Coolier - 新生・東方創想話

解答

2012/04/01 05:55:25
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 記名は済んでいるのに。
 解答欄は空白。
 そんな、テスト用紙のような気持ちを持て余してしまった。
 それだけのお話。




 館の主が昼間から行動している時、私のティータイムは少し遅れる。
 四月一日の今日もそんな日であるらしく、広げた本から顔を上げて壁掛け時計に視線をやると、時刻は三時半を迎えようとしていた。
 いつもなら、それほど気にならないのに。
 何故だか少し、心がざわついた。
 それは、多分。
 久しぶりに昨日口にした言葉のせいだと、思う。
 俯いて小さく溜息を漏らした次の瞬間。
 遠く、扉の開く音。
 しばらく経った後、銀の台車を押しながら、彼女は姿を現した。

「すみません。遅くなってしまいました」

 綺麗な蒼い瞳をわずかに細めて、整った白い顔に困ったような笑みを滲ませた、彼女。
 昨日も、それ以前も。

 繰り返してきた言葉に、想い、に。
 曖昧な笑みと、的外れな言葉しか返してこない、彼女。

 ――それなのに。

「……咲夜」

 人目のない場所で、こんなふうに、ゆっくりと私が名前を呼んでやれば。

「はい、パチュリー様」

 幼い頃と変わらない、すがるような目で、声で、名前を呼び返してくる、彼女。
 そんな、だから。

「好きよ」

 また、繰り返してしまうのだ。

「……ッ」

 返事も、また。
 繰り返されること。
 もう、知っているのに。


「ありがとうございます」


 ――……傷付くこと。
 もう、知っていたはずなのに。


 ねえ、咲夜。
 違うわ。
 ありがとう、なんて。
 そんな言葉、求めてないの。
 返事を返して欲しいのよ。
 ただ、一言でいいから。



 初めて好きだと言った日を、憶えている。
 多分、決して、忘れない。
 忘れる事など、出来はしない。




 幼い彼女がこの館へやってきて最初に迎えた新年の日。
 日付が変わった瞬間、隣で夜空を見上げていた彼女の首に、少し縫製が甘い手作りのマフラーを巻いてやって。
 目を丸くして驚いた彼女に、新年の挨拶ではなく『誕生日おめでとう』と笑顔で告げた。
 星座占いの本を読んで、自分の誕生日を知らない、なんて彼女が溢した時から、密かに計画していたサプライズ。
 動機は、ただ、笑ってほしかったから。
 でも。

 彼女は、顔をくしゃくしゃに歪めて。
 声を殺して、泣き出した。

 頭が、ひどく混乱して。
 自分の目頭も、どんどん熱くなっていくのがわかって。
 ぐちゃぐちゃに掻き混ぜられた脳ミソの中で。
 一番形のはっきりした感情を、口から吐き出したのだ。


「好きよ」


 そんな、唐突な。
 それでも、確かな。
 質量を持った言葉に。
 彼女は一際大きく肩を震わせて。
 その後。
 嬉しそうな、でもそれ以上に悲しそうな、泣いているような、笑顔で。


「ありがとうございます」


 そう、返してきた。
 その瞬間、悟った。

 ああ、私は、報われない恋に堕ちたのだ、と。




 悟って。
 悟った、だけだった。
 だから、繰り返した。
 繰り返し続けて。
 磨耗してしまった恋心は。
 それでも、消えてくれずに、『此処』にある。

 ――……もう。
 限界だと、思った。


「大嫌い」


 彼女は、目を見開いて。
 痙攣するみたいに、唇を震わせた。
 さあっ、と、血の気を引かせて。
 一気に病人みたいな顔色になる。

「好き、嫌い、大好き、大嫌い……ねえ、咲夜」

 言葉を、硝子の破片みたいに散らばせて。
 磨り減った感情を瓶詰めにしたみたいな笑顔と一緒に、彼女にぶつけた。

「今日、エイプリルフールなの。嘘をついてもいい日なのよ。だから」

 椅子から立ち上がると。
 立ち尽くしている彼女のもとまで歩み寄り、薬指で、彼女の薄い唇を撫でながら。

「もう、どっちでも、いいから。好きでも、嫌いでも。嘘でも、いいから」

 祈るみたいに、懇願する。


「お願い、答えて」


 そうしないと。
 終わらせることも、出来やしない。


「……ぁ」

 小さく。
 かすかに、喉を震わせた、彼女は。

 ぼろぼろと、涙を溢した。

「咲夜」

 名前を呼んでも。

「ごめ、っな、さ……ッ」

 たどたどしく、あの日よりもさらに幼い子供のように泣くばかりで。

「……馬鹿な子」

 溜息を吐く。
 一緒に、涙が一筋頬を伝った。
 背伸びをして、少し乱暴に頭を撫でてやると、余計に肩を震わせる。

「嘘もつけないの?」

 鼻を啜りながら問い掛ければ。
 真っ赤な目で、それでも真っ直ぐにこちらを見据えて。


「嘘でも、言えません」


 そんな言葉だけ、はっきり返してきた。




 答えはきっと最初から。
 机の隅に、刻まれている。


 
 パチュ咲が俺へのサイレントセレナ!
 ご読了ありがとうございました。
鬼灯
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コメント



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5.100名前が無い程度の能力削除
甘い嘘であっても、つけない時があるということですね……
8.90奇声を発する程度の能力削除
この雰囲気が素敵でした
9.100名前が無い程度の能力削除
Good
25.70名前が無い程度の能力削除
しあわせになってほしい二人だな
27.100名前が無い程度の能力削除
あー……
この二人に幸あれ
32.100名前が無い程度の能力削除
いいね
34.100名前が無い程度の能力削除
いいねえ