この屋敷の廊下はどこまでも続くように長く、そして紅い。
洋館らしく銀髪の、瀟洒なメイドがその廊下を歩く。
ふと気づくと、ぽつんと指輪が落ちている。
金属に付いた小さな宝石は、黒く妖しく輝く。
窓の外はまだ薄暗いのに、時折きらきらと光を放つように見える。
「あら、なにかしら?お嬢様こんなリング、持っていたかしら?」
……………………………………………………
カツン。コツン。カツン。コツン。
私はお屋敷の真っ赤な階段を上っている。
お嬢様に紅茶を届けるのが最近の朝の務め。
どこまでも続きそうな螺旋階段を登りきると、そこはテラスに通じるドアがある。
左手に茶器を持ちかえたので、手品用に袖にしまったリングを感じる。
真鍮製のノブを押し、紅いドアを開くと眩しい朝の光が差し込んでくる。
テラスから見渡す空は澄み渡り、雲ひとつない青空だ。
館の前に広がる庭園の向こうには、霧の湖。
春の朝、低く出た太陽光が霧の湖に反射して、きらきらと輝いている様子が見える。
太陽光。そう、それは吸血鬼の天敵だ。
湖面には鳥が飛んでいる様子が見える。燕だ。
つい、対象までの距離をみつもる。直線距離で98ヤードと15インチ。
ナイフを2本投げれば仕留められるだろう。
相手はキング1つで、こちらはルークが2個。簡単なチェスプロブレム。
両手も塞がっているし、お屋敷の方に向かってくる様子はないので見逃してやろう。
給仕の仕事中にこんな物騒な事を考えてはいけないわ。
気持ちを切り替えて、柔らかい雰囲気の気配を[出す]。
無用に主人の目に触れないこともメイドの仕事の一つ。
気配を消すことに慣れてしまったので、もはや私には気配を出す方がかえって難しい。
「お嬢様、お茶が入りました。」
「ごくろうさん。」
小さなテーブルを丸ごと覆う、大きな日傘。
この紅魔館の主、レミリア・スカーレットは日光を避ける様に腰かけている。
相手と会話した後で気配を消してはならない。
死角に入らないよう注意しながら、ゆっくりと近づく。
手にした盆からカップを差し出し、紅茶を注ぐ。
磁器の白さに赤い液体が満たされる。受け取る手も磁器のように白い。
「ありがとう。」
お嬢様がにっこりと微笑む。
口元にはちらりと小さな牙が見える。
…私の左手元がチラリと黒く光る。
「幻想郷にも春が来たようね。草花も目覚めが心地よさそう。」
紅魔館の内部には水が流れていない。
水汲みポンプも排水もない。
吸血鬼は流水を嫌うからだ。
この紅茶も月光を浴びた湖の水を汲み置き、沸かした湯から淹れている。
常人が住むには気が狂う。
「ねぇ聞いてるの?ほら咲夜もみてごらん?」
見下ろすと、手入れされたバラ園は生気に溢れ、湖面の煌めきは私にも眩い。
なぜ、世界は光に満ち溢れているのだろう!
私はお嬢様の心を奪う自然に嫉妬した。
…左袖に隠した黒い宝石が妖しく光り始める。
「湖の光がお体に障りますよ?」
私は太陽に背を向け、両手を広げ覆いかぶさるようにして、
お嬢様を正しくて、健全で、そして危険な自然美から遮る。
正しいものは害悪だ。憎しみすら抱く。
今、私の目にはお嬢様しか映らない。
…黒い宝石は輝きを増す。
「この程度の陽の光は大丈夫よ、それより…」
細い肩を抱きしめる。
幼き瞳が私を見つめ、青い髪が冷たく私の頬を撫でる。
紅茶の残り香が私の鼻をくすぐる。
…指輪の周りから闇が渦を巻いている。
私はお嬢様の影になりたい。
吸血鬼に仕える事は享楽だ。
この正しくない、不健全な世界に安住していたい。
時が永遠に止まれと願った時、私は悪魔と契約してしまったのだ。
服従する悦びを私は知ってしまったのだから!
「咲夜、今日のあなたちょっと変よ?」
私の左手をお嬢様が掴み、はたく。
指輪が落ちる瞬間、お嬢様がそれを睨む。
指輪は黒い小さな蝙蝠になり、霧になり、そして消えていった。
……………………………………………………
遠くで声が聞こえる。
「あれは「他人の欲望」という呪具よ、あなた危うく乗っ取られるところだったわよ…」
「私はいつも通りにしていたと思っていたんですが…」
私の意識はだんだん薄れゆく…
洋館らしく銀髪の、瀟洒なメイドがその廊下を歩く。
ふと気づくと、ぽつんと指輪が落ちている。
金属に付いた小さな宝石は、黒く妖しく輝く。
窓の外はまだ薄暗いのに、時折きらきらと光を放つように見える。
「あら、なにかしら?お嬢様こんなリング、持っていたかしら?」
……………………………………………………
カツン。コツン。カツン。コツン。
私はお屋敷の真っ赤な階段を上っている。
お嬢様に紅茶を届けるのが最近の朝の務め。
どこまでも続きそうな螺旋階段を登りきると、そこはテラスに通じるドアがある。
左手に茶器を持ちかえたので、手品用に袖にしまったリングを感じる。
真鍮製のノブを押し、紅いドアを開くと眩しい朝の光が差し込んでくる。
テラスから見渡す空は澄み渡り、雲ひとつない青空だ。
館の前に広がる庭園の向こうには、霧の湖。
春の朝、低く出た太陽光が霧の湖に反射して、きらきらと輝いている様子が見える。
太陽光。そう、それは吸血鬼の天敵だ。
湖面には鳥が飛んでいる様子が見える。燕だ。
つい、対象までの距離をみつもる。直線距離で98ヤードと15インチ。
ナイフを2本投げれば仕留められるだろう。
相手はキング1つで、こちらはルークが2個。簡単なチェスプロブレム。
両手も塞がっているし、お屋敷の方に向かってくる様子はないので見逃してやろう。
給仕の仕事中にこんな物騒な事を考えてはいけないわ。
気持ちを切り替えて、柔らかい雰囲気の気配を[出す]。
無用に主人の目に触れないこともメイドの仕事の一つ。
気配を消すことに慣れてしまったので、もはや私には気配を出す方がかえって難しい。
「お嬢様、お茶が入りました。」
「ごくろうさん。」
小さなテーブルを丸ごと覆う、大きな日傘。
この紅魔館の主、レミリア・スカーレットは日光を避ける様に腰かけている。
相手と会話した後で気配を消してはならない。
死角に入らないよう注意しながら、ゆっくりと近づく。
手にした盆からカップを差し出し、紅茶を注ぐ。
磁器の白さに赤い液体が満たされる。受け取る手も磁器のように白い。
「ありがとう。」
お嬢様がにっこりと微笑む。
口元にはちらりと小さな牙が見える。
…私の左手元がチラリと黒く光る。
「幻想郷にも春が来たようね。草花も目覚めが心地よさそう。」
紅魔館の内部には水が流れていない。
水汲みポンプも排水もない。
吸血鬼は流水を嫌うからだ。
この紅茶も月光を浴びた湖の水を汲み置き、沸かした湯から淹れている。
常人が住むには気が狂う。
「ねぇ聞いてるの?ほら咲夜もみてごらん?」
見下ろすと、手入れされたバラ園は生気に溢れ、湖面の煌めきは私にも眩い。
なぜ、世界は光に満ち溢れているのだろう!
私はお嬢様の心を奪う自然に嫉妬した。
…左袖に隠した黒い宝石が妖しく光り始める。
「湖の光がお体に障りますよ?」
私は太陽に背を向け、両手を広げ覆いかぶさるようにして、
お嬢様を正しくて、健全で、そして危険な自然美から遮る。
正しいものは害悪だ。憎しみすら抱く。
今、私の目にはお嬢様しか映らない。
…黒い宝石は輝きを増す。
「この程度の陽の光は大丈夫よ、それより…」
細い肩を抱きしめる。
幼き瞳が私を見つめ、青い髪が冷たく私の頬を撫でる。
紅茶の残り香が私の鼻をくすぐる。
…指輪の周りから闇が渦を巻いている。
私はお嬢様の影になりたい。
吸血鬼に仕える事は享楽だ。
この正しくない、不健全な世界に安住していたい。
時が永遠に止まれと願った時、私は悪魔と契約してしまったのだ。
服従する悦びを私は知ってしまったのだから!
「咲夜、今日のあなたちょっと変よ?」
私の左手をお嬢様が掴み、はたく。
指輪が落ちる瞬間、お嬢様がそれを睨む。
指輪は黒い小さな蝙蝠になり、霧になり、そして消えていった。
……………………………………………………
遠くで声が聞こえる。
「あれは「他人の欲望」という呪具よ、あなた危うく乗っ取られるところだったわよ…」
「私はいつも通りにしていたと思っていたんですが…」
私の意識はだんだん薄れゆく…
結局指輪は何だったのか?そして咲夜がおかしくなった理由も何もかもが分からない。
描写が余りにも足りなすぎます
1様も仰ってますが、描写が足りないです。
全く話の内容が伝わってきませんでした。
作者さんの脳内では完結してるんでしょうが、
それだと読者には永遠に伝わりませんよ。
もっと細かい描写などを練習してから出直した方が良いと思います。
しかし、全部を明かすとホラーとしての魅力が損なわれるので、そこら辺のさじ加減が難しいところだと思います。
今後の作品にも期待しているので、どうかがんばってください。(間違っても削除とかしないでね)
どこがホラーなのか分からないくらい描写がない。他人の作品を見てみようか。
単に描写が足りないだけなのかもしれないけど、行間脳内補充系作品としては自律性を備えているので問題ないと思います。
一部読解力0のかたがたの意見に負けずにガンガン書いてほしいですね。
短いのが残念。
描写を意識的に抑えたというより、純粋に足りてないんだと思います。この描写なら、呪いの正体すら明かさない方が良かったかもと思いました。
ただ、文章の流れや雰囲気はとても素敵で、作者さんの地力を感じました。これからに期待してます、これに懲りずにまた作品を書いてください。
そこまで悪くないと思う