陽の恩恵を授かる者達が、安らかな癒しの世界へと旅立つころ。
博麗神社と人間の里をつなぐ獣道は、一人の独裁者と数名の忠実な従者によって支配される。
独裁者に支配された愚か共は、支配される事を狂信的に喜ぶのだ。
今宵も愚か共は、『鳥獣伎楽』(ショウジュウギガク)という名の政権にその身をゆだねる。
クズ共の目先に写るのは、クズの中のクズ...
そう、クズの王こそが相応しい。
さあ刻むが良い。
このゴミ以下の、小さくて酷く醜い独裁国家の王の名を...
魂の限り叫ぶがいい。
鳥獣伎楽のメインボーカルである、幽谷 響子を称える狂喜の声を...
「いえーい!!ノッてるかーい!?」
『イエース!!』
拡声器なんてものは不要だ。
私には、山彦としての声がある。
だが、どうしても足りないものがある。
そうだ。
私の、可愛い可愛い奴隷共の声だ。
この国は、今まさに世界中のどの国家よりも熱く激しく燃え盛っているだろう。
だが、それだけでは足りないのだ。
もっとだ。
魂に響く熱さが足りない。
もっともっと感じたい。
奴隷どもの荒い息づかいを、魂の底から感じたい。
だから私は、再び声を張り上げた。
「声が小せえぞ、ボンクラ共がぁー!!
そんなんじゃ、この響子様の魂には響かねえぜえええええええ!!」
次の瞬間、世界を震わせるような狂喜の爆発が国家を支配した。
何度味わっても飽きないこの充実感...
私は、この快楽を全身に受け止める為にこの場所に立っているようなものだ。
今、私はこの小さな国家を支配する王なのだ。
何も理解していないクズ共が、私を求めているのだ。
声だけでない。
身も心も、全てを奴隷共が支配されることを望んでいるのだ。
よろしい。
ならば独裁者らしく、貴様らに厳命しよう。
私の声を聞け。
「OKーーーーー!!
じゃあ、行ってみようか!!
今宵も、響子様率いる鳥獣伎楽の全力全快ライブで、心まで響かせるぜぇーーーーー!!」
衝撃波と衝撃波が、ぶつかり合い天地を引き裂くような轟音をあげる。
私の独裁国家に、一時の安らぎなんて必要ない。
倒れる者は、引きずってでも連れて行く。
最初から最後まで、正真正銘の全力疾走が幕を開あけた。
鳥獣伎楽の最高の仲間達が、私の合図と共に声ではなく音で国家を震わせる。
今、この独裁国家は最高潮にあるだろう。
だが、ここまではまだ準備でしかない。
最初の一曲は、全力のその先にある限界を打ち破る為の準備でしかないからだ。
まずは、私から超えるとしよう。
クズ共よ。
私は、先に待っている。
クズ共の王として、限界の先で待っている。
さあ、付いてこい。
何処までも何処までも、限界を超えて付いて来るのだ。
「まずは、いつものこの曲から響かせていくぜえええええええええええええ!!
何処までも付いてこいよーーーーーーーーーーーー!!」
永遠とも思えるような、激しい大気のうねりと爆音の中で最初の一曲が終わりを告げる。
なんという充実感...なんという達成感...
だが、ここまでは準備でしかない。
ここからは、限界を超え続ける長く険しい旅の始まりである。
「よーし、いつもどおりのメンバーの紹介だ!!
鳥獣伎楽の音が響きすぎて、メンバーの名前を忘れちまった馬鹿共へのお復習いだ!!
耳かっぽじって、よーーーーーく聞けよ!!
まずは、一人二重奏キーボード使い、河城にとりぃーーーーーーーーーーーー!!」
のびーるアーム追加による、4つの腕で奏でられるキーボードの旋律...
こいつにしか、真似できねえ芸当だ
にとりとの出会いは、ある意味衝撃的だった。
いや、彼女と出会わなければ、今のメンバーは集いもしなかっただろう。
なぜなら、にとりはメンバーに楽器という名の魂を作ってくれた存在だからな。
専用に調整された楽器は、にとり本人でも扱えないとんだ暴れ馬だ。
たった一人の為の楽器...
それは、誰よりもメンバーを理解していなきゃできない芸術作品だ。
生憎私は楽器を使うことはないが、この声を響かせることができるのも、
メンバーがフルスペックで、ライブという名の戦場に挑めるのも、にとりのおかげというわけだ。
「お次は、雷鳴のドラマー、蘇我屠自古ぉ!!」
屠自古は、多くを語ることはない。
ライブ中も、表情を変えることはないし、パフォーマンスもほとんどが演奏オンリーである。
まるで、ドラムを叩くためだけに生まれてきた機械ような存在だ。
だが、私には屠自古の声が響きわたっているように聞こえる。
なぜならば、彼女の演奏こそが、彼女の声であり主張なのだ。
寡黙なドラマーは、その演奏によって誰よりも声を轟かせているとも言える。
屠自古の存在は、私にとって挑戦的とも言える。
『私の演奏を活かして見せろ。さもなくば、私の雷鳴が貴様を喰らうことになるぞ』ってな。
上等じゃないか。
私の声は、雷鳴よりも遥かに響くってところを思い知らせてやるよ。
「今、もっとも空気を読めるベース担当、永江衣玖ぅ!!」
衣玖は、もともと私らと群れるようなやつじゃない。
じゃあ、なんでこんなバンドに入ってるかって?
決まってるだろ?
こんなバンドよりも、世間が嫌いなだけだ。
絆なんて、後から付いて来るもんだ。
出会いに、友情や運命なんて必要ねえ。
ただ、自分の好きな空気に馴染んじまえばいい。
衣玖は、そんな軽い理由で私達の元へやって来ただけさ。
もっとも、そういう思想は嫌いじゃないけどな。
「そして、鳥獣伎楽の生みの親でもあるギター担当、ミスティアローレライーーーーーーーー!!」
ミスチーは、鳥獣伎楽の生みの親だ。
アイツが、新しい音を求めて幻想郷を彷徨っているとき、ミスチーは私を見つけた。
今でこそ、私はこの独裁国家の王だが、それを導いてくれたのはほかでもないミスチーだ。
二人の出会いは、ごく単純にして当たり前だったのかもな。
深い理由はいらない。
ただ、互いが必要だっただけだ。
ミスチーは新しい音を求め、私は刺激を求めた。
でも、私はミスチーに誰よりも深く信頼している。
この独裁国家の王として、ライブに挑み続けるのもミスチーの期待に応えるためでもあるって言うのも歌う理由の一つだ。
「そしてボーカルは、この幽谷響子!!
今宵も、最高にご機嫌な5人組である鳥獣伎楽が、お前らの魂まで響かせていくぜえぇぇぇぇぇ!!覚悟しな!!」
一見バラバラで、全てにおいて統一感のないチーム。
だが、私にとってそんな不揃い無秩序の国家は居心地がよかった。
世間の風潮に裏切られ、山彦としての存在を否定された私は、新たな居場所を求め寺に通い始めた。
だが所詮は、規律を重んじるだけの秩序の取れた牢獄...
自由を必要としないやつらには、ちょうどいい世界なのだろう。
だが、私にはあまりにも窮屈であり苦痛だった。
秩序を護ることこそが、自由を得るための手段だというやつがいる。
けれど私にとって秩序とは、全身を縛りつける鋼の鎖であり、深海の箱部屋だった。
自由を全て奪われた私は、それでも居場所がある事にある程度は満足していたのだろう。
安住の地というのは、万人が共通として求める絶対の空間である。
確かに私がいる命連寺は、妖怪として山彦としては安住の地だった。
だが、幽谷響子としてはどうだったのだろうか?
仲間に不安があるわけじゃない。
お寺の修行も、厳しく退屈なものだが、それはそれで充実していたと思う。
だが、そこに私の自由は存在しなかった。
「いいぜいいぜ、ますます盛り上がっていくねえ!!
だけど、今宵も我等鳥獣伎楽は、限界突破のマキシマムパワー!!
この程度じゃ、全然響き足りねえ!!
というわけで、次の曲行ってみよう!!」
ある日の話だ。
運命や奇跡なんか、一切信じてはいない。
だからこれは必然だったのだろう。
私に、作曲や作詩のセンスがあるわけじゃない。
けれど、私には誰にも負けない声があった。
ミスチーには、作曲も作詩も両方のセンスがある。
けれど、彼女の喉では自分を表現しきることはできなかったのだろう。
だから彼女は、自身の歌の自由を得るために私の声を求めた。
そしてそれは、幽谷響子としての自由を得た瞬間でもあった。
最初は、二人だけだった。
私がミスチーの叫びを形にして、ミスチーは満足そうに旋律を奏でる。
はっきり言って、ミスチーの歌唱力は相当なものだ。
それに、ミスチーだって自尊心が低いわけじゃない。
むしろ、自分自身の声を過大評価してしまうほどの自身だ。
そんなミスチーが、自分の声を犠牲にしてまで手に入れたのが私の声だった。
山彦同様に、夜雀も声は魂そのものである。
けれどミスチーは、自身の声を私に預けてくれた。
だから、私は2つの魂を抱えて歌う。
歌い、歌い、歌い続けた。
そして、気がつけば2人は3人へ、3人は4人へ、そして今の5人のメンバーがそろっていた。
この5人さえいれば、この先どんな苦難が待ち受けようとも私は歌って行ける。
そんな最低で最高の音楽組織、それが鳥獣伎楽なのだ。
「おいおいそこの客!!
眠るには、まだまだ早いぜ!!
しっかり気力振り絞って、響かせようぜ!!」
独裁国家の奴隷共を見下ろせるこの場所は、本当に最高の場所だと思う。
見ろ、あそこの最前席でテンションを抑えることができずに、全身で私達を感じている少女の姿を...
普段は、妖怪の対策書を書き上げる使命を受けて生まれた人間の少女が、
今この独裁国家で、誰にも負けないほどの自由を全身で表現している。
見ろ、中間位置でひたすら小型の折り畳み式カメラのシャッターを押し続ける鴉天狗少女の姿を...
普段は自室から出ることすら少ない少女までもが、その聖域から自らの足で逃れ、
そしてこの独裁国家で自身を開放しているのだ。
いや、私達が彼女を聖域から引きずり出し、独裁国家に攫っちまったのかもな。
見ろ、右側の席で最初は大人しく座っていたのに、たまらず一緒に来た吸血鬼少女の首を片腕で締めている魔法使いの少女の姿を...
大図書館の管理人ですら、鳥獣伎楽の力にかかれば世界で一番自由な独裁国家の奴隷となる。
ただ、吸血鬼のお嬢ちゃんが、泡吹いてきたのでその辺で開放してあげて...あ、動かなくなった。
ほかにもあげたらキリはないが、この独裁国家は今誰よりも自由に支配されているだろう。
そう、私達のライブに鎖なんて必要ない。
みんなが、思い思いの方法で自由を受け入れればいいのだ。
今日もみんなが、自由を求めている。
どうやら、今宵もまだまだ自由を求める声は響きわたりそうだ。
「まだまだ続くぜ、鳥獣伎楽!!
私達の魂が、最強に幻想郷に響きわたるぜ!!」
夜は、始まったばかりだ。
響子ちゃんは「叫子(きょうこ)」に改名すべきですねw
バンドのメンバーを見ているだけでなんだかニヤニヤしてしまいました。
これでこそ二次創作! これでこそパンクバンド!