「ねえ、文。この風何とかしなさいよ、桜が散って掃除にならない」
「……え、え~っと」
とある昼下がり。
春のうららかな日差しとは対照的に、つぶやかれた言葉は温もりの欠片もなかった。取材であちこち回ってから、羽休めに神社に立ち寄っただけでこの台詞である。
これが命蓮寺の犬であれば、元気にこんにちはーなんて、掃除をしながら返してくれるものなのだが。
竹箒を杖がわりに、細目で文を見つめる霊夢にはそういったお客への気配りは皆無であった。
「無茶を言わないでくださいよ……」
境内の桜の木の幹に背を預け、桜と神社を邪魔にならない程度に撮影していただけ。それ以上でもそれ以下でもないのに、自然現象を何とかしろといわれても困った話である。
あまりの言い分に、取材モードでしか使わない敬語が飛び出してしまうほどに。
「風操れるんでしょ? 無理なの?」
「む、できますよ。ええ、できますとも。それでも、四六時中一定範囲を無風状態にするというのは、骨が折れるといいますか。割に合わないわけで」
無理か、と問われて、ついつい肩をいきらせて反応してしまったが、その労働力や利用する妖力に見合った対価など目の前の巫女から徴収できるはずもなく。
「明日のお花見まででいいから」
「無茶ですってば!」
あっさり24時間越えの重労働を要求してくる。
「それが嫌ならお賽銭を入れていくことね」
「ナンデスカその二択」
「労働か、信仰か。神社に来た妖怪を退治しないであげてるんだから」
「選べと?」
「ええ、ほら、素敵な賽銭箱はあっちよ」
しかし、文とてむざむざ賽銭を払うつもりはない。
ばさりっと、背中から羽を出現させて、片方を目の前に持ってくると。
「霊験あらたかな天狗の羽を上げましょう。わー、霊夢やったねー」
ぷちぷちっと三枚ほど羽を取って手渡してみる。
妖怪でもかなり高位にあたる鴉天狗の羽だ。それを材料にして、お守りや魔よけの道具なんかも作り放題で――
「ん、ありがとー、ちょうど新聞の代わりの着火道具を探して――」
「なぁぁっ!?」
受け取った羽を、霊夢がおもむろに足元のゴミの山に羽を加えようとする姿を見て、文は慌ててその腕を掴む。
「いやね。冗談よ?」
「全然冗談に聞こえなかったんだけど!」
「新聞は燃やすけど」
「う、まあ、読んだ後ならいいけど……」
「……うん、ヨンデルヨンデル」
「その間はいったい何っ! そしてなんでカタコト! じゃあ、この前配ったやつの内容は?」
ふむ、と。霊夢は低く鼻を鳴らしてから、ぽんっと胸の前で手を合わせ。
「文が結婚相手募集中とか書いてあった」
「なんで自分自身の新聞でそんな痛いことしないといけないのよ! 読んでないじゃない!」
「はたての新聞で」
「何でそこではたてっ!? いや、むしろはたてもそんな悲しい記事書かないし!」
「うるさいわねぇ、あれでしょ? 今年も花見の時期がやってきた。神社では今年も妖怪の宴が開かれるのかって」
その言葉を聴き、霊夢の腕から手を離した文は満足そうにうんうんと頷く。
「なぁーんだ、読んでるじゃないの。霊夢ってば人が悪い。罪のない天狗を苛めないようにお願いします」
「その記事のおかげで、今朝からずっと庭掃除だけどね。罪のない天狗さん?」
「うっ」
普段はあまり役に立っていないと評判の文の新聞ではあるが、ある一定の時期がくると急に人気が増す。自然を良く知る妖怪であることから、桜の満開時期や紅葉の時期の予想をするとほぼ的中するので、それを参考に宴席が開かれる。
そのため、文の新聞が宴会用のスケジュール表になっているというわけだ。
ただし、会場を貸し与える側としては手間だけでため息が出るほどで……
「ま、まぁ、その辺はあれですよ。あの人間の泥棒にでも手伝っていただいたり、ペアでついてくるお暇な人形遣いにでも」
「アリスは当てにできるだろうけど、あいつはどうかなー。咲夜の方がまだ信頼できるわ。あ、そういえば、私の目の前にも、退屈だから神社に寄ったとかいう天狗が――」
「アーシマッター テンマサマニー オツカイ タノマレテタンダッター。というわけで、霊夢、また明日~~っ!」
「あ、これ、逃げるな! 羽燃やすわよ!」
飛び立とうとした瞬間、霊夢がさっきの羽を掲げたので、文は仕方なく地面に着地して。
「あーっと、それですか。えーっと……、霊夢、ちょっとその羽で作っていただきたいものがあるわけでして……それを作っていただけたら、風で花びらを集めるくらいはしますよ」
「また急に敬語になるなんて、何を企んでるのか知らないけど。まあいいわ、聞かせてみなさいよ」
「では、失礼して」
すると文は、右手で髪をかき上げ、そっと霊夢の耳元へ唇を持っていくと。
「っ!?」
そのお願い事を口にした。
優しく、それでいてはっきりとした口調で。
霊夢が聞き間違えたりしないように。
だから、その願いを受けた霊夢は――
「絶対に、イヤっ!」
「え、あの、ちょっ!?」
文を振り払って、空を飛びながら神社の中に入っていってしまう。
置いてけぼりにされた文は、頬をぽりぽり掻きながら足元のゴミと神社へと視線を彷徨わせ。
「はぁ、まだ全部話してないって言うのに……どうして人間はこう……」
そこまでつぶやいてから、またため息をついた。
「なんでそんなに……急ぐのか……」
◇ ◇ ◇
この年の花見は実に盛大だった。
主催、提供に八雲紫をはじめとした、紅魔館や永遠亭、さらには冥界や地底、妖怪の山にいたるまで、妖怪という妖怪が集まるだけでなく。人里からも代表者が何名か参加するなど、夕方から始まった宴席は日を回っても終わる気配を見せなかった。
山の現人神が神格を得て、二柱に近い存在になったこと。
新しい博麗の巫女が見つかり、紹介されたこと。
そんな真新しい話題が宴席を彩ってはいたが、それでも、魔法の森からやってきた魔法使いは少しだけ寂しそうな顔をしていた。
先代扱いされ始めた霊夢はというと、
「んー? お酒が上手い!」
と、関係ないところで上機嫌。
まったく記事になりそうにない状況で、記者を悩ませて――
「で、昨日のこととか。覚えてたりしません?」
「……静かにして、頭痛い……」
昨日はまったく相手にならなかった霊夢へと直撃取材を決行した文であったが、本人の記憶という部分はまったく期待できそうではない。
座ってはいるものの、なんとか縁側まで這ってきました、といった様子。柱に上半身を預けて、息を荒くしているのだから。
「こんなとき、あなたに弟子でもいればご自愛ください、とか言うかもね」
「宴会では遠慮した方が負けなのよ」
「どんな理屈ですかそれは」
それ以上話しかけても、うざったそうにするだけでまともな反応がない。
仕方なく取材をあきらめた文は、
「……まだ少し肌寒いかな?」
とりあえず、勝手に霊夢の寝室に上がりこんで、薄い布団を一枚拝借。それを霊夢に向かって放り投げてから空へと飛び上がる。
眼科で布団のお化けが弱々しく動いているのを写真に収めて、とりあえず今までの情報をまとめるために妖怪の山へと進路を変えた。
最高速度だけで言うならば、他の追随を許さない文である。飛び始めてそう掛からないうちに妖怪の山の森林に辿り着き――
「止まれ!」
「ちょ、無理っ!」
「きゃいんっ!?」
飛び出し注意。
急に横から飛び出した椛と衝突して、飛翔を止める。
相当な速度でぶつかってしまったが、風を操る文はとっさに空気の壁を自分と椛の間に生み出したためほぼ無傷。
が、もう1人はというと。
「あ、あやぁ! ぶんしんすぅなんれぇ! ひきょうらぁぁ~~」
「……まったく、何をしているのやら」
地面に叩きつけられて目を回していた。
それでも、頑丈さでは目を見張る白狼天狗。文に起こされて数十秒後にはもう、自分を取り戻し。
かちゃり、と。
「が、外出・宿泊許可なしで長期間どこにいっていた!」
抱き起こされた恩も忘れて、何故か頬を染めながら刀を抜く始末。
しかし、文は自分に向けられた刃を指で掴んで横に動かすと、面倒そうにため息をこぼして、こんっと。椛の額に軽く拳を当てる。
「椛、どうせ見てたんでしょ? 神社よ、神社」
「わかっていても、書類とかそういうのが!」
「適当に作っといて、どうせ印一つで通るんだし」
「それは、そうだけど……」
哨戒とはまた違う業務かもしれないが、白狼天狗にはこういった、天狗たちに山の規則を守らせるという役割もある。
が、一部の天狗にはまったく効果が現れていないのが現実でもあった。
ただ、最近では少々別の問題も表面化しており。
「文が勝手なことばかりするから、鴉天狗を初めとした天狗の若い子たちが。人里と接触するようになった! これは、人間と天狗だけの問題じゃなくて!」
「人間と天狗の問題だけでしょ? 大天狗様に何を仕込まれているのやら」
「わ、私は、私の意見を伝えているだけ!」
「じゃあ、私の意見はいままでと一緒。以上」
「あーもう、文っ!!」
離れていこうとする文へと数歩踏み出し、椛は息を吸い込むと。
「人間と天狗が恋仲になるなど、断じて許可されませんからね!」
などと、文の背中に大声をぶつけるものだから。
文は頭を押さえることしかできない。
「まったく、これだから駄犬は……勘違いもはなはだしい」
人間と妖怪の関係は、あくまでも親しい隣人程度。
隣人同士相手を殴りあったり、時には命を奪うこともあるが、それでも長期的な歴史で見ればさざなみが立つくらいなのだ。そういった世界の流れと同じで、奇妙な距離感を保ち続けるからこそ面白いというのに、それを椛はあろうことか『恋』だという。
それでも、ああやって誤解され喚きたてられては好きなときに外出できなくなってしまうかもしれない。
「仕方ない、記事の前に書類だけ作っておくかな」
宴会明けの倦怠感を背負いながら、文は自分の住処へと急いだのであった。
◇ ◇ ◇
人間に近い天狗。
そう呼ばれ始めてから、どれくらい経っただろうか。
初めは、天魔から『念のため人間を定期的に探れ』と言われたのが始まりであり、文も月に2~3回程度しか足を運んでいなかった。
けれども、スペルカードルールが生み出されてからは、妖怪よりも人間のほうが積極的に外へアプローチを仕掛けるようになり。嫌がおうにも人間を良く知るようになった。
それからだろうか、文が毎日と言っていいくらい山を出始めたのは。
最近では、別な目的というか命令を受けていたりもするが、それはまた別の話。
「あら、今日は紅白衣装ではないのですね」
「巫女装束っていいなさいよ」
宴会が終わって何日経っただろう。文が神社へと足を運ぶと、白い装束に身を包んだ霊夢が、裏庭に佇んでいた。袖を隠し、清楚な白をまとった姿は、また、彼女の別の魅力を引き立てているようだった。
しかしあの夜の名残である薄紅色を残す枝を見上げる姿は、どこか哀愁を漂わせている。
「今日は何か、用事があったのです?」
「んー、別に」
「そうですか、私はなかなか大きな事件を見つけてしまったわけですけれども」
「そりゃそうでしょうね、あれだけ馬鹿やってた奴なんだし」
どこか呆けた様子で淡々と応えを返す霊夢に、わずかながら違和感を覚える文であったが。幻想郷中を飛び回って情報を集めるのが趣味であるがゆえ、その理由など聞く必要もない。
いや、それ以上聞いてはいけないと判断したのかもしれない。
「さて、取材のほうはここまでにしてっと、今の霊夢は誰かさんとそっくり」
「誰よ」
「ほらほら、紅魔館のパチュリー。本がいっぱい増えて、いや、戻って? かな? まあ、それで喜ぶのが筋だっていうのに、なんか面白くなさそうな顔で、むすーっと」
「あれ? 私そんな健康悪そうな顔してた?」
「いや、話しにくい顔だった」
「でも、話しかけてきたわよね、あんた」
「私と霊夢の間柄にそういった遠慮は要らないと自負してる」
「勝手にするな! はあ、まったくもう、傍迷惑なのは相変わらずね~」
「お褒めに預かり光栄です♪ では、これ以上ここにいても面白そうな情報がなさそうなので帰るとしましょう。霊夢のさっきの衣装はしっかりとカメラに収めさせていただきましたけどね」
文はぺろっと舌を出して、子供のように微笑むと、もう一度神社と霊夢がレンズに収まるように写真を一枚。
「ああ、そうそう、忘れてた。この前の宴会の残りのお酒、いるでしょ? 玄関においておいたから持っていってくれる?」
「喜んで! いやぁ、大事なもう一つの用事をすっかり忘れていましたよ!」
と、霊夢に支持されたとおり、中庭から玄関に回って土間の中を眺めてみれば。
「あれ?」
お酒が見当たらない。
玄関の外という意味かもしれないと一度出てみても、やはり瓶の陰すら確認できない。
「あー、伊吹様の仕業ですね、これは……」
神社に入り浸る酒に目がない小さな陰を思い出し、文は気を重くした。
準備してあったのなら、奪われた可能性が高いわけで……
だからといって、立場上天狗が鬼に逆らうなどできるはずもなく。
「はぁ、仕方ない。今日ははたてでも誘って、ちびちびやりますかって、おや?」
念のためもう一度玄関に入ってみれば、霊夢の赤い靴の傍に封筒が落ちているのに気がついた。
位置からして、意味深なものを感じた文は周囲を見渡してから、こっそりそれを拾い上げ。
―― 文へ
「へ?」
罪悪感よりも勝る好奇心で口元を緩めながら手に取ったというのに、その宛名を見て間抜けな声を上げてしまっていた。
そんな醜態を誰かに見られていないかと、あわてて周囲を確認する。けれども、見えるのは優雅に舞う蝶くらいなもので、文は胸を撫で下ろしてその封筒を眺めた。
斜めにしたり、裏返してもう一度ひっくり返したり。それでも、『文へ』という言葉は変わることなく残っている。
「……もしかして、お酒の件はこれのカモフラージュとか。いや、そんなわけないか」
と、もう一度周囲を見渡してから、びりびりっと。風の刃を使わずに直接指で開いてみれば、さらに小さな封筒二つと。
折られた紙が一枚。
何か妙な依頼でも書いてあるのかもしれないと、一枚だけバラになっている紙を開いてみれば。
たった一言。
―― いつも、ありがとね。感謝してる。
そんなことが書いてあって、
「……はは、困りましたね。これは」
軽く息を吐いてから、胸にしまう。
その後、両手で封筒の場所を優しく、何度も、何度も撫でながら神社を後にした。
文が神社に取材をする目的の中には次代の巫女の情報を得る。というのもあったのだが、その狙いとは逆にずっと八雲宅で修行中らしい。
何せ、交代してすぐに結界の張りなおしを行わなければならないそうだから。あちらのほうが便利なのだという。
そのため、それまでは博麗神社はいつものどおり。
霊夢がぼーっと、お茶を楽しみながらやってくる妖怪たちの相手をしているだけ。そんな日が続いた。
その間も文は、取材として毎日訪ねてきて、くだらない話を繰り返しては帰っていく。その頻度はいつのまにか、他の妖怪よりもはるかに多くなっていく。
先ほども言ったとおり、八雲は次世代の育成中。
鬼は天界で遊ぶ機会が多くなり。
山の神社はいろいろな催し物で忙しい。
などなど、各々手が空かず、神社に来ることも少なくなっていた。
そのため、消去法で文が一番というわけだ。
それを知ってか知らずか。
最近では霊夢が布団から起き上がるよりも早く、部屋の中に入り込んでいるときもある。
そこで何をしているかというと、何をするでもない。
ただ、寝ている霊夢をじーっと観察するだけ。
起きてからも別段特別なことをするでもなく、あまり起き上がらなくなった霊夢にお茶を煎れてあげたりしている。
そんなところで、
「文! 何してるんですか?」
「家事♪」
「家事っ、って、この書類には取材としか書いてない!!」
「家事の体験取材ということで」
「あああ~~~っ!! あなたというひとはああああ~~~」
ときおり椛がやってきて、そんな文にうるさく注意したり、境内の中で追いかけっこを繰り広げたりするのを眺めるのも、霊夢の楽しみの一つとなっているようだ。
そうやって文の毎日は馬鹿馬鹿しく過ぎていく。
「ねえ、文。山の方は本当にいいの? もう夕方だけど」
――過ぎていってしまった。
「あー、椛のこと? いいの、いいの。あんなの一晩吠えさせればすっきりするんだから」
「知らないわよ~、外出禁止とかになっても」
「ふふふ、そんなことを言って。私がいなかったら霊夢のほうが困る癖に」
「あー、それは言わない約束でしょ」
昼食をほとんど摂らないまま。
文が準備した夕食も口にすることなく、霊夢は言った。
少し、お話しましょう、と。
畳の上に敷かれた布団に包まって、ときどき小さく震えながら横に座る文を見上げている。それをみた文が布団を足そうかと声をかけるが、重くてしゃべりにくくなるからいらないと、立ち上がろうとした文の手を捕まえる。
「文、幻想郷って、どんなとこだと思う?」
捕まえて、また新しい話を文に要求する。
文が何かをしようと体を動かすたびに声をかけてくるのその姿はまるで――
「霊夢、心配しなくても今日は帰りませんって」
「わかってるわよ、とにかく質問に答えて」
側に居てとせがむ子供のよう。障子に映りこむ夕日に目をやりながら、文はんーっとわざとらしく指を立てて。
「いいとこなんじゃないの? 私が新聞を続けられる程度には」
「それだけ?」
「ええ、それだけだけど意外と大事。私が取材をできなくなるということは、それだけ山の天狗が騒がしくなるということだから。
吸血鬼事変のときとか、結構ストレスたまったし」
「そっか、いつもどおりの日々を過ごせる程度の世界、ね」
「ええ、いつもどおり霊夢を眺め続ける毎日ね」
「なにそれ、変態?」
「天狗仲間からは変わり者と評判よ?」
どちらかが先に笑い。
そして、もう一人がつられて笑う。
会話の中で何度も笑みを交わしながらも、その瞬間を過ごす。
「ねえ、文。私とあなたが初めて会ったのって、いつだっけ」
「たぶん、山の異変くらいじゃない」
「そういえば、あのときって、あんた私がいろんな異変解決してたことぜんぜん信じてなかったわね。こっちはちゃんと説明したのに」
思い出話にも花が咲き、次々に話題が生まれてくる。
あのときは、こうだった。
でも、私はこう思っていた。
本当はもうちょっとうまくやれた気がする、なんて。
布団の中の霊夢から、次々に言葉が生まれていって、
「まあ、こんな風になっちゃったけど。私はさ、恵まれてると思うのよ」
「んー、恵まれてる、ですか?」
「俗っぽく言えば、幸せってことかな」
「……じゃあ、私も幸せということにしておきますか」
「あ、真似は駄目よ」
文は静かに首を振り、胸を押さえる。
「真似じゃないですって、私もこう、胸がぽかぽかと。こういうのを満たされているというのなら、きっと幸せなのでしょう。あの手紙をみたときのように」
「そう、ならいいや」
満足げに霊夢が笑い、口を閉ざす。
すると、眠気が襲ってきたのか、まぶたを閉じる回数が増え始めた。
「ねえ、文。いるんでしょ?」
「ええ、もちろん」
「何かさ、話……してよ」
「ええ、まあ、そう言われても、あ、そうそう、この前――」
一瞬、文を探す素振りを見せるが、文が声をかけると安心したのか。
安らかな寝息を立て始めた。
本当に静かに、静かな吐息で、
「――あのときの霊夢は、て、聞いてます?」
こくんっと、文の言葉に頷きだけを返すのが精一杯のようだった。
続けて、また静かに、吐息を零して――
それでも、それがあまりに小さくて、弱弱しかったから。
「――ねえ、霊夢? そう思いません?」
文は、悟れなかった。
「……霊夢?」
いつのまにか、霊夢の胸が上下していないことを。
「……れい、む?」
いつのまにか、霊夢の肌が冷たくなっていることを。
「……っ」
笑顔のままで、すべてが止まってしまっていることを。
満たされた笑顔で、眠っているのに。
文はただ、声を出すこともなく。
霊夢をじっと眺め続け。
「おやすみ……」
投げ出された両手を、胸の前で組ませてやることしか、できなかった。
それ以外にできたことといえば――
「大天狗様、準備が整いましてございます」
夕日が地平線に消え、闇が世界を覆い始めた頃合を見計らい。
もう一つの文より一回り大きい妖怪を、その場に誘い込むことだけ。
誘い込まれたほうは満足そうに頷き、その場で膝を突く文の頭を厚い手で撫でる。がっちりとした年代を感じさせる男の手だ。そのとき、文の体が震えたのは、指名を達成できたことの喜びか。それとも……
「大儀であった。鬼が闊歩し始めた今、我ら天狗も何か対策を練らねばならぬ。そのために巫女の肉はわれに更なる力を与えようぞ」
「はっ、天魔様並かそれ以上の妖怪として大天狗様が変化されれば、妖怪の山も安泰となりましょう」
「ふむ、では急いで巫女の死肉をいただくとしよう」
「大天狗様、それについてお願いが……」
「わかっておる、お主にも分け前を与えようではないか」
「はっ! 身に余る光栄です」
文が最近受けたという依頼、それは……
天寿を全うすると推測される前任の巫女、その霊力の高い肉体を糧とすることだった。妖怪が手を出せなかった暗黙のルール、博麗の巫女という役職から開放され、人里の外の人間でもある今の霊夢は、禁止事項に該当しない。
それでも、そういった企みがあれば、霊夢を少なからず想う八雲紫が動くはず。しかし、この日のため、文は親しさを装いずっと霊夢に接してきた。八雲紫の目を欺いて見せたのだ。霊夢のことを任せ、新たなる巫女の教育に専念しているはずの幻想郷の管理者は、今頃自分の住処で決壊の再調整を行っていることだろう。次代の巫女と一緒に。
「大天狗様、それと、このことは私以外に……」
「いや、他の大天狗にも部下にも伝えてはおらぬ。本来であれば数人に手を回そうと思ったのだが、お主の働きが見事であったからな」
「ええ、全力を尽くさせていただきました。その全力ついでに、こちらを」
文は自分の前に立つ大天狗に頭を下げたまま、懐の中から小さな封筒を差し出した。
「こちらは、他の者から天狗の姿を見えなくするという呪符でございます。巫女を騙し、作らせた特別せいですので、効果は格別かと」
「なるほど、邪魔が入りにくくなるということか」
「ええ、ではどうぞご利用を……」
「そうさせてもらおう、封を切って貼ればよいのか?」
「そう聞いております」
嬉々として封を切り、大天狗が腕にそれを貼り付ける。
それを確認した文は、すっと立ち上がり。
「では、私は見張りを」
それだけ告げて、霊夢の寝室を後にした。
星降る夜――
吸い込まれそうな星空を見ていたら逆に星が降りてくるように見えるから、きっとそう呼ばれ始めたのだろう。
文は、いつもは出していない天狗の羽を伸ばし、大きく伸びをして。
「はぁっ、はぁっ! ……文っ! 説明して!」
星ではなく、勢い良く空から降ってきた白い陰に向き直った。
限界まで速度を上げたせいか、息が切れている白狼天狗に。
「目が良いというのは、悲しいですね。椛」
「説明して!」
「見なくていい事柄まで見て、動いてしまう。胸の中にとどめておけばいいものを……」
「説明してって言ってる!」
「そう? その必要はないじゃない」
くすくす、と。文は笑う。
普段と同じ、妖怪の山で暮らしているときと、まるで変わらない表情で。
「すべてを把握している相手に対して、これ以上何を説明しろと?」
なんの罪悪感もない普段どおりの顔で、両腕を開き肩を竦めて見せたとき。
ぎり、と。静かな夜に牙が擦れあう音が響く。
同時に抜き放たれた白銀の刃は、月明かりを受けて鈍く輝いていた。
「こんなこと、許されるはずがない! 禁止事項ではないからといって、天狗に疑いの目が向けばどうなるか! それがわからないほど府抜けたか! 射命丸っ!」
「あやややや、その呼び名を聞いたのは久しぶりです。しかし、椛? 勘違いしているようですが、私もそういう展開は好みではありません」
「……ならば、何故?」
「ああ、簡単ですよ」
文が一歩、椛に踏み出した瞬間。
椛の身体に言い知れない寒気が走り、数歩身を引いていた。文が攻撃姿勢をとってもいないのに、底知れない闇が椛の目の前にあったから。
「1人の天狗の暴走ということであれば、そう荒波は立たないと思いませんか?」
「……な、なにを?」
「私はいつもどおり親しい霊夢の側にいてその最後を看取る。けれど、その直後、1人の血走った目の血に飢えた白狼天狗が現れる」
「……え?」
椛の全身から、血がすーっと引いていくのがわかる。
そして慌てて千里眼で周囲の状況を探った。
神社の境内には、文と自分だけ。
周囲にも妖怪や人間、意思の強い動物の陰もない。
つまりここには、椛と文と、屋敷の中に居る大天狗しか――
「不意をうたれて私は少々気絶してしまい、その間に暴走した白狼天狗は霊夢の死体を捕食。力を増した白狼天狗を抑えるため、私は大天狗様の協力を仰ぎ、なんとかその排除に成功する」
「……じょ、冗談を、言わないで、文」
「けれど、非常に、ひじょぉぉ~~~に、残念なことですが……、力を持った白狼天狗に対して手加減ができず……ね?」
「あ、ああぁぁぁ……」
「目がいいことは、本当に不幸なことだと思いませんか。ねぇ? 椛?」
恐怖と、このことを誰かに知らせなければという使命感が入り混じり、椛はこの場を離れようと足に力を込めるが。
蹴ろうとした地面がなくなり、空を切る。
気がつけば椛は、文の風によって四肢を空中で拘束されていた。
地面から数十センチほどの低い高さで。
「は、離せ! 離して!」
「いえいえ、逃げられては困りますしね。あ、そうそう、大声を出しても無駄ですよ、風で遮断してますので」
それでももがき続ける椛の目の前に、文がゆっくりと迫り。
椛は唯一動く頭と、尻尾をめちゃくちゃに動かして、必死に来ないで欲しいと懇願する。
が、そこでもう一つ。
「あ、ああ……」
霊夢の捕食を終えたのか、大天狗が神社から姿を見せ文たちに迫ってくる。
二人の天狗がそろうことがどういう結末を生むか、それを知ってしまった椛は涙を目に溜めて、歯を食いしばり……
どんどんと、大きくなる人影を見つめ続け……
ざしゅっ、と。
我慢できず椛が目を瞑った直後、肉を切る、生々しい音が響いた。
「え?」
けれど、ない。
椛に痛みなど、ない。
腕も足も、全身のすべてが健在で……
「文、貴様ぁぁぁっ!」
はっと、椛が目を見開いたとき。
「何か、不都合でもございましたか? 大天狗様……」
文の背中から、大天狗の腕が生えていた。
何かの液体で装飾された、指を滑らせて。
それでも、文は……、笑う。
口元から赤い線をつくりながら、いつもどおり、飄々とした顔で、笑う。
「あの結界はなんだ! 文! あんなものを準備しろといった覚えはない!」
「ああ、あれですか。実はですね、特定の符を持つ相手を触れさせない結界がつくられているんですよ。それが、こちらの手元に……おや?」
大天狗の腕に触れてから、もう一度胸元に手を入れて……
「すみません、大天狗様。どうやら間違えて渡してしまったようで――」
「この、うつけ者がっ!」
「文っ!」
大天狗が、文を地面に叩きつける。
傷のせいか、受身も取れずに大の字になった文の腹部からは、どす黒いものが流れ続け……
「はぁっはぁ……、だ、大天狗様、この符をお使いになれば、さきほどの効果も打ち消されますので、どうか、ご容赦を……」
「……」
と、震える手で差し出された、封筒。
それを受け取った大天狗は。
冷めた目で文を見下ろし……
「ご苦労であったな、静かに眠るが良い」
文の言葉も待たず、子供の頭ほどありそうな妖力の弾を打ち出す。
何度も、何度も、足元の文に向けて。
椛の悲鳴を打ち消すほどの轟音と、夜を照らし出す閃光がその場に満ちた後には、ピクリとも動かなくなった文と、文の呪縛から逃れたのに一歩も動けなくなった椛と。
高らかに笑う大天狗の姿があった。
「なんで、文は、文は、大天狗様のために……」
「しかし、一番重要なところでミスを犯した。そのような役立たずは処分するに限る。そもそも巫女の力を取り込むのは、1人でよいのだから」
「っ!? ま、まさか大天狗様……はじめから……」
「ふ、はは、犬は犬らしくおとなしくしておればいいものを……」
椛に対する答えはない。
けれど、その態度と気配がすべてを証明していた。
尊敬していた大天狗の凶行、そして文にされた仕打ち。心を貫かれた椛はただ、その場にへたり込むことしかできず。
「そうだ、そうやって大人しくしておるがいい」
文が残したもう一枚の札を、また、腕に貼り付ける。
それでもう、大天狗を阻むものはなくなり。
妖怪として、圧倒的な力を得る。
「が、グガガガガガっ!?」
はず、だった。
その大天狗が、今や、胸を押さえ、地面にはいつくばっている。顔を赤くし、衣服を引きちぎり、まるで、体の中に入り込んだ異物を抉り取ろうとしているようだった。
反対側の腕で石畳を叩き続けてはいるが、その力は段々と弱まっていき。
「……天狗であれば、その呪に耐えることなど、不可能、ですよ」
「あ、あやっ! え、なんでっ!?」
倒れて、悶え続ける大天狗の横。
あれだけの攻撃を受けた文が、ゆっくりと起き上がり……
「符に込められていたのは、私の羽を媒体にした。対天狗用の呪詛。天狗という種族を呪うものです。ですから、もう、手遅れですよ。大天狗様」
「だま……したな……あ、や」
「お互い様ですよ、もし大天狗様があのとき。結界で守られた霊夢に触れないことであきらめていただければ、このようなことはせずにすんだというのに……」
最後の呻きを残し、動かなくなった大天狗を見下ろして。
文は、頭を振り。
「ひっ」
さきほどのことで、文に警戒心を抱いたままの椛を振り返る。
「さあ、椛、帰ろうか」
「……」
何度も浮かべた微笑で、椛を誘う。
けれど、椛はそれを拒み地面に座り込むばかり。
てこでも動きそうもない椛の姿を見て諦めた文は、
「ごめんね」
ただ一言だけ残し、神社を後にした。
「ほ、ほら、椛、あーん」
ぷいっ
「ほら、あーん」
ぷいっ
「あーん」
「いいです、自分で食べられます!」
妖怪の山にある大きな杉の木の上。
そこで、文と椛が弁当を広げながら箸での攻防を繰り広げていた。例の件についてお詫びしたいと文が申し出て、弁当を作ってきたのはいいのだが。
食べさせてあげるとうるさく、椛はそれを必死で拒否し続けていた。
「別に、あのことそんなに怒ってないし!」
「あ、ちょっとは怒ってる?」
「ん?」
「あー、ごめんごめん、そんな青筋立てないでよ」
例の件とはもちろん、先日起きた大天狗による霊夢襲撃事件のこと。
文は自分が大天狗の命令を従順に聞くことで、他の天狗が巻き込まれないようにしたかったと上司に伝え、天狗社会の今後のために刺し違えても止める覚悟だった、と。
ぼろぼろの服のままで涙ながらに訴えた。
その効果もあったのかもしれないが、
「いやー、女の涙は武器ですね」
「……打ち首にでもなればよかったのに」
「ひどっ、椛、ひどっ!」
もともとその大天狗が野心家で有名であったことから、例外の例外、ということで、『1年間外出禁止』という極度に軽い罪で収まった。
結果的には天狗が仲間を消すという、重大な事件であったことから考えればどれだけ甘い采配かはわかるだろう。
そうやって、許された文はと言うと暇をもてあまして、ときおり椛を構いにくるというわけだ。
「じゃあ、私、自分の弁当たべちゃおっかなー」
「勝手に食べててよ、うざったい。って、あれ? 文、お腹って、もう平気?」
と、そんなとき。
椛が文の腹部を軽く覗き込む。
攻撃を受けてからも飛んだり、山にまで戻ってきているのだから平気だとは結論付けられるものの。
格上の相手からあれだけの攻撃を受けたのに、後遺症もないというのは不自然すぎたから。
「あー、まあ、確かに。死んじゃったかなーって思うくらいの攻撃だったからね」
すると、軽い口調で文はあははっ、と笑い。
「ま、別によかったんだけどね。最初から、そのつもりだったし」
「っ!?」
その軽すぎる口調が、椛の尻尾を跳ねさせる。
「だって、鴉天狗が大天狗に逆らうんだから、その場で生き残っても、どうせ死ぬことになるだろうって思ったし。だから、椛が勝手に来ちゃったときも、できるだけ悪人に思わせようってがんばったんだけどね」
「……ふん」
「結局生き残っちゃって、余計に椛を混乱させちゃったかな。悪いとは思ってるよ、割と本気でね」
「もう、そういうのはいいから! その理由を教えてよ!」
「わかった、わかりました。仕方ないなぁ」
文は背中から羽を出現させると、ぷちぷちっと、霊夢に見せたときと同じように3本抜き取って。
「これが、霊夢の作った符の材料。わかる?」
椛が、こくんと頷いたのを確認してから、その一本ずつを椛の手に乗せていく。
「まず、一つは、天狗を特定のものに触れさせない結界。一つは、天狗を問答無用で滅ぼす攻撃用」
天狗の要素を加えたことで、特効を生み出した。実際そういうことなのだろう。ただ、文の手の中にはもう一本羽が残っていて。
「もう一つが、天狗の攻撃を一定時間防ぐ、絶対防御用。天狗に一度傷を受けた後、勝手に発動する」
と、文がおもむろに胸元に手を突っ込んで、ぼろぼろの封筒を一つ、椛の前に置く。その封筒には、『文へ』という誰かが書いた文字が見えた。
「私は、それを霊夢に持たせたつもりだった。もし、万が一、結界でも防げないことが起きたときに、大天狗様が霊夢を傷つけることがないようにね」
文が羽を渡し、霊夢がそれを加工した。
それはわかる。それはわかるのだが。
椛には腑に落ちないことがあった。
きっとそれは、この事件の根底にあるはずの大事なこと。
それでも、文がまったく、それを口にしない。
「それを、この封筒に仕込んでおくなんてね。私がどうなったって霊夢は困りもしないはずなのに」
「……えっと、文? 本気で、言ってる?」
「ええ、まあ、それが何か?」
椛は思う。
霊夢という、勘の鋭い巫女が、文に対しそういった仕掛けを行うということは。
何かを察していたのではないか、と。
「えっと、文は、霊夢を傷つけないように、3枚の符を準備しようとして」
「うん」
「逆に、霊夢は、文に万が一のことがないように、文に渡した封筒に符の力を込めた」
「うん」
「それで、いいんだよね? それだけなんだよねっ!」
「ええ、まあ、そんなところ。ってなんでいきなり肩を掴んでくるのやら」
「あ、ごめん、つい、あははははっ」
それに椛は最初から全部、見ていた。
こっそりだが、全部、知っていた。
文が最初羽を渡したときから。
一度は拒否されたことも知っている。
霊夢は、作って欲しい札のことを聞いて、何か誤解したか。
いや、その時点でもう、何かに気付いたか。
文と霊夢の、その他の行動を冷静に思い返すほどに。
椛の中の違和感が大きくなっていく。
「ま、別に人間なんて単なる情報源、私の趣味の糧にしかならないんだけど。
なんだろうね、この感じ」
そう言って、頬杖をついて笑う顔が椛は別の表情にしか見えなくなってくる。
いつまで経っても、そのぼろぼろの封筒を手放そうとしないもは、きっとその感情の表れなのではないか。
「ちょっと、胸の辺りが空っぽになった気がするんだよね……」
どうでもいい人間の持ち物を、ずっと胸元に置いておくだろうか。
脈打ち、命を刻む動物の名残の器官。
心という名を持つ器官の近くに――
「ねえ、文?」
だから椛は、もう一度。
その言葉をぶつけてみることにした。
「人間と妖怪の間に、恋なんて……」
聞こえるか聞こえないか。
それくらい小さな声で、椛がつぶやく。
すると、文は驚いたように目をパチパチさせて。
また、くすり、と微笑んで、つぶやいた。
「恋って、あれでしょ? 好きな人同士でわいわい騒いだり」
「うん」
「でも、たまに優しく言葉を伝え合ったりして」
「うん」
「きっと、素敵なことなんだよね」
「うん……」
「だから、さ。違うと思う」
久しぶりに聞いた、文の真面目な声。
それでも、文は恋をしていないという。
だから、椛は少し救われた気分になって。
だから――
「こんな辛いのが、恋のはずがない」
「――っ!?」
枝の上で膝を抱える文に、何も返すことができなかった。
「……え、え~っと」
とある昼下がり。
春のうららかな日差しとは対照的に、つぶやかれた言葉は温もりの欠片もなかった。取材であちこち回ってから、羽休めに神社に立ち寄っただけでこの台詞である。
これが命蓮寺の犬であれば、元気にこんにちはーなんて、掃除をしながら返してくれるものなのだが。
竹箒を杖がわりに、細目で文を見つめる霊夢にはそういったお客への気配りは皆無であった。
「無茶を言わないでくださいよ……」
境内の桜の木の幹に背を預け、桜と神社を邪魔にならない程度に撮影していただけ。それ以上でもそれ以下でもないのに、自然現象を何とかしろといわれても困った話である。
あまりの言い分に、取材モードでしか使わない敬語が飛び出してしまうほどに。
「風操れるんでしょ? 無理なの?」
「む、できますよ。ええ、できますとも。それでも、四六時中一定範囲を無風状態にするというのは、骨が折れるといいますか。割に合わないわけで」
無理か、と問われて、ついつい肩をいきらせて反応してしまったが、その労働力や利用する妖力に見合った対価など目の前の巫女から徴収できるはずもなく。
「明日のお花見まででいいから」
「無茶ですってば!」
あっさり24時間越えの重労働を要求してくる。
「それが嫌ならお賽銭を入れていくことね」
「ナンデスカその二択」
「労働か、信仰か。神社に来た妖怪を退治しないであげてるんだから」
「選べと?」
「ええ、ほら、素敵な賽銭箱はあっちよ」
しかし、文とてむざむざ賽銭を払うつもりはない。
ばさりっと、背中から羽を出現させて、片方を目の前に持ってくると。
「霊験あらたかな天狗の羽を上げましょう。わー、霊夢やったねー」
ぷちぷちっと三枚ほど羽を取って手渡してみる。
妖怪でもかなり高位にあたる鴉天狗の羽だ。それを材料にして、お守りや魔よけの道具なんかも作り放題で――
「ん、ありがとー、ちょうど新聞の代わりの着火道具を探して――」
「なぁぁっ!?」
受け取った羽を、霊夢がおもむろに足元のゴミの山に羽を加えようとする姿を見て、文は慌ててその腕を掴む。
「いやね。冗談よ?」
「全然冗談に聞こえなかったんだけど!」
「新聞は燃やすけど」
「う、まあ、読んだ後ならいいけど……」
「……うん、ヨンデルヨンデル」
「その間はいったい何っ! そしてなんでカタコト! じゃあ、この前配ったやつの内容は?」
ふむ、と。霊夢は低く鼻を鳴らしてから、ぽんっと胸の前で手を合わせ。
「文が結婚相手募集中とか書いてあった」
「なんで自分自身の新聞でそんな痛いことしないといけないのよ! 読んでないじゃない!」
「はたての新聞で」
「何でそこではたてっ!? いや、むしろはたてもそんな悲しい記事書かないし!」
「うるさいわねぇ、あれでしょ? 今年も花見の時期がやってきた。神社では今年も妖怪の宴が開かれるのかって」
その言葉を聴き、霊夢の腕から手を離した文は満足そうにうんうんと頷く。
「なぁーんだ、読んでるじゃないの。霊夢ってば人が悪い。罪のない天狗を苛めないようにお願いします」
「その記事のおかげで、今朝からずっと庭掃除だけどね。罪のない天狗さん?」
「うっ」
普段はあまり役に立っていないと評判の文の新聞ではあるが、ある一定の時期がくると急に人気が増す。自然を良く知る妖怪であることから、桜の満開時期や紅葉の時期の予想をするとほぼ的中するので、それを参考に宴席が開かれる。
そのため、文の新聞が宴会用のスケジュール表になっているというわけだ。
ただし、会場を貸し与える側としては手間だけでため息が出るほどで……
「ま、まぁ、その辺はあれですよ。あの人間の泥棒にでも手伝っていただいたり、ペアでついてくるお暇な人形遣いにでも」
「アリスは当てにできるだろうけど、あいつはどうかなー。咲夜の方がまだ信頼できるわ。あ、そういえば、私の目の前にも、退屈だから神社に寄ったとかいう天狗が――」
「アーシマッター テンマサマニー オツカイ タノマレテタンダッター。というわけで、霊夢、また明日~~っ!」
「あ、これ、逃げるな! 羽燃やすわよ!」
飛び立とうとした瞬間、霊夢がさっきの羽を掲げたので、文は仕方なく地面に着地して。
「あーっと、それですか。えーっと……、霊夢、ちょっとその羽で作っていただきたいものがあるわけでして……それを作っていただけたら、風で花びらを集めるくらいはしますよ」
「また急に敬語になるなんて、何を企んでるのか知らないけど。まあいいわ、聞かせてみなさいよ」
「では、失礼して」
すると文は、右手で髪をかき上げ、そっと霊夢の耳元へ唇を持っていくと。
「っ!?」
そのお願い事を口にした。
優しく、それでいてはっきりとした口調で。
霊夢が聞き間違えたりしないように。
だから、その願いを受けた霊夢は――
「絶対に、イヤっ!」
「え、あの、ちょっ!?」
文を振り払って、空を飛びながら神社の中に入っていってしまう。
置いてけぼりにされた文は、頬をぽりぽり掻きながら足元のゴミと神社へと視線を彷徨わせ。
「はぁ、まだ全部話してないって言うのに……どうして人間はこう……」
そこまでつぶやいてから、またため息をついた。
「なんでそんなに……急ぐのか……」
◇ ◇ ◇
この年の花見は実に盛大だった。
主催、提供に八雲紫をはじめとした、紅魔館や永遠亭、さらには冥界や地底、妖怪の山にいたるまで、妖怪という妖怪が集まるだけでなく。人里からも代表者が何名か参加するなど、夕方から始まった宴席は日を回っても終わる気配を見せなかった。
山の現人神が神格を得て、二柱に近い存在になったこと。
新しい博麗の巫女が見つかり、紹介されたこと。
そんな真新しい話題が宴席を彩ってはいたが、それでも、魔法の森からやってきた魔法使いは少しだけ寂しそうな顔をしていた。
先代扱いされ始めた霊夢はというと、
「んー? お酒が上手い!」
と、関係ないところで上機嫌。
まったく記事になりそうにない状況で、記者を悩ませて――
「で、昨日のこととか。覚えてたりしません?」
「……静かにして、頭痛い……」
昨日はまったく相手にならなかった霊夢へと直撃取材を決行した文であったが、本人の記憶という部分はまったく期待できそうではない。
座ってはいるものの、なんとか縁側まで這ってきました、といった様子。柱に上半身を預けて、息を荒くしているのだから。
「こんなとき、あなたに弟子でもいればご自愛ください、とか言うかもね」
「宴会では遠慮した方が負けなのよ」
「どんな理屈ですかそれは」
それ以上話しかけても、うざったそうにするだけでまともな反応がない。
仕方なく取材をあきらめた文は、
「……まだ少し肌寒いかな?」
とりあえず、勝手に霊夢の寝室に上がりこんで、薄い布団を一枚拝借。それを霊夢に向かって放り投げてから空へと飛び上がる。
眼科で布団のお化けが弱々しく動いているのを写真に収めて、とりあえず今までの情報をまとめるために妖怪の山へと進路を変えた。
最高速度だけで言うならば、他の追随を許さない文である。飛び始めてそう掛からないうちに妖怪の山の森林に辿り着き――
「止まれ!」
「ちょ、無理っ!」
「きゃいんっ!?」
飛び出し注意。
急に横から飛び出した椛と衝突して、飛翔を止める。
相当な速度でぶつかってしまったが、風を操る文はとっさに空気の壁を自分と椛の間に生み出したためほぼ無傷。
が、もう1人はというと。
「あ、あやぁ! ぶんしんすぅなんれぇ! ひきょうらぁぁ~~」
「……まったく、何をしているのやら」
地面に叩きつけられて目を回していた。
それでも、頑丈さでは目を見張る白狼天狗。文に起こされて数十秒後にはもう、自分を取り戻し。
かちゃり、と。
「が、外出・宿泊許可なしで長期間どこにいっていた!」
抱き起こされた恩も忘れて、何故か頬を染めながら刀を抜く始末。
しかし、文は自分に向けられた刃を指で掴んで横に動かすと、面倒そうにため息をこぼして、こんっと。椛の額に軽く拳を当てる。
「椛、どうせ見てたんでしょ? 神社よ、神社」
「わかっていても、書類とかそういうのが!」
「適当に作っといて、どうせ印一つで通るんだし」
「それは、そうだけど……」
哨戒とはまた違う業務かもしれないが、白狼天狗にはこういった、天狗たちに山の規則を守らせるという役割もある。
が、一部の天狗にはまったく効果が現れていないのが現実でもあった。
ただ、最近では少々別の問題も表面化しており。
「文が勝手なことばかりするから、鴉天狗を初めとした天狗の若い子たちが。人里と接触するようになった! これは、人間と天狗だけの問題じゃなくて!」
「人間と天狗の問題だけでしょ? 大天狗様に何を仕込まれているのやら」
「わ、私は、私の意見を伝えているだけ!」
「じゃあ、私の意見はいままでと一緒。以上」
「あーもう、文っ!!」
離れていこうとする文へと数歩踏み出し、椛は息を吸い込むと。
「人間と天狗が恋仲になるなど、断じて許可されませんからね!」
などと、文の背中に大声をぶつけるものだから。
文は頭を押さえることしかできない。
「まったく、これだから駄犬は……勘違いもはなはだしい」
人間と妖怪の関係は、あくまでも親しい隣人程度。
隣人同士相手を殴りあったり、時には命を奪うこともあるが、それでも長期的な歴史で見ればさざなみが立つくらいなのだ。そういった世界の流れと同じで、奇妙な距離感を保ち続けるからこそ面白いというのに、それを椛はあろうことか『恋』だという。
それでも、ああやって誤解され喚きたてられては好きなときに外出できなくなってしまうかもしれない。
「仕方ない、記事の前に書類だけ作っておくかな」
宴会明けの倦怠感を背負いながら、文は自分の住処へと急いだのであった。
◇ ◇ ◇
人間に近い天狗。
そう呼ばれ始めてから、どれくらい経っただろうか。
初めは、天魔から『念のため人間を定期的に探れ』と言われたのが始まりであり、文も月に2~3回程度しか足を運んでいなかった。
けれども、スペルカードルールが生み出されてからは、妖怪よりも人間のほうが積極的に外へアプローチを仕掛けるようになり。嫌がおうにも人間を良く知るようになった。
それからだろうか、文が毎日と言っていいくらい山を出始めたのは。
最近では、別な目的というか命令を受けていたりもするが、それはまた別の話。
「あら、今日は紅白衣装ではないのですね」
「巫女装束っていいなさいよ」
宴会が終わって何日経っただろう。文が神社へと足を運ぶと、白い装束に身を包んだ霊夢が、裏庭に佇んでいた。袖を隠し、清楚な白をまとった姿は、また、彼女の別の魅力を引き立てているようだった。
しかしあの夜の名残である薄紅色を残す枝を見上げる姿は、どこか哀愁を漂わせている。
「今日は何か、用事があったのです?」
「んー、別に」
「そうですか、私はなかなか大きな事件を見つけてしまったわけですけれども」
「そりゃそうでしょうね、あれだけ馬鹿やってた奴なんだし」
どこか呆けた様子で淡々と応えを返す霊夢に、わずかながら違和感を覚える文であったが。幻想郷中を飛び回って情報を集めるのが趣味であるがゆえ、その理由など聞く必要もない。
いや、それ以上聞いてはいけないと判断したのかもしれない。
「さて、取材のほうはここまでにしてっと、今の霊夢は誰かさんとそっくり」
「誰よ」
「ほらほら、紅魔館のパチュリー。本がいっぱい増えて、いや、戻って? かな? まあ、それで喜ぶのが筋だっていうのに、なんか面白くなさそうな顔で、むすーっと」
「あれ? 私そんな健康悪そうな顔してた?」
「いや、話しにくい顔だった」
「でも、話しかけてきたわよね、あんた」
「私と霊夢の間柄にそういった遠慮は要らないと自負してる」
「勝手にするな! はあ、まったくもう、傍迷惑なのは相変わらずね~」
「お褒めに預かり光栄です♪ では、これ以上ここにいても面白そうな情報がなさそうなので帰るとしましょう。霊夢のさっきの衣装はしっかりとカメラに収めさせていただきましたけどね」
文はぺろっと舌を出して、子供のように微笑むと、もう一度神社と霊夢がレンズに収まるように写真を一枚。
「ああ、そうそう、忘れてた。この前の宴会の残りのお酒、いるでしょ? 玄関においておいたから持っていってくれる?」
「喜んで! いやぁ、大事なもう一つの用事をすっかり忘れていましたよ!」
と、霊夢に支持されたとおり、中庭から玄関に回って土間の中を眺めてみれば。
「あれ?」
お酒が見当たらない。
玄関の外という意味かもしれないと一度出てみても、やはり瓶の陰すら確認できない。
「あー、伊吹様の仕業ですね、これは……」
神社に入り浸る酒に目がない小さな陰を思い出し、文は気を重くした。
準備してあったのなら、奪われた可能性が高いわけで……
だからといって、立場上天狗が鬼に逆らうなどできるはずもなく。
「はぁ、仕方ない。今日ははたてでも誘って、ちびちびやりますかって、おや?」
念のためもう一度玄関に入ってみれば、霊夢の赤い靴の傍に封筒が落ちているのに気がついた。
位置からして、意味深なものを感じた文は周囲を見渡してから、こっそりそれを拾い上げ。
―― 文へ
「へ?」
罪悪感よりも勝る好奇心で口元を緩めながら手に取ったというのに、その宛名を見て間抜けな声を上げてしまっていた。
そんな醜態を誰かに見られていないかと、あわてて周囲を確認する。けれども、見えるのは優雅に舞う蝶くらいなもので、文は胸を撫で下ろしてその封筒を眺めた。
斜めにしたり、裏返してもう一度ひっくり返したり。それでも、『文へ』という言葉は変わることなく残っている。
「……もしかして、お酒の件はこれのカモフラージュとか。いや、そんなわけないか」
と、もう一度周囲を見渡してから、びりびりっと。風の刃を使わずに直接指で開いてみれば、さらに小さな封筒二つと。
折られた紙が一枚。
何か妙な依頼でも書いてあるのかもしれないと、一枚だけバラになっている紙を開いてみれば。
たった一言。
―― いつも、ありがとね。感謝してる。
そんなことが書いてあって、
「……はは、困りましたね。これは」
軽く息を吐いてから、胸にしまう。
その後、両手で封筒の場所を優しく、何度も、何度も撫でながら神社を後にした。
文が神社に取材をする目的の中には次代の巫女の情報を得る。というのもあったのだが、その狙いとは逆にずっと八雲宅で修行中らしい。
何せ、交代してすぐに結界の張りなおしを行わなければならないそうだから。あちらのほうが便利なのだという。
そのため、それまでは博麗神社はいつものどおり。
霊夢がぼーっと、お茶を楽しみながらやってくる妖怪たちの相手をしているだけ。そんな日が続いた。
その間も文は、取材として毎日訪ねてきて、くだらない話を繰り返しては帰っていく。その頻度はいつのまにか、他の妖怪よりもはるかに多くなっていく。
先ほども言ったとおり、八雲は次世代の育成中。
鬼は天界で遊ぶ機会が多くなり。
山の神社はいろいろな催し物で忙しい。
などなど、各々手が空かず、神社に来ることも少なくなっていた。
そのため、消去法で文が一番というわけだ。
それを知ってか知らずか。
最近では霊夢が布団から起き上がるよりも早く、部屋の中に入り込んでいるときもある。
そこで何をしているかというと、何をするでもない。
ただ、寝ている霊夢をじーっと観察するだけ。
起きてからも別段特別なことをするでもなく、あまり起き上がらなくなった霊夢にお茶を煎れてあげたりしている。
そんなところで、
「文! 何してるんですか?」
「家事♪」
「家事っ、って、この書類には取材としか書いてない!!」
「家事の体験取材ということで」
「あああ~~~っ!! あなたというひとはああああ~~~」
ときおり椛がやってきて、そんな文にうるさく注意したり、境内の中で追いかけっこを繰り広げたりするのを眺めるのも、霊夢の楽しみの一つとなっているようだ。
そうやって文の毎日は馬鹿馬鹿しく過ぎていく。
「ねえ、文。山の方は本当にいいの? もう夕方だけど」
――過ぎていってしまった。
「あー、椛のこと? いいの、いいの。あんなの一晩吠えさせればすっきりするんだから」
「知らないわよ~、外出禁止とかになっても」
「ふふふ、そんなことを言って。私がいなかったら霊夢のほうが困る癖に」
「あー、それは言わない約束でしょ」
昼食をほとんど摂らないまま。
文が準備した夕食も口にすることなく、霊夢は言った。
少し、お話しましょう、と。
畳の上に敷かれた布団に包まって、ときどき小さく震えながら横に座る文を見上げている。それをみた文が布団を足そうかと声をかけるが、重くてしゃべりにくくなるからいらないと、立ち上がろうとした文の手を捕まえる。
「文、幻想郷って、どんなとこだと思う?」
捕まえて、また新しい話を文に要求する。
文が何かをしようと体を動かすたびに声をかけてくるのその姿はまるで――
「霊夢、心配しなくても今日は帰りませんって」
「わかってるわよ、とにかく質問に答えて」
側に居てとせがむ子供のよう。障子に映りこむ夕日に目をやりながら、文はんーっとわざとらしく指を立てて。
「いいとこなんじゃないの? 私が新聞を続けられる程度には」
「それだけ?」
「ええ、それだけだけど意外と大事。私が取材をできなくなるということは、それだけ山の天狗が騒がしくなるということだから。
吸血鬼事変のときとか、結構ストレスたまったし」
「そっか、いつもどおりの日々を過ごせる程度の世界、ね」
「ええ、いつもどおり霊夢を眺め続ける毎日ね」
「なにそれ、変態?」
「天狗仲間からは変わり者と評判よ?」
どちらかが先に笑い。
そして、もう一人がつられて笑う。
会話の中で何度も笑みを交わしながらも、その瞬間を過ごす。
「ねえ、文。私とあなたが初めて会ったのって、いつだっけ」
「たぶん、山の異変くらいじゃない」
「そういえば、あのときって、あんた私がいろんな異変解決してたことぜんぜん信じてなかったわね。こっちはちゃんと説明したのに」
思い出話にも花が咲き、次々に話題が生まれてくる。
あのときは、こうだった。
でも、私はこう思っていた。
本当はもうちょっとうまくやれた気がする、なんて。
布団の中の霊夢から、次々に言葉が生まれていって、
「まあ、こんな風になっちゃったけど。私はさ、恵まれてると思うのよ」
「んー、恵まれてる、ですか?」
「俗っぽく言えば、幸せってことかな」
「……じゃあ、私も幸せということにしておきますか」
「あ、真似は駄目よ」
文は静かに首を振り、胸を押さえる。
「真似じゃないですって、私もこう、胸がぽかぽかと。こういうのを満たされているというのなら、きっと幸せなのでしょう。あの手紙をみたときのように」
「そう、ならいいや」
満足げに霊夢が笑い、口を閉ざす。
すると、眠気が襲ってきたのか、まぶたを閉じる回数が増え始めた。
「ねえ、文。いるんでしょ?」
「ええ、もちろん」
「何かさ、話……してよ」
「ええ、まあ、そう言われても、あ、そうそう、この前――」
一瞬、文を探す素振りを見せるが、文が声をかけると安心したのか。
安らかな寝息を立て始めた。
本当に静かに、静かな吐息で、
「――あのときの霊夢は、て、聞いてます?」
こくんっと、文の言葉に頷きだけを返すのが精一杯のようだった。
続けて、また静かに、吐息を零して――
それでも、それがあまりに小さくて、弱弱しかったから。
「――ねえ、霊夢? そう思いません?」
文は、悟れなかった。
「……霊夢?」
いつのまにか、霊夢の胸が上下していないことを。
「……れい、む?」
いつのまにか、霊夢の肌が冷たくなっていることを。
「……っ」
笑顔のままで、すべてが止まってしまっていることを。
満たされた笑顔で、眠っているのに。
文はただ、声を出すこともなく。
霊夢をじっと眺め続け。
「おやすみ……」
投げ出された両手を、胸の前で組ませてやることしか、できなかった。
それ以外にできたことといえば――
「大天狗様、準備が整いましてございます」
夕日が地平線に消え、闇が世界を覆い始めた頃合を見計らい。
もう一つの文より一回り大きい妖怪を、その場に誘い込むことだけ。
誘い込まれたほうは満足そうに頷き、その場で膝を突く文の頭を厚い手で撫でる。がっちりとした年代を感じさせる男の手だ。そのとき、文の体が震えたのは、指名を達成できたことの喜びか。それとも……
「大儀であった。鬼が闊歩し始めた今、我ら天狗も何か対策を練らねばならぬ。そのために巫女の肉はわれに更なる力を与えようぞ」
「はっ、天魔様並かそれ以上の妖怪として大天狗様が変化されれば、妖怪の山も安泰となりましょう」
「ふむ、では急いで巫女の死肉をいただくとしよう」
「大天狗様、それについてお願いが……」
「わかっておる、お主にも分け前を与えようではないか」
「はっ! 身に余る光栄です」
文が最近受けたという依頼、それは……
天寿を全うすると推測される前任の巫女、その霊力の高い肉体を糧とすることだった。妖怪が手を出せなかった暗黙のルール、博麗の巫女という役職から開放され、人里の外の人間でもある今の霊夢は、禁止事項に該当しない。
それでも、そういった企みがあれば、霊夢を少なからず想う八雲紫が動くはず。しかし、この日のため、文は親しさを装いずっと霊夢に接してきた。八雲紫の目を欺いて見せたのだ。霊夢のことを任せ、新たなる巫女の教育に専念しているはずの幻想郷の管理者は、今頃自分の住処で決壊の再調整を行っていることだろう。次代の巫女と一緒に。
「大天狗様、それと、このことは私以外に……」
「いや、他の大天狗にも部下にも伝えてはおらぬ。本来であれば数人に手を回そうと思ったのだが、お主の働きが見事であったからな」
「ええ、全力を尽くさせていただきました。その全力ついでに、こちらを」
文は自分の前に立つ大天狗に頭を下げたまま、懐の中から小さな封筒を差し出した。
「こちらは、他の者から天狗の姿を見えなくするという呪符でございます。巫女を騙し、作らせた特別せいですので、効果は格別かと」
「なるほど、邪魔が入りにくくなるということか」
「ええ、ではどうぞご利用を……」
「そうさせてもらおう、封を切って貼ればよいのか?」
「そう聞いております」
嬉々として封を切り、大天狗が腕にそれを貼り付ける。
それを確認した文は、すっと立ち上がり。
「では、私は見張りを」
それだけ告げて、霊夢の寝室を後にした。
星降る夜――
吸い込まれそうな星空を見ていたら逆に星が降りてくるように見えるから、きっとそう呼ばれ始めたのだろう。
文は、いつもは出していない天狗の羽を伸ばし、大きく伸びをして。
「はぁっ、はぁっ! ……文っ! 説明して!」
星ではなく、勢い良く空から降ってきた白い陰に向き直った。
限界まで速度を上げたせいか、息が切れている白狼天狗に。
「目が良いというのは、悲しいですね。椛」
「説明して!」
「見なくていい事柄まで見て、動いてしまう。胸の中にとどめておけばいいものを……」
「説明してって言ってる!」
「そう? その必要はないじゃない」
くすくす、と。文は笑う。
普段と同じ、妖怪の山で暮らしているときと、まるで変わらない表情で。
「すべてを把握している相手に対して、これ以上何を説明しろと?」
なんの罪悪感もない普段どおりの顔で、両腕を開き肩を竦めて見せたとき。
ぎり、と。静かな夜に牙が擦れあう音が響く。
同時に抜き放たれた白銀の刃は、月明かりを受けて鈍く輝いていた。
「こんなこと、許されるはずがない! 禁止事項ではないからといって、天狗に疑いの目が向けばどうなるか! それがわからないほど府抜けたか! 射命丸っ!」
「あやややや、その呼び名を聞いたのは久しぶりです。しかし、椛? 勘違いしているようですが、私もそういう展開は好みではありません」
「……ならば、何故?」
「ああ、簡単ですよ」
文が一歩、椛に踏み出した瞬間。
椛の身体に言い知れない寒気が走り、数歩身を引いていた。文が攻撃姿勢をとってもいないのに、底知れない闇が椛の目の前にあったから。
「1人の天狗の暴走ということであれば、そう荒波は立たないと思いませんか?」
「……な、なにを?」
「私はいつもどおり親しい霊夢の側にいてその最後を看取る。けれど、その直後、1人の血走った目の血に飢えた白狼天狗が現れる」
「……え?」
椛の全身から、血がすーっと引いていくのがわかる。
そして慌てて千里眼で周囲の状況を探った。
神社の境内には、文と自分だけ。
周囲にも妖怪や人間、意思の強い動物の陰もない。
つまりここには、椛と文と、屋敷の中に居る大天狗しか――
「不意をうたれて私は少々気絶してしまい、その間に暴走した白狼天狗は霊夢の死体を捕食。力を増した白狼天狗を抑えるため、私は大天狗様の協力を仰ぎ、なんとかその排除に成功する」
「……じょ、冗談を、言わないで、文」
「けれど、非常に、ひじょぉぉ~~~に、残念なことですが……、力を持った白狼天狗に対して手加減ができず……ね?」
「あ、ああぁぁぁ……」
「目がいいことは、本当に不幸なことだと思いませんか。ねぇ? 椛?」
恐怖と、このことを誰かに知らせなければという使命感が入り混じり、椛はこの場を離れようと足に力を込めるが。
蹴ろうとした地面がなくなり、空を切る。
気がつけば椛は、文の風によって四肢を空中で拘束されていた。
地面から数十センチほどの低い高さで。
「は、離せ! 離して!」
「いえいえ、逃げられては困りますしね。あ、そうそう、大声を出しても無駄ですよ、風で遮断してますので」
それでももがき続ける椛の目の前に、文がゆっくりと迫り。
椛は唯一動く頭と、尻尾をめちゃくちゃに動かして、必死に来ないで欲しいと懇願する。
が、そこでもう一つ。
「あ、ああ……」
霊夢の捕食を終えたのか、大天狗が神社から姿を見せ文たちに迫ってくる。
二人の天狗がそろうことがどういう結末を生むか、それを知ってしまった椛は涙を目に溜めて、歯を食いしばり……
どんどんと、大きくなる人影を見つめ続け……
ざしゅっ、と。
我慢できず椛が目を瞑った直後、肉を切る、生々しい音が響いた。
「え?」
けれど、ない。
椛に痛みなど、ない。
腕も足も、全身のすべてが健在で……
「文、貴様ぁぁぁっ!」
はっと、椛が目を見開いたとき。
「何か、不都合でもございましたか? 大天狗様……」
文の背中から、大天狗の腕が生えていた。
何かの液体で装飾された、指を滑らせて。
それでも、文は……、笑う。
口元から赤い線をつくりながら、いつもどおり、飄々とした顔で、笑う。
「あの結界はなんだ! 文! あんなものを準備しろといった覚えはない!」
「ああ、あれですか。実はですね、特定の符を持つ相手を触れさせない結界がつくられているんですよ。それが、こちらの手元に……おや?」
大天狗の腕に触れてから、もう一度胸元に手を入れて……
「すみません、大天狗様。どうやら間違えて渡してしまったようで――」
「この、うつけ者がっ!」
「文っ!」
大天狗が、文を地面に叩きつける。
傷のせいか、受身も取れずに大の字になった文の腹部からは、どす黒いものが流れ続け……
「はぁっはぁ……、だ、大天狗様、この符をお使いになれば、さきほどの効果も打ち消されますので、どうか、ご容赦を……」
「……」
と、震える手で差し出された、封筒。
それを受け取った大天狗は。
冷めた目で文を見下ろし……
「ご苦労であったな、静かに眠るが良い」
文の言葉も待たず、子供の頭ほどありそうな妖力の弾を打ち出す。
何度も、何度も、足元の文に向けて。
椛の悲鳴を打ち消すほどの轟音と、夜を照らし出す閃光がその場に満ちた後には、ピクリとも動かなくなった文と、文の呪縛から逃れたのに一歩も動けなくなった椛と。
高らかに笑う大天狗の姿があった。
「なんで、文は、文は、大天狗様のために……」
「しかし、一番重要なところでミスを犯した。そのような役立たずは処分するに限る。そもそも巫女の力を取り込むのは、1人でよいのだから」
「っ!? ま、まさか大天狗様……はじめから……」
「ふ、はは、犬は犬らしくおとなしくしておればいいものを……」
椛に対する答えはない。
けれど、その態度と気配がすべてを証明していた。
尊敬していた大天狗の凶行、そして文にされた仕打ち。心を貫かれた椛はただ、その場にへたり込むことしかできず。
「そうだ、そうやって大人しくしておるがいい」
文が残したもう一枚の札を、また、腕に貼り付ける。
それでもう、大天狗を阻むものはなくなり。
妖怪として、圧倒的な力を得る。
「が、グガガガガガっ!?」
はず、だった。
その大天狗が、今や、胸を押さえ、地面にはいつくばっている。顔を赤くし、衣服を引きちぎり、まるで、体の中に入り込んだ異物を抉り取ろうとしているようだった。
反対側の腕で石畳を叩き続けてはいるが、その力は段々と弱まっていき。
「……天狗であれば、その呪に耐えることなど、不可能、ですよ」
「あ、あやっ! え、なんでっ!?」
倒れて、悶え続ける大天狗の横。
あれだけの攻撃を受けた文が、ゆっくりと起き上がり……
「符に込められていたのは、私の羽を媒体にした。対天狗用の呪詛。天狗という種族を呪うものです。ですから、もう、手遅れですよ。大天狗様」
「だま……したな……あ、や」
「お互い様ですよ、もし大天狗様があのとき。結界で守られた霊夢に触れないことであきらめていただければ、このようなことはせずにすんだというのに……」
最後の呻きを残し、動かなくなった大天狗を見下ろして。
文は、頭を振り。
「ひっ」
さきほどのことで、文に警戒心を抱いたままの椛を振り返る。
「さあ、椛、帰ろうか」
「……」
何度も浮かべた微笑で、椛を誘う。
けれど、椛はそれを拒み地面に座り込むばかり。
てこでも動きそうもない椛の姿を見て諦めた文は、
「ごめんね」
ただ一言だけ残し、神社を後にした。
「ほ、ほら、椛、あーん」
ぷいっ
「ほら、あーん」
ぷいっ
「あーん」
「いいです、自分で食べられます!」
妖怪の山にある大きな杉の木の上。
そこで、文と椛が弁当を広げながら箸での攻防を繰り広げていた。例の件についてお詫びしたいと文が申し出て、弁当を作ってきたのはいいのだが。
食べさせてあげるとうるさく、椛はそれを必死で拒否し続けていた。
「別に、あのことそんなに怒ってないし!」
「あ、ちょっとは怒ってる?」
「ん?」
「あー、ごめんごめん、そんな青筋立てないでよ」
例の件とはもちろん、先日起きた大天狗による霊夢襲撃事件のこと。
文は自分が大天狗の命令を従順に聞くことで、他の天狗が巻き込まれないようにしたかったと上司に伝え、天狗社会の今後のために刺し違えても止める覚悟だった、と。
ぼろぼろの服のままで涙ながらに訴えた。
その効果もあったのかもしれないが、
「いやー、女の涙は武器ですね」
「……打ち首にでもなればよかったのに」
「ひどっ、椛、ひどっ!」
もともとその大天狗が野心家で有名であったことから、例外の例外、ということで、『1年間外出禁止』という極度に軽い罪で収まった。
結果的には天狗が仲間を消すという、重大な事件であったことから考えればどれだけ甘い采配かはわかるだろう。
そうやって、許された文はと言うと暇をもてあまして、ときおり椛を構いにくるというわけだ。
「じゃあ、私、自分の弁当たべちゃおっかなー」
「勝手に食べててよ、うざったい。って、あれ? 文、お腹って、もう平気?」
と、そんなとき。
椛が文の腹部を軽く覗き込む。
攻撃を受けてからも飛んだり、山にまで戻ってきているのだから平気だとは結論付けられるものの。
格上の相手からあれだけの攻撃を受けたのに、後遺症もないというのは不自然すぎたから。
「あー、まあ、確かに。死んじゃったかなーって思うくらいの攻撃だったからね」
すると、軽い口調で文はあははっ、と笑い。
「ま、別によかったんだけどね。最初から、そのつもりだったし」
「っ!?」
その軽すぎる口調が、椛の尻尾を跳ねさせる。
「だって、鴉天狗が大天狗に逆らうんだから、その場で生き残っても、どうせ死ぬことになるだろうって思ったし。だから、椛が勝手に来ちゃったときも、できるだけ悪人に思わせようってがんばったんだけどね」
「……ふん」
「結局生き残っちゃって、余計に椛を混乱させちゃったかな。悪いとは思ってるよ、割と本気でね」
「もう、そういうのはいいから! その理由を教えてよ!」
「わかった、わかりました。仕方ないなぁ」
文は背中から羽を出現させると、ぷちぷちっと、霊夢に見せたときと同じように3本抜き取って。
「これが、霊夢の作った符の材料。わかる?」
椛が、こくんと頷いたのを確認してから、その一本ずつを椛の手に乗せていく。
「まず、一つは、天狗を特定のものに触れさせない結界。一つは、天狗を問答無用で滅ぼす攻撃用」
天狗の要素を加えたことで、特効を生み出した。実際そういうことなのだろう。ただ、文の手の中にはもう一本羽が残っていて。
「もう一つが、天狗の攻撃を一定時間防ぐ、絶対防御用。天狗に一度傷を受けた後、勝手に発動する」
と、文がおもむろに胸元に手を突っ込んで、ぼろぼろの封筒を一つ、椛の前に置く。その封筒には、『文へ』という誰かが書いた文字が見えた。
「私は、それを霊夢に持たせたつもりだった。もし、万が一、結界でも防げないことが起きたときに、大天狗様が霊夢を傷つけることがないようにね」
文が羽を渡し、霊夢がそれを加工した。
それはわかる。それはわかるのだが。
椛には腑に落ちないことがあった。
きっとそれは、この事件の根底にあるはずの大事なこと。
それでも、文がまったく、それを口にしない。
「それを、この封筒に仕込んでおくなんてね。私がどうなったって霊夢は困りもしないはずなのに」
「……えっと、文? 本気で、言ってる?」
「ええ、まあ、それが何か?」
椛は思う。
霊夢という、勘の鋭い巫女が、文に対しそういった仕掛けを行うということは。
何かを察していたのではないか、と。
「えっと、文は、霊夢を傷つけないように、3枚の符を準備しようとして」
「うん」
「逆に、霊夢は、文に万が一のことがないように、文に渡した封筒に符の力を込めた」
「うん」
「それで、いいんだよね? それだけなんだよねっ!」
「ええ、まあ、そんなところ。ってなんでいきなり肩を掴んでくるのやら」
「あ、ごめん、つい、あははははっ」
それに椛は最初から全部、見ていた。
こっそりだが、全部、知っていた。
文が最初羽を渡したときから。
一度は拒否されたことも知っている。
霊夢は、作って欲しい札のことを聞いて、何か誤解したか。
いや、その時点でもう、何かに気付いたか。
文と霊夢の、その他の行動を冷静に思い返すほどに。
椛の中の違和感が大きくなっていく。
「ま、別に人間なんて単なる情報源、私の趣味の糧にしかならないんだけど。
なんだろうね、この感じ」
そう言って、頬杖をついて笑う顔が椛は別の表情にしか見えなくなってくる。
いつまで経っても、そのぼろぼろの封筒を手放そうとしないもは、きっとその感情の表れなのではないか。
「ちょっと、胸の辺りが空っぽになった気がするんだよね……」
どうでもいい人間の持ち物を、ずっと胸元に置いておくだろうか。
脈打ち、命を刻む動物の名残の器官。
心という名を持つ器官の近くに――
「ねえ、文?」
だから椛は、もう一度。
その言葉をぶつけてみることにした。
「人間と妖怪の間に、恋なんて……」
聞こえるか聞こえないか。
それくらい小さな声で、椛がつぶやく。
すると、文は驚いたように目をパチパチさせて。
また、くすり、と微笑んで、つぶやいた。
「恋って、あれでしょ? 好きな人同士でわいわい騒いだり」
「うん」
「でも、たまに優しく言葉を伝え合ったりして」
「うん」
「きっと、素敵なことなんだよね」
「うん……」
「だから、さ。違うと思う」
久しぶりに聞いた、文の真面目な声。
それでも、文は恋をしていないという。
だから、椛は少し救われた気分になって。
だから――
「こんな辛いのが、恋のはずがない」
「――っ!?」
枝の上で膝を抱える文に、何も返すことができなかった。
内容は好きでした
あとは大天狗の三下っぷりにちょっと萎えたかな。演出がもうちょい工夫できた気も
話の大筋、特にラストはいいですね。寂しげで
後書きが…まずい…
霊夢が死ぬ下りは私も少し唐突に感じました。
→眼下
そのとき、文の体が震えたのは、指名を達成できたことの喜びか。それとも……
→使命
穏やかだけど、確実な終わりに只々向かう絶望感、
とてもよい塩梅でした。
魔理沙は先に逝ったんだなぁ…
人間と妖怪の生きる時間の違い、これほど興味を惹かれる悲劇はそうそう無いですよね。
霊夢の遺体の件、最初は絶望しましたが、大天狗様が予想以上に、
いや、予想通りに、 昔話の悪役よろしく 簡単な手で倒されてくれて、
とても安心。 心地よいバランスだと感じました。
ただやはり誤字が少し目立ったのが残念ポイントでした。