五月六日
お医者さんが私はあと一年しか生きられないと言った。お母さんもお父さんも泣いていたが、私にはどうして二人が泣いているのかよく分からなかった。人間はいつか死ぬ生き物だと慧音先生は言っていたし、妖怪に食われてしまえば明日にでも死んでしまう。私はそれが一年後だっただけなのに、どうして二人とも泣いているんだろう。
よく分からないが、お母さんが日記をつけなさいと言うのでつけることにした。二人は日記を見れないと言っていたのに、どうしてつける必要があるんだろう。これを誰に見せるんだろう。分からないことだらけだけど、とにかく今日の日記はこれでおしまい。
五月七日
猫が部屋に飛び込んできた。餌をあげたら「にゃー」と鳴いた。とても可愛い。
五月八日
私の友達は沢山生きられるのに、私だけ一年たったら死んでしまうのは不公平じゃないかと思えてきた。二人みたいに泣くことはできないけど、段々と腹が立ってきた。どうして私は一年で死んでしまうのだろう。
五月九日
友達の勇太君を殴ってしまった。とても血が出ていたので私は怖くなって謝った。でもあれだけ血が出たのに勇太君は死ななかった。私が死ぬ時はどんな風になってしまうんだろう。怖い。
五月十日
もうすぐ死ぬ人の所へはシニガミという妖怪が来るらしい。シニガミはとても強く、神社の巫女さんでも負けてしまうという。私の所にも来るんだろうか。来たらどうしよう。大声を出したら帰ってくれないかな。怖い。
五月十一日
また猫がやってきた。でも餌をあげるような気分ではなかったので無視した。悲しそうに「にゃー」と鳴いて窓から出て行った。今度来たときは餌をあげようと思った。
五月十二日
窓がガタガタと揺れるのはシニガミが私を迎えに来ているから。お母さんもお父さんも風のせいだと言うけど私には分かる。シニガミはせっかちだ。一年も待てないなんて、そんなのひどすぎる。来たら絶対追い返してやる。
五月十三日
窓を開けていないのにあの猫が入ってきた。気持ち悪い。ひょっとしたらこの猫はシニガミの手下なんじゃないか。そう思ったら猫が恐ろしく思えてきた。「にゃーにゃー」鳴いてたけど枕を投げたら帰っていた。案外、シニガミとかいうのも大したことないのかもしれない。
五月十四日
猫が窓の外から私を見てる。
怖い。
五月十五日
まだ見てる。
何で?
五月十六日
ねこはおこってるんだ
わたしをころすきだ
まどのそとにいる
五月十七日
(このページだけ破りとられている)
五月十八日
窓を開けっ放しにしていたせいで風邪をひいてしまった。お母さんは泣いていたけど、どうせ一年たったら死んでしまうんだ。風邪ぐらいどうってことないのに。
新しい布団や枕は気持ちいい。これでぐっすり眠れそうだ。
五月十九日
いきなりお寺へ連れて行かれた。ありがたいお話を聞かせてくれるとお母さんは言っていたけど、とても退屈だった。生きるということは、とか言っていたけど、どうせ私は死んじゃうんだしね。
五月二十日
竹やぶのお医者さんの所へ連れていかれた。だけど私をみてくれたのは兎の耳をつけた変なお医者さんだった。赤い目がとてもきれいだった。でもそのお医者さんはずっとビクビクしてたけど、誰を怖がっていたんだろう。あの猫はもういないのに。
五月二十一日
私の部屋の扉と窓に鍵がついた。お母さんは私のためだと言っていたけど、多分シニガミを部屋に入れないためなんだろうと思う。だけどそれだったら、どうして外に鍵があるんだろう。あれだと私が外に出られなくなるのに。変なの。
五月二十二日
ずっと部屋の中にいた。でも本を読んでいたから退屈じゃない。
五月二十三日
今日も本を読んでいた。シニガミはまだ来ない。
私を怖がっているのかもしれない。
五月二十四日
シニガミがきた。とても背が高くて胸の大きなお姉さんだった。
窓にも扉にも鍵がかかっているのにどうやって入ってきたんだろう。気付いたら、そのお姉さんはそこにいた。
はっきりと自分の事もシニガミだと言っていたし。私はかなり怖がっていたけど、シニガミのお姉さんは優しかった。私とお話をした後は、部屋から出て行ってくれた。
シニガミは私を殺すために来たんじゃないの?
分からない。
五月二十五日
またシニガミのお姉さんがきた。今度はお姉さんの話をしてくれた。
お姉さんも色々と苦労しているようで、特に上司の愚痴が多かった。そういうところはお父さんと一緒だ。
だけど何だかんだ言いながら上司のことは嫌いになれないんだって。
私にはまだ早いとか言っていたけど、どうせ大人になる前に死んでしまうんだ。関係ない。
五月二十六日
シニガミのお姉さんと色々な話をした。でも猫の話はしなかった。それはお母さんが誰にも言ったら駄目だと言っていたからだ。あと一年後に死ぬ話もしなかった。それを言うとシニガミのお姉さんが私を殺すような気がしたからだ。
五月二十七日
窓の外にあの猫がきた。もう来ないと思っていたのに。
猫は庭を掘っていた。変なの。
あそこを掘ったって何も出てこな
五月二十八日
今日は一日中寝ていた。
シニガミのお姉さんも来なかった。
五月二十九日
シニガミのお姉さんに日記を見られてしまった。とても恥ずかしいけど、でもシニガミならいいか、と思った。
シニガミのお姉さんは全部読み終わってから、「棒が一本足りないな」と言った。
どういう意味だろう。
五月三十日
シニガミのお姉さんは来なかった。
五月三十一日
私は助かるかもしれない。シニガミのお姉さんが助けてくれるそうだ。
しばらく別のところで身体を治さなくてはならない。
だから日記もここで終わる。
だけどまたいつか続きを書く日が来るかもしれない。
本当は、死にたくなんてない。
十一月七日
私の身体は健康になった。病気は治った。
全部シニガミのお姉さんのおかげだ。お姉さんが私の身体を治してくれたのだ。薬ではなく不思議な術を使ったと言っていたけど、生きていられるのなら何だっていい。
お母さんは泣いていた。お父さんも泣いていた。だけどそれは嬉しい涙だ。
シニガミのお姉さん、ありがとう。
十一月八日
私の身体は思ったよりも元気で、明日から慧音先生の所へ通えるようになった。みんなどうしているだろうか。
明日がとても楽しみだ。
十一月九日
ここはどこ。家に帰して。
日記なんて書きたくない。
家に帰りたいよ。
十一月十日
シニガミのお姉さんにさらわれました。
シニガミのお姉さんはとても怒っているそうです。
どうして怒っているのか日記を読んで考えろと言われました。
答えるまで家には帰してくれないそうです。
日記も書けと言われました。
答えは分かりません。
十一月十一日
お腹減った。家に帰りたい。
答えなんて分からないよ。
シニガミのお姉さんはずっと私を見張ってる。
怖い。もう死にたくないのに。
十一月十二日
分からない。
十一月十三日
私は死ぬのが怖かった。だからきっと心が壊れていたんだと思う。
色々と勘違いしていた。見落としていた。
だけどそうだとしたら、もう私はここから出られない。
私は きっと うしろの お姉さんに ころされる
十一月十四日
やだしにたくない
十一月十五日
なんでわたしが
しななきゃ
いけないの
それはお前が橙を殺したからだ
お医者さんが私はあと一年しか生きられないと言った。お母さんもお父さんも泣いていたが、私にはどうして二人が泣いているのかよく分からなかった。人間はいつか死ぬ生き物だと慧音先生は言っていたし、妖怪に食われてしまえば明日にでも死んでしまう。私はそれが一年後だっただけなのに、どうして二人とも泣いているんだろう。
よく分からないが、お母さんが日記をつけなさいと言うのでつけることにした。二人は日記を見れないと言っていたのに、どうしてつける必要があるんだろう。これを誰に見せるんだろう。分からないことだらけだけど、とにかく今日の日記はこれでおしまい。
五月七日
猫が部屋に飛び込んできた。餌をあげたら「にゃー」と鳴いた。とても可愛い。
五月八日
私の友達は沢山生きられるのに、私だけ一年たったら死んでしまうのは不公平じゃないかと思えてきた。二人みたいに泣くことはできないけど、段々と腹が立ってきた。どうして私は一年で死んでしまうのだろう。
五月九日
友達の勇太君を殴ってしまった。とても血が出ていたので私は怖くなって謝った。でもあれだけ血が出たのに勇太君は死ななかった。私が死ぬ時はどんな風になってしまうんだろう。怖い。
五月十日
もうすぐ死ぬ人の所へはシニガミという妖怪が来るらしい。シニガミはとても強く、神社の巫女さんでも負けてしまうという。私の所にも来るんだろうか。来たらどうしよう。大声を出したら帰ってくれないかな。怖い。
五月十一日
また猫がやってきた。でも餌をあげるような気分ではなかったので無視した。悲しそうに「にゃー」と鳴いて窓から出て行った。今度来たときは餌をあげようと思った。
五月十二日
窓がガタガタと揺れるのはシニガミが私を迎えに来ているから。お母さんもお父さんも風のせいだと言うけど私には分かる。シニガミはせっかちだ。一年も待てないなんて、そんなのひどすぎる。来たら絶対追い返してやる。
五月十三日
窓を開けていないのにあの猫が入ってきた。気持ち悪い。ひょっとしたらこの猫はシニガミの手下なんじゃないか。そう思ったら猫が恐ろしく思えてきた。「にゃーにゃー」鳴いてたけど枕を投げたら帰っていた。案外、シニガミとかいうのも大したことないのかもしれない。
五月十四日
猫が窓の外から私を見てる。
怖い。
五月十五日
まだ見てる。
何で?
五月十六日
ねこはおこってるんだ
わたしをころすきだ
まどのそとにいる
五月十七日
(このページだけ破りとられている)
五月十八日
窓を開けっ放しにしていたせいで風邪をひいてしまった。お母さんは泣いていたけど、どうせ一年たったら死んでしまうんだ。風邪ぐらいどうってことないのに。
新しい布団や枕は気持ちいい。これでぐっすり眠れそうだ。
五月十九日
いきなりお寺へ連れて行かれた。ありがたいお話を聞かせてくれるとお母さんは言っていたけど、とても退屈だった。生きるということは、とか言っていたけど、どうせ私は死んじゃうんだしね。
五月二十日
竹やぶのお医者さんの所へ連れていかれた。だけど私をみてくれたのは兎の耳をつけた変なお医者さんだった。赤い目がとてもきれいだった。でもそのお医者さんはずっとビクビクしてたけど、誰を怖がっていたんだろう。あの猫はもういないのに。
五月二十一日
私の部屋の扉と窓に鍵がついた。お母さんは私のためだと言っていたけど、多分シニガミを部屋に入れないためなんだろうと思う。だけどそれだったら、どうして外に鍵があるんだろう。あれだと私が外に出られなくなるのに。変なの。
五月二十二日
ずっと部屋の中にいた。でも本を読んでいたから退屈じゃない。
五月二十三日
今日も本を読んでいた。シニガミはまだ来ない。
私を怖がっているのかもしれない。
五月二十四日
シニガミがきた。とても背が高くて胸の大きなお姉さんだった。
窓にも扉にも鍵がかかっているのにどうやって入ってきたんだろう。気付いたら、そのお姉さんはそこにいた。
はっきりと自分の事もシニガミだと言っていたし。私はかなり怖がっていたけど、シニガミのお姉さんは優しかった。私とお話をした後は、部屋から出て行ってくれた。
シニガミは私を殺すために来たんじゃないの?
分からない。
五月二十五日
またシニガミのお姉さんがきた。今度はお姉さんの話をしてくれた。
お姉さんも色々と苦労しているようで、特に上司の愚痴が多かった。そういうところはお父さんと一緒だ。
だけど何だかんだ言いながら上司のことは嫌いになれないんだって。
私にはまだ早いとか言っていたけど、どうせ大人になる前に死んでしまうんだ。関係ない。
五月二十六日
シニガミのお姉さんと色々な話をした。でも猫の話はしなかった。それはお母さんが誰にも言ったら駄目だと言っていたからだ。あと一年後に死ぬ話もしなかった。それを言うとシニガミのお姉さんが私を殺すような気がしたからだ。
五月二十七日
窓の外にあの猫がきた。もう来ないと思っていたのに。
猫は庭を掘っていた。変なの。
あそこを掘ったって何も出てこな
五月二十八日
今日は一日中寝ていた。
シニガミのお姉さんも来なかった。
五月二十九日
シニガミのお姉さんに日記を見られてしまった。とても恥ずかしいけど、でもシニガミならいいか、と思った。
シニガミのお姉さんは全部読み終わってから、「棒が一本足りないな」と言った。
どういう意味だろう。
五月三十日
シニガミのお姉さんは来なかった。
五月三十一日
私は助かるかもしれない。シニガミのお姉さんが助けてくれるそうだ。
しばらく別のところで身体を治さなくてはならない。
だから日記もここで終わる。
だけどまたいつか続きを書く日が来るかもしれない。
本当は、死にたくなんてない。
十一月七日
私の身体は健康になった。病気は治った。
全部シニガミのお姉さんのおかげだ。お姉さんが私の身体を治してくれたのだ。薬ではなく不思議な術を使ったと言っていたけど、生きていられるのなら何だっていい。
お母さんは泣いていた。お父さんも泣いていた。だけどそれは嬉しい涙だ。
シニガミのお姉さん、ありがとう。
十一月八日
私の身体は思ったよりも元気で、明日から慧音先生の所へ通えるようになった。みんなどうしているだろうか。
明日がとても楽しみだ。
十一月九日
ここはどこ。家に帰して。
日記なんて書きたくない。
家に帰りたいよ。
十一月十日
シニガミのお姉さんにさらわれました。
シニガミのお姉さんはとても怒っているそうです。
どうして怒っているのか日記を読んで考えろと言われました。
答えるまで家には帰してくれないそうです。
日記も書けと言われました。
答えは分かりません。
十一月十一日
お腹減った。家に帰りたい。
答えなんて分からないよ。
シニガミのお姉さんはずっと私を見張ってる。
怖い。もう死にたくないのに。
十一月十二日
分からない。
十一月十三日
私は死ぬのが怖かった。だからきっと心が壊れていたんだと思う。
色々と勘違いしていた。見落としていた。
だけどそうだとしたら、もう私はここから出られない。
私は きっと うしろの お姉さんに ころされる
十一月十四日
やだしにたくない
十一月十五日
なんでわたしが
しななきゃ
いけないの
それはお前が橙を殺したからだ
こういう、最後の文でわからせる系はぞくっとするから大好きです。
私の勘違いだったらごめんなさい
ゾワリと来るものはあったけど、微妙に釈然としないところもあるんだね
このままでは簡単すぎて一瞬でオチが分かってしまいます。
しかし、橙ちゃんなんで死んどるン?
17日になにがあったんだろうか
楽しませてもらった。
細かい所はいいっこ無しで十分楽しかった。
言葉のトリック的な話は好きですし、私は最後までオチが分からなかったので楽しめました。
橙のへたれっぷりに拍手。
自分には合わない作品だとよく分かった