Coolier - 新生・東方創想話

春を告げる妖精さん(黒い方)

2012/06/08 18:30:52
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「あ、春の妖精さん!」
後ろからかけられた声に振り返る。
そこには少女が立っていて、私を指差して笑顔になっている。
私は少女に近付いて、その無防備な頭を軽く叩いた。
「ごめんね、私はあの子じゃないの」
「え?でもそっくりだよ?」
「うん。だけどね……」
一旦言葉を区切る。
「私は、あんなに綺麗に笑えないから」















「ブラック、どこ行ってたんですかー?」
「別に。散歩」
「だったら私も連れていって下さいよー?」
「ホワイトは人気者だから、一緒に歩いてると疲れる」
私の言葉にホワイトは唇を尖らせた。
「ぶー、いいじゃないですかー」
「別に悪いとは言ってない」
その言葉にさらに唇を尖らせる。
「ほら、春を伝えに行くんでしょ?」
「むぅ……そうでしたね……。行きましょーブラック」
「分かってる」
「もう、素直に返事してくれてもいいじゃないですかー」





「春ですよー!」
ホワイトは両手を広げて、楽しそうに叫んでいる。
「ホワイト、次は人間の里」
「オッケーですー」
分かっているはずなのだが、ホワイトはきちんと返事をする。
実際、春を告げるのに私は必要無い。
ホワイト程では無いが、私だって春を訪れさせる事は出来る。
しかし、ホワイトだけで充分だし、本人が楽しそう。そして何より私が「春ですよー!」と言うのが恥ずかしいからやりたくない。
私達が通った後は雪が溶け、着々と春が訪れている。
「春ですよー!」
人間の里の上空。ホワイトが叫ぶのを人々は見上げている。
ホワイトの力で雪は溶け、人々からは歓声が上がった。
その人々の中にホワイトは笑顔で降りていき、私も続く。
「リリーちゃん、いつもご苦労様ねぇ」
近くにいた老婆が笑顔で言う。
「いえいえ、お仕事ですからー」
ホワイトもにぱっと笑う。
「そっちのリリーちゃんも、ありがとね」
一瞬誰の事だと考え、あぁ、私か。と理解する。
「私は別に……」
「ブラック、ありがとうと言われたら?」
私の顔を覗き込むホワイトの表情は、小突いてやりたくなるようなものだ。
「……どういたしまして」
「うんうん、それですー」
自分もいえいえとか言ってた癖に……。
そう言いたいのを堪えていると、男性が近付いてきた。
「リリーちゃん、うちで少し休憩していかないかい?うちの娘がリリーちゃんに会いたいって言うんだよ」
雪は溶けていると言っても、まだ寒い。男性の口からは白い息が出て、風に流される。
「はいー、ぜひぜひー。ついでにお茶とか出してくれると嬉しいですー」
ホワイトの言葉に男性は愉快そうに笑った。
「流石リリーちゃん、遠慮が全く無いね。分かった分かった、出来る限りもてなすよ。可愛らしい春の妖精さん二人を」
「え?私も?」
「当然ですよー。この寒空の下にブラックを放置しておく訳にはいきませんー」
ホワイトが言う所じゃない気がする……。
「ま、そういう事だ。頼むよ、娘に少し話聞かせてやってくれ」
「……分かりました」
「レッツゴー!」
だからホワイトが言う所じゃないって。





「あ、妖精さん!」
案内された家の中、そう言って駆け寄ってきたのは先程会った少女
「来てくれたんだ!」
「ブラック、知り合いですかー?」
「ちょっとね……」
少女は私とホワイトの周りをはしゃぎながら駆け回る。
「すまないね、この通り元気な娘で……」
「元気なのは良いことですよー」
そう言うホワイトは少女と一緒に私の周りを駆け回る。
「妖精さん、また会えて嬉しいよ!」
少女は私に飛び付いてきた。
倒れそうになるが、なんとかこらえる。
「ブラック可愛いですー」
続いてホワイトが抱き着いてくる。
「両手に花だな」
倒れないように踏ん張っていると、後ろから声が聞こえた。
それから声の主は歩いて私の前に立つ。
「先生。いらっしゃい」
男性が愛想よく笑う。
「いえ、少し失礼するよ」
「あ、先生!」
「慧音さん!お久しぶりですー」
私にくっつく二人は元気に挨拶する。私の耳元で。
「ああ。リリーが来ていると聞いて、久しぶりに顔が見たくなってな」
慧音は微笑を浮かべると私の方を見る。
「元気そうだな」
「……おかげさまで」
「そうむくれるな。せっかくの可愛い顔が台無しだぞ」
「なっ……」
何か言葉を続けようとしたが、何も出て来なくて黙ってしまう。
「妖精さん、顔真っ赤だよ?」
「ブラックはピュアですねー」
「……うるさい」
私はホワイトと違い、人との交流が少ないのだ。
だからそれがお世辞や冗談だと分かっていても、褒められたりけなされたりするのは苦手。
「ブラック」
「……何?」
「照れた顔も可愛いですよー」
「っ!……う、うるさい!改まって言うな!」
にたにたと憎たらしい笑みを浮かべるホワイトの頬を思いっ切り引っ張る。
「い、いひゃひゃ!いひゃいれす、ふりゃっく~……いひゃい、いひゃい~!」
「反省しろ」
「黒い妖精さんと白い妖精さんは仲良しなんだね」
「そうですよー、ブラックと私は将来を誓い合った仲……いたたたたたた!」
私の手から逃れ、好き勝手言おうとするホワイトの背中をつねる。
本当に少し黙っていてくれないだろうか。
「あはは、仲良しだー」
「相変わらず良いコンビだな」
少女と慧音の言葉に私は心外だと反論しようとするが、再び私の手から逃れたホワイトが目の前に立つ。
「そうですよねー、今度二人で漫才でもやろうと思っ……でぇ!」
またまた適当なことを言いはじめるホワイトにバックドロップを決める。
「……これ、リリーちゃん大丈夫かい?」
慧音、少女、少女の父親が動かなくなったホワイトを見る。
「白い妖精さん、大丈夫なの?」
「大丈夫。すぐに動き出す」
言ってる間にホワイトはもぞもぞと動きはじめた。
「ブラックのツッコミは激しすぎますねー、これじゃ漫才は無理……いや、あえて私がツッコミでブラックがボケなのはどうでしょ、う゛ッ!」
懲りずに勝手なことを言いながら、頭をさすり立ち上がったホワイトに再びバックドロップを決める。
「「「………………」」」
一瞬で先程と同じような空気になる。
駄目だ、これ以上ここにいるとホワイトが少女に悪影響を及ぼしてしまう。
「ホワイト、今日は遅いからそろそろ帰るよ」
「う~……もう動けませんよ~。ブラック、おんぶしてください~」
効いてんだか効いてないんだかよく分からない回復の速さだけどね。
「分かったから、帰るよ」
「わ~い、分かりました。それじゃ、お邪魔しました~」
ホワイトは早々と私の背中に飛び乗ると、そこから手を振る。
「リリーちゃん、良かったらまた二人で来てくれよ」
「うん!今度一緒に遊ぼう!」
「はいー!お仕事が終わったら遊びましょー!」
普段からはしゃぎっぱなしだが、律儀に仕事をこなす辺りだけは流石だと思う。
年に一度の仕事、少しでも早く人々に春を届けたいといつも考えているのだろう。
「今度寺子屋の方にもどうだ?生徒も募集中だぞ」
「ホワイト、少し頭に何か詰め込んだ方が良いんじゃない?」
「いやー、もうブラックへの思いでいっぱいいっぱいですよー」
そう言ってえへへと笑う。
「やっぱり何か詰め込んだ方が良いね。耳から土でも入れる?」
「ブラックが入れてくれるなら……」
「…………」
「あれ?ちょっとドン引きしないでくださいよー!」
後ろから私の肩を揺するホワイトを無視し、慧音と少女とその父親に頭を下げ、私は飛び立つ。
「ブラックー」
「なに?」
「今日の晩ごはんはステーキがいいですー」
「却下、ド却下」
「むー」と言いながら唇を尖らせるホワイトを背負い、春が迫りつつある幻想郷の空を飛ぶ。










「あ、妖精さんだ」
「また来ちゃった」
そう言って私は微笑もうとしたが、上手く出来なかった。だけども少女は私のいびつな表情をきちんと理解し、満面の笑みを浮かべてくれる。よく出来た子だ。仕事もしない私とは大違い。
「夕方のお散歩?」
「えぇ……いつもホワイトと一緒にいると、定期的に一人になりたくなるの」
「ならもしかして、私お邪魔だった?」
気を使わせてしまったようだ。
「ううん、むしろ私とちょっとお話してくれる?」
「うん!」
少女は頷くと私の隣で地べたに腰掛けた。私は服が汚れるかと一瞬躊躇したが、このくらい気にしてても仕方ないだろうと思い、少女と並んで腰掛けた。
「妖精さんはさー」
「うん、何?」
「お花好き?」
突然の質問。私は返答に詰まってしまう。
「どうしたの?」
さらに少女の無垢な表情に見つめられ、これで答えないのは心苦しく思えてしまう。
だから私は
「その…………す、好きだけど」
ぼそぼそっと答えた。正直に答えただけ良いはずだ、多分。
「そっかぁ、嬉しいな。私も好きなの、お花」
「……馬鹿にしないの?」
「ん?何を?」
「普段こんな態度取ってる私が……お花を好きだってこと」
少女は純粋に不思議そうに首を傾げた。
「どうして馬鹿にするの?」
「だって……」
「妖精さんだって女の子なんだし、私はお花好きで良いと思うよ」
「そ、そう?……ありがと」
少女の無垢な笑み。
こんな心優しい少女が私を馬鹿にするはずがない。私はその可能性を考えていた自分を恥じた。
「そうだ、妖精さん。いくつか質問していい?」
「え?あ、うん、構わない」
「じゃあ、好きな食べ物は?」
「お寿司とハンバーグ」
「逆に嫌いな食べ物は?」
「苦いもの。あとごぼう他多数」
「趣味は?」
「最近は、園芸」
「妖精さんも、私達と変わんない女の子なんだね」
「なっ……!」
少女のにぱーっとした笑み。
ホワイトもこんな顔をよくするが、何の表情なんだそれは。
「あ、照れてる?」
「……多少は」
「ちゃんと認めるんだ。可愛いね!」
この少女は、私の初対面の印象より大分大人びているのかもしれない。
少なくとも、ホワイトの数倍は。
「そうだ、妖精さん」
「……なに?」
「このお花、あげるよ」
少女はいつの間に手にしていたのか、それとも最初から持っていたのか、白い花を持っていた。
「どうしたの、それ」
「えっとね、妖精さん……あ、白い方の妖精さんね。そっちの妖精さんが春を運んできてくれたから、私のお家の裏にぶわーって、沢山咲いたの!だから妖精さんにもおすそ分け!」
笑顔の少女から花を受け取る。まだ寒さが残る気候の為か、白くて華奢だが、確かな可憐さを感じるその花はまるでホワイトのようだ。いや、決してホワイトが可憐とか言ってる訳ではなく……。
「妖精さん、何で複雑な顔してるの?」
「いや、ちょっと馬鹿みたいなことを考えてて……」
「そう?」と首を傾げた少女に苦笑い(のつもり)をしながら頷き、軽く頭を撫でてあげた。
少女は気持ち良さそうに目を細め、微笑んだ。ホワイトも撫でてやるとこんな風になるな、と心の内で思う。さっきから脳裏にちらちらとホワイトがよぎる。だけど、いつも一緒だと疲れるが、いざ一緒じゃないと寂しいだなんて微塵も思っている訳じゃない。
「妖精さん、なんかまた複雑な顔」
「……ホワイトめ」
「えっ?」
「いや……なんでもない」
少女は不思議そうに首を傾げるが、これはなんか説明したくなかった。
そんなことは置いておき、私は手に持った花を眺める。
「それにしても、可愛らしい花」
「そうでしょ!でも、お家の近くにはこの花しか咲いてないの……。もっと他の花も見たいなー」
確かに周囲を見渡しても、小さなこの花がぽつぽつと咲いていなろう。
ホワイトの力なら、すぐに花が咲き乱れるような春真っ盛りにすることが出来るが、そうしてしまうと妖怪や妖精などよりデリケートな人間は急激な気温の変化に耐えられずに体調を崩してしまう。
そうならない為にも、人間の里周辺は少しずつ春に近付いていくようにホワイトが調整している。
いっつも馬鹿みたいなホワイトだが、仕事への責任感はとても強い。だからこそ人々に慕われるのだろう。
「もう少しすれば、色々な花が咲く」
「でもぽかぽかになると、お家のお手伝いとか寺子屋とか忙しくなっちゃうの」
「そっか……」
「ねぇ妖精さん、どこかたくさんお花見れる場所知らない?」
私は腕を組み少し考える。腕を組むのはホワイトから可愛くないので止めた方がいいと言われてるのだが……。いや、こんなことはどうでもいいんだ。さっきから私の思考を妨げてくる。おのれホワイト。
「あ」
「何か思い付いた!?」
「あっちに山があるでしょ?」
「うんうん」
「あそこ、今はまだ吹雪いているけど、明日になれば朝一番でホワイトが春を告げるの。だからその後はきっとこの里よりも沢山の花を見れると思う」
私が言い終えるか否かというのに、少女は私の方に身を乗り出してきらきらと目を輝かせた。
「ほんとに!?」
「う、うん……ホワイト、仕事はちゃんとするはずだし……」
「そうだよね!ありがとう、妖精さん!さっそく明日行ってみるね!」
見るからに楽しそうな少女を見ると、私も楽しい気分になる。
だけど、私はうまく笑えない。
それを意識すればするほど、余計に笑えなくなっていく。
表情豊かなホワイトと対になるかのように表情が乏しい。
いつからこうだったろうか。
初めから、私はこうだった?
ホワイトが代わりに笑ってくれる。
ホワイトが代わりに泣いてくれる。
ホワイトが代わりに怒ってくれる。
それで安心してた。ずっと、今まで。
「どうしたの、妖精さん?」
「……いや、何でもない……うん、何でもない」
自らに言い聞かせるように呟く。
「私は……私なのに……」
ホワイトと私は違う。
なのに私は、ホワイトと自分を重ね合わせる。そして自分が出来ないこともホワイトが出来れば良いと思ってた。
感情の起伏も、春を伝えることも。
「妖精さん……?」
少女の声で、私は考えるのを止めた。ここでこんな風に考えるだけでは何も変わらない。
「……ごめん。今日は暗くなってきたから、もう返る」
これ以上ここにいても少女に心配をかけるだけだ。
「あ、うん!……また明日も会える?」
「ホワイトの仕事が終わったら、そのまま山で待ってる」
「わかった!妖精さん、また明日!」
その言葉に小さく手を振り、少女と別れる。
その後すぐには帰らず、里内の少女とは違う人物を尋ねる。
「慧音」
「おや、リリー。今は一人か?」
そう言っている慧音は自らの家で何やら小難しい書物を読んでいるところだった。
「えぇ」
「それで、私に何か用かな?」
「寺子屋について、少し質問なんだけど」
「お、通う気になったか?」
「そのうちホワイトがお世話になるかもね」
春告げるのを終えたら家でだらだら過ごしはじめるだろうし。
「そうじゃなくて、寺子屋は普段何やってるのかを聞きたい」
「どうしてまた」
「私にだって色々あるの」
それを聞くと慧音は私を見て微笑んだ。なんか小馬鹿にされてる気がする。
「まぁいいだろう。まずは基本として読み書きそろばん、それから歴史を教えているが」
「外には出ないの?」
「ん?あぁ、休憩中に生徒達が遊んだりする程度だな」
「ちょっと提案良い?」
「何だ?言ってみろ」と言う慧音に私は考えを告げる。
それに対しての彼女から返ってきた返事は悪くないものだった。
それから少し会話をし、私は慧音の家を後にする。















翌日。
朝起きると、
赤い顔をして
呼吸の荒いホワイトが
私に抱き着き
艶っぽい声で何か呟きながら
もぞもぞとしていたので
貞操の危機を感じた私はすぐにホワイトを蹴り上げた。
いつものホワイトならすぐに復活するのだが、今日は「ぃんっ!」と声をあげたきり、いつまでたっても立ち上がらないので近寄ってみる。
倒れたホワイトに触れると、体温がいつもより高かった。
「ホワイト、生きてる?」
「あ、ブラ゙ック……、お゙はよ゙ーざんでずー。起ごそうとしでふらっどしだだけな゙のに、い゙きなり蹴ら゙ないで下さい゙よー……」
いつもより荒れた声。だけどホワイト特有の弾むような可愛らしい声(自称)は消えていない。
「風邪?」
「ぞうみ゙だいでずー」
「寝ろ」
「ゔぅ゙~……もうはる゙なのに゙ー……」
「むしろ馬鹿なのに」
私の言葉にも反論する気力が無いらしく、床でゾンビのようにうごめく。
流石に可哀相になってきたので、私はホワイトを抱き抱える。
「ブラッグ、あ゙りがどうー……」
「素直にお礼なんて言わないでよ気持ち悪い」
「てれちゃってー、かわいー」
「普通に喋れんのかい」
「てへぺろっ」とか言いながらの笑顔もいつもよりどことなく弱々しい。
けど、ちゃんと喋れるんだったら良かった。なんだかんだ言ってもホワイトは喋ってるほうがいい。
「だけど、今日は寝てないと駄目ね」
「春を楽しみにしてる皆さんには申し訳無いですけどー……」
「あとは山ぐらいだし、あんまり気にしないで」
「今日はブラックが優しいですねー」
そんなホワイトをベッドに寝かせる。
「じゃあホワイト、私はちょっと出かけてくる」
「えっ?一日中付きっきりで看病してくれるんじゃないんですかー!?」
「こんなことにでかい声を出すな」
「こんなことって、重要なのにー……」
ぶつぶつ言葉を続けるホワイトの頬を軽く突く。
形容するならば、「ふにっ」とでも言うような感触。
いつまでも突いていたい衝動に駆られるが、どうにか耐える。
「すぐ帰ってくるから、待ってて」
「はいー、裸エプロンで待ってますー
「……風邪なんでしょ?」
「自分の体の心配より、ブラックへの愛の方が強いんですよー」
「はいはい……」
適当に受け流し、家を後にする。





「慧音」
「お、リリーか。おはよう」
心苦しいが、少女に今日は花を見れないと伝えに行こう。
そう思って向かった人間の里は、朝早くから生活感が感じられた。
家事に勤しむ人々の中から、さかんに辺りを見回しながら歩く特徴的な帽子を被った人物を見付け、近くに着地した。
「忙しない感じだったけど、どうかした?」
「……実はな、寺子屋の生徒の親から、子供がいなくなったと聞いてな」
「いなくなった……?」
「花を見てくると言い残して、全く見当たらなくなってしまったらしいんだ」
花を見てくる?
まさか……。
心臓の鼓動が早くなる。
「そ、その子供って……」
「ん?あぁ……お前が昨日会った、あいつだ」
血の気が引いていくのを感じる。
私のせいだ。
私が軽はずみにあんなことを言うから……。
「慧音……後で私に頭突きしてっ……」
「何を言って……ちょっ、どうした急に!?」
風に乗り、高く舞い上がる。
向かうは雪山。
まだ、間に合う。








冷たい空気が、呼吸をするたびに私の肺に入り、身体を蝕んでいくような感じがする。
雪山に着いた私は、猛吹雪の中にいた。
天候の変化に強い妖精の私でさえ、いるだけで苦しいこの空間。
人間では、長く持たないだろう。
「いたら……返事をっ……!」
必死に声を出すが、吹雪の音で掻き消され、白い空間に消えていく。
「お願い……答えて……!」
出した声はすぐさま吹雪の音に掻き消さる。
そんなことを何回も繰り返す。単純なことの繰り返し。
脳に酸素が回らない。
冷静に考えられない。
罪悪感と焦りが思考を蝕む。
鼓動の刻みは次第に速くなる。
喉はカラカラに渇く。
震えが、止まらない。
私に彼女は救えない……?
春の妖精であるはずの私。
ホワイトに全てを任せ、自分では何も出来ない役立たずな私。
こんな私と楽しそうに話してくれた彼女。
その彼女を私は救えない?
いや、違う。
ここで救えなかったら、私が彼女を殺したことになるんだ。
私はその場に静止し、目を閉じる。

彼女の笑顔が脳裏に過ぎる。

意識を集中する。

ホワイトに任せっきりで、一度もやったことのないこと。

春の妖精の私なら出来る。

声を張り上げろ、リリーブラック。
前にホワイトが言っていた。
「妖精には、やらねばならぬ時があるんですよー」
呟くように言う。
ホワイト、たまにはまともなことを言うね。
「それは、今!そうでしょ!?」
誰に言うでもなく問いを投げ掛ける。
自分自身に言い聞かせるように。
息を吸う。
イメージをする。
花が咲き乱れる風景を。
そこで笑う、彼女を。



「春ですよー!!!」



もう何度聞いたかわからない。けれども私は初めて口にする言葉。
言ってみれば案外、恥ずかしくは無い。
そう思ったとたんに、視界が白で覆われる。
身体がちぎれそうな位に強い風が吹く。
地面を覆う雪は宙へと舞い、風に流されながら消えていく。
その強風に巻き込まれ、私は勢いよく地面へと叩き付けられた。
骨が折れたのではと思う衝撃。
意識が飛びかけたが、痛みで戻る。
立ち上がってみると、どうやら肩を痛めただけで足は動きそうだ。
ホワイトがやればこんなことにはならない。穏やかに、春を迎える。
自分の未熟さを思い知る。
「いたら……返事を!」
緑が顔を出し、湿り気がまだ消えない山肌を転びそうになりながら駆ける。
探していた人物は、すぐに見付かった。
緑が芽吹く中、倒れている彼女の周りだけは雪で囲まれている。
そして、その横には人影が。
「やっとこの子のお迎えかしら?」
人影は私に気付くと、少し驚いたような顔をした。
「あら、リリー……のもう一人の方かしら?」
「貴方は……?」
警戒を緩めずに人影と彼女に近付く。
人影は、マフラーを巻いた温和そうな女性で、私の問い掛けににこりと笑う。
「私はレティ。レティ・ホワイトロック。リリーホワイトにはいつもお世話になってるわ」
「ホワイトの知り合い……?」
「そんな所よ」
そう聞いて少し警戒を緩める。
「ところで貴方は、この子の知り合い?」
「えぇ……」
少女の傍らにしゃがみ込む。
息はしている。
心臓も動いてる。
体温は少し低いが、死に繋がるような低さではない。
「その子、吹雪の中倒れてたのよ。一応私の力で寒さからは守っといたけど」
「……ありがとう」
「いいのよ。私にお礼を言うなら、ホワイトによろしく言っておいて。……彼女には沢山恩があるから」
レティと名乗った女性は、本気で照れたような顔をした後、小さく欠伸をした。
「ふぁあ……私は眠くなってきたからそろそろ失礼するわ。春、楽しんでね」
言って私に背を向ける。
「おやすみなさい」
そう聞こえた途端、冷たい風が吹き、いつの間にかレティは姿を消していた。
私が呆気に取られていると、寝ていた少女が小さく動いた。
すぐさま彼女の手を握る。
「妖精さん……?」
弱々しさは無いが、疲れが混ざったような声色。
「大丈夫!?ごめんね……」
「何で謝るの……?」
「だって私が……私が山は大丈夫だなんて言ったから」
私が全部悪い。
それなのに彼女は首を横に振り、微笑んだ。
「いいの、妖精さんは悪くないよ」
「だけど……」
「なら、誰も悪くないってことで良いでしょ?私も、妖精さんも、どっちも」
私の前で笑う少女。
彼女は私より何倍も大人だ。
自分のせいだと言えば、私が責任を感じると考えて一番の提案をした。
私のように自分の責任を主張するだけじゃなく、相手も思いやる心。
そんな所まで気を回せる彼女は、私の何十分の一の時間しか生きていない。
ただ、きっと私とは生きた時間の密度が違う。
他人と接し、優しさを学んでいる。
私は殆ど唯一ホワイトとしか接していないと言っていい。
しかもそのホワイトにすら素直になれない。
そんな私に、この少女は優しくしてくれる。
「あれ?妖精さん……泣いてるの?」
「ううん……気に、しないで……」
「もしかしてどこか怪我したの!?大丈夫?」
「違うの……違う……」
私は知らなかった。
優しさの意味を。
上半身を起こした少女を、倒れ込むような形で抱きしめる。
「ありがとう……」
そう言って嗚咽を漏らすだけの私に、彼女は耳元で優しく返してくれた。
「どういたしまして」















「わぁ!綺麗!」
私の頭上からそんな喜びの声が聞こえる。私が肩車をしている少女の声だ。
「なら、良かった」
それに対して私は小さく笑った。
彼女が喜んでくれるのは嬉しい。先日の件の罪滅ぼしとまではいかないが、楽しんでくれればと思う。
「そういえばね」
そう言って私の顔を覗き込むようにする少女に、無言の微笑みで続きを促す。
「この間ね、先生が、みんなでお花を見ようって外に連れてってくれたんだ」
「危なくなかった?」
「うん。先生のお友達のおねーちゃんが付いてきてくれたから」
「へぇ、それで、どうだった?」
彼女はとても楽しそうな顔をしているから、聞くまでもないのだが。
「みんなでお花が見れて、すっごく楽しかったよ!今度は妖精さんも一緒に行こうよ!」
「……うん。うるさいけど、ホワイトも連れてこうか」
「そうだね。きっと楽しいよ!」
頭上で幸せそうに笑う少女。彼女はこれまで私が見てきた人物の中で、一番の輝きを放っているように思う。
私の心を変えてくれた恩人で
ホワイト以外の初めての友達で
そして、私に感情表現を教えてくれた人。
あの日の安堵の涙は私のもので、
今のこの笑顔も私のものなんだ。
「ねぇ」
「なぁに?妖精さん」
「そろそろ名前教えてくれる?」
「んー……まだ内緒。今まで教えてなかったから、今更だとなんか恥ずかしいよ」
照れ隠しにか、あははと笑う少女。
私もつられるように笑う。
「ねぇねぇ、妖精さん」
「ん?」
今度は少女から私へ問い掛け。
「楽しい?」
何が?等と返すほど、私も無神経ではない。
今の私が出来る精一杯の笑顔と共に答えた。



「うん、とっても楽しい」
ご無沙汰しておりますorはじめまして、鹿墨です。

今回はリリーのブラックさんです。
ホワイトとブラックは別人です。断固として譲りません。

時期的には冬から春にかけてなので季節ガン無視ですが、楽しんでいただけたら幸いです。

リリリリ流行れ
鹿墨
http://haisuinozin.jugem.jp/
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コメント



0.430簡易評価
3.70名前が無い程度の能力削除
リリリリって紛らわしいというか何というか。

結構面白かったのですが、適度に改行してほしいです。
文章が連続してずらずらと並んでいるのも読みにくいですし、逆に、文節ごとに改行されるのもちょっと。

こういう読みにくさで損しているなと、感じました。
5.80奇声を発する程度の能力削除
>リリリリ
何か目覚まし時計みたいw
二人とも可愛くて良かったです
8.100名前が無い程度の能力削除
リリリリが可愛いすぎる……。
もっと彼女たちを応援したいのに自分にできる事は100点をあげる事だけなんて。
初めてそそわのシステムに殺意を覚えました。