魔法の森の入口にある古道具屋、香霖堂。ここは拾ってきた物ではあるが、外の世界の道具、妖怪の道具、冥界の道具等、「ないものはない」と言うほどのさまざまな道具を扱う店である。
そんな店の店主である森近霖之助は倉庫の整理を終えて、店の窓を開けてカウンターに座り本を読んでいた。
「……今日は暖かいなぁ」
そう独りごちて、僕は店内に目を向けた。先ほど倉庫を整理した際に以前魔理沙に言われた言葉を思い出し、新たに商品を出したのだ。
「どうせ酒とかもたくさんあるんだろ?だったらそれを商品棚に置けばいいんじゃないか?きっと売れるぜ」
確かに倉庫にあっては売れないだろうし、あるかどうか聞く人もいないだろう。そう思って出したのだが……確かにいい案だと思う。あとは客が来るかどうかという事か……
いつも客など数える程しか来ないが、まあゆっくり待てばいいだけの事だし、こんな暖かい春の日だ、誰かしら見に来るだろう。そう考え、僕はまた読書を再開し本の世界へ潜っていった。
それからしばらく経ち、太陽が真上にまで上がった頃、
カランカラン。
ドアベルが少し控えめな音を立てて僕に客が来た事を知らせてくれた。顔をあげると、体操服のような服と少し透けた赤と青のロングスカートを着た、陽光のような輝きを放つ長い金髪の美しい女性がいた。
そしてその額にある赤い大きな角が彼女が鬼であると示している。
「いらっしゃい」
「……ここが香霖堂かい?」
彼女は店内を見渡しつつそう訪ねた。
「そうだよ、僕はここの店主の森近霖之助だ。何かお探しですか?」
「ああ、霊夢が珍しい酒ならここだっていってね、近くまできたから来てみたんだ」
そう言った後、彼女は星熊勇儀と名乗った。しかし霊夢がこの店を教えてそれで来た、とは……これが口コミという物か、なかなかいい事をするじゃないか、霊夢。
「ちょうどいいところだったね。今倉庫から出してきたばかりなんだよ。何か要望はあるかな?」
「そうだね、なんかこう……いろんな味を楽しめそうな奴はあるかい?」
いろんな味を楽しめる酒か、なかなか難しい条件だ。僕は頭の中でその条件に見合う酒はなにか、と考えると一つ心当たりがあった。
少々手間が掛かるがこれなら十分合うだろう。
「ならカクテルなんてどうだろうか?」
「カクテル?」
「そう。外の世界の酒でね、酒とその他の酒かその他の副材料で作られる物だ。これなら
少なくとも数千種ほどの種類が存在するからいろいろな味が存分に楽しめると思うよ」
「おお!面白そうだね、じゃあそれをみせとくれよ!」
勇儀は目を輝かせてカウンターへ身を乗り出してそう言った。角が顔に刺さりそうだ、危ない。
「では少し座って待っていてくれ。ちょっと揃えてくるから」
「ああ、わかったよ」
勇儀は楽しそうに笑いそこにある椅子に腰掛けた。整理したばかりだし、あまり待たせてはいけないな。そう考え、僕は目当ての物を集めるため、棚や倉庫に向かった。
少し経って商品を集めた僕は楽しみでしかたがない、とでも言うようにそわそわしている勇儀にそれを見せた。
「待たせたね、これがカクテルの初心者用のセットだ」
「おお~……お?」
勇儀は思っていたのと違うと言わんばかりに首を傾げている。僕は持ってきたカクテルの道具一式といくつかの酒をカウンターに置き、椅子に腰掛けた。
「カクテルというのはね、自分で混ぜて作るものなんだ。ほら、この本を見てみるといい」
「ああ、だからこんなに種類があるんだねぇ」
勇儀は渡されたカクテル入門を興味深そうに見て、ページを捲っては色とりどりの酒を見て感動しつつ溢れる涎を拭っている。
「楽しそうなモンだねぇ、こんな綺麗な酒は見たことないよ。これがホントに呑めるのかい?」
「基本的な道具は揃えたから材料さえあればいつでも呑めるよ。カクテルグラス、アイス・ぺール、シェイカー、バー・スプーン、マドラー、メジャーカップ、ラム、ジン、ウォッカ、テキーラ。揃えたのはこれくらいかな。使い方やレシピはそれに書いてあるよ」
勇儀はひとつ手にとっては新しい玩具をもらった子どものようにはしゃいでいる。こうも素直に喜んでもらえると探した甲斐があったというものだ。
「それで、どうするんだい?」
「買うしかないじゃないか!」
そうするより他はないというばかりに即答した。やはりとても気に入ったようだ。
「ではセットで……これくらいでどうかな」
僕は入手頻度などを考慮し、見合うだろうと思われるよりある程度落とした金額を提示した。ふっかけるより値段を下げて確実に買ってもらうほうが良いと判断したためだ。
久しぶりの客だし。
「わかった。じゃあ……あれ?」
勇儀は取り出した財布を覗き込み、最初の笑顔から一変し、困り顔になっている。
「もしかして……持ち合わせが無かったのかい?」
「うん……そうみたいなんだよ……」
手持ちは僕の提示した金額の8割ほどだった。この場合、今までの経験からするともってかれるか、値引き交渉かのどちらかだろう。まあ前者はないだろうがどちらが来てもいいように考えつつ、勇儀の反応を待つ。
「仕方ないな……」
さて、どうくるか?
「今回は諦めるよ。口惜しいけどね」
「え?」
「え?」
「……なぜ諦めるんだい?」
「なぜって……対価が無かったら諦めるのは当然だろう?」
「ッ!?」
対価が無かったら諦める……そうか、それが当然だったな……。
「しかし値引きでもなんでもしようとは思わないのか?」
「だってこれ、こんな充実したセットでいいものなのに値段はほどほどってことは結構安くしてあるんだろ?」
「ああ、確かに安めにしたが……」
「だったらもうこれ以上安くしろなんて言えないさ」
「………」
そういって残念そうに笑う勇儀を見て僕は雷に撃たれたような衝撃を受けた。もう随分忘れていた……上客とはこういう客の事を言うんだったな。こんな事を言ってくれる客は店を開いてから数えるほどしかいなかったし、その上商品の価値を理解してくれるとなると記憶に無い。
「じゃあ私はこれで。手間を掛けさせて悪いね」
立ち上がり、残念そうに肩を落として出入口に向かう勇儀を見て僕は
「待ってくれ」
半ば反射的に呼び止めていた。要望通りの商品がある上に買ってもらえそうなのだ。この機会を逃す手はないッ!
「何だい?」
「足りない分はおまけとさせてもらうよ。さあ、買っていくといい」
「え!?いいのかい?」
驚き、こちらを見る勇儀。
「ああ、足りない分といっても大した額ではないからね」
実際、拾い物だから値段を下げたところで僕に損は無い。それにここの商品は本当にそれを必要としている人のためにあるのだから。
「でも……やっぱり悪いよ、おまけしてもらってばかりじゃ」
「ふむ……では交換条件を出そう。それならいいかな?」
「交換条件か、わかった。なんでも言っておくれよ!」
「ではこれからも時間があったらまたここを訪れてくれ」
「へ?それだけでいいのかい?」
きょとん、として呆気にとられている。それだけでも僕にとっては重要なことだ。
「ああ、そうすればまた何か気に入ったものがあるかもしれないからね」
「確かに、そうだねぇ」
「それに、さ」
「うん?」
首を傾げる彼女の目を見て伝える。
「君のような人とは是非とも長い付き合いをさせて欲しいと思っているからね」
「そ、そうかい」
目を逸らし、心なしか顔が赤くなり、くすぐったそうに身じろぎしている。どうしたのだろうか。
「じゃ、じゃあこれお代だよ」
「……確かにいただきました」
「また来るよ。霖之助。今度一緒に呑もうじゃないか」
「お手柔らかに頼むよ」
そう言い残し、勇儀は店から去っていった。僕は一人となり、店には静寂が帰ってきた。
久しぶりに商品が売れたが魔理沙の言っていた通りになったな。礼でも言っておこう。
売上をカウンターに仕舞い、何の本を読もうか考えていると、店の窓から暖かな優しい春風が吹いてきた。
春は別れと新たな出会いの季節である。今年の春風はどうやら僕に勇儀という新たな上客との出会いを届けてくれたらしい。
これから続いていくだろう困った常連と、新たな客と過ごす日々を想い、期待に胸を膨らましつつ、僕はまた本の世界へ潜っていった。
そんな店の店主である森近霖之助は倉庫の整理を終えて、店の窓を開けてカウンターに座り本を読んでいた。
「……今日は暖かいなぁ」
そう独りごちて、僕は店内に目を向けた。先ほど倉庫を整理した際に以前魔理沙に言われた言葉を思い出し、新たに商品を出したのだ。
「どうせ酒とかもたくさんあるんだろ?だったらそれを商品棚に置けばいいんじゃないか?きっと売れるぜ」
確かに倉庫にあっては売れないだろうし、あるかどうか聞く人もいないだろう。そう思って出したのだが……確かにいい案だと思う。あとは客が来るかどうかという事か……
いつも客など数える程しか来ないが、まあゆっくり待てばいいだけの事だし、こんな暖かい春の日だ、誰かしら見に来るだろう。そう考え、僕はまた読書を再開し本の世界へ潜っていった。
それからしばらく経ち、太陽が真上にまで上がった頃、
カランカラン。
ドアベルが少し控えめな音を立てて僕に客が来た事を知らせてくれた。顔をあげると、体操服のような服と少し透けた赤と青のロングスカートを着た、陽光のような輝きを放つ長い金髪の美しい女性がいた。
そしてその額にある赤い大きな角が彼女が鬼であると示している。
「いらっしゃい」
「……ここが香霖堂かい?」
彼女は店内を見渡しつつそう訪ねた。
「そうだよ、僕はここの店主の森近霖之助だ。何かお探しですか?」
「ああ、霊夢が珍しい酒ならここだっていってね、近くまできたから来てみたんだ」
そう言った後、彼女は星熊勇儀と名乗った。しかし霊夢がこの店を教えてそれで来た、とは……これが口コミという物か、なかなかいい事をするじゃないか、霊夢。
「ちょうどいいところだったね。今倉庫から出してきたばかりなんだよ。何か要望はあるかな?」
「そうだね、なんかこう……いろんな味を楽しめそうな奴はあるかい?」
いろんな味を楽しめる酒か、なかなか難しい条件だ。僕は頭の中でその条件に見合う酒はなにか、と考えると一つ心当たりがあった。
少々手間が掛かるがこれなら十分合うだろう。
「ならカクテルなんてどうだろうか?」
「カクテル?」
「そう。外の世界の酒でね、酒とその他の酒かその他の副材料で作られる物だ。これなら
少なくとも数千種ほどの種類が存在するからいろいろな味が存分に楽しめると思うよ」
「おお!面白そうだね、じゃあそれをみせとくれよ!」
勇儀は目を輝かせてカウンターへ身を乗り出してそう言った。角が顔に刺さりそうだ、危ない。
「では少し座って待っていてくれ。ちょっと揃えてくるから」
「ああ、わかったよ」
勇儀は楽しそうに笑いそこにある椅子に腰掛けた。整理したばかりだし、あまり待たせてはいけないな。そう考え、僕は目当ての物を集めるため、棚や倉庫に向かった。
少し経って商品を集めた僕は楽しみでしかたがない、とでも言うようにそわそわしている勇儀にそれを見せた。
「待たせたね、これがカクテルの初心者用のセットだ」
「おお~……お?」
勇儀は思っていたのと違うと言わんばかりに首を傾げている。僕は持ってきたカクテルの道具一式といくつかの酒をカウンターに置き、椅子に腰掛けた。
「カクテルというのはね、自分で混ぜて作るものなんだ。ほら、この本を見てみるといい」
「ああ、だからこんなに種類があるんだねぇ」
勇儀は渡されたカクテル入門を興味深そうに見て、ページを捲っては色とりどりの酒を見て感動しつつ溢れる涎を拭っている。
「楽しそうなモンだねぇ、こんな綺麗な酒は見たことないよ。これがホントに呑めるのかい?」
「基本的な道具は揃えたから材料さえあればいつでも呑めるよ。カクテルグラス、アイス・ぺール、シェイカー、バー・スプーン、マドラー、メジャーカップ、ラム、ジン、ウォッカ、テキーラ。揃えたのはこれくらいかな。使い方やレシピはそれに書いてあるよ」
勇儀はひとつ手にとっては新しい玩具をもらった子どものようにはしゃいでいる。こうも素直に喜んでもらえると探した甲斐があったというものだ。
「それで、どうするんだい?」
「買うしかないじゃないか!」
そうするより他はないというばかりに即答した。やはりとても気に入ったようだ。
「ではセットで……これくらいでどうかな」
僕は入手頻度などを考慮し、見合うだろうと思われるよりある程度落とした金額を提示した。ふっかけるより値段を下げて確実に買ってもらうほうが良いと判断したためだ。
久しぶりの客だし。
「わかった。じゃあ……あれ?」
勇儀は取り出した財布を覗き込み、最初の笑顔から一変し、困り顔になっている。
「もしかして……持ち合わせが無かったのかい?」
「うん……そうみたいなんだよ……」
手持ちは僕の提示した金額の8割ほどだった。この場合、今までの経験からするともってかれるか、値引き交渉かのどちらかだろう。まあ前者はないだろうがどちらが来てもいいように考えつつ、勇儀の反応を待つ。
「仕方ないな……」
さて、どうくるか?
「今回は諦めるよ。口惜しいけどね」
「え?」
「え?」
「……なぜ諦めるんだい?」
「なぜって……対価が無かったら諦めるのは当然だろう?」
「ッ!?」
対価が無かったら諦める……そうか、それが当然だったな……。
「しかし値引きでもなんでもしようとは思わないのか?」
「だってこれ、こんな充実したセットでいいものなのに値段はほどほどってことは結構安くしてあるんだろ?」
「ああ、確かに安めにしたが……」
「だったらもうこれ以上安くしろなんて言えないさ」
「………」
そういって残念そうに笑う勇儀を見て僕は雷に撃たれたような衝撃を受けた。もう随分忘れていた……上客とはこういう客の事を言うんだったな。こんな事を言ってくれる客は店を開いてから数えるほどしかいなかったし、その上商品の価値を理解してくれるとなると記憶に無い。
「じゃあ私はこれで。手間を掛けさせて悪いね」
立ち上がり、残念そうに肩を落として出入口に向かう勇儀を見て僕は
「待ってくれ」
半ば反射的に呼び止めていた。要望通りの商品がある上に買ってもらえそうなのだ。この機会を逃す手はないッ!
「何だい?」
「足りない分はおまけとさせてもらうよ。さあ、買っていくといい」
「え!?いいのかい?」
驚き、こちらを見る勇儀。
「ああ、足りない分といっても大した額ではないからね」
実際、拾い物だから値段を下げたところで僕に損は無い。それにここの商品は本当にそれを必要としている人のためにあるのだから。
「でも……やっぱり悪いよ、おまけしてもらってばかりじゃ」
「ふむ……では交換条件を出そう。それならいいかな?」
「交換条件か、わかった。なんでも言っておくれよ!」
「ではこれからも時間があったらまたここを訪れてくれ」
「へ?それだけでいいのかい?」
きょとん、として呆気にとられている。それだけでも僕にとっては重要なことだ。
「ああ、そうすればまた何か気に入ったものがあるかもしれないからね」
「確かに、そうだねぇ」
「それに、さ」
「うん?」
首を傾げる彼女の目を見て伝える。
「君のような人とは是非とも長い付き合いをさせて欲しいと思っているからね」
「そ、そうかい」
目を逸らし、心なしか顔が赤くなり、くすぐったそうに身じろぎしている。どうしたのだろうか。
「じゃ、じゃあこれお代だよ」
「……確かにいただきました」
「また来るよ。霖之助。今度一緒に呑もうじゃないか」
「お手柔らかに頼むよ」
そう言い残し、勇儀は店から去っていった。僕は一人となり、店には静寂が帰ってきた。
久しぶりに商品が売れたが魔理沙の言っていた通りになったな。礼でも言っておこう。
売上をカウンターに仕舞い、何の本を読もうか考えていると、店の窓から暖かな優しい春風が吹いてきた。
春は別れと新たな出会いの季節である。今年の春風はどうやら僕に勇儀という新たな上客との出会いを届けてくれたらしい。
これから続いていくだろう困った常連と、新たな客と過ごす日々を想い、期待に胸を膨らましつつ、僕はまた本の世界へ潜っていった。
むむ、これからどーなるのかな2828
ちょっと長さが物足りなかったのでこの点数で。
次回作楽しみにしてますよ!
霖之助も勇儀もかわいいな~2828
普通な姐さんもまた良し!
あえて頑張ってみるとすれば、霖之助さんがカクテルに関する脱線気味な薀蓄を語り、
それに対する勇儀さんの反応まで書いてみるとかですかね。
最近こういうSSがなくて悲しい
これからも頑張っていきますのでよろしくお願います!
奇声を発する程度の能力様
ありがとうございます!勇儀姉さんはかわいいですよねw
8番様
そう言って貰えればありがたいです。
9番様
続きも書いておりますので拙い出来ですがお付き合い下さいw
12番様
ちょっと霖之助は不憫なくらいがいいかな、とww
白銀狼様
ありがとうございます!
長さの件はまだ技術的に厳しいのでもう少しお待ち下さい。
次回作もすぐ出しますのでw
17番様
スミマセン、これからも努力していきます。
20番様
霖之助ですからw
23番様
幸いですw
34番様
鬼は礼儀に関しては一番しっかりしてると思うんですよ。
禅に精通していると言いますし。
36番様
アドバイスありがとうございます。
勉強不足でして、薀蓄に関しても書けるようにしていきますw
勇儀視点、霖之助視点両方書いてみましょうか……
37番様
ありがとうございます!