Coolier - 新生・東方創想話

半霊の独白 ーーShangri-La of the Sacrament and Then.

2012/04/10 23:09:52
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 ご主人様は先ほどまでお料理を成されて居りました。ご主人様のご主人様への聖餐であるとご主人様は仰っておりました。ご主人様のご主人様はそれを“シャングリラ(Shangri-La)”と呼ぶのだと、ご主人様はお喜びの笑みを浮かべて居られました。そして私たちのいる“白玉楼”こそ、ご主人様のシャングリラだと、ご主人様は仰ってました。

 申し遅れました。私は冥界略々全域幽霊管轄地白玉楼の半霊です。白玉楼の瀟洒なる庭師、魂魄妖夢様にお仕えする、半透明の穢れ亡き浮遊物体で御座います。いつもご主人様の元を離れず浮遊している木偶の坊ですが、時としては“身の冷やし”として働いている次第で御座います。ご主人様はこれをご主人様のご主人様に“遊び”と表現してらっしゃいますが、私にとっては“ご褒美”に他ならないのです。なんたる僥倖! ご主人様は霊の半透明な涼みに当たられ、非常にご満悦な表情を向けてくれるのです。敬意とも言えぬ感動を、私はひしひしと感じるのです。

 私たち半霊とは、半人であるご主人様に従順な幽霊です。嘯きや逃避は在るまじき行為、不浄である場合は己の全てを以て成仏しなければなりません。ご主人様へ心からの信頼と好意を忘れてはならないのです。

 そんな私たちはご主人様へ感謝の気持ちを声なるものでお伝えすることは、神からの“運命”として禁忌とされていることに、とてもとても残念であると日々嘆いているのです。旨としましては、半霊如きで至極辱い戯言だと承知しておりますが、深く深くご主人様への感謝をお伝えしたいと、心底から御祈祷しているので御座います。

 さて、僭越ながら今の状況を木偶の坊がご報告させて戴きますと、妖夢様と幽々子様の“シャングリラ”が開いたご様子です。
 豪華な酒肴、彩られた和食と洋食、そして目を奪われる神々しいスウィートーーこれら全て、ご主人様がご用意したシャングリラなので御座います。
 どこで買ったのか、いつ買ったのか、半霊はいつも脇傍にて見守りしているので、それが判るのです。

「では幽々子様、今宵の食事を」

 妖夢様はいただきますと一言感謝申し上げられましてから、ご丁寧にスプーンとナイフを持たれ、幽々子様の御膳択に置かれていますトリに刃を挿します。大量の肉汁とともに、幽々子様のお口元からも垂れ落ちるものがあります。

 半霊とそのご主人様はお互いにリンクしているという噂がありますが、決してそんなことはないのです。私たちはご主人様の食事を見守ることでその存在意義を成すのです。召し上がるだなんて飛んだ御無礼、浅陋たるお言葉は控えよと言いたい次第で御座います。

「お口に合いますでしょうか?」

 ご満悦の幽々子様は、妖夢様へ温かい笑顔を向けておられます。私も長年お仕いさせて戴いているのですが、表情で気持ちを伝えられることがどれほど素晴らしいことなのか理解できます。私たち霊に表情はありません。ただ、ご主人様の反応を拝見するのみで御座います。
 それでもご主人様は私たちを思っていると信じております。

 酒肴もスウィートも何もかも平らげられた幽々子様は、台所から見てもお休みに成られましたご様子です。ご主人様は相変わらずご主人様の為に台所での仕事を熟しておられます。

 数分で食器を収斂させたご主人様は、もう夢の中へ行かれた幽々子様へ、愛情のように温かい毛布を丁寧にお掛けに成られたあと、沿うようにして幽々子様に背中合わせでお座りに成られます。


 もう眠られたお二人は、とても美しい寝顔で、今宵のシャングリラを閉じられました。






















 ーーAre you Ready?



 YEAHHHHHHHHHHHHH!!!!

 お二人が寝ている間は俺は自由だ。何をしても、何処へ行っても、ご主人様が起きない限りは自由だ。

 言い忘れたが、ご主人様にお仕えするのであって、決してずっとその状態をキープしろというものではない。そもそもその縛り自体俺自身が決めた“ルール”だから破ろうが問題ないわけだ。これらが愚行と自覚していても、やはり束縛に於かれる人生とは半霊にもキツイものがある。

 半霊とは無垢で馬鹿で愚かだ。但し穢れを知らない。その典型的な例が……俺だ。
 ご主人様が起きてる場合は慇懃に、寝ている場合は自由に。

 だからと言ってご主人様への敬意を忘れたと勘違いされては困る。常にご主人様への好意と敬意は怠らないし、もし欠いたら己の責任をもって成仏を乞う。

 今宵は祭りだ。今日はいつにも増してたいへんなシャングリラだったから、お二人は当分の間目覚めるには至らないだろう。

 さて、これからは俺が“シャングリラ”を堪能する番だ。

 まずは妖夢様のお顔を至近距離でクンカクンカして……





 ーー妖夢様の両眼が……静かに開かれた。
元ネタは平山夢明の〈独白するユニバーサル横メルカトル〉です。
一風変わった作品なので、独白しかできない半霊を主人公に重ねて欠いてみようか、といったノリで完成したのがこの作品です。
敢えて幽々子は喋らせませんでした。二人だけの空間と言うことで。

主人が半霊を管理しきれない、若しくは目の届かない状態にあるとき、独白どころか自由奔放に騒ぐ半霊のその末です。
半霊だって咲夜みたいに主人が大好きなんだよ、きっと。


かくいう私の嫁はゆゆ様です。



P.S.
一部バグ修正しました。
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コメント



0.360簡易評価
2.70名前が無い程度の能力削除
発想自体はいい。

んだけど半霊は生前の妖夢だからな……
言葉使いに首をひねってしまったのでこれで。
3.90名前が無い程度の能力削除
いい発想ですね。
この後半霊はどうなったのやら。