この作品は「はしひめ@地霊殿 中編」の続きです。前作を読んでから読んでいただけると幸いです。
地霊殿の大きな扉が軋む音をたてながら開いた。
「おーい、酒持ってきたぞ!」
勇儀が戻ってきたのだ。時計を見ると、もう七時を回っている。あの後、お燐はさとりを探しにいったが、それからもう二時間も経っているのか。
勇儀は私が一人でいるのを認めると、話しかけてきた。
「あれ、さとりは一緒じゃないのか?お燐もいないみたいだし、何かあったのか?」
「・・・。」
さとりはただ当てもなく街の中を歩いていた。何も考えず、ただただぼーっと歩いていた。
それゆえ、あたりから感じる強烈な憎悪、殺気にも気づかなかったのだ。彼女の第三の目にその感情が映っていても、彼女は何も考えず、ただ放浪し続けた。
「・・・!!」
私はさとりとのことを正直に勇儀に話した。もとより鬼相手に嘘やごまかしをするつもりなど毛頭ないし、なによりも自分がどうすればいいのか教えてほしかった。
やはりというべきか、勇儀は私の行動に対して許せない部分があるようだった。
「・・・それでどうしてパルスィはこんなところでじっとしてるんだ。こっちを見ろ!」
勇儀は私の視線を無理矢理自分の方に向けさせ、こう言った。
「親友だったらどうしてさとりを探しに行かないんだ。そんな薄情なやつだとは知らなかったぞ。「橋」を奪われたくないだって?そんなの友情の前には関係ない話だろ!そもそもその「橋」だってさとりが用意してくれたものじゃないか!その恩を忘れてここでウジウジしてるなんて、身勝手なのはおまえの方だ!」
顔に衝撃。だれかに頬を張られたのなんて、何百年ぶりだろうか。・・・そして、目の前には怒りを湛えた鬼の視線。
私は何をしていたのだろうか。
「・・・!私、どうかしてた。探しにいかなくちゃ。今さとりに必要なのは私だっていうのに。」
「行くぞ、パルスィ。」
その時、地霊殿の扉が勢い良く開いた。お燐が走ってくる。
「大変だよ!さとり様が過激派の奴らに!・・・あたい、さとり様を探してたら、さとり様の叫び声がして、それで、あいつらが!」
「落ち着きなさい!さとりはどこ!?」
「街の廃屋に連れ込まれていったのさ!あたい一人じゃあの人数の鬼には勝てないよ!」
「何!?鬼だって?そんなバカな!」
勇儀が信じられないと言う表情でお燐を見る。おおかた、嘘やごまかし、卑劣な行為をもっとも忌み嫌っているであろう種族として誇りを持つ勇儀にとってはその事実は堪えているのだろう。
最早、昔ながらの鬼すらいなくなった。
走る、走る、走る。旧都の路地を疾走する私たちは、ただひとえにさとりの元へと向かっていた。
「パルスィ、ぶったりしてさっきは悪かった!おわびに今度、橋でも作ってやるよ!工事は得意分野なんだ!」
「なっ・・・バカ!そんな物理的な問題じゃないのよ、精神的な問題!私が認めた橋じゃないとダメなの!その証拠に地底の入り口に橋なんて無いでしょうが!」
「あっはっは、そうだねぇ!」
そう、どうしてさとりのお願いを断ったのか。別に橋など後付けの言い訳に過ぎなかったのかもしれない。この時代の変化に戸惑っているのは、私も一緒だったのだ。
「お姉さん方、この路地の奥だよ!鉄道の駅の裏だ!」
頭が痛い。この廃屋に連れ込まれてからというもの、私は第三の目に流れ込んでくる大量の憎悪、敵意の感情にどうすることもできずにいた。体は縛られ、動くこともできない。
「古明地さとり。お前は俺たちの生活を台無しにしてくれた。何が新エネルギーだ。何が技術の進歩だ。これまで何百年もの間、地底は平和だったのにお前のところの地獄烏があんな力を手に入れてから心休まる時が無くなった。便利な生活になるかもしれないが皆そんな変化望んではいないのさ。」
私を拘束した連中の中の一人、おそらくこの集団のリーダー格であろう鬼が私に詰め寄ってきた。
その鬼の後ろに、私は信じられないものを見た。
「こいし!お空!」
こいしとお空が同じように拘束されている。二人ともかなり衰弱している様子で、アザや傷だらけであった。
「ああ、こいつらを捕まえるのも苦労したぜ。まずはお前の妹、それから烏。」
「そんな、こいしとお空があなたたちなんかに・・・!」
二人の体の至る所に、博麗の札が貼られている。貼られているところからアザは広がっているようだ。
「地霊異変のときには博麗の巫女は大量の札をばらまいていったからな。そこらで高値で取り引きされている。扱いは難しいが、上手く使えばこの通り、だ。」
体中に激痛が走る。第三の目に札を貼られたのだ。頭が熱い!
「ぎゃあああぁぁ!」
「・・・!今の声!」
「急ぐぞ!」
目的の廃屋に到着した。怒りにまかせた勇儀の鉄拳が扉を吹っ飛ばした。中には鬼やそのほか様々な妖怪がさとり達に拷問をくわえていた。
「お前らぁ!何をしている!?」
勇儀が腰を落として大地を踏みしめる構えを取った。・・・あれは四天王奥義、「三歩必殺」の構え。私はこれからさとりを襲った連中の末路を想像し、もう大丈夫かと安心した。・・・だが。
「いけません!勇儀さん!この人達を暴力で屈服させてはダメです!それでは私達はこの人達と同じ、時代の大きな変化に順応できずに暴れるただの妖怪になってしまいます!」
「・・・っ!しかし!」
さとりはあれだけのことをされておいて、なお地底に改革をもたらすものとしての役目を果たそうとしているのだ。それは、私にはできない改革者の心意気であった。
「そう、動かずじっとしていることだな。それに、こいつがどうなってもいいのか?」
連中はさとりを盾にして、こちらと距離をあけていく。このままでは、勇儀がどんな弾幕を撃ってもさとりにも当たってしまうだろう。・・・本当に卑劣な連中である。
しかし、私はさとりのいうことを冷静に聞けるほど大人ではなかったようだ。私はそのままさとりの方へと駆けだした。連中が私に弾幕を放ってくる。私は避けもせず弾幕を体で受けながらひたすらさとりの元へと向かった。
「・・・パルスィ!・・・どうして!」
「さとり・・・ごめんね。」
さとりの意図には反するが、私はこの改革者をこのまま放っておく訳にはいかないとただ、単純に思ったのだ。
「スペルカードなんて使ってやらない。あんたはどうか知らないけど、私にはあなたを妬む理由など、いくらでも思いつく!」
「グリーンアイドモンスター!」
スペルカードでは緑色の弾幕であるが、そもそもスペルカードは弾幕ごっこ用のもの。本当はもっと恐ろしい、妖怪らしい技。
「うわぁっ!なんだこりゃ!」
緑色の目をした、この世の何とも似つかない獣が、連中を追いかけ回している。・・・あぁ、己の愚かさを知らずに生きている、ただそれだけのことでも妬ましい。最近あまり使っていなかった能力の行使に、私の体は悦びに震えていた。
私は、さとりの元にたどり着き拘束を解いて札も剥がしてやった。
「ごめん、さとり。やっちゃった。」
「・・・!そんなことより、パルスィの手が!」
「ああ、こんなのなんてこと無いわよ。あなたを助けられただけで満足なんだから。」
無理に剥がしたせいだろうか、私の手は札によって焼け爛れてしまっていた。・・・しかし、私の心は晴れ晴れとしていた。
「ね、さとり。仕事の話だけど、こんな私で良かったら、地霊殿で働かせてくれない?」
「ぱ、パルスィ・・・。良いのですか?断ったのに。」
「私に、あなたの革命の手助けをさせてほしいの。あなたとみんなとの間の、架け橋に私はなってみせるわ。」
時代は変わり、人々も変わる。革命の中、地底は急速に進歩している。過激派は根絶したわけではないし、問題も山積みであるが、一つ一つ解決していくしかないようだ。どれだけ時間がかかるかわからないが、私はこの革命の行く末を古明地さとりという親友と見届けたい。
私は橋姫。水橋パルスィ。地霊殿で働いている。
はしひめ@地霊殿 完
地霊殿の大きな扉が軋む音をたてながら開いた。
「おーい、酒持ってきたぞ!」
勇儀が戻ってきたのだ。時計を見ると、もう七時を回っている。あの後、お燐はさとりを探しにいったが、それからもう二時間も経っているのか。
勇儀は私が一人でいるのを認めると、話しかけてきた。
「あれ、さとりは一緒じゃないのか?お燐もいないみたいだし、何かあったのか?」
「・・・。」
さとりはただ当てもなく街の中を歩いていた。何も考えず、ただただぼーっと歩いていた。
それゆえ、あたりから感じる強烈な憎悪、殺気にも気づかなかったのだ。彼女の第三の目にその感情が映っていても、彼女は何も考えず、ただ放浪し続けた。
「・・・!!」
私はさとりとのことを正直に勇儀に話した。もとより鬼相手に嘘やごまかしをするつもりなど毛頭ないし、なによりも自分がどうすればいいのか教えてほしかった。
やはりというべきか、勇儀は私の行動に対して許せない部分があるようだった。
「・・・それでどうしてパルスィはこんなところでじっとしてるんだ。こっちを見ろ!」
勇儀は私の視線を無理矢理自分の方に向けさせ、こう言った。
「親友だったらどうしてさとりを探しに行かないんだ。そんな薄情なやつだとは知らなかったぞ。「橋」を奪われたくないだって?そんなの友情の前には関係ない話だろ!そもそもその「橋」だってさとりが用意してくれたものじゃないか!その恩を忘れてここでウジウジしてるなんて、身勝手なのはおまえの方だ!」
顔に衝撃。だれかに頬を張られたのなんて、何百年ぶりだろうか。・・・そして、目の前には怒りを湛えた鬼の視線。
私は何をしていたのだろうか。
「・・・!私、どうかしてた。探しにいかなくちゃ。今さとりに必要なのは私だっていうのに。」
「行くぞ、パルスィ。」
その時、地霊殿の扉が勢い良く開いた。お燐が走ってくる。
「大変だよ!さとり様が過激派の奴らに!・・・あたい、さとり様を探してたら、さとり様の叫び声がして、それで、あいつらが!」
「落ち着きなさい!さとりはどこ!?」
「街の廃屋に連れ込まれていったのさ!あたい一人じゃあの人数の鬼には勝てないよ!」
「何!?鬼だって?そんなバカな!」
勇儀が信じられないと言う表情でお燐を見る。おおかた、嘘やごまかし、卑劣な行為をもっとも忌み嫌っているであろう種族として誇りを持つ勇儀にとってはその事実は堪えているのだろう。
最早、昔ながらの鬼すらいなくなった。
走る、走る、走る。旧都の路地を疾走する私たちは、ただひとえにさとりの元へと向かっていた。
「パルスィ、ぶったりしてさっきは悪かった!おわびに今度、橋でも作ってやるよ!工事は得意分野なんだ!」
「なっ・・・バカ!そんな物理的な問題じゃないのよ、精神的な問題!私が認めた橋じゃないとダメなの!その証拠に地底の入り口に橋なんて無いでしょうが!」
「あっはっは、そうだねぇ!」
そう、どうしてさとりのお願いを断ったのか。別に橋など後付けの言い訳に過ぎなかったのかもしれない。この時代の変化に戸惑っているのは、私も一緒だったのだ。
「お姉さん方、この路地の奥だよ!鉄道の駅の裏だ!」
頭が痛い。この廃屋に連れ込まれてからというもの、私は第三の目に流れ込んでくる大量の憎悪、敵意の感情にどうすることもできずにいた。体は縛られ、動くこともできない。
「古明地さとり。お前は俺たちの生活を台無しにしてくれた。何が新エネルギーだ。何が技術の進歩だ。これまで何百年もの間、地底は平和だったのにお前のところの地獄烏があんな力を手に入れてから心休まる時が無くなった。便利な生活になるかもしれないが皆そんな変化望んではいないのさ。」
私を拘束した連中の中の一人、おそらくこの集団のリーダー格であろう鬼が私に詰め寄ってきた。
その鬼の後ろに、私は信じられないものを見た。
「こいし!お空!」
こいしとお空が同じように拘束されている。二人ともかなり衰弱している様子で、アザや傷だらけであった。
「ああ、こいつらを捕まえるのも苦労したぜ。まずはお前の妹、それから烏。」
「そんな、こいしとお空があなたたちなんかに・・・!」
二人の体の至る所に、博麗の札が貼られている。貼られているところからアザは広がっているようだ。
「地霊異変のときには博麗の巫女は大量の札をばらまいていったからな。そこらで高値で取り引きされている。扱いは難しいが、上手く使えばこの通り、だ。」
体中に激痛が走る。第三の目に札を貼られたのだ。頭が熱い!
「ぎゃあああぁぁ!」
「・・・!今の声!」
「急ぐぞ!」
目的の廃屋に到着した。怒りにまかせた勇儀の鉄拳が扉を吹っ飛ばした。中には鬼やそのほか様々な妖怪がさとり達に拷問をくわえていた。
「お前らぁ!何をしている!?」
勇儀が腰を落として大地を踏みしめる構えを取った。・・・あれは四天王奥義、「三歩必殺」の構え。私はこれからさとりを襲った連中の末路を想像し、もう大丈夫かと安心した。・・・だが。
「いけません!勇儀さん!この人達を暴力で屈服させてはダメです!それでは私達はこの人達と同じ、時代の大きな変化に順応できずに暴れるただの妖怪になってしまいます!」
「・・・っ!しかし!」
さとりはあれだけのことをされておいて、なお地底に改革をもたらすものとしての役目を果たそうとしているのだ。それは、私にはできない改革者の心意気であった。
「そう、動かずじっとしていることだな。それに、こいつがどうなってもいいのか?」
連中はさとりを盾にして、こちらと距離をあけていく。このままでは、勇儀がどんな弾幕を撃ってもさとりにも当たってしまうだろう。・・・本当に卑劣な連中である。
しかし、私はさとりのいうことを冷静に聞けるほど大人ではなかったようだ。私はそのままさとりの方へと駆けだした。連中が私に弾幕を放ってくる。私は避けもせず弾幕を体で受けながらひたすらさとりの元へと向かった。
「・・・パルスィ!・・・どうして!」
「さとり・・・ごめんね。」
さとりの意図には反するが、私はこの改革者をこのまま放っておく訳にはいかないとただ、単純に思ったのだ。
「スペルカードなんて使ってやらない。あんたはどうか知らないけど、私にはあなたを妬む理由など、いくらでも思いつく!」
「グリーンアイドモンスター!」
スペルカードでは緑色の弾幕であるが、そもそもスペルカードは弾幕ごっこ用のもの。本当はもっと恐ろしい、妖怪らしい技。
「うわぁっ!なんだこりゃ!」
緑色の目をした、この世の何とも似つかない獣が、連中を追いかけ回している。・・・あぁ、己の愚かさを知らずに生きている、ただそれだけのことでも妬ましい。最近あまり使っていなかった能力の行使に、私の体は悦びに震えていた。
私は、さとりの元にたどり着き拘束を解いて札も剥がしてやった。
「ごめん、さとり。やっちゃった。」
「・・・!そんなことより、パルスィの手が!」
「ああ、こんなのなんてこと無いわよ。あなたを助けられただけで満足なんだから。」
無理に剥がしたせいだろうか、私の手は札によって焼け爛れてしまっていた。・・・しかし、私の心は晴れ晴れとしていた。
「ね、さとり。仕事の話だけど、こんな私で良かったら、地霊殿で働かせてくれない?」
「ぱ、パルスィ・・・。良いのですか?断ったのに。」
「私に、あなたの革命の手助けをさせてほしいの。あなたとみんなとの間の、架け橋に私はなってみせるわ。」
時代は変わり、人々も変わる。革命の中、地底は急速に進歩している。過激派は根絶したわけではないし、問題も山積みであるが、一つ一つ解決していくしかないようだ。どれだけ時間がかかるかわからないが、私はこの革命の行く末を古明地さとりという親友と見届けたい。
私は橋姫。水橋パルスィ。地霊殿で働いている。
はしひめ@地霊殿 完
なるほど。中篇がかなり不安定だったのでどこに行くか心配でしたが、終着駅はちゃんと存在したのですね。駅といえば、冒頭が印象的でした。もっと後半に香りが残っていれば良かったのにと惜しむ気持ちもあります。
面白い、というほどの作品ではないですが、誠実に作ろうという意思は感じるので最後まで読むことができました。次作に期待しています。
個人的に作品の狙いは評価しますが、もう少しタメというか起伏というか
そういうものがあるといいかと思います!
次回作…いやその次くらいに期待します
ただ情景をもっと詳しく描かなければ正直何が起きてるのかも分からないし、話もプロットを読まされてる感じになってしまいます
しかも舞台は激動する地底世界。読者の頭にないイメージは魅力的な一方で、描写で説得力を持たせないと頭からクエスチョンマークが出てしまいます
そこら辺をちゃんとできれば面白いのにな、と思いました