「お、いいもんみっけ」
紅葉が鮮やかな秋の森。
珍しいキノコを見つけ、喜ぶ私。
っと、名前は霧雨 魔理沙。
何の変哲もない普通の魔法使い。
今日は、アリスのところへ行くのに何か手土産にと、キノコ狩りをしているところである。
「ま、こんなもんでいいかな」
食用と魔術研究用と収穫をしてから、一度家に戻ることにした。
(やっぱ、身だしなみとかきちんとしないと・・・ほら、な?)
自宅で、鏡を見ながら一人妄想に入る。
恥ずかしい部分に入ったところで、首を振る。
「いやいやいや・・・」
一人ごとをいいながら、髪を整え、スカートを見直し、帽子をかぶりなおす。
「うっし、ばっちりだぜ」
くるっと一回りして、鏡を見直す。
うん、我ながらばっちり決まった。
箒にまたがり、今日はのんびりと紅葉を楽しみながらアリスの家に向かう。
のんびりというのもそれほど、アリスの家まで距離がないというのもあるし。
せっかく整えた、髪が乱れるのも嫌だったし。
5分ほどで、青いこじんまりした屋根が見えてきた。
アリス邸、とは言っても、それほど大きな家でも無い。
玄関前に着地し、スカートと髪をもう一度ただし、扉をノックする。
てっきりアリスが出てくると思っていたけど、出てきたのは上海だった。
「よ、上海久しぶり、アリスは居るのか?」
上海は人形のため声は出せない、出せないが身振り手振りとある程度の表情で色々伝えてくれる。
その、上海の合図によると、今出かけてるとのことだが・・・
「お前をおいて、出かけるなんてどうしたんだ?」
「・・・」
なにやらあせってるような雰囲気の上海。
(何か急用でもあったのかな・・・)
「まぁ、お前が一緒じゃないってことは、すぐに戻ってくるだろうから、待たせてもらうぜ?」
というと、上海はコクっとうなずき、私を部屋に招いてくれた。
奥にある、ソファーに腰掛け、緊張を解く。
「ふぅ~」
帽子を脱ぎ、手土産をテーブルに乗せる。
(やることねぇぜ)
ぐで~っと、頭をソファーに乗せ、天井を見やる。
「アリスと出会って、もう3年になるか・・・」
上海が紅茶を入れてくれた・・・
けど、眠気の方が勝り、うとうとしてしまった。
・・・・
「あぁ!もうこんな時間」
急いで、文字通り飛んで家に帰る。
私は、アリス・マーガトロイド
今日はとても、とっても何に変えても大事な日。
そんな日に限って、急ぎの用が入ったりしてしまう。
「今日は、魔理沙と二人っきりで居られる大事な日なのに」
霊夢に大事な用があるからと、呼ばれて行ってみたところ、別段たいした用事でもなかった。
「寒いから出たくない」
と、コタツに入りっぱなしの馬鹿巫女、せんべいを取ってほしいという、ほんと馬鹿げた内容だった。
帰り際、お姫様は送れていくものよ?なんて、言ってたけど、そんなのは嫌だ。
大好きな人を待たせるなんて絶対にだめ、もし・・・私が居ない間にこられてもまずいから、上海に留守番させてるけど・・・。
ともかく、今は全速力で飛ぶことだけを考えろ!
ようやく、家に戻る・・・厳密には家の近くだけど。
「ぜぇ・・・ぜぇ、」
全力ですっとんできたおかげで、息が上がってしまった。
(運動不足ね・・)なんて、冷静に自分を分析する。
なんとか息を整え、玄関に向かう。
「あら・・・上海」
上海が家から出てきた、私と上海は繋がってるから私が居ない間の様子は全部分かる。
「魔理沙、もうきてるのね」
と、聞く・・・必要もないのだけれど、聞く。
「そう・・・」
どこか沈んだ顔をしたのだろうか、上海が手鏡を私の顔に向けてきた。
「??」
上海がアセアセしながら、鏡を持ったまま私の髪を触る。
「っ!」
飛んできたおかげで、髪がぼさぼさだった。
手櫛で手早く整え、深呼吸をしてから家に入る。
「もう!人がやきもきしてるってときに!」
待ちに待った、愛しい人はソファで大の字、頭も後ろに垂れ大口を開けて寝ていた。
私も向かいのソファーに座り、どこかほっとしながらもため息をつく。
上海が入れてくれた紅茶が鼻を刺激する。
時計の音だけがする。
「魔理沙と出会って今日で丁度3年になるのね」
上海も落ち着いたらしく、私のカップの横にちょこんと座っている。
ただ、時計の音が心地よくぼんやりと天井を見やる。
魔理沙と出会ったとき、私は誰も寄せ付けないツンツンしたオーラを出していた。
そのせいで、里の人間や他の妖怪連中からも避けられていた、一人を除いて。
目の前に居る、とてもアナログチックな魔法使い、とても明るく行動力があって人の心にもズケズケと入り込んでくる、私とはほんとに正反対の少女。
馬鹿なことばかりやっていて、いつも失敗ばかりして、でもいつも笑ってる。
いつからだろう、この笑顔を私だけに向けてくれないだろうかって。
でもあまりにも人と接してこなかった私には遠くから見てるしかなかった。
「そう、あの日・・・」
上海の頭をなでながら、思いかえす。
私は魔女だ・・・人間の病気なんて普段掛からないのに、風邪を引いた。
とても高い熱で身動きが取れなかった私。
誰も訪れない、というのはこういうときつらい。
なのに魔理沙は普段どおりのテンションと持ち前の明るさをそのままに、私のもとへやってきた。
うっとおしい、当時はそう思っていたんだっけ。
上海が一度は追い返したんだけど、それからというもの・・・毎日、毎日飽きもせず見舞いにきてくれた。
最初は面白半分で来てたみたいだけど・・・日に日に悪くなる私を見て、本格的に薬やら魔術やらなんやらを色々してくれた。
そんな純粋な優しさがとても嬉しくて、彼女のされるままに毎日を過ごした。
次第に体調もよくなり、もうすぐ全快って時だった。
まだ、頭もはっきりしてなかったから言えたんだろうけど・・・
(私と、友達になってください)
と、魔理沙に言った・・・そのときから、私と魔理沙は親友として、ううん・・私はそれ以上の感情を今は持っている。
「あの時の魔理沙の笑顔は、今でもはっきり覚えてるなぁ」
あれから、3年、もう3年も経ってしまった。
そろそろ想いを伝えたい、だけど・・・私はあまり魔理沙のことを知らない。
いつも笑顔が絶えない魔理沙だけど、時折ふっと寂しげな・・・つらそうな顔をする。
魔理沙のことは誰よりも知ってるつもりだった、だけど・・・それは魔理沙の楽しいところだけしか知らなかった、もっと深いところを知らなかった。
「そこを知らなきゃ、前に進んじゃ行けない気がする」
「んがっ!」
「え?ま、魔理沙?」
「うぇ?アリス?いつ帰ってきたんだぜ?」
「えぇっと、結構前だけど?」
「あっちゃぁ、寝いっちゃったぜ」
魔理沙はあくびをしながら伸びをする。
「どうしたの?なんか、飛び起きた感じだけど」
「あぁ・・・ちょっと、夢見が悪くって」
「そう、紅茶・・・淹れなおしてくるね」
「あ、あぁ・・・悪いなアリス」
適当に理由をつけて席を立つ、でないと顔に出ちゃうから・・・
あんなこと考えてるといろいろとね。
・・・・・
「なんだアリスの奴、変なの」
もう一つ、伸びをし腕を回すあたりで意識がはっきりする。
「上海~お前のご主人、なんか調子でも悪いのか?」
「・・・(フルフル)」
無言で首を振る、態度を見る限り私の考えすぎなのかな?
ごく、自然に視線が動く・・・暖炉の上。
「な!な!なんじゃこりゃ~!!」
思わず頭を抱え、大声を出してしまう。
自分でも意味不明な動きをしながら、暖炉の上においてあった写真を手に取る。
震える手に力をこめながら、もう一度写真を見る。
「魔理沙!どうしたの!」
奥からアリスがすっとんできた、あっけに取られたような顔もすぐに、赤面に戻り、私の手から写真を取り上げる。
「おい!アリス!な、なんでそんな写真が!あるのだぜ!」
「勝手に見るほうが悪い!」
アリスはぎゅっと写真を胸に握り締め私を睨み付ける。
写真に写っていたのは、間違いなく私だった。
だったんだけど・・・何故!何故!着替えてるところ!
「ば、ばかやろう!そんな目立つところに置いてたら目につくんだぜ!」
「うぅ」
「それに、どうやって撮った!その写真!」
私は思わずアリスの両肩をがっしりと掴む。
「あの天狗か!それとも、賄賂でメイドの能力か!だぁ、どいつもこいつも吹き飛ばしてやるぜ!」
「ま、待ちなさい、落ち着きなさい、ドードー」
「フーフー」
「その・・・上海に・・・頼んで・・ね?」
思わず、上海を睨み付ける。
身の危険を感じたのかそそくさとアリスの後ろに隠れる上海。
でも、アリスの顔を見ると怒りも収まっちまう。あんな上目使いっぽい照れた顔を見ちゃうとな・・・
ちょっとそっぽを向いて言葉を続ける。
「あぁもう、分かったよ、怒らないから理由、言えってば」
「ほんとに怒らない?魔理沙?」
「あぁ」
「上海にも怒らない?」
「あぁ」
「聞いてから、やっぱり怒るとか無しにしてね」
「早く話せってば・・・ほんとに怒っちまうぜ?」
「その・・・もっと、魔理沙のこと知りたかったから」
小声で俯き話すアリスの言葉は一瞬私の頭を白くした。
「は?」
「二回は言わない!」
逆に怒られ余計に白くなる。
「あぁ・・・まぁ、そんなことしなくてもさ、ほら私とアリスの仲だぜ?」
なんでか私が照れながらなんとか会話を持たす。
「隠すものは無いけど、そういう盗撮はよくないぜ?」
悪さをした子供に話すように諭す。
「ごめん・・・でも!私は知りたかった」
消え入るような声で話すアリス。
「そかそか、ほら寒くなってきたし、暖炉に火をつけてっと」
八卦炉で暖炉に火を入れる、ほんのり暖かい空気が部屋を包みだす。
「ほら、ソファーに座る、上海?紅茶、あったかいの頼むぜ?」
アリスの背を押し、ソファーに座らせる。
「それで?」
私も向かいのソファーに腰掛け、足を組む。
「何で私のことを知りたいなんて、いまさらのこと言ってるんだぜ?」
「それ・・・は」
「あの日、お前言ったよな?友達になってくれって、あれ私もすっごい嬉しかったんだぜ、だからアリスには隠し事をしないで一緒に居たつもりだぜ?」
返事は無く、ただ時計の音が聞こえる。
いいタイミングで上海が紅茶を持ってきてくれた。
「ほら、アリスあったかい紅茶、私が淹れたんじゃないんだけどな」
と、笑いを交えて場を和ましてみるが・・・
アリスはなにやら考え込んだまま、座り込んだままだぜ。
「すっかり、夜も更けちまったぜ」
紅茶を一口飲み、窓から外を見る。話題を変えないと空気が持たないぜ。
「今日、泊まってくぜ」
「え?えぇ?」
驚きとも肯定ともいえない、微妙な返事をするアリスの顔は、いつものような顔つきだった。
勝手知ったる家なので、寝られる場所は知っている。
安楽椅子を暖炉の前に移し、そこに座り一つ伸びをしてから愛用の帽子を顔に載せる。
「あ、ちょ魔理沙、魔理沙ってば!」
アリスの声が聞こえるが、ここは狸寝入りを決め込むことにした。
・・・・
「はぁ・・・」
勝手に泊まると決め込み、勝手に寝入るこの子。
(なんでこう、素直に好きっていえないのかな、私って)
「はぁ」
もう一つため息をつくと、また同じ思考が繰り返される。
上海に糸を伸ばし、テーブルに座らせる。
「あなたとなら素直に会話が出来るのにね、上海?」
自然と、笑顔になり私が操る人形に語りかける。
(これって、引きこもり的な一人遊び?)
自分で思いつき、自分にグサっとくる。
上海がそっと、私の指を小さな両手で握ってくれる。
半自立の上海、この動きも私がやらせているのだ。
「・・・もういいわ」
そう独り言をいい、上海を棚に戻す。
最近、ため息が多いと自覚はしている。
でも、ため息を一つついてから魔理沙に薄めの布をそっと掛けてやり、私も寝ることにした。
(なんだか、疲れちゃった)
「んが?」
目が覚め、頭を起こす。
「お・・っとと」
椅子が揺れて、ちょっと驚く。
「ん~、よく寝た」
椅子から降りて、おもいっきり伸びをする、この瞬間が最高なんだぜ。
「まだ、朝の4時じゃんか・・・」
なんでこうも、早起きするかね、私って。
「やれやれ」
床に落ちた帽子を広い、ポンポン叩いてから、被る。
ふと、アリスが気になり、そ~っとアリスの寝室に忍び込む。
(ちぇ、向こう向いてるぜ)
金髪の後頭部だけが見えた。
(でも、こう布団から頭だけ見えてると、別の生き物に見えてくるぜ)
思わず笑ってしまいそうなのをこらえて、そっと扉を閉じた。
アリスが起きるまで、まだ時間はあるし。
「霊夢んとこで、茶でも貰うかな」
箒にまたがりいつもの神社に向かう。
今日は気分がいいので、無駄な爆発も着地も無しにしておいた。
(まだ、寝てんだろうしなぁ)
と、思ったところで縁側を見やる。
「あら、早いじゃない魔理沙」
「今日はたまたまだぜ」
丁度のタイミングで霊夢が出てきた。
「どうしたんだぜ?空なんか見て」
霊夢は何故か空を凝視している。
「大雨大雪台風に雷おまけに槍でも振るんじゃないかと思って」
「お前・・・私をなんだとおもってるんだぜ」
「いっつも、昼ごろに目を覚ます堕落した少女」
「はっきり言うな・・・守銭奴」
いかにも疲れたとう風に縁側に座り込む。
「霊夢!」
悔しいから反撃。
「あ~ら、何かしら?魔法使いさん?」
分かってるという風な、態度と目つきの巫女。
「茶!煎餅!」
「はいはい」
やれやれと言う風に奥に引っ込んでいく。
私は縁側で足をパタパタさせながら、鳥居の上の方、ふっと視線を泳がす。
(あの雲の形、アリスみたいだぜ)
「なぁに、ニヤニヤしてるのかしらこの子は」
「お、待ってました」
盆に熱いお茶が入ってるであろう急須に、これまた年季の入った木の器に入った煎餅
「で?今日は何?のろけ?痴話げんか?」
霊夢はため息交じりに、お茶を湯飲みに注ぐ。
「今日はなんにもないぜ?」
「嘘おっしゃい、今までに何もなく、ここに来たことあった?」
「ぅ・・・確かに、無かったような気がするぜ」
煎餅を一枚ひょいとつまむ。
「でもさ、今日は・・・ん~しいて言えばのろけもちょっと混じるかもだぜ」
「それで?単に自慢しにきただけ?」
霊夢はいつのまにか、座布団を持ってきていた。
「ま、聞きたいことっていうか、意見っつうか、さ」
「なぁに?やけに今日は乙女じゃない」
ニヤニヤしながら霊夢も煎餅をつまむ。
「私はさ、アリスのこと好き」
言ってみて恥ずかしい。
隠すように煎餅をかじる。
霊夢は少し驚いた表情をする。
「何を改まって言うの、しかも私に」
「アリスも多分・・・私のこと好きでいてくれると思う」
「あら?ちょっと進展してるの?」
「ちが!最後まで聞け!」
進展という言葉でボッと火がつく私。
「でも、ほら・・・告白なんて、恥ずかしいし、でも進展・・・したいし」
「ふ~ん」
ニヤニヤしながら私を見る霊夢、面白いおもちゃを見つけたような顔だ。
「霊夢、私はかなり本気なんだぜ?」
「分かってるわよ、でもなんかいきなりね?」
「ん、昨日アリスの家に泊まってさ、」
「泊まり!愛の巣で!」
「最後まで聞けー!!」
思わず叫ぶ、絶対遊んでる・・・いつか完全にぶっとばしてやるぜ。
「まぁ、色々話もしてさ、それであいつにさ・・・私のこともっと知りたいっていわれて」
「へぇ、アリスがねぇ・・・それであなたは?」
「何もいえなかった、なんて言えばいいのか分からなかった」
ふ~ん、と霊夢が言いつつ何か考え込む。
「アリスもさ、待ってるんじゃない?あなたの口から」
お茶で言葉を切る霊夢。
「ふぅ、色々、他愛の無いことでもいいし、あなたの気持ちも聞きたいのだろうけど、もっと特別になりたいんじゃないの?あの人形使いは」
「特別かぁ」
「魔理沙?あなた、自覚してるかどうか知らないけど、結構あなた人気あるのよ?アリスもそれを知ってるし・・・アチっ!」
お茶を注ぎならやけどする霊夢、以外な一面を見ちまった。
「あなたの笑顔や行動、それらが自分以外にも見られてるってことが、あの子には辛いんじゃないかしら?」
指に息を吹きかける霊夢、なんだか・・・笑えるぜ。
「そういうもんなのか?」
「そういうものよ、それにアリスは束縛心強そうだし」
「ふ~ん」
「一歩、踏み出してみれば?」
「言われて、踏み出せればお前に相談してねぇぜ?」
「それもそうね、いいわ思う存分考えなさい」
「どういう意味だよ」
「そのままの意味、あなたに足りないのは考えること」
霊夢はまたも煎餅をつまむ。
「それって、私が馬鹿ってことか?」
「私の言った意味もあわせて考えなさいな」
答えともなんともいえない、あいまいな言葉だった。
「む~、やっぱお前の話はわからんぜ、そろそろ帰る、また来るぜ」
「次来るときは、煎餅持ってきなさいよー」
箒にまたがり飛ぶと、霊夢の言葉が聞こえてくる。
「やれやれっと」
魔理沙の姿が見えなくなったところで、伸びをしつつため息を吐く。
すっかり無くなってしまった煎餅とお茶を片しながら、二人のことを考える。
「魔理沙も心が決まってるなら、はっきりすればいいのに」
まぁ、アリスもアリスで奥手だから余計に始末が悪い。
あの二人、とことんお似合いの二人。
「あぁ、まぁ・・・私の関わるところでもないっか」
洗いものを済まし、境内の掃除に掛かる。
秋は嫌だ、枯葉が多いから。
頭から白黒と青白の二人を追い出し、掃除に集中することにした。
「ふぃぃ」
休憩とばかりに腰を伸ばす。
(ん?来たわね、アリス)
予想通り、魔理沙の次はアリスだ、もうお約束といっても言いぐらいだ。
「お邪魔するわね」
と、アリスは誰かさんと違って、礼儀正しく私の前に着地する。
少し遅れて上海がアリスの肩に降りる。
「緑茶しかないけど」
笑顔で、風になびく髪を押さえ問う。
「えぇ、頂くわ」
何気ない世間話をしながら縁側に座るアリス。
今日二度目のお茶を客人に出し、自分の湯飲みにお茶を注ぐ。
(どうせ、魔理沙のことでしょうね)
「今日は相談したいことがあるのだけれど」
やっぱり、と思いながらも、どうしたの?と、平静を装い先を促す。
「魔理沙に、どうやって想いを伝えたらいいのかしら」
「ぶほっ」
「ちょ、霊夢どうしたの?大丈夫?」
今までと違う変化球、いえ・・・直球?で聞いてくるアリスに思わずお茶を吹いてしまった。
「い、いえ!なんでもないのよ!ただ、直球で聞いてくるわね」
「えぇ・・・」
ありふれた、恋する乙女の赤らめた顔つきで上海と戯れるアリス。
(あの、幸せものめ)
と、最後の煎餅を食い尽くしていった、阿呆使いを思い起こす。
「でも、いきなりね」
「今のままじゃ、きっと私は誰かに魔理沙を取られてしまう気がして」
アリスの言葉に、一つ茶を飲む。
「そうね、あの子、誰からも好かれてるし」
湯のみを置き、アリスが土産にと持ってきてくれたクッキーをつまむ。
(旨いなぁ・・・)
などと、思いながらもどうしたものかと思案する。
(結局のところ、ありきたりな返事をしてもアリスは一歩を踏み出さない)
「霊夢?」
「え、えぇ」
あいまいな返事をしておくことにした。
(これは・・・面白いかもしれないわ)
なんか、この二人が悔しいのでちょっと、からかってやることにした。
愛に障害はつきものだ。
「今朝、魔理沙も似たような相談をしてきたわ」
「え?魔理沙が?」
「えぇ、沢山の人に告白されて、困ってるって泣きついてきたわ」
思ったとおり、あっけに取られてるわね。
わざと、指折りで嘘っぱちで人数を数えてみる。
一つ指を折るごとに、冷や汗をかくアリス。
(かわいいなぁ)
「まぁ、とりあえず、悩んでたわねぇ、あの子・・・妙に真面目だから、今夜中に答えだすって言ってたわよ」
「・・・・」
言葉も出てこないらしく、アリスは固まっている。
(では、とどめといきますか)
「早くしないと、取られちゃうわよ?」
「え?」
「魔理沙のこと、もっと知りたいそうだけど、自分の物にしてからでも遅くないんじゃないかしら?」
そう、言葉の終わりぎわには、すでにすっ飛んでいくアリス。
「やれやれ、アリスも台風みたいね、でもこれで・・・アリスも決心が付くかしら」
(あぁあ、また落ち葉が増えた)
今日一番のため息を吐き、一日の疲れをひしひしと感じていた。
「んぁ~、なんか眠いぜ」
朝、霊夢のところからアリスの家に向かったが、誰も居らず仕方なく自宅に帰ってきた。
「しかもやることがなぁ」
ベッドの上でごろごろとする。
(あぁ・・・)
妄想だけが膨らみ、枕に顔を突っ込む。
次第に疲れもあり、早起きというのもあり、寝入ってしまった。
「あぁぁぁ!」
自宅付近、手近な木を殴る。
(何をやってるの、私は!早くしないからこんなことに)
薄々こうなることは、どこかで気づいていた。
拳の痛みが、私を現実にとどめてくれている。
「だめ」
ふと、出た言葉。
心の中では魔理沙のことを愛していても、言葉に出したことが無かった。
ただ、だめ。
何が、だめ?
他の人には、だめ!
私が特別で居たい。
「急がなきゃ」
流れるような考えの中、結論が出る前に私の足は動いていた。
後から思うと飛べばよかったな、なんて思い返しちゃうけど、この時は焦りとかもあって走っていた。
「ま~りさ、起きてる?」
「んぁ?今起きた」
アリスに釘を刺した手前、一応こっちにも伝えないとね。
「テヘッ☆」
なんて、これから起こることを想像してしまった。
「霊夢・・・すぐ、エーリンとこ行こう、な?」
「なんでもないって、うん!」
心の笑いが出てしまっていた、情けない。
「それより、魔理沙、アリス来てない?」
アリスという言葉に、頬を赤める魔理沙。
「どうしたの?」
「い、いやなんでもないのだぜ!」
「ふ~ん」
(すぐ帰るし)
と、思いつつ一気にまくし立てる。
「アリスにさ、あんたがいろんな人から言い寄られてるって、からかっておいたから」
「へ?」
「きちんと、今夜中に決めるんじゃないかってのも、言っておいたから、今日中にアリスが来ると思うから、がんばってね~」
そう言い切り、返事を待たず玄関を閉める。
(後は、成り行きを見ましょうかねぇ)
頭を一つ掻き、お茶の葉っぱ・・・どれだけ残ってるかに思考を切り替えることにした。
「なんだよ、霊夢の奴・・・言うだけ言って帰っていきやがって」
寝起きの体を伸びで起こし、いつもの帽子をかぶる。
「アリスかぁ・・・」
と、鏡が目に入り、自然と髪を整える。
(はっ!な、なに意識してんだぜ!私)
両手で頭を抱える。
(いやいや・・いやいや!好きだよ、うん)
服は、大丈夫だ・・・綺麗だし。
(探しにいく?いやいや、待ってようか・・・入れ違いはやだし)
「魔理沙!」
「ア、アリス!」
息を切らせ、肩で息をしてるアリス。
無言で、悔しそうな表情で私に飛びついてきた。
「魔理沙!私、私だって!あなたが!」
次第に泣きそうな感じがして、アリスの背中を優しくポンポンと叩いた。
多分、それだけで気持ちが伝わると思うぜ。
・・・・
「あら?何か一仕事終えたって感じね?」
「いきなり、驚かさないでくれる?紫?」
「来るの分かってたくせに」
「あなたも、影で見てたんでしょ?私よりよっぽど悪趣味じゃない?」
「なかなか、口の方も立派になってきたわね」
なんでもない、というような紫。
それこそ、何事もなく私の隣に座る。
「でもね、紫?まだ、仕事は終わってないの」
「あら、そうなの?このクッキーおいしいわね」
「ちょ!何勝手に食ってんの!私の貴重な食料を!」
「どれだけ貧乏なのよ・・・それで、仕事って?」
湯呑を膝の上におろしつつ、二人並んで鳥居をくぐる二人を見やる。
「紫、あなたも手伝いなさいよ?クッキー食べたんだから」
「あ~、成程・・・のろけ話、長くなりそうね?」
と、紫は扇子で顔を半分隠す。
それに合わせるように、立ち上がって仁王立ちし息を吸い込む。
「ありがた~い巫女が仲人したんだから、賽銭奮発していきなさいよ!」
と、大声で叫ぶと、魔理沙とアリスが二人、そっくりな笑顔で私を見ていた。
これから、騒々しくなりそうね・・・
近年まれに見るほどのため息をついた。
紅葉が鮮やかな秋の森。
珍しいキノコを見つけ、喜ぶ私。
っと、名前は霧雨 魔理沙。
何の変哲もない普通の魔法使い。
今日は、アリスのところへ行くのに何か手土産にと、キノコ狩りをしているところである。
「ま、こんなもんでいいかな」
食用と魔術研究用と収穫をしてから、一度家に戻ることにした。
(やっぱ、身だしなみとかきちんとしないと・・・ほら、な?)
自宅で、鏡を見ながら一人妄想に入る。
恥ずかしい部分に入ったところで、首を振る。
「いやいやいや・・・」
一人ごとをいいながら、髪を整え、スカートを見直し、帽子をかぶりなおす。
「うっし、ばっちりだぜ」
くるっと一回りして、鏡を見直す。
うん、我ながらばっちり決まった。
箒にまたがり、今日はのんびりと紅葉を楽しみながらアリスの家に向かう。
のんびりというのもそれほど、アリスの家まで距離がないというのもあるし。
せっかく整えた、髪が乱れるのも嫌だったし。
5分ほどで、青いこじんまりした屋根が見えてきた。
アリス邸、とは言っても、それほど大きな家でも無い。
玄関前に着地し、スカートと髪をもう一度ただし、扉をノックする。
てっきりアリスが出てくると思っていたけど、出てきたのは上海だった。
「よ、上海久しぶり、アリスは居るのか?」
上海は人形のため声は出せない、出せないが身振り手振りとある程度の表情で色々伝えてくれる。
その、上海の合図によると、今出かけてるとのことだが・・・
「お前をおいて、出かけるなんてどうしたんだ?」
「・・・」
なにやらあせってるような雰囲気の上海。
(何か急用でもあったのかな・・・)
「まぁ、お前が一緒じゃないってことは、すぐに戻ってくるだろうから、待たせてもらうぜ?」
というと、上海はコクっとうなずき、私を部屋に招いてくれた。
奥にある、ソファーに腰掛け、緊張を解く。
「ふぅ~」
帽子を脱ぎ、手土産をテーブルに乗せる。
(やることねぇぜ)
ぐで~っと、頭をソファーに乗せ、天井を見やる。
「アリスと出会って、もう3年になるか・・・」
上海が紅茶を入れてくれた・・・
けど、眠気の方が勝り、うとうとしてしまった。
・・・・
「あぁ!もうこんな時間」
急いで、文字通り飛んで家に帰る。
私は、アリス・マーガトロイド
今日はとても、とっても何に変えても大事な日。
そんな日に限って、急ぎの用が入ったりしてしまう。
「今日は、魔理沙と二人っきりで居られる大事な日なのに」
霊夢に大事な用があるからと、呼ばれて行ってみたところ、別段たいした用事でもなかった。
「寒いから出たくない」
と、コタツに入りっぱなしの馬鹿巫女、せんべいを取ってほしいという、ほんと馬鹿げた内容だった。
帰り際、お姫様は送れていくものよ?なんて、言ってたけど、そんなのは嫌だ。
大好きな人を待たせるなんて絶対にだめ、もし・・・私が居ない間にこられてもまずいから、上海に留守番させてるけど・・・。
ともかく、今は全速力で飛ぶことだけを考えろ!
ようやく、家に戻る・・・厳密には家の近くだけど。
「ぜぇ・・・ぜぇ、」
全力ですっとんできたおかげで、息が上がってしまった。
(運動不足ね・・)なんて、冷静に自分を分析する。
なんとか息を整え、玄関に向かう。
「あら・・・上海」
上海が家から出てきた、私と上海は繋がってるから私が居ない間の様子は全部分かる。
「魔理沙、もうきてるのね」
と、聞く・・・必要もないのだけれど、聞く。
「そう・・・」
どこか沈んだ顔をしたのだろうか、上海が手鏡を私の顔に向けてきた。
「??」
上海がアセアセしながら、鏡を持ったまま私の髪を触る。
「っ!」
飛んできたおかげで、髪がぼさぼさだった。
手櫛で手早く整え、深呼吸をしてから家に入る。
「もう!人がやきもきしてるってときに!」
待ちに待った、愛しい人はソファで大の字、頭も後ろに垂れ大口を開けて寝ていた。
私も向かいのソファーに座り、どこかほっとしながらもため息をつく。
上海が入れてくれた紅茶が鼻を刺激する。
時計の音だけがする。
「魔理沙と出会って今日で丁度3年になるのね」
上海も落ち着いたらしく、私のカップの横にちょこんと座っている。
ただ、時計の音が心地よくぼんやりと天井を見やる。
魔理沙と出会ったとき、私は誰も寄せ付けないツンツンしたオーラを出していた。
そのせいで、里の人間や他の妖怪連中からも避けられていた、一人を除いて。
目の前に居る、とてもアナログチックな魔法使い、とても明るく行動力があって人の心にもズケズケと入り込んでくる、私とはほんとに正反対の少女。
馬鹿なことばかりやっていて、いつも失敗ばかりして、でもいつも笑ってる。
いつからだろう、この笑顔を私だけに向けてくれないだろうかって。
でもあまりにも人と接してこなかった私には遠くから見てるしかなかった。
「そう、あの日・・・」
上海の頭をなでながら、思いかえす。
私は魔女だ・・・人間の病気なんて普段掛からないのに、風邪を引いた。
とても高い熱で身動きが取れなかった私。
誰も訪れない、というのはこういうときつらい。
なのに魔理沙は普段どおりのテンションと持ち前の明るさをそのままに、私のもとへやってきた。
うっとおしい、当時はそう思っていたんだっけ。
上海が一度は追い返したんだけど、それからというもの・・・毎日、毎日飽きもせず見舞いにきてくれた。
最初は面白半分で来てたみたいだけど・・・日に日に悪くなる私を見て、本格的に薬やら魔術やらなんやらを色々してくれた。
そんな純粋な優しさがとても嬉しくて、彼女のされるままに毎日を過ごした。
次第に体調もよくなり、もうすぐ全快って時だった。
まだ、頭もはっきりしてなかったから言えたんだろうけど・・・
(私と、友達になってください)
と、魔理沙に言った・・・そのときから、私と魔理沙は親友として、ううん・・私はそれ以上の感情を今は持っている。
「あの時の魔理沙の笑顔は、今でもはっきり覚えてるなぁ」
あれから、3年、もう3年も経ってしまった。
そろそろ想いを伝えたい、だけど・・・私はあまり魔理沙のことを知らない。
いつも笑顔が絶えない魔理沙だけど、時折ふっと寂しげな・・・つらそうな顔をする。
魔理沙のことは誰よりも知ってるつもりだった、だけど・・・それは魔理沙の楽しいところだけしか知らなかった、もっと深いところを知らなかった。
「そこを知らなきゃ、前に進んじゃ行けない気がする」
「んがっ!」
「え?ま、魔理沙?」
「うぇ?アリス?いつ帰ってきたんだぜ?」
「えぇっと、結構前だけど?」
「あっちゃぁ、寝いっちゃったぜ」
魔理沙はあくびをしながら伸びをする。
「どうしたの?なんか、飛び起きた感じだけど」
「あぁ・・・ちょっと、夢見が悪くって」
「そう、紅茶・・・淹れなおしてくるね」
「あ、あぁ・・・悪いなアリス」
適当に理由をつけて席を立つ、でないと顔に出ちゃうから・・・
あんなこと考えてるといろいろとね。
・・・・・
「なんだアリスの奴、変なの」
もう一つ、伸びをし腕を回すあたりで意識がはっきりする。
「上海~お前のご主人、なんか調子でも悪いのか?」
「・・・(フルフル)」
無言で首を振る、態度を見る限り私の考えすぎなのかな?
ごく、自然に視線が動く・・・暖炉の上。
「な!な!なんじゃこりゃ~!!」
思わず頭を抱え、大声を出してしまう。
自分でも意味不明な動きをしながら、暖炉の上においてあった写真を手に取る。
震える手に力をこめながら、もう一度写真を見る。
「魔理沙!どうしたの!」
奥からアリスがすっとんできた、あっけに取られたような顔もすぐに、赤面に戻り、私の手から写真を取り上げる。
「おい!アリス!な、なんでそんな写真が!あるのだぜ!」
「勝手に見るほうが悪い!」
アリスはぎゅっと写真を胸に握り締め私を睨み付ける。
写真に写っていたのは、間違いなく私だった。
だったんだけど・・・何故!何故!着替えてるところ!
「ば、ばかやろう!そんな目立つところに置いてたら目につくんだぜ!」
「うぅ」
「それに、どうやって撮った!その写真!」
私は思わずアリスの両肩をがっしりと掴む。
「あの天狗か!それとも、賄賂でメイドの能力か!だぁ、どいつもこいつも吹き飛ばしてやるぜ!」
「ま、待ちなさい、落ち着きなさい、ドードー」
「フーフー」
「その・・・上海に・・・頼んで・・ね?」
思わず、上海を睨み付ける。
身の危険を感じたのかそそくさとアリスの後ろに隠れる上海。
でも、アリスの顔を見ると怒りも収まっちまう。あんな上目使いっぽい照れた顔を見ちゃうとな・・・
ちょっとそっぽを向いて言葉を続ける。
「あぁもう、分かったよ、怒らないから理由、言えってば」
「ほんとに怒らない?魔理沙?」
「あぁ」
「上海にも怒らない?」
「あぁ」
「聞いてから、やっぱり怒るとか無しにしてね」
「早く話せってば・・・ほんとに怒っちまうぜ?」
「その・・・もっと、魔理沙のこと知りたかったから」
小声で俯き話すアリスの言葉は一瞬私の頭を白くした。
「は?」
「二回は言わない!」
逆に怒られ余計に白くなる。
「あぁ・・・まぁ、そんなことしなくてもさ、ほら私とアリスの仲だぜ?」
なんでか私が照れながらなんとか会話を持たす。
「隠すものは無いけど、そういう盗撮はよくないぜ?」
悪さをした子供に話すように諭す。
「ごめん・・・でも!私は知りたかった」
消え入るような声で話すアリス。
「そかそか、ほら寒くなってきたし、暖炉に火をつけてっと」
八卦炉で暖炉に火を入れる、ほんのり暖かい空気が部屋を包みだす。
「ほら、ソファーに座る、上海?紅茶、あったかいの頼むぜ?」
アリスの背を押し、ソファーに座らせる。
「それで?」
私も向かいのソファーに腰掛け、足を組む。
「何で私のことを知りたいなんて、いまさらのこと言ってるんだぜ?」
「それ・・・は」
「あの日、お前言ったよな?友達になってくれって、あれ私もすっごい嬉しかったんだぜ、だからアリスには隠し事をしないで一緒に居たつもりだぜ?」
返事は無く、ただ時計の音が聞こえる。
いいタイミングで上海が紅茶を持ってきてくれた。
「ほら、アリスあったかい紅茶、私が淹れたんじゃないんだけどな」
と、笑いを交えて場を和ましてみるが・・・
アリスはなにやら考え込んだまま、座り込んだままだぜ。
「すっかり、夜も更けちまったぜ」
紅茶を一口飲み、窓から外を見る。話題を変えないと空気が持たないぜ。
「今日、泊まってくぜ」
「え?えぇ?」
驚きとも肯定ともいえない、微妙な返事をするアリスの顔は、いつものような顔つきだった。
勝手知ったる家なので、寝られる場所は知っている。
安楽椅子を暖炉の前に移し、そこに座り一つ伸びをしてから愛用の帽子を顔に載せる。
「あ、ちょ魔理沙、魔理沙ってば!」
アリスの声が聞こえるが、ここは狸寝入りを決め込むことにした。
・・・・
「はぁ・・・」
勝手に泊まると決め込み、勝手に寝入るこの子。
(なんでこう、素直に好きっていえないのかな、私って)
「はぁ」
もう一つため息をつくと、また同じ思考が繰り返される。
上海に糸を伸ばし、テーブルに座らせる。
「あなたとなら素直に会話が出来るのにね、上海?」
自然と、笑顔になり私が操る人形に語りかける。
(これって、引きこもり的な一人遊び?)
自分で思いつき、自分にグサっとくる。
上海がそっと、私の指を小さな両手で握ってくれる。
半自立の上海、この動きも私がやらせているのだ。
「・・・もういいわ」
そう独り言をいい、上海を棚に戻す。
最近、ため息が多いと自覚はしている。
でも、ため息を一つついてから魔理沙に薄めの布をそっと掛けてやり、私も寝ることにした。
(なんだか、疲れちゃった)
「んが?」
目が覚め、頭を起こす。
「お・・っとと」
椅子が揺れて、ちょっと驚く。
「ん~、よく寝た」
椅子から降りて、おもいっきり伸びをする、この瞬間が最高なんだぜ。
「まだ、朝の4時じゃんか・・・」
なんでこうも、早起きするかね、私って。
「やれやれ」
床に落ちた帽子を広い、ポンポン叩いてから、被る。
ふと、アリスが気になり、そ~っとアリスの寝室に忍び込む。
(ちぇ、向こう向いてるぜ)
金髪の後頭部だけが見えた。
(でも、こう布団から頭だけ見えてると、別の生き物に見えてくるぜ)
思わず笑ってしまいそうなのをこらえて、そっと扉を閉じた。
アリスが起きるまで、まだ時間はあるし。
「霊夢んとこで、茶でも貰うかな」
箒にまたがりいつもの神社に向かう。
今日は気分がいいので、無駄な爆発も着地も無しにしておいた。
(まだ、寝てんだろうしなぁ)
と、思ったところで縁側を見やる。
「あら、早いじゃない魔理沙」
「今日はたまたまだぜ」
丁度のタイミングで霊夢が出てきた。
「どうしたんだぜ?空なんか見て」
霊夢は何故か空を凝視している。
「大雨大雪台風に雷おまけに槍でも振るんじゃないかと思って」
「お前・・・私をなんだとおもってるんだぜ」
「いっつも、昼ごろに目を覚ます堕落した少女」
「はっきり言うな・・・守銭奴」
いかにも疲れたとう風に縁側に座り込む。
「霊夢!」
悔しいから反撃。
「あ~ら、何かしら?魔法使いさん?」
分かってるという風な、態度と目つきの巫女。
「茶!煎餅!」
「はいはい」
やれやれと言う風に奥に引っ込んでいく。
私は縁側で足をパタパタさせながら、鳥居の上の方、ふっと視線を泳がす。
(あの雲の形、アリスみたいだぜ)
「なぁに、ニヤニヤしてるのかしらこの子は」
「お、待ってました」
盆に熱いお茶が入ってるであろう急須に、これまた年季の入った木の器に入った煎餅
「で?今日は何?のろけ?痴話げんか?」
霊夢はため息交じりに、お茶を湯飲みに注ぐ。
「今日はなんにもないぜ?」
「嘘おっしゃい、今までに何もなく、ここに来たことあった?」
「ぅ・・・確かに、無かったような気がするぜ」
煎餅を一枚ひょいとつまむ。
「でもさ、今日は・・・ん~しいて言えばのろけもちょっと混じるかもだぜ」
「それで?単に自慢しにきただけ?」
霊夢はいつのまにか、座布団を持ってきていた。
「ま、聞きたいことっていうか、意見っつうか、さ」
「なぁに?やけに今日は乙女じゃない」
ニヤニヤしながら霊夢も煎餅をつまむ。
「私はさ、アリスのこと好き」
言ってみて恥ずかしい。
隠すように煎餅をかじる。
霊夢は少し驚いた表情をする。
「何を改まって言うの、しかも私に」
「アリスも多分・・・私のこと好きでいてくれると思う」
「あら?ちょっと進展してるの?」
「ちが!最後まで聞け!」
進展という言葉でボッと火がつく私。
「でも、ほら・・・告白なんて、恥ずかしいし、でも進展・・・したいし」
「ふ~ん」
ニヤニヤしながら私を見る霊夢、面白いおもちゃを見つけたような顔だ。
「霊夢、私はかなり本気なんだぜ?」
「分かってるわよ、でもなんかいきなりね?」
「ん、昨日アリスの家に泊まってさ、」
「泊まり!愛の巣で!」
「最後まで聞けー!!」
思わず叫ぶ、絶対遊んでる・・・いつか完全にぶっとばしてやるぜ。
「まぁ、色々話もしてさ、それであいつにさ・・・私のこともっと知りたいっていわれて」
「へぇ、アリスがねぇ・・・それであなたは?」
「何もいえなかった、なんて言えばいいのか分からなかった」
ふ~ん、と霊夢が言いつつ何か考え込む。
「アリスもさ、待ってるんじゃない?あなたの口から」
お茶で言葉を切る霊夢。
「ふぅ、色々、他愛の無いことでもいいし、あなたの気持ちも聞きたいのだろうけど、もっと特別になりたいんじゃないの?あの人形使いは」
「特別かぁ」
「魔理沙?あなた、自覚してるかどうか知らないけど、結構あなた人気あるのよ?アリスもそれを知ってるし・・・アチっ!」
お茶を注ぎならやけどする霊夢、以外な一面を見ちまった。
「あなたの笑顔や行動、それらが自分以外にも見られてるってことが、あの子には辛いんじゃないかしら?」
指に息を吹きかける霊夢、なんだか・・・笑えるぜ。
「そういうもんなのか?」
「そういうものよ、それにアリスは束縛心強そうだし」
「ふ~ん」
「一歩、踏み出してみれば?」
「言われて、踏み出せればお前に相談してねぇぜ?」
「それもそうね、いいわ思う存分考えなさい」
「どういう意味だよ」
「そのままの意味、あなたに足りないのは考えること」
霊夢はまたも煎餅をつまむ。
「それって、私が馬鹿ってことか?」
「私の言った意味もあわせて考えなさいな」
答えともなんともいえない、あいまいな言葉だった。
「む~、やっぱお前の話はわからんぜ、そろそろ帰る、また来るぜ」
「次来るときは、煎餅持ってきなさいよー」
箒にまたがり飛ぶと、霊夢の言葉が聞こえてくる。
「やれやれっと」
魔理沙の姿が見えなくなったところで、伸びをしつつため息を吐く。
すっかり無くなってしまった煎餅とお茶を片しながら、二人のことを考える。
「魔理沙も心が決まってるなら、はっきりすればいいのに」
まぁ、アリスもアリスで奥手だから余計に始末が悪い。
あの二人、とことんお似合いの二人。
「あぁ、まぁ・・・私の関わるところでもないっか」
洗いものを済まし、境内の掃除に掛かる。
秋は嫌だ、枯葉が多いから。
頭から白黒と青白の二人を追い出し、掃除に集中することにした。
「ふぃぃ」
休憩とばかりに腰を伸ばす。
(ん?来たわね、アリス)
予想通り、魔理沙の次はアリスだ、もうお約束といっても言いぐらいだ。
「お邪魔するわね」
と、アリスは誰かさんと違って、礼儀正しく私の前に着地する。
少し遅れて上海がアリスの肩に降りる。
「緑茶しかないけど」
笑顔で、風になびく髪を押さえ問う。
「えぇ、頂くわ」
何気ない世間話をしながら縁側に座るアリス。
今日二度目のお茶を客人に出し、自分の湯飲みにお茶を注ぐ。
(どうせ、魔理沙のことでしょうね)
「今日は相談したいことがあるのだけれど」
やっぱり、と思いながらも、どうしたの?と、平静を装い先を促す。
「魔理沙に、どうやって想いを伝えたらいいのかしら」
「ぶほっ」
「ちょ、霊夢どうしたの?大丈夫?」
今までと違う変化球、いえ・・・直球?で聞いてくるアリスに思わずお茶を吹いてしまった。
「い、いえ!なんでもないのよ!ただ、直球で聞いてくるわね」
「えぇ・・・」
ありふれた、恋する乙女の赤らめた顔つきで上海と戯れるアリス。
(あの、幸せものめ)
と、最後の煎餅を食い尽くしていった、阿呆使いを思い起こす。
「でも、いきなりね」
「今のままじゃ、きっと私は誰かに魔理沙を取られてしまう気がして」
アリスの言葉に、一つ茶を飲む。
「そうね、あの子、誰からも好かれてるし」
湯のみを置き、アリスが土産にと持ってきてくれたクッキーをつまむ。
(旨いなぁ・・・)
などと、思いながらもどうしたものかと思案する。
(結局のところ、ありきたりな返事をしてもアリスは一歩を踏み出さない)
「霊夢?」
「え、えぇ」
あいまいな返事をしておくことにした。
(これは・・・面白いかもしれないわ)
なんか、この二人が悔しいのでちょっと、からかってやることにした。
愛に障害はつきものだ。
「今朝、魔理沙も似たような相談をしてきたわ」
「え?魔理沙が?」
「えぇ、沢山の人に告白されて、困ってるって泣きついてきたわ」
思ったとおり、あっけに取られてるわね。
わざと、指折りで嘘っぱちで人数を数えてみる。
一つ指を折るごとに、冷や汗をかくアリス。
(かわいいなぁ)
「まぁ、とりあえず、悩んでたわねぇ、あの子・・・妙に真面目だから、今夜中に答えだすって言ってたわよ」
「・・・・」
言葉も出てこないらしく、アリスは固まっている。
(では、とどめといきますか)
「早くしないと、取られちゃうわよ?」
「え?」
「魔理沙のこと、もっと知りたいそうだけど、自分の物にしてからでも遅くないんじゃないかしら?」
そう、言葉の終わりぎわには、すでにすっ飛んでいくアリス。
「やれやれ、アリスも台風みたいね、でもこれで・・・アリスも決心が付くかしら」
(あぁあ、また落ち葉が増えた)
今日一番のため息を吐き、一日の疲れをひしひしと感じていた。
「んぁ~、なんか眠いぜ」
朝、霊夢のところからアリスの家に向かったが、誰も居らず仕方なく自宅に帰ってきた。
「しかもやることがなぁ」
ベッドの上でごろごろとする。
(あぁ・・・)
妄想だけが膨らみ、枕に顔を突っ込む。
次第に疲れもあり、早起きというのもあり、寝入ってしまった。
「あぁぁぁ!」
自宅付近、手近な木を殴る。
(何をやってるの、私は!早くしないからこんなことに)
薄々こうなることは、どこかで気づいていた。
拳の痛みが、私を現実にとどめてくれている。
「だめ」
ふと、出た言葉。
心の中では魔理沙のことを愛していても、言葉に出したことが無かった。
ただ、だめ。
何が、だめ?
他の人には、だめ!
私が特別で居たい。
「急がなきゃ」
流れるような考えの中、結論が出る前に私の足は動いていた。
後から思うと飛べばよかったな、なんて思い返しちゃうけど、この時は焦りとかもあって走っていた。
「ま~りさ、起きてる?」
「んぁ?今起きた」
アリスに釘を刺した手前、一応こっちにも伝えないとね。
「テヘッ☆」
なんて、これから起こることを想像してしまった。
「霊夢・・・すぐ、エーリンとこ行こう、な?」
「なんでもないって、うん!」
心の笑いが出てしまっていた、情けない。
「それより、魔理沙、アリス来てない?」
アリスという言葉に、頬を赤める魔理沙。
「どうしたの?」
「い、いやなんでもないのだぜ!」
「ふ~ん」
(すぐ帰るし)
と、思いつつ一気にまくし立てる。
「アリスにさ、あんたがいろんな人から言い寄られてるって、からかっておいたから」
「へ?」
「きちんと、今夜中に決めるんじゃないかってのも、言っておいたから、今日中にアリスが来ると思うから、がんばってね~」
そう言い切り、返事を待たず玄関を閉める。
(後は、成り行きを見ましょうかねぇ)
頭を一つ掻き、お茶の葉っぱ・・・どれだけ残ってるかに思考を切り替えることにした。
「なんだよ、霊夢の奴・・・言うだけ言って帰っていきやがって」
寝起きの体を伸びで起こし、いつもの帽子をかぶる。
「アリスかぁ・・・」
と、鏡が目に入り、自然と髪を整える。
(はっ!な、なに意識してんだぜ!私)
両手で頭を抱える。
(いやいや・・いやいや!好きだよ、うん)
服は、大丈夫だ・・・綺麗だし。
(探しにいく?いやいや、待ってようか・・・入れ違いはやだし)
「魔理沙!」
「ア、アリス!」
息を切らせ、肩で息をしてるアリス。
無言で、悔しそうな表情で私に飛びついてきた。
「魔理沙!私、私だって!あなたが!」
次第に泣きそうな感じがして、アリスの背中を優しくポンポンと叩いた。
多分、それだけで気持ちが伝わると思うぜ。
・・・・
「あら?何か一仕事終えたって感じね?」
「いきなり、驚かさないでくれる?紫?」
「来るの分かってたくせに」
「あなたも、影で見てたんでしょ?私よりよっぽど悪趣味じゃない?」
「なかなか、口の方も立派になってきたわね」
なんでもない、というような紫。
それこそ、何事もなく私の隣に座る。
「でもね、紫?まだ、仕事は終わってないの」
「あら、そうなの?このクッキーおいしいわね」
「ちょ!何勝手に食ってんの!私の貴重な食料を!」
「どれだけ貧乏なのよ・・・それで、仕事って?」
湯呑を膝の上におろしつつ、二人並んで鳥居をくぐる二人を見やる。
「紫、あなたも手伝いなさいよ?クッキー食べたんだから」
「あ~、成程・・・のろけ話、長くなりそうね?」
と、紫は扇子で顔を半分隠す。
それに合わせるように、立ち上がって仁王立ちし息を吸い込む。
「ありがた~い巫女が仲人したんだから、賽銭奮発していきなさいよ!」
と、大声で叫ぶと、魔理沙とアリスが二人、そっくりな笑顔で私を見ていた。
これから、騒々しくなりそうね・・・
近年まれに見るほどのため息をついた。
あとがきではあんまべらべら語らない方がいいです。
点数は期待を込めて100点。次回作も待ってます
上質な作品だとは思いませんが、初投稿でこうした嫌味のない作品を出して下さったことに感謝して100点を入れておきます。
良くも悪くも初々しいですね。ストーリーは甘い感じで好きなのですがやはり繋ぎがまだあまり上手くない
書いてく内に良くなってくと思います
文章のノリの良さは結構気に入りました
次の話も期待してます
後書き・・・やっぱりくどいですか(苦笑)なんて書いたらいいものかと、思案したのですが。
次回は考慮します。
「お姫様は送れて」→「お姫様は遅れて」
はぅ!?誤字は気をつけてたのに申し訳ないですorz