「ごちそうさまでした。」
地霊殿での夕食が終わり、ペット達がいそいそと食器を片付けていく。
人化できるペットとはダイニングルームで食事を共にする。昔からある地霊殿の決まりの一つ。
食事を、皆同じ席で取るのは大事な事。
ペットとはいえ、地下にある地獄を稼動してくれている大事なメンバー。
疑問や意見を仕事中に聞く事は案外難しい。こういう場でなければ話せない事もあるし、何より同じ場で食す事は、それだけで仲間意識を高めるものだ。
いつもは皆の意見を聞きながらガヤガヤと食事を楽しむのだが、今日は一風違っていた。
「今日はごちそうになったよ。ありがとう、さとり。」
今日は、地底で番人をしてくれている水橋パルスィがいた。
普段誘ってもなかなか来てくれない気難しい彼女だが、今日は機嫌が良いらしく、二つ返事でOKしてくれた。
「でも、まさかこんなに豪勢な食事ができるなんて思ってもみなかったよ。
それに、さとりも厨房に立って作ってたって聞いたよ。いつもそうなの?」
「たまに、手が空いた時だけ作ったりするんですけどね……今日は、貴女がディナーの誘いを受けてくれて、嬉しくなってしまいまして……。
どうでした、パルスィ?口に合いましたか?」
「ん……。おいしかったよ、こんなに料理が作れるなんて妬ましいなぁ。」
本当に喜んでくれてるみたい……良かった……。
「パルさーん!」
突然こいしがパルスィの胸元に飛び込んできた。
慌てて抱き止めるパルスィ。
「こら、こいし。危ないじゃないか、ケガしたらどうするんだよ?」
「大丈夫!パルさんはしっかり受け止めてくれるもん!大きい胸で!!」
「お……大きいって……からかうんじゃない!」
「柔らかいー。」
「こら!怒るよ!!」
顔を真っ赤にしながら怒るが、お構い無しに無邪気に引っ付くこいし。
いいなぁ……。
がっしり背中まで手を回し、パルスィにぶら下がりながらこいしは思い付いたかのように言った。
「ねーねー、パルさん。私達の部屋に行こうよー。」
「私達って……お前達は一緒の部屋なの?地霊殿はたくさん部屋があるでしょうに…。」
(知られたくないプライバシーとか無いの?普通は個人の部屋を持ちたいとか思うものだけど。。。サトリ妖怪だから関係ないのかな?)
パルスィは首を捻りながら考えているので、答える事にする。
「こいしは放浪癖持ちですからね。毎日一緒というわけではないし、部屋を与えても只の物置になりそうなので、私の一緒の部屋にしました。」
「うん、お部屋にダブルベッドがあってね、お姉ちゃんと二人で一緒に寝てるの。今日はパルさんも一緒に寝ようよ!!」
「え……一緒に?」
こいしの突発的な発言に思わず声を漏らすパルスィ。
こちらを振り向き、彼女と目が合ってしまった。
パルスィと一緒に……ベッドで……。
「ねー、一緒に寝ようよーパルさーん。」
両手でパルスィの腕をブンブン振って催促する。
「さとり……//////。」
(ダメだよこれはいけないよ何とか無しの方向にぃぃぃ。)
懇願の眼差しでこっちを見ないでください!
それに、嫌なら自分で断れば良いでしょう!?私に頼らないで!
それに……私だって……私だってね……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「パルさん、はやくはやく!!」
「分かったから待ちなよ、こいし。」
ベッドをバンバン叩き催促するこいしを見て、パルスィはいそいそと向かう。
「パルさんは真ん中だよ!!ほら、お姉ちゃんも早く!」
ベッドに入った私とパルスィは布団を被る。
「ンフフー♪三人一緒だと暖かいね!」
「うん…。私は地底一の幸せ者ね。こんなに可愛い姉妹に囲まれて寝られるだなんて。」
こいしの頭を撫でながら嬉しそうに呟いてる。
「ぎゅー。」
「ん、どうしたの、こいし?」
見ればパルスィの身体に手を回し、引っ付いているこいし。
「くっついた方がね、ホカホカして気持ちいいの!」
「そうだね、気持ちいいね。」
「ほら、お姉ちゃんも!」
「そうよ、さとり。川の字で寝るというのも良いけど、みんなで一つになって寝る方がもっといいな。……おいで、さとり……。遠慮しなくて良いから…ね?」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「……さとり、ポケーっとしてどうしたの……?」
ふぇ!?
あ。パルスィが怪訝そうな顔して見てる。
いけないいけない、イケナイ妄想をしてしまったわ…!
確かにこれはいけないわね。理性が飛んじゃいそう……。
けど……けどね……。
「ぱ……パルスィが望むなら……私は構いませんよ……?」
む、むしろ、望む所ですよ。私としては。。。
そう言ったら、身体を引きながらパルスィが情けない顔を横に振りだした。
(エエェェ何言ってるのさとりィィィ違うのそうじゃなくてぇぇぇぇ)
口をアワアワするな!!ビシッとしなさい!!
それとも、私達がイヤなの!??
すると、パルスィがビクッとして、小動物の様に全身震わせだした。
ヤバ、思わず睨み付けちゃった。
私とこいしを何度も見てはどうしたものかと暫く悩み続けて、
「わ…私は客室でいいよ…。その……微笑ましい二人を見てると嫉妬狂いになって襲っちゃいそう……。」
「大丈夫だよ!!むしろお姉ちゃんは既成事実を作ってパルさんを此処に留めちゃう事こそが本来の目的――。」
「ォ黙りァァァァァ!!」
「――ふぎゃぁぁぁぁ!!」
訳の分からない事を言うな!!
私の放った全力グーパンがこいしをダイニングルームの扉ごと外に吹っ飛ばす。
数秒後、遠くの方でゴゥンと、鈍い衝撃音が響いた。
「さ……さとり…?お前、そんなに逞しかったっけ?」
「想起『怪力乱神』。
私の記憶にある勇儀さんの力を若干ながら模倣しました。
こいしは無意識を使って思考を読めなくする事が、私より強い理由だと思い込んでいる様ですが、まだまだ負けませんよ。
能力だって工夫次第で何とでもなります。」
「いや……でも、勇儀の力でグーパンは……。」
「私が攻撃を入れた瞬間、こいしは無意識に防御姿勢を取っていました。
派手に飛びましたが、ダメージはさほど無いでしょう。」
うろたえているパルスィを尻目に、ヒョコヒョコとこいしはひしゃげた帽子を持ちながら、飛ばされた道をなぞる様に戻ってきた。
「お姉ちゃん、今のはあんまりじゃない!?帽子が無かったら即死だったよ!?」
帽子を突き出して怒り出した。
「貴女が変な事を言うからでしょ!??」
「事実を言ったまでじゃない!!」
「私をイヤらしいキャラにしないでよ!!」
「イヤらしかったもん!私見てたよ!
ご飯食べてるとき、お姉ちゃんの第三の目がパルさんの事ずっと見てたもん!!
上目遣いでジィィィィっと見てた!!」
「ちょ、違うわよ!料理がパルスィの口に合ってるのか心配で、ちょっと考えを覗いただけよ!!」
「ほらー!それがイヤらしいんじゃない!!覗くとか言って!!」
「イヤらしくない!!それに、上目遣いなのはパルスィの方が背が高いし、第三の目は胸の高さが定位置なんだからそうなるし!!」
「ああー、こんなスケベお姉ちゃんは放っておいて、部屋行こうよパルさん!!」
……この子は言いたい事言って私を除け者にして!
「こいしぃぃぃぃ!!パルスィが困ってるじゃないのぉぉぉぉ!!」
二度目のグーパンで黙らせる!
しかし、待っていたかの様にこいしは腕を振り上げた!
「腕の短いお姉ちゃんには!!カウンターでぇぇぇ!!」
うぁぁぁぁそれを言うなぁぁぁぁ!!
だけど、いくら立ち絵で腕が短いと言われようとも放ったのは私の方が先!
速く、もっと迅く腕を振りぬく!!
「あわわわ!!さとりもこいしも止め――ッ!?」
ゴゴガァァァン!
あ。
交差するはずの拳が……
割って入ったパルスィに当たっちゃって……
キリモミ回転しながら上昇して……
ごす。
頭から、落ちてきちゃった……。
「うにゅー。逆立ちしてるけどぱるしーの頭が無いよ、お燐?……手品かな!??」
「床にささってるんだよ、お空!!橋姫のお姉さん、しっかりしておくれぇぇぇ!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あーあ。パルさんと三人一緒に寝たかったのになぁ。」
ベッドで足をパタパタさせながらブー垂れるこいし。
キッと睨んだけど、効果無し。ジト目で私を見ながらずーっと文句ばかり言っている。
……私の所為かよ。
結局パルスィは客室に寝泊りする事になった。
まぁ……正しくは気絶したままお燐に運ばれていったんだけど。
去り際に、『お客を殴るなんて何考えてるんですか、おふた方!』とお燐に怒られてしまった。ペットに叱られる主人なんて世界広しと言えど私達くらいなものだろう。
……別にパルスィを殴りたい訳じゃなかったんだけど……うう、反省。
「お姉ちゃんがもっと押せ押せでいけばパルさん折れたのに。
『私は構いませんよ……?』って何よーおねえちゃんのへたれー。」
「こいしが変な事言うからでしょ!」
あそこで無理にせがんで部屋に引き入れたら、後日ペット達にどんな目で見られるか……。
それこそ地底を統括する地霊殿の主たる私の尊厳に関わる。
「パルスィはあんながっついた言い方は好まないの!
もっと、やんわりと促す様に誘わないと――」
「違うね。」
「――……。」
……私の言葉を遮って、、、こら、人差し指をこちらに向けるな、こいし。
「好きだろうと嫌いだろうと、パルさんはグイグイ引っ張っていく方がいいの。その方が言う事聞いてくれるもん。」
「そうかもしれないけど、断わり辛い相手と分かって欲求を押し付けるのはナンセンスよ。」
パルスィは押しに弱く、懇願に対して強く拒否しない。
難儀な事に自己否定に持っていって相手を諦めさせるのだ。
強引に頷かせると、変に緊張して調子を崩し、些細な事で後悔して塞ぎ込んでしまう。だから私はなるべく彼女の意志を尊重したい。
今日の誘いでも彼女が自分で決めて来てくれた。気が乗らないのに連立っても楽しくないし。
「はぁ~~~。」
……何、その人を小バカにした溜め息は……。
「このままじゃ、良くないなぁ。。。」
「何がよ?」
「ん~ん。なんでもなーい。」
もそもそと、布団の中に潜り込んで行く。
「あ、ちょっと、こいし……。」
「早く寝て、起きてパルさんに会おうっと。
――お姉ちゃんも早く寝よ?」
はいはいと、返事をして私もベッドに入る。起きていても仕方ないし。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「あら、起きたの。さとり。」
目を覚ますと、椅子に腰掛けているパルスィがいた。
「おはようございます、パルスィ……ふあぁぁ。。。」
グイィーっと背中を伸ばし弛緩した筋肉に刺激を入れ、眠気を飛ばす。
「ンフフ、だらしない顔を可愛くて妬ましい。」
「もう、寝起きなんです。仕方ないじゃないですか。それにいるなら起こしてくれれば――。」
「安らかな寝顔をしているものだから、ちょっと気が引けてね。」
歩み寄ってくる。吐息が掛かりそうなくらい顔を近づけ、
「おはよう、さとり。」
私の頬にキスをした。
「ぱ、パルスィ?」
「ん、目覚めのキスはイヤだった?」
私の頭を撫でながら、幸せそうに微笑む。
「どうしたんです?いつもと雰囲気が……。」
「それはそうだよ。これから毎日お前の寝顔も見られると思うと嬉しくて、今の自分が妬ましくなる。」
ん?
「毎日って、どういう意味ですか?」
「何言ってるの? 私達、家族になったんじゃないか。」
え?
「か、家族???」
「結婚したじゃない。形だけだけど。」
「え?ええ??」
け、けけけけ結婚!?
いつ!?いつしたっけ!?
思考をフル回転させるけど、全然思い当たらない……!
布団に入っている時よりもはるかに身体中が熱くなって、次第に汗が噴き出してきた。
「そ、そんな!女同士じゃないですか!おかしいですよ、そんなの!!」
「何を驚いているのさ?
形だけで、恋人とかそんなんじゃないって前にも言ったじゃない。」
「そ、そうなんですか…?」
「もう、まだ寝ぼけてる。さとりは。」
ぎゅー。
私の身体を引き寄せ、抱くパルスィ。
胸に頭を押し付けられる。
穏やかな、心の鼓動が響く。
「今の私は古明地パルスィ。
昔の苗字も捨て、過去も未練も捨てた。
――新しい苗字と家族と一緒に、私は新たな生を全うする。その機会をくれたさとりに、私は心から感謝してる。本当に、ありがとう。」
「あ……私も…。ありがとう。」
そっか。ずっと一緒なのか。
これで煩わしく縦穴まで行く必要も無いのか。。。
お酒を飲んだ感じに、フラフラと頭が熱で揺れている。
嬉しい。とても嬉しい。
「――ああ、そうだ。もう『さとり』なんて呼び捨てには出来ないんだった。
私は嫁いできた形だから。
――前みたいな生意気な言い方をしてゴメンなさい。」
「な、生意気だなんて!私そんな事思ってないですよ!!」
思わずパルスィから離れて手を振るが、彼女は私の手を止めさせる。
「地霊殿の当主たる貴女が私に気を使わないで下さい。」
「パルスィ……。」
しおらしいパルスィって……とっても新鮮……。
心の鼓動が強くなって、打つたびに身体が震えているんじゃないかという感覚。
次第に、自分の顔が綻んでいくのが分かるけど、引き締める事が出来ない……。
「出来の悪い女ですが、これからも、よろしくお願い致します。
――お姉様。」
え?
「お姉様……?」
「ええ。至らぬ所もありますが、どうか長い目で――。」
「いやいやいや!『お姉様』って何ですか!?」
「――え?何とはどういう意味でしょう?」
あれ!?何か流れがおかしい!?何でパルスィが私にお姉様って言ってるの!???
何で不思議そうに返事をしてるの!?
「嫁いできたんでしょ!?」
「はい。」
「ここに!」
「そうです。」
「だったら何で私がパルスィのお姉ちゃんなの!?」
「だってそれは――。」
パルスィが言おうとした瞬間、ドアがバーンと勢いよく開いた。
そこからズカズカと、こいしがしかめ顔しながら向かってくる。
「パルスィ、何時になったらお姉ちゃんを連れてくるの!?朝ごはん出来てるのに冷めちゃうじゃない!!」
「……申し訳ありません、お前様。」
「んもー!そんな堅苦しいの止めてよ!夫婦なんだからもっと砕けた感じにいこうよ、肩凝っちゃうよ!」
「とは申されても……。」
「……まぁ、変に真面目になっちゃう所とか私は好きだけどさぁ!!」
目が、点になった。
ふうふ?
夫婦と申されましたか、こいし?
「こ、こいし?夫婦って……何?」
「え?何言ってんのお姉ちゃん?夫婦とは大好きな者同士が生涯一緒に生きていく事だよ?」
「いや、そういうことじゃなくて……。誰と、誰が夫婦なの?」
「私とパルスィだけど?」
首を傾げながらこいしは答えた。
「えええええええええ!!?」
「何よ、お姉ちゃん!いきなり大きい声出して!!」
出すわよ!なんでそんな事になってるの!?
私とじゃ無かったの!??
「こいしは意気地の無い私を目に掛けてくれて、ずっと励まし、引っ張ってくれました。
とても、頼りになる方……。
貴女がいなかったらこいしと出会う事すらなかった。本当に感謝しています。」
ペコリと頭下げないでパルスィ!!
「そうだね、お姉ちゃんが私とパルスィを繋いでくれたんだもんね。ありがと……お姉ちゃん。」
こいしも頭下げないで!!
ぎゅっと、パルスィが私の手を握る。
彼女の心は、感謝の念でいっぱいになっている。
あーーー止めてー何も言わないでー。
「至らぬ義妹を末永く見守ってやってください。お義姉様。。。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お義姉様じゃねぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
「うぉあ!!ビックリしたぁ!!!」
はーはーはーはー。
な、何て夢みてんのよ私は……!
さぶい!布団は温かいのに寝汗でさぶい!!
「ど、どうしたのお姉ちゃん……?」
「いえ、なんでもないわ、こいし……変な夢見ちゃって。。。」
心配そうに私を眺めるこいしを見ながら私は考える。
……ありえない話でもない気がしてきた。
パルスィは普段、誰も通らない地上と地底を繋ぐ縦穴で番人をしている。
人付き合いなど皆無で、虫の居所が悪いと誰彼構わず突き放すのが彼女の評判なのだけれど、誰と一緒になるのか、旧都で上がる話題の一つになっている。
筆頭にあがるのが星熊勇儀。
噂では足繁くパルスィの元へ通っていると聞く。
地底でも一番の有力者である勇儀さんが縦穴に向かうとその話題で持ちきりになり、パルスィを旧都に連れてくるか否かと、掛けの対象になるほどだ。連れ帰ったときの勇儀さんのテンションは凄まじく、すぐさま宴会開いて夜通しするくらい、はっちゃけるらしい。
次に私、古明地さとり。
私が彼女に仕事を与えているので上司と部下という間柄。縦穴の番人は暇そうに見えるが、地底という国の境界線を守っていると考えれば、とても重大な仕事だ。
私は勇儀達に土地を提供した是非曲直庁から派遣され、地底を管轄・監視しているお役所の立場にいるのだが、そこに属している訳でもなく、旧都の皆と同じで地上に居られない理由で地底に来たパルスィがその役職に付いているのは、私と彼女に言えぬ事情があるからと言われている。
本当は地底に来る前からの仲で、彼女がこの仕事に適任だと判断しただけなんですけどね。
……まぁ、好きですけど、パルスィの事。
最後は黒谷ヤマメ。
地底屈指の人気者。大勢のファンがいて、宴会や祭りの多い賑やかな旧都で彼女は毎日ひっぱりだこだ。
しかし、彼女は旧都に家を設けず、縦穴で暮らしている。
とあるイベントでその質問をぶつけた者がいて、ヤマメさんはその場できっぱりと、「私がとーっても大好きなパルスィがいるから。」と公言し、地底中を震撼させた。
ファンの一部は激情に駆られ、縦穴にいるパルスィに殴りこみを掛けたらしいが、その全員がヤマメさんに原因不明の熱病に掛けられたとか。
地底の権力者がこぞってパルスィを目に掛けている為、旧都の者達はパルスィに関わるのは禁忌だと暗黙の了解になっている。
私が気をつけるのは勇儀さんとヤマメさんだけだと思っていたのに……。
こんな所にダークホースが居ただなんて!!
「どしたのお姉ちゃん、固まっちゃって。」
他者との交流をとことん拒むパルスィだが、永年付き合っていた中で知っている例外がある。
パルスィは子どもが好きだという事。
猜疑心の強い彼女は裏表の無い無邪気な子どもに安心を覚えるのだろう、キスメという子どもの鬼火妖怪と戯れているのをよく見る。
「起きてるのお姉ちゃん?おーい。」
そう考えるとこいしも子どもっぽい。人目を憚らずおねだりする所なんてまさにそれだ。
彼女の好みの範疇にこいしはいる。
こいしと一緒にいる時のパルスィもまんざらではない感じだし。
対して、パルスィの中での私は敬遠気味だ。。。
仕事の立場上というのもあるが、私の気遣いや配慮に、しっかり貢献できているだとか役割を果たせているのかと自問自答し、ネガティブな発想をして線を引いてしまう。
そういうつもりじゃないって言っても聞いてくれないし。
高まる嫉妬心が自信を無くしていくのか、私が変に突っ込むと嫌がるし。
まー嫌がるパルスィもそれはそれで――
「お姉ちゃん、おっはぁぁぁぁ!!!」
バチィン!
凄まじい衝撃で一瞬、目の前が真っ白になった。
こ、この子、思いっきり顔、引っ叩いて……。
「あ、貴女って子はぁぁぁ……。」
「おはようお姉ちゃん!」
ふら付く視界で時計を見る。まだ朝の5時を過ぎた所の様だ。
「うぅ、ちょっと早いなぁ……。」
二度寝しようにも、こいしの喝で頭は冴えてしまった。
といってもこんな時間に朝食というのも……。
そういえば、あれからパルスィはどうなっているんだろう。
なりゆきとはいえ、私達がやった事。怪我とか大丈夫だろうか…。
それより、嫌われたりしてないかな……。心配になってきた……。
パルスィの居る客室に行こうと立ち上がろうとすると、こいしが袖を引っ張る。
「どこいくのお姉ちゃん。まだ5時だよ?」
「ええ、パルスィのところへ。昨日の事が少し心配でね…。」
「パルさんの所かー。」
……何か思案している。普段考え無しのこいしが考えるとか、嫌な予感しかしないんだけど。
薄ら笑いを浮かべながら、
「お姉ちゃん、私が見に行くよ!」
そう言った。
「……こいし?」
「パルさんの寝顔に興味があります!」
「何言ってるのこいし?私は寝顔を見に行く訳じゃ……。」
「一頻り見たら、パルさんを起こします!」
「起こすって……容態を見に行くのよ。安静が必要なら起こす訳には……。」
「お目覚めのチューをします!」
「そんなおとぎ話じゃないんだから、チューしなくても起き……チュー!!!???」
突然何言ってんのこの子!!
「何でチュー!!」
「したいもん、チュー。」
「ダメよこいし!チューなんて!!」
「したいでチュー。」
口を尖らせるな!そんなの…そんなの……。
「わ、私だってそんなの……した事無いのに…。」
思わず両人差し指を擦り合わせてしまう。何時の間にこんなにマセちゃったのよ、こいしは。。。
「ともかく、私が行きます!こいしは待っていなさい!」
「いやいや。私に任せといてよお姉ちゃん」
「任せられるわけ無いでしょ!!」
「いやいやいや、大丈夫だよお姉ちゃん。」
「全然大丈夫じゃないし!不安要素しかないし!!」
「いやいやいやいやいやいヤッハァァァァァァ!!」
急に宙に舞う感覚。――違う、投げ飛ばされた!
巴投げですって!!
「ふぎゅッッッ!!」
全身に衝撃。
ビターンと、潰れた蛙の様に壁に張り付く私。
「お姉ちゃん見てたらまどろっこしくてダメだよ!
そんなんだと勇儀さんやヤマメお姉ちゃんに取られちゃう!!
こうなったら私が一肌脱ぐしかないね!!」
そう言い捨てて、ダッシュで部屋を出て行ってしまった。
「ちょっと!ま、待って、こいしーーーー!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
慌てて後を飛んで追いかけているけど、こいしが速過ぎてどんどん引き離されていく!
しかもこいしは飛んでない、走ってる!
回転する足が見えないし、土煙まで上がってるんだけど!!
「こいし、何時からそんなに足が速くなったのよ!!
サトリ妖怪やめたんじゃなくて、ホントは天狗になっちゃったんじゃないの!?」
「アハハハハ!私は無意識を使って幻想郷中を駆け回ってるんだよお姉ちゃん!!
インドアでヒッキーなお姉ちゃんがアウトドア派の私に運動で勝てるわけ無いじゃん!!」
言いたい事言ってくれるじゃない!私だって別に好きで引きこもりをしてる訳じゃ……!
……そんな事無いか。
ともかく、このままじゃこいしの方が先にパルスィの所についてしまう!
お目覚めのチューなどさせるもんか!
全力で飛ばすけど、結果が全然変わらない!むしろ私の方がバテてきてる!
一方こいしは全然スピードが衰えない!
「こ……こいし!なんでそんな……、疲れない……のよ!!」
「無意識使ってるもん!!ランナーズハイだよお姉ちゃん!!」
「ランナー……ズ、ハイ……!?」
「走り続けるとね、勝手に足が動き出して身体が楽になってくるアレだよ!
無意識を操ってすぐ様その状態に持っていけるんだ、私!!」
「そんな……トンデモ能力すぎるでしょ……無意識……!!」
ダメだ!マトモに張り合っても勝ち目が無い!!
私達の部屋からパルスィの客室までは距離があるものの曲がり角の無い一直線!
多少弓形に曲がっている廊下だけど、コーナリングなんて要素は皆無だから、身体のエンジン性能だけが勝敗を決してしまう!
考えないと!こいしのスピードを落す方法を!!
第三の目を目いっぱい見開き、地霊殿中の心を読む!
何か利用できるものは……!!
「こいし、くらいなさい!」
履いていた室内用スリッパに妖力を込めて、蹴り放つ!!
両足のスリッパは紅く輝きながら高速でこいしに向かっていく。
「おおっとぉ!!」
こいしは後ろに目をやりながら難無くそれをかわす。
「ダメだよおねえちゃん!叫びながら攻撃なんて、マンガじゃないんだから!!」
したり顔で言うこいし。うう、憎らしい顔を……!
けど、これでいい……こいしの注意は完全に後ろにいった!!
ドガシャァァァン!!
「ひゃぁぁぁ!!」
「うにゃぁぁ!!」
「うーーわーーー。」
成功した!
廊下が交差するポイントにお燐の心が見えた。
しかも運がいい事にこいしとぶつかり合う速度で向かっていた。
さらに(珍しい死体が手に入った)と、上機嫌な思考から猫車で死体を乗せて歩いている事は確実、大きな障害物になるはず。
あとは私がタイミングよく、こいしの注意を逸らせば、回避できずぶつかるという寸法だ。
みごとにすっ転んだこいし。
動きが止まった、今がチャンス!!
と、その前に。
「お燐!廊下で死体を運ぶなと再三注意したでしょ!」
「うわわわわ、さとり様!ごめんなさい!!」
「罰として朝食作っておく様に!!」
「へ、あ、はい!」
そのまま速度を落さず、私はこいしを抜き去る。
慌ててこいしは起き上がろうとするが、足に力が入らず、ヨロヨロと壁伝いに立ち上がる。
「うぅぅ、動け、私の足~~~!!」
「残念だったわね、こいし!ランナーズハイは条件化において肉体疲労を感じなくなる状態の一種!
でも、一定の動きを止めるとその状態が解除されて身体の疲労を認識してしまうのよ!!ましてや全力疾走で解けてしまえば、これ以上の足への負担を押さえ、回復しようと防御本能が働く為に動かなくなる!
行動不能は必至よ!」
「そんな難しい事言われても分かんない!!
足が動かないなら、飛べばいいだけだもん!!」
フラフラと飛ぶこいし。けれど、スピードはガタ落ちだ。
しかも扉や廊下を見る度に大回りで避けている。明らかに先程のアクシデントを恐れている。
勝てる!勝てるわ!!
アクシデントと言えど、私有地の廊下。あるとしても誰かが飛び出す位の人的災害だけ。この時間に起きている者は少数だし、起きていても心を読めば危険は予知できる。
(芳香ー。何処行っちゃったのよぉぉぉ。。。)
……聞きなれない心の声、侵入者?
右前方の部屋の中からね。。。
対処したい所だけど、今はパルスィのところへ行かないと!
次の瞬間、私の目の前で信じられない事が起こった。
その声の主が、突然壁から出てきて、それが丁度私の目の前で――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お義姉様、大丈夫ですか?」
ふと、見上げるとパルスィと……こいしが並んで立っていた。
「こんな廊下で寝てると風邪引きますよ?」
「お姉ちゃんは仕事熱心だから、疲労が溜まってたのかな?」
パルスィが私の身体を起こす為、手を取ろうとすると、
「ああ、ダメだよパルスィ!身体に障っちゃうよ!私がやるから!」
こいしが身体を引き起こした。
……なにが、身体に障るの?
恐る恐る見ると、、、パルスィのお腹が、、、、、、ぽってりと。。。。。。。。。
「いやー、初めにした、お目覚めのチューで子どもできちゃうなんて、私驚いちゃった。」
「私もです、お前様。でも……私はとても嬉しゅうございます。」
「パルスィ、子ども好きだもんねぇ。」
「はい。
ようやく……。
ようやくこれで私も本当の女になれます。ありがとうございます、お前様。」
「きっとパルスィに似て美人さんだよ!」
「私は、お前様に似て可愛らしい子だと思います。」
「えー、そうかなーウフフー。」
「フフフフ……。」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「チューで子どもが出来る訳無いでしょうがぁぁぁ!!」
ふーふーふーふー。
また変な夢を……!!
それどころじゃない!わたし、どのくらい気絶してた!?
い、今はどんな状況なのよ!!
目の前に蒼髪の女が頭にに大きなたんこぶ拵えて気絶してる!
私もアレと同じ状況だったみたいで途轍もなくおでこが痛い!
うつ伏せ状態から後ろを振り向いた瞬間――
こいしが私を跨いで飛翔していった。
「なんという僥倖ー!天佑とはこの事かー!!」
「あ、こいし!!」
「パルさんのお目覚は私がいただきまーす♪」
そのまま、まっすぐ行ってしまった……。
そんな、こんな事って……!
私は身体の力を振り絞り、起こそうとする。
そして後頭部に衝撃。
「ふみ゙ゅぅぅッッ!!」
踏まれた!!頭踏まれた!!
抗う事もできず、真下に顔を打ちつけてしまった。
身体に入れた力が霧散していく。
「うおー。ココをとおすわけにはいかないのだーーー。まてーーー。」
あまりの痛さに私は泣いてるのか、潤んだ視界で私を踏んだ当事者を見る。
ぼやけてはっきり見えないが、あれはたしかお燐が猫車に乗せていた死体……。
「うーん。何、今の蛙が潰れた様な悲鳴は……。」
前の女性が目を覚まし、キョロキョロ辺りを見回す。
「あれ、なんで私こんな所で寝て……!?よ、芳香!??」
先程私を踏んづけていった死体の後姿を見て驚いている。死体が知り合いとは、変な人だ。
「み、見つけた!家の番させてたら突然いなくなって……て、ちょっと戻って来なさいよ!芳香…!」
女性が立ち上がろうとした瞬間、私の頭上を飛び越える黒い影。
「みぎゃぁぁぁ!!」
お燐だった。
ものの見事に彼女はお燐に後頭部を踏んづけられ、悲鳴を上げる。
うん、、、あれはとても痛い。
「せっかく捕まえた激レア死体!待ちなよーーー!!」
お燐は私を気にせず、死体を追っかけていってしまった。。。
……。
もう、身体に力が入らない。
さっきの一撃で体力をごっそり持っていかれてしまった……。
心も折れそう……。
私じゃダメだっていうの……?
でも、夢の中のパルスィは幸せそうで……。
私よりこいしの方が相応しいんじゃないかって思えてきた…。
私は……遠くから見守ってる方が、お似合いなんじゃないかな…。
いつも遠くの縦穴に通って、彼女に逢って。
彼女の意思を尊重して、嫌がる事は避けて。優しくしてるつもりで。
本当は私が逃げてただけなんじゃないかって。
嫌われたくなくて。自分の本当の想いと我儘をぶつけないで。。。
今の関係のままでもいいんじゃないかって思ってた……。
でも、こいしがあんな風に振舞うだけで焦ってしまう。
勇儀さんやヤマメさんが、もし知らずにパルスィをものにしてしまったら……。
私は、後悔の余り、生きていけくなるんじゃないだろうか…。
パタパタっと、涙が落ちる。
落ちる涙が止められないのが、悔しい。
私のパルスィへの想いが涙と一緒に私の心から抜け出ているみたいで……。
嫌だ……。
嫌だ……。
私は……。
「…好きなんです、パルスィ。」
諦めたくない、この想いを。
「大好きなんです…。」
叶えたい、この願いを。
「私には……。」
一緒になりたい。暮らしたい。
「貫かねばならない想いが……!」
生涯共に、果てるまで……!!
「私にはある……!!」
想起『風神少女』
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
自分でも体験した事の無い速度。
普通の状態でも耐えられるかも分からないのに、身体に力の入らないこの状況。
身体が軋み、悲鳴を上げている。
2・3日は動けなくなるんじゃないだろうか。
きっと仕事に支障をきたす。
こんなの、私のスタンスじゃない。
頭で色々考えて、可能な事だけ実行して、賭けや無茶なんてしない。
出来る出来ないを隔たり分けるのが、私の考え方なのに。
今の私はバカだ。
何にも考えてなくて。
あんな夢見ただけで不安になって。
こいしが妬ましくなって。
こんな所で意地張って。
勝った所で、きっと何にもならない。
パルスィにバカにされるだけだ。
大人気ないって。
それでも……私は……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
見つけた。こいしだ。
お燐達もいる様だけど、そんな事は関係ない。
「こいし!私は……あなたには負けない!」
「え、お姉ちゃん……ッ!?なにそれ、凄く速いし、赤い残像出てる!どうなってるのソレ!!」
「どうだっていいの!!私は……!!」
……言い終わる前に笑い出すこいし。
おおよそ、地霊殿中に響き渡る位の大声で。
「……お姉ちゃん、本気だね!!」
「そうよ!パルスィは渡さない、絶対に!!」
「それでこそ私の誇るお姉ちゃん!でもね、私にだって譲れない想いがあるの!
……パルさんと一緒に暮らしたいって想いが!」
「こいし……!!」
もうすぐこいしに届く……が、このまま行けば、パルスィの客室まであと十数秒だ!
もっと、もっと速く!!
「お姉ちゃんがパルさんと一緒になってくれれば、私は何もしなかった!」
……え!?
「けど、お姉ちゃんはパルさんの心に深入りしなかった!心が読めて、怖がってた!!
すぐ心を覗いて、取り繕おうとして!!」
「……そうよ!好きな人に嫌われるような事をしたくなかったのよ!!」
「パルさんだって同じだよ!!他人に嫌われたくないから、すぐ自分のせいにするんだよ!
自分が至らなくて、でも、至れる誰かを妬んで!!
パルさんは自分自身がとっても嫌いで!!
――でも本当は、パルさん自身を求めてくれる誰かをずっと待ってるんだよ!!
それを一番分かってるのはお姉ちゃんのはずでしょ!??」
「私だって、あの人に相応しいのか、不安でしょうがないの!!」
「分かるよ、私はお姉ちゃんの妹だもん!
でもね、そんな二人が互いに遠ざけあって、いつ一緒になれると思ってるの!?」
「ッ!?」
「私だって、自分がサトリ妖怪である事が嫌で能力を閉じたの!
同じなの、私とパルさんは!自分が嫌いってところが!!
そんなパルさんと一緒に暮らしたい!だから、お姉ちゃんに期待してたのに!!」
「こいし……。」
「結局、欲しいものは自分で勝ち取らなきゃならないんだよ!
自分が未熟であっても、至らなくたって、貫きたい想いを否定する理由にならないの!!
欲しいんだもん、何としてでも!!
だから私は、パルさんを――!!」
「させないわ、こいし!私がパルスィを――!!」
客室のドアを打ち破り、そのまま私達はベッドに突っ込む!
「パルスィーーー!!」
「パルさーーーん!!」
「まてーーーーーー。」
「アタイの死体ーー!」
「芳香ぁぁぁぁぁ!!」
「ふぇ!な、何――ッ!?きゃぁぁぁ!!」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
部屋中に埃と煙が舞い散っている。
ベッドは無残に破壊され、みんなちりぢりに床に倒れている。
パルスィは私のすぐ隣にいた。
這ってでも、行きたかった。
でも、身体が動かない。限界を超えた運動量で、肉体が動く事を拒んでいる。
こんなに近くにいるのに。
手を伸ばせば届くのに。
これじゃ同じじゃない、今までと。
心が竦んで動かないか、身体が軋んで動かないか、ただそれだけの違いじゃない。
動いてよ、動いてよ!私の身体!!
「うぅーん、一体何が……。」
パルスィが頭を振りながら起き上がった。
「私、たしか夕食を食べ終えてから……えーっと……?……あれ、さとり?」
四つんばいで寄って来るパルスィ……。
パルスィが私をジッと見ている。
パルスィの瞳に映る私は情けない顔で泣いていた。
「……どうしたの?さとり…?」
「……。」
「……悲しい夢でも見たの?」
「……!!」
ゆっくりと。
優しくパルスィは身体を起こしてくれた。
「大丈夫だよ、私はお前から離れない。どんな事があっても、さとりに辛い事があったら必ず駆けつけるよ。だから、泣かないで?」
「……本当……ですか……?」
「本当だよ。私は橋姫なんだ。……自信とか無いけど……お前と地底を護る守護神になりたいんだ……。」
「……ずっと護ってくれるなんて……信じられません……まだ夢なんじゃないかと……。」
「……どうしたら、信じてくれるの?」
私は瞳を閉じて……
「……キスしてください。目覚めのキスを。
そうしたら、夢から覚めると思うんです。」
「……そっか。分かった。」
唇に暖かいものが触れた。
とても柔らかく、優しい感触。
「おはよう、さとり。朝だよ。」
夫婦のくだりがすごい好き
疾走感あってすごく良いです
ん、でも面白かったです。
溢れる想いは流線型 突撃ラブハ~ト♪
前方不注意で事故るレベルまで到達してしまっていた。
いいね、このままどんどん突っ走って行ってください。
こいしちゃんは既成事実とか言い始めるし…。
圧倒的疾走感!←どことなく中国語っぽい