※タイトルに探偵とありますが、まともな推理はしません
「真相がわかったわ」
幽香さんの発言が、この場にいる全員の注目を集めた。
博麗神社でお金が盗まれた。容疑者は被害者の霊夢、神社に遊びに来ていた魔理沙とアリス、そしてたまたま現場近くに居合わせた幽香さんとこの私、リグル・ナイトバグ。
果たしてこの中に犯人がいるのだろうか(もちろん私は盗んでいない)、幽香さんの推理に期待することにしよう。
「何だって、盗んだ犯人が誰かわかったと言うのか?」
霧雨魔理沙が吐いた言葉を皮切りに、皆が思い思いの感想を口にする。
「犯人の手がかりは見つからなかったのに?」
魔理沙の言葉に続いたのは博麗霊夢。
「私は犯人じゃないわよ」
アリス・マーガトロイドは自分の潔白を主張した。
「幽香さん、この中に犯人がいるのですか?」
「さて、今回の事件をおさらいしましょう。
まず、今回無くなったのは、異変解決の御礼である小判でいいかしら?」
「その通りよ。里の人が神社に来たんだけど、あいにく私は不在だったから受け取れなかったのだけどね」
留守にしていたのね、と幽香さんは言った。
「では魔理沙とアリス、質問に答えてちょうだい。
あなたたちは神社に遊びにきたけど、肝心の霊夢はいなかった」
「ああ、霊夢はいなかった。なあ、アリス」
「そう。それで少しの間待ってみようってことになって2人でここにいたの。そしたら机の上に書き置きを見つけたわ」
「別にその時はお金が盗まれたとは思ってなかったさ。霊夢が金をしまって書き置きだけ机の上に置いてただけかもしれなかったしな。だが、その後すぐに霊夢が帰ってきて騒ぎになった」
書き置きには、霊夢が留守なので謝礼として十両を置いていきます、という旨の文章が記されてあった。しかし、実際にはその十両はどこかへいってしまった。机の上には書き置きと観賞用の植物(名前はわからない)、そしてせんべいやようかんなどのお茶受けしか置いていなかった。
普通に考えれば、里の人がここを去ってから、魔理沙たちが神社に来るまでの間に犯行が行われたことになる。つまり、霊夢が神社を離れている間に、里の人が留守の神社に謝礼を置いていったが、魔理沙とアリスが訪れた時には無くなっていたのだ。
「つまり、あなたたちがここに来た時にはすでにお金はなかったということになるわね」
「そうなるな。私としては謝礼が置かれてから、私たちがここに来るまでの間に行われた説を推したい」
魔理沙はそう結論付けた。
「でも幽香さん、逆に言うとですよ。仮にこの2人が犯人だとしたら、犯行が行われたのは魔理沙とアリスが神社に来てから霊夢が戻ってくるまでの間になりますよね?」
「ちょ・・・・・・ 仮に私たちが犯人だったとして、金はどこにある?
神社やその周辺を探したがお金なんか出てこなかったじゃないか」
魔理沙は私の推理に異を唱えた。
悔しいがその通りである。事件が起こって、無くなったお金をくまなく探したが出てこなかった。
「ええ、出てこなかったわ。
それもそのはず、だってお金なんて最初から存在しなかったもの」
「存在しなかった? じゃあ、あの書き置きはいったい!?」
「幽香さんということは・・・・・・」
狂言だということになりますね、とおそるおそる言った。
必然的に犯人はこの神社の巫女、博麗霊夢ということになる。
「何ですって!?」
私は彼女を観察した。霊夢は手をわなわな震わせ、とても驚いた顔をしていた。
・その2
「犯人は私だって言うけどね。一番疑わしいのはあんたたちよ」
そ う言って霊夢は私と幽香さんを指差した。
「だってそうでしょう。証拠なんてないし、どうして私が犯人ってことになるのよ。
事件が発覚したすぐ後、神社からあんたたちが飛び去るのを見たもの。お金を取ってさっさと逃げたつもりでも、ちゃあんと見てたんだからね」
「じ、神社には来てないよ。神社のすぐ側の森で虫を探してただけだってば!」
「ふん、どうだか」
「なあ霊夢、あいつらは犯人じゃないと思うぜ。これがミステリー小説なら騒動が起こったとき、逃げるように去っていったあいつらは一番怪しいけど、犯人としては失格だ。むしろ、神社の主である霊夢、そして書き置きを見つけた私たちが最有力犯人候補だ。大穴として謝礼を届けにきた里の人だな」
「里の人は出てきた描写がないし、名前も無いから違うと思うわ。
私としては、一見事件に巻き込まれた風を装った探偵役の風見幽香が怪しいと思う。ほら、探偵が犯人ってミステリあるじゃない、本のタイトルはええと・・・・・・」
それ以上いけない! タイトルなんか出したら、ネタバレになってしまうじゃないか。
危機感を抱いた私は、脱線した話題を元に戻すことにした。
「それは小説の中の話です! これは現実に起こった事件、この際そういう考えは捨てましょう!」
「それもそうね、小説のお約束なんて当てにならないわね」
アリスは納得した。
「推理をしてみて、疑問に思ったのだけどね。霊夢、里の人はどうしてあなたに直接謝礼を渡さないで帰ってしまったのかしら?」
「そんなの決まってるでしょ。私が留守だったから仕方なく書き置きとお金を残したのよ。
私がいつ帰るかなんてことわからなかったでしょうに」
おかしい。
私はそう思った。
その説明には決定的におかしな部分がある。
「幽香さん、霊夢の言い分が正しいとすると里の人はずいぶんと常識外れな人物ということになりますよ」
「気がついたようね、リグル」
「おいおい、今の霊夢の言い分に何か変なところがあったか? いなかったら物を置いていくこともあるだろうし、別におかしいことではないだろ」
「それが普通の品物なら特に問題ないわ。でも今回残していったのはお金。
しかも十両もの大金よ、普通なら本人に直接渡すべきでしょう」
あっ、と一同は驚き、そして幽香の言い分に納得した。
「たしかに・・・・・・ いくら訪問先が留守でいつ帰るかわからなかったとしても、現金を残して帰るなんてことは考えにくいわね」
アリスはほおに手を当ててそうつぶやいた。
「なんでこんな簡単なことに気がつかなかった」
魔理沙もアリスの言葉に追随した。
なるほどそういうことだったのか、私にも謎が解けたような気がする。
「私にも真相がわかりました、幽香さん!
博麗霊夢はいくら異変を解決しても、神社には妖怪ばかりが来て人間はいっこうに来なく、お賽銭も入らずけして裕福とはいえなかった。それに不満を抱いた彼女はある計画を思いついた。
そう、狂言です。居もしない里の人からありもしない謝礼をもらったことにして、それを盗まれたとことにすればいいと考えた。おそらく盗難保険にでも入っていたのでしょう。しかし、運の悪いことに幽香さんを捕まえ、あまつさえ容疑者に・・・・・・」
「全然違うわ、リグル。そもそも霊夢は犯人じゃないもの」
「だから私は犯人じゃないわよ! ・・・って、え?」
霊夢は虚を付かれたのか、すっとんきょうな声を上げた。
「すると、犯人は魔理沙とアリス? またはどちらかの単独犯ですか」
「魔理沙とアリスも犯人じゃないわ」
風見探偵を除く一同は困惑した。
霊夢、魔理沙、アリス、その誰もが犯人じゃない? ならばだれがお金を盗んだの!?
もしかして大穴の里の人かしら。もしこれが推理小説だったら、書いた作者は今すぐ筆を折るべきだろう。そんなことを考えながら、幽香さんの次の発言を待つことにした。
あ、ちなみに私は犯人じゃないよ。
・その3
「霊夢、この植物に見覚えはないかしら? 机の上に置いてあった物よ」
そう言って幽香さんは手に持った鉢植を見せた。小さめの鉢植には植物が植えられていた。高さは1メートルぐらいで枝には緑色でギザギザの葉が生い茂り、いくつかの赤い実がぶら下がっていた。この実はさくらんぼに似ていたが、一回り小さくつやつやとしていた。
「神社(うち)のじゃないわよ。第一、こんな植物見たことないわ」
「そう見覚えがないのね」
「その植物がどうしたんですか? 書き置きと共に机の上に置いてあったものですよね」
「この植物の名前はヤブコウジ。そして別名を十両というわ」
「へー、初めて聞く名前だな・・・・・・ って十両!?」
幽香さんがまるで関係のない話題を出したことに疑問を抱いてたが、おそらく彼女の意図を理解したのだろう、魔理沙はとても驚いた顔をした。
「つまり、謝礼の十両っていうのが・・・・・・ その植物、十両のことを指すのね」
「そうなるわ。
このヤブコウジ科のヤブコウジはこの幻想郷、そして日本全国に分布する植物よ。冬に実をつけたヤブコウジは正月の縁起物として親しまれているわ。」
「賽銭を入れる人がめったにいない神社で働いている霊夢は裕福とはいえなかった。おそらく、それをかわいそうに思った里の人は、縁起物である十両の鉢植えを謝礼としてこの神社に届けようとした」
まあ、これは想像だけどね、とアリスは言った。
「霊夢が不在だったため、しかたなく十両と書き置きを残して帰ったのか。そしてその置き土産を見た霊夢は小判の十両と勘違いして、十両が盗まれたと思った」
魔理沙は、最初から机の上にあったにも関わらずにな、と結んだ。
「そもそもおかしいと思わなかったの? 小判なんて物は今やこの幻想郷では流通してないじゃない」
「小判だって立派なお金よ! 古物商かどっかで両替してもらえればちゃんと現金になるじゃない」
「それはそうだけど・・・・・・」
「とにかく、今回の事件はただの勘違いだったんですね?」
「ええ、そうよ。私は勘違いで危うく犯人にされるとことだったわ」
「それについては申し訳ないと思ってるわ・・・・・・」
霊夢は肩を落としてそうつぶやいた。
こうして謝礼盗難事件は幕を閉じた。
・その4
事件の翌日、私は幽香さんの家に行った。
これはそこでの会話の一部。
「というわけでヤブコウジをもらってきたわ」
「どういうわけですか」
私は思わずつっこんだ。
私は知っている。このヤブコウジは幽香さんが霊夢から半ば強引にもらってきたということを。
「まあ、事件の解決料ということにで」
「はあ、そうですか・・・・・・」
私はこれ以上追及しないことにした。
「しかし、幽香さんの推理は見事でしたね」
「あんなの推理でも何でもないわ」
「またまた謙遜しちゃってー。探偵でも初めたらどうです?」
「いやよ、めんどくさい」
幽香さんは乗り気ではないようだ。
だが、私たちはこの時はまだ、事件をきっかけに新たな災難に巻き込まれることを知るよしもなかった・・・・・・
余談ではあるが、十両を手に入れた幽香さんは以前よりほんの少しだけ裕福になった。一方、神社にお参りに来る人が少ない霊夢は相変わらずお金に困ってたそうな。
平然とメタいこと話し出したのがなんか笑えた。