とある地上の物陰に、ナズーリンと寅丸星が隠れていました。
二人は、真面目な顔をして空を見上げていました。
そこを、一人の巫女が通り過ぎようとしていました。巫女は空を飛んでいて、二人に気づいていません。
「あっ、ナズーリン。人が来ましたよ。女の子です。あの子を襲って命蓮寺の名を一足先に轟かせましょう!」
星がナズーリンを焚きつけます。しかし、ナズーリンは至って冷静な顔で首を横に振りました。
「いいや、待つんだご主人様。いいかい、人を見るときは、最初に洋服を見なくちゃいけない」
「洋服、ですか」
星は首を傾げて、ナズーリンは空飛ぶ巫女を指さしました。
「何色だい?」
「赤色です」
「返り血だ」
「か……」
「前に教わっただろう。人間というのは野蛮な生き物で、中には他の生き物を殺すことで生きがいを覚える奴らも居るんだ。そういう奴らは、決まって赤い服を着ている。昔は白かったのに、返り血ですっかり赤く染まってしまった服をね。あの少女がまさしくそうだろう。まだ全身が赤色に染まっているようじゃないが、それでもあの少女は相当の力量、そして残虐性の持ち主だよ。私とご主人様のコンビで負けることはないと思うが、それでも少し、厄介に違いない」
「な、なるほど……流石はナズーリンですね」
二人がそんな会話をしていると、空飛ぶ巫女に向かって、茄子色の何かが飛んで行きました。
「あっ、見てください。女の子の近くに飛んでいく人が!」
「ふむ、化け傘の妖怪みたいだね。どれ、私の推測が正しいか、見ていよう」
耳がとてもいい二人は、空中で行われている会話に耳を傾けました。
「うらめしやー!」
「……何?」
「あれ、驚いてないの?」
「昼間からそんなこと言われてもね」
「そ、そんな……だ、だったら、力尽くで驚かせてあげるわ!」
「そんなことより貴女、日頃からそういうことばっかりしてるの?」
「えっ、そうだよ」
「そうなのね。人間に仇なす妖怪だわ。面倒だけど暇だし、さっさと退治して人里の人間から報奨金でも貰おう」
「な、何の話をしているのかな……えーい、ゴチャゴチャ言ってないで、私のビックリ攻撃を喰らいなさぁーいっ!」
そして地上の二人が見ている前で、巫女が真っ赤な花を咲かせました。
二人は、口を揃えてから「うわぁ」と呟いて、そのまま茄子色の化け傘妖怪がふらふらと墜落して行くのを見ていました。
そうしている内に巫女は、何処かへ飛んで行ってしまいました。
「……酷かったですね」
「ああ、酷かった。幾ら人間が妖怪を嫌っているとはいえ、こんなことになっているとは」
「聖から聞いた以上です。これは早急に聖を復活させて、真の平等を復興させなければ」
星の決意に、ナズーリンは無言を返しました。
しばらく二人が身を潜めていると、今度は一人の魔法使いが通り過ぎようとしていました。
巫女と同じく魔法使いも空を飛んでいたので、二人には気づいていません。
「あっ、ナズーリン。人が来ましたよ。これも女の子です。しかも洋服は白黒で地味。あの子なら大丈夫です!」
星がナズーリンを焚きつけます。しかし、ナズーリンは至って冷静な顔で首を横に振りました。
「いいや、待つんだご主人様。いいかい、人を見るときは、服を見た後に髪を見なくちゃいけない」
「髪、ですか」
星は首を傾げて、ナズーリンは空飛ぶ魔法使いを指さしました。
「何色だい?」
「金色です」
「ヤンキーだ」
「ヤ……?」
「おや、そういえばご主人様はヤンキーを知らないんだな。それなら仕方がない。いいかい、知っての通り、人間とは野蛮な生き物だ。そしてそんな人間の中でも更に野蛮な人種として存在するのが、ヤンキーなんだ。ヤンキーの特徴はまず何より、暴力的であること。誰彼構わず喧嘩を売るんだ。しかもヤンキーは普通の人間よりも強いことが多くて、中々負けず、戦いの経験値を貯めていく。だからヤンキーには手強い奴らが多いのさ。手を出さないほうが賢明だ」
「な、なるほど……流石はナズーリンですね」
二人がそんな会話をしていると、空飛ぶ魔理沙に向かって、茄子色のアレが飛んで行きました。
「あっ、見てください。女の子の近くに飛んでいく人が!」
「ふむ、また化け傘の妖怪か。懲りないな。なら、私の推測が正しいか、見ていよう」
耳がとてもいい二人は、空中で行われている会話に耳を傾けました。
「やい! そこの人間!」
「……おっ、何だぁ? 妖怪か!」
「その通りさ」
「妖怪が私に何の用か知らないが、生憎ちょっと忙しいんでな。用があるならこれに耐えてから言うんだな!」
「えっ」
「マァスタァ――――」
そして地上の二人が見ている前で、魔法使いが大きな虹を描きました。
二人は、口を揃えてから「うわぁ」と呟いて、そのまま焦げ茄子色の化け傘妖怪がふらふらと墜落して行くのを見ていました。
そうしている内に魔法使いは、何処かへ飛んで行ってしまいました。
「……酷かったですね」
「ああ、酷かった。本当に話さえ聞かないんだな。やはり人間は酷い奴らだよ」
「うぅん、もどかしい。聖さえ復活すればきっと、妖怪の権力だって上がるに違いないのに……」
俯いて唸っている星を、「いや、それはどうだろう?」という目でナズーリンは見ていました。
しばらく二人が身を潜めていると、今度は一人の風祝が通り過ぎようとしていました。
巫女や魔法使いと同じく風祝も空を飛んでいたので、二人には気づいていません。
「あっ、ナズーリン。人が来ましたよ。これも女の子です。洋服に返り血は無くて髪の色も金じゃない。あの子なら大丈夫です!」
星がナズーリンを焚きつけます。しかし、ナズーリンは至って冷静な顔で首を横に振りました。
「いいや、待つんだご主人様。いいかい、人を見るときは、服を見て髪を見た後、足元に注目しなくてはならない」
「足元、ですか」
星は首を傾げて、ナズーリンは空飛ぶ風祝を指さしました。
「何を履いてる?」
「靴とそれから、だぼだぼの白い靴下ですね」
「ギャルだ」
「ギャ……?」
「おや、そういえばご主人様はギャルを知らないんだな。そうか、ヤンキーを知らなかったのなら仕方がない。ギャルというのはヤンキーの亜種で、不細工にだぼだぼの白い靴下を履いているのが特徴だ。しかもあの髪を見るといい。蛇や蛙といった、儀式的な髪飾りをしているだろう。ああいうのも特徴と言っていい。ヤンキーの亜種なだけはあって性格は攻撃的で、ヤンキーが肉体的な攻撃をするのに対して、ギャルは精神的な攻撃をすることが多い。搦め手が多く、相手をするには厄介だ」
「な、なるほど……流石はナズーリンですね」
二人がそんな会話をしていると、空飛ぶ風祝に向かって、例のアレが飛んで行きました。
「あっ、見てください。女の子の近くに飛んでいく人が!」
「あの様子だと、救護を求めているようだな。うん、私の推測が正しいか、見ていよう」
耳がとてもいい二人は、空中で行われている会話に耳を傾けました。
「あ、あの……」
「はい、どうしました?」
「もしよければあの」
「ハッ、その風貌。人に不安を与えるために大きく口を開いた化け傘、人間離れした両目! 貴女は妖怪ですね!」
「あ、はい。えっと」
「フフフフ! 妖怪がそっちから現れてくるとは好都合、いや、実に潔い! いいでしょう、その台詞の先は分かっています。私に勝負を挑もうと言うのですね!」
「違」
「私も腕には覚えがあります! そちらから仕掛けてくるとは、きっと貴女も相当な実力者に違いない! なので一切手は抜きません。行きますよ! スペルカード! 展! 開!」
そして地上の二人が見ている前で、風祝が綺麗な星を作り上げました。
二人は、口を揃えてから「うわぁ」と呟いて、そのままヒトガタをしたよく分からないモノになった何かがふらふらと墜落して行くのを見ていました。
そうしている内に風祝は、何処かへ飛んで行ってしまいました。
「……」
「……」
「……言葉も、無いですね」
ああ。と、ナズーリンは短く肯定しました。
しばらく二人が身を潜めていると、今度は一人の風見幽香が小鉢に植わった花を抱えて花が怯えないように自身の妖力を限りなく消した状態で通り過ぎようとしていました。
巫女や魔法使いや風祝と同じく風見幽香も空を飛んでいたので、二人には気づいていません。
「あっ、ナズーリン。人が来ましたよ。これも女の子です。しかし洋服が赤いですね、返り血でしょうか……」
星がナズーリンを焚きつけます。しかし、ナズーリンは至って冷静な顔で首を横に振りました。
「いいや、待つんだご主人様。いいかい、服を見るにあたって一つ大事なことがある」
「大事なこと、ですか」
星は首を傾げて、ナズーリンは空飛ぶ魔法使いを指さしました。
「何柄だい?」
「チェックです」
「内気の象徴だ」
「う……」
「覚えておくといい。内気な性格でいつもは家に引きこもっているような人間が、何らかの理由で外に出るときは、決まってチェック柄の服を着る。地味すぎる印象もないし派手すぎる印象もないし、目立たないからだ。それに見ろ、日傘を持っているだろう。アレは太陽に当たると体調を崩す、病弱の証だ。更に花を抱えている。花を愛でるのが趣味の人間は、同種の友達を作らない物静かな人種であることが多いんだ。だから、あの少女は狙うべきだ」
「な、なるほど……流石はナズーリンですね」
二人がそんな会話をしていると、風見幽香は二人の上を通過しそうになっていました。
「あっ、チェックの人間が通り過ぎますよ!」
「これを見逃す手はないな。あの程度にご主人様がみすみす出ていくことはないだろう。私に任せ給え!」
そういうとナズーリンは風見幽香のほうへ飛んでいき、そして風見幽香の目の前に現れました。
「やあ、少し止まってくれないか」
「……」
「おっと、驚かせてしまったかい? 今は驚かなくてもいいよ。今から、驚かすことになるかもしれないけどね」
「……」
「ハハッ、怯えなくていいんだ。ただ少し、『恐怖』というものを知ってほしいだけさ。君みたいな、妖力もない、弱そうな人間が、この大空を飛びまわれるのが――」
「……ごめんなさい」
「ん? 困るな、まだ何もしていないのに謝られると、少し罪悪感が」
「貴女じゃなくて、お花によ」
風見幽香はそう言って、手にしていた小鉢を空高く放り投げました。
ナズーリンがそれを目で追っている間に、風見幽香は日傘を畳んで、それをナズーリンに向けました。
そして。
そして地上から星が見ている前で、風見幽香は極悪色の閃光を放ちました。
星は、表情を固めたまま一言さえ口に出来ず、そのまま丸い耳らしき部位が特徴的な消し炭がふらふらと墜落して来るのを見ていました。
そうしている内に風見幽香は、何処かへ飛んで行ってしまいました。
「……ハッ、な、ナズーリン! 大丈夫ですか! ナズーリン!」
「………………」
「ナズーリィィィィィィィィィィィィン!」
星の悲鳴に、ナズーリンは無言を返しました。
ナズーリンは幸せなマスタースパークを喰らって終了ですねはい
ここまで見事な古典的ギャグストーリーを見たのは久しぶり。
待てやこらwww
前述にあるように古典的ながら、ナズーリンの台詞に妙な説得力があるからすらすら読めて実に面白い作品でした。
とりあえずナズ寅コンビ、人間襲う前に宝塔探しなさいよと(笑)
タグ以上に表す言葉を持たないのが口惜しい
とても面白かったですw
何の脈絡もない幽香がでてくるのが妙に笑えます。
短編の一つの完成型に近いものを見た
いや間違っちゃいないけどさw
自機組繋がりからいきなり出てきても納得のオチになるゆうかりんが凄い。
しかし毘沙門天の弟子が人間を襲うか・・・?と言う疑問が。
的を外しているようで当たってるwww
でも幽香に喧嘩をうっちゃあアカンよ…
綺麗にまとまっていて読みやすかったです。次回作を楽しみに待ってますね。
星ちゃんバカカワイイ
つまり、ナズは賢い。