『おいしい八目鰻のお店!!』
『鳥捕食反対組織推薦』
そんな昇り旗が目出つ、赤提灯の屋台。
妖怪が住む森の中といった辺鄙な場所ではあるが、店主の綺麗な鼻歌と美味しそうな料理の香りに誘われて、ほら、今日も1人目のお客が。
頭の両側に長い角がついている、愛らしい姿の――
「まったく! こんな酷い事があっていいのかい!」
伊吹萃香のダイレクトアタック、目にも止まらぬ平手打ちが屋台に襲い掛かり。
バキッ
「ええぇぇぇっ!?」
開口一番、開店直後。
カウンターを破壊するひどいヤツ。
今夜もやっぱり、屋台は大忙しのようです。
~春が来れば、屋台が壊れ――、濡れる~
「聞いてよ、むしろ聞くべきだ!」
「あーあー、そんなにバンバン叩かないでよ~、また壊れちゃうじゃないの!」
「直してあげたんだからいいじゃん」
「よくないのっ!」
さっきあっさりと屋台の一部を破損させた現行犯は、屋台で出したお酒と、手持ちのひょうたんのお酒を交互に飲み干して、またカウンターを叩き始めた。
座る位置が隅っこに移動していることと、若干力加減されているところから判断して、萃香なりに気を使って入るのだろうが。
いかんせん、抑えても鬼の膂力。
屋台が揺れるたび、みしみし、とかいう不幸を呼ぶ音がミスティアの耳に飛び込むものだから、彼女にとっては気が気ではない。
幸いなのは、まだお客が彼女しかいなかったことであろうか。
「いくら大工が得意だからって、いちいち壊されたんじゃ商売あがったりだよ!」
「あーもう、そんな小さなことよりさ!」
「大きいです、大問題っ!」
「霊夢がさぁ~、酷いんだよぉ。聞いてくれるだろうぅ~?」
「あ~、もう~、仕方ないなぁ……」
ミスティアの一生涯の職の問題があっさりポイされる。
悲しみの淵に落とされながらも、ミスティアはしぶしぶ世間話をすることに了承した。
これ以上状況が悪化しては不味いからであり。
萃香を不機嫌にさせすぎると命が危ういからである。
『いやぁ、鬼さん怒らせたら、“物理的に”ぴちゅっちゃいました♪』
短い生涯終了のお知らせである。
これ以上いけない。
幽々子的な意味も含めて。
「やっぱりそれって、お酒の話―?」
「あ、また、私をそういう目で見て。これから言うのは、鬼の尊厳をかけた問題であってだね!」
「ほんとにー?」
「本当だってば、あれはね。今日の朝のことだったよ。今思い出しても鳥肌が立つ……、ミスティアの屋台だけに、鳥肌……」
この酔っ払いのドヤ顔を殴りたい。
ミスティアの素直な感想であった。
とはいえ、いつまでも突っ込み続けては話が進まないと、握った串を一本折っただけで我慢したミスティアは、萃香の話に集中することにした。
◇ ◇ ◇
『いつも、宴会で人集めをしてもらって、悪いわね。感謝してるわ』
萃香の朝は、そんな優しい言葉から始まったそうだ。
「え?」
霊夢の発言とは思えない、それを受け。
縁側でお茶を楽しんでいた萃香は思わず湯飲みを落としそうになってしまう。なんだ、気味が悪いって、ちょっとだけ頬を染めて萃香が返すと。
霊夢はそっとお茶菓子を差し出し。
「これも食べてみて」
なんて、ありえないことを告げてくるのだ。
いつもは要求しても出てこないモノ。
お神酒を普通に日中で飲み干しても、茶菓子はでない博麗神社において、これが出るということは。すなわち異変にすら等しい行為といえるだろう。
「私が作ったの」
しかも手作り。
はっ、つまりは毒入りっ!?
「今、失礼なこと考えなかった?」
ぶんぶんっと大きく首を振った萃香は、震える指でそのお饅頭を口に運んでみて。
「美味しい……」
素直な感想を口にしてしまっていた。
もともと嘘はつけない種族なのだから、当然といえば当然なのだが。
「だから言ったでしょ、感謝の気持ちって」
「霊夢……」
春といえば、雪解けの季節。
もしかしたら、霊夢もとうとう大人になって。どこか萃香との間にあった氷壁を溶かしたのかもしれない。
だから萃香はその気持ちを受け止め、ぺこりっと頭を下げた。
「ふふ、それはまだ早いわよ。お昼にはあなたの大好きなものを準備してあげるからね」
「え、それって……」
お酒。
萃香が好きなものは何か、とたずねれば十中八九返ってくるもの。
それが準備されているという。
だから萃香はそわそわしながら、縁側で境内の中の桜を眺めた。
あの下で、茣蓙を敷いて、小さな宴会もいいかもしれない。
もちろん、霊夢と二人きりで。
ぽかぽかの暖かい陽気の中、そんな甘い想像をしていると。
「萃香~、早くしないとなくなるわよ」
「わかったー、今行く~!」
とうとう、お楽しみの時間がやってきた。
居間にいくと、正座する霊夢の横に、一升。
半透明の瓶が置かれていた。
「いいの、霊夢!」
「ええ、もちろん」
だから、萃香はもう、喜び勇んでその瓶を空け、一気に口の中へ。
ごくりっと、
◇ ◇ ◇
「……それがね、ラッキョウ酢だった」
「うわぁ」
外道過ぎる、鬼か。
鬼巫女か。
ミスティアは背筋が凍る想いであった、いろんな意味で。
「巫女は妖怪を殺す力を持つ、それを思い出した」
間違っても、ラッキョウ酢で思い出すものではない。
「でもさ、匂いとかで……」
「うん、まあ、変なにおいのお酒かなーって」
「それと、好きなものって……」
「あ、そうそう! それは私も納得できなかったから問い詰めたよ! なんでそれが私の好物なのかって!」
そりゃそうだろう。
ラッキョウ酢が好みの妖怪とか聞いたことがない。
むしろミスティア的に、『ラッキョウ酢の妖怪』とか言われたら、精神的に死ぬ。
「……そしたらさ、瓶の陰にさ。ラッキョウの酢漬けが隠れてたんだよねぇ」
「うわぁ……」
「いや、好きだけどさ。霊夢のつくる漬物大好きだけどさ! 宴会でもモシャモシャ食べるよ? 食べちゃうよ? でも違うでしょ? なんかこういう場面で漬物とか瓶で隠すとか反則じゃないかい!」
話を聞けば聞くほど、騙されるほうもどうかという感情がミスティアの中で芽生えてくるが、それを口にするとコキュって首をやられそうなので、喉の中で押さえ込んだ。
「でも、霊夢ってそんな脈絡もなく嘘をつくやつだったっけ」
「……それ! それなんだよ! あー、おかみさんよくわかってる! ほら、これ、これが私の霊夢をだめにしたんだ!」
と、言葉と同時に萃香が紙を差し出した。
ミスティアは何かと思い、何気にそれを受け取ったが。やっぱり何の変哲もない紙。あえて言うことがあるとするなら、日めくりカレンダーなだけ。
ミスティアの屋台の壁にも、天狗お手製のものがかけられているから――
と、そこでミスティアはぽんっと、胸の前で手を叩いた。
「ああ、エイプリルフール! 去年もそんなことあったね!」
「そう! なんでこんな嘘つくのかって聞いたらさ。『外の世界では今日は嘘をついても許される日~』だって! ここは幻想郷なんだよ! 外とは違うんだよ! ドヤ顔する霊夢も可愛かったよ!」
鬼が正直すぎて怖い。
ミスティアはとりあえずそのカレンダーを萃香に返し、ぽりぽりと頬を掻きながら。
「で、結局お酒の話じゃない?」
「違う! 嘘が嫌いな鬼にとって、命にもかかわる重大な問題のお話だっていうのに! そんなこともわからないのかい!」
鬼にとっては確かにそうかもしれない、が、ラッキョウ酢で命にかかわる鬼とか嫌過ぎる。しかし萃香から絡まれてはいるものの、世間話をする上でエイプリルフールといういいネタを得たミスティアにとっては、今の話はマイナスというほどでも――
「そうよ! 鬼にとって嘘は忌むべきものだわ!」
と、作業に戻ろうとしたところで。
屋台ののれんを揺らして誰かが入ってくる。
そして入るが早いか、萃香の隣に同じくらいの人影が腰を下ろした。桃色の特徴的な衣服とその偉そうな口調からして、誰かはわかりきっている。
けれど、屋台では珍しいお客だったので、ミスティアは素直に驚き、手を止めてしまっていた。
「あれ? お客さんは確か、湖の近くの」
「レミリアよ。そう呼んでいただいて結構、それよりも、先ほどの話! よーくわかる。わかりすぎるほどに!」
「そうかい、鬼の名がつくもの同士、わかりあえるのはいいことだよ。こいつは全然わかろうとしないから困るよ」
「私、夜雀だし」
特に仲は良さそうな種族でもないのに、何故か二人は手を取り合って頷き始める。妙な友情が芽生え始めているのかもしれない。
「そう、私もあなたと同様に騙された。いえ、裏切られたというべきかしら。
しかも、人間に、ね」
「ああ、ああっ! そうだよ、人間はいつも嘘をつくんだ。こっちが嫌になるくらい。それであんたはどんな風に裏切られたって言うんだい!」
しかし、何故だろう。
「えーっと、私、料理に集中してもいいよね?」
『ダメ!』
「あっはっは……はぁ」
ミスティアの頭の中から嫌な予感が溢れ出すのは……
そんな店主の乾いた笑いをBGMにして、レミリアはゆっくりと語りだしたのだった。
◇ ◇ ◇
今宵の月が昇ったときのこと、レミリアはベッドから体を起こす。棺おけで眠るときの方が多いけれど、その日はベッドという気分だった。
そうして、おもむろに床に下りて、立ったまま腕を横に。肩の高さまで上げてやると。
「今日の予定は何かあったかしら?」
瞬きをするほどの時間だった。
白い肌を包んでいた桃色のネグリジェから、普段着へと、その姿が変わる。
「パチュリー様が、図書館に足を運んで欲しいとおっしゃっておいででしたわ」
と、同時に。その斜め45度後ろ、頭を下げた状態の咲夜が姿を見せた。
鏡に映らない吸血鬼にとって、自らの身だしなみを整えるのは難しい。そのため、農直のあるメイドを雇い入れることが一つのステータスでもあった。
その中でも、咲夜を雇い入れることができたレミリアはどうかといえば。
語るまでもない。
時を止めて世話をできるものなど、彼女の他にいないのだから。
「咲夜……」
そう、極めて優秀であるからこそ。
レミリアの期待に答え続けてきた。
レミリアも、彼女の能力を理解し、できないことを依頼することはなかった。
「今夜は私が支持を出す」
「お、お嬢様! いけません!」
だが、今だけは違った。
レミリアはどうしても、それを求めたのだ。
多少の無理を通してでも、手に入れると。咲夜に告げたのだ。
「妹様が、悲しまれます……」
「それを納得させるのが、あなたの仕事よ」
「わかりました、では」
闇の眷属には、己が欲望を通さなければいけないときがある。
それが、たとえどのような犠牲を払おうとも。
「……できる限りのことは、やってみるつもりです」
「その後のフランのことは、あなたが気にする必要はない」
その犠牲が、実の妹であろうとも……
この地に住む闇の一族として、力を振るわねばならない。
「期待しているよ、咲夜」
顔をわずかに青くした咲夜であったが。それでもやはり紅魔館のメイド長、優雅に一礼してそのまま気配を消した。
それを確認してから、レミリアはふふっとわずかに口元を歪め、ばさりと、大きく羽を揺らした。
◇ ◇ ◇
「そ、それなのに! お願いしたのに! 咲夜ったら、ブラッディプリンじゃなくて、ブラッディカステラを夕食のデザートに準備していたのよ!」
「……」
「……」
「確かに、今日はフランのお菓子リクエストの日だった。それでも、それでもよ。どうしても食べたいときってあるじゃない? それなのに、咲夜は――
『すみませんお嬢様、ですが、レミリア様はフランドール様のお姉様であらせられるので……』
って、あっさりフランに押し切られちゃった言い訳までする始末! こんなことがあっていいのかしら! これは、エイプリルフールを利用したメイドの嘘、いえ、反逆行為で――」
ジュゥゥゥ……
「あ、ミスティアそろそろ串やけたんじゃないか?」
「だめだよ。こういうのは焦りが禁物なの」
「聞きなさいよ! むしろ聞いてプリーズ!」
隣の萃香の肩を両手で掴んで、ねぇねぇと揺らしてはいるが。萃香は虫を押し通して焼き八目鰻を口の中に放り込むばかり。
それでも、レミリアの瞳がうるうるし始めると、しょうがないといった様子で振り向いた。
「あのね、それと。私のさっきの話をよく同じような話と言えたね」
「騙された話という意味では同じ属性ということよ。ほら夜雀、私にも何か寄越しなさい!」
「えーっと、出すのはいいんだけどね。お金とか、物々交換できそうなものは?」
「……ん?」
「わかった、後でメイドに請求する……」
「ああ、私のもツケで」
「むー!」
「はっはっは、後でちゃんと払うって。去年もそうしたじゃないか」
「……いいけどね、まったくもぅ」
霊夢の嘘に騙されて、明らかにお酒と風味の違うラッキョウ酢を飲んだ鬼と。
我侭全開で従者に命令したはいいが、それが通らず鬱憤を晴らしにきた吸血鬼。
共通点は無銭飲食。
ミスティアにとっては厄介極まりない客という意味でも同じかもしれない。
「なんだいなんだい? もうすぐ桜も見ごろだって言うのに、景気の悪い客ばかりのようだね」
「あ、八坂様!」
「私も居るよん」
ミスティアの声が一段高くなり、新たなお客の来訪を告げる。
店に入るために置いてきたようではあるが、やはりこのお客の中ではどうしても頭二つ以上出てしまう八坂神奈子と、帽子がトレードマークの洩矢諏訪子の神様コンビ。
神様だからミスティアが声を高くしたのかというとそうではなく。
「悪いね。後で払うとごちゃごちゃになりそうだから。今日も前払いでいいかい?」
「いえいえー、大歓迎ですよ! ささ、どうぞ座って座って。洩矢さんも」
「私なら諏訪子でいいんだけどね。律儀に苗字で言わなくてもさ」
あれ? 何この扱いの差。
と、先に来ていた二人が目をぱちぱちさせているうちに、神奈子と諏訪子は真ん中の席をひとつ空けた状態で、正反対の位置に腰を下ろす。
しっかり注文を確認したり、愛想笑いを振りまいたり、と。
忙しく動き始めたミスティアに、鬼関係の二人はふぅっとため息をつき。
「守銭奴」
「資本主義の犬」
「えええっ!? いや、その前に犬じゃないし!」
客から暴言が飛び出したりもするけれど、ミスティアは今日も元気です。
「あのねー、私だって仕入れとか。そういうときに物々交換して足りないものとか補充してるわけ。だからそんなこといわれる筋合いはありませんー!」
というわけで、前払いで人里の通貨を多めにくれる神様は、ミスティアにとって上客のような扱いとなる。
それ以外の妖怪のお客の場合だと物々交換が多いので、もらった後でまた売り払わないといけないわけだが。
時には人間の死体とか、危険物を持ち込む地底動物(?)もいるので困った話である。
「まあまあ、けんかしない。さっきまではずいぶん楽しそうな声が聞こえていた気がするが、どんな話題だったのかな?」
と、出てきた熱燗を諏訪子と分けながら神奈子が尋ねると、待ってましたと言わんばかりに、ミスティアが身を乗り出し。
『エイプリルフール』という単語を口にする。
外からやってきた神様なら、むしろこの現象を広げた犯人と思われる早苗と共に暮らしている二人からなら、何か別の話題を掘り出せると思ったんだろう。
だが、
「はぁ」
返ってきたのは予想とは違う。暗いため息。
それとは対照的に、隣の諏訪子のはしゃぎようが気になる。
「あれ? 八坂様もあっちの二人と同じで人間に騙された?」
「いや、そうではなくだね」
「ふふーん、じゃあ私から説明してしんぜよう~」
そう言うと、諏訪子は今朝の出来事を話し始めたのである。
はじまりは、そう。
諏訪子が後もう少しで会えなくなるコタツ布団との別れを惜しんでいた頃。
『今年は絶対に騙されない!』
去年は早苗にすっかり騙された神奈子による、強い決意表明が部屋の中であがった。
また今年もエイプリルフールだからおもいっきりやられるんだろうなぁ、と、諏訪子が蚊帳の外で温もっていたら。
「本当ですか、八坂様!」
「ああ、本当だとも! いくら早苗がエイプリルフール上級者であろうと、神である私を越えることなどできないことを証明して――」
「でも、私もう嘘ついてるんですけど」
「そ、そんな馬鹿な!」
「まあ、嘘ですけどね」
「……あれ?」
勝てる見込みがない。
諏訪子は確信した。
それを神奈子も感じたのか、今度は目標を諏訪子に変えてきて。
『浅はかな古い土着神では、私を騙すことなど不可能』
なんて顔を真っ赤にして言う。
仕方がないので諏訪子はにっこりと微笑み。
「手巻き寿司と、フラフープ。それが『御柱』と『注連縄』に見える“呪い”を掛けた」
「うわぁ……」
もはや嘘どころの騒ぎではない。
呪術である。
「そしたらさー、神奈子すっかりだまされちゃって。背中に手巻き寿司とフラフープくっつけて出ていっちゃったんだよねー、うん。さすがにあのときは、焦った。
教えなかったけど♪」
決して諏訪子にはケンカを売るまい。
笑顔の奥にどす黒いものを感じ取り、ミスティアはそう心に誓った。
「え、でも? お客さんから教えてもらえるんじゃ?」
「あー、そりゃあ、まあ、私の話術でね」
小さな体でえっへん、と諏訪子が胸を張り。
「今日の御柱は、妖怪の山(の畑)でとってきた、新鮮な(きゅうりの)柱(入り太巻き)、注連縄は神を奉り、(脂肪燃焼により腰回りを)維持するためのもの。って、御柱と注連縄との共通点を使って、お客にもそう見える呪いを……じゃなくて説明を、ね?」
※話術× 呪術○
なにはともあれ、想像してみよう。
つまり、先っぽがくにゃっとした通常サイズの太巻きを肩からにょきっと生やし、ついでに真っ赤なフラフープを腰で固定して、うっすらと笑みを浮かべて威厳を放つ神。
……えっと、威厳?
おもいっきり狙ったのに、外しまくった人里の芸人のような雰囲気に近いのではないだろうか。
いや、しかし、神奈子が自信満々でずっしりと座っている。そんな映像がいきなり現れたとしたら。
「ぷっ」
間違いなく、軽く噴き出すだろう。
想像しただけで、ミスティアがそうなったのだから。
「あー、笑ったね?」
「い、いえいえ、八坂様を想像していたわけじゃ……」
カウンターに肘を置き、目を細める神奈子の迫力に押され、ミスティアは慌てて首を横に振るが、ばればれなのは明らからしく。
頬杖をつきながら、はぁっとため息を吐いた。
「まったく、早苗も厄介な風習を取り入れたもんだよ」
「私は楽しいけどねー」
「あんたはいいよね。早苗の標的にならないんだから」
確かに、どちらかといえば神奈子よりも諏訪子の方が楽しみやすいイベントなのかもしれない。
何せ、これほど上機嫌な諏訪子などあまりみたことがないのだから。
「ふふ、話題的には私の勝利といったところ――」
『それはない』
レミリアを萃香と一緒にあっさり否定してから、ミスティアはお客たちの嘘を思い出してみる。
嘘って言ってもいろんなやり方があるんだと、考えながら。
必要な情報を隠して騙す嘘。
結果的に嘘になったもの。
騙された本人たちが嘘と気づかないもの。
「んー、私はまだエイプリルフールだって実感したことないなぁ」
「なに? 騙して欲しいの?」
「いいえ、ソンナコトナイデス」
諏訪子が目を輝かせつつ身を乗り出してきたので、ミスティアはすぐさま身を引いた。
誰が嘘とわかりきった嘘を望むというのか。
本能的に危険を察知したミスティアは、慌てて身を引くが。
ただ、ミスティアの身体が過剰反応したのはどうやら、それだけが原因ではないらしく。
「……邪魔するよ」
健康オタクの自称やきとり屋、妹紅にも反応したのだろう。
しかしミスティアの反応に比べて妹紅は実に静か。
言葉少なくのれんをくぐると、最後に残っていた真ん中の椅子に腰を下ろした。しかし飲み物の酒の肴も注文もせずに、そのままカウンターに突っ伏してしまう。
「こ、こら! よくも私の屋台に入ってきたわね! 今日こそは八目鰻の素晴らしさを思い知らせて、焼き鳥料理なんてできない身体にしてやるんだから!」
実は、やきとり屋というのは嘘で、実際そんな店など開いてはいないのだが、鳥類保護を目的としているミスティアにとっては無視できない役職。
それゆえ、妹紅が店に足を運ぶたびに、やきとり道から足を洗わせようとするのである。
まあ、その分安く提供されるので妹紅にとってはいい話である。
ただ、最近ではさすがにそのやり取りが鬱陶しくなってきたのか、やる気のない態度で――やきとりなんてもうやってない、と返し。
その態度を嘘と判断したミスティアが、また、突っかかるという悪循環が繰り広げられており、現にほらこのとおり。
「あれ? や、焼き鳥料理なんてできない身体にしてやるんだから!」
「…………」
ほら、このとお、り?
「えーっと、も、もこーさーん? きーてますかー?」
いつもの、やる気のない返答が帰ってこない。
それどころか、カウンターに突っ伏したまま肩を震わせて。
「うぐ……、ぃっく……」
「な、なんぞっ!?」
何やら嗚咽らしきものを零しているようにも見える。
「あー、おかみさんがなかしたー」
「まったく、最低の店主もいたものね」
「ちが、私のせいじゃないでしょいまのっ!」
萃香、レミリアの協同攻撃を受け流しつつ、ミスティアが恐る恐る妹紅の背中を叩いてみる。カウンター越しにとんとんっと。
それでも、特に変化がなかったので。
楽しい話題でもないかなーっと、探して。
「ねえねえ、今日って何の日か知ってる?」
と、軽いノリで話しかけた途端。
萃香が、瞳を金色に染めて妹紅を睨み。
そのすぐ横にいたレミリアと神奈子も、何かを感じ取って椅子から離れた。
ミスティアも言葉を失って、力なく尻餅をついてしまう。
そのすべてを引き起こした中心は、妹紅。
彼女を中心に、爆発した『殺気』にも似た気配が吹き出し――
「……ねえねえ、お姉さん。この場所にそれをぶつけて得するやつは居ない。やめときなって。なんでむかついてるかは知らないけどさ」
1人だけ変わらずお酒を楽しみ続ける諏訪子の言葉を受けてから、はっ、と我に返った妹紅は周囲を見渡し。
「……ごめん」
また、突っ伏してしまう。
それでも今度は嗚咽を零さずに、メニューとにらめっこしているのは、多少気分が和らいだといっていいのだろうか。
「まったく、人騒がせだねぇ。お酒を飲む時間って言うのは鬼が一番大事にする時間だ。そういうのを邪魔しないで欲しいもんだよ。
その様子じゃ、何か嫌なことを吹っ切るために飲みに来たようにも見えるけど」
「萃香の言葉に乗るわけじゃないけど、溜めとくより出したほうがいいものもあると思うよ。ほかのお客さんだって似たようなもんだし。お酒を飲んでぱーっと忘れてさ」
「違う、忘れたいんじゃない……」
「へ?」
突っ伏したままではあるが、妹紅が口を開く。肺を圧迫するような体勢なので多少くぐもった声になってしまっているが、何とか聞き取れた。
「忘れたいけど、忘れたくないんだ……」
矛盾を含んだ言葉に、ミスティアは首を傾げることしかできずにいた。
そのまましばらく、してから。
「そうだ、うん。さっきの話、私も嘘吐かれたんだ」
静かに、静かに、妹紅が語り始める。
『わーい、採れた!』『すげー、俺も負けないぞー!』
日少し傾き始めた頃。
迷いの森の竹林で、タケノコ取り実習が行われていた。
もちろん、道案内兼ボディーガードの妹紅付で。てゐの罠も仕掛けられておらず、危険な妖怪もいない区域となるとかなり限られた場所になってしまうが、子供たちにとっては限りなく広い遊び場に見えたかもしれない。
走り回っては、慧音を困らせ
「こら、そっちはあぶないと妹紅が言っていただろう!」
そのため、定期的に怒鳴り声が響く。
「先生こわーい♪」
「へへへー、先生って怒ると角出たりするんだぜ!」
「尻尾だって生えるんだぜ!」
「え~い、お前たちは……」
そして、当然春は新入生が入ってくる季節でもあり。
慧音がハクタクであることを知っている上級生から、新入生へとからかいのネタが受け継がれる季節でもある。
タケノコ採りよりかけっこを優先し始めた子供たちを追いかけて、あっちこっちと忙しく動き回る慧音であるが……
とはいえ、人間形態では普通の人間より多少頑丈な程度。
地面を蹴るたび、どんどん息が上がっていき。
「ほーれ、いたずらっこ確保だ~」
「はぁ……はぁ……す、すまないな。妹紅……」
「気にしないで、子供は嫌いじゃないから」
必然的に妹紅が子供たちを集める役になった。
その後、慧音の息が整うのを待ってから、二人で人里まで子供たちを護衛し。
「じゃあね、また今度」
「あ、あぁ、また、今度」
西の空が茜色に染まった頃。
いつものとおり、里の入り口で妹紅が回れ右。
それを見て少し慧音が悲しそうな声を上げるが、それは仕方のないことだと割り切っている。永遠の命を得ることになった人間の歴史を良く知っているのは、慧音本人なのだから。下手をすれば、妹紅以上に……
ゆえに――
慧音は『それ』を口にしない。
でも今日がこんな日だったから――
「なあ、妹紅? 今日、子供たちと遊んでいたとき、簡単な嘘を言われなかったか?」
「ああ、今日はあれでしょ? エイプリルフールって外から流れてきたやつ。私の近くには元から大嘘吐きの兎が住んでいるからね、すっかり忘れてた」
くるり、と振り返れば。
夕日に照らされた人里と。妹紅の陰を受けて佇む慧音の姿があった。けれど、いつもの凛々しい姿ではなく、どこか怯えたように見えて。
「そうだ、な。うん。今日はエイプリルフールだ。嘘をついても許される日だったか」
「何度も確認しなくて良いって、それに、私は子供たちから嘘も酷いことも言われてない。心配しすぎだよ」
「ああ、そうか、それなら――」
胸の前で両手の指を遊ばせ、落ち着きなく視線を彷徨わせる。
まるで、いたずらをした子供みたいだと、妹紅は思わず微笑んでしまい。
「そ、それなら――、いまから一つだけ、嘘をついても……いい?」
その後、余計に子供っぽい姿を見せられ、笑い声を出してしまう。
すると
『わ、私は真剣だぞ!』
なんて、顔を真っ赤にして怒る始末。
ごめんごめん、と手をぱたぱたさせて、慧音をなだめてから。妹紅は、その慧音の真剣な嘘を待った。
「あの、嘘というのはだな……」
そもそも真剣に嘘をつく、とはいったいどういうことだろうか。
嘘というのは、嘘じゃないと思わせることが大事だというのに。
「妹紅……」
なんでこんなに泣きそうになるくらい、必死になっているのだろう。
それに、性格からして嘘が嫌いに思える慧音がいったい何を。
そこからしてもう、妹紅には判断不能で――
「――」
その言葉を聴いた瞬間、妹紅はその場を逃げ出していた。
その言葉こそ――
「あいつ! 最悪だ! なんで言うのよ、こんな日に。そんなことくらい私もわかってる! わかってるのに、なんで、思い出させるんだよ!!」
たった一言。
嘘だけど。
忘れたいけど、忘れられない言葉。
妹紅は、怒りを思い出したようにカウンターを叩き。
声を絞り出した。
「ずっと一緒にいようなんて、なんで今日言うのよっ!!」
そうして、また肩を震えさせ始めた妹紅の前に。
先に来ていたお客たちから、静かに熱燗が差し出された。
もちろん、ミスティアからも。
今宵の屋台は、長くなりそうである。
『鳥捕食反対組織推薦』
そんな昇り旗が目出つ、赤提灯の屋台。
妖怪が住む森の中といった辺鄙な場所ではあるが、店主の綺麗な鼻歌と美味しそうな料理の香りに誘われて、ほら、今日も1人目のお客が。
頭の両側に長い角がついている、愛らしい姿の――
「まったく! こんな酷い事があっていいのかい!」
伊吹萃香のダイレクトアタック、目にも止まらぬ平手打ちが屋台に襲い掛かり。
バキッ
「ええぇぇぇっ!?」
開口一番、開店直後。
カウンターを破壊するひどいヤツ。
今夜もやっぱり、屋台は大忙しのようです。
~春が来れば、屋台が壊れ――、濡れる~
「聞いてよ、むしろ聞くべきだ!」
「あーあー、そんなにバンバン叩かないでよ~、また壊れちゃうじゃないの!」
「直してあげたんだからいいじゃん」
「よくないのっ!」
さっきあっさりと屋台の一部を破損させた現行犯は、屋台で出したお酒と、手持ちのひょうたんのお酒を交互に飲み干して、またカウンターを叩き始めた。
座る位置が隅っこに移動していることと、若干力加減されているところから判断して、萃香なりに気を使って入るのだろうが。
いかんせん、抑えても鬼の膂力。
屋台が揺れるたび、みしみし、とかいう不幸を呼ぶ音がミスティアの耳に飛び込むものだから、彼女にとっては気が気ではない。
幸いなのは、まだお客が彼女しかいなかったことであろうか。
「いくら大工が得意だからって、いちいち壊されたんじゃ商売あがったりだよ!」
「あーもう、そんな小さなことよりさ!」
「大きいです、大問題っ!」
「霊夢がさぁ~、酷いんだよぉ。聞いてくれるだろうぅ~?」
「あ~、もう~、仕方ないなぁ……」
ミスティアの一生涯の職の問題があっさりポイされる。
悲しみの淵に落とされながらも、ミスティアはしぶしぶ世間話をすることに了承した。
これ以上状況が悪化しては不味いからであり。
萃香を不機嫌にさせすぎると命が危ういからである。
『いやぁ、鬼さん怒らせたら、“物理的に”ぴちゅっちゃいました♪』
短い生涯終了のお知らせである。
これ以上いけない。
幽々子的な意味も含めて。
「やっぱりそれって、お酒の話―?」
「あ、また、私をそういう目で見て。これから言うのは、鬼の尊厳をかけた問題であってだね!」
「ほんとにー?」
「本当だってば、あれはね。今日の朝のことだったよ。今思い出しても鳥肌が立つ……、ミスティアの屋台だけに、鳥肌……」
この酔っ払いのドヤ顔を殴りたい。
ミスティアの素直な感想であった。
とはいえ、いつまでも突っ込み続けては話が進まないと、握った串を一本折っただけで我慢したミスティアは、萃香の話に集中することにした。
◇ ◇ ◇
『いつも、宴会で人集めをしてもらって、悪いわね。感謝してるわ』
萃香の朝は、そんな優しい言葉から始まったそうだ。
「え?」
霊夢の発言とは思えない、それを受け。
縁側でお茶を楽しんでいた萃香は思わず湯飲みを落としそうになってしまう。なんだ、気味が悪いって、ちょっとだけ頬を染めて萃香が返すと。
霊夢はそっとお茶菓子を差し出し。
「これも食べてみて」
なんて、ありえないことを告げてくるのだ。
いつもは要求しても出てこないモノ。
お神酒を普通に日中で飲み干しても、茶菓子はでない博麗神社において、これが出るということは。すなわち異変にすら等しい行為といえるだろう。
「私が作ったの」
しかも手作り。
はっ、つまりは毒入りっ!?
「今、失礼なこと考えなかった?」
ぶんぶんっと大きく首を振った萃香は、震える指でそのお饅頭を口に運んでみて。
「美味しい……」
素直な感想を口にしてしまっていた。
もともと嘘はつけない種族なのだから、当然といえば当然なのだが。
「だから言ったでしょ、感謝の気持ちって」
「霊夢……」
春といえば、雪解けの季節。
もしかしたら、霊夢もとうとう大人になって。どこか萃香との間にあった氷壁を溶かしたのかもしれない。
だから萃香はその気持ちを受け止め、ぺこりっと頭を下げた。
「ふふ、それはまだ早いわよ。お昼にはあなたの大好きなものを準備してあげるからね」
「え、それって……」
お酒。
萃香が好きなものは何か、とたずねれば十中八九返ってくるもの。
それが準備されているという。
だから萃香はそわそわしながら、縁側で境内の中の桜を眺めた。
あの下で、茣蓙を敷いて、小さな宴会もいいかもしれない。
もちろん、霊夢と二人きりで。
ぽかぽかの暖かい陽気の中、そんな甘い想像をしていると。
「萃香~、早くしないとなくなるわよ」
「わかったー、今行く~!」
とうとう、お楽しみの時間がやってきた。
居間にいくと、正座する霊夢の横に、一升。
半透明の瓶が置かれていた。
「いいの、霊夢!」
「ええ、もちろん」
だから、萃香はもう、喜び勇んでその瓶を空け、一気に口の中へ。
ごくりっと、
◇ ◇ ◇
「……それがね、ラッキョウ酢だった」
「うわぁ」
外道過ぎる、鬼か。
鬼巫女か。
ミスティアは背筋が凍る想いであった、いろんな意味で。
「巫女は妖怪を殺す力を持つ、それを思い出した」
間違っても、ラッキョウ酢で思い出すものではない。
「でもさ、匂いとかで……」
「うん、まあ、変なにおいのお酒かなーって」
「それと、好きなものって……」
「あ、そうそう! それは私も納得できなかったから問い詰めたよ! なんでそれが私の好物なのかって!」
そりゃそうだろう。
ラッキョウ酢が好みの妖怪とか聞いたことがない。
むしろミスティア的に、『ラッキョウ酢の妖怪』とか言われたら、精神的に死ぬ。
「……そしたらさ、瓶の陰にさ。ラッキョウの酢漬けが隠れてたんだよねぇ」
「うわぁ……」
「いや、好きだけどさ。霊夢のつくる漬物大好きだけどさ! 宴会でもモシャモシャ食べるよ? 食べちゃうよ? でも違うでしょ? なんかこういう場面で漬物とか瓶で隠すとか反則じゃないかい!」
話を聞けば聞くほど、騙されるほうもどうかという感情がミスティアの中で芽生えてくるが、それを口にするとコキュって首をやられそうなので、喉の中で押さえ込んだ。
「でも、霊夢ってそんな脈絡もなく嘘をつくやつだったっけ」
「……それ! それなんだよ! あー、おかみさんよくわかってる! ほら、これ、これが私の霊夢をだめにしたんだ!」
と、言葉と同時に萃香が紙を差し出した。
ミスティアは何かと思い、何気にそれを受け取ったが。やっぱり何の変哲もない紙。あえて言うことがあるとするなら、日めくりカレンダーなだけ。
ミスティアの屋台の壁にも、天狗お手製のものがかけられているから――
と、そこでミスティアはぽんっと、胸の前で手を叩いた。
「ああ、エイプリルフール! 去年もそんなことあったね!」
「そう! なんでこんな嘘つくのかって聞いたらさ。『外の世界では今日は嘘をついても許される日~』だって! ここは幻想郷なんだよ! 外とは違うんだよ! ドヤ顔する霊夢も可愛かったよ!」
鬼が正直すぎて怖い。
ミスティアはとりあえずそのカレンダーを萃香に返し、ぽりぽりと頬を掻きながら。
「で、結局お酒の話じゃない?」
「違う! 嘘が嫌いな鬼にとって、命にもかかわる重大な問題のお話だっていうのに! そんなこともわからないのかい!」
鬼にとっては確かにそうかもしれない、が、ラッキョウ酢で命にかかわる鬼とか嫌過ぎる。しかし萃香から絡まれてはいるものの、世間話をする上でエイプリルフールといういいネタを得たミスティアにとっては、今の話はマイナスというほどでも――
「そうよ! 鬼にとって嘘は忌むべきものだわ!」
と、作業に戻ろうとしたところで。
屋台ののれんを揺らして誰かが入ってくる。
そして入るが早いか、萃香の隣に同じくらいの人影が腰を下ろした。桃色の特徴的な衣服とその偉そうな口調からして、誰かはわかりきっている。
けれど、屋台では珍しいお客だったので、ミスティアは素直に驚き、手を止めてしまっていた。
「あれ? お客さんは確か、湖の近くの」
「レミリアよ。そう呼んでいただいて結構、それよりも、先ほどの話! よーくわかる。わかりすぎるほどに!」
「そうかい、鬼の名がつくもの同士、わかりあえるのはいいことだよ。こいつは全然わかろうとしないから困るよ」
「私、夜雀だし」
特に仲は良さそうな種族でもないのに、何故か二人は手を取り合って頷き始める。妙な友情が芽生え始めているのかもしれない。
「そう、私もあなたと同様に騙された。いえ、裏切られたというべきかしら。
しかも、人間に、ね」
「ああ、ああっ! そうだよ、人間はいつも嘘をつくんだ。こっちが嫌になるくらい。それであんたはどんな風に裏切られたって言うんだい!」
しかし、何故だろう。
「えーっと、私、料理に集中してもいいよね?」
『ダメ!』
「あっはっは……はぁ」
ミスティアの頭の中から嫌な予感が溢れ出すのは……
そんな店主の乾いた笑いをBGMにして、レミリアはゆっくりと語りだしたのだった。
◇ ◇ ◇
今宵の月が昇ったときのこと、レミリアはベッドから体を起こす。棺おけで眠るときの方が多いけれど、その日はベッドという気分だった。
そうして、おもむろに床に下りて、立ったまま腕を横に。肩の高さまで上げてやると。
「今日の予定は何かあったかしら?」
瞬きをするほどの時間だった。
白い肌を包んでいた桃色のネグリジェから、普段着へと、その姿が変わる。
「パチュリー様が、図書館に足を運んで欲しいとおっしゃっておいででしたわ」
と、同時に。その斜め45度後ろ、頭を下げた状態の咲夜が姿を見せた。
鏡に映らない吸血鬼にとって、自らの身だしなみを整えるのは難しい。そのため、農直のあるメイドを雇い入れることが一つのステータスでもあった。
その中でも、咲夜を雇い入れることができたレミリアはどうかといえば。
語るまでもない。
時を止めて世話をできるものなど、彼女の他にいないのだから。
「咲夜……」
そう、極めて優秀であるからこそ。
レミリアの期待に答え続けてきた。
レミリアも、彼女の能力を理解し、できないことを依頼することはなかった。
「今夜は私が支持を出す」
「お、お嬢様! いけません!」
だが、今だけは違った。
レミリアはどうしても、それを求めたのだ。
多少の無理を通してでも、手に入れると。咲夜に告げたのだ。
「妹様が、悲しまれます……」
「それを納得させるのが、あなたの仕事よ」
「わかりました、では」
闇の眷属には、己が欲望を通さなければいけないときがある。
それが、たとえどのような犠牲を払おうとも。
「……できる限りのことは、やってみるつもりです」
「その後のフランのことは、あなたが気にする必要はない」
その犠牲が、実の妹であろうとも……
この地に住む闇の一族として、力を振るわねばならない。
「期待しているよ、咲夜」
顔をわずかに青くした咲夜であったが。それでもやはり紅魔館のメイド長、優雅に一礼してそのまま気配を消した。
それを確認してから、レミリアはふふっとわずかに口元を歪め、ばさりと、大きく羽を揺らした。
◇ ◇ ◇
「そ、それなのに! お願いしたのに! 咲夜ったら、ブラッディプリンじゃなくて、ブラッディカステラを夕食のデザートに準備していたのよ!」
「……」
「……」
「確かに、今日はフランのお菓子リクエストの日だった。それでも、それでもよ。どうしても食べたいときってあるじゃない? それなのに、咲夜は――
『すみませんお嬢様、ですが、レミリア様はフランドール様のお姉様であらせられるので……』
って、あっさりフランに押し切られちゃった言い訳までする始末! こんなことがあっていいのかしら! これは、エイプリルフールを利用したメイドの嘘、いえ、反逆行為で――」
ジュゥゥゥ……
「あ、ミスティアそろそろ串やけたんじゃないか?」
「だめだよ。こういうのは焦りが禁物なの」
「聞きなさいよ! むしろ聞いてプリーズ!」
隣の萃香の肩を両手で掴んで、ねぇねぇと揺らしてはいるが。萃香は虫を押し通して焼き八目鰻を口の中に放り込むばかり。
それでも、レミリアの瞳がうるうるし始めると、しょうがないといった様子で振り向いた。
「あのね、それと。私のさっきの話をよく同じような話と言えたね」
「騙された話という意味では同じ属性ということよ。ほら夜雀、私にも何か寄越しなさい!」
「えーっと、出すのはいいんだけどね。お金とか、物々交換できそうなものは?」
「……ん?」
「わかった、後でメイドに請求する……」
「ああ、私のもツケで」
「むー!」
「はっはっは、後でちゃんと払うって。去年もそうしたじゃないか」
「……いいけどね、まったくもぅ」
霊夢の嘘に騙されて、明らかにお酒と風味の違うラッキョウ酢を飲んだ鬼と。
我侭全開で従者に命令したはいいが、それが通らず鬱憤を晴らしにきた吸血鬼。
共通点は無銭飲食。
ミスティアにとっては厄介極まりない客という意味でも同じかもしれない。
「なんだいなんだい? もうすぐ桜も見ごろだって言うのに、景気の悪い客ばかりのようだね」
「あ、八坂様!」
「私も居るよん」
ミスティアの声が一段高くなり、新たなお客の来訪を告げる。
店に入るために置いてきたようではあるが、やはりこのお客の中ではどうしても頭二つ以上出てしまう八坂神奈子と、帽子がトレードマークの洩矢諏訪子の神様コンビ。
神様だからミスティアが声を高くしたのかというとそうではなく。
「悪いね。後で払うとごちゃごちゃになりそうだから。今日も前払いでいいかい?」
「いえいえー、大歓迎ですよ! ささ、どうぞ座って座って。洩矢さんも」
「私なら諏訪子でいいんだけどね。律儀に苗字で言わなくてもさ」
あれ? 何この扱いの差。
と、先に来ていた二人が目をぱちぱちさせているうちに、神奈子と諏訪子は真ん中の席をひとつ空けた状態で、正反対の位置に腰を下ろす。
しっかり注文を確認したり、愛想笑いを振りまいたり、と。
忙しく動き始めたミスティアに、鬼関係の二人はふぅっとため息をつき。
「守銭奴」
「資本主義の犬」
「えええっ!? いや、その前に犬じゃないし!」
客から暴言が飛び出したりもするけれど、ミスティアは今日も元気です。
「あのねー、私だって仕入れとか。そういうときに物々交換して足りないものとか補充してるわけ。だからそんなこといわれる筋合いはありませんー!」
というわけで、前払いで人里の通貨を多めにくれる神様は、ミスティアにとって上客のような扱いとなる。
それ以外の妖怪のお客の場合だと物々交換が多いので、もらった後でまた売り払わないといけないわけだが。
時には人間の死体とか、危険物を持ち込む地底動物(?)もいるので困った話である。
「まあまあ、けんかしない。さっきまではずいぶん楽しそうな声が聞こえていた気がするが、どんな話題だったのかな?」
と、出てきた熱燗を諏訪子と分けながら神奈子が尋ねると、待ってましたと言わんばかりに、ミスティアが身を乗り出し。
『エイプリルフール』という単語を口にする。
外からやってきた神様なら、むしろこの現象を広げた犯人と思われる早苗と共に暮らしている二人からなら、何か別の話題を掘り出せると思ったんだろう。
だが、
「はぁ」
返ってきたのは予想とは違う。暗いため息。
それとは対照的に、隣の諏訪子のはしゃぎようが気になる。
「あれ? 八坂様もあっちの二人と同じで人間に騙された?」
「いや、そうではなくだね」
「ふふーん、じゃあ私から説明してしんぜよう~」
そう言うと、諏訪子は今朝の出来事を話し始めたのである。
はじまりは、そう。
諏訪子が後もう少しで会えなくなるコタツ布団との別れを惜しんでいた頃。
『今年は絶対に騙されない!』
去年は早苗にすっかり騙された神奈子による、強い決意表明が部屋の中であがった。
また今年もエイプリルフールだからおもいっきりやられるんだろうなぁ、と、諏訪子が蚊帳の外で温もっていたら。
「本当ですか、八坂様!」
「ああ、本当だとも! いくら早苗がエイプリルフール上級者であろうと、神である私を越えることなどできないことを証明して――」
「でも、私もう嘘ついてるんですけど」
「そ、そんな馬鹿な!」
「まあ、嘘ですけどね」
「……あれ?」
勝てる見込みがない。
諏訪子は確信した。
それを神奈子も感じたのか、今度は目標を諏訪子に変えてきて。
『浅はかな古い土着神では、私を騙すことなど不可能』
なんて顔を真っ赤にして言う。
仕方がないので諏訪子はにっこりと微笑み。
「手巻き寿司と、フラフープ。それが『御柱』と『注連縄』に見える“呪い”を掛けた」
「うわぁ……」
もはや嘘どころの騒ぎではない。
呪術である。
「そしたらさー、神奈子すっかりだまされちゃって。背中に手巻き寿司とフラフープくっつけて出ていっちゃったんだよねー、うん。さすがにあのときは、焦った。
教えなかったけど♪」
決して諏訪子にはケンカを売るまい。
笑顔の奥にどす黒いものを感じ取り、ミスティアはそう心に誓った。
「え、でも? お客さんから教えてもらえるんじゃ?」
「あー、そりゃあ、まあ、私の話術でね」
小さな体でえっへん、と諏訪子が胸を張り。
「今日の御柱は、妖怪の山(の畑)でとってきた、新鮮な(きゅうりの)柱(入り太巻き)、注連縄は神を奉り、(脂肪燃焼により腰回りを)維持するためのもの。って、御柱と注連縄との共通点を使って、お客にもそう見える呪いを……じゃなくて説明を、ね?」
※話術× 呪術○
なにはともあれ、想像してみよう。
つまり、先っぽがくにゃっとした通常サイズの太巻きを肩からにょきっと生やし、ついでに真っ赤なフラフープを腰で固定して、うっすらと笑みを浮かべて威厳を放つ神。
……えっと、威厳?
おもいっきり狙ったのに、外しまくった人里の芸人のような雰囲気に近いのではないだろうか。
いや、しかし、神奈子が自信満々でずっしりと座っている。そんな映像がいきなり現れたとしたら。
「ぷっ」
間違いなく、軽く噴き出すだろう。
想像しただけで、ミスティアがそうなったのだから。
「あー、笑ったね?」
「い、いえいえ、八坂様を想像していたわけじゃ……」
カウンターに肘を置き、目を細める神奈子の迫力に押され、ミスティアは慌てて首を横に振るが、ばればれなのは明らからしく。
頬杖をつきながら、はぁっとため息を吐いた。
「まったく、早苗も厄介な風習を取り入れたもんだよ」
「私は楽しいけどねー」
「あんたはいいよね。早苗の標的にならないんだから」
確かに、どちらかといえば神奈子よりも諏訪子の方が楽しみやすいイベントなのかもしれない。
何せ、これほど上機嫌な諏訪子などあまりみたことがないのだから。
「ふふ、話題的には私の勝利といったところ――」
『それはない』
レミリアを萃香と一緒にあっさり否定してから、ミスティアはお客たちの嘘を思い出してみる。
嘘って言ってもいろんなやり方があるんだと、考えながら。
必要な情報を隠して騙す嘘。
結果的に嘘になったもの。
騙された本人たちが嘘と気づかないもの。
「んー、私はまだエイプリルフールだって実感したことないなぁ」
「なに? 騙して欲しいの?」
「いいえ、ソンナコトナイデス」
諏訪子が目を輝かせつつ身を乗り出してきたので、ミスティアはすぐさま身を引いた。
誰が嘘とわかりきった嘘を望むというのか。
本能的に危険を察知したミスティアは、慌てて身を引くが。
ただ、ミスティアの身体が過剰反応したのはどうやら、それだけが原因ではないらしく。
「……邪魔するよ」
健康オタクの自称やきとり屋、妹紅にも反応したのだろう。
しかしミスティアの反応に比べて妹紅は実に静か。
言葉少なくのれんをくぐると、最後に残っていた真ん中の椅子に腰を下ろした。しかし飲み物の酒の肴も注文もせずに、そのままカウンターに突っ伏してしまう。
「こ、こら! よくも私の屋台に入ってきたわね! 今日こそは八目鰻の素晴らしさを思い知らせて、焼き鳥料理なんてできない身体にしてやるんだから!」
実は、やきとり屋というのは嘘で、実際そんな店など開いてはいないのだが、鳥類保護を目的としているミスティアにとっては無視できない役職。
それゆえ、妹紅が店に足を運ぶたびに、やきとり道から足を洗わせようとするのである。
まあ、その分安く提供されるので妹紅にとってはいい話である。
ただ、最近ではさすがにそのやり取りが鬱陶しくなってきたのか、やる気のない態度で――やきとりなんてもうやってない、と返し。
その態度を嘘と判断したミスティアが、また、突っかかるという悪循環が繰り広げられており、現にほらこのとおり。
「あれ? や、焼き鳥料理なんてできない身体にしてやるんだから!」
「…………」
ほら、このとお、り?
「えーっと、も、もこーさーん? きーてますかー?」
いつもの、やる気のない返答が帰ってこない。
それどころか、カウンターに突っ伏したまま肩を震わせて。
「うぐ……、ぃっく……」
「な、なんぞっ!?」
何やら嗚咽らしきものを零しているようにも見える。
「あー、おかみさんがなかしたー」
「まったく、最低の店主もいたものね」
「ちが、私のせいじゃないでしょいまのっ!」
萃香、レミリアの協同攻撃を受け流しつつ、ミスティアが恐る恐る妹紅の背中を叩いてみる。カウンター越しにとんとんっと。
それでも、特に変化がなかったので。
楽しい話題でもないかなーっと、探して。
「ねえねえ、今日って何の日か知ってる?」
と、軽いノリで話しかけた途端。
萃香が、瞳を金色に染めて妹紅を睨み。
そのすぐ横にいたレミリアと神奈子も、何かを感じ取って椅子から離れた。
ミスティアも言葉を失って、力なく尻餅をついてしまう。
そのすべてを引き起こした中心は、妹紅。
彼女を中心に、爆発した『殺気』にも似た気配が吹き出し――
「……ねえねえ、お姉さん。この場所にそれをぶつけて得するやつは居ない。やめときなって。なんでむかついてるかは知らないけどさ」
1人だけ変わらずお酒を楽しみ続ける諏訪子の言葉を受けてから、はっ、と我に返った妹紅は周囲を見渡し。
「……ごめん」
また、突っ伏してしまう。
それでも今度は嗚咽を零さずに、メニューとにらめっこしているのは、多少気分が和らいだといっていいのだろうか。
「まったく、人騒がせだねぇ。お酒を飲む時間って言うのは鬼が一番大事にする時間だ。そういうのを邪魔しないで欲しいもんだよ。
その様子じゃ、何か嫌なことを吹っ切るために飲みに来たようにも見えるけど」
「萃香の言葉に乗るわけじゃないけど、溜めとくより出したほうがいいものもあると思うよ。ほかのお客さんだって似たようなもんだし。お酒を飲んでぱーっと忘れてさ」
「違う、忘れたいんじゃない……」
「へ?」
突っ伏したままではあるが、妹紅が口を開く。肺を圧迫するような体勢なので多少くぐもった声になってしまっているが、何とか聞き取れた。
「忘れたいけど、忘れたくないんだ……」
矛盾を含んだ言葉に、ミスティアは首を傾げることしかできずにいた。
そのまましばらく、してから。
「そうだ、うん。さっきの話、私も嘘吐かれたんだ」
静かに、静かに、妹紅が語り始める。
『わーい、採れた!』『すげー、俺も負けないぞー!』
日少し傾き始めた頃。
迷いの森の竹林で、タケノコ取り実習が行われていた。
もちろん、道案内兼ボディーガードの妹紅付で。てゐの罠も仕掛けられておらず、危険な妖怪もいない区域となるとかなり限られた場所になってしまうが、子供たちにとっては限りなく広い遊び場に見えたかもしれない。
走り回っては、慧音を困らせ
「こら、そっちはあぶないと妹紅が言っていただろう!」
そのため、定期的に怒鳴り声が響く。
「先生こわーい♪」
「へへへー、先生って怒ると角出たりするんだぜ!」
「尻尾だって生えるんだぜ!」
「え~い、お前たちは……」
そして、当然春は新入生が入ってくる季節でもあり。
慧音がハクタクであることを知っている上級生から、新入生へとからかいのネタが受け継がれる季節でもある。
タケノコ採りよりかけっこを優先し始めた子供たちを追いかけて、あっちこっちと忙しく動き回る慧音であるが……
とはいえ、人間形態では普通の人間より多少頑丈な程度。
地面を蹴るたび、どんどん息が上がっていき。
「ほーれ、いたずらっこ確保だ~」
「はぁ……はぁ……す、すまないな。妹紅……」
「気にしないで、子供は嫌いじゃないから」
必然的に妹紅が子供たちを集める役になった。
その後、慧音の息が整うのを待ってから、二人で人里まで子供たちを護衛し。
「じゃあね、また今度」
「あ、あぁ、また、今度」
西の空が茜色に染まった頃。
いつものとおり、里の入り口で妹紅が回れ右。
それを見て少し慧音が悲しそうな声を上げるが、それは仕方のないことだと割り切っている。永遠の命を得ることになった人間の歴史を良く知っているのは、慧音本人なのだから。下手をすれば、妹紅以上に……
ゆえに――
慧音は『それ』を口にしない。
でも今日がこんな日だったから――
「なあ、妹紅? 今日、子供たちと遊んでいたとき、簡単な嘘を言われなかったか?」
「ああ、今日はあれでしょ? エイプリルフールって外から流れてきたやつ。私の近くには元から大嘘吐きの兎が住んでいるからね、すっかり忘れてた」
くるり、と振り返れば。
夕日に照らされた人里と。妹紅の陰を受けて佇む慧音の姿があった。けれど、いつもの凛々しい姿ではなく、どこか怯えたように見えて。
「そうだ、な。うん。今日はエイプリルフールだ。嘘をついても許される日だったか」
「何度も確認しなくて良いって、それに、私は子供たちから嘘も酷いことも言われてない。心配しすぎだよ」
「ああ、そうか、それなら――」
胸の前で両手の指を遊ばせ、落ち着きなく視線を彷徨わせる。
まるで、いたずらをした子供みたいだと、妹紅は思わず微笑んでしまい。
「そ、それなら――、いまから一つだけ、嘘をついても……いい?」
その後、余計に子供っぽい姿を見せられ、笑い声を出してしまう。
すると
『わ、私は真剣だぞ!』
なんて、顔を真っ赤にして怒る始末。
ごめんごめん、と手をぱたぱたさせて、慧音をなだめてから。妹紅は、その慧音の真剣な嘘を待った。
「あの、嘘というのはだな……」
そもそも真剣に嘘をつく、とはいったいどういうことだろうか。
嘘というのは、嘘じゃないと思わせることが大事だというのに。
「妹紅……」
なんでこんなに泣きそうになるくらい、必死になっているのだろう。
それに、性格からして嘘が嫌いに思える慧音がいったい何を。
そこからしてもう、妹紅には判断不能で――
「――」
その言葉を聴いた瞬間、妹紅はその場を逃げ出していた。
その言葉こそ――
「あいつ! 最悪だ! なんで言うのよ、こんな日に。そんなことくらい私もわかってる! わかってるのに、なんで、思い出させるんだよ!!」
たった一言。
嘘だけど。
忘れたいけど、忘れられない言葉。
妹紅は、怒りを思い出したようにカウンターを叩き。
声を絞り出した。
「ずっと一緒にいようなんて、なんで今日言うのよっ!!」
そうして、また肩を震えさせ始めた妹紅の前に。
先に来ていたお客たちから、静かに熱燗が差し出された。
もちろん、ミスティアからも。
今宵の屋台は、長くなりそうである。
でも最後の一文から想像されるその後のささやかな宴を想像するのは非常に楽しい
なんだかんだ言いながらみんな妹紅を慰めてやるんだろうな
それからコメントには同意ですw
慧音先生って意外と抜けてそうですよね
霊夢も咲夜も早苗も、短く美しい光だしな。
ホント、やられた……。
……熱燗、こっちにも一つ
追伸<大失敗ですよ!!!