Coolier - 新生・東方創想話

「永久の余命宣告」 一告

2012/05/05 22:06:07
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永久の余命宣告 一告
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永久の余命宣告 序告





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 雨が止み雲が去るごとに、ひとつまたひとつと暑くなる。もうすぐ夏がやってくる。
春告精が去り、桜が散り、春の芽吹きを越えて彼らが元気に遊びまわる季節がやってくる。

 私はもうすぐ役目を終える。

 役目を終え私は彼女が予告した通り、変わってしまうだろうか?
 夏を告げる朝顔が咲いたら、胸を張って会えるだろうか?

「こんにちは」
「はじめまして」

 そうこうしない内に、また会った。彼女は怖がっている。
 無理もない。

「お友達は、見つかった?」
「もうすぐ見つかります」

 彼女は、彼等は人や妖怪が思うよりもずっと、賢い。
 決して彼女は、ある線よりも私に近づこうとはしなかった。

 今はそれでもいい。すこし寂しいが、今はそれでもいい。
 
 まだ幻想郷は終わらない。私も彼女も終わらない。
「この辺は危ないよ」

 挫けそうになりそう、だけどもう一度声をかける。
 
「一緒に探してあげようか?」
「大丈夫です」

 屈み、彼女の顔まで視線を合わせる。
 彼女はまたもやびっくりして、一つ飛びのいた。

「さようなら」

 彼女はそう言い残して、強く青い森の中に消えていった。
 もうすぐ、夏。季節が変わり、夏が来れば私は胸を張って彼女に会いに行ける。

 胸を張って会いに行けるよ。



それまで、あの憎い有象無象どもを喰らいつくしてやる。

 
 抵抗は少なく弱い。

 一匹の有象無象を見つけた、逃げようとするところを、殺した。
 細かく切り、喰いやすいようにし、喰った。

 あと少し。私は、胸を張って彼女に会いに行ける。
 
 約束のために。


 私と彼女のかくれんぼはまだ終わらない。










「永久の余命宣告」 一告











「背伸びしたら駄目!」
「してないよ!」

 紅魔に広がる泉。その周辺には悪戯好きの妖精たちの棲家がある。
 
 別に、紅魔の泉の妖精たちが特別悪戯好きだというのではない、一様にどの妖精も悪戯は好きだ。

 それが危険であればあるほど、悪戯は面白いものになる。

 だいちゃんとチルノは紅魔の塀に背中を合わせて、ガリガリと石で塀を引っ掻いて傷を残す。

「ほら、私はここ!」
「あたしはこれだ!」

 背比べなのだろうか。妖精が背比べしても意味はないが、そういうことは彼女らの中ではあまり関係がないのかも知れなかった。

 すこしでも背を伸ばそうと、びしっと背筋を伸ばして、頭を塀にこすり付ける。

「私のほうが大きい!」
「嘘! あたいのほうが大きいじゃん!」
「背伸びしたら駄目!」

 きゃあきゃあと、奇声歓声を発して転げまわる妖精の姿は、人間の幼児のそれと全く変わりがない。

 紅魔に来た理由は「あたいは大きいから、あたいはサイキョウ」とのことらしい。仲間たちは「だいちゃんが一番大きい」とすぐに結論したが。

「やってみるまでわからないよ!」
「いや、やるまでもなくね?」
「いいじゃない、言い出したらきかないもん」

 そこでまっすぐで高い塀のある紅魔館まで遊びに来たのだ。最近、チルノは自分の強さに固執した考えや行動を取ることが多くなっていた。

 とにかく妖精たちは背比べのために、塀のある紅魔館にやってきて、わざわざ塀にひっかき傷をつけているのだ。

「あんたがたどこさひごさひごどこさ」
「くまもとさくまもとどこさせんばさ」

 背比べに飽きた妖精たちは、新しく手に入れた鞠やほかの遊具を使ってそれぞれに遊び始めている。

「おーいチルノ、終わった?」
「まだ!」
「もうだいちゃんの勝ちでいいじゃない」
「やだ!」
「こっち来て遊ぼうよ」

 妖精たちは何匹か集まり、紅魔の一角でたむろして遊んでいた。きっと、もうすぐ役立たずの大人が声を怒らせてやってくるはずだ。そうなったらそいつから逃げるのか、それとも新たな悪戯を仕掛けてやるのか。

「こらあっ!」
「きたぁ!」
「美鈴だ!」
「塀に傷つけるなー!」

 背の高い女が息を切らせて走ってきた。紅魔の門番を務めている紅美鈴という妖怪。彼女の出生はよくわからないが、酷い妖怪ではないという。

 めちゃくちゃなことをしなければ襲われることもないので、紅魔の門番は妖精たちの悪戯の目標にされることが多かった。

「待てぇ、悪ガキどもぉ!」
「逃げろ!」

 妖精たちは、散り散りになり四方八方に飛び去る。悲鳴のような歓声を上げて逃げ出す様は、妖精たちがどんな性格の持ち主なのか理解するに十分な光景だった。

「ふんっ! 来たわね門番!」
「ありゃ、なんで逃げないの?」

 妖精の背丈は人間でいうところの十に満たない童子のそれで、チルノの背丈は美鈴の腰に満たない。
 それが、妖怪の目の前で余裕の仁王立ち。シュールかつコミカルだった。

「美鈴なんか怖くないもんね」
「だ、駄目だよチルノちゃん、謝ろうよぉ」
「だいちゃんは先に帰ってていいよ」
「!」

美鈴は「ほう」と感嘆した。
 
 悪戯はさておいて。どうやらこの氷精、仲間が逃げるまでこの場に止まるつもりらしい。妖精らしい単純な理性だが、普通は中々できないものだ。

「ふふふ~、大将を差し出せ、そうすれば子分の命は助けてやるぞ!」
 
 華僑映画の悪役の様に美鈴は不敵に笑った。
 この正義の味方がどこまでやれるか試してやろう。美鈴はそういう遊びを思いついたのだ。

「えっ」

 この凶悪な悪役の台詞に、氷精の連れの顔が強張る。

「のぞむところだ!」

 命知らずな主人公なら、仲間のために命をはる場面だ。
 実際、この氷精もそう考えているようで、大真面目に吠えた。

「ぷっ・・・ふふふ」
 
 妖精に気づかれないように、こっそり笑みをこらえた。
 仲間のために体を張るガキ大将、なかなか微笑ましいではないか。

 素直に謝るか、逃げるかすればいいのにそこのところの思考がすっかりぶっ飛んでるらしい、そこは妖精の頭か。

「ふっ、馬鹿な奴め、部下を捨てて逃げればいいものを!」
「だいちゃん、にげて!」

 (たまには、こういうのも悪くないわね)

 悪役になりきる美鈴。単純な門番の仕事の合間に彼らの様な子供が訪ねてくるのは何よりの暇つぶしになる。
 
 こういう遊びは我を忘れてなりきるほどに面白い。
 童心に帰るというのだろうか。頭の足りない妖精は全てにおいて真剣だった。

「いくぞ~」
「こい!」

「あちょ!」と小物臭い気合をかけて、ゆっくりとチルノに仕掛けた。
 チルノはそれを慌ててよけた。「なにぃ、よけただとぅ!」とか言ってやると妖精が嬉しそうな顔をした。

 妖精がかわいい拳打を繰り出すと、ぱちりと美鈴のお腹に当たった。というか当ててやった。
 だいちゃんはその様子をはらはらと見守っている、なかなかチルノの人望は厚い様だ。

「たあ!」

拳打を当てて攻勢と見たか、チルノはかわいいあんよで蹴りを繰り出した。

「ぐふぅ!」

それも太ももにぽこんと当たり、美鈴はよろける。というかよろけてやった。だいちゃんの「あ!」という期待の眼差し。

「とどめだ!」

チルノ、裂帛と共に拳打を美鈴の頭に放つ。

「ほっ」
「あれ?」

それを適当によけて、間近に迫ったチルノの額に指を押し当て。人差し指と親指で輪を作る。

 ばちり

美鈴の凶悪な握力から放つ、十分な溜めを備えた渾身のでこぴんがチルノの額で炸裂した。

「むぐぅ・・・!」
「ふっ・・・油断したなチルノ」

 激痛にのたうち回るチルノ、美鈴の胸にはなにやら清々しい、春風のような清涼感が通り抜ける。

(あぁ、楽しかった)

 美鈴の頬は、若干の気恥ずかしさ、演技への興奮で上気していた。いい稽古をした後に似た動悸が胸で高鳴る。

 美鈴が楽しかったのは、決して弱いものいじめをしたからではない、童心に帰り遊んだからだ、勘違いしてはいけない。

「ちくしょ~」
「チルノちゃん!」

 だいちゃんがチルノにあわてて駆け寄る。動揺している風に見えるのは美鈴の先ほどの悪役台詞を真に受けているのだろう。

(ふーん、この妖精もやるなぁ)

 チルノと自分の間に割って入ったこの妖精、逃げようとしない。厚い友情で結ばれているのか、健気な行動が武狭の心にじわりと染み入った。

「酷いこと、しないよ」
「・・・・」

 先ほどの演技が利き過ぎたか、「信用できない」と氷精の連れは美鈴とチルノの間から動こうとしない。

 目じりに涙を溜めるだいちゃん。

 美鈴は彼女らの前で屈んで、その目をしっかりと見た。
 どうあれ、館の物に悪戯したのだから、悪戯小僧どもにはきちんと落とし前をつけてもらう必要がある。

「ほら、悪戯したんだから。 ちゃんと謝りなさい」

「ぐぬぬ」と悔しそうにするチルノとは対照的に、だいちゃんはほっと胸から息を抜く。

「ごめんなさい」

 お辞儀しただいちゃんの高さは美鈴の膝ぐらいまで低くなった。

「ほら、チルノちゃんも謝ろうよ」と手を引く様子は見た目通りの年の頃の少女の様でたまらない。これでチルノがぶすっと頬を膨らませたりなんかして謝ったら、何でも許せそうだ。

「・・・ごめんなさい」
「うん、許しましょう! 素直に謝る貴女たちはえらい!」

 がしかしと、二人の頭を撫でまわす。チルノはぶすっとしたまま、だいちゃんは花のように、ぱっと笑った。

「ねぇめーりん!」
「何でしょう?」
「どうやって強くなったの?」
「む、なかなか難しい質問ですね」

 美鈴は「ん?」と訝しげにチルノを見た。いつもの氷精と様子が違う、表情が真剣だ。

 自分に挑んだのは何か思うところがあるのだろうか。

「ふぅむ」

美鈴は首を捻るが、彼らの単純な人生への悩みや、思惑などわかるわけもない。

「けちけちしないで教えてよ」
「よく遊び、よく食う」

 チルノは「そんだけ?」と首を傾げた。それは飽きるほど実行したことだから変だと思っているのだ。

「そして、一番大切なのは心! 仲間を守るという強い心! 心技体!」
 
 美鈴は拳を作り天に掲げ、大きな胸を張った。

「おお!」

 得心したチルノは何度も頷く。だいちゃんはそれをぽかんと間抜けた顔で見ていた。

 元気よく仲間を連れて帰る妖精たち。それを「気を付けて」と手を振って見送った。妖精といえどもなかなか見どころがある。武狭の義理に感化された妖精は勇ましい顔をしていた。

 (どうせ明日になったら忘れるだろうけど)

「あーあ、こんなにひっかき傷つけちゃって・・・」

 妖精の背比べの跡、意味がない。この勝敗は永遠に決して覆らないのだろう。妖精は成長せず、ずっと子供のまま生き続ける。
 
 思えば吸血鬼や河童、神などよりも永久に近いのかもしれない。

「今日は真面目に起きているわね、美鈴」

 ふらっと現れたのは紅魔のメイド長十六夜咲夜。 美鈴の上司に当たる人間だ。

「それはもう、実は今し方紅魔に攻め入ろうとした逆賊を成敗したところです」
「やるじゃないの」
「はっはっは! 無敵の門番にお任せあれ!」
「調子に乗るな」
「うへぇ」

 そろそろ夏。 葉が作る影が次第に濃くなってきた。
 湖から漂う、強い水の匂いが心地よい。

「私は、あんな風に振る舞えそうにないわ」
「見てましたか」

 美鈴はばつが悪そうに頬を掻く。
 美鈴の赤い髪、やわらかそうで大きな体。美鈴とは対照的な雰囲気の女。咲夜の雰囲気は刃物の様に鋭い。
 
 咲夜は寂しそうに笑い「子供の扱いがうまいのね」と言った。

「子供とかほしいんですか?」
「まさか」 

 もしかすると咲夜の様なおかしな女でも、子供と上手に戯れる美鈴を見てうらやましいと思うことがあるのかもしれない。
 
 咲夜は先ほど妖精のつけていった背比べの跡を指で撫でた。咲夜が座ってもなお、壁の傷は視線よりも低かった。

「いつもみたいにやればいいじゃないですか、ナイフでさくっと」
「あんたねぇ」
「どうせ妖精ですよ、子供じゃないですか」
「あんたからみりゃ、私も子供ね」
「いや、それは流石にないかと」

 紅魔館は夏の準備の中、平和な日々にいた。

 もうすぐ夏。

 胸いっぱいに息を吸うと、鼻腔に湖の匂いが満ちた。
 紅魔にいる妖精たちも、吸血鬼たちも穏やかに夏を想う。




「美鈴さんって強いね!」
「・・・・」

 帰り道、だいちゃんの高揚した言葉をチルノは無言で返した。

(あたい、かっこわるい)

 口が裂けても言葉にはできない、大将というのはどんな時で自分の敗北や間違いを口にしてはならないのだ。ほかの妖精がいなかったのはチルノにとって不幸中の幸いだった。
 
 チルノの失敗など一つ二つではすまないのでほかの妖精は気にも留めないだろうけど。

「だいちゃん」
「なに、チルノちゃん?」
「今日のこと、皆には内緒ね」

 だいちゃんはチルノの胸中を察したのか「うん」と頷きチルノの手を握る。

 彼女はチルノの忠実な子分であり、誠実な友だった。

「誰にも言わないよ」
「うん!」

 湖に帰ると、仲間たちが大騒ぎをしていた。チルノの姿を見るなり、泡をくって捲し立てる。

「チルノ、まずいって、どこ行ってたんだよ!」
「どこって、紅魔館じゃない、知ってるでしょ」

 チルノはさっきの事も忘れて「勝手に逃げたでしょ」とぷんすか怒っていた。頭が弱いせいで基本的に自分の感情任せでしか言葉が出てこないのだ。

「あー! それはもういいって! だからやばいんだって!」
「なにさ、どうでもいいってことないでしょ!」
「ちょっと落ち着いてよ、何かあったの?」

 馬鹿同士では話も進まないと判断したのか、だいちゃんが会話に割って入る。チルノと難しい話がしたいときは、だいちゃんを通さねばならない。

「ああ、とにかく来てくれよ。俺、一回休みになりかけちまったんだ」

 仲間の妖精が先導する先で、どうやら危険な現象が起こったのだと説明される。その先で仲間が変な妖怪に襲われたらしかった。

「それって、前に話してたアレのことじゃない?」
「あれ?」
「そっか、チルノちゃんはかくれんぼしてたから知らなかったよね」
「そう! それだよそれ! その前よりもでかい奴」

 現場に近づくと、何匹かの妖精が悲鳴交じりに飛び回っていた。だいちゃんの顔に緊張が走る。いくら妖精が生き返るとは言え、死ぬのは怖い。

「おぉい、チルノ連れてきたぞ!」
「っう!? く、くさっ!」

 大きさは妖精の半分くらいの大きさ。赤黒いぬめりとした肌に、緑色の目? 
 変なナメクジが子供の形になった変な奴だ。

 おまけに臭い。
 妖精たちは全員鼻をつまんでいた。

「こいつら、体に取りついて噛みついてくんだよ」

 実に気味が悪い、妖精たちは石をぶつけたり蹴りを入れるなど様々な方法で攻撃を加えばらばらにするのだが、いつの間にか元通りになる。

 何より不思議だったのは、そのヘドロの子供がいる場所には黄色で、変に虹色に光る川が流れていた。

 足を突っ込んだらそこから蒸発してしまいそうだ。
 粘着質で、得体の知れない変な泡が立っている。

「なにこれ?」
「俺が聞きたいよ、チルノこいつ何とかしてくれよ」

「チルノが来た」
「こいつをやっつけろ!」

 チルノが来るや否や、ぱっと散って妖精たちは輪を囲んで両者を輪で囲った。
「やだなぁ」と思わなくもないが、仲間の期待の眼差しを考えると逃げるわけにもいかない。
 大将のつらいところである。

 チルノは思考を巡らせる。

(そうだ!)

 今こいつをかっこよくやっつけることができれば仲間の信頼、ひいてはだいちゃんに見られてしまったかっこ悪いイメージを払拭できるのでは?

「チルノちゃぁん・・・」
「・・・・」

『仲間を守るという強い心!』
『約束よ』

 チルノの小指に巻かれた、金色の髪の毛はきらりと輝く。

 誰と約束したかはもう思い出せないが、この金細工の糸を見ると約束を思い出す。自分は嘘吐きの臆病者にはなりたくない。

 チルノは勇ましくふんぞり返る。

 災い転じて福となす。
 意味はよく知らなかったけど、とりあえずこいつをぶっ飛ばせば大ちゃんも自分を見直すに違いない。

 それはとてつもなくチルノにとって、かっこいい場面であった。

「逃げるなら今のうちだ!」

 妖精たちの作ったリングの中で拳を頭上に掲げると、どよどよと仲間たちがざわめく。

 あれだけの自信があるのならば、きっとチルノは勝算があるに違いない。妖精はお互いに囁き合い、自分たちの大将の勝ちを確信した。

「さあ、かかってこい!」

 ヘドロの妖怪は腐臭を放ち、たまに黄色い川から汚水をずるずるとすする。
ぐねぐねと縮んだり伸びたりしている。
 
 どこに頭があるかも定かでないそれに、チルノの名乗りが伝わっているかは相当に疑問だった。

 ヘドロの妖怪は、チルノを視認するや否や、三本指の手を伸ばし腕を振るった。

「あっ」
「おっと!」

 ヘドロの攻撃らしき動作をチルノが躱すと共に、妖精たちの歓声が上がった。ヘドロは妖怪といっても、さして強くもない妖怪らしい。緩慢な動作に弱い力は妖精でも十分に対処できる。

 強いて言うなら悪臭が最大の敵だ。

「食らえ!」

 妖精屈指の腕力を誇るチルノのブロー、ぶん回した腕がヘドロに当たるとヘドロは為す術もなく砕け散る。

「やった!」

 チルノは両腕を高く上げて勝ち名乗りの雄叫びを上げる。しかし、仲間の応援の声がなかなか止まない。

「チルノちゃん、頑張って!」
「?」

 もう勝ったんじゃないの? と思う間もなく、砕け散ったヘドロが瞬く間に集まり、元通りになってしまった。

「おお・・・?」
「チルノちゃん! 後ろ!」

 ヘドロが盆に帰る様子に唖然としてている内に、チルノの背後には黄色の川から這い出た新たなヘドロがチルノに襲い掛かろうとしていた。

 ヘドロの大きさはチルノの様な幼子の背丈よりもさらに小さいが、それでも背中から襲われると妖精にとってはかなりの脅威だった。

「いててて!」
「うわっ! チルノ!」
「チルノちゃん!」

 背後からチルノに覆いかぶさったヘドロはそのままチルノの頭に噛みついているらしかった。妖精たちの悲鳴が一際大きくなる。

「このぉ!」

 危機本能がチルノを興奮させたのだろう。氷精は鋭いツララを瞬時に作り上げる。

「わああぁっ!」

 それをヘドロの口に突っ込み、刺し貫いた。
 
 ヘドロをチルノの背から引き離す事に成功はした。ヘドロを突き飛ばし、頭を押さえながらチルノは仲間の輪に逃げ込む。

 チルノの頭から、すうと冷たい妖精の体液が流れ出す。 妖精の血のようなものだろう。

「ういててて・・・」
「おい、チルノ大丈夫かよ!」
「ち、チルノちゃん・・・」

 顔を刺し貫いたツララをどうにかして抜こうと、口の中に三本指の手を突っ込んでいるヘドロ。

 その様子を目の当たりにした妖精たちは一様に口を噤んだ。あまりにもヘドロの仕草や容貌がおぞましすぎたからだ。黄色の川から香ってくる腐臭が妖精たち全員の鼻に突き刺さる。

「逃げろ!」

 どの妖精が叫んだのか分からなかったが、とにかく誰かがそう叫ぶと妖精達の間にみるみる恐怖が伝染した。

 その直後、ヘドロがツララを抜き地面に叩きつける音が響く。
 
 同時に妖精たちの緊張も爆発した。

「あっ!?」
「お、おい、お前ら逃げるな!」
「待ちなさいよ!」

 妖精達は一目散に逃げ出す。その場に残ったのはチルノとごく親しい妖精が数匹だけになった。

 彼らは逃げる妖精達に「逃げるな」とか「弱虫」などと罵倒を投げかける。チルノと懇意にするというだけあって、彼らはほかの妖精よりも根性が座っている。

 チルノがやられたと見るや、それぞれヘドロになぐりかかった。

「チルノちゃん、大丈夫!?」
「・・・」

(あたい、かっこわるい)

 今日は踏んだり蹴ったりだ。みっともないと思うと同時にちょっと泣けてきた。

 チルノが蹲って痛みに耐えている間にも、あちこちの取っ組み合いがさらに過酷になりつつある。

 仲間達は威勢よくヘドロと殴り合いをしている。頭から噛みつかれたり、汚物まみれになったりするが妖精たちはどういうわけか逃げようとしなかった。

 それはまるで、本丸を守る兵士の様に悲壮な顔をしている。

 傍の妖怪や人から見れば子供の喧嘩の様に、滑稽な画だと思われただろうが彼等は彼らなりに真剣に戦っている。妖精の直感が湖から逃げることを拒否した。

 近い未来必要な場所になるのだと、まるで優秀な指揮官に諭されたように決死の抗戦を試みているのだ。なんで痛い思いをしてまで戦っているのかは妖精達にもよくわからなかった。

「うわぁ!」
「このやろう!」
「えいっ!」
 
 だいちゃんもチルノを放り出して仲間の救助に向かった。仲間に噛みついているヘドロを殴り飛ばしたりとなかなか勇ましい。妖精の中では比較的力の強いだいちゃんはほかの妖精よりも活躍している。

「・・・」

 その様子を、チルノは情けない顔で見ていた。

 妖精らしからぬことだが、震えが足に来ていた。基本的に命知らずの妖精だが、何故かヘドロに頭から噛みつかれたときに腹の底に冷たい、重い氷の塊のような得も言われぬモノが込みあがった。

(食べられる)

 過去にチルノも妖怪に食われたりしたことが何度かある。妖精なら何度か辿る道だが、その時は適当に一日二日休んでから湖の傍で生き返った。

 幻想郷で表現されるところでは一回休みというやつなのだが、今回はどういうわけかそれが出来ない様な、嫌な予感、怖気が走った。

 一度あいつらに食べられると二度と戻れないかもしれない。

 それがチルノの腹から足に伝わってチルノを拘束していた。

『その妖怪に食べられた妖精はね、元通りにならないの』

 紫に出会った晩に聞かされた話だ。
 
 チルノはその時のことを正確に覚えていなかったが。肝心要の部分だけは心のどこかに留まっていて、それを無自覚のところで恐怖していた。

「あぁ・・・」

 もしも、元に戻れなかったら嫌だな。相手はどうやらサイキョウらしい。砕いても何をやっても元通りになってしまう。こっちが怪我をするだけ骨折り損だ。

「いててて!」
「こいつ!」
『仲間を守るという強い心!』

 そうだ、今から紅魔館まで行って美鈴に助けを求めるというのはどうだろう?
美鈴のような強い妖怪ならこいつらを蹴散らしてくれるかも。

「わぁっ!?」
「食べられた!」

 仲間の一人が腕を齧られたらしい。腕の肉の一部がごっそり無くなっていた。戦力を著しく失った妖精はヘドロに囲まれにっちもさっちもいかなくなっていった。

 いや、助けを呼びに行く間に仲間は喰われて、全滅するだろう。それだけは妖精の大将として許容するわけにはいかない。

「きゃぁあ!」
「うおっ!」
「だいちゃんっ!」

 孤軍奮闘していただいちゃんにも三本指、得体の知れない妖怪の魔の手が伸びる。

 だいちゃんの背にしがみ付き、やわい妖精の羽にばりばりと噛みつかれた。それにたまらずだいちゃんは逃げることもできず、ヘドロの妖怪にぶったおされる。

「助けて!」
「!」

『チルノちゃんは友達を守ってあげて』

 妖精は頭が弱い、おまけに女の妖精ともなれば血の滾りが性格の全てだ。チルノのつららの羽は強い冷気を発し、助けを求める友達の近くまですっ飛ぶ。

「わあああぁあ!」

 巨大な雹を強烈な速度でヘドロめがけてぶちまけた。ヘドロはまた砕け散って吹き飛ぶ。人間でも当たれば相当に痛い。

「えいっ」
「ち、チルノちゃん」

 だいちゃんを引っ張り上げて、ヘドロの包囲から抜け出る。だいちゃんの羽はちょっと欠けていたり歪んだりしている。

「うおおぉ、やっべえー・・・」
「勝ち目なくねぇ?」
「あいたたた」

 他の仲間も空に飛びあがりチルノの傍に寄る。全員満身創痍でかなり苦しい状況。

「うぅ、くっせぇー!」
「私たちも逃げるしかないのかな?」
「あーもう、服がドロドロじゃないの!」

 奮闘していた妖精達もそろそろ引き際と感じ始めたのか、泣き言を漏らし始めた。負傷した兵士を抱えて撤退の時間が迫っている。

「チルノちゃん・・・」
「どうするの、チルノ?」
「どうすんだよチルノ」
「・・・」

 仲間の不安そうな視線を「ふんっ」っと踏ん反り返り跳ね返す。
 
 大将が頼りなければ子分も元気をなくすのだ。なるべく子分の不安を吹き飛ばせるよう偉そうにしてなければならない。

「あたいにヒサクあり!」
「えー」
「またそれか」

 仲間の「やめときゃいいのに」という意見を無視して子分を置いてチルノはもう一度ヘドロの包囲網に突っ込んだ。

「みてろ!」

 先ほど仲間を痛めつけた連中の前に堂々と立ちはだかり、ぎろりと睨めつける。

「やい! このやろう、もう容赦しないんだから!」

 相変わらずヘドロの妖怪は何を考えているのか分からない。チルノの方にのたりと近寄ってくる。

「いくぞ、必殺~!」

 特撮ヒーローのように足幅は肩幅よりも広く、腕を振り回しバシッと歌舞く。

「チルノちゃん、頑張れ!」

 前ほど仲間の声は大きくなかったし、観客も少ないのだが、それなりに仲間の士気に貢献できたのだろう、だいちゃんが声援を送ってくれた。

 チルノの必殺、『一番キレのある冷気を本気で相手にぶつける攻撃』。
 
一番氷精らしい攻撃方法だが、普段チルノはこの冷気の攻撃を封印しているのだ。以前悪戯で人間にこれをやった時、相手が凍傷になるというちょっとした惨事が起きた。

 そのときはあまりのやっかいさに人間の大人が総出でチルノを捕まえ、こらしめるという騒動に発展した無敵の必殺技である。

 そのときに相当痛い目を見たのか、チルノはそれ以来この冷気をぶつける攻撃をやらないことにしていた。たとえ喧嘩でもこれをやると人間が怒るのでおっかなかったのだ。

「さっきまでのあたいと思うなよ!」

 だが、味方が喰われそうになるという場面ではその限りでない。妖精の大将として事態を見過ごせない。いまこそ必殺技の封印を解く刻がきた。

「ていっ!」

 チルノが腕を突き出すと、かるく「ぱしり」と空気のはじける音が聞こえる。空気が凍結する音だ。

 チルノが妖精の中で特に強いといわれる所以がこれだ。妖怪ならまだしも普通の生き物がチルノの手のひらに触れれば凍傷を免れない。

 チルノが腕を振り回しながらヘドロの群れに突っ込むと、どういうわけかヘドロたちの動きが著しく緩慢になり始めた。

「おっ?」
「おお!」
「いまだ!」

 のろくなったヘドロ妖怪の三本指の攻撃をかわし、すかさず懐に冷たい腕を叩き込んだ。

 厳しい冷気を受けたヘドロは動きをほとんど失い、どろりと崩れ去った。どよどよとわずかに動くが、今すぐ寄せ集まって襲ってくる気配は無い。

「やった!」
「やっちまえチルノ!」
「いけぇ!」

 仲間の熱い声援に気分を良くするチルノ。背後から襲ってくる第二波の敵にも隙なく勘付き渾身の凍結攻撃を喰らわせる。

「・・・・最初からあれやっとけばよかったんじゃね?」
「ちょっと黙ってて!」
「あいて」

 仲間の無粋な発言に、だいちゃんが一発拳骨を入れた。チルノに的確な行動を逐一取らせるなど、度台無理がある。

「おまえで最後だぞ!」

 腕を組み、ない胸を張って偉そうに踏ん反り返る。

 不況の中、不屈の闘志で敵を組み伏せるのは最高にかっこいい勝ち方だ。チルノはむっと不遜な顔を作り、厳かに敵に告げる。

「逃げるなら今のうちだ」
「そうよそうよ!」
「どっかいきやがれ!」

 チルノのかっこいい台詞に仲間は今までの敗戦ムードも忘れて大いに盛り上がる。
 
 チルノは間違いなく妖精たちのヒーローだった。

 相変わらず何を考えているのかよくわからないヘドロの妖怪は腐臭をまき散らしてチルノにゆったりと近づいてきた。最終勧告を終えた今、敵にできることは一つだけだ。

 チルノの冷気に当てられたのか、ヘドロの動作は酷くゆっくりだ。ヘドロはもしかすると寒さや冷たいものに弱いのかもしれない。

「とう!」

 三本指の腕を潜り抜けて、冷たい手のひらを頭とおぼわしき部位に叩きつけると、ヘドロの妖怪はそこから氷付き、ばらばらになった。

「やったぁ!」
「チルノすげええぇ!」
「やっつけたわ!」

 見守っていた仲間たちは、わっと嬉声を上げチルノに駆け寄る。思わずチルノの緩い顔がいっそうに緩くなる。

 やはり自分はサイキョウだ、自分は仲間をちゃんと守った。

「あったりまえの真ん中!」と豪語するチルノ、この場にいる妖精たちは頼りになる仲間だと確信した。チルノに爛漫の笑みがこぼれる。

「チルノちゃんかっこいいー!」
「と、当然! このぐらい朝飯前だよ!」

 親友のだいちゃんがチルノの手を固く握りしめ、花のように笑いかけると、チルノはほっと胸をなでおろした。

 どうやら今までの失態は忘れてくれるらしい。

「こいつら、一体なんなんだろう?」
「とりあえず恐ろしく臭いわね」
「うーん・・・」

 近くに流れる、どう見てもヘドロ妖怪の発生源と思われる黄色の川。川の表面は光が反射してまるで虹のように光っているおり、おぞましい光彩を放っていた。

(見たことないなぁ)

 大ちゃんは記憶を辿るが、今までこういう妖怪を見たことがない。幻想郷には元々いなかった新米の妖怪か何かだろうか?

「あっ」
「どうしたの?」
「こいつ、まだ動いてる!」

 だいちゃんの足元までヘドロの破片が這い寄っていた。だいちゃんの声でヘドロに気づいた妖精たちは、その破片を羽虫を殺すように踏みしめる。

 しかしどうやっても死ななかった。

「死なないね・・・」
「まさか、また元通りになっちまうんじゃないか?」
「どうしよう」
「どうする」

 不死身の敵を目の当たりにする妖精たちはまた浮き足立つ。「これはいけない」とチルノは考えた。

 だいちゃんの不安そうな顔を見るとぐっと胸が締め付けられるようだ。

 そんなのは嫌だ。

 大将は時に仲間の元気を守るためにすごいパフォーマンスをしなければならないのだ。

「こんなもんー!」

 チルノは蠢くヘドロの塊を鷲掴みにし、

「あ」
「え?」
「うえっ!?」

 口の中に放り込んだ。

「うっわわわ!」
「なにしてんのチルノ!」
「うえええぇ・・・」
「むぐぐぐ」

 チルノの危行で今までの不安な気持ちがさらに不安な気持ちでぶっ飛んだ。妖精たちは「吐き出せ!」とか「馬鹿!」とかそれぞれに至極真っ当なことを叫びあう。

「・・・・」

 チルノは青い顔をして口をむぐむぐと動かしてヘドロの塊を咀嚼していた。しばらくして「ごくり」とその塊を飲み下す。

「チルノちゃん、大丈夫?!」
「ら、楽勝!」

 チルノが無理やり苦しい笑顔を作ると、仲間たちは一気に叫びあった。

「うおおおおぉ」
「すっげえええ」
「大丈夫なの?」
「チルノ、やっぱすげぇよ!」

「案外できた」と密かに思いつつ、チルノは何度も踏ん反り返った。湖の畔で小さな勝利。逃げずに戦った妖精達の顔もどこか誇らしげだ。

「・・・・」

 妖精のうちの誰かが「じゃあ、俺も」とチルノのマネをしようとそこら辺のヘドロの破片に手を伸ばした。握りしめたそれを口に入れる。

「もしかして、案外美味しいとか?」
「どう?」
「・・・・!?」

 しばらく味を確かめるように咀嚼していた妖精の一人が顔を真っ赤にしてのたうち始めた。湖に走り出して水に顔を突っ込む。

「おーい」
「大丈夫か?」
「あたい以外は無理無理!」

 チルノは「自分以外にできるものか」とヘドロを口にした仲間に近づく。

 なにせ自分はサイキョウなのだ。ほかの妖精にできるわけがない。

「あれ?」
「どうしたの?」

 無謀な妖精に近づくが、その妖精は微動だにしない。チルノがそいつのお尻を蹴突くと「どぼん」と水しぶきを上げ、湖に無抵抗に落ちた。

「・・・?」
「一回休みになっちゃったみたい」




****************




「あぁ・・・今日も間抜けなくらい空が青いねぇ」

 妖怪の山、にとりは背伸びをして青い空を仰ぐ。
 
 妖怪職工の朝は早い。テーブルに置かれた磁気テープのスイッチを押すと、のどかで軽快な音楽が流れ始めた。

『あたーらしーい、あさーがきたー』

 近年幻想郷に流行りつつある外の音楽である。外の人間はこれを聞きながら踊り、一日の健康を祈るらしい。にとりのマイブームであった。

『からだをおおきくまわします~』
「よっよっ」

 木々の陰が濃くなって、葉っぱは青々としている。もうすぐ夏だ。さわやかな風を感じながら体を軽く動かすと、最高の気分だった。

「いや~・・・今日も風が気持ちいなぁ」

 夏の匂いのような、なんだか風が妙に生臭い様な気がしたが、別にどうでもいいと思っていた。朝起きると口の中で酸っぱい匂いがするのは割とよくあることである。

 テープが終わると、崖の上に立つ。このまま遥か下にある妖怪の山の川に飛び込むのだ。

 朝の眠気を吹き飛ばすのとヘアスタイリング、朝食の確保を兼ね添えた一石三鳥。朝の恒例行事である。

 ダム建築、妖怪の山での産業革命はにとりたち河童の職工の地位を確実に向上させていた。チームワークの無さを露呈することにもなったが、それはそれ、にとりの職工としての知名度は確実なものとなっていった。

 これからは一職工としてではなく、幻想郷を代表するエンジニアとして活躍する日も遠くないかもしれない。

『腕と脚のうんどう~』
「えへへへぇ」

 自分の輝かしい未来を想像し、変ににやける。厳しい仕事だがやりがいがある。

 にとりの部屋の扉が激しく鳴る。誰か訪ねてきたらしい。

「にとりさん! 開けてください、お話があります!」
「なんだか、さわがしいなぁ」

 特に職工の中でも、妖怪のナンヤカンヤのナンチャッテ技術ではなく、にとりは外来技術の正しい知識を収集していたのだ。

 だから無実の罪で、誤解の皺寄せにされたのも残念ながら予期されるべき事態だったのかもしれない。

「文? ああ、ちょっとまっててね~」
「にとりさん、まさか逃げるつもりですか!? 後生ですから絶対に止めてください!」

「なんのことだろ?」と思いつつ、半分寝ぼけた頭で部屋の窓に立つ。むっと鼻に生臭いにおいが立ち込めたので「昨日風呂入ったっけ?」などと思いつつ、体を空中に放り投げた。
 
 どのみち川で泳げばすっきりするのは間違いない。

「こらぁ! にとりを出せ!」
「ちょっ、ちょっと待っててください!」
「ぶち破れ!」

 にとり家宅の付近では妖怪の山の住人達が大挙して押し寄せていた。特に白狼天狗の憤りは激しく、全員が剣を抜いている。

 新聞記者の射命丸文は憤る白狼天狗を宥めすかして、もう一度扉を叩いた。

「にとりさん! 貴女の作ったラボ付近で謎の不法排水が問題になっています!それについて何か、何か一言!」
「文様! もう限界です、職工の一人や二人切り刻んでもどうってことありません!」
「駄目! 絶対駄目です! 私が話をつけるまで貴方たちは待機しなさい!」

 文が白狼天狗の大群に揉まれながらも、にとり宅の扉を死守していた。流石に知り合いの惨殺場面など記事にできるわけがない。

 残念なことだが、妖怪の世界では職工の命は割と軽いのだ。

(ど、どうしよう)

 いくら文が内勤で白狼天狗の上司格にあたるとはいえ、騒動を押さえておくには限度がある。暴徒と化した狼の群れは近日発生した悪臭に理性を失っていた。

「にとりさん、そこから動いてはいけません! じっくりお話を聞きます、独占取材です!」

 白狼天狗の一人が大きな耳を器用に動かし、アンテナの様に旋回させた。

 川の方から「どぼん」と水しぶきの上がる音が聞こえる。

「川から聞こえたぞ!」
「逃げやがったな、河童め」
「行くぞ、捕まえろ!」

 白狼天狗が目を血走らせて一目散に飛び出した。

「貴方たち、止めなさい!」

 幻想郷最速の速度で白狼天狗より先に現場に急行する文。近い未来、ひとりの職工が辿る運命を思うとぞっとした。

 現場に到着すると、汚泥の様な色に染まった川が広がっていた。恐ろしく臭い。

 一体全体どうしてこんなことになってしまったのか文には皆目見当がつかなかった。

「うううう・・・」
「うぐっ?!」

 汚泥に埋もれた、おかしな色の川から、何か出てきた。汚臭を纏ったそれに思わず鼻口を塞ぐ。

「あやぁ・・・」
「・・・にとりさん?」

 よく見ると、にとりだった。どうやら崖から川に飛び込んだ身でそのまま岸に這いあがってきたらしい。ヘドロを纏って、非常に臭い。

「なにがどうなってんのぉ・・・?」
「ち、近寄らないでください」
「わぅ!? な、なんだあれ? 河童か?」
「く、臭い・・・」

 文に遅れて、暴徒と化していた白狼天狗達が到着したが、泥まみれの河童を見て尻込みしていた。狼だけに鼻が利くのだろう、汚臭に近づくだけの勇気はない様だった。

「助けてぇ~・・・」
「く、くるな!」

 川に飛び込んだら、透明な世界が広がるものとばかし思っていたが、にとりを迎えたのは汚泥のような汚い赤色の世界だった。 髪型も変な色の藻がくっつき嫌な感触だ。どうやっても取れない。

 天狗達に助けをもとめるにとりは緩慢な動作で涙目になりながら近寄る、その分だけ天狗達は後ずさった。

「えいっ」

 文が団扇を振るうと突風が巻き上がり、にとりにべっとり付着していた泥がそれなりに吹き飛んだ。 表情の見えなかったにとりの顔がようやく露わになる。

「ぺっぺっ、ありがと」
「にとりさん、落ち着いて聞いてください」
「何をさね?」
 
髪の毛を必死に拭うにとり、口の中が悲惨なことになっている。近くの白狼天狗に近づくとそいつが悲鳴を上げ尻餅をついた。

「現在、妖怪の山で悪臭が問題になっています」
「へぇ、身を以て今知ったよ」

 にとりはあくまで呑気だ、河童には不真面目というか、妙な性格の持ち主しかいない。にとりは中でもマシな部類ではあったがそれでも河童は河童だった。

「妖怪の多くが、その悪臭の原因が河童の作った工場の排水が原因だと考えているのですよ」
「・・・え」

 にとりの余裕の表情が氷付く。
 
「特に、外の技術収集に長けていて、職工の中でも力のある貴女が今回の異変の首謀者だと持ちきりの噂なんです!」
「・・・・ひゅい!?」

 当たりを見渡すと、騒ぎを聞きつけた妖怪の山の妖怪という妖怪が集結しつつあった。 みんながおっかない顔でにとりを睨みつけているではないか。

「し、知らない! わたしそんなことしてない!」
「私だってそう思います! けど守矢神社の面々も貴女に原因があると言ってしまいました!」
「えええぇえ!?」
「お前がやったんだろう!」
「この薄汚い河童め!」

 妖怪たちが一斉に騒ぎ立てた。にとりに付かず離れずの距離で汚物を扱うように離れて罵声を浴びせる。

「うちの白狼天狗達なんて貴女を殺す気満々でやってきてたんです! なます切りにされたくなかったら、一刻も早く異変の原因を探って無実を証明するんです!」
「ひゅいいいいぃぃ!?」









/
作者のねおです

こっそりあげてます

さて、
前回あまり長くならないといったな? あれは嘘だ!

幼いころの思い出、トラウマ、初めて買ったホラーゲーム、夢に出てきちゃったゾンビ。
みなさん誰しも幼心にトラウマをお持ちだと思います。

そして私のトラウマがこいつです。実はオリジナルではないのです。

あの日本のお茶の間を沸かせた有名妖怪とも対決した由緒ある妖怪なんです

さて言い訳はこのぐらいにして

この作品にかんしてコメント、表現の間違い不適切、誤字脱字など気が付かれたことがありましたら気軽にしてください。

もしかしてこいつじゃない? といった予想などどんなことでもも気軽にしてくだされば幸いです。

では)ノシ
ねお
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コメント



0.280簡易評価
3.60詐欺猫正体不明。削除
>>伯狼天狗

白狼天狗 かな?

個人的ににとりは好きだからこの点数で。
4.80名前が無い程度の能力削除
全体に薄めた毒みたいな不気味な雰囲気が漂ってる感じがするのは上手いと思います
連載形式は投げ出す方も多いので読むのを敬遠される向きがありますが、完成させてしまえば別の評価が加わると思いますので是非頑張ってください
美鈴とチルノが自分の理想に近い形で描写されていたのでこの先も期待させてもらいます

>伯狼天狗
白狼じゃないですかね?
誤字があったので点数はこんな感じで
5.無評価ねお削除
ねおです 誤字の訂正をしました、ご指摘ありがとうございます

恥ずかしい
8.10名前が無い程度の能力削除
結局良くも悪くもチリノは何も変わっていない感じでした。
それよりもオチがあまりにも適当でやっつけ仕事なのがひどい。
11.90愚迂多良童子削除
謎のヘドロ妖怪をベトベターで脳内補完していたから、チルノが食べたときは工工エエェェ(´Д`)ェェエエ工工・・・ってなった。
冒頭の紫が気になるところ。
>>チルノの手のひらに触れれば火傷を免れない。
火傷と言うより凍傷?
12.無評価ねお削除
作者のねおでございます、コメントありがとうございます、訂正をしました。

>>3さん
にとりかわいいよ、にとり。
にとりは主人公クラスで活躍予定。こうごきたい!

>>4さん
完成までがんばります! 紅魔勢は特に好きなので嬉しいです!

>>8さん
フラグ乱立の最中で苦しいです。回収できるようにがんばります。この作品は連作仕様でございます。オチはまだ先のことなので、最後までお付き合いいただければ幸いです。
キリが苦しいというご指摘なら、どうかご容赦をば

こうすればもっとよくなるかも、というコメントは嬉しいです。

>>愚迂多良童子さん

こいつには元ネタがいます。実は映像化もされてます。多少都合よくアレンジはしてありますが割りと由緒正しい妖怪です。そのポケモンでイメージは大体あってます。私も食べる描写は苦しかった。

それと、案外気づかないものですねぇ、計画通り・・・! でいいのだろうか? 不安だ。

次回はさらに㌧でも展開になるかもしれませんが、お付き合いいただければ幸いです。

長文失礼しました、根気よくみてくれてありがとうございます。