、精鋭メイドが選ばれるから、地位的にはかなり高い場所なのよ。
ちなみに地位が高い順から親衛隊、門番隊、図書館防衛隊、警備隊ってなってたり」
ほうほう、ということは門番隊っていうのは実力がないと行けないような場所ってことなのね。
とりあえずそういうことで理解しておく。
「憧れの美鈴さんと一緒に仕事が出来るなんて考えただけでも……くーっ!」
嬉しさのせいでなのか、身震いするリマ。
うーん、友人として応援したくなるなぁ。彼女には頑張ってもらいたいわね。
「リマは美鈴さんのこと好きなの?」
姉さんがリマにそう問いかける。
「んー、好きといえば好きだけど……どっちかというと憧れのお姉さんって感じかな?
強くて優しいし、いろいろなこと教えてくれるしね」
憧れのお姉さん、かぁ。
それはわかるかも。美鈴さんは確かにそんな感じだから。
「なるほどねー。確かに美鈴さんってそんな感じだもんねー。
で、そろそろシエラの話に移ってもいい?」
ニヤニヤしながら、姉さんはシエラに話を振った。
「え、私?」
「うん。最近咲夜さんとはどうなのよー?」
そういえば、シエラは咲夜さんといい感じの関係になってるんだったなぁ。
二人の近況については私も気になる。
「んー、最近は特に進展ないかなぁ。
あ、ナイフの投げ方とかは教えてもらってるけれども」
「へぇ、ナイフの投げ方?」
ナイフといえば咲夜さんの専売特許みたいなものだけれども、それを直々に教えてもらっているのね。
それはちょっと羨ましい気もする。
ナイフ投げってかっこよくて、憧れちゃうな。
「もうこれが大変で大変で……まだまだ先は長いよ……」
ため息をつくシエラ。
「でも楽しいんでしょ?」
「もちろん!」
彼女は私の問いに笑顔でそう返してきた。
「咲夜さんは優しく丁寧に教えてくれるし、何よりも一緒にいれるから嬉しいのよねー。
それに、日に日に上達していくのがすごい楽しいし!」
生き生きとした表情で嬉しそうにシエラはそう語る。
とりあえず仲良くやってるっていうのはよく分かるわね。
「もっと練習して、いつかは咲夜さんの相棒なんて呼ばれるくらいの腕前になりたいな!」
「頑張りすぎて怪我とかしないでよ?」
「わかってるよー」
リマの言うことは一理ある。
シエラは頑張りやさんだから、無理しないかがとっても心配。
……まぁ、咲夜さんも一緒みたいだから、あんまり心配しなくてもいいとは思うけど。
「そういえば、副メイド長ってどんな仕事してるの?」
食事が粗方終わった頃に、ちょっと興味があったので仕事内容について聞いてみることにした。
副メイド長というからには、忙しくて大変なんだろうな。
「んー、仕事ねぇ……主に咲夜さんの補佐、かなぁ?」
「……それだけ?」
「ほかには館内の見回りとか、お嬢様や館の貴重品の管理とか……
あ、お金の管理は私も含めて一部の人しか出来ないね」
そりゃそうだ。
下っ端メイドなんかにお金の管理をさせたくはないだろう。
「あとは今までとほとんど変わらないよ。
普通にお掃除したり、お嬢様の身の回りのお世話したり」
ん、あれ? 「お嬢様の身の回りのお世話」が今までと変わらないって?
「ちょっと待って。お嬢様の身の回りのお世話って今までもしてたの?
てっきり私は選ばれた数人のメイドだけが……とか思ってたんだけれど」
「お嬢様のお世話は基本的に咲夜さんがするんだけど、お嬢様の気分によってたまに変わるからねー。
酷い時には仕事もろくに覚えてないような新人メイドがお世話することになったりとか……」
「あー、あったねー。あの時は色々大変だったよー。
お茶はひっくり返すわ、緊張のせいで返事すら出来ないわで、サポートしてるこっちも大変だったから。
ま、その様子も可愛かったから許せるけどねー」
なんか色々とすごい。
というかお嬢様の気分で変わるって……
「お嬢様自身も暇つぶし感覚でそんなことしてるらしいのよね」
「付き合わされる私たちはたまったもんじゃないけど……」
あー、そういえばあの人は「面白そうだから」って理由で大変なことしでかす人だったなぁ。
一回「春を独り占めしたいから」って理由で捕まりかけたりもしたからよく分かる。
「ま、お嬢様のことは可愛いから許せるんだけどね」
「うん、可愛いから超許す」
「それでいいのかい……姉さんも何かツッコんでくださいよ!」
「え、可愛ければいいんじゃないの?」
「もういいです……」
この人たちは……はぁ。
そんなこんなで、グダグダな会話は遅くまで続くのでありました。
ちなみにどのくらいグダグダだったかというと、私のツッコミが追いつかないほどでした……
そんなグダグダな時間もあっという間に過ぎ去り……
「あ、もうこんな時間だ」
「本当だ。楽しい時間が過ぎ去るのって早いね」
「私には長く感じられましたけどね」
うんざりしたように呟く私。
私はあの空気についていけなかったよ……
「さってと、そろそろ寝ようか!」
「そうだね。明日は早いうちに帰らないといけないし」
「シエラは咲夜さんに早く会いたいんだもんねー?」
「リマだって美鈴さんに早く会いたいんでしょ?」
「否定はしない!」
やっぱり二人は咲夜さんと美鈴さんのことが好きなんだなぁ。
話を聞いていて、少し微笑ましくなる。
「さぁさぁ、早く寝るよー」
「あ、うん。寝るー」
姉さんがパンパンと手を叩くと、二人ともそっちの方へ顔を向けた。
「よく考えると二人と寝るのは久々だねー」
「そうねー。前はよく皆でお泊り会とかしてたのに」
「私たちは忙しくなっちゃったからしょうがないよねー」
「そうだねぇ」
苦笑する二人。
「休みくらいはあるでしょ? だからさ、たまには皆で遊びにおいでよ。
美味しいお菓子やお料理を用意して待ってるからさ」
「ブラックちゃんの言うとおり! また皆でお泊り会しましょ!」
「「うん!」」
私と姉さんの言葉に、二人は同時に頷いた。
こうしてベッドへと移動する私たち四人。
ただ問題は……
「ベッドが一つしかないのよねぇ……」
「あー……」
この家には私と姉さんが一緒に寝てるベッド一つしかないんだよね。
流石に四人で寝るのはきついかな?
「ま、四人でも大丈夫じゃない? この大きさなら何とか寝れそうだし……」
シエラさーん、それかなり無茶っぽいんですけどー。
「うん、イケるイケる!」
いや、リマも「イケる」じゃないって。
どう見てもきついと思うんだけど。
「とりあえず物は試しに四人で寝てみましょうか!」
「「おー!」」
私はどう考えても無理だと思うんだけれどなぁ……
「それじゃ、まず私が寝て……横にシエラとリマが来て……」
「よいしょ……お、結構いけそう」
「三人はどうかな……うん、いけるね」
一つのベッドの上に三人が寝転がる。
あれ、意外といけちゃうの、これ?
「じゃ、最後にブラックちゃんおいでー」
「は、はい……」
最後に私が……って普通に寝れちゃったよ!
やろうと思えば四人で寝れるのね、これ……
「おー、四人で一つのベッドって意外といけるねー」
「だねー。ちょっぴりきついけど我慢我慢」
うん、やっぱりちょっとだけきつい。
まぁ、少し我慢すればなんとかなるレベルではあるけれど。
「じゃ、今日はこれで寝ようか」
「そだねー。それじゃお休みー」
そう言って、リマはすぐに眠ってしまった。
「私も寝ることにするよ……おやすみ」
シエラも後に続く。
「……私たちも寝よっか。おやすみ、ブラックちゃん」
「……はい、お休みなさい、姉さん」
こうして騒がしい半日も終わり、私たちはゆっくりと眠ることにしたのだった。
ふぅ、今日は色々と疲れたよ……主に三人へのツッコミで。
だからゆっくりと休んで疲れを取ろう。
お休みなさい……
「ふわぁ、よく寝た……ってブラックちゃん、起きるの早いねー」
「ほんとだー。あたしたちよりも早いー」
「何でそんなに早く起きれるの?」
「……ベッドから落とされたからですよ」
次の日の朝。
私ただ一人がベッドから叩き落されたため、早く起きてしまったのだった。
シエラ、リマの二人はそこまで問題ないとして、姉さんは……寝相悪すぎです。
「ベッドから落ちたの? ブラックちゃんったらドジっ子ねぇ」
姉さんのその言葉にはもう怒る気すらしませんよ……はぁ。
「落ちたくて落ちたんじゃないと思うなぁ……」
「ホワイトの寝相って昔から悪かったしねぇ……」
二人の言うとおり。昔から姉さんは寝相が悪いのよ。
今でも二人で寝てると姉さんの拳が顔に直撃してたりとか、お腹の上に姉さんの足があったりとか……
「あ、あはは、あは……」
二人にそう言われて苦笑するほかない姉さんであった。
「ま、それは置いておいて……昨日の雨が嘘のように晴れたねぇ」
「ええ、ほんとほんと。これで二人とも帰れるわね」
「うん! 二人とお別れするのはちょっと寂しいけどね」
私も二人とお別れするのは寂しく感じる。
でも仕事もあるし、しょうがないか。
「それじゃ、今借りてる二人の服は今度洗って返すからねー」
「うん、返すのはいつでもいいからね」
「はーい」
そんな三人のやり取りを、目蓋を擦りながら見つめる。
「じゃ、私たちはそろそろ帰るよ」
「あれ、朝食はいいの?」
「うん、この時間帯だと咲夜さんが準備してくれてそうだし」
「そうなんだー」
「あ、メイド服忘れないでよー」
二人とも忘れそうになってたので、私が声をかける。
「あ、危ない危ない。乾かしてたのすっかり忘れてた」
「うへぇ、やっぱり雨で濡れたまま部屋干ししたから嫌な匂いするー」
「帰ったらまた洗わないとねぇ」
あー、部屋干しだとやっぱり嫌な匂いするよね。
それに洗濯したわけじゃないから更に嫌な匂いが……
「着替えないでその服着たまま帰れば?」
「あ、それいいね。咲夜さんとかびっくりするかも」
「注目度も抜群だと思うよー」
姉さんの提案にノリノリの二人。
確かに注目はされそう。
「それじゃ、着たまま帰ることにしよっと」
「うん、それがいいよー。じゃ、これでお別れだねー」
「だねー。今度は紅魔館にも遊びに来てねー」
「うん、考えとく」
姉さんの言うとおり、今度は紅魔館に遊びに行くのも悪くないかも。
レミリアさんやフランちゃんとも色々お話したいし、図書館で本も借りたいし。
「じゃ、さよなら! 泊めてくれてありがとね!」
「さよならー!」
そう言い残して、二人は家を後にした。
残されたのはにこにこと笑う姉さんと、寝ぼけ眼を擦る私のみ。
騒がしくて大変だったけど……楽しかったな。
また今度皆を誘ってお泊り会っていうのも悪くなさそう。
「また静かになりましたね」
「そうねぇ……」
その言葉を最後にしばらく沈黙に包まれていたが、姉さんが口を開いた。
「ねぇ……もう一眠りする? 実を言うと私もちょっと眠くて、ね」
「それは別にいいですけれど……またベッドから叩き落とされるのは御免ですよ?」
「う、うん、気をつける……」
私はその答えに苦笑してしまう。
「じゃ、寝直しましょうか」
「うん!」
にっこりと頷く姉さんの手を取って、私は寝室へ向かう。
「紅魔館に帰ったら、こんな風に二人も咲夜さん、美鈴さんと寝るのかな」
なんてことを考えながら、私は寝室のドアを閉じるのであった。
「そうねー。さっきまで晴れてたのに」
私、リリーブラックと姉のリリーホワイトは窓の外を見て、そう言葉を交わす。
外からはざぁっ、という激しい雨音が聞こえてくる。
夕暮れ時なのもあいまって、外は完全に真っ暗だ。
「さてと、そろそろ夕食の準備でもしましょうか」
「そうですね。手伝いますよ」
「うん、お願い」
と、そこまで話したところで、家のドアがドンドンと叩かれた。
あれ、お客様かな? こんな雨の時に?
「あら、こんな大雨の中お客様? ブラックちゃん、出てもらってもいいかしら?」
「あ、はい。すぐに行きます」
私は椅子から立ち上がり、玄関のドアへ向かう。
それにしても、こんな雨の日に誰だろう?
もしかしたら「雨宿りさせてください!」って人だったりして……
「はいはーい、今開けますよーっと……」
ドアを開けると……ずぶ濡れになった二人の女の子が立っていた。
二人は私がドアを開けた瞬間、こう叫んだ。
「ごめん、いきなりですまないけど、雨宿りさせて!」
「あ、う、うん、別にいいよ」
玄関の軒下に立っていたのは雨宿り希望者。まさかの予想的中。
とにかく、私は二人を家の中へと招き入れるのだった。
このまま放置するのも可哀想だしね。
「ふいー、助かったぁ……」
「いきなり大雨になるもんだから、驚いちゃったよ……」
私が渡したタオルで頭を拭く二人組。
片方は長くてサラサラとした黒い髪を持った子。
もう片方は綺麗な金色の長髪をリボンで縛り、ポニーテールにしている子だ。
髪の色も、身長も全く違う二人。だけど、二つの共通点があった。
それは……青を基調とした可愛らしいメイド服を着ているところと、背中に透明な羽があるところだ。
もっとも、濡れたメイド服は干してあるから、二人は今、私と姉さんの服を着ているのだけれど。
そう、彼女たちは妖精メイド。紅魔館で働いている妖精なのだ。
「私もびっくりしたよ……まさか二人が大雨の中、家に来るなんてね……」
いつも丁寧語で話す私としては、珍しく砕けた口調になっている。
なぜなら、この二人は昔からの友人だからだ。
「で、シエラもリマも何でこんな雨の中を?」
簡単に説明をすると、長い黒髪をしていて、身長の高い子がシエラ。
金色のポニーテールで、シエラとは対照的に小さい子がリマだ。
どちらも紅魔館で長い間働いている、ベテランの妖精メイドである。
特にシエラは紅魔館の副メイド長として大活躍中……らしい。
流石に私も詳しい活躍は聞いてないけれども、副メイド長なんだから、それはもうすごい働きぶりなのだろう。
「いやー、咲夜さんに頼まれ物をされたその帰りに降られちゃったのよ」
「頼まれ物って?」
私の問いには、リマが答えてくれた。
「白玉楼に紅茶とお菓子を持っていってくれ、っていうのが今回のお仕事!」
「へぇ、白玉楼って言ったら妖夢さんと幽々子さんのところだよね。あの二人、紅茶も飲むんだ」
あの二人は緑茶しか飲まないってイメージがあったんだけど、そうでもないのね。
「なんか最近紅茶に凝ってるんだって。妖精の噂によると咲夜さんの影響らしいわよ?」
妖精の噂……ってことは本当なのかそうでないのか判別しづらいわね。
だって妖精の噂だし……
そもそも、どうやったら咲夜さんの影響でそうなるのか分からないし。
「なるほどねー。で、そのお仕事の帰りに降られちゃったってわけだ」
「うん、そういうこと」
二人とも苦笑い。
この季節になると天気が変わりやすくなるから大変なのよねぇ……
私もつられて苦笑してしまう。
「二人とも災難だったわねー。とりあえず、ゆっくりしてって。
今姉さんがご飯を作ってるし、一緒に食べようよ」
「ええ、しばらくは帰れそうにないし、ゆっくりさせてもらうよ」
「ごめんねー」
「いえいえ、大丈夫よ。それじゃ、私は咲夜さんに連絡してくるね」
二人に軽く手を振ってから、電話へと向かう。
電話って言うのは、最近河童が開発したという機械。
これを使えば遠く離れた人とも会話が出来る! って河童は言っていたわね。
今は試験もかねて、河童の友人たちに無償で貸し出されているんだとか。
うちにあるのもそんな電話機の一つ。
最初は眉唾物でしたが、使ってみるとかなり便利なのよね。
これが幻想郷中に普及する日が来るのかなぁ……
幻想郷中に広まれば、それはもう便利になると思うのだけれど。
「さてと、紅魔館は……これね」
電話機の中にある『紅魔館』と書かれたボタンを押す。
これをポチッと押せば紅魔館にあっという間に繋がるというわけ。
流石にどういう仕組みなのかは分からないけど……
受話器(と河童は呼んでいた)部分を耳に当てると、ルルルルル、という呼び出し音が聞こえる。
数秒後、音が鳴り止み、女性の声が聞こえた。
『はい、紅魔館の咲夜です』
電話に出たのは咲夜さんのようだ。
「あ、森のリリーです」
まず始めに名前を名乗る。
咲夜さんとは紅魔館のパーティーや買い物の時に結構話しているから、声で分かってくれるとは思うけれども。
『あら、リリー……その声はブラックね』
「ええ、ブラックです。えと、少しお話がありまして」
『何かしら?』
私は咲夜さんに二人のことを伝える。すると、こんな言葉が返ってきた。
『なるほどね。この雨じゃ今日帰るのは無理っぽいから……出来れば泊めてやってもらいたいのだけど、大丈夫かしら?』
「ええ、こちらは大丈夫ですけれど、そちらの方は?」
『こっちは大丈夫よ。仕事はなんとか回るから』
「わかりました。それでは家に泊めておきます」
『ええ、お願いね。今度お礼に、美味しい紅茶とお菓子を奢るわ。それじゃ』
そこで電話は切れた。
「……お泊りねぇ。そういえば二人と一緒に寝るのは何年ぶりかしら」
昔は他の妖精たちも誘ってお泊り会とかしてたけど、最近はご無沙汰だったなぁ。
久しぶりのお泊り会。そう考えるとなんだか楽しくなってきた……!
「さってと、三人に報告しなきゃ」
楽しみに思う気持ちを押し込めて、私は三人が待つであろう居間へと急いだ。
「ふぅん、二人とも頑張っているのねー」
夕食のホワイトシチューを口に運びながら、姉さんが笑う。
余談になるが、ホワイトシチューは姉さんの好物だったりする。
昔からよく「リリー『ホワイト』だから『ホワイトシチュー』が好きなんだね!」って皆から、からかわれてたなぁ。
ちなみに私はビーフシチューが好きなので、逆に「ブラックだから黒いビーフが好きなんだね!」って言われていたりする。
二人とも、こんなこと言ってたの覚えてるかな。
「そりゃもう頑張ってるよ! あたしが紅魔館だ! ってくらいにー」
「へぇ、美鈴さんと遊んでるのが頑張ってるうちに入るのかしら?」
「あ、あれはー……く、訓練だよ!」
「私には遊んでるようにしか見えないけどねぇ」
「うー……シエラのいじわる……」
そんなやりとりを見て、笑ってしまう私と姉さん。
あぁ、久々に賑やかな食卓だ。
私と姉さんだけじゃ、ここまで賑やかにならないからね。
やっぱり賑やかだと嬉しくなってしまう。
「あはは、嘘よ! リマは十分頑張ってるもんね」
「う、うん、それなりには……ね」
「このままだと門番隊に入れるんじゃない? やる気があるなら推薦しておくけど」
「本当に!?」
リマの顔がぱぁっと輝く。
んーと、門番隊って門の近くにいる妖精たちのことかな?
いつも美鈴さんと門の警備をしている妖精は見るのだけれど。
「姉さん、門番隊ってわかります?」
「えーと、確か美鈴さんと一緒にいる妖精たちのことだったような?」
そんな私たちの会話が聞こえたのか、シエラが口を挟んできた。
「あー、門番隊って言うのは、門番の美鈴さんと一緒に門番や警備のお仕事をする部署なの。
その仕事の内容上、精鋭メイドが選ばれるから、地位的にはかなり高い場所なのよ。
ちなみに地位が高い順から親衛隊、門番隊、図書館防衛隊、警備隊ってなってたり」
ほうほう、ということは門番隊っていうのは実力がないと行けないような場所ってことなのね。
とりあえずそういうことで理解しておく。
「憧れの美鈴さんと一緒に仕事が出来るなんて考えただけでも……くーっ!」
嬉しさのせいでなのか、身震いするリマ。
うーん、友人として応援したくなるなぁ。彼女には頑張ってもらいたいわね。
「リマは美鈴さんのこと好きなの?」
姉さんがリマにそう問いかける。
「んー、好きといえば好きだけど……どっちかというと憧れのお姉さんって感じかな?
強くて優しいし、いろいろなこと教えてくれるしね」
憧れのお姉さん、かぁ。
それはわかるかも。美鈴さんは確かにそんな感じだから。
「なるほどねー。確かに美鈴さんってそんな感じだもんねー。
で、そろそろシエラの話に移ってもいい?」
ニヤニヤしながら、姉さんはシエラに話を振った。
「え、私?」
「うん。最近咲夜さんとはどうなのよー?」
そういえば、シエラは咲夜さんといい感じの関係になってるんだったなぁ。
二人の近況については私も気になる。
「んー、最近は特に進展ないかなぁ。
あ、ナイフの投げ方とかは教えてもらってるけれども」
「へぇ、ナイフの投げ方?」
ナイフといえば咲夜さんの専売特許みたいなものだけれども、それを直々に教えてもらっているのね。
それはちょっと羨ましい気もする。
ナイフ投げってかっこよくて、憧れちゃうな。
「もうこれが大変で大変で……まだまだ先は長いよ……」
ため息をつくシエラ。
「でも楽しいんでしょ?」
「もちろん!」
彼女は私の問いに笑顔でそう返してきた。
「咲夜さんは優しく丁寧に教えてくれるし、何よりも一緒にいれるから嬉しいのよねー。
それに、日に日に上達していくのがすごい楽しいし!」
生き生きとした表情で嬉しそうにシエラはそう語る。
とりあえず仲良くやってるっていうのはよく分かるわね。
「もっと練習して、いつかは咲夜さんの相棒なんて呼ばれるくらいの腕前になりたいな!」
「頑張りすぎて怪我とかしないでよ?」
「わかってるよー」
リマの言うことは一理ある。
シエラは頑張りやさんだから、無理しないかがとっても心配。
……まぁ、咲夜さんも一緒みたいだから、あんまり心配しなくてもいいとは思うけど。
「そういえば、副メイド長ってどんな仕事してるの?」
食事が粗方終わった頃に、ちょっと興味があったので仕事内容について聞いてみることにした。
副メイド長というからには、忙しくて大変なんだろうな。
「んー、仕事ねぇ……主に咲夜さんの補佐、かなぁ?」
「……それだけ?」
「ほかには館内の見回りとか、お嬢様や館の貴重品の管理とか……
あ、お金の管理は私も含めて一部の人しか出来ないね」
そりゃそうだ。
下っ端メイドなんかにお金の管理をさせたくはないだろう。
「あとは今までとほとんど変わらないよ。
普通にお掃除したり、お嬢様の身の回りのお世話したり」
ん、あれ? 「お嬢様の身の回りのお世話」が今までと変わらないって?
「ちょっと待って。お嬢様の身の回りのお世話って今までもしてたの?
てっきり私は選ばれた数人のメイドだけが……とか思ってたんだけれど」
「お嬢様のお世話は基本的に咲夜さんがするんだけど、お嬢様の気分によってたまに変わるからねー。
酷い時には仕事もろくに覚えてないような新人メイドがお世話することになったりとか……」
「あー、あったねー。あの時は色々大変だったよー。
お茶はひっくり返すわ、緊張のせいで返事すら出来ないわで、サポートしてるこっちも大変だったから。
ま、その様子も可愛かったから許せるけどねー」
なんか色々とすごい。
というかお嬢様の気分で変わるって……
「お嬢様自身も暇つぶし感覚でそんなことしてるらしいのよね」
「付き合わされる私たちはたまったもんじゃないけど……」
あー、そういえばあの人は「面白そうだから」って理由で大変なことしでかす人だったなぁ。
一回「春を独り占めしたいから」って理由で捕まりかけたりもしたからよく分かる。
「ま、お嬢様のことは可愛いから許せるんだけどね」
「うん、可愛いから超許す」
「それでいいのかい……姉さんも何かツッコんでくださいよ!」
「え、可愛ければいいんじゃないの?」
「もういいです……」
この人たちは……はぁ。
そんなこんなで、グダグダな会話は遅くまで続くのでありました。
ちなみにどのくらいグダグダだったかというと、私のツッコミが追いつかないほどでした……
そんなグダグダな時間もあっという間に過ぎ去り……
「あ、もうこんな時間だ」
「本当だ。楽しい時間が過ぎ去るのって早いね」
「私には長く感じられましたけどね」
うんざりしたように呟く私。
私はあの空気についていけなかったよ……
「さってと、そろそろ寝ようか!」
「そうだね。明日は早いうちに帰らないといけないし」
「シエラは咲夜さんに早く会いたいんだもんねー?」
「リマだって美鈴さんに早く会いたいんでしょ?」
「否定はしない!」
やっぱり二人は咲夜さんと美鈴さんのことが好きなんだなぁ。
話を聞いていて、少し微笑ましくなる。
「さぁさぁ、早く寝るよー」
「あ、うん。寝るー」
姉さんがパンパンと手を叩くと、二人ともそっちの方へ顔を向けた。
「よく考えると二人と寝るのは久々だねー」
「そうねー。前はよく皆でお泊り会とかしてたのに」
「私たちは忙しくなっちゃったからしょうがないよねー」
「そうだねぇ」
苦笑する二人。
「休みくらいはあるでしょ? だからさ、たまには皆で遊びにおいでよ。
美味しいお菓子やお料理を用意して待ってるからさ」
「ブラックちゃんの言うとおり! また皆でお泊り会しましょ!」
「「うん!」」
私と姉さんの言葉に、二人は同時に頷いた。
こうしてベッドへと移動する私たち四人。
ただ問題は……
「ベッドが一つしかないのよねぇ……」
「あー……」
この家には私と姉さんが一緒に寝てるベッド一つしかないんだよね。
流石に四人で寝るのはきついかな?
「ま、四人でも大丈夫じゃない? この大きさなら何とか寝れそうだし……」
シエラさーん、それかなり無茶っぽいんですけどー。
「うん、イケるイケる!」
いや、リマも「イケる」じゃないって。
どう見てもきついと思うんだけど。
「とりあえず物は試しに四人で寝てみましょうか!」
「「おー!」」
私はどう考えても無理だと思うんだけれどなぁ……
「それじゃ、まず私が寝て……横にシエラとリマが来て……」
「よいしょ……お、結構いけそう」
「三人はどうかな……うん、いけるね」
一つのベッドの上に三人が寝転がる。
あれ、意外といけちゃうの、これ?
「じゃ、最後にブラックちゃんおいでー」
「は、はい……」
最後に私が……って普通に寝れちゃったよ!
やろうと思えば四人で寝れるのね、これ……
「おー、四人で一つのベッドって意外といけるねー」
「だねー。ちょっぴりきついけど我慢我慢」
うん、やっぱりちょっとだけきつい。
まぁ、少し我慢すればなんとかなるレベルではあるけれど。
「じゃ、今日はこれで寝ようか」
「そだねー。それじゃお休みー」
そう言って、リマはすぐに眠ってしまった。
「私も寝ることにするよ……おやすみ」
シエラも後に続く。
「……私たちも寝よっか。おやすみ、ブラックちゃん」
「……はい、お休みなさい、姉さん」
こうして騒がしい半日も終わり、私たちはゆっくりと眠ることにしたのだった。
ふぅ、今日は色々と疲れたよ……主に三人へのツッコミで。
だからゆっくりと休んで疲れを取ろう。
お休みなさい……
「ふわぁ、よく寝た……ってブラックちゃん、起きるの早いねー」
「ほんとだー。あたしたちよりも早いー」
「何でそんなに早く起きれるの?」
「……ベッドから落とされたからですよ」
次の日の朝。
私ただ一人がベッドから叩き落されたため、早く起きてしまったのだった。
シエラ、リマの二人はそこまで問題ないとして、姉さんは……寝相悪すぎです。
「ベッドから落ちたの? ブラックちゃんったらドジっ子ねぇ」
姉さんのその言葉にはもう怒る気すらしませんよ……はぁ。
「落ちたくて落ちたんじゃないと思うなぁ……」
「ホワイトの寝相って昔から悪かったしねぇ……」
二人の言うとおり。昔から姉さんは寝相が悪いのよ。
今でも二人で寝てると姉さんの拳が顔に直撃してたりとか、お腹の上に姉さんの足があったりとか……
「あ、あはは、あは……」
二人にそう言われて苦笑するほかない姉さんであった。
「ま、それは置いておいて……昨日の雨が嘘のように晴れたねぇ」
「ええ、ほんとほんと。これで二人とも帰れるわね」
「うん! 二人とお別れするのはちょっと寂しいけどね」
私も二人とお別れするのは寂しく感じる。
でも仕事もあるし、しょうがないか。
「それじゃ、今借りてる二人の服は今度洗って返すからねー」
「うん、返すのはいつでもいいからね」
「はーい」
そんな三人のやり取りを、目蓋を擦りながら見つめる。
「じゃ、私たちはそろそろ帰るよ」
「あれ、朝食はいいの?」
「うん、この時間帯だと咲夜さんが準備してくれてそうだし」
「そうなんだー」
「あ、メイド服忘れないでよー」
二人とも忘れそうになってたので、私が声をかける。
「あ、危ない危ない。乾かしてたのすっかり忘れてた」
「うへぇ、やっぱり雨で濡れたまま部屋干ししたから嫌な匂いするー」
「帰ったらまた洗わないとねぇ」
あー、部屋干しだとやっぱり嫌な匂いするよね。
それに洗濯したわけじゃないから更に嫌な匂いが……
「着替えないでその服着たまま帰れば?」
「あ、それいいね。咲夜さんとかびっくりするかも」
「注目度も抜群だと思うよー」
姉さんの提案にノリノリの二人。
確かに注目はされそう。
「それじゃ、着たまま帰ることにしよっと」
「うん、それがいいよー。じゃ、これでお別れだねー」
「だねー。今度は紅魔館にも遊びに来てねー」
「うん、考えとく」
姉さんの言うとおり、今度は紅魔館に遊びに行くのも悪くないかも。
レミリアさんやフランちゃんとも色々お話したいし、図書館で本も借りたいし。
「じゃ、さよなら! 泊めてくれてありがとね!」
「さよならー!」
そう言い残して、二人は家を後にした。
残されたのはにこにこと笑う姉さんと、寝ぼけ眼を擦る私のみ。
騒がしくて大変だったけど……楽しかったな。
また今度皆を誘ってお泊り会っていうのも悪くなさそう。
「また静かになりましたね」
「そうねぇ……」
その言葉を最後にしばらく沈黙に包まれていたが、姉さんが口を開いた。
「ねぇ……もう一眠りする? 実を言うと私もちょっと眠くて、ね」
「それは別にいいですけれど……またベッドから叩き落とされるのは御免ですよ?」
「う、うん、気をつける……」
私はその答えに苦笑してしまう。
「じゃ、寝直しましょうか」
「うん!」
にっこりと頷く姉さんの手を取って、私は寝室へ向かう。
「紅魔館に帰ったら、こんな風に二人も咲夜さん、美鈴さんと寝るのかな」
なんてことを考えながら、私は寝室のドアを閉じるのであった。
いやぁ、何も起こらない、って最高ですね!
妖精メイドも可愛いし妖精メイドがお泊りするのにドキドキワクワクしちゃうブラックちゃんも可愛い
妖精可愛い
ただ、リマの方はちょっと設定を忘れていました。
シエラが総愛されなのでもし誰かにぴちゅらされたら、色んな所から報復が来そうですねw
ゆるゆるな日常の一幕という印象であっさりながらも読後感良く読み終えることが出来ました。
ただ、ジュリ、シャーリーなども見て思うのが登場する妖精が姿と好きな人で記号化されていて、
性格がみんなほわわん一色みたいな気がするのがマイナス点。
こうしてSSになるとまた一層いいですねぇ~
続き物なんですかね?
他の作品も読んでみようかなぁ。
まったり感、ほのぼの感というのは自分が作品を書く上で最も重視していることなので、それを感じていただければ嬉しいですね。
それと登場する妖精がほとんど同じような性格、というのは自分でも少し感じているので、もうちょっと差別化できるように考えたいと思います。
皆様のコメントがいつも私の原動力です。重ねて御礼を申し上げます。
次回もどうかよろしくお願いいたします!