拙作、ナズーリンシリーズのサイドストーリーで命蓮寺にスポットを当てたお話です。
エロ成分はほとんどありませんし、勝手設定モリモリでオチも無くダラーっとした構成です。
ご寛恕いただけますか? アウト? セーフ? ヨヨイノヨイ!
そんじゃ、ご覧ください。
早朝から降り出した雨粒が地面を叩き、湿った土埃の臭いをまき上げている。
「おはよう、雲山」
部屋の隅で小さくなって丸まっていた相方に声をかける。
「今日は雨だから姐さんはお出かけね」
雲居一輪が話しかけても相方はほとんど返事をしないので独り言のようだ。
だが、口に出すことで考えを整理できる。
昔からの癖だ。
よほどおかしなことを言わないかぎり、頑固親父の入道は黙っているし。
肩に掛かった髪を後ろでまとめ頭巾で覆う。
『一輪は綺麗な髪なんだから頭巾で隠すことないのに』
同僚のムラサがいつも言う。
でも、自分は聖白蓮の元、仏に仕える尼僧。
だから女をアピールする必要はないと思っている。
それに、頭巾は結構便利だ。
気晴らしに雲山とともに空を駆け巡る時、髪が風にまかれないですむから。
(綺麗な髪って言うのは姐さんの髪のことよ)
尊敬する住職の不思議なグラデーションがついた髪色を思い出す。
弾力があり、毛先まで生命力にあふれている。
昨夜も手入れをさせてもらった。
櫛にほんの少し香油を塗ってゆっくり丁寧に梳る(くしけずる)。
至福の時間を過ごさせてもらった。
(姐さんは別、命蓮寺を盛り上げるためにも綺麗な姿を見せていて欲しい。
けど、私だけのモノにもしたかったりして、きゃーーー)
雲居一輪はニマニマしながら身だしなみを整える。
入道遣いの最優先はいつだって聖白蓮だった。
聖白蓮は雨の日に必ずと言って良いほど外出する。
多々良小傘という傘化け妖怪を伴って。
(あの傘化けも随分と馴染んできたのね)
命蓮寺を建てた直後から傘化けが墓地に住み着いていた。
墓参りにくる人間を驚かそうとしているが、タイミングの悪さと、滑稽さが先に出てしまい、本人の思惑通りにはいっていないようだ。
初めて出会ったのは、一輪と聖が寺に戻る道すがら。
『おどろけー!!』
暗紫色の大きな傘をかざし、下駄ばきの少女が飛び出してきた。
傘からは真っ赤な舌がだらしなく垂れている。
(おどろけって言われてもねえ?)
一輪は肝が据わっている。
人間だった頃ですら見越し入道を感服させるほどの胆力があったのだ。
こんなチンケなオドシでは小揺るぎもしない。
隣の様子をうかがう。
住職ははじめこそ不思議そうにしていたが、少ししてから頭を抱えてしゃがみ込んだ。
『きゃーー あーれー おそろしやーー』
『姐さん!? どうしたんですか?』
『ほら、一輪も、早く』
小声で催促してきた。
(おどろいて怖がるふりをしろってことかしら?
小さな妖怪の悪戯に付き合おうってことかしら?
妖怪に優しい姐さんらしいけど・・・・・・)
小さな傘化けが不安そうに聖と一輪を交互に見ている。
一輪は小芝居にノリそこなった。
今更怖がって見せてもワザとらしい、聖の演技もかなりアレだ。
どうしたものかと思っていたら、傘化けが大きくため息をついた。
『はあーー、またダメかー』
残念そうにつぶやく。
立ち上がった聖が傘化けの出自や事情を聞く。
捨てられた傘で付喪神。
腹いせに人間や他の妖怪を驚かしているという。
上手くいっていないようだが。
妖怪の出自としては【よくある話】だった。
『お腹空いていない?』
聖の問いかけに黙って頷く。
『お寺にいらっしゃい』
歩き始めた二人のあとをトテトテとついてきた。
傘化け、多々良小傘は歩きながら考えた。
長い髪の穏やかな女は自分を【構って】くれた。
驚き方は微妙ではあったが、【構って】くれた。
人間ではないようだが、その辺りはあまり気にならなかった。
もう少し頑張ればもっと驚かすことが出来るかも知れない。
一方の頭巾を被った女はなんだか怖い雰囲気をまとっていた。
下手に手を出したらヒドい目に遭いそうだ。
気を付けようと心に留めた。
小傘レベルの小妖が聖白蓮の本当の力を測ることは無理だった。
『そんな汚い足で上がるんじゃないよ! そこの雑巾できれいに拭きな!』
上がり口に置いてある雑巾の入った桶を指さす。
寺に着き、下駄を脱いで上がり込もうとした小傘に頭巾の女妖が厳しく注意した。
その強い口調と鋭い視線に竦み上がってしまった。
(や、やっぱりコイツ、怖いよー)
『小傘さん、面倒でも足をキレイにしてくださいね。
お寺の掃除をしてくれているモノ達のためにもお願いします』
髪の長い女が優しく告げた。
寺の墓地をねぐらにしているが、寺の中には入ったことはなかった。
境内も屋内も古めかしい造りではあるが小綺麗であった。
掃除や手入れが行き届いていることは駆け出し付喪神の自分にだって分かる。
裸足に下駄ばきの自分の足は相当汚れている。
確かにこのまま上がるのはよろしくない、すぐに理解できた。
『拭いてあげましょうか?』
足下に屈み込もうとする女を慌てて制する。
『じ、自分でできるよ!』
うふふと笑って流れるような所作で奥へ行ってしまった。
だが、頭巾の女は腕組みしたまま見張っている。
小傘は緊張しながら丁寧に足を拭いた。
その夜は質素ながら今まで口にしたことのない美味しい食事だった。
翌日から聖白蓮を驚かすことが小傘の目標となった。
『おどろけー!』 『うらめしやー!』
自分なりにタイミングを計って飛び出す。
『きゃー びっくりーー』
リアクションはいつも決まってこんな感じ。
どうもしっくりこない、何かが違う。
もちろん、頭巾の女妖がいないときに限っていたが。
里の子供達、男の子が女の子をきゃーきゃー言わせているのを見た。
よし、次はアレだ。
聖の後ろから忍び寄り、スカートを思い切りまくりあげた。
ビックリしたのは小傘の方だった。
(ええええ!!? 何も穿いてない!!?)
良く見れば聖白蓮の生尻には細い紐が丁の字に張り付いていた。
あとから聞けば【てぃーばっく】と言うそうで、大変快適なのだとか。
当の聖は驚きもせず穏やかに告げる。
『小傘、そのオイタはいけません。次はありませんよ?』
そう言って微笑んだが、小傘は身も心も凍り付いた。
(な、なんだかわかんないけど、こわー! こわいようー!)
初めて感じた格の違い。
そして気づいたこれまでのリアクションの違和感。
このヒト、自分に付き合ってくれてたんじゃないか。
【構って】くれてただけなんだという諦観。
それとともに強く感じたのは【このヒトに嫌われたくないな】という想い。
『あら、雨ですね』
一人、里に向かって歩いていた聖がつぶやいた。
ぽつりぽつりと落ちてきた。
いつものように聖をつけていた小傘。
聖の綺麗な髪に雨粒がくっつき始める。
ややあってから飛び出した。
『ねえ、わちきの傘に入っていいよ』
『ありがとう、とても助かります』
『この傘、へ、変じゃない?』
『滅多に見ない色ですね、私もこんな個性的な傘が欲しいです』
『ホント? 欲しいの? ホント?』
『本当です』
『ホントにホント?』
『本当に本当です』
『じゃあ、じゃあ、この傘』
『ひじりさまー、こんにちわー』
蛇の目傘をさした里の子が二人、聖に話しかけていた。
聖も愛想良く応対する。
『おつかいですか? 雨降りなのに感心なことですね』
『ひじりさまー、変なカサだね』
その一言で身動きできなくなった小傘。
子供の無邪気さは時に残酷だ。
『そうですか? 私はとても気に入っているんですよ』
聖の回答に子供達は納得がいっていないようだ。
『変だよ』 『変だよなー』
そう言いながら聖が来た道を歩き去っていった。
聖に傘をさしかけながら下を向いてしまった忘れ傘。
『ねえ聖、この傘、わちきって変なんだよね・・・・・・
だから捨てられちゃったんだしさ』
『さっき、欲しいって言ってたけど、聖もいらなくなったら捨てちゃうの?』
上げた顔、色違いの両目からぽろぽろと涙がこぼれている。
聖はゆっくりと首を振っている。
穏やかだが力強い否定。
『ホント!? ホントにホントにホント!? 捨てない!?』
『本当に本当に本当です。私はこんな傘が欲しいです』
『じゃあ! じゃあ! わち、ワタシをあげます!!! もらってください!』
聖が小傘を伴って出かける。
雨の日は必ず出かける。
小傘、お願いしますね。
かしこまりました!
必要とされる喜び、所有者として申し分のない人物に巡り会った。
小柄な小傘の歩調に合わせてゆっくりと歩く。
はじめは聖と呼んでいたが、今は『ひじりさまー』。
身近で起こった他愛のないことをまくし立てる傘化け。
その話に穏やかに相づちを打つ僧侶。
その日は急な雨降り。
里長の家を訪れていた聖白蓮は空を見上げる。
里長が言う。
傘をお貸しいたしましょう。
ありがとうございます、でも大丈夫なのです。
軽く呪文を唱える。
命蓮寺で待機していた小傘の傘の裏に文字が浮かぶ。
『里長の家にいます。迎えにきてください』
出番だ!
お待たせしましたー!!
すっ飛んで来た傘化け。
小傘、いつもありがとう。
聖にぎゅっと抱かれて嬉しそう。
ある日、境内をうろちょろしていた傘化けを呼び止めた命蓮寺の守護者。
『アナタ、姐さんのお役に立っているようだね。名前は?』
頭巾の女妖が小傘を見下ろしている。
小傘は緊張しながら答える。
『こがさ、多々良小傘』
『ふーん、小傘ね。
私は、姐さん、聖白蓮の役に立つモノ、大事にしているモノを守るのが役目なの。
私の名は雲居一輪。
小傘、これからは困ったことがあったら私に言いなさい』
そう言って初めてニッコリ笑った。
(あ、ああー!? 優しそうな顔だー! このヒトホントは優しいのかも)
雲居一輪は聖白蓮に心酔している。
彼女の目指すもの、大事にしているものは身命を賭けても守ると決めている。
そして、妖怪擁護の聖に感化され、聖白蓮を慕う、特に力の弱い小妖は自分が守るのだと誓いをたてている。
この傘化けも守る対象になった。
誰にも言ってはいないが、このちょっと抜けているが人懐っこく明るい傘化けが結構気に入っていたりする。
(小傘も怖がらせちゃったから時間がかかるなあ、まあゆっくり付き合うか)
小妖たちに最初はいつも怖がられる自分。
分かっている。
おかしなヤツは姐さんの側に寄せられないもの。
怖い顔だってするし、厳しい態度もする。
でも、本当に姐さんを慕うのならソイツは仲間だ、必ず守ってみせる。
昼下がり。
寺務所で命蓮寺メンバーがくつろいでいる。
一輪、ムラサ、ぬえ、マミゾウ、そしてナズーリン。
「こんちわーー」
愉快な忘れ傘が元気よく戸を開けた。
お寺の主力が屯している空間に少し怯んだ小傘だが、気を取り直す。
「い、一輪姉さん、今日はお夕飯いただいてもいいですか?」
すがるように訊ねる。
「ほう、一輪【姉さん】と、きたのう」
マミゾウが面白そうに言えばぬえが答える。
「手懐けているみたいだからねぇ」
未だ得体の知れないEXコンビが茶化す。
一輪は気にしないようにして小傘に微笑みかける。
「小傘、もちろん構わないわ、今日はゆっくりしていらっしゃい」
「夕飯を作るのはご主人なんだがな」
「一輪は小さい妖怪に甘いからねー」
ネズミの賢将が言えば船長がかぶせる。
なんとなく一輪がからかわれていると感じた傘化けがフォローを試みる。
「一輪姉さんはとっても優しいんだよ! いつも飴ちゃんをくれるんだよ!」
一輪を守ろうとする健気な小傘がおかしくて、ナズーリン、ムラサ、ぬえ、マミゾウがそれぞれに言う。
「餌付けだ」
「餌付けね」
「餌付けじゃん」
「餌付けじゃの」
「こ、小傘、何を言っているの!?
えーっと、傘とアメは相性が良いのよ……って分かるでしょ?」
「こじ付けだ」
「こじ付けね」
「こじ付けじゃん」
「こじ付けじゃの」
「ステキな一輪姉さんを悪く言わないでよ!」
「懐いているな」
「懐いているね」
「懐いてるじゃん」
「懐いておるの」
「小傘、うれしいんだけど、それ以上はもういいの!
あの、なんだか恥ずかしいから……」
「ダメだな」
「ダメね」
「ダメじゃん」
「ダメダメじゃの」
尼僧に拾われた雨傘。
聖白蓮の大事なモノだからと言う理由付けをしながらも多々良小傘を一番可愛がっていいるのは雲居一輪だったりする。
命蓮寺のたわいない話の一つ
了
エロ成分はほとんどありませんし、勝手設定モリモリでオチも無くダラーっとした構成です。
ご寛恕いただけますか? アウト? セーフ? ヨヨイノヨイ!
そんじゃ、ご覧ください。
早朝から降り出した雨粒が地面を叩き、湿った土埃の臭いをまき上げている。
「おはよう、雲山」
部屋の隅で小さくなって丸まっていた相方に声をかける。
「今日は雨だから姐さんはお出かけね」
雲居一輪が話しかけても相方はほとんど返事をしないので独り言のようだ。
だが、口に出すことで考えを整理できる。
昔からの癖だ。
よほどおかしなことを言わないかぎり、頑固親父の入道は黙っているし。
肩に掛かった髪を後ろでまとめ頭巾で覆う。
『一輪は綺麗な髪なんだから頭巾で隠すことないのに』
同僚のムラサがいつも言う。
でも、自分は聖白蓮の元、仏に仕える尼僧。
だから女をアピールする必要はないと思っている。
それに、頭巾は結構便利だ。
気晴らしに雲山とともに空を駆け巡る時、髪が風にまかれないですむから。
(綺麗な髪って言うのは姐さんの髪のことよ)
尊敬する住職の不思議なグラデーションがついた髪色を思い出す。
弾力があり、毛先まで生命力にあふれている。
昨夜も手入れをさせてもらった。
櫛にほんの少し香油を塗ってゆっくり丁寧に梳る(くしけずる)。
至福の時間を過ごさせてもらった。
(姐さんは別、命蓮寺を盛り上げるためにも綺麗な姿を見せていて欲しい。
けど、私だけのモノにもしたかったりして、きゃーーー)
雲居一輪はニマニマしながら身だしなみを整える。
入道遣いの最優先はいつだって聖白蓮だった。
聖白蓮は雨の日に必ずと言って良いほど外出する。
多々良小傘という傘化け妖怪を伴って。
(あの傘化けも随分と馴染んできたのね)
命蓮寺を建てた直後から傘化けが墓地に住み着いていた。
墓参りにくる人間を驚かそうとしているが、タイミングの悪さと、滑稽さが先に出てしまい、本人の思惑通りにはいっていないようだ。
初めて出会ったのは、一輪と聖が寺に戻る道すがら。
『おどろけー!!』
暗紫色の大きな傘をかざし、下駄ばきの少女が飛び出してきた。
傘からは真っ赤な舌がだらしなく垂れている。
(おどろけって言われてもねえ?)
一輪は肝が据わっている。
人間だった頃ですら見越し入道を感服させるほどの胆力があったのだ。
こんなチンケなオドシでは小揺るぎもしない。
隣の様子をうかがう。
住職ははじめこそ不思議そうにしていたが、少ししてから頭を抱えてしゃがみ込んだ。
『きゃーー あーれー おそろしやーー』
『姐さん!? どうしたんですか?』
『ほら、一輪も、早く』
小声で催促してきた。
(おどろいて怖がるふりをしろってことかしら?
小さな妖怪の悪戯に付き合おうってことかしら?
妖怪に優しい姐さんらしいけど・・・・・・)
小さな傘化けが不安そうに聖と一輪を交互に見ている。
一輪は小芝居にノリそこなった。
今更怖がって見せてもワザとらしい、聖の演技もかなりアレだ。
どうしたものかと思っていたら、傘化けが大きくため息をついた。
『はあーー、またダメかー』
残念そうにつぶやく。
立ち上がった聖が傘化けの出自や事情を聞く。
捨てられた傘で付喪神。
腹いせに人間や他の妖怪を驚かしているという。
上手くいっていないようだが。
妖怪の出自としては【よくある話】だった。
『お腹空いていない?』
聖の問いかけに黙って頷く。
『お寺にいらっしゃい』
歩き始めた二人のあとをトテトテとついてきた。
傘化け、多々良小傘は歩きながら考えた。
長い髪の穏やかな女は自分を【構って】くれた。
驚き方は微妙ではあったが、【構って】くれた。
人間ではないようだが、その辺りはあまり気にならなかった。
もう少し頑張ればもっと驚かすことが出来るかも知れない。
一方の頭巾を被った女はなんだか怖い雰囲気をまとっていた。
下手に手を出したらヒドい目に遭いそうだ。
気を付けようと心に留めた。
小傘レベルの小妖が聖白蓮の本当の力を測ることは無理だった。
『そんな汚い足で上がるんじゃないよ! そこの雑巾できれいに拭きな!』
上がり口に置いてある雑巾の入った桶を指さす。
寺に着き、下駄を脱いで上がり込もうとした小傘に頭巾の女妖が厳しく注意した。
その強い口調と鋭い視線に竦み上がってしまった。
(や、やっぱりコイツ、怖いよー)
『小傘さん、面倒でも足をキレイにしてくださいね。
お寺の掃除をしてくれているモノ達のためにもお願いします』
髪の長い女が優しく告げた。
寺の墓地をねぐらにしているが、寺の中には入ったことはなかった。
境内も屋内も古めかしい造りではあるが小綺麗であった。
掃除や手入れが行き届いていることは駆け出し付喪神の自分にだって分かる。
裸足に下駄ばきの自分の足は相当汚れている。
確かにこのまま上がるのはよろしくない、すぐに理解できた。
『拭いてあげましょうか?』
足下に屈み込もうとする女を慌てて制する。
『じ、自分でできるよ!』
うふふと笑って流れるような所作で奥へ行ってしまった。
だが、頭巾の女は腕組みしたまま見張っている。
小傘は緊張しながら丁寧に足を拭いた。
その夜は質素ながら今まで口にしたことのない美味しい食事だった。
翌日から聖白蓮を驚かすことが小傘の目標となった。
『おどろけー!』 『うらめしやー!』
自分なりにタイミングを計って飛び出す。
『きゃー びっくりーー』
リアクションはいつも決まってこんな感じ。
どうもしっくりこない、何かが違う。
もちろん、頭巾の女妖がいないときに限っていたが。
里の子供達、男の子が女の子をきゃーきゃー言わせているのを見た。
よし、次はアレだ。
聖の後ろから忍び寄り、スカートを思い切りまくりあげた。
ビックリしたのは小傘の方だった。
(ええええ!!? 何も穿いてない!!?)
良く見れば聖白蓮の生尻には細い紐が丁の字に張り付いていた。
あとから聞けば【てぃーばっく】と言うそうで、大変快適なのだとか。
当の聖は驚きもせず穏やかに告げる。
『小傘、そのオイタはいけません。次はありませんよ?』
そう言って微笑んだが、小傘は身も心も凍り付いた。
(な、なんだかわかんないけど、こわー! こわいようー!)
初めて感じた格の違い。
そして気づいたこれまでのリアクションの違和感。
このヒト、自分に付き合ってくれてたんじゃないか。
【構って】くれてただけなんだという諦観。
それとともに強く感じたのは【このヒトに嫌われたくないな】という想い。
『あら、雨ですね』
一人、里に向かって歩いていた聖がつぶやいた。
ぽつりぽつりと落ちてきた。
いつものように聖をつけていた小傘。
聖の綺麗な髪に雨粒がくっつき始める。
ややあってから飛び出した。
『ねえ、わちきの傘に入っていいよ』
『ありがとう、とても助かります』
『この傘、へ、変じゃない?』
『滅多に見ない色ですね、私もこんな個性的な傘が欲しいです』
『ホント? 欲しいの? ホント?』
『本当です』
『ホントにホント?』
『本当に本当です』
『じゃあ、じゃあ、この傘』
『ひじりさまー、こんにちわー』
蛇の目傘をさした里の子が二人、聖に話しかけていた。
聖も愛想良く応対する。
『おつかいですか? 雨降りなのに感心なことですね』
『ひじりさまー、変なカサだね』
その一言で身動きできなくなった小傘。
子供の無邪気さは時に残酷だ。
『そうですか? 私はとても気に入っているんですよ』
聖の回答に子供達は納得がいっていないようだ。
『変だよ』 『変だよなー』
そう言いながら聖が来た道を歩き去っていった。
聖に傘をさしかけながら下を向いてしまった忘れ傘。
『ねえ聖、この傘、わちきって変なんだよね・・・・・・
だから捨てられちゃったんだしさ』
『さっき、欲しいって言ってたけど、聖もいらなくなったら捨てちゃうの?』
上げた顔、色違いの両目からぽろぽろと涙がこぼれている。
聖はゆっくりと首を振っている。
穏やかだが力強い否定。
『ホント!? ホントにホントにホント!? 捨てない!?』
『本当に本当に本当です。私はこんな傘が欲しいです』
『じゃあ! じゃあ! わち、ワタシをあげます!!! もらってください!』
聖が小傘を伴って出かける。
雨の日は必ず出かける。
小傘、お願いしますね。
かしこまりました!
必要とされる喜び、所有者として申し分のない人物に巡り会った。
小柄な小傘の歩調に合わせてゆっくりと歩く。
はじめは聖と呼んでいたが、今は『ひじりさまー』。
身近で起こった他愛のないことをまくし立てる傘化け。
その話に穏やかに相づちを打つ僧侶。
その日は急な雨降り。
里長の家を訪れていた聖白蓮は空を見上げる。
里長が言う。
傘をお貸しいたしましょう。
ありがとうございます、でも大丈夫なのです。
軽く呪文を唱える。
命蓮寺で待機していた小傘の傘の裏に文字が浮かぶ。
『里長の家にいます。迎えにきてください』
出番だ!
お待たせしましたー!!
すっ飛んで来た傘化け。
小傘、いつもありがとう。
聖にぎゅっと抱かれて嬉しそう。
ある日、境内をうろちょろしていた傘化けを呼び止めた命蓮寺の守護者。
『アナタ、姐さんのお役に立っているようだね。名前は?』
頭巾の女妖が小傘を見下ろしている。
小傘は緊張しながら答える。
『こがさ、多々良小傘』
『ふーん、小傘ね。
私は、姐さん、聖白蓮の役に立つモノ、大事にしているモノを守るのが役目なの。
私の名は雲居一輪。
小傘、これからは困ったことがあったら私に言いなさい』
そう言って初めてニッコリ笑った。
(あ、ああー!? 優しそうな顔だー! このヒトホントは優しいのかも)
雲居一輪は聖白蓮に心酔している。
彼女の目指すもの、大事にしているものは身命を賭けても守ると決めている。
そして、妖怪擁護の聖に感化され、聖白蓮を慕う、特に力の弱い小妖は自分が守るのだと誓いをたてている。
この傘化けも守る対象になった。
誰にも言ってはいないが、このちょっと抜けているが人懐っこく明るい傘化けが結構気に入っていたりする。
(小傘も怖がらせちゃったから時間がかかるなあ、まあゆっくり付き合うか)
小妖たちに最初はいつも怖がられる自分。
分かっている。
おかしなヤツは姐さんの側に寄せられないもの。
怖い顔だってするし、厳しい態度もする。
でも、本当に姐さんを慕うのならソイツは仲間だ、必ず守ってみせる。
昼下がり。
寺務所で命蓮寺メンバーがくつろいでいる。
一輪、ムラサ、ぬえ、マミゾウ、そしてナズーリン。
「こんちわーー」
愉快な忘れ傘が元気よく戸を開けた。
お寺の主力が屯している空間に少し怯んだ小傘だが、気を取り直す。
「い、一輪姉さん、今日はお夕飯いただいてもいいですか?」
すがるように訊ねる。
「ほう、一輪【姉さん】と、きたのう」
マミゾウが面白そうに言えばぬえが答える。
「手懐けているみたいだからねぇ」
未だ得体の知れないEXコンビが茶化す。
一輪は気にしないようにして小傘に微笑みかける。
「小傘、もちろん構わないわ、今日はゆっくりしていらっしゃい」
「夕飯を作るのはご主人なんだがな」
「一輪は小さい妖怪に甘いからねー」
ネズミの賢将が言えば船長がかぶせる。
なんとなく一輪がからかわれていると感じた傘化けがフォローを試みる。
「一輪姉さんはとっても優しいんだよ! いつも飴ちゃんをくれるんだよ!」
一輪を守ろうとする健気な小傘がおかしくて、ナズーリン、ムラサ、ぬえ、マミゾウがそれぞれに言う。
「餌付けだ」
「餌付けね」
「餌付けじゃん」
「餌付けじゃの」
「こ、小傘、何を言っているの!?
えーっと、傘とアメは相性が良いのよ……って分かるでしょ?」
「こじ付けだ」
「こじ付けね」
「こじ付けじゃん」
「こじ付けじゃの」
「ステキな一輪姉さんを悪く言わないでよ!」
「懐いているな」
「懐いているね」
「懐いてるじゃん」
「懐いておるの」
「小傘、うれしいんだけど、それ以上はもういいの!
あの、なんだか恥ずかしいから……」
「ダメだな」
「ダメね」
「ダメじゃん」
「ダメダメじゃの」
尼僧に拾われた雨傘。
聖白蓮の大事なモノだからと言う理由付けをしながらも多々良小傘を一番可愛がっていいるのは雲居一輪だったりする。
命蓮寺のたわいない話の一つ
了
何気ない日常、何気ないエピソード、大好きです。
16本と言わず、楽しみにしてます♪
一輪さんマジ守り守られし大輪
キャラクターの個性とかいろいろを引き出すのが相変わらずお上手でいらっしゃる。
お兄さんに聖様の生尻の様子を詳しく(以下略)
エロくて長い話以外もあるんですね。
いい話だね♪
むしろ急ぎすぎてクオリティーを下げられてしまったら読者側としてもガッカリですので。
ところで聖の『てぃーばっく』とやらについて詳しく、
……おや?こんなに夜遅くに一体誰が来たんだろうか……?
一輪も小傘もなかなか
こんなに早くサイドストーリーが読めて嬉しいです!ありがとうございます。
みんなの突込みがいいなぁ。こんな命蓮寺もいいですね。
それにしても聖様の下着もデンジャラスですな。
ぶっとび咲夜さんを思い出してしまいました。
今までの作品と比べると短くて物足りない(?)気もしたが、読みやすかったし可愛いし、なごみました
そして『てぃーばっく』の快適さについて詳しk…
おや?誰か来たようだ…
ソッコーのコメントと恐れ入ります、ありがとうございます。
あと二つくらい連続で出してみます。
紅川の【命蓮寺】LOVEをご覧ください(w)。
奇声様:
いつもありがとうございます。
此度は少しテイストを変えてみたのですが、いかがだったでしょうか?
4番様:
小傘、かーいーですよねー、命蓮寺のマスコットに設定してます。
5番様:
ありがとうございます、勝手設定なのにお気に召していただけたのなら嬉しいです。
12番様:
ありがとうございます、一輪はとっても苦労性、でもいつか幸せが……と思っています。
16番様:
恐縮です。紅川は東方キャラが皆、好きです。
これからも勝手設定のキャラをバンバン出していきます。
18番様:
ありがとうございます。今回は「こんなの書いて良いのかな? アップして良いのかな?」とちょっと迷っていました。でも、こんなに暖かいコメントをたくさんいただけましたので嬉しかったです。
しかし、エロネタは自分の真髄と思っておりますので、お待ちいただけると幸いです(w)。
レモン汁様:
いつも丁寧に読んでいただきありがとうございます。
慌てず焦らず、マイペースをご寛恕ください。
てぃーばっくに至る話はいずれってことで……
20番様:
ありがとうございます。うーん、聖の秘密は早すぎたか……
21番様:
bd
25番様:
ありがとうございます、やっぱ、Tバックですか、むうう。
29番様:
言っていただいたことがきっかけです。
ありがうございます。
新境地(?)を開拓させていただきました。
これからちょこちょこ書いてまいりますね。
30番様:
ありがとうございます。
今後も、さらっと軽く楽しげな命蓮寺を書いてみたいと思います。
よろしくお願いします。
32番様:
ありがとうございます。
ちょっと雰囲気を変えて軽く書いてみました。
でも、軽くと言っても、投入している情熱は一本分です。
これからも【命蓮寺閑話】をちょこっと書いてみますのでよろしくお願いします。
一輪さんの変化がいいなぁ。
ちなみに聖姐さんは紐ぱん派です。
珍しい組み合わせはやっぱり読んでてとても楽しいものです。
台詞回しもテンポよく、ほがらかな命蓮寺一家の一コマを楽しませていただきました。
ありがとうございます。このシリーズはちょこちょこ書いてまいります。
聖のTの理由はいずれってことで。
久々様:
ありがとうございます。一輪は世話好きなんだと思っています。
これからも書いていきますのでよろしくお願いします。
一つひとつは短い文なのに、情景がありありと浮かんでくるのには驚きました。お見事です。
そういえば、誤字をひとつ見つけましたのでご報告をば。
「寺の中には入っはことがなかった。」→「入ったことがなかった」
過去作へのコメントありがとうございます。
ついでにいろいろ直しちゃいました。
きっかけを頂き、感謝です。