ザッザッザ。ザッザッザ。
私は今と変わらず神社の境内を掃除していた。昔も今も掃除して、お賽銭箱の確認をして、お茶を飲んで……全く変わらないなと言われるけれど自分でもそう思う。
「ふう……」
掃除の手を止め、深く呼吸をする。掃除を切り上げてお茶を飲もうか、それとも備蓄の確認でもしようか……そう考えているときだった。
カツン。
境内の入り口の方で足音が聞こえた。彼はいつも声をかける前にこの仕草をする。もうこの音だけで誰が来たかわかってしまった。
私は振り向き、その来客を迎える。
「いらっしゃい、りんのすけさん」
「やあ霊夢、また来させてもらったよ」
「ゆっくりしていってね!」
「ああ」
そうして霖之助さんは私の頭を撫で、私は目を細めてそれを受け入れていた。
彼は昔からずうっと私と共に在ったのだった。
私たちは神社の居住区へ移り、縁側に腰掛けていた。
「はい、これ」
「あら?これなに?」
「里で買ってきた羊羹さ、お茶受けにはぴったりだろう?あと差し入れ。そろそろ備蓄が切れそうなんじゃないかな、と」
「そうね、ありがとうりんのすけさん」
「どういたしまして」
確か霖之助さんはいつもお茶菓子や食糧を持ってきてくれた。それに礼を言ったら里までの距離もあるしあまり重い物は持てないだろうからね、気にするなと言われたのだった。子ども扱いされていると感じたが、嬉しくもあったのでその時は上等のお茶を出してあげた。
「お茶がはいったわよ」
「ああ、ありがとう霊夢。ではいただきます」
私と霖之助さんはお茶を飲んでいた。霖之助さんは淹れたてをゆっくりと。私は……
「ふっーッ、ふっーッ」
「ははは、なんだ霊夢まだ猫舌克服出来てなかったのかい」
「うるさいわね……あちっ」
霖之助さんは私が一生懸命お茶を冷ましているのを見ては笑っていた。私をそれを見て悔しくて、霖之助さんのようにぐっと飲もうとして舌と唇をやけどして涙目になるのがいつもだった。
「ほら、冷めるまで羊羹でも食べているといい。美味いと評判でね」
「……わかったわ。いただきます」
霖之助さんは持ってきた羊羹を幾つか切って差し出してきた。もちろん私の方を多く切ってある。私が好きな物はいつもそうしてくれるのだった。
私は羊羹を小さく切って口に運ぶ。
「……うん、おいしいわ」
「そいつは重畳」
私が美味しいと言うと霖之助さんは満足そうにうなずいていた。
そして霖之助さんも羊羹を食べてお茶をすすっている。
「………」
「………」
しばらく私たちは黙ってお茶を飲み、羊羹をつまんでいた。私は霖之助さんの方をそっと見てみると霖之助さんは考え事をしているようで空を眺めて小さく溜息をついていた。
私はその横顔を眺めつつゆったりとその時間を過ごしていた。
たまに流れるこんなのんびりとした時間を私はとても気に入っている。おそらく霖之助さんもそうだろう。
「さて……そろそろ始めるとしようか」
「?なにをするの?」
霖之助さんは伸びをして立ち上がり、私のほうを見て片眉をあげて見せた。
「何って……忘れたのかい?今日は蔵の掃除をしに来たんじゃないか」
「?……ああ、そうだったわね。わすれてたわ」
「忘れてたって……」
霖之助さんは呆れたと言うような顔をしていた。しかし仕方のない事だと思う。私からすれば霖之助さんが来てくれるという事はとてもうれしい事なのだから。
「まあいいじゃないそんなこと」
「……まあいい。じゃあ蔵に行こうか」
「あ……まって」
「ん?……ああ。急がなくていいよ、のんびり飲んでくれ」
「ん……」
私がまだお茶を飲み切っていないのを見て腰を下ろして待っていてくれていた。
急がなくていいと言ってくれたけれど霖之助さんを待たせるのが嫌でお茶を慌てて飲んだ。
「……んぐっ!?ゲホッゲホッ!」
「どうしたんだい!?むせたのか?慌てて飲むから……」
確かそうして私はむせてしまったのだった。咳き込んでいた私の背中を霖之助さんは優しくさすってくれていた。私が落ち着くまでずっと、少し心配そうな顔をして、優しく。
「ん……ふぅ……」
「……落ち着いたかい?」
「ええ。もうだいじょうぶよ」
「そうか、それじゃ蔵に行こうか。時間かかるだろうからね」
「はーい」
落ち着いたら私は霖之助さんと手をつなぎ、蔵に向かって歩き出した。歩いている間私たちは無言で歩いていた。時折私が手を強くきゅっと握ると霖之助さんもそっと握り返してくれた。それだけで十分だった。
「さて……ついたか……」
「ううん……ここはほこりっぽいからいやねぇ」
「霊夢……まあいいか……入り口のとこで見ててくれ。どれを整理していいのか聞くから」
「うん、おねがいね?霖之助さん」
「お任せあれ」
霖之助さんは軽く手を振って蔵の中に入って整理を始めた。混沌としていた蔵の中が手際よく綺麗に整理されていく。
「おみせもそうしたらいいのに」
「……ノーコメントだ」
その後霖之助さんはじっくりと整理を続けた。私では運べない重い物や大きなものを中心に片づけていく。
「霊夢」
「なに?」
「この白い粉は……」
「ハッピー○ーンのこなよ」
「いや、それはわかるんだが……何であるんだ」
「さとのおじさんがわけてくれたのよ」
「ほう……で、なぜ蔵に?」
「おおかったし……ほぞんがきくっていうから」
「………そうなのか………」
霖之助さんは溜息をついてその白い粉を意識から外した。
「霊夢、この社長砲はどうする?」
「あー……はじっこにおいといて」
「ん」
「霊夢、この探すものの大剣はどうする?」
「りんのすけさんにあげるわ」
「そうかい?ありがとう」
それからしばらくして大体の整理が終わった。霖之助さんは少し疲れた様子で伸びをし、足元に置いてある書物を手に取った。
「んー、大体終わったかな」
「ありがとうりんのすけさん!」
「ああ、大したことは無いさ。ただ……」
「ただ?」
「ココの蔵は武器庫か何かなのか?8割が武具の類だったけど……」
霖之助さんは半ば感心した様子だった。おそらく蒐集家として興味深いものがあったのだろう。ここは代々の巫女のコレクションが納められているから当然だが。
「せんせんだいのコレクションじゃないかしら?」
「……そうか」
どういう事だ、と言わんばかりの顔をしていた。
「じゃあ今回はこれを見させてもらうよ。確認してくれ」
「えーと……いいわ。ごじゆうに」
「ありがとう。さ、戻ろうか」
「うん!」
そうして私たちは境内へ戻った。手を繋ぎ、とりとめのない話をしつつ、のんびりと。
境内に着いて、私はまたお茶を入れ、霖之助さんは蔵から持ってきた書物を読んでいた。
確か昔は蔵の掃除を頼む代わりに納められた書物を見てもいいとしていたんだった。
秘密のものだろうにいいのか、と聞かれたが私一人では読まないし霖之助さんなら構わないだろうと思う。
「はい、お茶」
「ああ、ありがとう」
私は霖之助さんの隣に腰を下ろし、のんびりと空を眺めていた。霖之助さんは時折お茶を飲みつつ、黙って書物に目を通していた。
それからしばらく空を眺めていたのだがふと眠くなってきてしまったのだった。
「ん……」
「………?」
眠気に耐え切れず霖之助さんにもたれかかってしまった。しかし霖之助さんは何も言わず体を動かして膝枕をしてくれた。
男の人らしく固い太腿の感触が頬から感じられた。
「(かたいけど……あったかい……あ……タバコのにおいが……)」
眠かった上に遠い記憶なのであまり覚えていないが……あのときの暖かさとタバコの匂いは鮮明に思い出せる。
霖之助さんは私に上着を掛けてそばにあったお茶を遠ざけた。おそらく倒してしまわないようにしたのだろう。
掛けられた上着からもタバコの匂いがして、私を落ち着かせ深い眠りへと誘っていった。
「おやすみ」
「うん……おやすみ……おとーさん……」
最後に言ってしまった事は聞こえていなかったみたいだったので助かった。
それよりも、霖之助さんに包まれたような感じがして凄く幸せだった。
「霊夢?どうしたんだい」
ハッとして顔を上げる。すると霖之助さんがこちらを覗き込んでいた。そういえばお茶を飲んでいるときに思い返していたのだが随分長く思い返していたみたいだ。
「別に……ちょっと昔の事を思い出してただけよ」
「……ああ、懐かしいね。確か昔は僕も神社に足を運んでいたね」
「そうそう、今ほどものぐさでも無かったわよね」
「ふん、今はあまり出る必要が無くなったからね」
霖之助さんは苦笑し、懐かしいなとつぶやいた。
「また昔みたいにうちに遊びにきたら?歓迎するわよ?」
「うーん……それもいいんだがいかんせん遠いからなぁ」
「そう……」
まあ、期待はしてなかったけど。
私は予想通りな返答を聞きつつお茶を飲んだ。
うん、やっぱりここのお茶は美味しいわね。
「そういえば猫舌はいつの間にか克服したみたいだね」
「当然よ、お茶は熱いうちが一番美味しいもの。頑張ったのよ」
私だっていつまでも子どもではないという事なのだ。
「昔はよく掃除しに行ったり差し入れしたりしたね」
「ええ、ホントに助かったわ」
「それなら良かったよ」
肩を竦めてふっと笑った。
そんな仕草は昔と変わらないな、と思い変わらない事に少し嬉しさを覚えた。
「霖之助さんは変わらないわね」
「半妖だからね。あんまり変わらないものさ」
「まあそうなのかしら」
「そうさ」
大きく頷いている霖之助さん。「あんまり」というのは半妖故だろうか。
「君こそ昔と変わらないな」
「そう?」
「そうだよ。やっていることも昔と変わってないじゃないか」
「う……そうだけど……変わった事もあるのよ?」
「そうなのかい?」
そう、確かに私もあんまり変わってはいないけれど……確かに変わった事もあるのだ。
例えば……霖之助さんへの気持ちとか……ね?
私は霖之助さんの隣へ座り、彼にもたれかかった。
「っと……どうしたんだい?急に」
「なんとなく、ね」
「……そうかい」
仕方ないな、と小さく溜息をついて昔のように受け止めてくれている。
私は霖之助さんの肩に顔を寄せ、深く息を吸い込んだ。昔のように落ち着くタバコの匂いがした。
「くすぐったいよ」
「あら、ごめんね」
そんな風に軽く口では止めるのに結局そのままにしてくれている。
やさしいのよね、なら私が甘えてしまうのも仕方ないわよね。
霖之助さんは大切な、大切な私だけの人だから……
「ねえ……お父さん?」
私は今と変わらず神社の境内を掃除していた。昔も今も掃除して、お賽銭箱の確認をして、お茶を飲んで……全く変わらないなと言われるけれど自分でもそう思う。
「ふう……」
掃除の手を止め、深く呼吸をする。掃除を切り上げてお茶を飲もうか、それとも備蓄の確認でもしようか……そう考えているときだった。
カツン。
境内の入り口の方で足音が聞こえた。彼はいつも声をかける前にこの仕草をする。もうこの音だけで誰が来たかわかってしまった。
私は振り向き、その来客を迎える。
「いらっしゃい、りんのすけさん」
「やあ霊夢、また来させてもらったよ」
「ゆっくりしていってね!」
「ああ」
そうして霖之助さんは私の頭を撫で、私は目を細めてそれを受け入れていた。
彼は昔からずうっと私と共に在ったのだった。
私たちは神社の居住区へ移り、縁側に腰掛けていた。
「はい、これ」
「あら?これなに?」
「里で買ってきた羊羹さ、お茶受けにはぴったりだろう?あと差し入れ。そろそろ備蓄が切れそうなんじゃないかな、と」
「そうね、ありがとうりんのすけさん」
「どういたしまして」
確か霖之助さんはいつもお茶菓子や食糧を持ってきてくれた。それに礼を言ったら里までの距離もあるしあまり重い物は持てないだろうからね、気にするなと言われたのだった。子ども扱いされていると感じたが、嬉しくもあったのでその時は上等のお茶を出してあげた。
「お茶がはいったわよ」
「ああ、ありがとう霊夢。ではいただきます」
私と霖之助さんはお茶を飲んでいた。霖之助さんは淹れたてをゆっくりと。私は……
「ふっーッ、ふっーッ」
「ははは、なんだ霊夢まだ猫舌克服出来てなかったのかい」
「うるさいわね……あちっ」
霖之助さんは私が一生懸命お茶を冷ましているのを見ては笑っていた。私をそれを見て悔しくて、霖之助さんのようにぐっと飲もうとして舌と唇をやけどして涙目になるのがいつもだった。
「ほら、冷めるまで羊羹でも食べているといい。美味いと評判でね」
「……わかったわ。いただきます」
霖之助さんは持ってきた羊羹を幾つか切って差し出してきた。もちろん私の方を多く切ってある。私が好きな物はいつもそうしてくれるのだった。
私は羊羹を小さく切って口に運ぶ。
「……うん、おいしいわ」
「そいつは重畳」
私が美味しいと言うと霖之助さんは満足そうにうなずいていた。
そして霖之助さんも羊羹を食べてお茶をすすっている。
「………」
「………」
しばらく私たちは黙ってお茶を飲み、羊羹をつまんでいた。私は霖之助さんの方をそっと見てみると霖之助さんは考え事をしているようで空を眺めて小さく溜息をついていた。
私はその横顔を眺めつつゆったりとその時間を過ごしていた。
たまに流れるこんなのんびりとした時間を私はとても気に入っている。おそらく霖之助さんもそうだろう。
「さて……そろそろ始めるとしようか」
「?なにをするの?」
霖之助さんは伸びをして立ち上がり、私のほうを見て片眉をあげて見せた。
「何って……忘れたのかい?今日は蔵の掃除をしに来たんじゃないか」
「?……ああ、そうだったわね。わすれてたわ」
「忘れてたって……」
霖之助さんは呆れたと言うような顔をしていた。しかし仕方のない事だと思う。私からすれば霖之助さんが来てくれるという事はとてもうれしい事なのだから。
「まあいいじゃないそんなこと」
「……まあいい。じゃあ蔵に行こうか」
「あ……まって」
「ん?……ああ。急がなくていいよ、のんびり飲んでくれ」
「ん……」
私がまだお茶を飲み切っていないのを見て腰を下ろして待っていてくれていた。
急がなくていいと言ってくれたけれど霖之助さんを待たせるのが嫌でお茶を慌てて飲んだ。
「……んぐっ!?ゲホッゲホッ!」
「どうしたんだい!?むせたのか?慌てて飲むから……」
確かそうして私はむせてしまったのだった。咳き込んでいた私の背中を霖之助さんは優しくさすってくれていた。私が落ち着くまでずっと、少し心配そうな顔をして、優しく。
「ん……ふぅ……」
「……落ち着いたかい?」
「ええ。もうだいじょうぶよ」
「そうか、それじゃ蔵に行こうか。時間かかるだろうからね」
「はーい」
落ち着いたら私は霖之助さんと手をつなぎ、蔵に向かって歩き出した。歩いている間私たちは無言で歩いていた。時折私が手を強くきゅっと握ると霖之助さんもそっと握り返してくれた。それだけで十分だった。
「さて……ついたか……」
「ううん……ここはほこりっぽいからいやねぇ」
「霊夢……まあいいか……入り口のとこで見ててくれ。どれを整理していいのか聞くから」
「うん、おねがいね?霖之助さん」
「お任せあれ」
霖之助さんは軽く手を振って蔵の中に入って整理を始めた。混沌としていた蔵の中が手際よく綺麗に整理されていく。
「おみせもそうしたらいいのに」
「……ノーコメントだ」
その後霖之助さんはじっくりと整理を続けた。私では運べない重い物や大きなものを中心に片づけていく。
「霊夢」
「なに?」
「この白い粉は……」
「ハッピー○ーンのこなよ」
「いや、それはわかるんだが……何であるんだ」
「さとのおじさんがわけてくれたのよ」
「ほう……で、なぜ蔵に?」
「おおかったし……ほぞんがきくっていうから」
「………そうなのか………」
霖之助さんは溜息をついてその白い粉を意識から外した。
「霊夢、この社長砲はどうする?」
「あー……はじっこにおいといて」
「ん」
「霊夢、この探すものの大剣はどうする?」
「りんのすけさんにあげるわ」
「そうかい?ありがとう」
それからしばらくして大体の整理が終わった。霖之助さんは少し疲れた様子で伸びをし、足元に置いてある書物を手に取った。
「んー、大体終わったかな」
「ありがとうりんのすけさん!」
「ああ、大したことは無いさ。ただ……」
「ただ?」
「ココの蔵は武器庫か何かなのか?8割が武具の類だったけど……」
霖之助さんは半ば感心した様子だった。おそらく蒐集家として興味深いものがあったのだろう。ここは代々の巫女のコレクションが納められているから当然だが。
「せんせんだいのコレクションじゃないかしら?」
「……そうか」
どういう事だ、と言わんばかりの顔をしていた。
「じゃあ今回はこれを見させてもらうよ。確認してくれ」
「えーと……いいわ。ごじゆうに」
「ありがとう。さ、戻ろうか」
「うん!」
そうして私たちは境内へ戻った。手を繋ぎ、とりとめのない話をしつつ、のんびりと。
境内に着いて、私はまたお茶を入れ、霖之助さんは蔵から持ってきた書物を読んでいた。
確か昔は蔵の掃除を頼む代わりに納められた書物を見てもいいとしていたんだった。
秘密のものだろうにいいのか、と聞かれたが私一人では読まないし霖之助さんなら構わないだろうと思う。
「はい、お茶」
「ああ、ありがとう」
私は霖之助さんの隣に腰を下ろし、のんびりと空を眺めていた。霖之助さんは時折お茶を飲みつつ、黙って書物に目を通していた。
それからしばらく空を眺めていたのだがふと眠くなってきてしまったのだった。
「ん……」
「………?」
眠気に耐え切れず霖之助さんにもたれかかってしまった。しかし霖之助さんは何も言わず体を動かして膝枕をしてくれた。
男の人らしく固い太腿の感触が頬から感じられた。
「(かたいけど……あったかい……あ……タバコのにおいが……)」
眠かった上に遠い記憶なのであまり覚えていないが……あのときの暖かさとタバコの匂いは鮮明に思い出せる。
霖之助さんは私に上着を掛けてそばにあったお茶を遠ざけた。おそらく倒してしまわないようにしたのだろう。
掛けられた上着からもタバコの匂いがして、私を落ち着かせ深い眠りへと誘っていった。
「おやすみ」
「うん……おやすみ……おとーさん……」
最後に言ってしまった事は聞こえていなかったみたいだったので助かった。
それよりも、霖之助さんに包まれたような感じがして凄く幸せだった。
「霊夢?どうしたんだい」
ハッとして顔を上げる。すると霖之助さんがこちらを覗き込んでいた。そういえばお茶を飲んでいるときに思い返していたのだが随分長く思い返していたみたいだ。
「別に……ちょっと昔の事を思い出してただけよ」
「……ああ、懐かしいね。確か昔は僕も神社に足を運んでいたね」
「そうそう、今ほどものぐさでも無かったわよね」
「ふん、今はあまり出る必要が無くなったからね」
霖之助さんは苦笑し、懐かしいなとつぶやいた。
「また昔みたいにうちに遊びにきたら?歓迎するわよ?」
「うーん……それもいいんだがいかんせん遠いからなぁ」
「そう……」
まあ、期待はしてなかったけど。
私は予想通りな返答を聞きつつお茶を飲んだ。
うん、やっぱりここのお茶は美味しいわね。
「そういえば猫舌はいつの間にか克服したみたいだね」
「当然よ、お茶は熱いうちが一番美味しいもの。頑張ったのよ」
私だっていつまでも子どもではないという事なのだ。
「昔はよく掃除しに行ったり差し入れしたりしたね」
「ええ、ホントに助かったわ」
「それなら良かったよ」
肩を竦めてふっと笑った。
そんな仕草は昔と変わらないな、と思い変わらない事に少し嬉しさを覚えた。
「霖之助さんは変わらないわね」
「半妖だからね。あんまり変わらないものさ」
「まあそうなのかしら」
「そうさ」
大きく頷いている霖之助さん。「あんまり」というのは半妖故だろうか。
「君こそ昔と変わらないな」
「そう?」
「そうだよ。やっていることも昔と変わってないじゃないか」
「う……そうだけど……変わった事もあるのよ?」
「そうなのかい?」
そう、確かに私もあんまり変わってはいないけれど……確かに変わった事もあるのだ。
例えば……霖之助さんへの気持ちとか……ね?
私は霖之助さんの隣へ座り、彼にもたれかかった。
「っと……どうしたんだい?急に」
「なんとなく、ね」
「……そうかい」
仕方ないな、と小さく溜息をついて昔のように受け止めてくれている。
私は霖之助さんの肩に顔を寄せ、深く息を吸い込んだ。昔のように落ち着くタバコの匂いがした。
「くすぐったいよ」
「あら、ごめんね」
そんな風に軽く口では止めるのに結局そのままにしてくれている。
やさしいのよね、なら私が甘えてしまうのも仕方ないわよね。
霖之助さんは大切な、大切な私だけの人だから……
「ねえ……お父さん?」
呼び方が変わるのっててっきりそう言う演出かと。
ところで、先々代ってトマスさんか何かですか?
蒐集品に節操が無さ過ぎだろう。
では、返信です。
2番様
確かに霊夢はクールなイメージが強いですが……きっと近しい人には甘えてしまうタイプだと思います。
そこいらが合わなかったか、僕の表現が悪かったんでしょうね。すみません。
4番様
そんなw自然に読んでくれて構いませんよww
あと先先代はトマスさんの娘がもし生きていて幻想郷に招かれていたら……というのはどうでしょう?
ナギサ様
ありがとうございます!
9番様
わっふるわっふる!
10番様
で す よ ね
18番様
わかりましたww