最初に
・東方でサスペンスドラマ的なものを目指した作品です
・今までキャラ死に注意を謳いながら全員健在でしたが、今回は本当にキャラ死に注意でお願いします。
・作品集166 パチェコア事件簿『殺人神遊び』を先に読んでいただければ分かりやすいかと
人気の無い夜道を一人の男が歩いていた。
満月の夜だったが薄い雲が月明かりを隠している。男は手に持つ行灯の光だけを頼りにいつもと変わらぬ慣れた道を愛人の家まで通う最中であった。
畑の横の用水路。その脇道が近道だった。何度か落ちかけた場所で歩くスピードを落とすと妙に水の音が耳に残るのに気付いた。
ちゃぷちゃぷ、ちゃぷちゃぷ
はて一体何事か。男が目を凝らすと1人の少女が小川に笹舟を浮かべて遊んでいた。
ちゃぷちゃぷという水音が一層大きくなったような気がした。
「お譲ちゃん、こんな夜中に遊んでいたら危ないよ」
男は親切心からそう告げた。最近は里も物騒になったのか2件も変死事件があった。そんな事件里では滅多に起きない。殺人だなんて噂まで聞き及ぶ。今は用心に越した事は無いのだ。
「さあおうちに帰りなさい」
しかし少女は聞いていなかったのか右手で水面を撫でている。広がる波紋が笹舟を揺らした。
「ちょっとお嬢ちゃん、聞いてる?」
男が覗きこんだ時少女の唇が動いたのが見えた。
「ごめんね……」
少女は確かにそう言ったようだった。
そこにはもう男の姿も少女の姿もそして笹舟さえも浮いていなかった。
バシャバシャと水の音が紅魔館にこだまする。
「今日も昨日も一昨日も本当に気持ちのいい朝ですね」
さっぱりと顔を洗った小悪魔はふかふかのタオルに顔をうずめてから大きく伸びをした。
朝日を小さな体いっぱいに受ける彼女の姿は実に健康的で、彼女が使い終わったタオルを籠に向かって投げるとそれを見ていた妖精メイド達の大部分はタオルが見事に籠に入ると予想した。そしてその通りタオルが吸い込まれるように籠に収まるとワッと歓声があがる。その歓声に小悪魔が応えて芝居がかった動きで一礼してから出ていくと、妖精メイド達はこっそり賭け金の受け渡しを始めていた。小悪魔のタオルシュートは娯楽の少ない彼女達のギャンブルの一つだった。
そんなギャンブルが成立する程度に小悪魔は運動が苦手だった。
シュートが決まっていい気分になった彼女は門番の紅美鈴におはようを言いに外に出た。
「美鈴さんおはようございます」
しかしその声は美鈴の耳には届いていただろうが聞こえてはいないようだった。美鈴はいつもと同じく塀に背中を預けて眠っていた。先程までは起きていたのであろう、握ったままの読みかけの新聞を美鈴の手から抜き取って小悪魔は自らの住まう図書館へと引き返す。
「何か目新しい事はありませんかねぇ……」
廊下を歩きながら紙面を眺める小悪魔の目に飛び込んできたのは魔理沙とアリスの2ショット写真。アリスが魔理沙の家から朝出てくる所を捉えたという記事が一面にでかでかと掲載されていた。
小悪魔は主の精神安定のために一面の紙面だけ丸めてゴミ回収をしている妖精メイドに渡した。
アリスが魔理沙の家から朝帰りなんて記事を見たら小悪魔の主、パチュリー・ノーレッジは発狂してしまうに違いない。小悪魔的には三角関係の縺れを眺めているのは楽しくても、主が魔理沙と無理心中してしまうのを許容することはできない。ただ、本当の意味で主を慮っての行動ではない点、小悪魔はやはり悪魔であった。
「他には何か面白い記事は……」
紙面を捲る小悪魔。あとはプリズムリバーのコンサートの宣伝だとか明日の天気予報のようなつまらない内容ばかりであった。
ふと廊下の反対側から見知った人物が歩いてくるのを見つけて小悪魔は驚いた。
それは上白沢慧音だった。
「あれ、慧音さんじゃないですか。こんなに朝早いのにどうしたんですか?」
里で寺子屋を開いている慧音が一体朝っぱらから何の用だろうか。
「ああ、ちょっとパチュリーに用があってな」
慧音が来た方向には図書館しかない。小悪魔が顔を洗いに行っている間に来たのだとしたらごく短時間しかなかったわけだから大した用事では無かったのだろう。
そんな小悪魔の楽観的な思考とは反対に慧音はきつく唇を結んでいた。その固い表情に小悪魔が気付いた時慧音は口を開いた。
「その新聞……」
「え?文々。新聞ですけど何か」
幻想郷では最もポピュラーな新聞だ。発行元の射命丸文が人妖誰彼構わず配って回っている。
「お前は新聞を読むんだな。パチュリーは読んでいないようだったが」
慧音からただならぬ雰囲気を感じ取った小悪魔は言葉を選びながら答える。
「はい。パチュリー様は私が薦めた記事ぐらいしか読みませんから。私はちゃんと読んでますよ。でないと時代に取り残されてしまいますから」
「そうか」
呟いてから慧音は少し言い淀みながら
「お前達が解決した里の長老が水死した事件は覚えているか?」
「え?はぁ、まあ覚えてますけど」
里の誰にも記憶の新しいその事件は小悪魔だって忘れたりしない。なんと言ったって死体を釣りあげたのは小悪魔自身だったのだ。当初は一緒に釣りあげた村紗水蜜が疑われたが、パチュリーの活躍により真犯人として秋姉妹が特定された事件だ。
「その事件についてだが、誰かに話したりはしてないか?」
「誰かにですか?そんなこと話したりしませんよ」
ただの事件に野次馬として首を突っ込んだだけならそれもあっただろうが、真相の全てを知っている小悪魔にとっては興味本位だけで話の種にする事には気が引けていた。今まで誰にもその事は話していないし、主であるパチュリーともあれ以来その事について話してはいない。
慧音は安堵したのかホッとため息をついた。
「そうか。それならいいんだ。これからも他言に無用でいてくれ」
「それはいいんですけど、一体それがどうしたんですか?」
「いや、故人の事について悪く言うのは良くないからな」
「それは分かりますけれど……」
「それだけだ。お前が常識ある悪魔で安心したよ」
慧音は小悪魔の頭にポンと手を置いてから立ち去って行った。
褒められたというのに妙な違和感を抱きながら小悪魔は図書館の重い鉄の扉を押し開けた。パチュリーはいつもと同じ安楽椅子に身を預けて分厚いカバーの本を読んでいた。
小悪魔が近づいても気付いていないように読書を続ける。
これもいつもの事だと小悪魔は対面するように椅子に座って新聞を広げた。しかし、先程の慧音の事がどうにも気にかかった。
何故今更あんなことを言いに来たのだろう?パチュリーにも同じ事を言ったのだろうか?
「あの、パチュリー様」
声をかけるとパチュリーは億劫そうに視線を本から少しあげた。
「何?」
読書の邪魔をしないで頂戴。そう言っているようだ。しかし一度声をかけてしまった以上訊くしかない。
「さっき慧音さん来てましたよね」
「そうね」
「なんで今更あんなこと言ったんでしょうか?」
「あんな事?」
パチュリーは目を細めた。
「ですから、里の長老さんの事件の口止めですよ」
小悪魔が言うとパチュリーは持っている本から完全に顔をあげて小悪魔の方を向いた。
「私には新聞の勧誘まがいの事しか言わなかったけど」
「え?」
「『お前は新聞は読まないのか』だったかしら」
「新聞ですか……。そう言えば私にも同じ事言ってましたけど」
「あなたには他にも何か言ったようね」
「はい。里の長老さんの水死事件についてです。覚えてますか?」
「もちろん覚えているわよ」
「その事件について他の人には誰にも言うなって口封じを」
「口止めね」
しかし小悪魔はますます分からなくなった。パチュリーには何も言っていないのはどういうことだろうか?確かにパチュリーは事件を解決したからって他人に吹聴するような人物ではない。そういうのをするのはどちらかと言えば小悪魔の方だ。口が軽いと思われても仕方の無い自覚はあるが、だからと言って慧音は小悪魔の口を止めるために来たのだろうか?
「で、あなたとしては慧音があなたの事を口の軽い女だと思っているのが気に入らないわけね」
「えっ!」
「おまけに私には何も言っていない。私の事は信頼しているのにあなたの事は信用していないというのはどういう了見だ。と、言いたいのでしょう」
パチュリーはニヤニヤと笑いながら小悪魔の様子を窺った。
確かにパチュリーの言った通りに思う所はあったが、最初からそう思っていた訳ではない。言われたとおりだと思われるのが癪だった小悪魔は
「違いますよ。どうして今更そんな事を言ってきたのかが気になったんです。事件からもう結構時間経ってますよ。だいたい、パチュリー様は口の堅さが信頼されているんじゃなくて図書館に引きこもってるから誰とも会う心配がないんです」
あぁ、しまった。一言多かった。これだから口が軽いと思われてしまうんだ。小悪魔は少々後悔したが、どうやらそれ以上にパチュリーの知的好奇心を刺激する何かが含まれていたようで、パチュリーは顎に指を当てながら小悪魔の言葉を吟味していた。
「それもそうかもしれないわね……小悪魔の言うとおり何故今更なのか……それに新聞」
ぶつぶつと呟くパチュリー。やがて何事か気付いたようにハッとして小悪魔の広げた新聞に視線を落とした。
「本当に私と小悪魔の違いは信用なんて言葉じゃないのかもしれない。新聞よ」
「新聞?」
「私は新聞は読まないわ。でも小悪魔は新聞を読んでいるし慧音に会った時も持っていたでしょ」
「はい。そうですけど、それが口の軽さに関係あるんですか」
「だから口の軽さには関係ないのよ。あったのは新聞の有無だけ」
そう言ってパチュリーは机の上の新聞を自分の方に寄せた。
「このタイミングでの口止めには何かそうせざるを得ない理由があったから。そしてその理由を作ったのが今朝の新聞。だとすれば朝早くから出向いてきた事も納得ができるわ」
新聞を斜め読みするパチュリーを見て小悪魔は心底一面を捨てておいて良かったと思った。
得意げに推理している所から一転、魔理沙とアリスのツーショット写真を目の当たりにして泡を吐いて倒れる主は見るに堪えない。
だが小悪魔の安堵もつかの間だった。
「小悪魔、この新聞一面の紙面が無いようだけど」
「うえっ!」
新聞の異変に顔をしかめていたパチュリーは小悪魔の奇声にますます眉を顰めた。
余程の凡人でもない限り一面の無い新聞には気付く。
「どうしたのかしら?」
疑うような視線を向けられて小悪魔は苦笑いをした。
「すみません。途中で捨てちゃいました」
「捨てた?」
「……あー、すごくつまらない記事だったんです。だから腹が立って」
本当の所を言えば小悪魔的には面白い記事だった。事実を告げないのは小悪魔なりの優しさだ。
「そう、それは相当酷い内容だったのね」
パチュリーは獲物を甚振るような口調で言った。少なくとも小悪魔にはそう感じられた。しかしだからと言って本当の事を言う小悪魔ではない。魔法使いが真理を追究する種族であるように、悪魔は呼吸をするように嘘をつく種族だというのが小悪魔の自負だった。
「はい。それはもう酷い内容でしたよ。見ているだけで胸糞が悪くなりましたからゴミ箱にシュートしてきました」
「つまらないのか不快なのかどっちなのかしら?」
あっ。と、声をあげた時にはパチュリーは立ちあがっていた。
捨てた一面紙面を探しに行くに違いない。直感した小悪魔は慌てて手を翳して主を制そうとする。
「でもあの記事は全然関係なさそうでしたよ!私が言うんだから間違いありません」
「あなたは何を必死になってるのかしら?」
「いえいえそんな事はないです」
これも全てあなたのためなんですよ。とは言えない。
「見られると何か都合が悪いのかしら?ちょうど自白魔法薬を試しに調合してみた所なのよ」
小悪魔はだんだんと馬鹿らしくなってきた。いくら隠そうとしても全ての真実を暴こうとする。それがパチュリー・ノーレッジだ。
閉口してしまった小悪魔を見てパチュリーはため息をついた。
「嘘よ。あなたが隠してる事には特に興味が無いわ。文々。新聞の一面なんてね。ただ、一面紙面の裏にも記事はあるでしょ。そっちは慧音に関係あるかもしれない。どこに捨てたのか教えて頂戴」
それでも小悪魔はあまり乗り気になれなかった。パチュリーが興味を示す紙面の裏にはパチュリーが即到する記事があるのだ。
小悪魔は時計をちらりと見て。
「ゴミの回収をしているメイドに渡してきました。多分裏に集められてると思います」
「そう」
短く答えるとパチュリーは図書館を後にする。小悪魔はそれには続かず、主人の気を宥めるために最上級の茶葉で紅茶を準備しておく事にした。すぐに機嫌を悪くして帰って来る事は明らかだった。
パチュリーが館の裏についた頃には焼却炉が煙突から煙を吐き出していた。
小悪魔はちょっとした後悔の念に苛まれていた。
紙面を捨てたりせずにペンキで塗りつぶしておけばよかった。そうすればこんな事には……
あの後図書館に戻ってきたパチュリーは小悪魔の準備した紅茶を無言で飲み干すと「行くわよ」の一言で妖怪の山へと出発した。
どうやら失われた記事の内容を確認するために記者の所にまで足を運ぼうというわけらしい。
下手に手の届かない真実ほどとことん追求してしまう。
「でもパチュリー様、新聞なら誰かから貰えばいいじゃないですか。どうせみんな持て余してますよ」
実際の所は魔理沙とアリスが回収して回っているのだがそれは小悪魔の知らない所だ。
「記事を見たら記事を書いた本人からも話を聞くでしょう。一石二鳥じゃない」
答えるパチュリーは明らかに不機嫌だった。
小悪魔はトーンを落として
「でも、そうやって興味だけで真実を追いかけるといつか藪蛇をつつく事になると思いますよ」
「それは悪魔からの警告かしら?」
「悪魔的カンです」
「そう」
パチュリーは飛ぶスピードを速めた。小悪魔も慌てて続く。
文々。新聞の発行者、射命丸文は在宅だった。
欠伸をしながら出てきた文はパチュリーの姿を認めると笑顔を振り向けた。
「あれ、パチュリーさんじゃないですか。何しに来たのかは言わなくてもわかりますよ。でもお生憎様。記事は本当の事です」
一気に捲し立てる文。パチュリーの背後で小悪魔は嫌な汗を浮かべた。
「私は記事の内容を確認しに来たんだけど」
「ええ、でも事実確認は本人にしてみてはどうです?まぁ、否定されるでしょうが」
文はニヤニヤ笑いを浮かべながら言った。だが怪訝そうなパチュリーを見ていて食い違いに気付いたようで
「もしかしてまだ読んでません?でしたら一部――」
小悪魔は大きく息を吸い
「興味があるのは二面記事だけです!一面には全然興味ありませんから!」
不意に大声を出されて流石の文もたじろいだ。小悪魔から漂う気迫のようなものに気圧されて、出しかけた新聞を引っ込めると奥から印刷前の原稿を持ち出して来た。パチュリーは小悪魔に怪訝な顔を向けた。
「二面だけならこれですよ。……どうぞ」
噛みつかれるのではないかと小悪魔を警戒しながら原稿を渡す。
受け取ったパチュリーはすぐに紙面から一つの記事を選び出し指さして見せた。小悪魔も覗きこむ。
「『人間の里連続水死事件』ですか?」
見出し記事を読んだ小悪魔は物騒な事だと感想を抱いた。
記事は続く。
『安全なはずの里で三度に渡り怪異が起きた。今朝早く人間の里の農耕用水路にて三十代前半ほどと見られる男性の水死体が発見された。同様に水に関係した場所での死体はこの一週間のうちに二件相次ぎ今回で三件目となる。ここ最近大雨など水難が起きる要因は無く何者かの作為的な殺人事件との見方が強く、一説には妖怪の仕業なのではないかとの意見もある。水死体と言えば一月前に起きた里の長老の水死事件が人里では記憶に新しい。一連の事件の発端はそこなのではないかとの声も聞こえる。いずれにしてもただの事件なのか、それとも幻想郷を揺るがす異変の前兆なのか。今後の博麗の巫女の動きにも注目が集まるがまずは自分の身は自分で守るように心掛ける事が必要だ』
記事の下には因幡印のカラーボールの広告が載っていた。
「いやぁ大変だったんですよ。朝に死体見つけてから大急ぎで記事にしましたから。一面にしようかとも思ったんですけど一面は昨日撮ったスクープって決めてましたし。でもようやく苦労が結ばれたって感じですね。死体が見つかるなら朝だと思って巡回しておいた甲斐がありました。そのせいで眠くて眠くて。まあ、おかげで昨日はいい所に遭遇できたわけですけどね」
文の苦労話を聞き流しながら小悪魔は記事の一点を指してパチュリーの方を窺った。
パチュリーは頷いて文へと向き直る。
「記事にある里の長老の水死事件についてだけど」
「ああ、それですか。私も最初は関係あるんじゃないかと思ったんですがどうやら関係ないみたいで……あやややや、これ以上は口外しちゃいけないんでした」
「口止め。されているのね」
文はその問いには無言で返した。
「心配ないわよ。私達はある意味その事件の当事者だったんだから」
「へ?」
「死体を釣りあげたのが小悪魔なのよ」
「そして事件を解決したのが何を隠そうパチュリー様なんですよ」
それを聞いていた文はいまいち事態が飲み込めていないのかポカンとしていた。ともあれこれ以上口を噤む必要が無い事だけは理解できた。
「その様子だとあまり詳しくは知らないようね」
パチュリーが問いただす。
「え。えぇ、まあ人間1人死んでもそんなに気にかける必要はありませんし。それはパチュリーさんも同じでしょ」
「まあね」
「でもなんでまた解決なんてしたんです?解決したって事は調べたって事ですよね」
「図らずも小悪魔が関わっていたからよ。それより質問しているのはこっちよ」
「記者に質問ですか?」
文は不機嫌そうなパチュリーの表情を見てすぐに次の言葉を紡いだ。
「それもいいでしょう。えっと、情報通の私が事件の事に詳しくないってことですよね」
パチュリーは黙って頷いて続きを促した。
「最初は単なる事故だと思ってたんです。それに今日まで何の発表も無かったんですよ。ですから死因の究明はなされずにただの事故として処理されたものだと思ってました」
文の言葉にパチュリーは怪訝な表情を浮かべた。
「発表されてない?でも私はちゃんと慧音に伝えたわよ」
「いやいや私を疑わないでくださいよ。幻想郷の隅々まで噂話は私の耳に入りますから。長老の死亡に関しては妖怪の噂だって憶測が流れてただけですよ。ちなみに容疑者筆頭は命蓮寺の村紗さんでした。だから私も一連の水死体事件は関係していると思ったわけです」
「その誤解が解けたのが今朝。記事を見て慧音が来たのね」
「お察しの通りです。犯人は静葉さんと穣子さんだったらしいですね。でも何でまた」
「聞きたいのかしら?」
パチュリーが訊ねると文は少し考えてから首を横に振った。
「ああ、いえ。結構です。気にならない訳ではありませんが、私としては過去の事件より今の事件です。それに過去の事について根掘り葉掘り調べない事を条件に慧音さんから情報を頂きましたから」
「あなたが慧音から聞いたのは犯人が誰かなのと、今里で起きてる事件とは関係ないということだけかしら?」
「その通りです。でもそれだけでも分かれば真相解明には手助けになりますよ。もしかしてパチュリーさんも事件追いかけてました?記者でもないのに」
まるで、新聞記者ならどんな事にでも立ち入っても構わない。という言葉にパチュリーは文の傲慢さを感じた。
「よかったわね。違うわ。今朝慧音が小悪魔の所に口止めに来たのよ。あなたの所に来たようにね」
「へぇ、今更ですね。事件があったの一ヵ月くらい前ですよね」
「そうよ。その今更の理由が気になったから調べてるの」
これまで黙って聞いていた小悪魔が手を叩いた。
「でもこれで分かりましたね。やっぱり新聞にでちゃったから口止めに来たんですよ」
うんうんと頷く小悪魔。パチュリーは首を静かに横に振った。
「いえ、まだ何も満足していないわ」
「え?」
「慧音がこのタイミングで口止めをしに来た理由はわかったわ。でも慧音が事件の事実を隠そうとしている事もわかった」
「隠そうと……ですか?」
「ええ、私達が突き止めた事実を明らかにせず、なおかつ新聞を読まない私には口止めをしてこなかった。必要以上に私を刺激して騒がれたくなかったのよ」
だとすれば慧音は大いに藪蛇を起こしてしまったに違いない。
「パチュリー様、考えすぎじゃないですか」
「何より気に入らないのは真実を隠していた事。真理、真実は常に暴かれていなければならないのよ」
パチュリーが言うと文はやれやれと首を振った。
「その点に関しては私も同意見ですね。パチュリーさんは烏天狗の才能がありますよ」
「あなた達と同じにしないで頂戴」
「でもパチュリーさん。もう少し立場という物を踏まえてものを考えるべきではないでしょうか」
「どういう意味よ」
パチュリーは文を睨んだ。
「慧音さんの立場という物を考えるべきだと言ってるんです。人間1人死んだところで人間の里はこれから先も続いて行くんです。だったら事実を明らかにするよりも山の神様と変わりなく友好関係を築いて行く方が前向きじゃないですか。神様が人を殺したなんてなったら人間の信仰は集まりにくくなります。すると神力は落ちて里の収穫にも影響が出るじゃないですか。慧音さんのとった行動は組織人としては当たり前なんです。かくいう私も組織の一員ですからよくわかりますよ。その辺が天狗と魔法使いの違いですかね」
小悪魔は納得した。嘘や隠し事もスケールが大きくなれば世のため社会のためになる事があるのかと感心した。一個人の倫理観としては隠蔽は許容しかねる物だが、それで世の中が上手く回っているのならとやかく言うのはかえって無粋だ。今回の慧音の行いはそれに該当していると思われた。
一方でパチュリーは憎々しげに文を睨む。
「どんなに理由をつけて正当化しても嘘は嘘。隠蔽は隠蔽よ。隠し事をよしとした施政はいずれ腐敗を呼び起こし組織を破綻させるのよ」
「あやややや、大それた話に置き換えないでくださいよ。嘘は人間関係の潤滑油。秘密は恋のスパイスです。そんなんだからアリスさんに――」
「そんなんだからパチュリー様はいっつも1人なんですよ!」
大きな声で言ってきた小悪魔にジロリと視線を向ける。
「小悪魔、あなた私が社会不適格者だとでも言いたいの?」
これには先程言葉を被せられた文が割って入るように答える。
「あやや、自覚してなかったんですか?」
「あなたも妖怪の山でははみ出し者じゃないの」
「ああ、私は自覚してますから」
「一本取られましたね」
パチュリーは無言で小悪魔を睨みつけた。
小悪魔の余分な言葉があろうが無かろうがパチュリーは不愉快極まりなかった。自分の信条とも言うべき事に対してのアンチテーゼに賛同する文と小悪魔。特に文はマスコミという事実を明らかにする立場。パチュリーとは似た存在であるにもかかわらず事実の隠匿にある程度の理解を示す。厄介な思考である。
無論パチュリーとて『嘘も方便』という言葉を知っているし頭では理解できる。しかし感覚として受け入れがたい。それはパチュリーが己自身を真理の求道者と定義している事にも原因はあった。
「ま、何はともあれこれでパチュリーさんの気がかりも一つ解決ですね」
文が締めくくった。もちろんパチュリーとしては不本意な幕切れではあるが。
寺の朝は何かと忙しい。
妖怪寺、命蓮寺は熱心な仏教徒の集いというよりも酔狂や面白半分で集まった妖怪の溜まり場と化していた。それでも、聖白蓮は寺の住人には仕事を課す事を忘れない。
一輪やマミゾウが朝食の支度をしているうちに響子が廊下の雑巾がけや門の掃除をする。村紗は今や彼女しか行わない行水を口実に朝の仕事をサボり、ぬえもまた誰かが起きる頃には行方をくらまして仕事から逃げていた。
朝食の後はそれぞれ思い思いの時を過ごしていたが、毎日投げ込まれる文々。新聞を読むのはさらに暇をもてあまし始める昼下がりの事となる。
響子は毎朝門で新聞を拾っていた。響子はあまり新聞という物に好感を持ってはいなかった。物事を伝えるのに何故わざわざ活字という媒体を使うのかが理解できなかった。声の大きい誰かが山の上から大声で伝えてくれれば字を読む必要もない。しかし響子も全くの無教養ではない。命蓮寺で写経をする内に文字には声と違った利点があることに気付いた。文字として紙に残しておけば後世まで記録として留めておく事ができる。それに誰もが好きな時に好きな情報だけを読んで得る事ができる。これは声には無い特性だ。それからというもの響子は積極的に本を読んで知識を蓄えていたが、ジャーナリズムというものが素早く正確な情報を伝える事に主眼を置くべきとの記述を見てからはまた、もとの考えに戻ってしまった。
妖怪の山が土砂崩れを始めたら新聞なんて待っている暇はない。やっぱり声に勝るものはないんだ。
これが彼女の持論だった。そして彼女は小なりともそれを命蓮寺で実践していた。
毎朝一面の記事だけを読んではそれを朝食の席で皆に伝えるのが響子の日課となっている。
この日もお茶碗を片手に魔理沙の家から朝帰りのアリスの記事を皆に伝えた。ほとんどの面々が興味なさそうに聞き流している中で村紗とマミゾウだけが色恋沙汰にあれやこれやと意見を言ってニヤニヤと笑っている。ぬえは朝食にも戻ってきていないし、ある時を境に別居を始めたナズーリンも今はいない。それ程賑やかでない食卓でも響子はやはり日課なのだからと記事を伝えた。
そうやって一面だけ使った新聞は朝食が終われば響子の部屋に放り込まれる。白蓮も星も足しげく里に通っているため正確性にかける文々。新聞を読まなくても世間の動向を知る事はできる。
することもなくなった午後。季節の変わり目を感じさせない程急に暑くなってきた気温を嫌って響子は自分の部屋に戻ってきた。
こまめに片付けているため部屋の中は散らかってはいない。机の上には特に何も置かれてはいないのだが数日分の新聞は畳の上に無造作に投げ出されていた。そのどれもが綺麗に端が揃って折りたたまれている。
部屋の隅の本棚に目をやる。すでに読み終わった何冊かの本に再び手をかける気にはなれず、かといって白蓮から貰った経典の埃を払う気にもなれない。
結局、畳の上に転がって今朝拾った新聞を広げる事にした。
「プリズムリバーのライブかぁ。一度行ってみたいな。でもチケットなんて手に入らないだろうしなあ」
記事を眺めながら思った事を呟く。それが響子流だ。
適当に開いた頁から逆方向に何枚か捲って眺める。程なくして響子は「あっ!」と声を上げると新聞を持って部屋から飛び出した。
ドタドタと騒がしい足音を響かせて駆けこんだのはいつも食事をする居間であった。今は星と一輪がお茶を飲み、白蓮が本を読んで過ごしていた。
「大変ですよ!大変ですよ!」
大声を上げながら飛び込んでくる響子。ビリビリと空気が振動して窓ガラスを揺らす。
「どうしたんですか?騒々しい」
星は思わず耳を塞いだ。
「里で何か凄い事件があったみたいですよ!」
言いながら響子は持っていた文々。新聞をテーブルに広げて連続水死事件の記事を叩く。
紙面を覗きこんだ一輪はため息をついてお茶を啜った。
「あの射命丸の記事でしょ。偶然よ。どうせ大袈裟に書いてるだけだから」
「え!そうなんですか!?」
一々声が大きいので一輪は無意識の内に体を響子から遠ざけるように傾けた。
「それよりもあなたも少しは人間に興味を持つようになったのね。これも姐さんの教育の賜物かしら」
あまり記事を信じていない一輪とは対称的に白蓮と星は浮かない顔をしていた。
白蓮は読んでいた本をテーブルに置いて静かに目を閉じた。
「里でこのような事件が起きているのは事実です。亡くなった方のご冥福をお祈りしましょう」
一輪も慌てて湯呑を置いて白蓮に倣った。あまり寺の外の事情には詳しくなかった事を少しだけ呪った。
短い沈黙を破ったのはやはり響子だった。
「でもこんな事件が起きてたんですね!私知りませんでした!」
「二件水死事件があったのは知っていましたが、まさか三人目の被害者が出ていましたか……」
『事件』『被害者』という言葉に星は敏感に反応して眉を顰めた。最初から犯人がいるという考え方に星は明らかに不快な気分が自分の中に広がって行くのを感じた。
「異変ですかね?犯人は誰なんでしょう」
響子が好奇心で口にした時思わず口をついた。
「探偵ごっこのような事は感心しませんね」
その声は自分で思ったよりも遥かに大きい声で、怒られたと思ったのか響子は体を震わせた。星は取り繕うように
「亡くなった方がいるんです。あまりはしゃぐのはよくありません」
少し俯き加減になった響子に白蓮は微笑みかけた。
「いいじゃないですか探偵ごっこも。どうせ異変なら私達の関係ない所で巫女が解決しますし」
白蓮の許しを得て響子は再び顔を輝かせた。
「聖まで……」
星は不満であったがそれ以上は何も言わなかった。
白蓮は立ちあがる。
「姐さん、どこかに?」
「えぇ、里に少し様子を見に」
「聖が行くなら私も」
星が湯呑を置いたが白蓮は
「いえ、私1人で大丈夫ですから。星はここに居てください。このような恐ろしい事があっては誰かがお寺にくるかもしれません」
「そうですか……」
上げかけた腰を下ろす。響子ははっきりと聞こえる声で探偵ごっこの推理を呟いていた。
「水死なんですよね。水が怪しい。水の妖怪の仕業?」
白蓮が出て行くとほとんど入れ替わりに反対側の戸が開いて村紗とぬえが入ってきた。それには気付かず響子は呟く。
「水の妖怪。水の妖怪……」
「ん?私呼ばれてる?」
村紗が反応して響子はようやく顔を上げた。そして村紗に気付いて「わっ!」と体を後ろに仰け反らした。
ぬえが机の上の新聞に気付いて村紗に記事を見せた。
いち早く反応したのは一輪だった。
「まさか水蜜の事疑ってるんじゃないでしょうね」
睨むような視線を送る。
「まあまあ」
と、言いながらぬえはテーブルの上を飛び越えて響子の肩に腕をまわした。
「ま、推理するのは自由だけどあんまり真相に近づきすぎるのも考えものだよ」
口の端を釣りあげながら村紗に目くばせすると、村紗はすぐにぬえの意図を理解した。そしてぬえと同様の不気味な笑みを浮かべながら響子に近づき手を伸ばす。
「そうだよー。真相を突き止められたら響子も沈めたくなっちゃうかもよー」
村紗の手のひらが響子の頭に触れようかという時
「ひゃー!」
響子は叫び声を上げながら逃げ出してしまった。
ケラケラと笑いだすぬえ。
「ちょっと水蜜、あんまり脅かせてあげないでよ」
一輪が小声を言う。村紗は苦笑した。
「後で謝っておかないと」
「パチュリー様、笑ってくださいよ」
文の所からの帰り道、普段以上にムスッとした主に向かって小悪魔はニコーと笑いかけた。
しかし返って来るのは無表情での一瞥だけで小悪魔はしゅんとした。
不機嫌なパチュリーは心なしか飛ぶスピードが速い。
「あんまり怖い顔してると魔理沙さんに嫌われちゃいますよ」
「そうね。それは困るわね」
言葉とは裏腹にパチュリーは二コリともせず小悪魔を睨みつけた。
眼下には紅魔館を象徴する紅と時計台が望める。しかし小悪魔は考えた。
このまま主を図書館に籠らせてしまっては『動かないしかめっ面』の二つ名をつけられてしまうのではないか。そんな主の下で働いていると世間に言われるのは心底心外であった。
何かパチュリー様を笑顔にさせる方法はないものか。
とんと思いつかず、小悪魔は自分に置き換えて考えてみる事にした。
一体自分は何をしたら笑顔になるのか。その答えはすぐに見つかった。
「パチュリー様!美味しい物を食べましょうよ」
古今東西人妖問わず美味しい食べ物は人を笑顔にする。魔女も悪魔もその点に変わりない。それに今はもう昼下がりだというのに昼食を食べていない。小悪魔もちょうどお腹が減っていた。
「いらないわ。私は食べなくても平気だし」
だがパチュリーは捨虫の法で食事も睡眠も殊更必要では無かった。空腹にはなるし眠気も感じるが、疎かにしたとて生命活動には支障は来たさない。小悪魔は魔法使いを主に持つ厄介さを身に染みて理解したが諦めはしなかった。
「そんなこと言わずに。里におしゃれなカフェテリアができたらしいんですよ。行きましょうよ」
単純な腕力だけで言えば小悪魔の方が強い。パチュリーは腕を引かれ、力任せに小悪魔に連れて行かれた。
ついた先は『enfer』という看板を掲げたオープンカフェであった。現代的なカフェテラスにさり気なく散りばめられたクラシカルな装飾はパチュリーの趣味に合致するところではあった。
店主とは気が会いそうだ。機嫌はあまり良くなかったがその点は素直に認める。しかし里の雰囲気にあっているかと言うと菊の花の中に一本バラを差し込んだような感想だ。
「あなたにしてはおしゃれな店を選んだわね」
「いやぁ~私も来るのは初めてなんですよ」
「『enfer』フランス語で魔界ね」
「へぇ、そうなんですか」
小悪魔は納得したように頷く。店の外観、雰囲気からノスタルジックな気持ちになっていたが名前からしても魔界とは。
「でもまだ開店してないみたいですね」
それだけに入口にかかった「closed」の札が残念でしょうがない。開店時間はとっくに過ぎているのだが、今日は休業だろうか。
ぐ~
お腹が鳴る。
向かいの蕎麦屋もしまっているし小悪魔はそろそろ空腹で倒れたくなってきた。と、
「ごめんなさい。今から開けるから」
店の前の人影に気付いたのかカフェの奥から張りのある女性の声が聞こえた。
パッと華やいだ小悪魔の顔は店の奥から顔を出したのがアリス・マーガトロイドだと気付いて凍りついた。アリスもまたパチュリーの顔を見て足を止めた。
「あら、ここはアリスのお店だったのね」
パチュリーは何も気にせずテラスへと足を踏み入れた。
「パチュリー様!私突然お蕎麦が食べたくなりました!」
「あらそう。私はここがいいけど」
「やっぱり日本ですからお蕎麦食べましょうよ!魂がジャパニーズフードを欲してます」
「アリスは和食も作れたわよね?」
「え、えぇ……まぁ」
そんな短い返事も待たずにパチュリーはズンズン進みテラスの奥の席に腰かけた。
小悪魔にはもはや成す術は無かった。
「でもどうして店なんて開いたの?そんなことしなくてもあなたは里では人気者でしょう?」
「まぁ……慈善事業と暇つぶしって所かしら」
どことなく気まずそうに答えるアリス。
「そうね。私達にとって暇は持て余して尚捨てる程溢れてくるものね。私も本のレンタル事業でも始めてみようかしら」
「あー、いいんじゃないかしら」
アリスは適当にしか返事をしていないがすっかり気分をよくしたパチュリーは気付いていないようだった。
この2人は魔理沙さえいなければきっといい友人になっていたに違いない。小悪魔はそう思っていた。それが魔理沙という共通の『占有したい事項』が存在するためにしばし争うような事になってしまった。同時代に2人の乙女が生きるには幻想郷は狭すぎた。
メニューで隠れるようにしながら小悪魔は2人の顔を見比べていた。
「私はこの特性パフェというのを貰おうかしら。小悪魔はどうするの?」
「えっ!えっと……じゃあナポリタンとメロンソーダでお願いします」
アリスは無言で注文をとると足早に奥に下がって行った。
「あなた蕎麦が食べたいんじゃなかったの?」
「ええっと……小悪魔というのは移り気な種族なんです。今はイタリアンな気分でして」
「メニューにないからって遠慮することはないのよ。アリスなら頼めば作ってくれるでしょう。手先が器用だもの」
「はぁ……」
「正直羨ましくもあるわね。あの器用さは。私ももっと器用だったら色んな研究ができたのだろうけど」
人のいいところを素直に認めるのは美点だ。パチュリーに他意はないだろうが小悪魔には聞くに堪えない言葉であった。いずれ魔理沙とアリスがすでにできているという事実が耳に入ったらどのような呪いの言葉を口にするのだろうか。不器用で藁人形が編めないのがせめてもの救いか。
小悪魔が居心地の悪い時を過ごして少し待つと2人のもとに料理が運ばれた。人形が運んでくるというのは演出なのか近づきたくないからなのかはわからない。
「まぁ悪くはないわね」
一口目を口に運んでパチュリーは率直に感想を口にした。
小悪魔もナポリタンをフォークで巻き取って一口。まずくはないが特段褒めるような美味しさでもない。なんとなくアリスらしい味付けだった。
しかし空腹は最良の調味料とは言いえたもので小悪魔は自分で思っているよりも遥かに幸せそうな顔でナポリタンを頬張っていた。それを見ながら甘い物を食べるパチュリーからも笑みが零れる。
和風な人間の里にあってはやや異質だからなのだろうか。小悪魔が皿の上を空にするまでに他の客はやって来ない。アリスもそれを不満に思うどころか受け入れているようで、2人から離れたテーブルで裁縫を始めていた。その自由な様子が妙に田舎らしく、そこだけは幻想郷に馴染んでいた。
追加で紅茶でも注文しようか。そう思った矢先、不意にパチュリーの視界に何か動くものが飛び込んできた。
見ると射命丸文が民家の屋根の上を隠れるように飛んでいる。その視界の先には閉まっていた向かいの蕎麦屋の戸が開き中から2人の女性が出てくる様子が窺える。片方は知らない人間。だがもう片方は聖白蓮その人であった。
2人は何やら話していたがその様子はあまり和やかとは思えない。
「アリス、向かいの蕎麦屋何かあったか知らない?」
パチュリーが訊ねるとアリスは一瞬だけ手を止めたがすぐに作業を再開しながら答えた。
「あぁ、御主人が亡くなったみたいよ」
「へぇ……」
主人を亡くした未亡人、その未亡人を訊ねる聖白蓮、そしてそれを観察している文。これらを繋げるのはパチュリーには造作も無い事だった。
やがて白蓮が去り、その後を文がつけて行くのを見てとったパチュリーは徐に立ち上がってさらに後を追った。
「ちょっとパチュリー様!」
小悪魔は慌てたがアリスは裁縫に没頭して気付いていないようで、残ったメロンソーダを胃に流し込むと黙って飛び去った。
パチュリーは尾行術という物を習得した覚えは無かったが、前方にだけ注意を払っている文の後をつけるのは容易だった。文が羽を休めるとその前方の白蓮は一軒の家の戸を叩いていた。
「パチュリー様、どうしたんですか突然?」
ようやく追いついた小悪魔の口をパチュリーは塞いだ。
「静かにしてなさい」
自分の口に被さる手を剥がして小悪魔は極力小声で話す。
「また変な事に興味を持っちゃったんですか。悪い癖ですよ」
その自覚はあるが止められるものではない。
「アリスが暇つぶしに店をするのよ。私が暇つぶしで謎解きをして何が悪いのよ」
「それで今度はどんな謎を解こうとしてるんです」
小悪魔の声には多分に諦めの色が含まれていた。
「人間の里連続水死事件よ」
普通の妖怪なら興味を持ちそうにない事に……
小悪魔はどうせなら霧雨魔理沙殺人事件の方がいいと思ってしまった。それならばパチュリーが真相を解明しようとするのに正当性はあるし何より幻想郷の誰もが興味を持つに違いない。
しかし現実にそんな事件が起きる事など望んではいない。関係ない人間が何人死のうが小悪魔には所詮関係の無い話で、今回事件と呼ばれている出来事もどこまでも他人事。殺人なんて代物は別の世界の出来事でしかなかった。
そうこうしている内に白蓮が家から出てきた。今度は先ほどよりも遥かに険悪なムードが漂っている。とは言っても白蓮が一方的に責められているように見える。
戸がピシャリと音を立てて締められ白蓮と文が再び動き出す。パチュリーはその民家の表札を確認した。
「小悪魔、この家の住人が水死事件と何か関わりがあるか慧音の所に行って照会してきなさい」
「えー、私がですか?」
「文句言わないで」
有無を言わせずパチュリーは小悪魔の背中を押しやった。
響子は寺の裏手の墓地を散歩していた。
昼間は暑く感じられても日が傾きはじめると涼しさが増す。心地よい風に犬のような耳が揺れた。
本気で村紗の事を疑っていたわけではない。ただ少し驚いただけで後から謝られて誤解はすっかり解けていた。
あの後村紗はぬえを連れ立って遊びに行ってしまった。
「その直前にナズちゃんが来たんだよね」
響子は誰ともなく呟いた。響子は個人的にナズーリンの事が気に入っていた。現に仲は良かったし一緒に仕事をした事も多々ある。今は1人あずま屋で暮らしているがそれが残念でしょうがない。
今日もナズーリンが枇杷を持って来た時は嬉しかったが、星と仲睦まじそうに食べている光景を見てなんとなく邪魔してはいけない雰囲気になって出てきたのだ。
響子は落ちていた小石を蹴った。墓石に当たってカツンと跳ね返る。
「おおい、響子や」
後ろから声をかけられて響子は振り返った。マミゾウが手を振ってこちらに歩いて来ていた。
「おぬし、ぬえを見とらんか?」
「ぬえちゃん?ぬえちゃんなら村紗さんと遊びに行ったよ」
「むむむ……そうか。ぬえの奴おらんのか」
マミゾウは腕を組んで唸った。
「どうかしたんですか?」
響子が訊ねるとマミゾウはポケットに手を突っ込んだ。
里の外れでパチュリーと小悪魔は合流した。
「遅かったじゃない。で、結果はどうだったかしら?」
パチュリーは労いの言葉よりも先に訊ねた。小悪魔はポケットから手帳を取り出す。
「パチュリー様の思った通り関係ありましたよ」
「被害者遺族かしら」
「あぁ、いえ。そっちではなく発見者の方です。最初の事件の」
「発見者ねえ」
「川で魚をとる事を仕事にしているようですがその時に網に死体が引っかかったようです」
「そう。でもこれで確定したわね。聖白蓮は独自に水死事件の謎を追っている」
パチュリーが告げると小悪魔はニヤリと口元を歪めた。
「でもパチュリー様。わかったのはそれだけじゃありませんよ」
使い魔の思わぬ言葉にパチュリーは眉を吊り上げた。
「実はその最初の事件の時に網にもう一つ掛っていたものがあるようなのです」
「掛っていた物?」
「笹舟です」
小悪魔は人差し指を立てて言った。
「もちろん笹でできた舟です。そうそう沈んで川底の網にかかるとも思えません。そこで調べてみたんですが、第二の事件、第三の事件の時でも水の中に笹舟があったらしいんです。ちなみにこの事実は慧音さんみたいなごく一部の人しか知らないみたいですよ」
「隠蔽体質甚だしいわね。それにしても笹舟……興味深いわね」
「はい。ダイイングメッセージでしょうか。笹と言えばやっぱり大陸から来たパンダという生き物が真っ先に浮かびますが」
「殺される者がダイイングメッセージを残すなんてのは推理小説の世界だけよ」
探偵のように気取っている小悪魔を一刀両断しパチュリーは続ける。
「それに笹に着目する点には脱帽だわ。まずは舟を疑ってみるべきじゃないかしら」
一連の水死事件。犯行現場に残される舟。調査をしている白蓮。
パチュリーは小悪魔に向かって告げた。
「行くわよ。小悪魔」
「行くってどこにですか?」
「決まってるじゃない。命蓮寺よ」
パチュリー達が命蓮寺についた頃には太陽は稜線のすぐ上にまで沈んできていた。人間の里では炊事の煙があがり、反対に妖怪が跋扈する他の地域では賑やかさが増して来たように思える。
特に太陽の畑の喧騒は遠く離れた命蓮寺にまで伝わってきていた。
「ああ、そう言えば今日はプリズムリバーライブでしたね」
日没間際に始まるライブのために多くの妖怪がチケット片手に参集している頃だ。
パチュリーは全く興味なさげに寺の門をくぐった。
人の気配を感じて真っ先に出てきたのは雲居一輪だった。
思わぬ来客に一輪は驚く。
軽い挨拶を交わし白蓮に用があると告げると寺の本堂に通された。
一段高くなった場所には本尊である星が座るための金色の座布団が置かれており、人も妖怪もここに集まって1人の妖怪を有難がるのかと思うと途端に胡散臭さが立ち込めてきた。小悪魔はそんな事を慣れない正座を強いられながら考えていた。
数分と待たず白蓮が本堂に現れた。
相変わらずの暑そうな服装であったが慣れた様子でパチュリー達の前に正座をした。
すぐ後に現れた一輪が3人にお茶を出す。
「あの、お茶菓子とかは無いんですか」
小悪魔の厚かましい要求に一輪は露骨に嫌そうな顔をした。
失言だったか!と、すぐに気付いた小悪魔であったが白蓮は優しげに笑いかけた。
「台所の戸棚にお煎餅があったわね。ぬえに食べられてなければまだあると思うけど」
一輪は黙って頷いて出て行った。
口火を切ったのは白蓮だった。
「それで、今日はどういったご用事かしら?入門しに来たとは思えないけど」
「単刀直入に言うわ。里で起きてる連続水死事件についてあなたはどこまで知っているの?」
柔和な表情の白蓮とは違いパチュリーは徹底的に感情を排した表情で話を切り出した。それでも白蓮は表情を崩さない。
「どうして私にそんなことを?」
「悪いけど昼間後をつけさせてもらったわ」
「そう。何か視線を感じていたけどあなた達だったのね」
白蓮の声に責めるような色はまるでなかった。あくまでも丁寧に、客人として迎えている声だ。
実際に文もつけていたのだがその事は黙っておいた。
一輪が菓子鉢に入った煎餅を持って入ってきた。その間対面する二人は無言でお互いを見つめており、一輪は奇妙なものを見るような気分で退場していった。
戸の閉まる音と共に白蓮は会話を再開した。
「あなたも事件の事を調べているの?」
「えぇ」
「それは何故ですか?」
僅かにだが白蓮は語気を強めた。
小悪魔は手のひらに汗を滲ませる。主は興味本位だなんて正直に答えて不興を買うのではないか。
「社会正義なんてものは振りかざさないわ。物事の真相、真実を突き止めるのに理由は必要かしら?それが魔法使いというものよ」
白蓮は静かに頷いた。
「元人間という点では私の方が俗っぽいけれど。やっぱり魔法使いというのは強欲なのね」
パチュリーは眉を顰めた。
「悪いと言っているんじゃないわ。ただ自戒の意味を込めてね」
白蓮の表情はやはり柔和なものだった。
パチュリーは聖白蓮が自分よりはるかに年を経た魔法使いであることを思い出した。
「私としては、誰が犯人で何が真相だろうがそれを誰かに売り渡すつもりは無いわ」
「その点は約束できそうですね。でなければ私の所に乗り込んできたりはしないでしょうから」
「だから私も気になるのよ。あなたは犯人を見つけてどうするつもりなのか」
「もう、わかってるんじゃないですか」
白蓮が続きを述べるよう無言で促す。
「教え諭し導きます。それが私の信じる道ですから」
パチュリーはその答えに疑念を抱いた。本当にそれだけが理由なのか。もちろん世に聞こえる聖白蓮という人物はそういう人物だ。人間も妖怪も分け隔てなく救いの手を差し伸べる。だが、もっと別の動機があるようにも思える。しかし、今はその事には触れないでおいた。
「たとえどんなに里の人間から憎まれていたとしても?」
「過ちを認め悔いて、罪を償う事ができれば許されると、私は信じています。村紗もかつては多くの命を奪ってきた妖怪でした。しかし私に救いを求め、今は立派に務めを果たしています」
ここで村紗の名前が出てきた意味をパチュリーは考えようとする。だがその間は与えられない。
「私はあなたの事を協力者だと思っていいのですね」
「えぇ、でももう一つだけ聞かせて。もし、犯人が悔い改める事も、反省もしていなかったとしたらあなたはどうするのかしら?」
訊ねた一瞬、白蓮の柔和な表情に翳りがさした。
「そうですね……その時は、私自ら手を下しましょう」
小悪魔は白蓮の柔和な表情の裏側に裏寒いものを感じた。
これにて話はおしまい。とばかりに白蓮は謝辞を述べると本堂を後にした。
残された2人は湯呑の中のお茶を飲み干す。
「聖白蓮は一つだけ私達に言わなかった事があるわ」
「はい?」
「おかしいとは思わなかった?彼女は犯人が妖怪である事を前提で話していたわよ」
「え、でもこんな事件を起こせるのってやっぱり妖怪なんじゃないですか?」
「そうね。でももう一つ。犯人が反省していない時は自ら手を下すとまで明言したわ。一体彼女にどういう権限があってそれができるのかしらね?」
「え?どういう事です?」
「人間に害を与えて平気な顔をしている妖怪なんてのは幻想郷にはざらにいるわ。それを踏まえれば聖白蓮が一妖怪の生き方に裁きを下す道理なんて存在しないのよ。流石にそこまでの狂人だとは思えないしね」
「えっと……つまり……」
「つまり、聖白蓮が今最も疑ってるのは彼女の教えを受けた者。だとすれば自ら手を下すという言葉にも一応の正当性が生まれる。そして、私が今最も疑わしく思っているのは村紗水蜜よ」
「えっ!でもパチュリー様は一度村紗さんの無実を証明したじゃないですか!」
「一度無実だった者が全て無実だとは限らないわ」
「それはそうですけど」
「せっかくここまで来たんだからちょっと寺の中を探ってみましょうか」
そう言うとパチュリーと小悪魔は正座で痺れた足でよたよたと歩き出した。
「勝手に人の家を歩き回って見つかったら怒られませんかね」
小悪魔はきょろきょろと辺りを警戒しながら寺の中を歩いていた。
「魔理沙はいつもやっていることよ」
反対にパチュリーは堂々としている。
パチュリーからすれば魔理沙と同様に語られるのは嬉しい事なのかもしれない。しかし小悪魔にとってはそうではなかった。
村紗は居間でぬえとじゃれて遊んでいた。畳の上に寝転がっていたがパチュリーの姿を見て体を起こした。
「あれ、パチュリーと、……小悪魔ちゃん?」
柱の陰に隠れていた小悪魔はおずおずと出てきた。
からかい甲斐のある奴が来たとぬえは白い歯を覗かせたが、村紗はそんなぬえの企みなどお見通しで頭を押さえつけた。
「コラぬえ。この2人は私の恩人なのよ」
「恩人?村紗に私以上の恩人がいたの?地底に封じられた時に1人でビービー泣いて――いぎぎぎぎ」
ますます強い力で抑えつけられてぬえは閉口した。
「この間妙な事件に巻き込まれた時に助けられたのよ」
今度は疑いに来たとは小悪魔には言えなかった。
「妙な事件?」
ようやく抜け出したぬえが訊ねる。
「あ、詳しくは秘密ね」
パチュリーは慧音の口止めがここまで及んでいる事を感じた。
「で、今日は何事?」
「今里で起きてる水死事件についてあなたの話を聞きたいの」
「ああ、あれか」
と、村紗は頭を掻いた。
「正直迷惑な話よ。ぬえと遊びに行った先でも会う妖怪、会う妖怪、今時気骨な妖怪だって褒めてくるんだけど……身に覚えの無い事で褒められてもねぇ」
「何?まさか村紗疑ってる?」
ぬえがちゃちゃを入れた。
「だったら一輪の前で言わない方がいいよ。それ。殴られるかもよ」
「え?ぬえは怒ってくれないの?」
「私は悪事を薦めるダークヒーローだからね」
取りとめも無い話に発展しそうになったのでパチュリーは中断させようとした。しかし村紗の方がおしゃべりで口の回転は速かった。
「でもパチュリーは私の事よりも他に気にする事あるでしょ」
「気にする事?」
「あれ?その様子だと知らない?」
言いつつ村紗はテーブルの上に広げられたままの新聞を手に取った。
「あっ!」
小悪魔は瞬間的に村紗に飛びかかろうとしたが、それはぬえによって邪魔された。
「ほれ」
村紗が掲げた新聞の一面を見て、パチュリーはそのまま気を失った。
「どうするの?これ」
ぬえは気絶したパチュリーを指さして言った。
「このまま放っておくわけにもいかないでしょ」
先程から小悪魔が揺すっているが一向に起きる気配が無い。
騒ぎを聞きつけて他の面々も集まりだした。
「全く船長は困った事をしてくれたな」
ナズーリンが小言を言う。
「まさか気を失うなんて思わなかったんだもの」
「おーい。生きてるか?」
とはぬえ。
「ぬえ、物騒な事言わないでくださいよ。私はレミリア・スカーレットになんて説明すればいいんですか」
星が窘めるとナズーリンが横から
「その時は射命丸のせいにすればいいさ」
「ナズまで!」
「戦争が起きるならマミゾウ呼んどいて正解だったね」
「ぬえ、あなたは黙ってなさい」
「とにかく」
白蓮が言葉を発すると皆そちらを向いた。
「このままここに寝かせておくと風邪を引いてしまいます。とりあえず私の部屋に寝かせましょう。小悪魔さん、悪いけどしばらく側にいてあげてくれますか?」
「……はい」
「……魔理沙、……魔理沙ぁ」
パチュリーは魘されていた。そして同時に夢の中にいた。
『パチュリー、私達結婚することになったんだ。だから図書館にはもう来れない』
パチュリーはいつもと同じ紫色のパジャマを着ている。それなのに魔理沙は真っ白なタキシードに身を包んでいた。
『お別れだけど私達幸せにやっていくから』
魔理沙の横にはいつの間にか同じく純白のウエディングドレスに身を包んだアリス。
『ほら、パチュリー見て。私と魔理沙の子供よ』
アリスの腕に抱かれた小さい女の子。それは傍目には上海人形だったが夢の中のパチュリーには2人の赤ちゃんのようにしか感じられなかった。
ふと、急に辺りが真っ暗になり、魔理沙とアリスが立っていた場所にはいつの間にか小悪魔が立っていた。小悪魔は不気味に口元を歪ませ
『そんなんだからパチュリー様はいっつも1人なんですよ』
まるで壊れたレコードのように同じ言葉を繰り返し続ける。その数は次第に1人から2人へと、そして3人4人と増え続け、やがてパチュリーの周りをぐるりと取り囲んだ。
『そんなんだからパチュリー様はいっつも1人なんですよ』
その輪の中に魔理沙も、そしてアリスも加わる。
『私達結婚することになったんだ』
『私と魔理沙の子供よ』
『いっつも1人なんですよ』
「やめて!」
パチュリーが耳を塞いで叫んだ時、腹部に鈍い痛みが走ってパチュリーは目覚めた。
見てみると小悪魔が座ったまま眠りこけて頭をパチュリーのお腹に突っ込ませている。
「……悪夢だったわ」
「うーん……あ、パチュリー様起きましたか?」
「ええ、あなたのおかげでね」
「そう言う割にはどうして睨んでるんですか?」
小悪魔は怯えた目でパチュリーを見た。
「苦しめられたけど解放もしてくれたからイーブンってとこね」
「何の事です?」
「何でもないわ」
パチュリーは布団から出て立ち上がった。外はもうすっかり暗くなっており小悪魔が部屋の電気をつける。
パチュリーは異変に気付いた。
「電灯?紅魔館じゃないわね」
「命蓮寺です。パチュリー様は気を失ってたんです。えっと……」
言葉を濁す小悪魔。
「そうだったわね。新聞記事を読んで」
「え、あ、はい」
「耐性はついたわ」
「はい?」
「延々聞かされてたものね」
小悪魔はさっぱり分からなかったがこれ以上気にする事はやめた。
パチュリーはさも何事も無かったかのように部屋を出た。小悪魔も続く。
廊下の電気はついたままだが誰もいない。
「妙に静かね」
「……そうですね」
居間についてもつけっ放しの電気と飲みかけの湯呑。中のお茶はすっかり冷めていて大分前から誰もいないのがわかる。
「夜のお寺って不気味ですよね。おばけが出るんじゃないでしょうか」
「それが悪魔の言葉かしら。にしてもこの状況、異常ね」
パチュリーが冷静に言うと小悪魔は震え上がった。そして背中に悪寒を感じて思わず振り向く。
「キャッ!おばけ!」
小悪魔の背後には村紗が立っていた。おばけという小悪魔の驚きは的を射ていた。
「パチュリー目が覚めたのね。さっきはごめん」
「それはいいわ。それよりどうしたの?電気はつけっ放しで誰もいないし」
言いながらパチュリーは警戒を怠らなかった。もし村紗が連続水死事件の犯人だとしたら……
「それはつまり……こういうことさ!」
村紗は手を後ろに回し柄杓を取り出して構えた。
パチュリーは瞬間、スペルカードを1枚取り出す。レクリエーション用の弾幕でも長ったらしい魔法の詠唱より即効性がある分有効だ。
「日符――」
「わぁー!ちょっとたんま、たんま。冗談よ。冗談」
村紗は慌てて小悪魔の背後に隠れた。
「冗談?」
「ちょっと脅かそうとしただけだから」
「それは本当かしら?」
「ほんとほんと」
言いながら持っていた柄杓をパチュリーの方に投げ捨てる。
「じゃあ他のみんなはどこに行ったのかしら?」
村紗は小悪魔の後ろに隠れたまま
「聖を探しに行ったのよ」
「探しに?」
「そ、聖が寺のどこにもいないの。だからみんなで外に探しに行って。私は居残り」
「いなくなったってどういうことです?」
「いや、それはわかんないよ」
パチュリーと小悪魔は顔を見合す。
と、
「きゃあああああああああああ」
外から突然の叫び声が聞こえた。
「一輪の声だ!」
村紗は2人の間をすり抜けて勝手口から外に出た。
「これは冗談じゃなさそうね。行くわよ!」
「え、でも靴は表に」
「飛べばいいでしょ!」
言うが早くパチュリーは外に飛び出す。小悪魔も慌てて羽を広げた。
外の暗闇で村紗の姿は見失ったが他にも声のした方向へと駆けよる人影があった。パチュリーはその後を追いかける。
木々の開けた場所。そこが墓地だとわかる頃には村紗達命蓮寺の面々の姿が確認できた。
一様に棒立ちとなっている彼女達の視線の先には、背中に深々と包丁をつきたてられて倒れている聖白蓮の姿があった。そして、その目がすでに生気を失っている事は近づかなくてもわかる事だった。
居間には重苦しい空気が流れていた。誰も一言も喋らず小悪魔は居心地悪そうに主を見遣ったがパチュリーも黙ったまま見渡していた。
やがて白蓮の遺体を運んでいた星と村紗が部屋に入ってきて全員が揃った。
沈黙を破ったのは星だった。
「背中を包丁で一突きでした。それ以外には傷はありませんでした」
俯いたまま抑揚の無い事務的な言葉で告げる。
「明日以降の寺の催事は一先ず中止として烏天狗に頼んで訃報を伝えます」
あくまで感情を排した言葉。星が気丈に振舞おうとしている事は皆に伝わった。
だが、全員がそうできるはずは無かった。
「そうじゃな。じゃがその前に……犯人を探す事の方が先決じゃろう」
押し殺すような声でマミゾウが言った。星は伏せていた目を上げるだけだった。
「包丁で刺したなら誰かの仕業じゃろう。その犯人を見つけ出さんことには聖も浮かばれん」
その言葉にほとんどが頷く。
「でも……」
響子が普段では考えられないような小さな声を出した。
「犯人捕まえてどうするの?」
「決まっておろう。八つ裂きじゃ」
一同が頷きかけた時、星がはっきりとした言葉でそれを否定した。
「聖ならば、そのような事を望んだりしません」
「じゃがしかし……」
「私だって許せません。ですが、復讐は聖の望むところではありません。犯人探しは無論やりますが、何より私達は聖の意思を継がなくてはならないのです」
そう言って一同を見渡す。
いち早くナズーリンが
「わかったよ。御主人」
それに釣られるように各々頷く。
「そうよね。姐さんがそんな事許すはずないもの。でも……なんであなた達までいるわけ?」
一輪の言葉と共に全員の視線がパチュリーと小悪魔に注がれた。
「え!いえ、これは何というか成り行きで」
小悪魔が弁解の言葉を口にするとナズーリンは鼻で笑いながら言った。
「だって帰す訳にはいかないだろう。一番怪しいのは君らじゃないか」
「なっ!」
「そうだろう。君達が来て聖が殺されたんだ。疑うなって方が無理さ」
「私達はずっと聖さんの部屋にいました」
すると今度は一輪が
「それを証明することはできるの?」
「証明って……」
「いや、あるいは本当かも知れんぞ。聖の部屋で盗みを働こうとして見つかったから」
マミゾウが敵意の籠った目を向けた。
小悪魔は必死に訴える。
「そんな泥棒みたいな真似しません!」
「泥棒みたいに柱の陰でコソコソしてたじゃん」
「ぬえ!」
村紗が窘めるが全員の疑惑はパチュリー達に向けられた。
小悪魔は不安そうに主の方を向く。
「パチュリー様も何か言ってくださいよ」
黙って聞いていたパチュリーはフッと笑った。
「いいのよ言わせておけば。私達が犯人でないのは揺るぎない事実なのだから」
「それをここにいる全員に信じらせる事ができるの?」
一輪の言葉は的を射ているように小悪魔には思えた。現状自分達の無実を証明する手立てが見つからない。しかしパチュリーは余裕たっぷりに答えた。
「そうね。信じてもらう事は不可能かもしれない。でも唯一証明する方法があるわ。私達が真犯人を見つける事よ」
「え?」
「そんな事ができるって言うのかい?」
マミゾウは机を叩いた。
「あなた達がそれでもいいのなら、私はそうさせてもらうわ」
一同の視線が星に注がれた。
星はしぶしぶながらといった様子で頷く。
「いいでしょう。ですが犯人探しはこちらでも行います。ナズーリン、あなたが適役でしょう」
ナズーリンは無言で星を見ていたがやがて頷いた。それを見た星が続ける。
「今夜はもう遅いですし、今日はここに泊まって行ってください。犯人探しは明日からでいいでしょう」
「そうさせてもらうわ」
「でも星、空いてる部屋なんて……」
「私が使ってた部屋を使えばいい。今夜は御主人の所で休ませてもらうよ。もっともこんな事があったんだ。皆も誰かと一緒がいいだろうな」
そう言ってナズーリンは星の方を見遣る。
「そうですね。では……村紗とマミゾウと響子の組と、ぬえと一輪で組になって休みましょうか」
かつてナズーリンが使っていたという部屋で小悪魔は畳の床に布団をしいていた。まさかこんな事で外泊になるとは思っても見なかった。
「なんだかどんどん変な方向に巻き込まれてますね」
最初は慧音の行動にケチをつけ、次に人間の連続水死事件に首を突っ込み、そして今度は白蓮を殺した犯人扱いだ。たまったものではない。
パチュリーはというと部屋の中を見て回っていた。
と言ってもそれ程見るべき物もない。今は使われていないからか壁際には箱がつまれ、本棚の古書はそれこそ読む者の少なそうな歴史書の類ばかり。それさえも乱雑に置かれている様は倉庫そのものであった。
「まさか犯人呼ばわりされるなんて……」
「あなたはすでに殺されかけたり、死体釣りあげたり、誘拐されてるじゃないの。今更犯人呼ばわりされてもどうという事はないでしょう?」
「あー、そうでした」
今年は厄年に違いない。
「それと、あなたは勘違いをしているわ。私達が調べていた水死事件と聖白蓮殺害は密接に関係している。と、私は推測しているの」
「関係ですか?」
「そう。何故なら聖白蓮もまた、水死事件について犯人を追っていた。その矢先に殺されたのよ」
「つまり両方の事件の犯人は同じで、白蓮さんは犯人が誰かを知ってしまったから殺されたんですか?」
「その可能性もあるってことよ」
「だとしたらまずいですよ!次は私達が狙われるじゃないですか!殺されるのなんて体験したくないですよ!」
「あくまでも可能性の話よ。でも仮にその仮定が成り立たなかったとしても私達は聖白蓮殺害の犯人にとってみては都合の悪い存在に違いないでしょうね」
そう言ってパチュリーはクックと鼻を鳴らした。
「何れにせよ、犯人は私達が見つけ出すわ。殺される前にね」
翌朝、小悪魔は一睡もできなかった目を擦りながらパチュリーに付き従って白蓮の遺体が発見された場所、それと安置されている部屋を訪れていた。星とナズーリンがそれに立ち会っている。
遺体が見つかったのは墓場の中でも特に奥まった場所であった。しかし、殺害現場は一概にそこと決まったわけではなく墓地のごく入口、寺からも近い場所とも考えられた。その証拠として墓地の入口から遺体発見現場まで引きずったような血痕が残っていた。
夜の暗闇の中でも発見を遅らせるための工作か、それとも発見させるためにわざと血痕を残したのか。その意図は今はわからない。
そして聖の遺体はというと昨夜星が言った通り包丁以外の外傷は見当たらない。それどころか争ったような跡さえ残っていない。背後から急所を一突き。不意を突けば犯行は誰でも可能そうに思える。
「あなた方に調べさせるとは言いましたが、聖の身体をかまう事は許可しませんよ」
かまう。という言い方だけをとっても星の慎重な性格が窺える。
「いいわよ。私は医学的知識にはそれ程詳しくないから解剖なんてしても何も解らないでしょうね。それよりも凶器となった包丁なんだけど、見てもいいかしら?」
するとナズーリンは顔を曇らせた。
「見てもいいが、あれは寺の台所から盗まれた物だった」
「台所から?ということは内部犯の可能性が高いということかしら」
「君達だって寺にいたんだ。包丁を持って行く事は可能だろう」
「何はともあれ全員のアリバイを取る事が大切じゃない?」
ナズーリンは返答はせずに星の方を窺った。
「言う通りにしましょう」
主人の言葉にナズーリンは承服しかねると言った様子であったが従う事にした。
「わかったよ。みんなを居間に集める。それでいいだろう」
全員を居間に呼び集める。それまでの間パチュリーと小悪魔については星が1人で見張る事になった。
3人だけになった部屋でパチュリーは星に訊ねる。
「昨夜の部屋割、あれには何か理由があったの?」
星は怪訝な顔つきになった。パチュリーは続ける。
「あなたとナズーリン。ぬえと一輪。マミゾウと響子と村紗。この部屋割を決めたのはあなただったわよね」
星は表情を変えずに
「特に意味なんてありませんよ」
「そうかしら。私にはあれは村紗を監視するような組み合わせに思えたのだけど」
「監視?どうしてそんな事を」
「村紗を仲のいいぬえと一輪から遠ざけて響子とマミゾウの目で監視する。犯人が内部にいるとしたら単純に大勢でいる方が抑止力になるわ」
「私は外から身を守るための組み合わせを考えただけです。力の均衡がとれるように。一輪には雲山がついていますし」
「なるほど。納得のいく理由ね」
パチュリーは頷いてそれ以上の追求はしなかった。
今度は星が
「パチュリーは村紗を疑ってるのですか?何故です」
「私はこの事件が人里の水死事件と関係していると思っているわ」
「あなたも……事件だと言うのですね……」
星の顔に今までにない翳りが過ったのを小悪魔は見逃さなかった。
ちょうどぞろぞろと他の面々が入ってきて2人の会話はここで中断された。
「事件当日の事について聞こうと思うわ。まず、最後に聖を見たのはいつか明らかにしましょう」
パチュリーは一同に会した面々の前に座った。小悪魔は横に座りペンとメモを構える。さながら助手であった。
マミゾウは、他所者に嗅ぎ回られるのは好かん。と言いたげに腕を組んでいる。他の者も押し黙ったままだ。
しかし凶器の包丁が命蓮寺の物である事は既に知れ渡っており、誰も内部犯を疑うパチュリーを批難しなかった。
最初に口を開いたのは意外な事に村紗だった。
「みんな協力しようよ。私が最後に聖を見たのは晩ご飯の時だった」
「晩ご飯というと何時頃かしら?」
そのパチュリーの問いかけには横にいた小悪魔が答えた。
「パチュリー様が倒れた後ですから6時頃でした。私もご相伴に与りましたよ」
パチュリーは目を細めた。
「あなたの分の食事が準備されていたって事かしら」
相変わらず妙な所に気付くと小悪魔は下を巻いた。今はご飯の事なんて関係ないのではないか。
するとぬえが呟いた。
「そう言えばあの時マミゾウと響子いなかったよね。代わりにナズーリンがいたからプラスマイナス0だ」
名前が出たマミゾウと響子はビクッと体を震わせた。すかさずパチュリーは追求する。
「いなかった。というのはどういうこと?」
初めに答えたのはマミゾウだ。
「儂はプリズムリバーのライブを見に行ってたんじゃ。太陽の畑で開かれた奴にな。半券見るか?」
マミゾウは首から釣るした蝦蟇口の財布からチケットの半券を出してパチュリーに渡した。
「わざわざとっておいたの?」
「記念じゃよ」
マミゾウは露骨に嫌そうな顔をした。
半券を確認すると確かにそれは本物のように思えた。チケットにはシリアルナンバーが記載されており併せて発行元の印鑑が押されていた。マミゾウならば葉っぱ1枚から精巧な偽物を作りだす事ができるが調べればすぐに分かる事だ。チケットの問合せ先には永遠亭の名前が記載されていた。
「あのライブてゐさんが黒幕だったんですね。どうりでチケット代が高かったわけです」
小悪魔が口を出す。
「この半券、しばらく借りてもいいかしら?」
「好きにせい」
マミゾウは投げやりに言った。やはり本物であるようだ。
パチュリーの視線は次に響子へと向けられる。
「あ、私は部屋にいました……」
「夕食の時間に?」
疑問が浮かぶ。
「あ、あの……」
言葉を詰まらせる響子。そこに村紗から助け舟が入る。
「呼びに行ったけど寝てたからそっとしておいたんだよ」
響子の顔がパッと明るくなった。
「命蓮寺では夕食の時間に寝ていたら起こさないのかしら?」
「パチュリー様、それは紅魔館も同じじゃないですか。パチュリー様だって――」
小悪魔は言いかけたが主から睨まれて言葉を切った。
村紗は続ける。
「うちにはしょっちゅう行方眩ませて帰って来ないのがいるからね」
「昨日はいたじゃん」
ぬえが不満を口にする。
「まぁいいわ。夕食の後聖白蓮を見たのは?」
皆顔を見合わせたが誰も覚えはないようだ。
「じゃあ、聖白蓮がいなくなったのに気付いたのはいつ?」
次の問いには一輪が答える。
「お風呂が沸いたから呼ぼうと思って……でも姐さんどこにもいないから」
「それで手分けして探そうと言う事になったんですね」
「最初は私1人で探してたんだけど、次第にみんな加わって」
「次第に?」
「えっと……」
一輪が言い淀んでいるとナズーリンが
「その時はちょうど居間にいたから私と御主人が加わって、船長には寺の方に残ってもらったよ」
さらに村紗が続ける。
「そ、私が残って、帰って来たマミゾウさん達にも手伝うように言ったの」
「時間で言うと8時くらいよ。いつもその時間にお風呂を入れるから」
一輪が時間をつけたした。
夕食の6時から8時まで。その時間がキーになりそうだ。
「6時から8時までのアリバイを聞こうかしら」
パチュリーが告げる。
マミゾウは机に片肘をつけながら
「ふん、アリバイの無い奴がねえ」
小悪魔はムッとした。
「そういうマミゾウさんはどうなんですか?」
「チケットの半券を見てみ」
小悪魔は言われるまま先程受け取った半券を見た。
ライブ時間17:00~20:00と書かれてある。
「完璧なアリバイじゃろう」
「むむむむむ、でも途中で抜け出して来たかもしれないじゃないですか」
「だったらもぎりをしとった兎にでも聞いてみればいいじゃろう。途中で誰かが抜けだしたかどうか」
小悪魔は閉口した。
「あ、私は部屋で写経してた」
そう言ったのは村紗だった。
「写経?」
およそ村紗には似つかわしくない行動に思えた。
「今日本当はここに人を集めてお経を広めるつもりだったのよ。その時に配る経典を書く仕事を聖から頼まれてたんだ。いつもギリギリにならないとやらないからね。なんなら見る?」
「いいえ。結構よ」
「今回は響子との分担作業だったから助かったよ」
響子は首を縦に振って大きく頷いた。
「じゃあ響子さんも写経してたんですか?」
「あ、はい。村紗さんと一緒に」
パチュリーは少し妙に感じた。響子が夕食の席に居なかった事に関しても今回の事に関してもそれを証明しているのは村紗だ。2人が結託しているとしたら……
「他の皆さんはどうですか?」
パチュリーの思考を中断させるように小悪魔が訊ねた。
一輪が不安そうに
「アリバイ……私にはアリバイは無いわね。夕食の片付けをして、お風呂を沸かす準備をしてたから。その間ずっと1人よ」
「アリバイ無しですか」
小悪魔の言う事に不満に思いながらも頷く。
「私はずっと御主人と一緒にいたよ」
星は黙って頷く。
「それも私達が協力してなければの話だけどね」
「疑えばきりがないから今はやめておくわ」
ナズーリンの挑発的な言動を流し視線を最後の1人、ぬえに向ける。
「私?うーん私にはアリバイなんて無いなぁ。晩ご飯の後はまたどっか行ったし」
「ぬえらしい」
村紗が呟いた。パチュリーは問いかける。
「どっかというのは具体的にはどこかしら?」
ぬえは不敵に口元を歪ませた。
「プリズムリバーのライブ」
一同の表情に疑問の色が浮かぶ。
「でもぬえ、夕食にいたじゃないの」
ニシシと白い歯を見せてぬえは笑っていた。いち早く気付いたのはやはり村紗だった。
「まさか無銭鑑賞してきたんじゃ」
「能力は有効活用しないとね」
ぬえに悪びれる様子はない。
「なんじゃ来とったのか……」
「多すぎてマミゾウは見つけられなかったけどね」
言いながらぬえは腕を頭の後ろに回した。
一輪はそんなぬえを責めるように
「姐さんが殺されたって時に……」
批難の眼差しにさしものぬえも委縮する。
「だってその時はわかんなかったんだもん」
パチュリーは小悪魔が全員の当日の行動をメモし終えるのを見て解散を告げた。
聖白蓮がいなくなったからと言って命蓮寺が消滅するわけではない。
そこに集まった妖怪のコミュニティは続いて行くし、寺としての機能も維持し続けなくてはならない。最愛の人を亡くしたとしても悲しみに暮れて過ごすだけの生活は許されなかった。
パチュリーの聞き取りから解放された住人は各個に日々とは違う仕事に取りかかった。白蓮の葬儀の準備だ。
それとは無関係なパチュリーと小悪魔は残ってメモを見ていた。
「流石に7人もいると複雑ですね」
「個別にまとめてみましょうか」
「はい。じゃあ最初は一輪さんから行きましょうか」
小悪魔は一番簡単そうな所から選んだ。
「一輪さんは夕食には参加してます。そして夕食の後片付けをしてお風呂を沸かしてます。その後白蓮さんがいない事に真っ先に気付いて探し始めます。その間アリバイはありません」
「それにしても彼女はよく働くわね」
「そうですね」
小悪魔は聞き流して次に移った。
「次はマミゾウさんです。マミゾウさんは夕食はとらずにプリズムリバーライブに行ってます。終わるのが8時ですから完璧なアリバイですね。帰って来てから村紗さんに言われて白蓮さんを探しに行きます」
パチュリーは静かに耳を傾けていた。
「ぬえさんです。ぬえさんは夕食を食べた後にライブに行ってますね。マミゾウさんとは別々に帰って来てから白蓮さんを探しに出てます」
「ナズーリンと寅丸星はずっと一緒にいたみたいね」
「はい。そうみたいですね。本当ならアリバイとしては完璧です。じゃあ飛ばして響子さんです」
言いかけたところにパチュリーが待ったをかけた。
「ちょっと待って。響子は村紗と一緒に考えてみましょうか」
小悪魔は主の意図するところが分からなかったが言われたとおりにした。
「えっと、村紗さんと響子さんは夕食の時は寺にいますね。でも響子さんは部屋で寝ていたみたいです。これは村紗さんが証明してます。夕食後は2人で写経のお仕事をしています。で、白蓮さんを探す時には村紗さんは寺に居残りで……あれ?」
「気付いたようね」
パチュリーは微笑みかけた。
「あ、はい。白蓮さんを探す時響子さんは寺にいたはずですよね……でも、あれ?」
「そう。村紗は居残りで寅丸星とナズーリンが捜索に加わった。その時響子は何をしていたのかしらね。少しつついてみようかしら」
響子は庭で星やナズーリンと共に葬儀の準備に当たっていた。他の2人と離れた隙をついてパチュリーが声をかける。
「少し聞きたい事があるのだけど」
同時に小悪魔が響子の背後に回り込む。
響子は怯えるような眼でパチュリーを見た。
「なんですか?」
「聖白蓮の遺体が見つかる前、皆が白蓮を探している時にあなたは何をしていたか話して欲しいのよ」
訊ねた瞬間響子は体を震わせた。
「何って、白蓮さんを探してたに決まってるじゃないですか」
「そうかしら?ナズーリンの口からはあなたの名前が出なかったけど」
「……やだなぁナズちゃん。忘れてるなんて」
響子は笑って見せたがそれはぎこちないものだった。
「あなた本当は――」
言おうとした時「待った、待った」と、背後から声がしてパチュリーは振り返った。
「村紗さん!」
援軍の登場に響子は駆けよると村紗の後ろに隠れた。
「響子は聖を探すのに参加していたよ。ナズが名前を出さなかったのは私がちょうど居間にいた時も響子は部屋にいたから。後で私が呼びに行って探すのに加わったの」
「なるほど。これで納得できたわ。ありがとう」
パチュリーはそう言うものの、小悪魔も、そして村紗もそうは思えなかった。
村紗が響子を連れ立って立ち去るのを見送ってからパチュリーは小悪魔に告げる。
「やっぱりあの2人は相互にお互いのアリバイを補完しあっているわね。今は村紗が響子を助ける格好だけど果たしてどこまでかしら」
「村紗さんと響子さんが犯人って事ですか」
アリバイを偽証しあっているということはそう言うことだろう。
「でもパチュリー様、私は気になっているんですけど、さっき質問した白蓮さんを探してる時間の響子さんなんですが、その時にはすでに白蓮さんはいなくなってますよね」
「すでに殺されていた可能性もあるわね」
「だったら事件には関係ないんじゃないですか?私達が追いかけてるのは夕食の後から8時までのアリバイです」
小悪魔が質問するとパチュリーは感心した。
「あなたも全くの馬鹿じゃないわね」
小悪魔は流石にムッとしたが何も言わず続きを聞く。
「聖白蓮の遺体には争った形跡、監禁や縛られていたような痕は無かったわ。つまり一輪が探し始める頃にはすでに亡くなっていたはずよ。あなたの言うとおり8時前のアリバイが重要になってくる。でも考えてもみなさい。一輪が探し始める前に犯行が終わっていれば、寅丸やナズーリンが探し始める頃には犯人は悠々と現場を後にして寺に戻ってくることができるのよ。そして何食わぬ顔で捜索に参加すればいい。それが実に自然だわ」
「でも響子さんはそうではなかったわけです」
「そもそも響子を見ているのは村紗ただ1人。私は響子は夕食の前から寺に居なかったんじゃないかと思うの」
パチュリーは人差し指を小悪魔の顔の前に翳した。
「でもちょっと待ってください。それだと村紗さんは一方的に響子さんのアリバイを偽証してる事になりますよ」
「だけど片方のアリバイが成立すればそれを保証している方のアリバイも成立する。一見すると村紗が響子を助けているように見えるけど、真にアリバイが無いのは村紗の方かもしれないわね」
パチュリーの瞳の奥が怪しく光った。小悪魔は息を飲む。
「響子が寺にいなかった事を証明できれば……」
と、2人の頭上を一つの影が通り過ぎる。
「あやややや、また会いましたね。お2人さん」
文は空中でくるりと宙返りをしながら地面に着地した。
「まるで曲芸ですね」
「着地する時はこうしないとスカートが捲れちゃうんですよ」
文は笑った。
「まさかもうお出ましとはね」
パチュリーは先程までと違い無表情で言う。文も口元に笑みを張り付けたまま
「こちらこそ驚きましたよ。白蓮さんが殺されたって聞いて飛んでくればパチュリーさん達がいるんですもん。また探偵ごっこですか」
その言い方には皮肉が込められていた。
「そうね。悲しい事に犯人探しの真っただ中よ」
「わぉ!で、何かわかりましたか?」
「わかっても教えないわよ」
「それはないですよ。そうですね、ではここは持ちつ持たれつで行きましょう。耳寄りな情報がありますよ」
「耳寄りな情報って何ですか?」
小悪魔が反応すると文はパチュリーに対して笑って見せた。そして如何にも秘密の話のように小声になって
「いいですか。白蓮さん殺しは人里の連続水死事件と関係してます。実は白蓮さんは生前里で――」
得意になって話す文。小悪魔は思わず笑ってしまった。
「文さん、残念ですがそれはもう知ってますよ」
「えぇっ?」
「里で水死事件を調べてたって事ですよね。だったらもう知ってるので耳寄りでも何でもありませんよ」
小馬鹿にしたように笑う小悪魔。しかし文も何も言い返せず苦虫を噛み潰したような顔をした。
「ですが手ぶらで帰るわけにはいきません」
文は尚も食い下がろうとする。
「取材してけばいいじゃない。そのために来たんでしょ」
もっともらしい疑問がパチュリーの口をついて出たが文は首を振る。
「私だって常識はありますよ。こんな時に取材なんてしたらどんな目に会うか。だからこうしてパチュリーさん達に聞いてるんじゃないですか」
自分達に会えなかったらどうするつもりだったのだろうか。小悪魔は首を傾げる。
「なんでも役に立ちますから」
そんな文の懇願にとうとうパチュリーが折れた。
「ただし、条件があるわ。私がいいと言うまで記事にしない事。それが絶対」
文は歯がみした。記者としては首根っこを掴まれたような感覚だ。しかしパチュリーが折れたのなら文としても少しは妥協すべきだろう事は弁えていた。
「分かりました。その条件で構いません。で、私は何をすればいいんですか?」
「調べてもらいたい事があるのよ」
そう言ってパチュリーはマミゾウから預かったライブの半券を取り出した。
その日の夜、パチュリー達は命蓮寺で二回目の夜を過ごす事になった。一度紅魔館に戻って着替えと連絡を済ませたが、その時も小悪魔を人質に取る徹底ぶりであった。もっとも、紅魔館の住人はレミリアも咲夜も特に心配している様子はない。
文との約束の時間が近い。
昼間パチュリーは文にプリズムリバーライブのチケットの半券を渡しそれについて調べてくるように依頼をしていた。一時帰宅するだけでも人質を取られる状況下で外部からの情報を得るにはそれしか方法はなく、文との接触も命蓮寺の面々には秘密でいた。
ふと、パチュリーは本棚の中に一冊だけ異質な本があることに気付いた。日本語で書かれた本の中に一冊だけ洋語の題字を見つけたのだ。他の本と同様に埃を被っていたがそれは童話ハーメルンの笛吹きの物語であった。
元ナズーリンの部屋にハーメルンの笛吹きとはどういう巡りあわせだろうか。
不必要に思いを巡らせようとした矢先、窓を叩く音が聞こえてパチュリーは現実に立ち返った。
本棚に本を戻しているうちに小悪魔が窓を開けて文を中に向かい入れた。
「五月になっても夜は寒いですね」
文は日中と同じく半そでとミニスカート姿だった。小悪魔は気を利かせて文の肩に布団をかける。
「ありがとうございます。あ、これ差し入れの牛乳とアンパンです」
「うわあぁ、ありがとうございます!」
小悪魔は快哉をあげる。
「なんだかわくわくしますね」
この2人はもしかしたら根が同じなのかもしれない。パチュリーは思ったが一先ずそれは置いておいた。
「で、ちゃんと調べておいてくれたわね」
「えぇ、ばっちりですよ」
文は昼間受け取った半券をパチュリーに返した。
「てゐさんに訊ねた所、このシリアルナンバーのチケットは里の商店に福引の景品用に発行したものの一枚だということがわかりました。誰が当選者かまではわかりませんでしたが、チケットはペアで当たるはずのものだと言う事はわかりました」
「えっと、つまりこのチケットにはもう一枚ペアチケットがあったって事ですか?」
「その通りです。それともう一つ。ライブ当日に回収された半分を調べてみたところ、このチケットと対になるもう一枚のチケットが使われてる事がわかりました」
「なるほどね。良く調べてくれたわね」
「流石に大変でしたよ。しかも調べるために次回公演のチケット大量に買わされましたしね。これ買い取ってくださいよ」
パチュリーは無視して
「マミゾウはライブに1人で行ったと言っていたけど、実際にはもう一枚のチケットが存在していた。そしてそのチケットは使われていた」
「でもそれがどう関係してくるんです?」
「もし仮に、もう一枚のチケットを使ったのが響子だとしたら?」
「あ、夕食から8時過ぎまでは寺にはいません!」
「けど、そうなるとマミゾウも嘘をついている事になる。第一何故響子は自分に完全なアリバイがあるにも拘らず村紗からの偽証が必要な証言をしなければならないのか」
パチュリーは低い声で唸った。小悪魔にはもう何が何だかさっぱりであった。
翌朝、小悪魔は文からの差し入れのアンパンでお腹を満たすと主から言いつけられた任務を遂行するために響子の隙を窺っていた。
響子が部屋を離れるとその隙をついて中へと侵入する。
部屋を見渡し、まずは言われたとおりに屑かごから漁り始めた。
小悪魔が言いつけどおりに部屋漁りをしている頃パチュリーはマミゾウを訪ねていた。
マミゾウは朝から酒を飲んでいた。今日はこの後命蓮寺では白蓮の葬儀が控えていた。飲まなければやっていられない気持ちも分からなくもない。
「なんじゃ?赤いのがおらんようだが」
マミゾウは真っ先に不在の小悪魔について聞いた。
パチュリーはそれには答えず借りていた半券を取り出す。
「確認したところ、あなたのアリバイが確定したわ。このチケットは本物だった」
「そうか、そうか。報告御苦労」
「でも一つ気になる事ができたのよ。このチケットが本物だと調べる時にわかった事だけど実は行方不明のチケットがあるようなの」
マミゾウは酒をグビリとやった。酔っているからなのかパチュリーの言っている事の意味がよくわからなかった。
「行方不明のチケットじゃと?」
「ええ、このチケットにもう1枚チケットがついていたはずなんだけど覚えないかしら」
「あ……ああ、無くしたんじゃ」
急激に酔いが冷めていくのを感じてマミゾウはもう一度酒を呑む。
「無くした?」
「そうじゃ。確かにチケットはもう1枚あったがそれは無くした」
「それはおかしいわね。これも確認したんだけどあなたが無くしたというチケットはちゃんと使われていたのよ。無くしたのなら使われるはずがない」
「風に吹かれたんじゃないのか?それを誰かが拾った」
苦しいいい訳だった。マミゾウは瓶の中の酒を全て喉に流した。
「せっかく2枚手に入れたチケットよ。本当は誰かに渡したかったんじゃないのかしら。無くしたのならまた買えばいい。どうしてそれをしなかったの?」
「思い出した!ぬえにやろうと思ったが居なかったんで、誰か知らん奴にやったんじゃ」
「ええ、それはあるいわ本当かもしれないわね」
「ワシを疑ってるのか」
強く言いながらも顔を合わせようとはせず次の酒瓶の栓を開けた。
「でも、せっかくあげるなら知ってるだれかにあげると思うんだけど」
ふとマミゾウはパチュリーが開けたままにしている戸が気になった。こんなところを誰かに見られるのは嫌だったし、何より落ち着かない。
閉めようと近づいた時、廊下を走る激しい足音と響子の声が聞こえてきた。
「パチュリー様!ありましたよ!」
小悪魔がマミゾウの部屋の中に走り込んできた。その後を追うようにして響子が涙目で「返して!」と、叫びながら飛び込んでくる。小悪魔はそのままパチュリーの背後に回った。
小悪魔の手にはプリズムリバーライブチケットの半券が握られていた。
「一体何事じゃ?」
マミゾウが訊ねると響子が大声で喚く。
「小悪魔さんが部屋に勝手に入っていてゴミ箱からチケット取っていったんです!」
ギャーギャーとした声が部屋の空気を揺らす中マミゾウは嘘をつききれないと感じた。
パチュリーと小悪魔は耳を押さえながら白々しく。
「これが行方不明のチケットじゃないのかしらねえ?なんでこんなモノが響子の部屋のゴミ箱に?」
「でも、響子さんライブの時間は命蓮寺にいたはずですよ?」
そんな茶番会話を聞いていたマミゾウは戸をピシャリと閉めた。
「もういいわい!」
そして響子を宥めてから白状する。
「そのチケットはワシが響子にやったものじゃ。ぬえにやろうと思ったんじゃがちょうど村紗のやつとでかけてての」
今にも泣きだしてしまいそうな響子を小悪魔が謝りながら連れ出す。パチュリーはマミゾウに質問した。
「そのチケット、誰かから貰ったものかしら?」
マミゾウは怪訝な顔つきになった。
何故その事を知っている。そう表情が語っている。
しかしマミゾウは首を横に振った。
「それはわからん。一昨日儂に送られてきたんじゃ。送り主は知らん」
パチュリーは意外そうな顔をしたが想定内の事だった。
「じゃあ誰からかわからないものを使おうと」
「せっかくの貰い物じゃったからな」
気まずそうに答えると棚から酒瓶をもう一本取りだして栓を開けた。
「あ、飲み直す前にもう一つだけ。あなたが響子をライブに誘った時、実は誘えるのは響子だけだったんじゃない?」
言われてマミゾウは思い出してみた。
ぬえは村紗と遊びに出かけ、聖はどこかに行っていた。星はナズといたから誘わなかったがお固くて好かん。一輪を連れだしたら家事が滞るし……
「そう言えばそうじゃな」
「そう。ありがとう」
パチュリーは酒瓶を口につけるマミゾウを横目に部屋を辞した。
そして向かった先は響子の部屋。目に涙を溜めている響子を小悪魔が何とか宥めていた。
パチュリーは努めて優しげに問いかける。
「別に責めたりはしないわ。でもなんで嘘をついていたのかだけ教えて頂戴」
完璧なアリバイを崩してまで命蓮寺に居たと偽証する理由。それを訊ねた。
「だって……だってぇ……」
響子は声を絞り出す。
「怒られるの嫌じゃないですか……」
「怒られる?」
「……寅丸さんに……仕事、忘れて……」
再び目に涙を溜め始める響子。
落ち着くのを待ち、再び泣きだしそうになるのを何度も繰り返しながらパチュリーは響子から話を窺う。
ひとしきり聞いた所でまとめた。
「要するに、あなたは写経の仕事を忘れてライブを見に行ったと知られたら怒られる。そう思ったのね」
響子は頷く。
「それで、帰って来たあと、みんなが聖白蓮を探している時に村紗と2人で終わっていない仕事を終わらせようとした」
響子はまた、黙って頷いた。
「ところがあんな事件が起きてしまって、ますます言いだせなくなり村紗、マミゾウと一緒に嘘をつくことにしたのね」
「でも悪いのは私なんです!村紗さんもマミゾウさんも私を助けようとしてくれただけなんです!」
響子と別れ部屋を出たパチュリー達は一先ず自分達にあてがわれた部屋へと戻った。
手頃な荷物に座りながら小悪魔は自身の感想を述べる。
「響子さんの件、村紗さんのアリバイトリックってわけじゃなさそうですね」
「あら、どうしてそう思うの?」
パチュリーは立ったまま小悪魔の話を聞く。
「だって響子さんが嘘をつく事になったのは響子さんの責任じゃないですか。仕事を忘れてマミゾウさんと遊びに行っちゃったんですよ。村紗さんが嘘をつく事になったのはたまたまですよ」
小悪魔はさも当然そうに言う。しかしパチュリーは口元にかすかに笑みを湛えながら答えた。
「そうね。確かにたまたまね。でもたまたまマミゾウにチケットが送られ、そのマミゾウがたまたま響子をライブに誘い、その響子がたまたま仕事を忘れて、そんな時にたまたま聖白蓮が殺される。些か偶然が重なり過ぎてる気がするのだけど?」
「う~ん、そう言われてみればそうかもしれないですけど」
まだ釈然としない小悪魔。偶然が重なっているのは確かであるが果たして響子が仕事を忘れるように仕向けるなんて可能なのだろうか?
そんな事を思っているとパチュリーは不意に小悪魔に厳しい目つきを向けた。
「ところで小悪魔、頼んでおいた件なんだけど手に入れておいてくれたかしら?」
「へ?」
突然に言われ小悪魔は当惑した。
「だから、村紗が写経した経典を手に入れておいてって頼んだでしょ」
パチュリーはますます厳しい目つきで小悪魔を睨んだ。
「え?え?え?」
「まさか忘れてたなんて言わないわよね」
「いや、え、あの」
小悪魔は混乱した。そんな事を言われても小悪魔の頭の中には一切頼まれた記憶が無かった。しかし目の前の主の顔つきを見るに自分は多分頼まれていたに違いない。
「すぐに手に入れてきます!」
座っていた荷物から飛び降りて駆けだす。
パチュリーはその小悪魔の襟を掴んだ。勢い首が締まる。
「ぐえぇ」
屠殺されるニワトリのような声を上げながら小悪魔は尻もちをついた。人間ならば死んでいたかもしれない。小悪魔は自分の体の頑丈さに感謝した。
咽こむ使い魔を気に留めていないかのようにパチュリーは語りかける。
「これで証明できたわね」
「はい?」
「頼んでもない事を頼んでいたと思いこませる事よ」
「え?」
「私はあなたに経典を手に入れろなんて頼んでは無いわ。でもあなたは見事に頼まれていたと思いこんだわね」
「もう!なんでそんな意地悪するんですか……あっ!」
小悪魔は気付いたようだった。
「そう。響子も同様に、ありもしない仕事をあるように思わされていたとしたら」
「白蓮さんや寅丸さんに怒られると言われれば響子さんもすごく混乱したに違いありません。言われた事をそのまま鵜呑みに……」
「響子は村紗のマインドコントロール下にあった。事件は解決しそうね」
パチュリーは部屋を出て居間に向かった。
居間には命蓮寺のメンバー全員が揃っていた。
パチュリーが室内に足を踏み入れた時一番驚いたのは響子だった。だがそれ以外の面々もあまりパチュリーと小悪魔の登場を快くは思っていなかった。
「ちょうど、みんな集まっているようね」
テーブルを囲んでいる全員の顔を眺めながらパチュリーは言った。
ナズーリンがポケットから銀色の懐中時計を取り出して時間を確認する。
「もうすぐ聖の葬儀なんだ。君達に付き合っている暇はないよ」
「なら丁度いいわ。その葬儀に参列する資格の無い者がいるわ」
続きを小悪魔が引きとるように
「白蓮さんを殺害した犯人がわかりました」
そう告げると一同の表情に動揺の色が浮かんだ。中でも村紗は一際沈んだ表情になったように小悪魔には思えた。
「……聞かせてもらうよ」
ナズーリンは時計をしまって促した。
パチュリーは一つ大きく息を吸って推理を始めた。
まずは響子とマミゾウの嘘について全員に説明をした。2人は申し訳なさそうに俯いていたが誰も2人を責めたりはしなかった。
そしてパチュリーはいよいよ本題へと入る。
「マミゾウにチケットを渡して響子とライブに行くように仕向け、さらにありもしない写経の仕事を響子にあると思わせた人物がいるわ。それが今回の事件の犯人よ」
響子が気付いたように声をあげる。
「あ、パチュリーさんの言うとおり私村紗さんに言われるまでそんな仕事の事……」
その瞬間村紗が目を見開くのを小悪魔は見逃さなかった。
「儂がチケットを見つけた時も、お主はぬえと遊びに行っておった。まさか……」
マミゾウも続き、全員の疑惑の目が村紗へと向けられる。村紗は座ったまま微動だにしなかった。
「ちょっと待ってくれ、それは船長のアリバイが崩れただけで船長が犯人という理由にはならない」
「そうかしら。こんな手の込んだアリバイトリックを弄する理由は犯人である事意外に見当たらないのだけど」
パチュリーの言葉に反論したナズーリンも閉口する。
「あなたは夕食の後聖白蓮を殺害して遺体を遺棄したあと誰にも見られぬように部屋に戻った。そして一輪が聖の不在に気付くと今度は誰よりも先に響子と接触をとり、予め準備しておいた経典を見せながら一緒に写経の仕事をさせる。響子に自分が部屋に居た事を信じ込ませ、さらに嘘をつかざるを得ない状況に追い込むために。違うかしら?」
村紗は何も語らず押し黙ったままだった。
パチュリーは畳みかける。
「動機は、人里で起きた連続水死事件ね。聖はその犯人を探していた。そして最悪の場合自ら手を下すとまで言っていた。あなたがその犯人だと確証はないけど、こんな事件を起こした事をみると……」
それでも村紗は一言も発しない。
長い沈黙が部屋の中の空気を重くする。
「御主人、そろそろ時間だ」
ナズーリンが小声で星に耳打ちした。
時間は永久ではない。聖の葬儀のために詰めかけた妖怪が門の前に列をなしていた。村紗がどれだけ沈黙を守ろうが裁きを下さなければならない時間はやってくる。そしてそれは星の手に委ねられていた。
「村紗、残念ですがあなたを閉じ込めておかなければなりません。葬儀の後に詳しい話を話してもらいます」
村紗は静かに頷くと星に連れられるように部屋を後にした。
犯人を突き止めパチュリーと小悪魔はようやく解放される事になった。
参列者の列の横を抜ける。
「これだけ多くの妖怪に慕われていたのに、一番近い所にいる人に殺されてしまうなんて」
小悪魔が呟く。
「そうね。近すぎるとお互いに期待しすぎてしまうのかしら」
パチュリーの言葉はこの事件そのものを表しているように小悪魔には思えた。自らの教えを破り過ちを繰り返した村紗を自らの手で処断しようとした白蓮。村紗が白蓮に手をかけたのは果たして自己防衛だけが理由だったのかも未だ定かではない。
「でも何か……」
パチュリーが言いかけた時2人の頭上に黒い影が飛来した。
小悪魔はその光景に覚えがあった。
「事件、無事解決したようでおめでとうございます」
「文さん!」
射命丸文が口元に笑みを湛えながら2人の前に着地した。
「いやぁ、でも村紗さんが犯人だったなんて」
「まさか、盗み聞きしてたのかしら?」
「盗み聞きとは人聞きの悪い。窓の下に隠れていただけですよ」
「そういうのを盗み聞きと言うんじゃないですか?」
文はパチュリー達に並ぶようにして歩いた。
「私がどこに居ようと私の勝手じゃないですか。それに正当な権利ですよ」
「権利?」
パチュリーのジロリとした視線が文に向けられる。
「事件が解決したら聞かせてくれる約束だったじゃないですか。私はパチュリーさんの手間を省いて差し上げたんです」
「そう。……じゃあもう一つの約束も覚えているわね」
「はい?」
「私がいいと言うまで記事にしないという約束よ」
「でしたら事件は無事解決ですからもういいじゃないですか。誤報なんて出しようがありませんよ」
「駄目」
パチュリーは冷たく言い放った。
「ちょっと、パチュリーさん。それ単なる私への嫌がらせですよね。勘弁してくださいよ」
小悪魔はニヤリとした。文が主に翻弄されている様は小悪魔にとってはそこそこ愉快であったのだ。しかしパチュリーは二コリともせずに
「嫌がらせなんかじゃないわ。ただ、何かこう不愉快なのよ」
「それ私が嫌いって意味ですよね」
「違うわ。事件の事よ。何かこう、気持ちが悪いのよ」
「後味が悪いという意味でしょうか?」
小悪魔が訊ねてもパチュリーは首を振る。
「事件は解決したわ。状況的には村紗は真っ黒だし何より一切の反論をしなかった。でも何かこう気持ち悪さが残るのよ」
その感覚は小悪魔には理解できないものだった。
「だからこの気持ち悪さが解消されるまで記事にしたら駄目よ」
「そんなっ!それはないですよ」
パチュリーは聞く耳持たず歩を進めた。代わりに小悪魔が文の肩に手を置いて同情する。
「残念でしたね。でもパチュリー様はああいう人ですから」
文は深いため息をついた。
「はぁ~、私の努力は何だったんですか」
「文さん頑張りましたもんね」
すると文は小悪魔に見返してやったような顔を向けた。
「それだけじゃありませんよ。この際だから言いますが私はお2人が里で私の後をついてきていたのに気付いてました」
「負け惜しみですか?」
「いえいえ、と言うよりあれはパチュリーさんにワザとつけさせたんです。お2人を聖さんの所に送り込んで真相を調べてもらうためにですよ。そしたらあんな事件が起きて、私としてはしてやったりだったんですけど」
「じゃあ、私達文さんの思い通りに動いてたって事なんですか!」
小悪魔が声を上げた時パチュリーは振り返った。
「それよ!」
突然の事に小悪魔はさらに驚き尻もちをつく。
「私が感じていた不愉快さがわかったわ。私達は思い通りに動かされていたのよ。真犯人の意のままに」
白蓮の葬儀がしめやかに執り行われている中、村紗は自室にて膝を抱えるようにして座っていた。部屋には星が張った結界が張られ逃げ出す事はできないようになっていた。と言っても村紗は逃げるつもりは毛頭無かった。
ただ、外から聞こえてくる足音に顔を上げ、その足音が扉の前を通過していくのを聞いてまた顔を俯かせる。それの繰り返しだった。
また一つ足音が聞こえた。
どうせこの足音も通り過ぎて行くんだ。
しかしその足音は確かに村紗の部屋の扉の前で止まった。
誰?
村紗が顔を上げた時、扉の向こうで声がした。
「何してるんだ!」
この声はナズ?じゃあ今扉を開けようとしているのは?
「何してるんだ!」
咎められる声にパチュリーは扉へと伸ばしていた手を下げた。
振り向くとナズーリンが歩み寄って来る。
「そこは船長を閉じ込めてる部屋だ。一体何の用かな?」
ナズーリンは小悪魔が居ない事を不審に思いながらもパチュリーに詰め寄る。
パチュリーは向き直ってナズーリンと正対した。
「一つ披露してなかった推理をお披露目しようと思ってね」
「何だと?」
「聖殺害事件の本当の黒幕よ」
パチュリーの声は座敷牢の中の村紗にも届いていた。
「何を言っている?」
「今回の事件の真犯人は非常に大胆で、それでいて緻密に人の心の動きを計算できる賢い人物だった。そう、あなたのようにね」
「まるで私が犯人だと聞こえるな。馬鹿馬鹿しい」
ナズーリンはくだらないと言いたげに笑った。
「犯人は船長。それは君が証明した事じゃないか。大がかりなアリバイトリックまで解いて」
「そう。そのアリバイトリックこそが村紗を犯人に仕立て上げるための罠だった。私はその罠にまんまと引っ掛かったのよ」
パチュリーはナズーリンの反応を窺いながら続ける。
「あなたは用意周到に計画を進めた。人間の里で立て続けに3人も水死に見せかけて殺し、犯行現場にご丁寧に笹舟を残す事で聖の疑いの目が村紗に行くように仕向けた。そうやって村紗に聖を殺す理由があるように思わせたあなたの計画は次の段階に入る。響子とマミゾウを寺の外に追い出す事よ。普段は別々に住んでいるあなたが寺を訪れて小言の一つでも言えばぬえはあなたを煩がってどこかにでかける。村紗は仕事が残っているし一輪や星を誘う事は無い。そうやってマミゾウが響子と出かける状況を作った。そして聖を殺害し後は村紗が自らアリバイトリックを仕掛けるのを待ったのよ」
「おいおい待ってくれよ。君の言葉だと船長はやっぱりアリバイトリックを仕掛けたんじゃないか」
「そうね。でもそれはあなたが仕掛けさせたんじゃないかしら」
「私が?どうやって?」
パチュリーは少し声のトーンを上げながら
「『君がやっている写経の仕事、響子も半分担当してるんだが忘れてるみたいだ。ちょっと様子をみてやってくれないか。忘れてて御主人に怒られては不憫だ』」
ナズーリンは目を細めた。
パチュリーが声色を戻す。
「実際にこんな会話があったかどうかは定かではないけど、これなら村紗の行動をある程度誘導する事は可能よ。事前に響子に寅丸に怒られる事の恐怖心を植え付けていれば成功率はさらに上がる」
その推理をナズーリンは鼻で笑った。
「怒られるのが怖いからって嘘なんかつくもんか。聖が殺されてるんだぞ。そんな時に」
「そんな時だからこそよ。聖が殺された時に写経の仕事をしていたなんて言えるはずがないわ。そして村紗は嘘をつく。自分が犯人で無い事を一番知っているのは自分自身だもの。そして響子にはマミゾウというアリバイが存在する。村紗は疑うことなく嘘をつくわ。響子を助けるために」
「私がそうするように仕向けたって言うのかい?不可能だ」
「いいえ不可能ではないわ。現にあなたは私達を巧みに誘導してきたじゃない」
ナズーリンは黙ったままパチュリーの次の言葉を待った。
「私達を犯人扱いして事件に巻き込まれるようにしたのはあなた。私達が居た事は偶然だったのでしょうが探偵役としてはこれ以上ないわ。一度村紗の無罪を証明してるだけに与える心理的効果は絶大だもの。探偵役はいなければ自分が務めればいい。聖が殺された夜に皆が何組かに固まって眠る事を提案したのもあなただった。少し接しただけでも分かったけれど寅丸は中々思慮深いわ。村紗に対する疑念があればああいう部屋割になる事は予想できた。寺で使われている包丁を凶器に選び、必然的に寺の誰かが疑われるようにも仕向けた」
言いながらパチュリーはナズーリンの周りをゆっくりと歩いていた。それを目だけで追いかけるナズーリンの表情は硬い。
「あなたにとって一番の賭けは響子が本当に嘘をつくかどうか。もし私が個別にアリバイを聞いて行けば響子は本当の事を言ってしまうかもしれない。その可能性を封じるために翌日の朝に全員を集めて聞き取りをする場を作った。響子が全員の場でアリバイを話さなければならない状況を作ったのよ。おかげで手間はかからなかったけど小悪魔の頭はパンクしそうだったわよ」
一旦言葉を切り、目を見据えてから続ける。
「そうやって全ての状況を村紗に有利になるように作りあげ、私に解決させることで逆に村紗を最も怪しい存在として際立たせる事ができる。そして何より恐ろしいのは、あなたの計画通りに事が進んだ時、村紗に仕掛けられたアリバイトリックと事件の進行に命蓮寺の全員が関わってしまう点。私が推理を披露していた時、あたかも寺の全員が共謀して自分を陥れようとしている。そう村紗に錯覚させてしまう事よ。聖は死に、仲間には裏切られ、里の人間には疑われ、かつて無実を証明した私が追い込んでしまう。寄る辺もなければ救いもない。そんな絶望的な状況に追い詰めれば口を閉ざしてしまう事も織り込み済みだったのでしょう。そして、あなたの計画通り誰もが村紗を犯人だと思ってしまった。たった一つの嘘が崩れただけなのにね」
パチュリーは口元を弛めて妖しげに微笑んだ。ナズーリンも不敵に唇の端を吊りあげる。
「そう聞くと私は何だかすごい妖怪みたいだな」
「えぇ、あなたは全員を誤った方向へと導いた。ハーメルンの笛吹きのようにね」
だがナズーリンは知っていた。如何にパチュリーの推測が正しくとも、事実を言い当てていたとしてもそれが決定打とはならない事を。
「君の推理は一応の筋は通っているな。百歩譲ってそれが可能だとしよう。だけど証拠が無い。私を犯人だと言うのなら証拠を持ってきてくれよ」
パチュリーは真っ直ぐにナズーリンの灰色の瞳を見据える。
「証拠は、必ず私が見つけ出してあげるわ」
ナズーリンの歪んだ口元がさらに大きく歪曲した。
パチュリーの瞳には隠しきれない闘志の色が宿っていた。
ナズーリンとの対決を終えパチュリーは外で待っていた小悪魔と合流した。
「頼んでおいた事はやってくれたかしら?」
「はい。寅丸さんにお願いして外側にも結界を張ってもらう事になりました」
「そう、御苦労さま」
一番の危険はナズーリンが口封じに村紗を殺害してしまうこと。村紗もパチュリーの推理が聞こえていたはずだ。まだ閉じ込められたままだが自分が裏切られたわけではないと知れば馬鹿な事もしないだろう。
「寅丸さんがあんまり詮索してこなくて助かりました。この事はまだ秘密ですもんね」
「そうね。完全な物証を揃えて今度こそ完璧に解いてみせるわ」
「なんだかパチュリー様柄にもなくやる気まんまんですね」
「売られた喧嘩は買うだけよ」
パチュリーはさらりと言うと青い空へと飛び立った。
小悪魔は久しぶりに自分の枕で朝を迎える事ができた。たった2日離れただけなのに随分と愛おしく感じる。
パチュリーもまたお気に入りの安楽椅子を静かに揺らして満足げに微笑んでいた。
「パチュリー様、おはようございます」
「ええ、おはよう」
「早速証拠探しに行きますか?」
「そうね。でもその前に久しぶりにあなたの紅茶が飲みたくなったわ。淹れて頂戴」
小悪魔はニッコリと笑った。
「はい!喜んで」
元気よく返事をして奥に行こうとする小悪魔。
と、ドタバタと騒がしい音が上階から聞こえてきた。レミリアがまたバッタのように跳ねまわっているのだろうか。
だが図書館の扉を突き破るように入ってきたのは意外な事に文だった。
「た、大変ですパチュリーさん!」
「文さんじゃないですか。どうしたんですかそんなに慌てて」
文は息を切らしながら伝える。
「む、む、む、村紗さんが首を吊って、今永遠亭に!」
村紗水蜜が自ら命を絶とうとした。
その言葉の意味を反芻した時、ゾワリとした不気味な感覚がパチュリーを内側から撫でた。
首を吊った?自殺?馬鹿な!全てナズーリンの仕業だと告げたのに、理由がない。ナズーリンが結界を破ったのか?しかし簡単に自殺に見せかける事なんてできるはずがない。
やがてパチュリーの思考は一つの事に集約されていく。
「私はまだ何一つ解決していなかったのね……」
永遠亭、村紗が治療を受けている中、ナズーリンは竹藪から開けた空を眺めていた。
淀んだ雲の切れ目から見える青空は共に飛んだ空の色とは同じであったが、まだ見ぬ海のそれには程遠かった。
つづく
後で述べますかも)
別に東方キャラが殺しあっても、騙しあっても僕は全然構わない(というか、むしろ新鮮)ですが、もうちょっと強引ではなくしてほしいかな…。
でも、後半からのどんでん返しに不覚にも興奮してしまったので100点を入れざるを得ない。アーン!来週の土曜日が待ち遠しいわ!とってもスリリングでサスペンス!
何時も七曜サスペンスを楽しく読ませて頂いております。
あと誤字報告をば。
前半「お嬢ちゃん」が「お譲ちゃん」
になっています。
あと細かいですが、中盤のアリスのお店の「close」ですが、「closed」ではないでしょうか。closeだと近いとかそう言う意味に…
これどう締めくくるんだろうか。
白蓮が簡単に死んで顎はずれたのはいいとして、ナズーリンには動機があるのか?
ご主人の不穏な空気を読み取って犯人として実行・・・でも白蓮を尊敬してるご主人がまさかね・・・。
白蓮が自分が死ぬことで・・・なんて考えを持っていて全部こうなるのが分かっていて死んだとかはありえるのか。
どちらにせよ・・・君のしたことに変わりはないんだよ?なんて言われれば誘導されたとはいえ罪の意識から首を吊ってしまうかもね。
楽しみだよ・・・
一番心配なのは友達関係を利用してたぶらかしていた、ぬえルートがあったりしてなぁ・・・