このお話は求聞口授のネタバレを含んでおります。ネタバレが嫌な方はお戻りください。
既に求聞口授を読まれた方、ネタバレを気にしない心の広い方は是非とも私の拙い文章にお付き合い下さい。
ここは魔界の僻地、法界と呼ばれる何もない世界。さらに法界の中でもこの辺りは一段と瘴気が濃く、虫一匹生存していない。まさしく死の土地なのだ。とガイドブックに書いてあった。
そして、よりによってそんな場所にこんな生臭坊主と二人きり。
話が成り立たない青娥のキョンシーと二人きりの方がよっぽどましかもしれない。そう思い、遅く起きた朝の芳香とのやり取りを思い返す。
好き勝手に霊廟から遊びに行く私の仲間たち。残っているのは青娥の言い付けを守って霊廟に留まる芳香くらいなもの。
その芳香と二人で昼食を取る事がたまにあるが、会話にならない。
「おはよう、芳香。青娥たちはどこですか?」
「お前は誰だ?」
「……あなたのご主人のご主人でしょ? 青娥たちがどこ行ったか知らないかと聞いているのですが」
「青娥のご主人?」
「そうです。思い出してもらいました?」
「うおっ!太子様が目覚めたぞ。青娥に知らせないと! 青娥、青娥、我が主よ。主の主が目覚めたぞ。ってそこのお前! 我が主がどこに行ったか知らないか?」
「……もう嫌だ」
やはり会話のキャッチボールが出来る点を考慮すれば生臭坊主と二人の方がましかもしれない。
……そういう問題じゃなかったわね。こんな所にいる事が問題なんだった。
ここは魔界の僻地、法界と呼ばれる何もない世界。さらに法界の中でもこの辺りは一段と瘴気が濃く、虫一匹生存していない。まさしく死の土地です。と生臭坊主が言っていた。
そんな死の土地にいる私。目の前には呑気な笑顔を浮かべる生臭坊主。
「それにしても困りましたねぇ」
本当に困る気あるのかしら?
今私たちが置かれている状況が分かっているのかしらこの生臭坊主。
私たちが置かれている状況。簡単に説明すると私たちは法界に取り残されたのだ。事故で。うん間違いなく事故で。
思い返すは一週間程前。
稗田阿求主催の会合は私にとって有意義なものだった。
幻想郷についての見識が多少増えたし、妖怪寺の住職が予想通りいけ好かない奴だという事が再認識できたし。うん、有意義だった。
私をやばそうな代物だとか未熟者だとか言ってくれちゃって。それに利他行?良い子ぶっちゃって、まったく。
とは言え、幻想郷で宗教戦争を起こそうなんてこれっぽちも思わない。仮にあの妖怪寺に攻め込んだとしても今日の様に巫女が現れて事を納めるだろうし。なんかこう、あの生臭坊主を困らせる方法は無いものかしら。
そんな事を考えながら体に回る酔いを楽しみながら帰路に着いていた。
人里の賑やかな通りを抜け、人気のない場所まで来ると仙術を使い仙界への扉を開く。過去に一度、往来の激しい大通りで扉を開け大騒ぎになったことがあり自重しているのだ。
人間たちから見れば、突然人が消えたように見えるので当然と言えば当然か。人間が空を飛んでいるのを見ても驚かない幻想郷の人間たちは、私が人間だった頃の人間たちと比べるとかなりズレていると思うが……。
「ただいま戻ったよ」
仙界に帰った私を迎えたのは私に道を教えてくれた青娥だった。
「あら、太子様おかえりなさい。随分と早いお帰りねぇ」
「ええ、途中霊夢が乱入してきて無理矢理解散させられたの」
「うふふ、あの暴力巫女も私に劣らず神出鬼没ね」
楽しそうに笑う青娥。
「なんか今日の会合の話は幻想郷中に知れ渡っていたみたいなのよね。そんな事よりあの生臭坊主がいけ好かないと再確認できました」
「あら、何かされたのですか?」
「私に向かって未熟者と言ってきました」
「それだけ?」
「はい」
「そ、そうね。恐れ多いですわ」
大して恐れ多いと思っていなそうな青娥の顔が印象的だったのはなんでなんだろう。まぁ彼女からすれば私は弟子の様なものだし、年下だし。
彼女の期待していた言葉はきっともう少し過激な内容だったのだろう。
「妖怪寺に攻め込みます。青娥、皆に戦の準備をするように伝えてください」とか。
彼女は世俗から離れて長いくせに世俗の争いごとが好きなようだ。邪な仙人らしいといえばらしいわね。
大して怒っていないが、怒った素振りで青娥の前を通り過ぎる。
「小さい嫌がらせでもしてやりたい?」
「うっ」
ぼそりと呟かれたその言葉がとても魅力的に聞こえた。
さすがは私の師匠の様な存在であり、邪で、利己的で、知性的で、女の魅力あふれる青娥。私が考えていた事などすでにお見通しだったのかもしれない。
「なにか良い策でも?」
立ち止まり、振り向かず答えた。
「先日人里で貰ったチラシをご覧なさい。太子様」
そう言い手渡された一枚のチラシ。
――宝船で行く、日帰り魔界ツアー。宝船の中で開かれる説法を魔界上空で聞く事で若返りの効果や金運アップ間違い無し!
随分と可愛らしく描かれた生臭坊主の似顔絵と「皆さんのご参加待ってます」と言う吹き出しの中に書かれたセリフが妙に腹が立つ。
「ふむ、つまり私達も対抗して仙界ツアーを……」
「太子様、邪な心が足りないわ」
「私は別に邪仙を目指している訳ではないので」
「もっと考えて下さい」
「え、うーん。参加者を拉致る?
「温いですわ」
「宝船の宝を四猿ちゃんと入れ替える」
「……ごほんっ、他には?」
「宝船を壊す」
「甘い!もっと邪に!」
徐々に青娥の顔が緩んできている。恐らく彼女は策など何も考えてはいないのだろう。純粋に私に邪なことを考えさせる行為を楽しんでいるだけだろう。
昔からこういうやり取りをして退屈しのぎをしているのだ。『邪ごっこ』とでも呼ぼうか、この遊び。
満足すると「嫌ですわ、太子様ったら恐ろしい事をお考えになる」と青娥が言い、この遊びは終わりを迎える。
出てきた恐ろしいことをするかしないかは私次第。
きっと師として何を選ぶと邪な道なのかを教えてくれているのだろうと思っている。
「さあ太子様、他にないですか?」
楽しそうな青娥の笑顔。悪いけど今はほろ酔いの気持ち良さに身を任せこのまま寝たい。そんな気分。なのでこの遊びを終わらせる為に私が考えられる一番邪な答えを口にすることにした。
「宝船から生臭坊主を突き落す」
「ぇっ……本気ですか?」
楽しそうな笑顔が一変、作り笑顔になった。
「え、ええ。本気です。あのいけ好かない生臭坊主を魔界に突き落してやります。だからあなたの用意した策など不要ですよ」
「そ、そうですか。じゃあ私も協力させて頂きますわ」
「それでは策を練るので自室に帰るわ。布都に夕食は不要だと伝えておいてください」
そう残すと私は自室に入り眠りに着いた。
会合の日から一週間経った日の朝。
いつものように朝日が昇り、いつものように青娥が用意してくれた朝食を、いつものようにみんなで一緒に食べる。
いつもと違うのは話の内容。もちろん毎日同じ話をしながら朝食を食べるという意味ではない。わが神霊廟の朝食の際の談笑と言えば大抵思い出話や昨日の晩に見た夢、その日のそれぞれの予定などが定番なのだが……
「太子様!ついに重い腰を上げられましたかっ!私は嬉しく思いますぞ!」
あぁ布都、お願いだから落ち着いて。
「お供したいのもやまやまですが、私どもが一緒なら敵に警戒されますし」
屠自古は冷静に話を進めないで。
「二人とも説明の途中なんだから静かにしなさい」
食卓に着いてから話に着いて行けない私を無視して話を進める青娥。
「うおっ!箸まで食べてしまったぞ」
いつもと変わらない芳香が可愛くて仕方ないわ。こいつらみんなキョンシーになってしまえ。
「青娥、もう一度最初から話をして下さい」
「太子様、まだ寝ぼけてるのかしら?」
「いえ、少し話が唐突過ぎて」
「ですから、生臭坊主を魔界に突き落すのでしょう?」
あぁ、勢いでそんなこと言ったかもしれない。いや、言った。はっきり思い出した。ほろ酔いで会合から帰ってきて、青娥とのやり取りが面倒くさくなって言ったわ。
まさか本気だと思われていたとは……
嬉しそうに目を輝かせている布都と屠自古を見ていると冗談だとは言い出しにくい。
「あ、ああ、今日でしたね。一日勘違いしていました」
「おぉぉ!太子様、なんと図太い神経!物部布都、感服致しました」
「布都、その言葉は褒め言葉じゃないって。馬鹿」
「屠自古、馬鹿は余計じゃ!」
「あーもう、二人とも静かに!」
そう言い二人を黙らせると青娥が再び話を始める。
「それではもう一度最初から手順を説明しますわ。まず今日、命蓮寺で開かれる魔界ツアーに太子様が参加をする」
コクンと一同が首を縦に振る。
「魔界の上空まで来たら生臭坊主、もとい聖白蓮を宝船の一番下の区画に呼び出します」
再びコクンと一同が首を縦に振る。
「そしたらこの蚤を床に突き立てる」
三度コクンと一同が首を縦に振る。
「あら大変、船底が抜けて聖白蓮は魔界に真っ逆さま!」
「しかし青娥殿、そんなに簡単に行くのですか?」
布都が私の疑問を代弁してくれた。
「えぇ、昨日の晩こっそり忍び込んで宝船に細工をしておきましたから。後は私の蚤を刺せば細工が発動して船底が抜けます」
「でもあの生臭坊主って空飛べますよね?」
屠自古がもっともな意見を述べた。
「私達もあの生臭坊主も元は人間。突然の落下に合わせて空を飛ぶのは難しいでしょう。落ちている事を認識して浮遊を開始する頃には宝船は遥か彼方へ進んでいます」
説明を聞き終えた一同は歓声を上げている。あんまり乗り気じゃなかった私も話を聞いているうちに簡単に生臭坊主に嫌がらせが出来ると青娥の話を真剣に聞いていた。
本当にこの人は怖い。
「こんな素晴らしい策を用意してくれて感謝しているよ」
「いえ、太子様の為ですから」
朝食を終え、身支度を済ますと私は妖怪寺へ向かった。
いやぁしかしこんな簡単に生臭坊主に嫌がらせが出来るだなんて。
相手は大魔法使いとまで称されている聖白蓮。魔界に取り残されたって魔法を使って戻って来れるだろう。そこがミソよね。
魔界に閉じ込めでもしたら妖怪寺の妖怪達と戦争になるのは間違いないだろう。事故で船底が抜けて魔界に落とされたのなら妖怪寺の妖怪達は私を疑いはするだろうが、私を責める事は出来ない。
それに船底が抜ける宝船だなんて縁起が悪すぎる。そういう風評が広まれば人間からも妖怪からも信仰を失うだろうし。
一度魔界がどんな所なのか見ておきたかったし。
いやぁ楽しみだ。
妖怪寺に着くと宝船のご利益にあやかろうと多くの人妖が集まっていた。
山彦の妖怪が大きな看板を持って大声を出している。
「おはよーございます!魔界ツアー参加の方はこちらに並んでくださいっ」
山彦の妖怪とだけあってなんていう大声。結構距離があったというのに耳がキンキンする。
近くにいた者たちは一斉に耳を塞いでいた。
大人しく列に並んで待っていると入道を連れた尼がすごい剣幕で私の元に駆け寄ってきた。いきなり厄介そうな妖怪に目を付けられてしまったわね……
「貴様!なんのつもりだ!」
「なんのつもりって魔界ツアーに参加をしたくて並んでいるつもりなのですが、並ぶ場所間違えていました?」
「そういうことを聞いているんじゃない!姐さんに何かするつもりだろ」
「いえいえ、私は純粋に魔界を見てみたいだけですから。このお寺は人と妖怪の共存を謳うのに異教徒は差別するのですね」
「妖怪を排除するような貴様に言われたくない!」
おっと、あまり刺激するようなことを言って船に乗れないと元も子もないわ。少し静かにしないと。
「言いすぎました。すいません。私は純粋に白蓮さんの説法と魔界の様子に興味があるだけです。そこのあなた、私を船に乗せて構わないかどうか白蓮さんに聞いて来てください」
びしっと刺した指の先にいた山彦は大きな返事をすると本堂に走って行った。
「ふん、ダメと言われるに決まっている」
「白蓮さんは心が広い方なんでしょう?戒律を破ってお酒を飲んだって怒られないって聞きましたよ」
「……」
突然無言になりガクガクと震えだした尼。
尼の様子から察するに、先日の会合で聞いた弟子たちの悪い噂話の件で何かあったのだろう。そしてこの尼は酷い怒られ方をしたのだろう。ちょっと罪悪感が芽生えた。
「豊聡耳神子さまー、こっちにどーぞー」
先程の山彦の大きな声が響いた。しかし本当に迷惑な程の大声。こんな大声で夜中にライブをされたら堪らないわね。
動かなくなった尼に一礼をして、声の方へと進んでいく。そこには山彦の妖怪と生臭坊主が立っていた。
「あら先日はどうも。太子様が私ごとき若輩者の説法に興味がおありと伺ったのですが?」
「ええ、先日の会合の後に仏門に勤しんでいた頃を思い出しましてね。たまには説法を聞いてみるのも悪くないかなと思った次第です」
「まぁそうだったのですか。嬉しいです。さっそく船へご案内しますね」
嬉しそうに両手を合わせニコニコと笑う生臭坊主。ああ、敵とはいえこんなに嬉しそうな笑顔を浮かべる人を騙すのは心が痛む。
生臭坊主に案内され宝船に上がる。
今回の魔界ツアーのガイドブックだと言われ鼠の妖怪に小さな冊子を手渡された。人の顔を見てニヤニヤするこの妖怪はいつか天罰を与えてやる。
ガイドブックねぇ。
ペラペラと頁を捲るとこの宝船の動力源の説明や魔界についての説明なんかも書かれている。
魔界の観光名所なんて書いたって普通の人間は魔界に観光に行かない。
やはり生臭坊主は少しズレている。
広い甲板の中央には小さなお寺がちょこんと建っている。恐らくこの中で説法が行われるのだろう。
甲板の後方には船内に続く扉があり、舵取り場に続く階段がある。死神の船に水を入れていると噂の水難事故の妖怪が張り切ってメンテナンスをしている。
私のほかにも人間や妖怪がどんどんと乗船してくる。思っていた以上に人気がある事が少し腹立たしい。
しばらくすると山彦の大きな声で出発しますと案内があった。
船はゆっくりと浮かび上がると大きな円を描きながら上昇を始めた。
「本日は魔界ツアーにご参加頂きましてありがとうございます。この船は私の弟が残した法力が詰まった飛倉の破片と私の法力を込めた魔人経巻により浮力を得て飛んでいます」
普通の人間は空を飛ばない。生臭坊主の話など上の空で一生に一度あるかないかの体験に酔いしれている。耳当てを少しずらすと一斉に驚きの言葉が私の耳に飛び込んでくる。雑念が聞こえない純粋な声だ。
誰一人として、生臭坊主の話を聞いていない。なんだか良い気味ね。
小一時間ほど飛行を続けると船が大きく揺れ、魔界に入ったとの説明がされる。
さて、そろそろ動くか。
私は座っていた席を立ち、生臭坊主の元へと歩み寄る。
「白蓮さん、説法が終わったら二人で話がしたいのだけど」
「えぇ、構いませんわ」
「ちょっと恥ずかしい相談事なので……」
「わかりました。船の最下部なら立ち入り禁止になっているのでそこでお話しましょう」
「ありがとう」
「いえ、それではそろそろ説法を始めますので太子様もお集まりくださいな」
「あぁ」
やはり心が痛む。この生臭坊主、意外と良い人なのかもしれない。
そんな事を思いながら小さなお寺の中へと足を向けた。
説法が始まると人間も妖怪も真面目に耳を傾けている。
宝船のご利益恐るべし。まぁ、姿形だけの宝船にご利益なんてあるとは思えないけど。
それにしても随分と久々に正座をしたわ。
生臭坊主のありがたい説法とやらを聞き終え、足の痺れが限界に達した頃、休む間もなく毘沙門天の化身の説法が始まった。
せめて立ち上がって背伸びをする時間位くれたって良いのに。
私の知っている、と言うか信仰していた毘沙門天は軍事、戦の神で、気性が荒く、男勝りの腕っぷしの持ち主の美女だった。目の前のどこか抜けたような妖怪とは似ても似つかわない。
とは言え、毘沙門天にその力を認められているだけあり、神々しい気配を身に纏っている。人間や低級な妖怪はその見た目に騙されるだろう。八坂神奈子が気に留めるのも頷ける。
そんな事を考えていると生臭坊主が私の肩を軽く叩く。
「神子さん、こちらへどうぞ」
「すまないね」
寺を出ると船内へと案内される。
船内で水難事故の妖怪とすれ違う。
「村紗、この辺りは魔界の僻地、法界と呼ばれる何もない世界。さらに法界の中でもこの辺りは一段と瘴気が濃く、虫一匹生存していない。まさしく死の土地です。船の速度を上げて北西に向かってください」
「アイアイサー」
ぱっ右手を額の前に持ってくると水難事故の妖怪は大きな声で返事をした。
「聖はこれから何処かへ?」
「私は神子さんとお話がありますので船底の部屋に参ります。私が戻らなくても予定通りに船を進めてください」
「わっかりました!おい、聖人!聖に酷い事するんじゃないぞ」
「なにもしませんよ」
「こらっ村紗!あまり失礼な事を言うんじゃありません。早く船の操縦に戻ってください。聖輦船と違って自動飛行機能は着いていないんですよ」
今、この船が危機的な状況に置かれている事をさらりと聞かされた気がするが、聞かなかった事にしよう。
短い階段を降り、薄暗い船内を進んでいくと関係者以外立ち入り禁止と書かれた扉の前に到着した。
「戒律を破った弟子を反省をさせる為に用意した部屋なんですが、ここならまず人が来ません。恥ずかしい相談でも何でも安心して話してください」
生臭坊主はそう言いながら扉を開け中に進んでいく。
まるで独房じゃない。きっと先日の会合の後に閉じ込められた妖怪がいるんだろうなぁと、そんな事を思いながら生臭坊主の後に続く。
四方を分厚い壁に囲まれた薄暗い部屋は思いのほか広い。永い間、霊廟の中で眠りに着いていたせいかこういう空間に来ると妙に落ち着く自分がいる。余り健康的な発想ではないと少し自嘲する。
大きく深呼吸をして懐に隠していた蚤をこっそりと取り出す。
えーっと、入り口から見て正面の壁側の床が抜けるって青娥が言っていたから……。
怪しまれないように生臭坊主の立っている位置を確認する。
計算されたかのようにぴったりの位置に立っている生臭坊主。
後はこの蚤を床に刺せば、青娥が施した仕掛けが作動して目の前の生臭坊主は真っ逆さま。込み上げて来る笑いと緊張のせいで早まる鼓動を必死押さえる。
「この聖白蓮、微力ながら神子さんの相談事に乗らせて頂きます。遠慮なさらずにどうぞ」
後ろで組んだ両手にこっそりと蚤を持ち、落とすタイミングを伺う。
鋭利な蚤の刃ならば落下の力だけで刺さるだろうし、この体勢ならまず怪しまれない。そして私が「実は……」とでも切り出せばこの生臭坊主の事だ。真剣に話を聞こうとするだろう。
……私はいつから邪な道を歩き始めたのだろうか。すでに青娥を越える程の邪仙なのかもしれない。
とにかく今は目の前の生臭坊主に嫌がらせをする事が目的でありそれが最大の楽しみである。私が邪仙かどうかはまた後で考えよう。
「恥ずかしい話なのですが、実は……」
そう口を開けたと同時に手の力を抜く。重力に負けた蚤はスコンッと心地よい音を立て床に刺さった。
慌てながら落下していく生臭坊主は、私の視界から消える事無くいつまでも目の前にいる。
内臓が浮き上がるような感じ。淀んだ魔界の空気を全身で受け、衣服はバタバタと音を立てている。風が擦れ轟音となって私の鼓膜を揺する。
そしていつまでも視界から消えない生臭坊主。
そう、私たちは落下しているのだ。
「えぇぇぇぇぇぇぇ!」
驚きと悲鳴の混ざった奇声を魔界に響かせ私は落下していく。
不老不死に近づいたとは言えこの速度で地面に叩き付けられたら無事じゃ済まない。仙力を集中させ浮力を得る。
ここで初めて視界から生臭坊主が消えた。
これから床が抜けるということを知っていたおかげで浮力を得るのに時間がかからなかった。まさか私が立っていた床も抜けるとは思わなかったけど。
落ち着いて下を見ると生臭坊主も法力を使って浮力を得たようでふわふわと浮いている。
遠くに見えるのは生臭坊主の指示を受けて速度を上げた宝船。
山彦の妖怪の大声を持てしても宝船に気付いてもらうのは不可能だろう。
ああぁ、今日はついていないわ。
そんな事を思いながらあっけにとられていると再び落下している事に気付く。
さっきまで私より下にいたはずの生臭坊主が視界に映ると一瞬で消えて行った。
あれ、何でか理由は分からないけど仙術が使えない?
「きゃぁぁぁぁ」
純粋な恐怖からくる悲鳴を上げ落下する私に向かい生臭坊主が飛んでくる。
落下する私を見て慌てながら私に手を伸ばしている。
「神子さん、手を!」
こんな奴に助けてもらうのは癪だが、今は贅沢を言っている状況ではない。私も慌てて右手を突き出す。
伸ばした右手を生臭坊主が掴んでくれたおかげで無事に着陸できた。
回想は終わり今に至る。
これっぽちも予想していなかった事故に見舞われ法界に降り立った私。
抜け目ない青娥がこんな失敗をするとは思えない。
私の立っていた位置が悪かったのだろうか。うん、そういうことにしておこう。
しかしついてない。こんな所にこんな生臭坊主と取り残されてしまうとは。
さらに何故か上手く仙術が発動しない。お蔭で地面に叩き付けられる所だったし。
濃すぎる瘴気が原因なのかしら?
とにかく、私はとても不味い状況に置かれている事になる。
仙術の使えない仙人なんて、ちょっと長生きしていて、体の丈夫なだけの人間だ。この法界から抜け出す術を持たず、彷徨い歩く事しかできないのだから。
それに、今生臭坊主に襲われでもしたら何の抵抗もできずにやられてしまう。まぁ、落下する私を助けてくれた訳だし、その可能性は低い。と思いたい。
「助けてもらってありがとう」
一応礼だけは言っておこう。
「神子さんに何かあれば私が疑われてしまいますしね」
そういうことか……。
「それにしても困りましたねぇ」
呑気な事を……
あれ、そもそもなんで困る必要がある?
大魔法使いなんでしょ?魔法か何かでさっさと船に戻るなり、幻想郷に戻るなりしなさいよ。勿論私を連れて。
「先程の様子ですと、神子さんは仙術が使えなくなっているようですし」
「うっ」
「あら、やっぱり」
「そ、そんなことないですよ。ちょっと気が動転していて仙術が上手く発動しなかっただけです」
「そんなに強がらないでください。仙人が使う力は、長年の修行で切磋琢磨した人間だけが身に付けられる力、言わば人間の内なる力です。人間にとって毒となる瘴気がこれほどまで濃ければ上手く使えないのは仕方のない事です。こんな所で仙術を使える方がいるとすれば、神子さんの所の青娥さん位なものです」
「……わかっているなら貴女の魔法で何とかしてください。生憎私は今、仙術が使えないのですから」
図星を突かれついついふて腐れながら答える。
「いえ、生憎私も今魔法が使えません」
「え?」
「宝船が飛び立つ時に説明しましたよ。この船は私の弟が残した法力が詰まった飛倉の破片と私の法力を込めた魔人経巻により浮力を得て飛んでいますって」
「えーっと、白蓮さん?どういう事?」
嫌な予感しかしない。
「ですから、私の魔人経巻は船にあります」
「あのエア巻物の事よね?」
「はい。空間移動の魔法や肉体強化の魔法など、難しい魔法は魔人経巻がないと使えないんです」
「えぇぇ!だったらどうしてそんなにニコニコしているんですか! もう少し困りなさいって!」
「ですから先程、困りましたねぇって言ったじゃないですか」
「んーっ! 緊張感だとか焦燥感だとか危機感がまるで伝わってこなかったじゃない!」
怒りに任せ怒鳴り声が出てしまった。人を怒鳴るとか随分と久しい行為だった。私がまだ政に身を置いていた頃は良く怒鳴ったものだ。私欲に飢えた仕官達相手に怒りをぶつけたものだ。
そんな思い出に浸っている場合じゃなかった。
危機感が足りなく、魔法が使えない生臭坊主。そんな生臭坊主に分けてやりたいほどの危機感を持っているが仙術が使えない私。
認めたくはないが、魔法も仙術も使えない無力な二人がこの地に取り残されてしまった訳だ。
「それで、何か帰還する術は無いのですか?」
余り期待をせず問いかける。
「んーこの辺りは法界に封印されている頃に何度か来た事がありますが、瘴気が薄くなる辺りまで歩くという方法が一番現実的かしら」
「そうね、飛行術も使えないし、いつまでもこんな所にいてもしょうがないし。それで、どれくらい歩くの?」
「すぐですよ。おおよそ半年ぐらいでしょうか?」
「ぶっ」
千年以上封印されていた人間と千年以上眠りに着いていた人間との時間への概念がずれている事に恐怖した。
私も今後、長く生きればこんな妖怪じみた時間の概念を持つことになるのだろうか……
結局、こんな場所に留まることもできないので、少しでも瘴気の薄い土地を目指して私と生臭坊主は歩き始めた。
どこまでも赤黒く荒れた大地。動物もいなければ植物もない。聞いた通りの死の土地を満喫しながら私たちは半日ほど歩いた。
法界でも昼と夜があるらしく、徐々に周囲が暗くなってくる。
「今日はこの辺りで休みましょうか?」
前を歩く生臭坊主が振り向きそう言った。
「そうね、空気が悪いせいか疲れたし。賛成です」
形の良い岩を見つけると腰を下ろす。
生臭坊主が道端で拾ってきた石が薄らと光を放ち、私達を微かに照らしている。
法界特有の石で、魔力を感じると発光する石だそうだ。法界生活の必需品といったところかしら。砕いて粉末状にすればあのエア巻物の材料にもなるそうだ。
道中、エア巻物を作ってはどうかと提案したが、百年程我慢して頂ければと笑顔で返されたので無視した。
寒くないですかと生臭坊主が羽織っていたマントを貸してくれたり、おやつに食べようと思っていましたと巾着から取り出した飴をくれたりと妙に気を使われている。
……生臭坊主いや、聖白蓮は意外と良い人なのかもしれない。
そんな良い人に私の悪戯じみた行為の所為で迷惑をかけてしまっている事に罪悪感が芽生え始めた。
私は意を決し口を開いた。
「白蓮さん、聞いてもらいたいことが……」
「そういえば、相談事の途中でしたね」
やっぱりこの人ズレてる。
「いえ、そもそも相談事などありませんでした」
私は事の経緯を説明した。説明して白蓮が怒る様なら素直に謝ろう。今回の件はすべて私に非があるのだから。
説明を終えるとゆっくりと白蓮が立ち上がり話を始めた。
「私も神子さんに謝らないといけないことがあります」
「貴女が私に?」
「はい。今回の件、神子さんがそんなに責任を感じる事はありません。」
「どういう事でしょう?」
「神子さんが魔界ツアーに参加すると弟子に報告をもらった時に、神子さんを船から突き落す計画を頭の切れる弟子と思い付いたのです」
「……」
「急いで弟子に船底に細工をさせ、私が魔力を込めたら部屋の入り口側の床が抜けるように仕掛けを施しておきました。神子さんなら仙術を使えるし、法界に取り残される心配もないないだろうと」
……。
……。
「ですから、今回の件はお互い様です」
にこっと満面の笑みが私の視界に飛び込んできた。
おい、この生臭坊主。心の中で白蓮とか呼んじゃった自分が恥ずかしい。
先日の会合で仲良くなった訳でもないのにあっさりと乗船させて貰えたこと。関係者以外の立ち入りを禁止している区画にすんなりと入れて貰えたこと。生臭坊主がやたら親切にしてくれたこと。
色々と辻褄があった。
「……やっぱり貴女は悪の大王の様な人でしたね。一瞬でも貴女を良い人だと思ってしまった自分が恥ずかしい」
「あら、人間の道を踏み外した神子さんに言われたくありませんね」
「人間の道を外れているのは貴女の方でしょう?」
「おっしゃるように人間の道を踏み外してはいますが、崇高な仏の道を歩いています。仏教を政治の道具としか考えられない神子さんには理解もできない崇高な道です」
「ふん、私が政治の道具に利用しなければ仏教はここまでの発展はありませんでした。貴方に感謝される筋合いはありますが、非難される筋合いはこれっぽっちも無いです」
「千年以上眠りに着いていたとだけあって未だに寝ぼけているんでしょうか?」
「ご心配には及びません。私の目も頭も耳もすっきりしていますから」
「もう一度永い眠りに着いてもらっても構いませんよ?」
「眠たくないと言っているでしょ?貴女こそこのまま法界に封印されたらどうですか?封印ってお肌に良いみたいですよ」
「……」
「……」
私たちの間に爆発寸前の火薬のような刺激的な緊張感が満ちる。
怒りを隠しきれない笑みを浮かべる生臭坊主。かくいう私も怒りを隠しきれずプルプルと震えている。
ぐぅぅぅぅぅ。
一触即発の空気を切り裂いたのは恥ずかしながら私の腹の音だった。
不老不死に近づいた仙人と言えど、生臭坊主の様に捨食の法を身に付けている訳ではない。普通の人間の様にお腹が減るのだ。
冷静に解説しているが緊張感のかけらもない自身の腹が恥ずかしく、顔を真っ赤にする。
「ぷっ。ふふふふ、あーおかしい」
わ、笑いやがった。やっぱりこいつ大嫌いだ!
「あー、ごめんなさい。お腹、減りましたよね」
「……捨食の法を身に付けている貴方とは違ってお腹が減るのです。そんなに笑わないで貰いたい」
「ごめんなさい。捨食の法を身に付けているとは言え、毎日毎食、弟子たちと一緒に食事をとっているので私もお腹ペコペコです」
「そうなのですか?」
「はい、毎食ちゃんと弟子たちと頂いています。一輪の作った煮物なんてとっても美味しくてついつい食べ過ぎちゃうくらいなんですよ。それに残すと雲山に怒られちゃいますし」
「一輪ってあの尼の様な格好をした妖怪でしたっけ?」
「はい、彼女も私と同じで元は人間。料理の腕は命蓮寺一なんですよ」
「ほうほう、うちの青娥もああ見えて料理が上手なのです」
「あら、意外ですね」
「そうでしょう。彼女の作ったお味噌汁を飲まないと一日元気が出ない位です」
「まぁ、それはぜひとも頂いてみたいです」
「それにああ見えて彼女は母性本能が強いのです。キョンシーを可愛がっているのもきっとその所為」
「キョンシーって芳香ちゃんのことかしら?」
「ご存知でしたか?」
「ええ、突然命蓮寺の墓地に現れて朝も夜もずーっと番をしていたものだから何度かおにぎりの差し入れを持って行ったことがあります」
「な、なんと! それはそれは、部下がお世話になりました」
「芳香ちゃん良い子よねぇ。元気一杯だし、ぜひうちのお寺に頂きたいわ」
「それはうちの青娥が黙っていないと思うわ」
「あら、どうしましょう」
なんだか気付けば仲良く雑談していた。先も述べたように今は二人ともほぼ無力。こんな危険極まりない法界で争うくらいならよっぽど健全な時間の過ごし方だと思う。
異教徒と言えど、互いに自身の身内を大切に思う心は変わらない。今から1000年以上前、私は世俗のしがらみに雁字搦めになっていてそんな事も気付けずに宗教戦争を起こした。
私が世俗を捨てたのは宇宙の理の追究や道を究め不老不死に憧れたから。しかし本当はそんなことどうでも良かったのかもしれない。
世俗やら世間体、宗教間の対立なんかを気にせず、他の人間と仲良くなりたかっただけなのかもしれない。
そんな事をふと思いながら白蓮との会話を楽しんでいた。
お互いの身内自慢をして時間を潰し、笑い合い、眠気に耐えきれなった頃に眠りに着いた。
「それじゃあ白蓮さん、おやすみなさい」
「おやすみなさい。神子さん」
翌朝。朝日が昇る頃に私と白蓮は目を覚ました。
ごつごつした岩の上で眠りに着いたせいで体中が痛む。ふかふかの布団が恋しいわ。
体を少しでも解そうと伸びをする。
「おはようございます、神子さん。良く寝られました?」
「疲れていたせいでぐっすりです。ただ岩の布団の所為で体中が痛いです」
「私も背中が痛いです」
「良かったらお布団持って来ましょうか?」
私たちの背後から声がした。
「おわっ」
慌てて振り返ると仙界の扉から上半身だけ乗り出している青娥の姿と彼女の後ろからひょっこり顔を出す毘沙門天の化身と鼠の妖怪。
「せ、青娥ぁぁ」
「あら嫌ですわ、こんな朝っぱらから太子様ったら」
何とも情けない声をだして青娥に抱き着いた。邪仙の青娥が慈愛に溢れる天女様に見えた。
た、助かったわ。
「まぁ、星とナズまで。探してくれたのですか?」
「ええ、まあそんなところだよ。そうですよね?ご主人?」
「え、はい! そうです。探しにきました」
嬉しそうな白蓮。と少し気不味そうな二人の妖怪。
「ありがとう青娥、助けに来てくれたのでしょう?」
青娥から離れ、状況の確認をする。
「いいえ、ネタばらしにきました」
「ちょっと!青娥殿!話が……」
きっぱり否定されると心地良いものだ。
違う。そうじゃなくて、青娥の言葉の意味が解らない。ネタばらし?毘沙門天の化身の慌て振りも気になる。
「どういうことでしょうか?」
私の疑問を白蓮が代弁してくれた。
「簡単に説明すると、今回二人を法界に突き落したのは私とこの二人という事になります」
「そういう言い方はちょっと……」
「ご主人は黙ってて下さい」
「……はい」
説明を始める青娥と慌てる毘沙門天の化身と冷静な鼠の妖怪。
「えーっと?意味が良くわからないんですけど?」
「ですから、宝船の船底が抜けて、二人が法界に取り残されるように仕向けたのは私達三人の仕業なんです」
悪びれる様子もなく淡々と説明を続ける青娥。
人里から少し離れた場所に人妖が集まる屋台があるそうだ。
そこの屋台の常連になった青娥は、鼠の妖怪と飲み仲間になった。
ある日、青娥が相談事を鼠の妖怪に打ち明けたそうだ。世俗のしがらみを捨てた筈の主が最近、世俗のしがらみに自ら戻ろうとしていると。
要は、世俗を捨てた私が、宗教対立にまた身を投じようとしていると。
私自身、そんなに意識したことはなかったが、毎日のように命蓮寺の文句をぶつぶつ言っていたそうだ。
一方の鼠の妖怪も青娥に相談事をしたそうだ。人妖共存を掲げる主が異教徒を敵視していると。
そんな事が世間に知れ渡れば、お寺への信仰も減ってしまうと行く末を案じていたそうだ。
そこで二人は互いの主を仲良くさせる方法を考えたそうだ。
極限の状況を共に過ごすことで親密さが増す。という発想を元に互いの主を法界に突き落すという、半ば下剋上のような内乱のような今回の事件を計画し、実行に移したそうだ。
簡単に説明をするとこんな感じだ。
勿論納得できる訳もなく私は文句を口にする。
「どうりでおかしいと思いました。そもそも主を法界に突き落すだなんてどういう神経しているのですか。青娥! 本当にあなたという人は……」
「どういうって、普通の人より邪ですわ」
にこにこと笑顔で返されると反論のしようがない。
「そ、それよりお二人とも仲良くなられたみたいで良かったじゃないですか」
毘沙門天の化身が私と青娥のやり取りを割って口を開く。
この中三人の中で一番身分が高いであろう毘沙門天の化身の腰が一番低い。なんでこの邪仙の悪巧みに反対してくれなかったのかしら。
「そうね、二人とも楽しそうに笑っていたし。ねぇナズさん?」
「あぁ、そうだね。少なくとも対立している組織のトップ同士には見えなかった。さすがだよ。娘々」
頷き、納得し合う青娥と鼠の妖怪。
何よりもナズさん、娘々の間柄に呆れてしまった。
「私の仙術でばっちり幻想郷中に生中継してたわ。おかげで霊夢から不穏分子のレッテルを取って貰えたし」
昨日のやり取りを思い返し、少し恥ずかしくなる。
ずっと黙っていた白蓮は心配をおかけしました。と二人の妖怪と抱擁している。
駄目だ。みんなズレてる。
「それにしても太子様、私の作るお味噌汁そんなに美味しかったかしら?」
少し照れくさそうにちらちらと私を見ながら青娥がからかう様に私に話しかけてくる。
本人に直接言うのは恥ずかしく今まで一度もあんな事を言った事がなかったが、ばっちり聞かれていたようだ。
「もう嫌だぁぁ!青娥なんて大嫌いです」
「あら、太子様酷いですわ」
「ふふ、神子さんは照れてるだけですよ、青娥さん」
ああ、黙れ生臭坊主。
とは言え、憎いだけと思っていた白蓮とも少し仲良くなれたし結果的には良かったのだろう。
いつまでも昔見ていた道が正しいとは限らない。
時間はいくらでもあるのだ。私がこれから歩むこの道をのんびりと歩いて行こう。
そんな考えをしながら青娥の作った仙界への扉を潜り、日常へと戻って行った。
「良かったら今度お茶でも飲みに来てください」
白蓮に別れ際に言われた言葉。
やっぱりこの人はいけ好かない。その言葉は私が先に言いたかったのに。
幻想郷のお決まりですな。
GJ!
三者対談の後の出来事誰か書いてくれないかなーと、ふと思ってたらここにあった。
一年越しですが、良い話でした。